もう迷わない！QTreeView::viewportEvent()の代替メソッドと最適な使い分け
2025-05-26
Qtプログラミングにおけるbool QTreeView::viewportEvent(QEvent *event)は、QTreeViewクラスの保護された仮想関数です。
これは、QAbstractScrollAreaクラス（QTreeViewが継承しているクラス）から再実装されたイベントハンドラであり、ビューポート（表示領域）で発生する様々なイベントを処理するために使用されます。
役割と目的
- イベントのフィルタリング: イベントを処理した場合は
trueを返し、それ以上イベントを伝播させないようにします。イベントを処理しなかった場合はfalseを返し、親クラスのイベントハンドラにイベントを渡します。 - カスタム動作の実現: 通常、Qtはビューポートイベントを内部で処理して、ツリービューの描画やレイアウトを適切に行います。しかし、開発者が特定のビューポートイベントに対してカスタムな動作を追加したい場合、この関数をオーバーライドして独自のロジックを実装することができます。
- ビューポート関連のイベント処理:
QTreeViewの表示領域（ツリーのアイテムが表示される部分）で発生するイベント（例: サイズ変更、スクロール、マウスの出入りなど）を捕らえ、適切に処理するために使用されます。
例えば、QTreeViewのビューポートにマウスカーソルが入ったときに特別な処理を行いたい場合、以下のようにオーバーライドできます。
#include <QTreeView>
#include <QEvent>
#include <QDebug>
class MyTreeView : public QTreeView
{
public:
MyTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}
protected:
bool viewportEvent(QEvent *event) override {
if (event->type() == QEvent::Enter) {
qDebug() << "マウスカーソルがビューポートに入りました！";
// ここにカスタムな処理を記述
return true; // イベントを処理したので、これ以上伝播させない
}
// その他のイベントは親クラスのハンドラに任せる
return QTreeView::viewportEvent(event);
}
};
// 使用例
// MyTreeView *treeView = new MyTreeView();
// treeView->setModel(...);
// treeView->show();
QTreeView::viewportEvent()は、Qtのイベント処理機構の一部であり、通常は直接オーバーライドすることは稀です。そのため、この関数自体に起因する「一般的なエラー」というよりは、イベント処理全体やカスタムビューの描画に関する誤解や実装ミスが原因となることが多いです。
以下に、viewportEvent()に関連する（またはその文脈で発生しうる）一般的なエラーとそのトラブルシューティングを説明します。
viewportEvent()をオーバーライドしても期待通りに動作しない
エラーの原因
- 親クラスの呼び出し忘れ
カスタム処理を行った後、またはカスタム処理を行わないパスで、QTreeView::viewportEvent(event)を呼び出していない。これにより、Qtが本来行うべきデフォルトのイベント処理が行われず、描画がおかしくなったり、スクロールが機能しなくなったりします。 - イベントの種類の誤認
処理したいイベントのQEvent::Typeが間違っている。 - イベントの不適切な伝播
viewportEvent()内でtrueを返すべきなのにfalseを返したり、逆にfalseを返すべきなのにtrueを返している。
トラブルシューティング
- 親クラスの呼び出し
カスタム処理の後に、必ずQTreeView::viewportEvent(event);を呼び出すようにします。これにより、デフォルトの描画やスクロール動作が保証されます。 - 戻り値の確認
- イベントを完全に処理し、それ以上伝播させたくない場合
return true; - イベントを処理せず、親クラスに処理を任せたい場合（またはカスタム処理後に親クラスにも処理させたい場合）
return QTreeView::viewportEvent(event);
- イベントを完全に処理し、それ以上伝播させたくない場合
- デバッグ出力の活用
viewportEvent()の冒頭でqDebug() << event->type();のように出力し、実際にどのようなイベントが届いているかを確認します。
スクロールやサイズ変更時にビューが正しく更新されない
エラーの原因
- update()やviewport()->update()の呼び出し忘れ
ビューポートの内容が変更されたにも関わらず、再描画をトリガーするupdate()系関数を呼び出していない。 - イベント処理の不足
viewportEvent()内で、ビューの再描画が必要なイベント（例:QEvent::Resize、QEvent::Scroll）に対して適切な処理を行っていない。
トラブルシューティング
- viewport()->update()またはupdate()の呼び出し
ビューポートの内容が変わった場合は、viewport()->update()を呼び出して再描画を促します。場合によってはupdate()だけで十分なこともありますが、ビューポートに特化した変更の場合はviewport()->update()がより適切です。 - QEvent::ResizeやQEvent::Scrollのハンドリング
これらのイベントが来た際に、ビューポートの再描画が必要なカスタム要素があれば、それらの描画ロジックを再実行するようにします。
パフォーマンスの問題（特に複雑なカスタム描画の場合）
エラーの原因
- 不要な再描画の繰り返し
