QtのQTreeViewでアイテムをプログラムから選択する方法:setSelection() の使い方
void QTreeView::setSelection() は、QtのGUIフレームワークにおける QTreeView
クラスのメソッドの一つです。このメソッドは、ビュー(QTreeView
)内の現在の選択状態を設定するために使用されます。
より具体的に説明すると、このメソッドは以下の役割を果たします。
- プログラムによる制御
特定の条件やイベントに基づいて、ビューの選択状態を動的に変更したい場合に便利です。例えば、特定のデータが更新された際に、関連するアイテムを自動的に選択するといった処理が可能です。 - 複数のアイテムの選択
単一のアイテムだけでなく、複数のアイテムを同時に選択状態にすることができます。 - 選択範囲の変更
ユーザーがマウスやキーボード操作で行う選択とは別に、プログラムのコードから特定のアイテムやアイテムの範囲を選択状態にしたり、既存の選択状態をクリアしたりするために使用できます。
メソッドの形式
void QTreeView::setSelection(const QItemSelection &selection, QItemSelectionModel::SelectionFlags flags)
このメソッドは2つの引数を取ります。
const QItemSelection &selection
: これは、設定したい選択範囲を表すQItemSelection
オブジェクトへの定数参照です。QItemSelection
は、選択されたアイテムのモデルインデックス(QModelIndex
)のリストと、それらの選択状態(例えば、選択されているか、選択解除されているか)を保持します。QItemSelectionModel::SelectionFlags flags
: これは、既存の選択状態に対してどのように新しい選択を適用するかを指定するフラグです。主なフラグには以下のようなものがあります。QItemSelectionModel::Select
: 指定されたアイテムを選択状態にします。QItemSelectionModel::Deselect
: 指定されたアイテムの選択状態を解除します。QItemSelectionModel::Toggle
: 指定されたアイテムの選択状態を反転させます(選択されていれば解除、解除されていれば選択)。QItemSelectionModel::Clear
: 既存のすべての選択をクリアし、指定されたアイテムのみを選択状態にします。- これらのフラグは、ビット演算子(
|
)を使って組み合わせることも可能です。
使用例
例えば、モデル内の特定のインデックスのアイテムを選択したい場合、以下のようなコードになります。
QModelIndex index = model->index(row, column, parent); // 選択したいアイテムのインデックスを取得
QItemSelection selection(index, index); // 選択範囲を作成(開始インデックスと終了インデックスが同じ場合は単一のアイテム)
treeView->setSelection(selection, QItemSelectionModel::Select); // ビューに選択を設定
-
無効な QModelIndex の使用
- エラー
QItemSelection
に含まれるQModelIndex
が、現在のモデルに対して無効である場合、setSelection()
は何もしないか、予期しない動作を引き起こす可能性があります。 - 原因
- 存在しない行や列のインデックスを指定している。
- 間違った親インデックスを指定している。
- モデルが変更された後に、古いインデックスを使用している。
- トラブルシューティング
QModelIndex::isValid()
を使用して、インデックスが有効であることを確認してください。- インデックスを取得する際に、正しいモデルと親インデックスを使用していることを確認してください。
- モデルが変更される可能性がある場合は、変更後に再度インデックスを取得するようにしてください。
- エラー
-
不正な QItemSelection の作成
- エラー
QItemSelection
オブジェクトの作成方法が誤っていると、意図した範囲が選択されないことがあります。 - 原因
- 開始インデックスと終了インデックスの指定が逆になっている(開始行が終了行より大きいなど)。
- 異なる親を持つインデックスを同じ選択範囲に含めている(通常は同じ親を持つアイテムの範囲を選択します)。
- トラブルシューティング
- 選択したい範囲を正確に把握し、正しい開始インデックスと終了インデックスを指定してください。
- 複数の異なる親を持つアイテムを選択したい場合は、複数の
QItemSelection
を作成し、それぞれに対してsetSelection()
を呼び出すか、適切なSelectionFlags
を使用してください。
- エラー
-
SelectionFlags の誤用
- エラー
SelectionFlags
を誤って使用すると、既存の選択状態が意図せず変更されたり、選択が正しく適用されなかったりする可能性があります。 - 原因
QItemSelectionModel::Clear
を意図せず使用して、既存の選択をすべて消去してしまった。- 複数のフラグを組み合わせる際に、意図しない組み合わせになっている。
- トラブルシューティング
- 各フラグの役割を正しく理解し、目的に合ったフラグを使用してください。
- 複数のフラグを組み合わせる場合は、論理的な組み合わせになっているか確認してください。例えば、
Select | Deselect
は意味がありません。
- エラー
-
選択モデルとの連携の不理解
- エラー
QTreeView
は内部的にQItemSelectionModel
を使用して選択状態を管理しています。setSelection()
はこのモデルを直接操作しますが、他の選択関連のメソッド(例えばselectionModel()->select()
,selectionModel()->deselect()
) との連携を理解していないと、予期しない結果になることがあります。 - 原因
setSelection()
とselectionModel()
のメソッドを混在させて使用し、選択状態の管理が複雑になっている。- シグナル (
