初心者必見!Qt `QTreeView`への行追加(`rowsInserted()`)実装ガイド

2025-05-27

QTreeView::rowsInserted() は、QtのModel/Viewアーキテクチャにおける重要な関数の一つです。これは、QTreeView が表示しているデータモデル(QAbstractItemModel の派生クラス)に対して、新しい行が挿入された際に呼び出される スロット です。

より具体的に言うと、QAbstractItemModel の派生クラス(例えば、QStandardItemModel や自作のモデル)が、その内部に新しい行が追加されたことをビュー(QTreeView など)に通知するために rowsInserted() シグナル を発行します。このシグナルを受け取るのが、QTreeView が持っている rowsInserted() スロットなのです。

引数の説明

  • int end: 挿入された最後の行のインデックス(モデル内の行番号)です。startend は通常、連続する行の範囲を示します。
  • int start: 挿入された最初の行のインデックス(モデル内の行番号)です。
  • const QModelIndex &parent: 新しい行が挿入された親アイテムの QModelIndex を示します。もしトップレベルの行が挿入された場合は、無効な QModelIndex (つまり QModelIndex() またはデフォルトコンストラクタで作成されたもの) が渡されます。

役割

QTreeView は、この rowsInserted() スロットが呼び出されることで、モデルに変更があったことを検知し、自身(ツリービュー)の表示を適切に更新します。具体的には、新しい行がツリービューに表示され、既存のアイテムの位置が調整されます。

開発者が直接呼び出すことは通常ありません。 これは、モデルがシグナルを発行し、ビューがそのシグナルに接続されたスロットを自動的に呼び出す、というQtのシグナル/スロットメカニズムによって機能します。

使用例 (概念)

あなたは通常、QTreeView::rowsInserted() を直接呼び出すことはありませんが、モデル側でどのようにシグナルを発行するかを理解することが重要です。

例えば、QAbstractItemModel を継承してカスタムモデルを作成している場合、新しい行を追加する際には、次のように beginInsertRows()endInsertRows() を呼び出す必要があります。

// MyCustomModel.h
class MyCustomModel : public QAbstractItemModel
{
    Q_OBJECT

public:
    // ... (コンストラクタ、data(), rowCount() など)

    bool insertRows(int row, int count, const QModelIndex &parent = QModelIndex()) override;

private:
    // ... モデルの内部データ構造
};

// MyCustomModel.cpp
bool MyCustomModel::insertRows(int row, int count, const QModelIndex &parent)
{
    // モデルに新しい行を挿入することをビューに通知
    beginInsertRows(parent, row, row + count - 1);

    // ここで実際にモデルの内部データに新しい行を追加する処理を行う
    // 例: QList<MyData> data; data.insert(row, MyData());

    // モデルへの行の挿入が完了したことをビューに通知
    endInsertRows();

    return true;
}

上記のコードで beginInsertRows() を呼び出すと、内部的に rowsAboutToBeInserted() シグナルが発行され、endInsertRows() を呼び出すと、rowsInserted() シグナルが発行されます。QTreeView はこの rowsInserted() シグナルを受信し、ビューを自動的に更新するのです。



Qtのvoid QTreeView::rowsInserted()は、モデル/ビューアーキテクチャの内部的なメカニズムであり、通常開発者が直接呼び出すものではありません。そのため、この関数自体でエラーが発生するというよりは、モデル側でデータの挿入をビューに通知する際の誤った手順やデータの一貫性の問題が、結果的にQTreeViewの表示がおかしくなったり、クラッシュしたりといった症状として現れることが多いです。

以下に、rowsInserted()に関連する一般的なエラーとそのトラブルシューティングを説明します。

void QTreeView::rowsInserted() に関連する一般的なエラーとトラブルシューティング

モデルのbeginInsertRows() と endInsertRows() の呼び出し忘れ、または不適切な呼び出し順序

エラーの症状

  • アプリケーションがクラッシュする(特にデバッグモードでアサートが発動する)。
  • QTreeView の表示が崩れる、または予期しない挙動をする。
  • 新しい行がモデルに追加されても、QTreeView に表示されない。

原因
QAbstractItemModel の派生クラスで新しい行を挿入する際、ビューに変更を通知するためにbeginInsertRows()endInsertRows() を呼び出す必要があります。これらの関数は、モデルの変更が始まる前と終わった後にそれぞれ呼び出され、ビューはこれらのシグナルを受け取って自身の表示を更新します。