実際に描画が必要な領域だけではなく、ビューポート全体を不必要に再描画している。 - viewportEvent()内で重い処理を実行
イベントが発生するたびに、負荷の高い計算や描画処理を行っている。viewportEvent()は頻繁に呼び出される可能性があるため、これはパフォーマンスに大きな影響を与えます。
トラブルシューティング
- キャッシュの使用
繰り返し計算される結果や描画データはキャッシュし、必要に応じて無効化して再計算するようにします。 - 部分的な再描画
viewport()->update(QRect)のように、更新が必要な特定の矩形領域のみを再描画するようにします。QAbstractScrollArea::setViewportMargins()なども考慮に入れると良いでしょう。 - 遅延処理
重い処理は、タイマーや別のスレッドを使って遅延実行することを検討します。 - 処理の最適化
viewportEvent()内で実行される処理は、できるだけ軽量にするべきです。
マウスイベントが期待通りに処理されない
エラーの原因
- フォーカスの問題
マウスイベントを処理する前に、setFocus()やsetMouseTracking(true)が適切に設定されていない。 - マウスイベントの横取り
viewportEvent()でマウスイベントを処理し、trueを返してしまったために、他のマウスイベントハンドラ（例:mousePressEvent、mouseMoveEvent）が呼ばれなくなっている。
トラブルシューティング
- setMouseTracking(true)
mouseMoveEvent()がボタンが押されていない状態でも呼ばれるようにするには、setMouseTracking(true)を呼び出す必要があります。 - mousePressEventなどのオーバーライド検討
ほとんどのマウスイベントは、mousePressEvent()、mouseMoveEvent()、mouseReleaseEvent()といったより具体的なイベントハンドラで処理する方が適切です。viewportEvent()でマウスイベントを処理する必要があるのは、非常に特殊なケースに限られます。 - イベントの伝播の再確認
マウスイベントを完全に処理したい場合を除き、return QTreeView::viewportEvent(event);として親クラスにイベントを渡すようにします。
エラーの原因
eventポインタが指すQEventオブジェクトを、目的のイベントタイプにキャストする際に、安全でないキャスト（例:static_cast）を使用し、実際には異なるタイプのイベントオブジェクトだった。
- qobject_castまたはdynamic_castの使用
常に安全なキャストを使用し、キャストが失敗した場合の処理を考慮に入れます。例えば、QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(event);の代わりに、QMouseEvent *mouseEvent = qobject_cast<QMouseEvent*>(event);を使用します。これにより、キャストに失敗した場合はnullptrが返され、安全に処理できます。
例1：マウスカーソルのビューポート出入りを検出する
この例では、マウスカーソルがQTreeViewのビューポートに入った時と出た時にデバッグメッセージを表示します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QEvent>
#include <QDebug> // qDebug() のために必要
// カスタムQTreeViewクラス
class MyCustomTreeView : public QTreeView
{
public:
MyCustomTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}
protected:
// viewportEvent() をオーバーライド
bool viewportEvent(QEvent *event) override {
// イベントタイプによって処理を分岐
if (event->type() == QEvent::Enter) {
// マウスカーソルがビューポートに入った時
qDebug() << "ビューポートにマウスカーソルが入りました！";
// このイベントを処理したので true を返す
return true;
} else if (event->type() == QEvent::Leave) {
// マウスカーソルがビューポートから出た時
qDebug() << "ビューポートからマウスカーソルが出ました！";
// このイベントを処理したので true を返す
return true;
}
// その他のイベントは、基底クラスのviewportEvent()に処理を委譲する
// これを忘れると、スクロールや選択などのデフォルト動作がおかしくなる可能性がある
return QTreeView::viewportEvent(event);
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
// モデルの作成 (QTreeViewにはモデルが必要)
QStandardItemModel model;
QStandardItem *parentItem = model.invisibleRootItem();
for (int i = 0; i < 5; ++i) {
QStandardItem *item = new QStandardItem(QString("Item %0").arg(i));
parentItem->appendRow(item);
for (int j = 0; j < 3; ++j) {
QStandardItem *childItem = new QStandardItem(QString("Child %0-%1").arg(i).arg(j));
item->appendRow(childItem);
}
