Qt フレームワーク：QTreeView でsetHeader() を効果的に使う

具体的には、QTreeView::setHeader() 関数は、引数として受け取った QHeaderView オブジェクトを、その QTreeView のヘッダーとして設定します。QHeaderView は、ヘッダーの表示や操作（列のサイズ変更、並べ替えなど）を制御するクラスです。

この関数を使うことで、以下のようなことが可能になります。

• 既存ヘッダーの置き換え
  QTreeView はデフォルトで内部に QHeaderView オブジェクトを持っていますが、setHeader() を呼び出すことで、このデフォルトのヘッダーを新しい QHeaderView オブジェクトで置き換えることができます。
• カスタムヘッダーの利用
  デフォルトのヘッダーではなく、自分で作成・設定した QHeaderView オブジェクトをビューに適用できます。これにより、ヘッダーの見た目や振る舞いを細かくカスタマイズできます。例えば、ヘッダーのフォントを変更したり、特定のセクションを非表示にしたり、カスタムな描画処理を実装したりできます。

関数のシグネチャ

void QTreeView::setHeader(QHeaderView *header)

引数には、設定したい QHeaderView オブジェクトへのポインタを渡します。

使用例

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QHeaderView>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 2);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"名前", "年齢"});
    model->appendRow({new QStandardItem("山田太郎"), new QStandardItem("30")});
    model->appendRow({new QStandardItem("佐藤花子"), new QStandardItem("25")});

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // カスタムヘッダーの作成
    QHeaderView *headerView = new QHeaderView(Qt::Horizontal);
    QFont font("Arial", 12, QFont::Bold);
    headerView->setFont(font);
    headerView->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch); // 列幅を自動調整

    // QTreeView にカスタムヘッダーを設定
    treeView->setHeader(headerView);

    treeView->show();

    return a.exec();
}

この例では、まず QStandardItemModel を作成し、QTreeView に設定しています。その後、新しい QHeaderView オブジェクトを作成し、フォントや列幅の調整を行っています。最後に、treeView->setHeader(headerView); を呼び出すことで、このカスタムヘッダーが QTreeView に適用されます。

---

Null ポインタを渡す

• トラブルシューティング
  
  • QHeaderView オブジェクトを作成する際に、メモリ確保が正しく行われているか確認してください (new QHeaderView(...) の結果が nullptr でないか確認するなど)。
  • ヘッダーオブジェクトを使用する前に、そのポインタが有効であることを確認してください。
• 原因
  ヘッダーオブジェクトが正しく作成されなかった場合や、意図せず無効なポインタを渡してしまった場合に発生します。
• エラー
  setHeader() に nullptr (または C++03 以前では NULL) を渡すと、プログラムがクラッシュしたり、予期しない動作を引き起こしたりする可能性があります。

既に別のヘッダーが設定されている場合

• トラブルシューティング
  
  • ヘッダーを置き換える意図があるか確認してください。
  • もし以前のヘッダーの設定が必要な場合は、新しいヘッダーに引き継ぐ処理を実装してください。
• 注意点
  もし以前のヘッダーの設定を保持したい場合は、新しいヘッダーを設定する前に必要な情報を保存しておく必要があります。
• 動作
  setHeader() を再度呼び出すと、以前に設定されていたヘッダーは新しいヘッダーで置き換えられます。多くの場合、これは意図した動作ですが、以前のヘッダーに保持されていた設定や接続されたシグナルなどは失われます。

QHeaderView オブジェクトのライフサイクル管理

• トラブルシューティング
  
  • QHeaderView オブジェクトの作成方法と削除方法を確認し、メモリリークが発生しないように適切に管理してください。親オブジェクトを設定することを検討してください。
• 考慮事項
  