  • 呼び出し順序が逆だったり、間に不適切な処理を挟んだりすると、ビューの内部状態が破損する可能性があります。
  • endInsertRows() を呼び忘れると、ビューは変更の完了を認識せず、内部状態が不正になる可能性があります。
  • beginInsertRows() を呼び忘れると、ビューは変更を認識しません。

トラブルシューティング

  1. beginInsertRows() と endInsertRows() のペアを確認する
    • 行を挿入するコードパスの最初にbeginInsertRows() が呼ばれているか。
    • 実際にモデルの内部データに行を追加する処理の後に endInsertRows() が呼ばれているか。
    • この2つの呼び出しが常にペアになっていることを確認する。
  2. 引数の整合性を確認する
    • beginInsertRows(parent, start, end)endInsertRows()parentstartend の値が、実際に挿入される行の範囲と一致しているかを確認する。特に endstart + count - 1 となることを注意する。
    • 親インデックス (parent) が正しいか(トップレベルの行挿入の場合は無効な QModelIndex())。
  3. QStandardItemModel を使用している場合
    • QStandardItemModel を直接使用している場合、appendRow()insertRow() などの関数は内部で beginInsertRows()endInsertRows() を呼び出してくれるため、通常は手動でこれらを呼び出す必要はありません。もしこれらの関数を使わずに直接アイテムを追加している場合は、前述のシグナル/スロットのルールに従う必要があります。

モデルの内部データとビューの表示の一貫性の欠如

エラーの症状

  • デバッグ出力で「QTreeView::rowsInserted internal representation of the model has been corrupted, resetting」のようなエラーメッセージが出力される。
  • QModelIndex が無効になったり、意図しないアイテムを指したりする。
  • アイテムを削除したり、移動させたりした後に、誤ったアイテムが表示される。
  • ツリービューのアイテムの表示順がおかしい。

原因
モデルの内部データ構造が、beginInsertRows() / endInsertRows() で通知された範囲と矛盾している場合に発生します。例えば、beginInsertRows() を呼び出した後に、通知した範囲とは異なる場所にデータを挿入したり、通知した数と異なる数の行を挿入したりすると、ビューはモデルの変更を正しく追跡できなくなります。

トラブルシューティング

  1. モデルのデータ変更処理の厳密な確認
    • beginInsertRows()endInsertRows() の間で、実際に挿入されるデータと、その位置、数が、通知した引数と完全に一致していることを確認する。
    • モデルの内部データ構造(例:QList<QVariant>std::vector<MyData>など)への操作が、通知と同期していることを確認する。
  2. 複数のスレッドからのアクセス
    • モデルが複数のスレッドからアクセスされている場合、スレッドセーフティの問題が発生する可能性があります。モデルへの変更は、通常メインスレッドで行う必要があります。もしバックグラウンドスレッドでモデルを操作する場合は、QMetaObject::invokeMethod() を使用してメインスレッドで変更を適用するなど、適切な同期メカニズムを使用してください。
  3. QAbstractItemModel::insertRows() の実装確認
    • QAbstractItemModel を継承してinsertRows() をオーバーライドしている場合、その実装が正しく beginInsertRows()endInsertRows() を呼び出し、かつモデルの内部データ構造を正確に更新しているかを確認する。

シグナル/スロット接続の問題

エラーの症状

  • 上記の「表示されない」症状と同じだが、モデルのコードは正しいように見える。

原因
QTreeView は通常、setModel() を呼び出した時点で自動的にモデルのシグナルに接続します。しかし、何らかの理由で接続が切れていたり、カスタムビューで手動接続を忘れていたりすると、モデルの変更がビューに伝わらないことがあります。

トラブルシューティング

  1. setModel() が正しく呼び出されているか確認
    • QTreeView にモデルが設定されていることを確認する。
  2. デバッグ出力やQtのロギングでシグナル発行を確認
    • モデル側で beginInsertRows()endInsertRows() が呼ばれた際に、実際にシグナルが発行されているかを確認するために、カスタムスロットを一時的に接続してログ出力してみるなど。

QSortFilterProxyModel を使用している場合

エラーの症状

  • QSortFilterProxyModel を介してデータを表示している場合に、行の挿入が正しく反映されない、またはクラッシュする。

原因
QSortFilterProxyModel は、ソースモデルの変更をフィルタリングまたはソートしてビューに提示します。このプロキシモデルを介して行を挿入する際、ソースモデルとプロキシモデル間のインデックス変換や、プロキシモデル自身の beginInsertRows() / endInsertRows() の扱いが複雑になることがあります。