}
// カスタムQTreeViewのインスタンス化
MyCustomTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("viewportEvent() Example");
treeView.resize(400, 300);
treeView.show();
return a.exec();
}
解説
- それ以外のイベントについては、
QTreeView::viewportEvent(event)を呼び出して基底クラスのデフォルト処理を実行させています。これを怠ると、ツリービューの基本的な機能（スクロール、アイテムの選択など）が動作しなくなります。 QEvent::EnterとQEvent::Leaveの場合にデバッグメッセージを出力し、trueを返してそのイベントが処理済みであることをQtに伝えています。event->type()を使ってイベントの種類を判別しています。viewportEvent(QEvent *event)関数をprotected内でoverrideしています。MyCustomTreeViewクラスを作成し、QTreeViewを継承しています。
例2：ビューポートのサイズ変更を検出し、特定の描画を調整する（概念的な例）
この例は、QTreeViewのビューポートのサイズが変更されたときに、何かカスタムな描画を調整する必要がある場合の概念を示します。実際の描画はpaintEvent()などで実装されますが、viewportEvent()はそのトリガーとして使われます。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QEvent>
#include <QResizeEvent> // QResizeEvent のために必要
#include <QDebug>
class MyCustomTreeViewWithResizeHandling : public QTreeView
{
public:
MyCustomTreeViewWithResizeHandling(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}
protected:
bool viewportEvent(QEvent *event) override {
if (event->type() == QEvent::Resize) {
// イベントを QResizeEvent にキャスト (安全なキャスト)
QResizeEvent *resizeEvent = static_cast<QResizeEvent*>(event);
qDebug() << "ビューポートのサイズが変更されました！"
<< "新しいサイズ:" << resizeEvent->size()
<< "古いサイズ:" << resizeEvent->oldSize();
// ここで、新しいビューポートサイズに基づいてカスタム描画ロジックを調整する
// 例: 特定の要素のレイアウトを再計算したり、再描画を強制したりする
// viewport()->update(); // 必要に応じて再描画をトリガー
// イベントを処理したので true を返す
// ただし、このイベントは他のウィジェットにも重要なので、
// 基底クラスにも伝播させたい場合は false を返すか、
// QTreeView::viewportEvent(event) を呼び出すかを慎重に検討する
// この場合、QTreeView 自身もサイズ変更を処理する必要があるため、通常は基底クラスに任せる
// または、処理後に QTreeView::viewportEvent(event) を呼び出す
}
// 基底クラスのハンドラに処理を委譲
return QTreeView::viewportEvent(event);
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QStandardItemModel model;
QStandardItem *parentItem = model.invisibleRootItem();
for (int i = 0; i < 5; ++i) {
parentItem->appendRow(new QStandardItem(QString("Item %0").arg(i)));
}
MyCustomTreeViewWithResizeHandling treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("viewportEvent() Resize Example");
treeView.resize(400, 300);
treeView.show();
return a.exec();
}
解説
- 重要な点
QEvent::Resizeは、ウィジェットのレイアウトや描画に直接影響するため、通常は基底クラス（QTreeView）にもその処理を委譲する必要があります。そのため、この例ではカスタム処理を行った後でもreturn QTreeView::viewportEvent(event);を呼び出しています。もしreturn true;としてしまうと、QTreeView本来のサイズ変更に伴うレイアウト更新などが正しく行われなくなる可能性があります。 - コメントで示しているように、サイズ変更に応じてカスタム描画のロジックを調整する場所となります。
static_cast<QResizeEvent*>(event)で、QEventポインタをより具体的なQResizeEventポインタにキャストしています。これにより、QResizeEvent固有のメソッド（size()やoldSize()）にアクセスできます。QEvent::Resizeタイプの場合に処理を行います。
この例では、特定のイベント（例えば、マウスの移動イベント）をビューポートで完全に「吸収」し、それ以上伝播させないようにする概念を示します。通常、これはmouseMoveEvent()などをオーバーライドする方が適切ですが、viewportEvent()でフィルタリングする可能性もゼロではありません。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QEvent>