  • QTreeView は、setHeader() で設定された QHeaderView オブジェクトの所有権を引き継ぎません。したがって、QHeaderView オブジェクトは、QTreeView が破棄された後も明示的に削除する必要があります。
  • 親オブジェクトを設定せずに new で QHeaderView を作成した場合、手動で delete する必要があります。
  • QTreeView の子として QHeaderView を作成した場合（例えば、new QHeaderView(Qt::Horizontal, treeView) のように）、QTreeView が破棄される際に自動的に削除されます。
• 潜在的な問題
  QHeaderView オブジェクトのライフサイクルが正しく管理されていないと、メモリリークや不正なメモリアクセスが発生する可能性があります。

ヘッダーの設定がビューに反映されない

• トラブルシューティング
  
  • setHeader() の呼び出し順序を確認してください。通常は、setModel() の後、show() の前に呼び出すのが一般的です。
  • 設定した QHeaderView オブジェクトの設定内容（フォント、サイズ、表示設定など）を確認してください。
  • 親ウィジェットのレイアウトが正しく設定されているか確認してください。
• 原因
  
  • setHeader() を呼び出すタイミングが間違っている可能性があります。モデルが設定される前や、ビューが表示される前にヘッダーを設定する必要があります。
  • 設定した QHeaderView オブジェクト自体に問題がある可能性があります（例えば、フォントやサイズの設定が間違っているなど）。
  • レイアウトの問題でヘッダーが正しく表示されていない可能性があります。

カスタムヘッダービューの利用時のエラー

• トラブルシューティング
  
  • カスタムペイント処理 (paintSection()) が正しく実装されているか確認してください。
  • イベントハンドラ (mousePressEvent(), mouseReleaseEvent() など) が正しく実装され、親クラスのメソッドを適切に呼び出しているか確認してください。
  • モデルとの連携が正しく行われているか確認してください。
• 問題
  QHeaderView を継承してカスタムヘッダービューを作成した場合、ペイント処理やイベント処理を正しく実装しないと、表示の不具合や予期しない動作が発生する可能性があります。

• ログ出力
  qDebug() を使用して、QHeaderView オブジェクトのアドレスや設定値をログに出力し、問題の原因を特定するのに役立ててください。
• ブレークポイント
  setHeader() の呼び出し箇所や、関連する QHeaderView オブジェクトの作成箇所にブレークポイントを設定し、変数の値やプログラムの流れを確認してください。

---

例1: 基本的なヘッダーの設定

この例では、シンプルな QTreeView を作成し、基本的なヘッダーラベルを設定する方法を示します。内部的に QTreeView が持つデフォルトのヘッダーを利用しています。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 2);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"名前", "年齢"}); // ヘッダーラベルを設定

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // データの追加
    model->appendRow({new QStandardItem("山田太郎"), new QStandardItem("30")});
    model->appendRow({new QStandardItem("佐藤花子"), new QStandardItem("25")});

    treeView->show();

    return a.exec();
}

解説

• この例では、QTreeView::setHeader() を明示的に呼び出していません。QStandardItemModel::setHorizontalHeaderLabels() を使用することで、モデルにヘッダーラベルを設定すると、QTreeView のデフォルトのヘッダーが自動的にこれらのラベルを表示します。

例2: カスタムの QHeaderView を設定する (フォントの変更)

この例では、自分で作成した QHeaderView オブジェクトを setHeader() を使って QTreeView に設定し、ヘッダーのフォントを変更します。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QHeaderView>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 2);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"職業", "経験年数"});
    model->appendRow({new QStandardItem("プログラマー"), new QStandardItem("5")});
    model->appendRow({new QStandardItem("デザイナー"), new QStandardItem("3")});

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // カスタムヘッダーの作成
    QHeaderView *headerView = new QHeaderView(Qt::Horizontal);
    QFont font("Arial", 14, QFont::Bold);
    headerView->setFont(font);

    // QTreeView にカスタムヘッダーを設定
    treeView->setHeader(headerView);

    treeView->show();

    return a.exec();
}

解説

• treeView->setHeader(headerView) を呼び出すことで、作成したカスタムヘッダービューを QTreeView に設定しています。これにより、ヘッダーのテキストが太字で大きく表示されます。
• QFont を使ってフォントを設定し、headerView->setFont(font) でヘッダービューに適用しています。
• new QHeaderView(Qt::Horizontal) で水平方向のヘッダービューを作成しています。

