Qt開発者必見: QTreeViewのautoExpandDelayで快適なUIを実現する方法
QTreeView::autoExpandDelay
は、QtのウィジェットであるQTreeView
クラスのプロパティ(属性)です。これは、ユーザーがツリービューのアイテム(項目)の上にマウスカーソルを一定時間置いたときに、そのアイテムが自動的に展開(サブアイテムを表示)されるまでの遅延時間(ミリ秒単位)を設定します。
動作の仕組み
QTreeView
は、階層的なデータを表示するためのウィジェットです。ファイルエクスプローラーのようなツリー構造をイメージするとわかりやすいでしょう。通常、ユーザーはツリーのノードの横にある展開/折りたたみインジケータ(例えば「+」や「-」アイコン)をクリックして、ノードを展開したり折りたたんだりします。
autoExpandDelay
を設定すると、この手動での操作に加えて、マウスカーソルを特定のノードの上に一定時間(autoExpandDelay
で指定された時間)留めておくことで、自動的にそのノードが展開されるようになります。これは、特に深くネストされたツリー構造を閲覧する際に、クリックの手間を省くのに役立ちます。
値の指定
0
:0
を設定すると、遅延なしで即座に自動展開されます。これは非常に敏感な動作になるため、ユーザーエクスペリエンスを考慮して慎重に使用する必要があります。- 正の整数: 正の整数値を設定すると、そのミリ秒数だけマウスカーソルをアイテムの上に置いた後に自動展開が行われます。例えば、
500
と設定すると、0.5秒後に展開されます。 - デフォルト値: 通常、
-1
がデフォルト値です。これは、自動展開が無効になっていることを意味します。つまり、マウスオーバーによる自動展開は行われません。
設定方法
C++でQTreeView
のautoExpandDelay
を設定するには、setAutoExpandDelay()
メソッドを使用します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStringListModel> // 例としてシンプルなモデルを使用
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
QTreeView treeView;
// シンプルなツリー構造のモデルを作成
QStringListModel model;
QStringList data;
data << "Parent Item 1" << " Child Item 1.1" << " Child Item 1.2" << "Parent Item 2" << " Child Item 2.1";
model.setStringList(data); // これはツリー構造を表現するものではありませんが、例として
// 通常はQStandardItemModelなど、階層的なデータ構造をサポートするモデルを使用します
// 例:
// QStandardItemModel *treeModel = new QStandardItemModel(&treeView);
// QStandardItem *rootItem = treeModel->invisibleRootItem();
// QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("Parent 1");
// QStandardItem *child1_1 = new QStandardItem("Child 1.1");
// parent1->appendRow(child1_1);
// rootItem->appendRow(parent1);
// treeView.setModel(treeModel);
// autoExpandDelayを500ミリ秒に設定(0.5秒)
treeView.setAutoExpandDelay(500);
// 別の設定例:自動展開を無効にする
// treeView.setAutoExpandDelay(-1);
treeView.setWindowTitle("QTreeView Auto Expand Delay Example");
treeView.show();
return a.exec();
}
注意点: 上記のコード例のQStringListModel
は、厳密なツリー構造を表現するものではないため、自動展開の動作を完璧に再現するには、QStandardItemModel
などのより適切なモデルを使用する必要があります。しかし、setAutoExpandDelay
の概念を示すためには有効です。
利点と考慮事項
利点
- ナビゲーションの効率を向上させることができます。
- ユーザーが頻繁にツリーを展開する必要がある場合に、操作の手間を減らすことができます。
- ユーザー設定: ユーザーによっては自動展開を好まない場合もあるため、設定として自動展開の有効/無効や遅延時間を調整できるようにすることも検討すると良いでしょう。
- パフォーマンス: 非常に大きなツリー構造の場合、頻繁な自動展開がパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
- 誤操作の可能性:
autoExpandDelay
の値を短くしすぎると、意図しないアイテムが展開されてしまい、ユーザーエクスペリエンスを損なう可能性があります。
QTreeView::autoExpandDelay
は、ユーザーエクスペリエンスを向上させる便利な機能ですが、意図しない動作や期待通りの挙動にならない場合があります。ここでは、よくある問題とその解決策を説明します。
自動展開が全く機能しない