#include <QMouseEvent> // QMouseEvent のために必要
#include <QDebug>
class MyFilteringTreeView : public QTreeView
{
public:
MyFilteringTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {
// マウス移動イベントを常に受け取るように設定 (通常は必要)
viewport()->setMouseTracking(true);
}
protected:
bool viewportEvent(QEvent *event) override {
// マウス移動イベントを例にとる
if (event->type() == QEvent::MouseMove) {
QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(event);
qDebug() << "ビューポートでマウス移動イベントを検出！ 位置:" << mouseEvent->pos();
// このイベントを「吸収」し、それ以上伝播させない
return true; // 重要: これ以降、QTreeViewのmouseMoveEvent()などは呼ばれない
}
// その他のイベントは基底クラスに委譲
return QTreeView::viewportEvent(event);
}
// 参考: この場合、以下の mouseMoveEvent は呼ばれなくなる
// void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) override {
// qDebug() << "mouseMoveEvent が呼ばれました！";
// QTreeView::mouseMoveEvent(event);
// }
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QStandardItemModel model;
QStandardItem *parentItem = model.invisibleRootItem();
for (int i = 0; i < 5; ++i) {
parentItem->appendRow(new QStandardItem(QString("Item %0").arg(i)));
}
MyFilteringTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("viewportEvent() Filtering Example");
treeView.resize(400, 300);
treeView.show();
return a.exec();
}
解説
- この例は、
viewportEvent()でイベントを「フィルタリング」する概念を示しますが、マウスイベントに関しては、通常はmousePressEvent()、mouseMoveEvent()、mouseReleaseEvent()といった専用のイベントハンドラをオーバーライドする方が適切で、コードの意図が明確になります。 QEvent::MouseMoveイベントを検出した場合にreturn true;を返しています。これにより、Qtのイベント伝播メカニズムにおいて、このイベントはここで処理され、それ以上上位のイベントハンドラ（例:mouseMoveEvent()や親ウィジェットのイベントハンドラ）には渡されません。viewport()->setMouseTracking(true);を呼び出すことで、マウスボタンが押されていない状態でもQEvent::MouseMoveイベントが発生するようにしています。
QTreeView::viewportEvent()をオーバーライドする際の重要なポイントは以下の通りです。
- 基底クラスの呼び出し
カスタム処理を行わないイベント、またはカスタム処理の後にデフォルトの動作も必要とするイベントについては、必ずreturn QTreeView::viewportEvent(event);を呼び出して基底クラスのハンドラに処理を委譲してください。これを怠ると、スクロール、選択、描画などの基本的なツリービューの機能が動作しなくなります。 - イベントの戻り値
- イベントを完全に処理し、それ以上伝播させたくない場合は
return true;。 - イベントを処理せず、親クラスや他のハンドラに処理を任せたい場合は
return false;、またはreturn QTreeView::viewportEvent(event);。
- イベントを完全に処理し、それ以上伝播させたくない場合は
- イベントの型変換
QEvent *eventは汎用的なポインタなので、特定のイベントタイプ（例:QMouseEvent、QResizeEvent）にアクセスするには、適切なキャストが必要です。static_castは危険を伴うため、qobject_castやdynamic_cast、またはevent->type()による厳密なチェックと組み合わせるのが安全です。 - 目的の明確化
ほとんどの場合、QTreeViewやQAbstractScrollAreaが提供するより具体的な仮想関数（例:paintEvent()、mousePressEvent()、keyPressEvent()）をオーバーライドする方が適切です。viewportEvent()は、これら個別のイベントハンドラでは対応できないような、より低レベルなビューポート全体のイベント処理が必要な場合に検討します。
より具体的なイベントハンドラをオーバーライドする