  1. プロキシモデルの正しい利用
    • QSortFilterProxyModel を使用している場合、モデルへのデータ挿入は ソースモデル に対して行い、ソースモデルが beginInsertRows() / endInsertRows() を発行することで、プロキシモデルがそれを検知し、自身の状態を更新します。開発者がプロキシモデルに対して直接 insertRows() を呼び出すことは通常ありません。
  2. フィルタリング/ソートの影響
    • 挿入された行がフィルタリングによって非表示になっている、またはソート順によって予期しない位置に表示されている可能性がないか確認する。
  • Qtのドキュメントを再確認する
    • QAbstractItemModelQTreeViewQModelIndex、そして特にbeginInsertRows()endInsertRows() のドキュメントを注意深く読み返し、見落としている要件がないか確認します。
  • Minimal Reproducible Example (MRE) を作成する
    • 問題を切り分けるために、最小限のコードで同様の問題を再現できるサンプルを作成します。これにより、問題の原因となっている箇所を特定しやすくなります。
  • modeltest ツールを使用する
    • Qtには、カスタムモデルの実装が正しくシグナルを発行しているかなどを検証するためのmodeltestツールが提供されています。これを利用して、モデルの基本的な動作を検証することができます。
  • Qtのデバッグ出力(QDebug)を多用する
    • beginInsertRows()endInsertRows() の呼び出し時に、parent.isValid()parent.row()parent.column()startend の値をログに出力し、想定通りの値が渡されているかを確認します。
    • QModelIndexdata() 関数を使って、そのインデックスが指すアイテムのデータを出力してみる。


QTreeView::rowsInserted() は、QtのModel/Viewアーキテクチャにおいて、モデル側で新しい行が挿入されたことをビュー(QTreeView)に通知するためのシグナルを受け取るスロットです。開発者がこのスロットを直接呼び出すことはほとんどありません。代わりに、カスタムモデル(QAbstractItemModel の派生クラス)の実装において、データの挿入を通知するために beginInsertRows()endInsertRows() という2つのヘルパー関数を呼び出すのが一般的です。

QTreeView::rowsInserted() に関連するプログラミング例

この例では、以下を行います。

  1. QAbstractItemModel を継承したシンプルなカスタムモデルを作成します。
  2. このモデルにデータを追加し、新しい行が挿入されたことをビューに通知します。
  3. QTreeView を使用してこのモデルを表示します。

プロジェクトの準備

まず、Qt Widgets Application プロジェクトを作成します。

カスタムモデルの定義 (MyTreeModel.h)

#ifndef MYTREEMODEL_H
#define MYTREEMODEL_H

#include <QAbstractItemModel>
#include <QVariant>
#include <QList>

// 各アイテムのデータを保持する構造体
struct TreeItem
{
    QString data;
    QList<TreeItem*> children; // 子アイテムのリスト
    TreeItem* parentItem;     // 親アイテムへのポインタ

    explicit TreeItem(const QString& data, TreeItem* parent = nullptr)
        : data(data), parentItem(parent) {}

    ~TreeItem() {
        qDeleteAll(children); // 子アイテムを再帰的に削除
    }

    void appendChild(TreeItem* child) {
        children.append(child);
    }

    TreeItem* child(int row) {
        return children.value(row);
    }

    int childCount() const {
        return children.count();
    }

    int row() const {
        if (parentItem)
            return parentItem->children.indexOf(const_cast<TreeItem*>(this));
        return 0; // ルートアイテムは0
    }
};

class MyTreeModel : public QAbstractItemModel
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit MyTreeModel(QObject *parent = nullptr);
    ~MyTreeModel();

    // 必須のオーバーライド関数
    QModelIndex index(int row, int column, const QModelIndex &parent = QModelIndex()) const override;
    QModelIndex parent(const QModelIndex &child) const override;
    int rowCount(const QModelIndex &parent = QModelIndex()) const override;
    int columnCount(const QModelIndex &parent = QModelIndex()) const override;
    QVariant data(const QModelIndex &index, int role = Qt::DisplayRole) const override;
    Qt::ItemFlags flags(const QModelIndex &index) const override;

    // 行を挿入する関数
    bool insertRows(int row, int count, const QModelIndex &parent = QModelIndex()) override;