selectionChanged()
) の処理が期待通りに行われていない。
- トラブルシューティング
QTreeView
の選択状態を操作する場合は、setSelection()
かselectionModel()
のメソッドのどちらかに統一して行うことを検討してください。- 選択が変更された際の処理(シグナルハンドラ)が正しく実装されているか確認してください。
- エラー
-
ビューの可視性とアイテムのロード
- エラー
非表示のアイテムや、まだロードされていないアイテムに対してsetSelection()
を呼び出しても、視覚的には選択が反映されないことがあります。 - 原因
- ビューがまだ表示されていない状態で選択を設定しようとしている。
- 遅延ロードされるモデルで、選択しようとしているアイテムがまだロードされていない。
- トラブルシューティング
- ビューが表示された後で選択を設定するようにしてください。
- 遅延ロードされるモデルの場合は、アイテムがロード完了後に選択を設定する仕組みを検討してください(例えば、ロード完了のシグナルを利用する)。
- エラー
-
モデルのデータ変更との不整合
- エラー
setSelection()
で選択を設定した後、モデルのデータ構造が変更されると、選択が不正なアイテムを指してしまう可能性があります。 - 原因
- 行や列の挿入・削除後に、古いインデックスに基づいた選択を維持しようとしている。
- モデルの並べ替えやフィルタリング後に、元のインデックスに基づいた選択を維持しようとしている。
- トラブルシューティング
- モデルのデータが変更された場合は、必要に応じて選択状態をクリアするか、新しいインデックスに基づいて再度選択を設定するようにしてください。
QAbstractItemModel
のrowsAboutToBeRemoved()
,rowsInserted()
,modelReset()
などのシグナルを利用して、モデルの変更を検知し、適切な処理を行ってください。
- エラー
例1: 単一のアイテムを選択する
この例では、QTreeView
に表示されているモデルの特定の行と列のアイテムをプログラムから選択します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QItemSelection>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
// 標準アイテムモデルを作成
QStandardItemModel model(5, 3);
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 3; ++col) {
model.setItem(row, col, new QStandardItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
// QTreeView を作成し、モデルを設定
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("QTreeView Example (Set Single Selection)");
treeView.show();
// 3行目、1列目のアイテムのインデックスを取得
QModelIndex indexToSelect = model.index(3, 1);
// 選択範囲を作成(開始インデックスと終了インデックスが同じ)
QItemSelection selection(indexToSelect, indexToSelect);
// QTreeView に選択を設定 (Select フラグを使用)
treeView.setSelection(selection, QItemSelectionModel::Select);
return a.exec();
}
説明
QStandardItemModel
で簡単なデータを作成し、QTreeView
に設定しています。model.index(3, 1)
で、選択したいアイテムのQModelIndex
を取得しています(0から始まるため、4番目の行、2番目の列のアイテムです)。QItemSelection
オブジェクトを作成し、開始インデックスと終了インデックスに同じindexToSelect
を指定することで、単一のアイテムの選択範囲を表しています。treeView.setSelection(selection, QItemSelectionModel::Select)
を呼び出し、作成した選択範囲をQTreeView
に設定しています。QItemSelectionModel::Select
フラグは、指定されたアイテムを選択状態にするために使用されます。
例2: 複数のアイテムを選択する
この例では、複数の離れたアイテムをプログラムから選択します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QItemSelection>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
QStandardItemModel model(5, 3);
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 3; ++col) {
model.setItem(row, col, new QStandardItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("QTreeView Example (Set Multiple Selections)");
treeView.show();
// 選択したい複数のインデックスを取得
QModelIndex index1 = model.index(0, 0);
QModelIndex index2 = model.index(2, 2);
QModelIndex index3 = model.index(4, 1);
// 複数の選択範囲を作成し、QItemSelection に追加
QItemSelection selection;
selection.select(index1, index1);
selection.select(index2, index2);
selection.select(index3, index3);