QTreeView（およびその基底クラスであるQAbstractScrollArea、QAbstractItemView、QWidget）は、様々な種類のイベントに対して、より具体的な仮想イベントハンドラを提供しています。多くの場合、viewportEvent()よりもこれらの関数をオーバーライドする方が適切です。
-
ドラッグ＆ドロップイベント
void dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override;void dragMoveEvent(QDragMoveEvent *event) override;void dropEvent(QDropEvent *event) override;- 用途
ツリービュー内でのアイテムのドラッグ＆ドロップや、外部からのドロップを許可する場合。
-
サイズ変更イベント
void resizeEvent(QResizeEvent *event) override;- 用途
ウィジェット自体のサイズが変更されたときに、内部のレイアウトや描画を調整する場合。viewportEvent()でQEvent::Resizeを処理する代わりにこちらを使用します。
-
描画イベント
void paintEvent(QPaintEvent *event) override;- 用途
ツリービューのカスタム描画（背景、グリッド線、特定のアイテムのハイライトなど）を行う場合。 - メリット
Qtの描画パイプラインに直接組み込まれており、効率的な再描画（例えば、更新が必要な領域のみを再描画）が可能です。
-
キーボードイベント
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override;void keyReleaseEvent(QKeyEvent *event) override;- 用途
矢印キーでの移動、Enterキーでのアクション実行など、キーボード入力に反応する場合。
-
void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override;void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) override;void mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) override;void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override;void wheelEvent(QWheelEvent *event) override;- 用途
クリック、ドラッグ、スクロールホイールなど、マウスに関連する操作に反応する場合。 - メリット
コードの意図が明確で、イベントオブジェクトも既に適切な型にキャストされているため扱いやすい。 - 例
特定のアイテム上で右クリックしたときにコンテキストメニューを表示するなど。
イベントフィルタを使用する
QObject::eventFilter()関数とQObject::installEventFilter()関数を使用して、任意のQObject（この場合はQTreeViewのビューポート）に送られるイベントを監視・フィルタリングできます。これは、QTreeViewを直接サブクラス化せずに特定のイベントを処理したい場合に特に便利です。
-
デメリット
イベントフィルタリングのロジックが分散する可能性があり、複雑なイベント処理には向かない場合があります。イベントをtrueで吸収しすぎると、元のウィジェットのデフォルト動作が損なわれる可能性もあります。 -
メリット
既存のクラスをサブクラス化せずに、特定のイベントを監視・変更できる柔軟性があります。複数のイベントフィルタをチェインすることも可能です。 -
例
#include <QApplication> #include <QTreeView> #include <QStandardItemModel> #include <QEvent> #include <QMouseEvent> #include <QDebug> class MyEventFilter : public QObject { Q_OBJECT // シグナル/スロットのために必要 public: explicit MyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {} protected: bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override { // watched が QTreeView のビューポートであることを確認 if (qobject_cast<QAbstractScrollArea::Viewport*>(watched)) { if (event->type() == QEvent::Enter) { qDebug() << "イベントフィルタ: ビューポートにマウスカーソルが入りました！"; return false; // イベントを処理しなかった（QTreeViewに渡す） } else if (event->type() == QEvent::MouseMove) { QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(event); qDebug() << "イベントフィルタ: マウス移動イベント at" << mouseEvent->pos(); // 必要ならここでイベントを完全に処理し、true を返す // return true; } } // それ以外のイベントや、対象でないオブジェクトの場合は基底クラスに委譲 return QObject::eventFilter(watched, event); } }; int main(int argc, char *argv[]) { QApplication a(argc, argv); QStandardItemModel model; // ... (モデルの作成は省略) QTreeView treeView; treeView.setModel(&model); MyEventFilter *filter = new MyEventFilter(&treeView); // treeViewを親にする treeView.viewport()->installEventFilter(filter); // ビューポートにフィルタをインストール treeView.setWindowTitle("Event Filter Example"); treeView.resize(400, 300); treeView.show(); return a.exec(); } #include "main.moc" // mocファイルを含める (MyEventFilterがQ_OBJECTのため) -