考えられる原因
- QTreeViewが有効になっていない(setEnabled(false))
- ウィジェットが無効になっていると、イベントに応答しません。
- マウスイベントが正しく処理されていない
- アプリケーションのイベントループがブロックされている、または他のウィジェットがマウスイベントを消費している可能性があります。
- アイテムに子がない
- 展開すべき子アイテムがない親アイテムは、当然ながら自動展開されません。
- ツリービューにモデルが設定されていない、またはモデルが空である
QTreeView
は表示するデータがないと、何も動作しません。
- autoExpandDelayが-1に設定されている
- これはデフォルト値であり、自動展開が無効であることを意味します。
トラブルシューティング
- シンプルなテストケースの作成
- 問題が複雑なアプリケーションコードにあるのか、
QTreeView
自体の設定にあるのかを切り分けるために、最小限のコードでQTreeView
とautoExpandDelay
を設定し、動作するかどうかをテストしてみてください。
- 問題が複雑なアプリケーションコードにあるのか、
- ツリービューの有効状態の確認
treeView->isEnabled()
がtrue
を返すことを確認してください。
- モデルとデータの確認
QTreeView
にsetModel()
でモデルが正しく設定されているか確認してください。- 設定したモデル(例:
QStandardItemModel
)に、子を持つアイテムが正しく追加されているか確認してください。 - デバッグ出力やブレークポイントを使って、モデルの
rowCount()
やhasChildren()
が期待通りの値を返しているか確認してください。
- setAutoExpandDelay()の確認
- コードで
treeView->setAutoExpandDelay(500);
のように、-1
以外の正の値を設定していることを確認してください。
- コードで
意図しないアイテムが展開される(敏感すぎる)
考えられる原因
- autoExpandDelayの値が小さすぎる
autoExpandDelay
を0
や非常に小さな値に設定すると、マウスカーソルが少し触れただけでもすぐに展開されてしまい、ユーザーが意図しない操作を引き起こす可能性があります。
トラブルシューティング
- autoExpandDelayの値を大きくする
- 例えば、
500
ミリ秒(0.5秒)や1000
ミリ秒(1秒)など、ユーザーが意図してマウスを静止させるのに十分な長さに調整してください。適切な値はアプリケーションの性質やユーザーの操作習慣によって異なります。
- 例えば、
既に展開されているアイテムが、マウスオーバーで折りたたまれる
考えられる原因
QTreeView
のデフォルトのautoExpandDelay
の動作は、マウスオーバーされたアイテムが展開されていれば折りたたみ、折りたたまれていれば展開するというトグル動作をするためです。
トラブルシューティング
- カスタム実装の検討
- もし「展開のみ」の動作が必要な場合は、
QTreeView
をサブクラス化し、mouseMoveEvent()
などをオーバーライドして、独自のタイマーとロジックで自動展開を実装する必要があります。これはかなり高度な作業となり、QTreeView
の内部実装を理解する必要があるため、推奨されるアプローチではありません。多くの場合、ユーザーは自動展開と自動折りたたみの両方の機能が役立つと感じます。
- もし「展開のみ」の動作が必要な場合は、
- デフォルト動作の変更は困難
QTreeView
のautoExpandDelay
は、展開と折りたたみ両方に適用されるため、このデフォルト動作を直接変更するAPIは提供されていません。
自動展開がアニメーションしない
考えられる原因
- animatedプロパティがfalseに設定されている
QTreeView
は、展開・折りたたみ時にアニメーション表示を行うかどうかを設定できます。デフォルトではtrue
ですが、明示的にfalse
に設定されているとアニメーションは行われません。
トラブルシューティング
- setAnimated(true)の確認
treeView->setAnimated(true);
が設定されているか確認してください。
モデルの変更時に自動展開の挙動がおかしい
考えられる原因
- モデルの変更通知が正しくない
QAbstractItemModel
を継承してカスタムモデルを作成している場合、データの変更(子アイテムの追加・削除など)時にbeginInsertRows()
,endInsertRows()
,beginRemoveRows()
,endRemoveRows()
などのメソッドを正しく呼び出していないと、ビューがデータの変更を認識せず、自動展開の挙動に影響を与える可能性があります。
- モデル実装の確認
- カスタムモデルを使用している場合は、Qtのモデル/ビュープログラミングガイドラインに従って、変更通知シグナルを正しく発行しているか入念に確認してください。特に、子アイテムの有無に影響する変更の場合は重要です。
一般的なデバッグのヒント
- イベントフィルタ
QTreeView
にinstallEventFilter()
を使ってイベントフィルタをインストールし、QEvent::MouseMove
やQEvent::HoverMove
などのマウス関連イベントがどのように処理されているかを監視することで、イベントが意図しない形で消費されていないか確認できます。 - デバッグ出力
qDebug()
を使って、autoExpandDelay
の値や、マウスイベントが発生しているか、モデルのhasChildren()
