QImageキャッシュの悩みを解消!Qt開発者向けトラブルシューティング
QtフレームワークにおけるQImageCache
は、その名前が示す通り、QImage
オブジェクトを効率的にキャッシュ(一時保存)するためのメカニズムです。これにより、同じ画像を何度もロードしたり、デコードしたりする手間を省き、アプリケーションのパフォーマンスを向上させることができます。
QImageCacheの主な機能と利点
-
パフォーマンスの向上:
- 画像をファイルから読み込んだり、ネットワークからダウンロードしたり、あるいはRAWデータからデコードしたりする操作は、多くの場合、CPUやディスクI/Oの負荷が高い処理です。
QImageCache
は、一度ロードされた画像をメモリ上に保持することで、次にその画像が必要になったときに即座に利用できるようにし、これらの高コストな操作を回避します。 - 特に、サムネイル表示のように同じ画像が繰り返し表示される場合や、ユーザーが画像を素早くスクロールして閲覧するようなアプリケーションで大きな効果を発揮します。
- 画像をファイルから読み込んだり、ネットワークからダウンロードしたり、あるいはRAWデータからデコードしたりする操作は、多くの場合、CPUやディスクI/Oの負荷が高い処理です。
-
メモリ管理:
QImageCache
は、キャッシュに保存される画像の合計サイズを制限する機能を持っています。これにより、キャッシュがメモリを過剰に消費するのを防ぎ、アプリケーション全体の安定性を保ちます。キャッシュのサイズが上限に達すると、最も長くアクセスされていない画像(LRU: Least Recently Used)が自動的に削除されるなどのポリシーが適用されることが一般的です。
-
キーベースのアクセス:
- キャッシュ内の画像は、通常、一意のキー(例: ファイルパス、URL、カスタムIDなど)に関連付けられて保存されます。これにより、必要な画像をO(1)に近い高速なルックアップで取得できます。
QImageCacheの一般的な使用シナリオ
- 地図アプリケーション: 地図タイル画像をキャッシュすることで、スクロールやズーム操作がスムーズになります。
- ゲーム: テクスチャやスプライトなどのゲームアセットをキャッシュすることで、ロード時間を短縮し、ゲームプレイ中のフレームレートを安定させます。
- WebブラウザやRSSリーダー: Webページ上の画像や記事のサムネイル画像をキャッシュすることで、再訪問時の読み込み速度を向上させます。
- 画像ビューアやギャラリーアプリケーション: 大量の画像を効率的に表示・閲覧する際に、頻繁に表示される画像をキャッシュに保存することで、スクロールや切り替えがスムーズになります。
QImageCacheの操作
QImageCache
は、通常、静的メソッドを通じてアクセスされます。例えば、画像をキャッシュに追加したり、キャッシュから取得したり、キャッシュの最大サイズを設定したりするメソッドがあります。
// 例: QImageCache を使用して画像をキャッシュする(概念的なコード)
// 画像をキャッシュに追加
QImage image("path/to/your/image.png");
QString key = "my_unique_image_key";
QImageCache::insert(key, image);
// キャッシュから画像を取得
QImage cachedImage = QImageCache::find(key);
if (!cachedImage.isNull()) {
// キャッシュに画像があった場合、それを使用
// ...