手順
QObjectを継承したクラスにeventFilter(QObject *watched, QEvent *event)関数を実装します。- この関数内で、
watchedオブジェクトが目的のビューポートであるかを確認し、event->type()でイベントの種類を判別します。 - イベントを処理した場合は
trueを返し、それ以上伝播させないようにします。処理しない場合はfalseを返し、イベントが通常のイベントハンドラに渡されるようにします。 QTreeViewのビューポート（treeView->viewport()）に対して、installEventFilter(this)（thisはイベントフィルタを実装したオブジェクト）を呼び出します。
ビューのデリゲートを使用する
QTreeViewはMVC（Model-View-Controller）パターンに基づいており、描画やエディタの機能は**デリゲート（Delegate）**によって提供されます。カスタムな描画やインラインエディタを提供したい場合は、QStyledItemDelegateを継承したカスタムデリゲートを作成し、QTreeView::setItemDelegate()またはQTreeView::setItemDelegateForColumn()で設定します。
- 提供される仮想関数
void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;QWidget *createEditor(QWidget *parent, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;void setEditorData(QWidget *editor, const QModelIndex &index) const override;void setModelData(QWidget *editor, QAbstractItemModel *model, const QModelIndex &index) const override;QSize sizeHint(const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;- 用途
アイテムごとのカスタム描画（アイコン、テキスト色、プログレスバーなど）や、カスタムエディタ（コンボボックス、カレンダーなど）を提供する場合。 - メリット
アイテムごとの描画と編集のロジックがカプセル化され、QTreeViewのコアな描画パイプラインに安全に統合されます。 - デメリット
ビューポート全体のイベントではなく、個々のアイテムの描画と編集に特化しています。
QPainterPathとQRegionをpaintEvent()で利用する
複雑なカスタム描画を行う場合、paintEvent()内でQPainterPathやQRegionを駆使して、描画領域を最適化し、効率的な描画を行うことができます。viewportEvent()でサイズ変更を検出し、その情報を使ってpaintEvent()内で描画パスや領域を再計算するといった連携はありえますが、直接的な代替というよりはpaintEvent()の機能を最大限に引き出す方法です。
- 用途
高度な視覚効果、非矩形の描画、特定の領域のみを効率的に更新する場合。
どの方法を選ぶべきか？
- ビューポート全体の描画ロジックを制御したいが、イベントフィルタや具体的なイベントハンドラでは不十分な場合
paintEvent()と連携してviewportEvent()をオーバーライドすることを検討しますが、その前にpaintEvent()単独でできることを最大限に試すべきです。 - 個々のアイテムの描画や編集をカスタマイズしたい場合
デリゲートを使用します。 - 既存のクラスをサブクラス化せずにイベントを監視・変更したい場合
イベントフィルタが有力な選択肢です。 - 特定の種類のイベントに反応したい場合（マウス、キーボード、サイズ変更など）
mousePressEvent()、keyPressEvent()、resizeEvent()など、より具体的なイベントハンドラをオーバーライドするのが最も直接的で推奨される方法です。
多くの場合、QTreeView::viewportEvent()を直接オーバーライドするよりも、これらの代替方法のいずれかを使用する方が、より堅牢で保守しやすいコードになります。viewportEvent()は、本当に「ビューポート全体のイベント処理」が必要な、非常に特殊な状況でのみ考慮すべきです。
QTreeView::viewportEvent()は、QAbstractScrollArea（QTreeViewの基底クラスの一つ）から継承された、ビューポート固有のイベントハンドラです。これは非常に低レベルなイベント処理メカニズムであり、多くの場合、より具体的で用途に適した代替方法が存在します。
以下に、viewportEvent()をオーバーライドする代わりに検討すべき、より一般的なQtのイベント処理メカニズムと描画関連の代替方法を説明します。
特定のイベントハンドラをオーバーライドする
Qtの多くのウィジェットは、特定の種類のイベントに対応する専用の保護された仮想関数を提供しています。これらをオーバーライドする方が、viewportEvent()ですべてのイベントを振り分けるよりもコードが明確になり、メンテナンスしやすくなります。