例3: カスタムの QHeaderView を設定する (リサイズモードの変更)

この例では、ヘッダーのセクション（列）のリサイズモードを変更し、ウィンドウのサイズに合わせて列幅が自動的に調整されるようにします。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QHeaderView>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 3);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"製品名", "価格", "在庫数"});
    model->appendRow({new QStandardItem("リンゴ"), new QStandardItem("100"), new QStandardItem("50")});
    model->appendRow({new QStandardItem("バナナ"), new QStandardItem("80"), new QStandardItem("100")});

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // カスタムヘッダーの作成
    QHeaderView *headerView = new QHeaderView(Qt::Horizontal);
    headerView->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch); // 全ての列を均等に引き伸ばす

    // QTreeView にカスタムヘッダーを設定
    treeView->setHeader(headerView);

    treeView->show();

    return a.exec();
}

解説

• headerView->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch) を使用することで、ヘッダーの各セクションが QTreeView の幅に合わせて均等に引き伸ばされるようになります。これにより、ウィンドウのサイズを変更しても、常に全ての列が適切に表示されます。

例4: 既存のヘッダーを取得して操作する (推奨されない方法)

setHeader() を使って明示的にヘッダーを設定した場合、header() 関数でそのヘッダーオブジェクトを取得できます。ただし、QTreeView が内部的に持つデフォルトのヘッダーを取得して直接操作することは、予期せぬ動作を引き起こす可能性があるため、推奨されません。カスタムヘッダーを設定した場合に、そのヘッダーに対して追加の操作を行う際に使用します。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QHeaderView>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 2);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"項目A", "項目B"});
    model->appendRow({new QStandardItem("データ1"), new QStandardItem("データ2")});

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // カスタムヘッダーの作成と設定
    QHeaderView *customHeader = new QHeaderView(Qt::Horizontal);
    QFont font("Times New Roman", 12);
    customHeader->setFont(font);
    treeView->setHeader(customHeader);

    // 設定したヘッダーを取得してさらに操作 (例: 特定のセクションのサイズを変更)
    QHeaderView *currentHeader = treeView->header();
    currentHeader->resizeSection(0, 150); // 最初の列の幅を 150 ピクセルに設定

    treeView->show();

    return a.exec();
}

• 取得したポインタを使って、resizeSection() などの QHeaderView のメソッドを呼び出し、ヘッダーの表示をさらに調整しています。
• その後、treeView->header() を呼び出すことで、現在設定されている QHeaderView オブジェクトへのポインタを取得しています。
• まず、カスタムの QHeaderView を作成し、setHeader() で QTreeView に設定しています。

---

モデルの setHorizontalHeaderLabels() を使用する

最も一般的で簡単な方法は、QAbstractItemModel を継承したモデルクラス（例えば QStandardItemModel, QFileSystemModel など）が提供する setHorizontalHeaderLabels() 関数を使用することです。この関数に文字列のリストを渡すことで、モデルに関連付けられたビュー（QTreeView など）のヘッダーラベルを自動的に設定できます。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 3);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"名前", "年齢", "職業"}); // ヘッダーラベルを直接モデルに設定

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // データの追加
    model->appendRow({new QStandardItem("田中一郎"), new QStandardItem("35"), new QStandardItem("エンジニア")});
    model->appendRow({new QStandardItem("鈴木美咲"), new QStandardItem("28"), new QStandardItem("デザイナー")});

    treeView->show();

    return a.exec();
}

利点

• モデルとビューのヘッダー情報が自然に連携します。
• ほとんどの基本的なケースで十分です。
• 簡単で直感的です。

欠点

• ヘッダーのフォント、背景色、リサイズモードなど、詳細なカスタマイズは QHeaderView オブジェクトを直接操作する必要があるため、この方法だけでは限界があります。