    // モデルにデータを追加するヘルパー関数
    void addRootItem(const QString& data);
    void addChildItem(const QModelIndex& parentIndex, const QString& data);

private:
    TreeItem* getItem(const QModelIndex& index) const;

    TreeItem* m_rootItem; // モデルのルートアイテム
};

#endif // MYTREEMODEL_H

カスタムモデルの実装 (MyTreeModel.cpp)

#include "MyTreeModel.h"

MyTreeModel::MyTreeModel(QObject *parent)
    : QAbstractItemModel(parent)
{
    m_rootItem = new TreeItem("Root Item"); // 仮想ルートアイテム
}

MyTreeModel::~MyTreeModel()
{
    delete m_rootItem;
}

// QModelIndex の生成
QModelIndex MyTreeModel::index(int row, int column, const QModelIndex &parent) const
{
    if (!hasIndex(row, column, parent))
        return QModelIndex();

    TreeItem* parentItem;
    if (!parent.isValid()) // ルートアイテム
        parentItem = m_rootItem;
    else
        parentItem = getItem(parent);

    TreeItem* childItem = parentItem->child(row);
    if (childItem)
        return createIndex(row, column, childItem);
    return QModelIndex();
}

// 親 QModelIndex の取得
QModelIndex MyTreeModel::parent(const QModelIndex &child) const
{
    if (!child.isValid())
        return QModelIndex();

    TreeItem* childItem = getItem(child);
    TreeItem* parentItem = childItem->parentItem;

    if (parentItem == m_rootItem) // 親が仮想ルートアイテムの場合
        return QModelIndex();

    return createIndex(parentItem->row(), 0, parentItem);
}

// 行数の取得
int MyTreeModel::rowCount(const QModelIndex &parent) const
{
    TreeItem* parentItem;
    if (!parent.isValid())
        parentItem = m_rootItem;
    else
        parentItem = getItem(parent);

    return parentItem->childCount();
}

// 列数の取得 (シンプルにするため1列のみ)
int MyTreeModel::columnCount(const QModelIndex &parent) const
{
    Q_UNUSED(parent);
    return 1; // 常に1列とする
}

// データの取得
QVariant MyTreeModel::data(const QModelIndex &index, int role) const
{
    if (!index.isValid())
        return QVariant();

    if (role != Qt::DisplayRole)
        return QVariant();

    TreeItem* item = getItem(index);
    return item->data;
}

// フラグ (アイテムが選択可能であることを示す)
Qt::ItemFlags MyTreeModel::flags(const QModelIndex &index) const
{
    if (!index.isValid())
        return Qt::NoItemFlags;

    return QAbstractItemModel::flags(index) | Qt::ItemIsEditable; // 編集可能にする
}

// ヘルパー関数: QModelIndex から TreeItem* を取得
TreeItem* MyTreeModel::getItem(const QModelIndex &index) const
{
    if (index.isValid()) {
        TreeItem* item = static_cast<TreeItem*>(index.internalPointer());
        if (item)
            return item;
    }
    return m_rootItem; // 無効なインデックスの場合はルートを返す
}

// 行を挿入する関数 (最も重要)
bool MyTreeModel::insertRows(int row, int count, const QModelIndex &parent)
{
    TreeItem* parentItem = getItem(parent);
    if (!parentItem) return false;

    // ここで beginInsertRows() を呼び出し、ビューに変更を通知
    // この呼び出しにより QAbstractItemModel::rowsAboutToBeInserted() シグナルが発行される
    beginInsertRows(parent, row, row + count - 1);

    // 実際にモデルの内部データに新しい行を追加する処理
    for (int i = 0; i < count; ++i) {
        // 例: 新しいアイテムデータを作成
        QString newItemData = QString("New Item %1").arg(QDateTime::currentDateTime().toString("hh:mm:ss"));
        TreeItem* newItem = new TreeItem(newItemData, parentItem);

        // 指定された位置に挿入
        if (row < parentItem->children.size()) {
            parentItem->children.insert(row, newItem);
        } else {
            parentItem->children.append(newItem);
        }
    }

    // ここで endInsertRows() を呼び出し、ビューに変更の完了を通知
    // この呼び出しにより QAbstractItemModel::rowsInserted() シグナルが発行される
    endInsertRows();

    return true;
}

// ルートアイテムを追加するヘルパー関数
void MyTreeModel::addRootItem(const QString& data)
{
    insertRows(m_rootItem->childCount(), 1, QModelIndex()); // ルート直下に挿入
}