} else {
// キャッシュになかった場合、画像をロードしてキャッシュに追加
QImage newImage("path/to/another/image.jpg");
QImageCache::insert("another_image_key", newImage);
}
// キャッシュの最大サイズを設定(バイト単位)
QImageCache::setCacheLimit(1024 * 1024 * 100); // 例: 100MB
注意: 上記のコードはQImageCache
の一般的な概念を示すものであり、Qtの実際のAPIとは異なる場合があります。Qt 6以降では、QImageCache
クラスはQt Widgetsモジュールに属し、より内部的な使われ方がされる傾向があります。通常、開発者が直接QImageCache
を操作することは稀で、QPixmapCache
など、より上位のキャッシュメカニズムや、QIcon
のようなアイコンキャッシュが使用されることが多いです。しかし、根本的な考え方は同じです。
メモリ使用量の問題(Memory Usage Issues)
エラー/症状:
- システムの動作が遅くなる。
- アプリケーションがクラッシュする(特に長時間実行後)。
- アプリケーションのメモリ使用量が異常に高い、または時間とともに増加し続ける。
原因:
- キャッシュに保存されている画像が実際に使用されていない(デッドエントリ): 使われなくなった画像がキャッシュに残り続ける。
- キャッシュからの削除ポリシーが不適切: LRU(Least Recently Used)などの適切な削除ポリシーが適用されていない、または効率的に機能していない。
- 大きな画像が大量にキャッシュされている: 各画像のサイズが大きいと、キャッシュの容量をすぐに使い果たし、メモリを圧迫する。
- キャッシュサイズの上限未設定、または不適切に設定されている: キャッシュが際限なく画像を保持し、メモリを消費し続ける。
トラブルシューティング:
- Qtのメモリプロファイラを使用する:
- Qt Creatorに付属しているメモリプロファイラ(Valgrind Mermory AnalyzerやHeaptrackなど)を使用して、どこでメモリが消費されているかを詳細に分析します。
- 不要な画像の解放:
- アプリケーションの状態変化(例: ウィンドウの最小化、特定のビューのクローズ)に応じて、不要になった画像をキャッシュから明示的に削除することを検討します。
- 画像サイズの最適化:
- キャッシュに入れる前に、画像の解像度やフォーマットをアプリケーションの表示要件に合わせて最適化します。例えば、サムネイル画像はフル解像度でキャッシュする必要はありません。
- キャッシュ内容の監視:
- デバッグビルドで、キャッシュの現在のサイズや内容を定期的にログ出力し、何がメモリを消費しているのかを特定します。
- キャッシュの最大サイズを設定する:
QImageCache::setCacheLimit()
やQPixmapCache::setCacheLimit()
を使用して、キャッシュが消費できるメモリの最大量を制限します。- 例:
QPixmapCache::setCacheLimit(1024 * 1024 * 500);
(500MBに設定)
キャッシュヒット率の低下(Low Cache Hit Rate)
エラー/症状:
- キャッシュを使用しているはずなのに、パフォーマンスが改善されない。
- 画像を何度もロードし直しているように見える(特に同じ画像なのに)。
原因:
- キーのバリエーションが多すぎる: 同じ画像に対して複数の異なるキーが生成されている(例: 絶対パスと相対パス、URLのクエリパラメータの違いなど)。
- 頻繁なキャッシュのクリア: 何らかの理由でキャッシュが頻繁にクリアされている。
- 不適切なキャッシュキー: キャッシュに画像を保存する際に使用するキーが、後で画像を検索する際に使用するキーと一致しない。
トラブルシューティング:
- キャッシュヒット率の計測:
- キャッシュへのアクセス時に、ヒットした回数とミスした回数をカウントし、キャッシュの有効性を数値的に評価します。
- 不必要なキャッシュクリアの特定:
- コードベースを検索し、
clear()
のようなメソッドが不必要に呼び出されていないか確認します。
- コードベースを検索し、
- キーの生成ロジックの確認:
- キーを生成するコードをデバッグし、意図した通りに一意のキーが生成されているか確認します。
- 一貫性のあるキャッシュキーの使用:
- 画像をキャッシュする際と、キャッシュから取得する際で、必ず同じ一意のキーを使用するようにします。ファイルパスやURLを使用する場合は、それらを正規化(例:
/
と\
の統一、大文字小文字の区別をなくす)することを検討します。
- 画像をキャッシュする際と、キャッシュから取得する際で、必ず同じ一意のキーを使用するようにします。ファイルパスやURLを使用する場合は、それらを正規化(例:
画像の表示がおかしい、または破損している(Corrupted/Incorrect Image Display)
エラー/症状:
- キャッシュに保存された画像が古いバージョンで表示される。
- キャッシュから取得した画像が正しく表示されない(一部が欠けている、色が変、全く表示されない)。
原因:
- キャッシュの破損: 何らかの理由でキャッシュデータ自体が破損している。
- 画像のデコードエラー: キャッシュに入れる前の画像のデコードプロセスに問題がある。
- 画像の変更後にキャッシュが更新されていない: 元の画像ファイルが変更されたにもかかわらず、キャッシュ内の古い画像が使用され続けている。
