Qt Image.sourceSize 解説:画像の一部表示と最適化のテクニック
Image.sourceSize
は、Qt Quick (QML) の Image
要素で使用されるプロパティの一つです。これは、画像ファイル全体の本来のサイズ(幅と高さ)を指定するために使われます。
通常、Image
要素は、source
プロパティで指定された画像ファイルを読み込み、その画像の実際のサイズに基づいて表示領域を決定します。しかし、場合によっては、画像ファイル全体ではなく、その一部だけを表示したいことがあります。
そのような場合に、sourceSize
プロパティを設定することで、Image
要素は、指定された sourceSize
のサイズを持つ画像であるかのように扱います。ただし、実際に表示されるのは、width
と height
プロパティで指定された領域に、sourceX
, sourceY
, sourceWidth
, sourceHeight
プロパティで指定された部分が拡大縮小されて描画されます。
要するに、sourceSize
は、画像ファイル全体の「見かけ上のサイズ」を定義する役割を持ちます。
具体的には、以下のような場合に sourceSize
が役立ちます。
- カスタムなサイズ調整
画像の本来のサイズとは異なる基準で、表示する領域や切り取る領域を定義したい場合。 - パフォーマンスの向上
大きな画像の一部分だけを繰り返し表示する場合、毎回画像全体を読み込んで処理するよりも、最初にsourceSize
を設定し、必要な部分だけをsourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
で指定する方が効率的な場合があります。
例
例えば、100x200 ピクセルの画像ファイル myimage.png
があり、その左上 50x50 ピクセルの部分だけを表示したいとします。
Image {
source: "myimage.png"
sourceSize: Qt.size(100, 200) // 画像全体のサイズ
sourceX: 0
sourceY: 0
sourceWidth: 50
sourceHeight: 50
width: 50
height: 50
}
この例では、sourceSize
に元の画像のサイズ (100x200) を指定し、sourceX
と sourceY
を 0 に、sourceWidth
と sourceHeight
を 50 に設定することで、元の画像の左上 50x50 ピクセルの部分だけが、50x50 のサイズで表示されます。
このように、Image.sourceSize
は、画像の表示方法をより柔軟に制御するための重要なプロパティです。
sourceSize が実際の画像ファイルのサイズと一致しない
- トラブルシューティング
- 画像編集ソフトなどで、画像ファイルの実際の幅と高さを確認し、
sourceSize
に正確な値を設定してください。 - 動的に画像を切り替える場合は、新しい画像のサイズに合わせて
sourceSize
を更新する必要があります。 Qt.size(width, height)
を使用して、明確にサイズを指定することをお勧めします。
- 画像編集ソフトなどで、画像ファイルの実際の幅と高さを確認し、
- エラー
sourceSize
に設定したサイズが、source
で指定した画像ファイルの実際のサイズと異なっている場合、sourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
で指定した領域が正しく切り取られなかったり、拡大・縮小が不自然になったりします。
sourceX, sourceY, sourceWidth, sourceHeight の範囲が sourceSize を超えている
-
トラブルシューティング
sourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
の値が、常にsourceSize
の範囲内に収まるように計算してください。- 特に動的にこれらの値を変更する場合は、境界チェックを実装することが重要です。例えば、以下のように範囲を制限できます。
Image { source: "spritesheet.png" sourceSize: Qt.size(200, 100) property int frameX: 0 property int frameY: 0 property int frameWidth: 50 property int frameHeight: 50 sourceX: Math.min(frameX, sourceSize.width - frameWidth) sourceY: Math.min(frameY, sourceSize.height - frameHeight) sourceWidth: Math.min(frameWidth, sourceSize.width - sourceX) sourceHeight: Math.min(frameHeight, sourceSize.height - sourceY) width: frameWidth height: frameHeight }
-
エラー
sourceX
とsourceWidth
の合計、またはsourceY
とsourceHeight
の合計が、それぞれsourceSize
の幅と高さを超えている場合、画像の一部が表示されなくなったり、エラーが発生したりする可能性があります。
width や height プロパティと sourceWidth, sourceHeight の関係が意図しないものになっている
- トラブルシューティング
- 意図する表示サイズに合わせて
width
とheight
を調整してください。 - 元の画像の縦横比を維持したい場合は、
width
またはheight
のどちらかを固定し、もう一方をsourceWidth / sourceHeight
の比率で計算して設定すると良いでしょう。 fillMode
プロパティを使用すると、画像の表示方法(アスペクト比を維持するか、領域に合わせて伸縮するかなど)を制御できます。
- 意図する表示サイズに合わせて
- エラー
width
とheight
はImage
要素の表示領域のサイズを決定し、sourceWidth
とsourceHeight