// 子アイテムを追加するヘルパー関数
void MyTreeModel::addChildItem(const QModelIndex& parentIndex, const QString& data)
{
    TreeItem* parentItem = getItem(parentIndex);
    if (parentItem) {
        insertRows(parentItem->childCount(), 1, parentIndex); // 親アイテムの末尾に挿入
    }
}

メインウィンドウの設定 (mainwindow.h, mainwindow.cpp)

mainwindow.h
#ifndef MAINWINDOW_H
#define MAINWINDOW_H

#include <QMainWindow>
#include <QTreeView>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

#include "MyTreeModel.h" // 作成したカスタムモデルをインクルード

class MainWindow : public QMainWindow
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit MainWindow(QWidget *parent = nullptr);
    ~MainWindow();

private slots:
    void on_addRootItemButton_clicked();
    void on_addChildItemButton_clicked();

private:
    QTreeView *m_treeView;
    MyTreeModel *m_model;
    QPushButton *m_addRootItemButton;
    QPushButton *m_addChildItemButton;
};

#endif // MAINWINDOW_H
mainwindow.cpp
#include "mainwindow.h"
#include <QDebug>

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
{
    // モデルの作成
    m_model = new MyTreeModel(this);

    // テスト用の初期データ
    m_model->addRootItem("Parent 1");
    QModelIndex parent1Index = m_model->index(0, 0, QModelIndex());
    m_model->addChildItem(parent1Index, "Child 1.1");
    m_model->addChildItem(parent1Index, "Child 1.2");

    m_model->addRootItem("Parent 2");
    QModelIndex parent2Index = m_model->index(1, 0, QModelIndex());
    m_model->addChildItem(parent2Index, "Child 2.1");

    // QTreeView の作成とモデルの設定
    m_treeView = new QTreeView(this);
    m_treeView->setModel(m_model);

    // ボタンの作成
    m_addRootItemButton = new QPushButton("Add Root Item", this);
    m_addChildItemButton = new QPushButton("Add Child Item (to selected)", this);

    // シグナルとスロットの接続
    connect(m_addRootItemButton, &QPushButton::clicked, this, &MainWindow::on_addRootItemButton_clicked);
    connect(m_addChildItemButton, &QPushButton::clicked, this, &MainWindow::on_addChildItemButton_clicked);

    // レイアウトの設定
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout();
    layout->addWidget(m_treeView);
    layout->addWidget(m_addRootItemButton);
    layout->addWidget(m_addChildItemButton);

    QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
    centralWidget->setLayout(layout);
    setCentralWidget(centralWidget);

    setWindowTitle("QTreeView rowsInserted Example");
    resize(400, 600);
}

MainWindow::~MainWindow()
{
    // モデルは親オブジェクトが解放されるときに自動的に解放される
}

void MainWindow::on_addRootItemButton_clicked()
{
    m_model->addRootItem(QString("New Root %1").arg(m_model->rowCount(QModelIndex()) + 1));
}

void MainWindow::on_addChildItemButton_clicked()
{
    QModelIndex currentIndex = m_treeView->currentIndex();
    if (currentIndex.isValid()) {
        m_model->addChildItem(currentIndex, QString("New Child of %1").arg(m_model->data(currentIndex).toString()));
        m_treeView->expand(currentIndex); // 子を追加したら親を展開する
    } else {
        qDebug() << "Select a parent item first to add a child item.";
        // ルートアイテムに子を追加したい場合は、ルートアイテム自体を選択する
        // または、特定のルートアイテムのインデックスを直接渡す
    }
}

main.cpp

#include <QApplication>
#include "mainwindow.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);
    MainWindow w;
    w.show();
    return a.exec();
}

コードの解説

    • ツリー構造の各ノードを表すシンプルな構造体です。データ(QString data)、子アイテムのリスト(QList<TreeItem*> children)、親アイテムへのポインタ(TreeItem* parentItem)を保持します。
    • child()childCount()row() などのヘルパーメソッドは、モデルがツリー構造を辿るのに役立ちます。
  1. MyTreeModel クラス