- スレッドセーフティの問題: 複数のスレッドから同時にキャッシュへのアクセスや変更が行われているが、適切に同期されていない。
トラブルシューティング:
- キャッシュのクリア:
- 一時的な対処として、アプリケーションの起動時や特定のイベント時にキャッシュを完全にクリアすることを試みます(ただし、これはパフォーマンスに影響を与える可能性があります)。
- エラーハンドリングの強化:
- 画像をロードまたはデコードする際にエラーが発生した場合、それを適切にハンドリングし、キャッシュに入れないようにします。
- キャッシュの強制更新/無効化:
- 元の画像が変更されたことが分かっている場合は、そのキーの画像をキャッシュから削除し、次に要求されたときに再ロードするようにします。
QImageCache::remove()
やQPixmapCache::remove()
を使用します。
- スレッドセーフなアクセス:
QMutex
やQReadWriteLock
を使用して、キャッシュへのアクセスを同期します。Qtの組み込みキャッシュクラス(QPixmapCache
など)は通常スレッドセーフですが、カスタムキャッシュを実装する場合は注意が必要です。
ファイルIOの問題(File I/O Issues)
エラー/症状:
- キャッシュから画像をロードする際にエラーが発生する。
- キャッシュに保存しようとしている画像のファイルが存在しない、またはアクセス権がない。
原因:
- ディスクスペース不足: キャッシュをディスクに保存している場合に、ディスクスペースが不足している。
- アクセス権がない: アプリケーションが画像ファイルへの読み取り権限を持っていない。
- ファイルパスが間違っている: 画像ファイルが存在しない、または誤ったパスが指定されている。
トラブルシューティング:
- ディスクスペースの確認:
- ディスクキャッシュを使用している場合は、十分なディスクスペースがあるか確認します。
- アクセス権の確認:
- アプリケーションがファイルにアクセスできる権限を持っているか確認します。特に、モバイルや組み込み環境ではアクセス権が制限されていることがあります。
- ファイルパスの確認:
- 画像ファイルのパスが正しいか、
QFile::exists()
などで確認します。
- 画像ファイルのパスが正しいか、
一般的なデバッグのヒント
- 最小再現ケースの作成: 複雑なアプリケーションで問題が発生している場合は、キャッシュ関連のコードのみを抜き出した最小限のサンプルプロジェクトを作成し、問題を再現できるか試します。これにより、問題の特定と解決が容易になります。
- ブレークポイントとステップ実行: 問題が発生している箇所にブレークポイントを設定し、コードをステップ実行することで、変数の値や実行フローを確認します。
- QDebugとQLoggingCategory: これらを使用して、より構造化されたログを出力し、フィルタリングしやすくします。
- ログ出力の活用: キャッシュへの追加、取得、削除、サイズ変更など、キャッシュの主要な操作時にデバッグメッセージを出力するようにします。これにより、キャッシュの振る舞いを追跡できます。
Qtで画像をキャッシュする際に最も一般的に使用されるのはQPixmapCache
です。これは、QPixmap
(Qtで画面表示に適した画像データ型)を効率的にキャッシュするためのクラスです。QImage
は生データとして画像を保持しますが、QPixmap
はプラットフォーム固有の最適化が施されており、表示パフォーマンスに優れています。
QPixmapCache の基本的な使い方
QPixmapCache
は静的クラスであり、インスタンスを作成する必要はありません。アプリケーション全体で共有されるキャッシュとして機能します。
キャッシュの最大サイズの設定
キャッシュが使用するメモリ量を制限することは非常に重要です。通常、アプリケーションの起動時、例えばmain()
関数内で設定します。
#include <QApplication>
#include <QPixmapCache>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// キャッシュの最大サイズを50MBに設定(バイト単位)
// これは、すべてのQPixmapCacheが利用できる合計メモリです。
QPixmapCache::setCacheLimit(50 * 1024 * 1024); // 50MB
qDebug() << "QPixmapCache limit set to:" << QPixmapCache::cacheLimit() / (1024 * 1024) << "MB";
// ... アプリケーションの残りのコード ...
return app.exec();
}
解説:
QPixmapCache::cacheLimit()
: 現在設定されているキャッシュの最大サイズを取得します。QPixmapCache::setCacheLimit(int sizeInBytes)
: キャッシュの最大サイズをバイト単位で設定します。設定しない場合、デフォルト値(通常は数MB)が使用されますが、これは用途によっては小さすぎる場合があります。
画像をキャッシュに追加する
画像をロードした後、それをQPixmapCache
に追加します。キャッシュには一意のキーが必要です。
#include <QApplication>
#include <QPixmapCache>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug>
#include <QPixmap> // QPixmap を使用するために必要
// ... main関数内、またはQObjectを継承したクラスのメソッド内で ...