は切り取る画像のサイズを決定します。これらの値の組み合わせによっては、画像が歪んで表示されたり、小さすぎたり大きすぎたりすることがあります。
画像ファイルのパスが間違っている
- エラー
source
プロパティに指定した画像ファイルのパスが間違っていると、画像が読み込まれず、sourceSize
を含めた他のプロパティも正しく機能しません。
動的な sourceSize の変更に伴う問題
- トラブルシューティング
sourceSize
が変更されたタイミングで、sourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
の値を再計算し、矛盾がないようにしてください。
- エラー
sourceSize
を動的に変更する場合、関連するsourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
の値も適切に更新しないと、表示がおかしくなることがあります。
パフォーマンスの問題
- トラブルシューティング
- 可能であれば、表示する画像だけを個別のファイルとして用意することを検討してください。
- アニメーションなどで頻繁に切り替えが必要な場合は、タイマー処理などを最適化し、不必要な更新を避けるようにしてください。
- エラー
大きなスプライトシートの一部を頻繁に切り替えて表示する場合、sourceSize
とsourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
の更新処理が重くなり、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。
例1: スプライトシートから特定のアニメーションフレームを表示する
この例では、複数のアニメーションフレームが横一列に並んだスプライトシート (spritesheet.png
) から、指定されたフレームを順番に表示します。
import QtQuick 2.0
Rectangle {
width: 50
height: 50
Image {
id: spriteImage
source: "spritesheet.png" // 例: 幅 200px, 高さ 50px のスプライトシート
sourceSize: Qt.size(200, 50)
sourceWidth: 50
sourceHeight: 50
width: 50
height: 50
property int frameIndex: 0
Timer {
interval: 200 // 200ミリ秒ごとにフレームを更新
running: true
repeat: true
onTriggered: {
spriteImage.frameIndex = (spriteImage.frameIndex + 1) % 4; // 4つのフレームをループ
spriteImage.sourceX = spriteImage.frameIndex * spriteImage.sourceWidth;
}
}
}
}
解説
spriteImage.sourceX = spriteImage.frameIndex * spriteImage.sourceWidth;
によって、frameIndex
に応じて表示するフレームの X 座標を移動させます。sourceY
は常に 0 です。Timer
は 200 ミリ秒ごとにonTriggered
シグナルを発行し、frameIndex
を更新します。frameIndex
プロパティで、現在表示するフレームのインデックスを管理します。sourceWidth: 50
とsourceHeight: 50
で、個々のフレームのサイズを指定しています。sourceSize: Qt.size(200, 50)
で、画像全体のサイズを指定しています。spritesheet.png
は、例えば 50x50 ピクセルのフレームが横に 4 つ並んだ、200x50 ピクセルの画像だと仮定します。
例2: マウスカーソルの位置に応じて画像の一部を表示する
この例では、画像 (large_image.png
) の中で、マウスカーソルの近くの 100x100 ピクセルの領域を表示します。
import QtQuick 2.0
Rectangle {
width: 200
height: 200
MouseArea {
anchors.fill: parent
hoverEnabled: true
property real mouseXPos: 0
property real mouseYPos: 0
onPositionChanged: {
mouseXPos = mouseX
mouseYPos = mouseY
}
Image {
id: zoomView
source: "large_image.png" // 例: 大きな画像ファイル
sourceSize: Qt.size(sourceWidth, sourceHeight) // 画像のロード後に実際のサイズを設定
sourceX: Math.max(0, mouseXPos - 50)
sourceY: Math.max(0, mouseYPos - 50)
sourceWidth: 100
sourceHeight: 100
width: 100
height: 100
anchors.centerIn: parent
Component.onCompleted: {
// 画像がロードされた後に実際のサイズを取得して sourceSize に設定
zoomView.sourceSize = Qt.size(zoomView.implicitWidth, zoomView.implicitHeight)
}
}
}
}
解説
Component.onCompleted
ブロック内で、画像がロードされた後にimplicitWidth
とimplicitHeight
を使用して実際の画像サイズを取得し、sourceSize
に設定しています。これは、sourceSize
を最初に具体的な値で初期化する必要がない場合に便利です。sourceWidth
とsourceHeight
は常に 100 に固定されています。zoomView
のsourceX
とsourceY
は、マウスカーソルの位置を中心とした 100x100 ピクセルの領域の左上の座標を計算しています。Math.max(0, ...)