が期待通りかをログに出力し、動作を追跡します。
QTreeView::autoExpandDelay
は、QTreeView
ウィジェットのプロパティであり、特定のメソッドを使って設定します。ここでは、基本的な使い方と、より実践的な例をいくつか示します。
例1: 基本的な設定と動作確認
この例では、QStandardItemModel
を使用して簡単なツリー構造を作成し、autoExpandDelay
を設定してマウスオーバーによる自動展開の挙動を確認します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel> // ツリー構造を表現するためのモデル
#include <QStandardItem> // モデルのアイテム
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
// QTreeViewインスタンスの作成
QTreeView treeView;
// QStandardItemModelの作成と設定
QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(&treeView);
model->setHorizontalHeaderLabels({"アイテム名"}); // ヘッダーを設定
// ルートアイテム(表示されないが、ツリーの基点となる)
QStandardItem *rootItem = model->invisibleRootItem();
// 親アイテム1の作成
QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("親アイテム 1");
rootItem->appendRow(parent1);
// 親アイテム1の子アイテム
QStandardItem *child1_1 = new QStandardItem("子アイテム 1.1");
parent1->appendRow(child1_1);
QStandardItem *child1_2 = new QStandardItem("子アイテム 1.2");
parent1->appendRow(child1_2);
// 親アイテム1.2の子アイテム(さらに深い階層)
QStandardItem *grandchild1_2_1 = new QStandardItem("孫アイテム 1.2.1");
child1_2->appendRow(grandchild1_2_1);
// 親アイテム2の作成
QStandardItem *parent2 = new QStandardItem("親アイテム 2");
rootItem->appendRow(parent2);
// 親アイテム2の子アイテム
QStandardItem *child2_1 = new QStandardItem("子アイテム 2.1");
parent2->appendRow(child2_1);
// ツリービューにモデルを設定
treeView.setModel(model);
// autoExpandDelayを500ミリ秒に設定(0.5秒)
// マウスカーソルをアイテムの上に0.5秒以上置くと、そのアイテムが自動的に展開されます。
treeView.setAutoExpandDelay(500);
// ツリービューのタイトル設定
treeView.setWindowTitle("QTreeView Auto Expand Delay Demo");
treeView.resize(400, 300); // ウィンドウサイズの設定
// ツリービューの表示
treeView.show();
return a.exec();
}
解説
QApplication
を初期化します。QTreeView
のインスタンスを作成します。QStandardItemModel
を作成し、QStandardItem
を使って階層的なデータ(親、子、孫アイテム)を追加します。invisibleRootItem()
は、ユーザーには見えないが、ツリーの最上位の論理的なルートとなるアイテムです。treeView.setModel(model);
で、作成したモデルをツリービューに設定します。treeView.setAutoExpandDelay(500);
がこの機能の核心です。これにより、マウスカーソルがアイテムの上に500ミリ秒(0.5秒)以上留まると、そのアイテムが自動的に展開されます。- ツリービューを表示し、アプリケーションのイベントループを開始します。
このコードを実行し、マウスカーソルを「親アイテム 1」や「子アイテム 1.2」の上にしばらく置いてみてください。手動でクリックしなくても、自動的に展開されるのが確認できます。
例2: 自動展開の有効/無効の切り替え
autoExpandDelay
は、プログラムの実行中に変更することができます。例えば、設定ダイアログからユーザーが自動展開を有効にしたり無効にしたりできるようにする場合に役立ちます。
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QCheckBox>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
class MainWindow : public QMainWindow {
Q_OBJECT // シグナルとスロットを使用するために必要
public:
MainWindow(QWidget *parent = nullptr) : QMainWindow(parent) {
setWindowTitle("Auto Expand Delay Control");