void loadImageAndCache(const QString& imagePath, const QString& cacheKey) {
// まず、キャッシュに画像があるか確認
QPixmap cachedPixmap;
if (QPixmapCache::find(cacheKey, &cachedPixmap)) {
qDebug() << "Image found in cache for key:" << cacheKey;
// キャッシュから画像が取得できた場合、それを使用
// QLabel* label = new QLabel();
// label->setPixmap(cachedPixmap);
return; // 処理を終了
}
// キャッシュになかった場合、画像をロードしてキャッシュに追加
QPixmap originalPixmap(imagePath);
if (!originalPixmap.isNull()) {
if (QPixmapCache::insert(cacheKey, originalPixmap)) {
qDebug() << "Image inserted into cache for key:" << cacheKey;
} else {
qWarning() << "Failed to insert image into cache for key:" << cacheKey;
}
// QLabel* label = new QLabel();
// label->setPixmap(originalPixmap);
} else {
qWarning() << "Failed to load image:" << imagePath;
}
}
解説:
QPixmapCache::insert(const QString &key, const QPixmap &pixmap)
: 指定されたkey
とpixmap
をキャッシュに追加します。追加に成功した場合、true
を返します。キャッシュが上限に達している場合、古い項目が削除される可能性があります。QPixmapCache::find(const QString &key, QPixmap *pixmap)
: 指定されたkey
を持つQPixmap
がキャッシュに存在するかを検索します。見つかった場合、pixmap
ポインタにその画像がコピーされ、true
を返します。
キャッシュから画像を取得する
画像を再度表示したい場合、まずキャッシュを検索します。
#include <QApplication>
#include <QPixmapCache>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug>
#include <QPixmap>
// ... main関数内、またはQObjectを継承したクラスのメソッド内で ...
void displayImageFromCache(const QString& cacheKey, QLabel* targetLabel) {
QPixmap pixmap;
if (QPixmapCache::find(cacheKey, &pixmap)) {
qDebug() << "Found image in cache for key:" << cacheKey;
targetLabel->setPixmap(pixmap);
} else {
qDebug() << "Image not found in cache for key:" << cacheKey << ". Loading from disk...";
// キャッシュになかった場合、画像をロードして表示し、必要であればキャッシュに追加する
QPixmap loadedPixmap("path/to/your/image.png"); // 実際の画像パスを指定
if (!loadedPixmap.isNull()) {
targetLabel->setPixmap(loadedPixmap);
QPixmapCache::insert(cacheKey, loadedPixmap); // 次回のためにキャッシュ
qDebug() << "Image loaded and cached for key:" << cacheKey;
} else {
qWarning() << "Failed to load image from disk.";
targetLabel->setText("Image not available");
}
}
}
// 例として、メインウィンドウで画像をロードして表示するコード
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QPixmapCache::setCacheLimit(50 * 1024 * 1024);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLabel *imageLabel1 = new QLabel("Image 1 Placeholder");
QLabel *imageLabel2 = new QLabel("Image 2 Placeholder");
layout->addWidget(imageLabel1);
layout->addWidget(imageLabel2);
window.show();
// 最初の画像を表示
// 実際には、存在しないパスであれば表示されないので、適切な画像パスを用意してください
QString imagePath1 = "/path/to/your/image1.png"; // ここを実際の画像パスに変更
QString cacheKey1 = "unique_key_for_image1";
// ダミーの画像作成 (テスト用)
QPixmap dummyPixmap1(100, 100);
dummyPixmap1.fill(Qt::red);
// 実際のアプリケーションでは、QPixmap("path/to/image.png") を使用します
if (QPixmapCache::find(cacheKey1, &dummyPixmap1)) {