は、画像の外に切り取り範囲が出ないようにするための処理です。MouseArea
はマウスの動きを追跡し、onPositionChanged
シグナルでマウスの座標 (mouseX
,mouseY
) を更新します。large_image.png
は、表示するよりも大きな画像ファイルだと仮定します。
例3: 画像の一部分を異なるサイズで表示する
この例では、元の画像 (original_image.png
) の一部を切り取り、それを異なる width
と height
で表示します。
import QtQuick 2.0
Row {
spacing: 10
Image {
source: "original_image.png" // 例: 200x150 ピクセルの画像
sourceSize: Qt.size(200, 150)
sourceX: 50
sourceY: 25
sourceWidth: 100
sourceHeight: 100
width: 50
height: 50
border.color: "red"
border.width: 2
}
Image {
source: "original_image.png"
sourceSize: Qt.size(200, 150)
sourceX: 50
sourceY: 25
sourceWidth: 100
sourceHeight: 100
width: 150
height: 150
border.color: "blue"
border.width: 2
}
}
border
プロパティは、それぞれのImage
要素の境界線を表示するために使用しています。- 2 番目の
Image
要素はwidth: 150
,height: 150
なので、切り取られた 100x100 の領域が 150x150 に拡大されて表示されます。 - 最初の
Image
要素はwidth: 50
,height: 50
なので、切り取られた 100x100 の領域が 50x50 に縮小されて表示されます。 sourceX: 50
,sourceY: 25
,sourceWidth: 100
,sourceHeight: 100
によって、元の画像の (50, 25) の位置から 100x100 ピクセルの領域を切り取っています。- 両方の
Image
要素は同じ画像ソースとsourceSize
を持っています。 original_image.png
は、例えば 200x150 ピクセルの画像だと仮定します。
裁剪 (クリッピング) を使用する (Clip プロパティと Rectangle を組み合わせる)
Image
要素自体は直接的なクリッピング機能を持っていませんが、clip
プロパティを true
に設定し、その Image
要素を Rectangle
などの別の要素で囲み、Rectangle
のサイズを調整することで、間接的に画像の表示範囲を制御できます。
import QtQuick 2.0
Rectangle {
width: 100
height: 100
clip: true // この Rectangle の範囲外の描画をクリップする
Image {
id: clippedImage
source: "large_image.png"
// sourceSize はここでは画像全体のサイズを指定することが多い
sourceSize: Qt.size(implicitWidth, implicitHeight)
// 表示位置を調整して見せたい部分を表示する
x: -50
y: -25
}
}
解説
- 欠点
Image
要素自体のサイズや位置を管理する必要がある。拡大・縮小はImage
要素のscale
プロパティなどで行う必要がある。 - 利点
直感的に表示領域を定義できる。 sourceSize
は通常、元の画像全体のサイズを設定しますが、この方法ではsourceX
,sourceY
,sourceWidth
,sourceHeight
は直接使用しません。Image
要素のx
やy
プロパティを調整することで、Rectangle
の表示領域内に見せたい画像の部分を移動させます。Rectangle
のclip
プロパティをtrue
に設定することで、このRectangle
の境界線を超えて描画される内容は切り取られます。
ShaderEffect を使用して画像を加工する
より高度な方法として、ShaderEffect
を使用して画像の一部を切り取ったり、透明にしたりすることができます。GLSL (OpenGL Shading Language) でシェーダープログラムを記述する必要があるため、やや複雑になります。
import QtQuick 2.0
import QtQuick.Effects 1.0 // ShaderEffect を使用するためにインポート
Rectangle {
width: 100
height: 100
ShaderEffect {
anchors.fill: parent
source: "large_image.png"