-
ドラッグ＆ドロップイベント
void dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override;void void dragMoveEvent(QDragMoveEvent *event) override;void dragLeaveEvent(QDragLeaveEvent *event) override;void dropEvent(QDropEvent *event) override;これらのイベントは、ドラッグ＆ドロップ操作に関連する処理を行うために使用されます。
-
サイズ変更イベント
void resizeEvent(QResizeEvent *event) override;ウィジェット（またはビューポート）のサイズが変更されたときに呼び出されます。レイアウトの調整や、サイズ変更に応じた内部データの再計算を行うのに適しています。
-
描画イベント
void paintEvent(QPaintEvent *event) override;ウィジェット（またはビューポート）の再描画が必要になったときに呼び出されます。viewportEvent()でQEvent::Paintを処理する代わりに、この関数をオーバーライドしてカスタム描画ロジックを実装します。QTreeViewの場合、アイテムの描画はQStyledItemDelegateなどを使って行う方が、ビューの描画とモデルの描画を分離できて良い設計になります。
-
キーボードイベント
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override;void keyReleaseEvent(QKeyEvent *event) override;キーが押されたり離されたりしたときに呼び出されます。QAbstractScrollAreaのビューポートは通常フォーカスを持たないため、viewportEvent()でキーイベントを処理しようとすると期待通りに動作しないことがあります。代わりに、QTreeView自体（または親ウィジェット）のkeyPressEvent()をオーバーライドすることを検討してください。
-
マウスイベント
void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override;void mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) override;void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) override;(要setMouseTracking(true))void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override;これらの関数は、マウスがウィジェット内（またはビューポート内）でクリック、リリース、移動、ダブルクリックされたときに呼び出されます。viewportEvent()でQEvent::MouseButtonPressなどをチェックするよりも、これらの関数を使う方が直接的です。
利点
- Qtのイベント処理メカニズムに沿った自然な方法。
- 特定のイベントに特化した情報（例：マウスの位置、キーコード）に簡単にアクセスできる。
- コードの意図がより明確になる。
QObject::eventFilter() を使用する
特定のウィジェット（またはオブジェクト）のイベントを横取りして処理したいが、そのウィジェットをサブクラス化してオーバーライドしたくない場合に非常に強力な方法です。
- イベントフィルタークラスの作成
QObjectを継承し、bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) overrideを実装するクラスを作成します。 - イベントフィルターのインストール
対象のウィジェット（例:QTreeViewのインスタンス、またはそのviewport()）に対してinstallEventFilter(this)のように呼び出します。
例
// イベントフィルタークラス
class MyEventFilter : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}
protected:
bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override {
// QTreeViewのビューポートからのイベントか確認
if (watched == static_cast<QTreeView*>(parent())->viewport()) {
if (event->type() == QEvent::MouseMove) {
QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(event);
qDebug() << "イベントフィルターでビューポートのマウス移動を検出！" << mouseEvent->pos();
// イベントを処理し、それ以上伝播させない
return true;
}
}
// 他のイベントは通常の処理に任せる
return QObject::eventFilter(watched, event);
}
};
// main関数やウィジェットのコンストラクタ内で
// MyCustomTreeView treeView; // または QTreeView treeView;
// MyEventFilter *filter = new MyEventFilter(&treeView); // 親をtreeViewにする
// treeView.viewport()->installEventFilter(filter);
利点
- 特定のイベントを「吸収」して、それ以上伝播させないことができる。
- 複数のウィジェットに対して同じイベントフィルターを適用できる。