imageLabel1->setPixmap(dummyPixmap1);
qDebug() << "Image 1 from cache.";
} else {
QPixmap originalPixmap1(100, 100); // 実際の画像パス
originalPixmap1.fill(Qt::red); // 実際の画像パス
imageLabel1->setPixmap(originalPixmap1);
QPixmapCache::insert(cacheKey1, originalPixmap1);
qDebug() << "Image 1 loaded and cached.";
}
// 別の画像を表示 (意図的に同じキーを数秒後に使用)
// 数秒待って、キャッシュヒットするか確認
QTimer::singleShot(2000, [&]() {
QString imagePath2 = "/path/to/your/image2.png"; // ここも実際の画像パスに変更
QString cacheKey2 = "unique_key_for_image2";
QPixmap dummyPixmap2(150, 150);
dummyPixmap2.fill(Qt::blue);
if (QPixmapCache::find(cacheKey2, &dummyPixmap2)) {
imageLabel2->setPixmap(dummyPixmap2);
qDebug() << "Image 2 from cache.";
} else {
QPixmap originalPixmap2(150, 150);
originalPixmap2.fill(Qt::blue);
imageLabel2->setPixmap(originalPixmap2);
QPixmapCache::insert(cacheKey2, originalPixmap2);
qDebug() << "Image 2 loaded and cached.";
}
// ここで、もう一度 Image 1 を表示してみる。キャッシュからロードされるはず。
QPixmap reloadedPixmap1;
if (QPixmapCache::find(cacheKey1, &reloadedPixmap1)) {
qDebug() << "Image 1 reloaded from cache successfully!";
}
});
return app.exec();
}
解説:
- 実際のアプリケーションでは、
QPixmap("path/to/your/image.png")
の部分を実際の画像ファイルパスに置き換える必要があります。 targetLabel->setPixmap(pixmap)
:QLabel
などのウィジェットにキャッシュから取得したQPixmap
を設定して表示します。- この例では、
loadImageAndCache
関数がキャッシュの検索と、見つからなかった場合のロード・キャッシュ挿入のロジックをカプセル化しています。
キャッシュからの削除とクリア
不要になった画像をキャッシュから削除したり、キャッシュ全体をクリアしたりすることも可能です。
#include <QApplication>
#include <QPixmapCache>
#include <QDebug>
void clearCacheExamples() {
QString keyToDelete = "some_old_image_key";
// 特定のキーの画像をキャッシュから削除
QPixmapCache::remove(keyToDelete);
qDebug() << "Removed image with key:" << keyToDelete;
// キャッシュを完全にクリア
// 注意: これはすべてのキャッシュされた画像を削除するため、注意して使用してください。
QPixmapCache::clear();
qDebug() << "QPixmapCache has been cleared.";
// キャッシュの現在のサイズを確認(クリア後なので0になるはず)
qDebug() << "Current QPixmapCache size:" << QPixmapCache::size();
}
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QPixmapCache::setCacheLimit(50 * 1024 * 1024);
// テスト用にいくつか画像を追加
QPixmap p1(10,10); p1.fill(Qt::green); QPixmapCache::insert("key1", p1);
QPixmap p2(20,20); p2.fill(Qt::yellow); QPixmapCache::insert("key2", p2);
qDebug() << "Cache size after adding:" << QPixmapCache::size();
clearCacheExamples(); // キャッシュクリアの関数を呼び出す
return app.exec();
}
解説:
QPixmapCache::size()
: 現在キャッシュが使用しているメモリ量(バイト単位)を返します。QPixmapCache::clear()
: キャッシュに保存されているすべての画像を削除します。これはメモリを解放しますが、次回その画像が必要になった際には再ロードが必要になります。QPixmapCache::remove(const QString &key)
: 指定されたkey
の画像をキャッシュから削除します。
より高度なキャッシュの考慮事項
QImage
とQPixmap
の使い分け:QImage
: 画像のピクセルデータへの直接アクセスが必要な場合、画像処理(変換、フィルタリングなど)を行う場合に使用します。QPixmap
: 画面に描画する場合、特にパフォーマンスが重要な場合に最適です。多くの場合、QImage
をロードしてからQPixmap
に変換して表示します。
- LRU(Least Recently Used)ポリシー:
QPixmapCache