// QTreeView に選択を設定 (Select フラグを使用)
treeView.setSelection(selection, QItemSelectionModel::Select);
return a.exec();
}
説明
- 基本的なモデルとビューのセットアップは例1と同じです。
- 選択したい複数の
QModelIndex
を個別に取得しています。 - 空の
QItemSelection
オブジェクトを作成し、select()
メソッドを使って各インデックスに対応する選択範囲を追加しています。select()
メソッドは、指定された範囲(ここでは単一のアイテム)を選択状態にします。 treeView.setSelection()
を呼び出し、作成した複数の選択範囲を持つQItemSelection
オブジェクトを設定しています。
例3: ある範囲のアイテムを選択する
この例では、連続した範囲のアイテムをプログラムから選択します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QItemSelection>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
QStandardItemModel model(5, 3);
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 3; ++col) {
model.setItem(row, col, new QStandardItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("QTreeView Example (Set Range Selection)");
treeView.show();
// 選択したい範囲の開始インデックスと終了インデックスを取得
QModelIndex startIndex = model.index(1, 0); // 2行目、1列目
QModelIndex endIndex = model.index(3, 2); // 4行目、3列目
// 選択範囲を作成(開始インデックスと終了インデックスを指定)
QItemSelection selection(startIndex, endIndex);
// QTreeView に選択を設定 (Select フラグを使用)
treeView.setSelection(selection, QItemSelectionModel::Select);
return a.exec();
}
説明
- 基本的なモデルとビューのセットアップは同様です。
- 選択したい範囲の左上のインデックス (
startIndex
) と右下のインデックス (endIndex
) を取得しています。 QItemSelection
オブジェクトを作成する際に、これらの開始インデックスと終了インデックスをコンストラクタに渡すことで、指定された範囲のアイテムが選択されます。treeView.setSelection()
でこの選択範囲を設定しています。
例4: 既存の選択をクリアして新しい選択を設定する
この例では、まず既存の選択をクリアし、その後で新しいアイテムを選択します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QItemSelection>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication a(argc, argv);
QStandardItemModel model(5, 3);
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 3; ++col) {
model.setItem(row, col, new QStandardItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
treeView.setWindowTitle("QTreeView Example (Clear and Set Selection)");
treeView.show();
// まず、既存の選択をクリア
QItemSelection clearSelection;
treeView.setSelection(clearSelection, QItemSelectionModel::Clear);
// 新しく選択したいアイテムのインデックスを取得
QModelIndex newIndex = model.index(2, 1);
// 新しい選択範囲を作成
QItemSelection newSelection(newIndex, newIndex);
// 新しい選択を設定
treeView.setSelection(newSelection, QItemSelectionModel::Select);
return a.exec();
}
- 最初に、空の
QItemSelection
オブジェクトを作成し、QItemSelectionModel::Clear
フラグと共にsetSelection()
を呼び出すことで、既存の選択をすべて解除しています。 - その後は、例1と同様に、新しく選択したいアイテムのインデックスを取得し、
QItemSelection
を作成してsetSelection()
で設定しています。
QItemSelectionModel を直接操作する
QTreeView
は内部的に QItemSelectionModel
を使用して選択状態を管理しています。QTreeView::selectionModel()
メソッドを通じてこのモデルにアクセスし、直接操作することができます。
-
QItemSelectionModel::select()
- 指定された
QModelIndex
とQItemSelectionModel::SelectionFlags
に基づいて、選択状態を変更します。複数のアイテムや範囲を個別に選択したり、既存の選択に追加したり、選択を解除したりするのに便利です。
<!-- end list -->