// UI要素の作成
treeView = new QTreeView(this);
model = new QStandardItemModel(this);
model->setHorizontalHeaderLabels({"ファイル/フォルダ"});
// モデルにダミーデータを追加
setupModelData();
treeView->setModel(model);
// チェックボックスで自動展開を有効/無効にする
autoExpandCheckBox = new QCheckBox("自動展開を有効にする", this);
// 初期状態は有効に設定
autoExpandCheckBox->setChecked(true);
treeView->setAutoExpandDelay(500); // デフォルトの遅延時間を設定
// スピンボックスで遅延時間を調整する
delaySpinBox = new QSpinBox(this);
delaySpinBox->setRange(0, 5000); // 0ミリ秒から5000ミリ秒(5秒)まで
delaySpinBox->setSingleStep(100); // 100ミリ秒単位で増減
delaySpinBox->setValue(500); // 初期値は500ミリ秒
QLabel *delayLabel = new QLabel("自動展開遅延 (ms):", this);
// シグナルとスロットの接続
connect(autoExpandCheckBox, &QCheckBox::toggled, this, &MainWindow::toggleAutoExpand);
connect(delaySpinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
this, &MainWindow::changeAutoExpandDelay);
// レイアウトの設定
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout;
layout->addWidget(autoExpandCheckBox);
QHBoxLayout *delayLayout = new QHBoxLayout;
delayLayout->addWidget(delayLabel);
delayLayout->addWidget(delaySpinBox);
delayLayout->addStretch(); // 右側にスペースを追加
layout->addLayout(delayLayout);
layout->addWidget(treeView);
QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
centralWidget->setLayout(layout);
setCentralWidget(centralWidget);
resize(600, 400);
}
private slots:
void toggleAutoExpand(bool checked) {
if (checked) {
// チェックされたら、スピンボックスの値で遅延を設定
treeView->setAutoExpandDelay(delaySpinBox->value());
} else {
// チェックが外されたら、自動展開を無効にする(-1を設定)
treeView->setAutoExpandDelay(-1);
}
}
void changeAutoExpandDelay(int delay) {
// チェックボックスが有効な場合のみ遅延を更新
if (autoExpandCheckBox->isChecked()) {
treeView->setAutoExpandDelay(delay);
}
}
private:
void setupModelData() {
QStandardItem *rootItem = model->invisibleRootItem();
QStandardItem *folder1 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "フォルダ A");
rootItem->appendRow(folder1);
folder1->appendRow(new QStandardItem(QIcon::fromTheme("text-x-generic"), "ファイル A-1.txt"));
folder1->appendRow(new QStandardItem(QIcon::fromTheme("text-x-generic"), "ファイル A-2.txt"));
QStandardItem *subFolder1 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "サブフォルダ A-X");
folder1->appendRow(subFolder1);
subFolder1->appendRow(new QStandardItem(QIcon::fromTheme("text-x-generic"), "ファイル A-X-1.doc"));
QStandardItem *folder2 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "フォルダ B");
rootItem->appendRow(folder2);
folder2->appendRow(new QStandardItem(QIcon::fromTheme("text-x-generic"), "ファイル B-1.jpg"));