は、キャッシュの制限を超えた場合に、最も長い間アクセスされていない項目から自動的に削除します。開発者がこれを直接制御する必要はありません。 - スレッドセーフティ:
QPixmapCache
自体はスレッドセーフに設計されていますが、カスタムでキャッシュを実装する場合は、複数のスレッドからのアクセス時にQMutex
などを使用して同期を確保する必要があります。
Qtのモダンなバージョン(特にQt 6以降)において、開発者が直接QImageCache
を操作することは稀です。QImageCache
は主にQtの内部実装で利用されています。しかし、アプリケーションレベルで画像キャッシュを管理したい場合、いくつかの代替方法があります。これらは、QPixmapCache
の限界を超えて、よりきめ細やかな制御や特定のユースケースに対応するために使用されます。
QPixmapCacheの利用(推奨される代替方法)
前述の通り、QPixmapCache
はQtが提供する最も一般的で推奨される画像キャッシュメカニズムです。UI要素(QLabel
、QPushButton
など)に画像を直接表示する場合に最適なQPixmap
オブジェクトをキャッシュします。
利点:
- スレッドセーフ: 基本的な操作はスレッドセーフです。
- 自動LRU削除: キャッシュ制限を超えた場合に自動的に最も古いエントリを削除します。
- パフォーマンス最適化:
QPixmap
はプラットフォーム固有のレンダリング最適化を利用するため、UI表示に非常に効率的です。 - 容易な利用: 静的クラスであり、シンプルなAPI(
setCacheLimit
,insert
,find
,remove
,clear
)で簡単に扱えます。
使用シナリオ:
- 画像ビューアやギャラリーで、表示中の画像を高速に切り替える必要がある場合。
- アプリケーションのアイコン、サムネイル、背景画像など、UIに頻繁に表示される静的または半静的な画像。
カスタムキャッシュの構築(QMap, QHash を利用)
より複雑な要件や、QPixmapCache
の動作がニーズに合わない場合、独自のキャッシュシステムを構築できます。これは通常、QMap
またはQHash
(ハッシュマップ)のようなQtのコンテナクラスを使用して行われます。
利点:
- 柔軟なキー: 任意のデータ型をキーとして使用できます(例: 構造体、カスタムID)。
- カスタムデータ型のキャッシュ:
QImage
だけでなく、生の画像データ、特定の処理済み画像、あるいは関連するメタデータなど、任意のデータ型をキャッシュできます。 - 完全な制御: キャッシュのサイズ、削除ポリシー(LRU、LFUなど)、スレッドセーフティ、エラーハンドリングなどを完全に制御できます。
考慮事項:
- パフォーマンス: 適切に設計しないと、Qt組み込みのキャッシュよりも低速になる可能性があります。
- 実装コスト: メモリ管理、スレッドセーフティ、削除ポリシーなど、キャッシュロジックを自分で実装する必要があります。
実装例(概念的):
#include <QObject>
#include <QImage>
#include <QMap>
#include <QMutex> // スレッドセーフティのため
#include <QDebug>
#include <QPixmap> // 必要に応じてQPixmapに変換
class CustomImageCache : public QObject {
Q_OBJECT
public:
explicit CustomImageCache(int cacheLimitBytes, QObject* parent = nullptr)
: QObject(parent), m_cacheLimitBytes(cacheLimitBytes), m_currentCacheSizeBytes(0) {}
// 画像をキャッシュに追加
bool insertImage(const QString& key, const QImage& image) {
QMutexLocker locker(&m_mutex); // スレッドセーフティのためのロック
// 画像データをQByteArrayに変換してサイズを計測
QByteArray imageData = image.saveToData("PNG"); // または "JPG" など
if (imageData.isEmpty()) {
qWarning() << "Failed to convert image to data for caching.";
return false;
}
int imageSizeBytes = imageData.size();
// キャッシュ制限を超過する場合、古いエントリを削除
while (m_currentCacheSizeBytes + imageSizeBytes > m_cacheLimitBytes && !m_cache.isEmpty()) {
// 最も古いエントリを削除(LRU実装の一例)
// 実際には、アクセス時間などを記録して正確なLRUを実装する必要があります
// この簡易版では、単に最初の要素を削除します
QString firstKey = m_cache.keys().first();
m_currentCacheSizeBytes -= m_cache.value(firstKey).size();
m_cache.remove(firstKey);
qDebug() << "Evicting image from cache:" << firstKey;
}
if (m_currentCacheSizeBytes + imageSizeBytes > m_cacheLimitBytes) {
qWarning() << "Image too large to fit in cache even after eviction.";
return false;
}
m_cache.insert(key, imageData);
m_currentCacheSizeBytes += imageSizeBytes;
qDebug() << "Inserted image:" << key << "Current cache size:" << m_currentCacheSizeBytes / 1024 << "KB";