property real clipX: 50 / source.width
property real clipY: 25 / source.height
property real clipWidth: 100 / source.width
property real clipHeight: 100 / source.height
fragmentShader: "
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
uniform sampler2D source;
uniform highp float clipX;
uniform highp float clipY;
uniform highp float clipWidth;
uniform highp float clipHeight;
void main() {
highp vec2 texCoord = qt_TexCoord0;
if (texCoord.x >= clipX && texCoord.x < clipX + clipWidth &&
texCoord.y >= clipY && texCoord.y < clipY + clipHeight) {
gl_FragColor = texture2D(source, texCoord);
} else {
gl_FragColor = vec4(0.0, 0.0, 0.0, 0.0); // 透明にする
}
}
"
}
}
解説
- 欠点
GLSL の知識が必要。パフォーマンスに注意が必要な場合がある。 - 利点
非常に柔軟な画像処理が可能。複雑な切り抜きや効果も実現できる。 texture2D(source, texCoord)
で元のピクセルの色を取得し、指定された範囲内であればその色を、範囲外であれば透明な色 (vec4(0.0, 0.0, 0.0, 0.0)
) を出力します。clipX
,clipY
,clipWidth
,clipHeight
プロパティは、切り取りたい領域を 0.0 から 1.0 の範囲で指定します。fragmentShader
に記述された GLSL コードが、各ピクセルに対して実行されます。ShaderEffect
は、GPU を利用して画像に様々な視覚効果を適用できます。
複数の小さな Image 要素を組み合わせて表示する
スプライトシートのように、複数の独立した画像が一つにまとまっている場合に、それらを個別の Image
要素として読み込み、位置を調整して表示する方法です。
import QtQuick 2.0
Row {
spacing: 0
Image { source: "sprite_part1.png" }
Image { source: "sprite_part2.png" }
Image { source: "sprite_part3.png" }
// ...
}
解説
- 欠点
事前に画像を分割する手間がかかる。多数のImage
要素を使用するとパフォーマンスに影響が出る可能性がある。 - 利点
シンプルで理解しやすい。個々のパーツに対して個別のプロパティ(アニメーションなど)を適用しやすい。 - 複数の
Image
要素をRow
やColumn
、Grid
などのレイアウト要素を使って配置します。 - 元の大きな画像を、表示したい個々の部分ごとに事前に切り分けておく必要があります。
Canvas 要素を使用して描画する
Canvas
要素は、JavaScript を使用してカスタムな描画を行うことができます。画像の一部を描画することも可能です。
import QtQuick 2.0
Canvas {
width: 100
height: 100
onPaint: {
var ctx = getContext("2d");
var img = new Image();
img.onload = function() {
ctx.drawImage(img, 50, 25, 100, 100, 0, 0, width, height);
}
img.src = "large_image.png";
}
}
- 欠点
JavaScript の知識が必要。QML の宣言的な記述とは異なるため、やや手続き的なコードになる。 - 利点
ピクセルレベルでの操作が可能。複雑な描画処理も実現できる。 drawImage(image, sx, sy, sWidth, sHeight, dx, dy, dWidth, dHeight)
は、元の画像の (sx, sy) から (sWidth, sHeight) の領域を、Canvas の (dx, dy) に (dWidth, dHeight) のサイズで描画します。Image
オブジェクトを作成し、onload
イベントハンドラーで画像のロード完了後にdrawImage
メソッドを使用して画像の一部を描画します。Canvas
要素内で JavaScript を実行し、2D グラフィックコンテキストを取得します。