folder2->appendRow(new QStandardItem(QIcon::fromTheme("audio-x-generic"), "ファイル B-2.mp3"));
QStandardItem *folder3 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "フォルダ C (深い階層)");
rootItem->appendRow(folder3);
QStandardItem *sub1 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "Sub 1");
folder3->appendRow(sub1);
QStandardItem *sub2 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "Sub 2");
sub1->appendRow(sub2);
QStandardItem *sub3 = new QStandardItem(QIcon::fromTheme("folder"), "Sub 3");
sub2->appendRow(sub3);
sub3->appendRow(new QStandardItem(QIcon::fromTheme("application-x-executable"), "最終ファイル.exe"));
}
QTreeView *treeView;
QStandardItemModel *model;
QCheckBox *autoExpandCheckBox;
QSpinBox *delaySpinBox;
};
#include "main.moc" // mocファイルを含める
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
MainWindow window;
window.show();
return a.exec();
}
解説
QMainWindow
を継承したMainWindow
クラスを作成し、メインウィンドウとして使用します。QTreeView
、QStandardItemModel
、QCheckBox
(自動展開の有効/無効)、QSpinBox
(遅延時間の設定)などのUI要素を配置します。setupModelData()
メソッドで、より現実的なツリー構造(フォルダとファイルに見立てたアイテム)を作成します。QIcon::fromTheme("folder")
などでアイコンを追加し、視覚的に分かりやすくしています。autoExpandCheckBox
のtoggled
シグナルをtoggleAutoExpand
スロットに接続します。toggleAutoExpand(bool checked)
スロットでは、チェックボックスがchecked
の場合、delaySpinBox
の値でsetAutoExpandDelay()
を呼び出します。- チェックボックスが
false
(チェック解除)の場合、setAutoExpandDelay(-1)
を呼び出し、自動展開を無効にします。
delaySpinBox
のvalueChanged
シグナルをchangeAutoExpandDelay
スロットに接続します。changeAutoExpandDelay(int delay)
スロットでは、チェックボックスが有効な場合のみ、delay
の値でsetAutoExpandDelay()
を更新します。これにより、自動展開が無効のときにスピンボックスを操作してもツリービューの挙動が変わらないようにします。
この例では、ユーザーがチェックボックスを切り替えることで自動展開をオン/オフでき、スピンボックスで遅延時間をリアルタイムに調整できるインタラクティブな機能を提供しています。
QTreeView::autoExpandDelay
は、マウスカーソルがアイテム上に静止したときに自動的に展開するという特定のマウスオーバー展開ロジックを提供します。しかし、より複雑な動作や、autoExpandDelay
では対応できないケース(例: 展開のみで折りたたまない、特定の条件で展開する、マウス以外のイベントで展開する)では、以下の代替方法を検討します。
イベントフィルタを使用したカスタム自動展開
これは最も柔軟なアプローチであり、QTreeView
にQEvent::MouseMove
イベントを監視するイベントフィルタをインストールし、独自のタイマーとロジックで展開を制御します。
概念
QObject
を継承したカスタムクラス(例:AutoExpandEventFilter
)を作成し、eventFilter(QObject *watched, QEvent *event)
メソッドをオーバーライドします。- このメソッド内で、
watched
がQTreeView
であり、event
がQEvent::MouseMove
であるかをチェックします。 QMouseEvent
からマウスの現在位置を取得し、QTreeView::indexAt(const QPoint &pos)
を使用して、その位置にあるアイテムのQModelIndex
を取得します。- もし有効なインデックスが取得でき、それが以前ホバーしていたアイテムと異なる場合、以前のタイマーを停止し、新しいタイマーを開始します。
- タイマーがタイムアウトしたときに、
QTreeView::expand(const QModelIndex &index)
メソッドを呼び出して、該当のアイテムを展開します。 QTreeView::isExpanded(const QModelIndex &index)
を使って、既に展開されているアイテムは再展開しないように制御できます(これにより、autoExpandDelay
