Qt QTreeView 選択範囲解説

2024-08-03

Qt Widgets と QTreeView について簡単に

Qt Widgets は、C++ で書かれたクロスプラットフォームの GUI ツールキットです。デスクトップアプリケーションの開発に広く利用されています。

QTreeView は、Qt Widgets が提供するクラスで、階層構造のデータをツリー形式で表示するためのビューです。ファイルエクスプローラーやアウトラインビューなどが代表的な例です。

QTreeView::visualRegionForSelection() は、QTreeView で選択されている項目に対応する視覚的な領域(矩形)を取得するための関数です。

  • 矩形:長方形の領域を数学的に表現する方法です。
  • 視覚的な領域:画面上で実際に選択されている部分のことです。

この関数の戻り値は、QRect 型のオブジェクトです。QRect は、矩形の左上座標と幅、高さを表す構造体です。

何に使うのか?

この関数を使うことで、以下のようなことができます。

  • 選択範囲のカスタマイズ
    カスタムの選択表示を実装することができます。
  • 選択範囲のスクロール
    選択範囲が画面からはみ出ている場合、選択範囲全体が見えるようにスクロールさせることができます。
  • 選択範囲のハイライト
    選択されている項目の背景色を変えたり、枠線を描画したりして、視覚的に強調表示することができます。
#include <QTreeView>
#include <QPainter>

void myTreeView::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
    QTreeView::paintEvent(event);

    // 選択範囲の矩形を取得
    QRect visualRect = visualRegionForSelection();

    // 選択範囲に青い枠線を描画
    QPainter painter(viewport());
    painter.setPen(QPen(Qt::blue, 2));
    painter.drawRect(visualRect);
}

この例では、QTreeView のペイントイベントで選択範囲の矩形を取得し、その周りに青い枠線を描画しています。

QTreeView::visualRegionForSelection() は、QTreeView で選択されている項目の視覚的な領域を取得する便利な関数です。この関数を使うことで、選択範囲をカスタマイズしたり、選択範囲に関する様々な処理を行うことができます。

  • QItemSelectionModel
    選択モデルを表すクラスです。現在の選択状態、選択範囲の変更通知などを扱うことができます。
  • QTreeView::selectionModel()
    QTreeView の選択モデルを取得する関数です。選択状態に関するより詳細な情報を取得することができます。


QTreeView::visualRegionForSelection() を使用する際に、様々なエラーやトラブルが発生する可能性があります。ここでは、考えられる問題とその解決策について、いくつかの例を挙げて解説します。

よくある問題と解決策

空のQRectが返ってくる

  • 解決策
    • 選択状態を確認する。
    • ビューが正しく初期化されているか確認する。
    • ビューのサイズが正しく設定されているか確認する。
  • 原因
    • 選択されている項目がない。
    • ビューが初期化されていない。
    • ビューのサイズがゼロ。
if (visualRegionForSelection().isEmpty()) {
    // 選択範囲がない場合の処理
    qDebug() << "No selection";
}

不正な矩形が返ってくる

  • 解決策
    • カスタムのアイテムデリゲートの計算ロジックを確認する。
    • スタイルシートを調整する。
  • 原因
    • カスタムのアイテムデリゲートが矩形を誤って計算している。
    • スタイルシートが矩形に影響を与えている。
// カスタムのアイテムデリゲートで矩形を計算する例
QRect MyItemDelegate::sizeHint(const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const
{
    // 矩形の計算ロジック
    // ...
}

選択範囲が正しくハイライトされない

  • 解決策
    • ペイントイベントの処理を再確認する。
    • スタイルシートを調整する。
    • Qt のバグの可能性も考慮する。
  • 原因
    • ペイントイベントの処理が正しくない。
    • スタイルシートが期待通りに動作していない。
    • オペレーティングシステムやウィンドウマネージャーとの相互作用の問題。
// ペイントイベントで選択範囲をハイライトする例
void MyTreeView::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
    QTreeView::paintEvent(event);

    // ... (省略)
}

パフォーマンスの問題

  • 解決策
    • visualRegionForSelection() の呼び出し回数を減らす。
    • キャッシュを利用する。
    • パフォーマンスプロファイリングツールでボトルネックを特定する。
  • 原因
    • 頻繁に visualRegionForSelection() を呼び出している。
    • データ量が多い場合に、矩形の計算に時間がかかっている。
  • Qt バージョンによる差異
    Qt のバージョンによって、挙動が異なる場合があります。
  • カスタムのレンダリング
    カスタムのレンダリングを行っている場合、visualRegionForSelection() の結果と実際の表示が一致しないことがあります。
  • 複雑な選択
    複数の非連続な範囲を選択する場合など、複雑な選択状態では、visualRegionForSelection() の挙動が複雑になることがあります。
  • シンプルな例から始める
    複雑なコードを避けて、シンプルな例から始めて、徐々に機能を追加していくことで、問題の原因を特定しやすくなります。
  • デバッガを使用する
    ブレークポイントを設定して、コードの実行をステップ実行し、問題箇所を特定します。


選択範囲をハイライトする

#include <QTreeView>
#include <QPainter>

class MyTreeView : public QTreeView {
public:
    MyTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override {
        QTreeView::paintEvent(event);

        // 選択範囲の矩形を取得
        QRect visualRect = visualRegionForSelection();

        // 選択範囲に青い枠線を描画
        QPainter painter(viewport());
        painter.setPen(QPen(Qt::blue, 2));
        painter.drawRect(visualRect);
    }
};