QModelIndex index1 = model->index(0, 0); QModelIndex index2 = model->index(2, 2); QItemSelectionModel *selectionModel = treeView->selectionModel(); selectionModel->select(index1, QItemSelectionModel::Select); selectionModel->select(index2, QItemSelectionModel::Select);
- 指定された
-
- 指定された
QModelIndex
に対して、選択状態を解除します。
QModelIndex indexToDeselect = model->index(1, 1); QItemSelectionModel *selectionModel = treeView->selectionModel(); selectionModel->deselect(indexToDeselect, QItemSelectionModel::Deselect);
- 指定された
-
QItemSelectionModel::clear()
- 現在のすべての選択を解除します。
QItemSelectionModel *selectionModel = treeView->selectionModel(); selectionModel->clear();
-
QItemSelectionModel::setCurrentIndex()
- 現在の「カレントインデックス」を設定します。これは選択とは異なりますが、フォーカスのあるアイテムを示し、選択操作の基準となることがあります。
QItemSelectionModel::Select
フラグと共に使用することで、カレントインデックスを同時に選択することもできます。
QModelIndex indexToSetCurrent = model->index(3, 0); QItemSelectionModel *selectionModel = treeView->selectionModel(); selectionModel->setCurrentIndex(indexToSetCurrent, QItemSelectionModel::Select);
- 現在の「カレントインデックス」を設定します。これは選択とは異なりますが、フォーカスのあるアイテムを示し、選択操作の基準となることがあります。
シグナルとスロットを活用する
QItemSelectionModel
は、選択が変更された際に selectionChanged()
シグナルを発行します。このシグナルをスロットに接続することで、ユーザーの操作やプログラムによる選択変更を監視し、それに応じて他の処理を行うことができます。
connect(treeView->selectionModel(), &QItemSelectionModel::selectionChanged,
this, &MyClass::handleSelectionChanged);
void MyClass::handleSelectionChanged(const QItemSelection &selected, const QItemSelection &deselected) {
// 選択されたアイテム (selected) と選択解除されたアイテム (deselected) を処理する
QModelIndexList selectedIndexes = selected.indexes();
QModelIndexList deselectedIndexes = deselected.indexes();
// ...
}
ビューのプロパティを間接的に操作する
QTreeView
自体のプロパティやメソッドを通じて、選択に関連する動作を間接的に制御することもできます。
-
QAbstractItemView::currentIndex() と QAbstractItemView::setCurrentIndex()
- 現在のカレントインデックスを取得・設定します。前述の
QItemSelectionModel::setCurrentIndex()
と同様の機能ですが、ビューのメソッドとして提供されています。
- 現在のカレントインデックスを取得・設定します。前述の
-
QAbstractItemView::selectionMode()
- ユーザーがどのようにアイテムを選択できるかを制御します(単一選択、複数選択、範囲選択など)。プログラムから直接選択を設定する方法ではありませんが、ユーザーの選択操作に影響を与えます。
-
QAbstractItemView::setFocus()
- ビューにキーボードフォーカスを設定します。フォーカスがある状態で特定のキー操作を行うと、選択が変更されることがあります。
特定のアイテムへのスクロールと選択を組み合わせる
QTreeView::scrollTo()
メソッドを使って特定のアイテムをビューに表示し、その後 setSelection()
や QItemSelectionModel::select()
で選択することで、特定のアイテムをユーザーに視覚的に強調しつつ選択することができます。
QModelIndex indexToScrollAndSelect = model->index(4, 2);
treeView->scrollTo(indexToScrollAndSelect);
QItemSelection selection(indexToScrollAndSelect, indexToScrollAndSelect);
treeView->setSelection(selection, QItemSelectionModel::Select);
どの方法を選ぶべきか
- シグナルとスロット
選択の変化に応じてリアクションを起こしたい場合に不可欠です。 - QItemSelectionModel::setCurrentIndex()
選択と同時に、または選択の基準となるカレントアイテムを設定したい場合に有用です。 - QItemSelectionModel::clear()
すべての選択をプログラムから解除したい場合に直接的です。 - QItemSelectionModel::select() と deselect()
既存の選択状態を維持しつつ、個々のアイテムや範囲を選択・解除したい場合に柔軟性が高いです。 - setSelection()
シンプルに特定のQItemSelection
オブジェクトで選択状態を置き換えたい場合に便利です。