のデフォルト動作である「展開済みのものを折りたたむ」という挙動を回避できます)。
コード例の骨格
#include <QObject>
#include <QTreeView>
#include <QEvent>
#include <QMouseEvent>
#include <QTimer>
#include <QDebug> // デバッグ用
class AutoExpandEventFilter : public QObject {
Q_OBJECT
public:
explicit AutoExpandEventFilter(QTreeView *treeView, int delayMs = 500, QObject *parent = nullptr)
: QObject(parent), m_treeView(treeView), m_delayMs(delayMs), m_lastHoveredIndex() {
m_timer = new QTimer(this);
m_timer->setSingleShot(true); // 一度だけ発火
connect(m_timer, &QTimer::timeout, this, &AutoExpandEventFilter::expandCurrentItem);
// マウスのトラッキングを有効にする
m_treeView->setMouseTracking(true);
}
protected:
bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override {
if (watched == m_treeView && event->type() == QEvent::MouseMove) {
QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(event);
QModelIndex currentIndex = m_treeView->indexAt(mouseEvent->pos());
if (currentIndex.isValid()) {
if (currentIndex != m_lastHoveredIndex) {
// 以前のホバーと異なるアイテムの場合
m_timer->stop(); // 以前のタイマーを停止
m_lastHoveredIndex = currentIndex;
// アイテムに子があり、かつまだ展開されていない場合のみタイマーを開始
if (m_treeView->model()->hasChildren(currentIndex) && !m_treeView->isExpanded(currentIndex)) {
m_timer->start(m_delayMs);
qDebug() << "Start timer for:" << m_treeView->model()->data(currentIndex).toString();
}
}
} else {
// 有効なアイテム上にマウスがない場合
m_timer->stop();
m_lastHoveredIndex = QModelIndex(); // 無効なインデックスにリセット
}
} else if (watched == m_treeView && event->type() == QEvent::Leave) {
// マウスがツリービューから離れた場合
m_timer->stop();
m_lastHoveredIndex = QModelIndex();
qDebug() << "Mouse left tree view. Timer stopped.";
}
return QObject::eventFilter(watched, event); // イベントを通常の処理に渡す
}
private slots:
void expandCurrentItem() {
if (m_lastHoveredIndex.isValid() &&
m_treeView->model()->hasChildren(m_lastHoveredIndex) &&
!m_treeView->isExpanded(m_lastHoveredIndex)) {
m_treeView->expand(m_lastHoveredIndex);
qDebug() << "Expanded:" << m_treeView->model()->data(m_lastHoveredIndex).toString();
}
}
private:
QTreeView *m_treeView;
int m_delayMs;
QTimer *m_timer;
QModelIndex m_lastHoveredIndex;
};
// 使用例 (main関数内など):
// QTreeView *treeView = new QTreeView;
// AutoExpandEventFilter *filter = new AutoExpandEventFilter(treeView, 750); // 750ms遅延
// treeView->installEventFilter(filter);
利点
- タイマーの遅延時間を動的に変更するなどの柔軟な対応が可能です。
- 展開のトリガーとなる条件を完全に制御できます(例: 特定のモデルインデックスのみで展開する、特定のプロパティを持つアイテムのみ展開する)。
QTreeView::autoExpandDelay
が持つ「展開済みのアイテムを折りたたむ」という動作を回避し、「展開のみ」の挙動を実現できます。
考慮事項
- マウスイベントの処理には注意が必要で、パフォーマンスに影響を与えないように最適化する必要があります。