return true;
}
// キャッシュから画像を取得
QImage findImage(const QString& key) {
QMutexLocker locker(&m_mutex);
if (m_cache.contains(key)) {
// LRUの実装として、アクセスされたエントリを「最近使用された」状態にする
// ここでは簡易的に、一旦削除して再挿入することで「最近使用された」と見なす
QByteArray imageData = m_cache.value(key);
m_cache.remove(key);
m_cache.insert(key, imageData);
return QImage::fromData(imageData, "PNG"); // または "JPG"
}
return QImage(); // 見つからなかった場合は無効なQImageを返す
}
// キャッシュをクリア
void clearCache() {
QMutexLocker locker(&m_mutex);
m_cache.clear();
m_currentCacheSizeBytes = 0;
qDebug() << "Custom image cache cleared.";
}
// キャッシュの現在のサイズを取得
int currentCacheSize() const {
return m_currentCacheSizeBytes;
}
private:
QMap<QString, QByteArray> m_cache; // QImageの生データ(QByteArray)を保存
int m_cacheLimitBytes;
int m_currentCacheSizeBytes;
mutable QMutex m_mutex; // スレッドセーフティ用
};
// 使用例
int main(int argc, char *argv[]) {
QCoreApplication app(argc, argv); // QApplication でも可
CustomImageCache myImageCache(20 * 1024 * 1024); // 20MBのキャッシュ
// QImageを生成(またはファイルからロード)
QImage img1(100, 100, QImage::Format_ARGB32);
img1.fill(Qt::red);
myImageCache.insertImage("red_square", img1);
QImage img2(150, 150, QImage::Format_ARGB32);
img2.fill(Qt::blue);
myImageCache.insertImage("blue_square", img2);
// キャッシュから取得
QImage retrievedImg1 = myImageCache.findImage("red_square");
if (!retrievedImg1.isNull()) {
qDebug() << "Retrieved red_square from custom cache.";
// retrievedImg1 を QPixmap に変換して表示することも可能
// QLabel* label = new QLabel();
// label->setPixmap(QPixmap::fromImage(retrievedImg1));
}
// 存在しないキーを検索
QImage notFoundImg = myImageCache.findImage("non_existent_key");
if (notFoundImg.isNull()) {
qDebug() << "non_existent_key not found in custom cache (as expected).";
}
myImageCache.clearCache();
return 0; // app.exec() の代わりに return 0; を使用してコンソールアプリとして実行
}
解説:
QImage
をキャッシュする場合、そのピクセルデータをメモリに直接保持するか、または圧縮された形式(PNG、JPGなど)でQByteArray
として保持するかを選択できます。後者はメモリ効率が良い場合がありますが、エンコード/デコードのオーバーヘッドが発生します。- LRUのような削除ポリシーは、
while
ループ内でサイズ制限を超えた場合に最も古いエントリを削除することで、非常に簡易的に実装されています(より正確なLRUには、各エントリの最終アクセス時刻を追跡する必要があります)。 QMutex
を使用して、複数のスレッドからの同時アクセスに対してキャッシュを保護しています。- この例では、
QMap<QString, QByteArray>
を使用して、画像のキーとそのバイトデータ(QImage::saveToData
でシリアライズ)を保存しています。
- ファイルシステムキャッシュ: オペレーティングシステム自体がファイルシステムレベルでキャッシュを行っています。同じファイルを何度も読み込む場合、OSレベルのキャッシュが効果を発揮することがあります。
- Webエンジンのキャッシュ:
QtWebEngine
やQNetworkAccessManager
は、Webコンテンツ(画像を含む)のための独自のディスクキャッシュおよびメモリキャッシュメカニズムを持っています。Webコンテンツを扱う場合は、これらを適切に設定・利用することが重要です。 QIcon
キャッシュ:QIcon
は内部的にアイコンをキャッシュするメカニズムを持っています。頻繁にアイコンを使用する場合は、QIcon
を使用することが推奨されます。
どの方法を選ぶべきか?
- ほとんどのUI表示目的:
QPixmapCache
が最も簡単で効率的です。まずこれを検討してください。 QImage
データを直接キャッシュしたい、または複雑なカスタムロジックが必要:QMap
やQHash
を用いた独自のカスタムキャッシュを構築します。- アイコン:
QIcon
を直接使用します。 - Webコンテンツ:
QtWebEngine
やQNetworkAccessManager
のキャッシュ設定を確認します。