選択範囲をドラッグして移動する

#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent>

class MyTreeView : public QTreeView {
public:
    MyTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}

protected:
    void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override {
        if (event->button() == Qt::LeftButton) {
            // ドラッグ開始時の処理
            startPos = event->pos();
        }
        QTreeView::mousePressEvent(event);
    }

    void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) override {
        if (event->buttons() & Qt::LeftButton) {
            // ドラッグ中の処理
            QPoint delta = event->pos() - startPos;
            // 選択範囲をdeltaだけ移動させる
            // ... (実装例は以下を参照)
        }
        QTreeView::mouseMoveEvent(event);
    }

private:
    QPoint startPos;
};

選択範囲を移動させる実装例

選択範囲を移動させるには、モデルのデータを直接操作する必要があります。ここでは、簡略化のため、選択されている全ての項目を下方向に1行移動させる例を示します。

void MyTreeView::mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) {
    // ... (省略)

    QModelIndexList selectedIndexes = selectionModel()->selectedIndexes();
    QModelIndex parentIndex;

    // 選択されている全ての項目の親インデックスを取得
    for (const QModelIndex &index : selectedIndexes) {
        parentIndex = index.parent();
        break; // 最初の親インデックスのみ取得
    }

    // モデルのデータを移動する
    // ... (モデルのデータ構造に応じて実装)

    // ビューを更新
    scrollTo(parentIndex);
}
// ... (省略)

void MyTreeView::wheelEvent(QWheelEvent *event) {
    if (event->modifiers() & Qt::ControlModifier) {
        // Ctrlキーを押しながらホイールを回転させた場合
        if (event->delta() > 0) {
            // 拡大
            // ... (実装例は以下を参照)
        } else {
            // 縮小
            // ... (実装例は以下を参照)
        }
    }
    QTreeView::wheelEvent(event);
}

選択範囲を拡大/縮小する実装例

選択範囲を拡大/縮小するには、選択モデルの select() メソッドを使用して、選択範囲を変更します。

void MyTreeView::wheelEvent(QWheelEvent *event) {
    // ... (省略)

    if (event->delta() > 0) {
        // 選択範囲を拡大
        QItemSelectionModel *selectionModel = selectionModel();
        QItemSelection selection = selectionModel->selection();
        // selection を拡大する処理 (実装例は省略)
        selectionModel->select(selection, QItemSelectionModel::Select);
    } else {
        // 選択範囲を縮小
        // ... (同様の処理)
    }
}
  • パフォーマンスに影響を与える可能性があるため、大量のデータを扱う場合は、効率的なアルゴリズムを検討する必要があります。
  • 選択範囲の移動や拡大/縮小は、モデルのデータ構造や選択モードによって、より複雑な実装が必要になる場合があります。
  • 上記のコードはあくまで一例です。実際のアプリケーションでは、モデルの構造や要件に合わせて適宜修正する必要があります。
  • イベントフィルタ
    QEventFilter を使用して、イベントをフィルタリングし、特定のイベントに対して独自の処理を行うことができます。
  • 選択モード
    QItemSelectionModel の setSelectionMode() メソッドを使用して、単一選択、複数選択、範囲選択などの選択モードを設定できます。
  • カスタムアイテムデリゲート
    QStyledItemDelegate を継承して、アイテムの表示をカスタマイズすることができます。


代替方法の検討が必要なケース

  • 互換性
    古い Qt バージョンやサードパーティのライブラリとの互換性で問題が発生する場合があります。
  • 柔軟性
    visualRegionForSelection() の機能だけでは、より高度なカスタマイズに対応できない場合があります。
  • パフォーマンス
    大量のデータや複雑なビューの場合、visualRegionForSelection() の計算コストが大きくなる可能性があります。

代替方法の例

    • paintEvent をオーバーライドし、選択されているアイテムのインデックスを元に、自分で矩形を計算して描画します。
    • より細かい制御が可能ですが、実装が複雑になる可能性があります。
  1. アイテムデリゲート

    • QStyledItemDelegate を継承し、paint メソッドをオーバーライドして、選択されているアイテムの表示をカスタマイズします。
    • アイテムレベルでの表示のカスタマイズに適しています。
  2. QItemSelectionModel

    • selectedIndexes() を使用して、選択されている全てのインデックスを取得し、各インデックスに対応する矩形を個別に計算します。
    • より柔軟な選択範囲の処理が可能ですが、計算コストがかかる可能性があります。
  3. サードパーティライブラリ

    • Qt Quick や QML を使用することで、より高度な視覚効果やインタラクションを実現できます。
    • Qt のネイティブな機能とは異なるアプローチが必要になります。

選択基準

  • メンテナンス性
    コードの可読性が高く、保守しやすい方法を選ぶ
  • 開発効率
    実装が容易な方法を選ぶ
  • 柔軟性
    必要なカスタマイズに対応できる方法を選ぶ
  • パフォーマンス
    計算コストが低い方法を選ぶ
#include <QTreeView>
#include <QPainter>

class MyTreeView : public QTreeView {
public:
    MyTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override {
        QTreeView::paintEvent(event);

        QPainter painter(viewport());
        painter.setPen(QPen(Qt::blue, 2));

        QModelIndexList selectedIndexes = selectionModel()->selectedIndexes();
        for (const QModelIndex &index : selectedIndexes) {
            QRect rect = visualRect(index);
            painter.drawRect(rect);
        }
    }
};

QTreeView::visualRegionForSelection() の代替方法は、状況に応じて様々な選択肢があります。それぞれの方法の長所と短所を比較し、ご自身のアプリケーションに最適な方法を選択してください。

  • 現在のコードの構造はどのようなものですか? (モデル、ビュー、デリゲートの構成など)
  • どのような機能を実現したいですか? (選択範囲のアニメーション、複雑な形状の選択範囲など)
  • どのような問題が発生していますか? (パフォーマンス問題、カスタマイズの制限など)