autoExpandDelay
を使用するよりもコード量が多く、複雑になります。
QStyledItemDelegateを使用した視覚的なフィードバックと手動展開の組み合わせ
これは自動展開の直接的な代替ではありませんが、ユーザーに「このアイテムは展開可能である」というヒントを与えつつ、明示的なクリックを促す方法です。
概念
QStyledItemDelegate
をサブクラス化し、paint()
メソッドをオーバーライドします。paint()
内で、option.state
にQStyle::State_MouseOver
が含まれているかをチェックします。- マウスがホバーしているアイテムに子がある場合、そのアイテムの背景色を変更したり、展開可能なことを示す小さなアイコンやテキストを追加したりして、視覚的なフィードバックを提供します。
- 展開自体はユーザーのクリック(通常通り展開インジケータをクリック)に委ねます。
コード例の骨格
#include <QStyledItemDelegate>
#include <QPainter>
#include <QApplication> // QApplication::style()のために必要
class CustomExpandDelegate : public QStyledItemDelegate {
Q_OBJECT
public:
explicit CustomExpandDelegate(QObject *parent = nullptr) : QStyledItemDelegate(parent) {}
void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override {
QStyleOptionViewItem opt = option;
initStyleOption(&opt, index);
// アイテムに子があり、かつマウスがホバーしている場合
if (index.model()->hasChildren(index) && (opt.state & QStyle::State_MouseOver)) {
// 背景色を変更
painter->fillRect(opt.rect, QColor(220, 230, 255)); // 薄い青色など
// 必要であれば、ここに展開を促す小さなアイコンなどを描画
// 例: QIcon(":/icons/expand_hint.png").paint(painter, opt.rect, Qt::AlignRight | Qt::AlignVCenter);
}
// 基本的な描画は親クラスに任せる
QApplication::style()->drawControl(QStyle::CE_ItemViewItem, &opt, painter, option.widget);
}
};
// 使用例:
// QTreeView *treeView = new QTreeView;
// treeView->setItemDelegate(new CustomExpandDelegate(treeView));
// treeView->setMouseTracking(true); // ホバーイベントのために必須
利点
- 自動展開による意図しない動作のリスクがありません。
- ユーザーに明示的な操作を促しつつ、視覚的な手がかりを提供できます。
考慮事項
- 見た目のカスタマイズが必要になります。
- 自動展開そのものを置き換えるものではなく、ユーザーのクリック操作は必要です。
モデルの変更時に強制的に展開する
特定のデータが追加されたときに、関連するノードを自動的に展開したい場合は、モデルの変更通知(シグナル)をQTreeView
のexpand()
スロットに接続する方法があります。
概念
- モデルが
rowsInserted
やdataChanged
などのシグナルを発行したときに、その変更に関連するQModelIndex
を取得します。 - その
QModelIndex
に対応するアイテムが展開可能であれば、QTreeView::expand(index)
またはQTreeView::expandRecursively(index)
を呼び出します。
コード例の骨格
// 例えば、メインウィンドウクラスやツリービューを管理するクラス内で
connect(myModel, &QStandardItemModel::rowsInserted, [this](const QModelIndex &parent, int first, int last){
// 新しい行が挿入された親アイテムを展開する
if (parent.isValid()) {
treeView->expand(parent);
}
// もし、挿入された新しいアイテム自体を自動的に展開したい場合
for (int row = first; row <= last; ++row) {
QModelIndex insertedIndex = myModel->index(row, 0, parent);
if (myModel->hasChildren(insertedIndex)) {
treeView->expand(insertedIndex); // 新しく追加された子アイテムを持つノードを展開
}
}
});
利点
- ユーザー操作とは独立した展開が可能です。
- データの追加や変更と連動して、関連するビューを自動的に更新・展開できます。
- 特に大量のデータが動的に追加される場合、パフォーマンスに影響が出ないように注意が必要です。
- 展開の条件を適切に設定しないと、意図しない大量のノードが展開され、UIが煩雑になる可能性があります。