- 対象のウィジェットをサブクラス化する必要がない。
注意点
viewportEvent()と同様に、イベントをtrueで返す場合は、そのイベントがそれ以上処理されないことに注意が必要です。QTreeViewのデフォルト動作を妨げないよう慎重に利用してください。
QAbstractItemViewのシグナルとスロットを活用する
QTreeViewはQAbstractItemViewを継承しており、ユーザーの操作に応じて多くの便利なシグナルを発行します。これらのシグナルをスロットに接続することで、カスタムのイベント処理を行うことができます。
void selectionChanged(const QItemSelection &selected, const QItemSelection &deselected);(選択が変更された時)void collapsed(const QModelIndex &index);void expanded(const QModelIndex &index);void pressed(const QModelIndex &index);void entered(const QModelIndex &index);(マウスがアイテムに入った時)void doubleClicked(const QModelIndex &index);void clicked(const QModelIndex &index);
例
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QDebug>
#include <QItemSelectionModel> // QItemSelectionModel のために必要
// main関数やウィジェットのコンストラクタ内で
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QStandardItemModel model;
// ... モデルにデータを追加 ...
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
// アイテムがクリックされた時に呼び出されるスロット
QObject::connect(&treeView, &QTreeView::clicked,
[](const QModelIndex &index) {
qDebug() << "アイテムがクリックされました:" << index.data().toString();
});
// アイテムにマウスカーソルが入った時に呼び出されるスロット
QObject::connect(&treeView, &QTreeView::entered,
[](const QModelIndex &index) {
qDebug() << "マウスがアイテムに入りました:" << index.data().toString();
});
// 選択が変更された時に呼び出されるスロット
QObject::connect(treeView.selectionModel(), &QItemSelectionModel::selectionChanged,
[](const QItemSelection &selected, const QItemSelection &deselected) {
if (!selected.indexes().isEmpty()) {
qDebug() << "新しいアイテムが選択されました:" << selected.indexes().first().data().toString();
}
});
treeView.setWindowTitle("Signals/Slots Example");
treeView.resize(400, 300);
treeView.show();
return a.exec();
}
利点
- コードがクリーンで、特定のユーザーインタラクションに焦点を当てやすい。
- アイテムレベルでのイベント処理が簡単。
- モデル/ビューフレームワークの意図に沿った、Qtらしいイベント処理。
QTreeView内のアイテムの描画や編集動作をカスタマイズしたい場合は、QStyledItemDelegate（またはその基底クラスQItemDelegate）を継承して使用します。
-
QWidget *createEditor(QWidget *parent, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;アイテムの編集時に使用されるカスタムエディタウィジェットを提供します。 -
void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;アイテムの描画ロジックをここに記述します。viewportEvent()で直接描画を試みるよりも、こちらの方法が推奨されます。
利点
- カスタムエディタによってユーザー入力の柔軟性が増す。
- アイテムごとの細かな描画制御が可能。
- ビューとモデルから描画ロジックを分離できるため、MVC（Model-View-Controller）パターンに沿った良い設計になる。
QTreeView::viewportEvent()は、QAbstractScrollAreaが提供する低レベルなイベントハンドラであり、スクロール領域のビューポート全体に対する汎用的なイベント処理が必要な場合に検討します。
しかし、ほとんどのユースケースでは、以下の代替方法の方が適切で、より良い設計、より読みやすいコード、より容易なメンテナンスが期待できます。
- アイテムの描画や編集のカスタマイズ
QStyledItemDelegateを実装する。 - アイテム固有のインタラクション
QAbstractItemViewのシグナルとスロットを利用する。 - ウィジェット間のイベント監視
QObject::eventFilter()を使用する。 - 特定のユーザー操作（クリック、キー入力など）
専用のイベントハンドラ（mousePressEvent、keyPressEventなど）をオーバーライドする。