QTreeView::header() で取得した QHeaderView オブジェクトを直接操作する

QTreeView は、内部に QHeaderView オブジェクトを保持しています。header() 関数を呼び出すことで、そのオブジェクトへのポインタを取得し、直接プロパティやメソッドを操作することができます。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QHeaderView>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 2);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"商品", "価格"});

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // 内部の QHeaderView オブジェクトを取得して操作
    QHeaderView *header = treeView->header();
    QFont font("メイリオ", 12);
    header->setFont(font);
    header->setSectionResizeMode(QHeaderView::Interactive); // ユーザーによるサイズ変更を可能にする

    // データの追加
    model->appendRow({new QStandardItem("ノートPC"), new QStandardItem("120000")});
    model->appendRow({new QStandardItem("マウス"), new QStandardItem("2500")});

    treeView->show();

    return a.exec();
}

利点

• フォント、背景色、リサイズモード、並べ替えの有効化など、QHeaderView の豊富な機能を直接利用できます。
• setHeader() を呼び出す必要がなく、QTreeView のデフォルトのヘッダーをカスタマイズできます。

欠点

• カスタムの QHeaderView サブクラスを完全に置き換えることはできません。
• QTreeView が内部的に持つヘッダーオブジェクトに依存するため、将来的な Qt のバージョン変更で動作が変わる可能性があります（可能性は低いですが）。

QAbstractItemView::setHorizontalHeader() (Qt 6 以降)

Qt 6 以降では、QAbstractItemView クラスに setHorizontalHeader() 関数が導入されました。QTreeView は QAbstractItemView を継承しているため、この関数を使用することもできます。これは setHeader() とほぼ同じ役割を果たしますが、より抽象的なインターフェースを提供します。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QHeaderView>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 2);
    model->setHorizontalHeaderLabels({"名前", "ポイント"});

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    QTreeView *treeView = new QTreeView();
    treeView->setModel(model);

    // カスタムヘッダーの作成
    QHeaderView *customHeader = new QHeaderView(Qt::Horizontal);
    QFont font("MS ゴシック", 10);
    customHeader->setFont(font);

    // setHorizontalHeader() を使用してヘッダーを設定 (Qt 6 以降)
    treeView->setHorizontalHeader(customHeader);

    // データの追加
    model->appendRow({new QStandardItem("吉田"), new QStandardItem("150")});
    model->appendRow({new QStandardItem("加藤"), new QStandardItem("200")});

    treeView->show();

    return a.exec();
}

利点

• QAbstractItemView の抽象インターフェースの一部であるため、より一貫性のあるAPIを利用できます。
• setHeader() と同様に、完全にカスタムな QHeaderView オブジェクトを設定できます。

欠点

• Qt 6 以降でのみ利用可能です。

カスタムのビューを作成する (高度な方法)

ヘッダーの表示や振る舞いを完全に制御したい場合は、QAbstractItemView を直接継承して、完全にカスタムなビューを作成することもできます。この方法は非常に高度であり、ヘッダーの描画、イベント処理、モデルとの連携などをすべて自分で実装する必要があります。

利点

• ヘッダーの表示と振る舞いを完全に自由にカスタマイズできます。

• Qt のビューシステムの深い理解が必要です。
• 実装が非常に複雑になります。

• ヘッダーの表示と振る舞いを極限までカスタマイズしたい場合
  QAbstractItemView を継承してカスタムビューを作成します。
• 完全にカスタムなヘッダービューを設定したい場合
  treeView()->setHeader() (または Qt 6 以降では treeView()->setHorizontalHeader()) を使用します。
• ヘッダーのプロパティを細かく調整したい場合
  treeView()->header() で QHeaderView オブジェクトを取得して直接操作します。
• 基本的なヘッダーラベルの設定
  setModel()->setHorizontalHeaderLabels() を使用するのが最も簡単です。