    • QAbstractItemModel を継承しています。Model/Viewアーキテクチャでは、データそのものはモデル内部に保持し、ビューはモデルからデータを要求します。
    • 必須のオーバーライド関数
      • index(): 特定の行、列、親に対応する QModelIndex を返します。QModelIndex はモデル内のアイテムを一意に識別します。
      • parent(): 指定された QModelIndex の親の QModelIndex を返します。
      • rowCount(): 指定された親の子供の数を返します。
      • columnCount(): モデルが持つ列の数を返します。
      • data(): 指定された QModelIndexrole に対応するデータを返します(例: 表示データ、編集データ)。
      • flags(): アイテムの動作(選択可能か、編集可能かなど)を定義するフラグを返します。
    • insertRows(int row, int count, const QModelIndex &parent)
      • これが void QTreeView::rowsInserted() に関連する最も重要な部分です。
      • この関数は、モデルの特定の場所(parentrow)にcount個の新しい行を挿入するロジックを実装します。
      • beginInsertRows(parent, row, row + count - 1);:
        • モデルがデータの変更を開始することをビューに通知するために 必ず 呼び出します。この呼び出しにより、QAbstractItemModel::rowsAboutToBeInserted() シグナルが発行され、ビューは内部状態を調整する準備をします。
        • QTreeView はこのシグナルを受け取って、新しい行のための領域を確保するなどの準備を行います。
      • データの挿入処理
        • 実際にTreeItemのリストに新しいアイテムを追加します。この例では、parentItem->children に新しい TreeItem を挿入しています。
      • endInsertRows();:
        • モデルがデータの変更を完了したことをビューに通知するために 必ず 呼び出します。この呼び出しにより、QAbstractItemModel::rowsInserted() シグナルが発行されます。
        • QTreeView はこのシグナルを受け取って、新しい行の表示を更新し、アイテムの描画やレイアウトを再計算します。
    • addRootItem() と addChildItem()
      • ユーザーがボタンを押したときにモデルにデータを追加するための便利なヘルパー関数です。これらの関数は内部で insertRows() を呼び出しています。
  2. MainWindow クラス

    • QTreeView と、データを追加するためのボタンを配置します。
    • m_treeView->setModel(m_model); で、作成したカスタムモデルを QTreeView に設定します。これにより、QTreeView はモデルのシグナル(rowsInserted() など)を自動的に検知し、自身の表示を更新するようになります。
    • on_addRootItemButton_clicked()on_addChildItemButton_clicked() スロットで、モデルの addRootItem()addChildItem() を呼び出し、データの挿入をトリガーします。

このコードを実行すると、次のようなウィンドウが表示されます。

  • 既存のアイテムを選択し、"Add Child Item (to selected)" ボタンをクリックすると、選択したアイテムの子として新しいアイテムが追加されます。
  • "Add Root Item" ボタンをクリックすると、ツリーのルートレベルに新しいアイテムが追加されます。
  • 初期データ (Parent 1, Child 1.1, Child 1.2, Parent 2, Child 2.1) が表示されます。


QTreeView::rowsInserted() は、Qt の Model/View アーキテクチャにおいて、モデルが新しい行を挿入したことをビュー(QTreeView など)に通知するために自動的に呼び出されるスロットです。そのため、開発者がこのスロットを「代替する方法でプログラミングする」という直接的な概念は存在しません。これは、Qt のモデル/ビュー機構の根幹をなす部分だからです。

しかし、「行の挿入に関するビューの更新を制御する」という広い意味で考えると、いくつか関連するアプローチや考慮事項があります。これらは、rowsInserted() シグナルが発行される仕組みを変更するものではなく、そのシグナル発行前後の処理や、ビューの振る舞いを調整するためのものです。

beginInsertRows() と endInsertRows() の適切な使用(最も重要)

これは代替方法ではありませんが、rowsInserted() が機能するための最も基本的な、かつ唯一の正しい方法です。前回の説明で触れたように、カスタムモデルでデータを挿入する際は、必ずこのペアの関数を呼び出す必要があります。

  • endInsertRows(): モデルの変更が完了した後に呼び出します。これにより、rowsInserted() シグナルが発行され、ビューは新しい行を表示するために自身の表示を更新します。
  • beginInsertRows(parent, first, last): モデルが変更を開始する前に呼び出します。これにより、rowsAboutToBeInserted() シグナルが発行され、ビューは内部状態を調整する準備をします。

これらを正しく呼び出すことが、QTreeView が自動的に行の挿入を処理するための「唯一の道」であり、これ以外の代替手段はありません。もしこのペアを呼び出さない場合、ビューはモデルの変更を認識せず、結果として表示が更新されない、またはデータの一貫性が失われることになります。

QAbstractItemModel::layoutChanged() を利用する(大規模な変更や不確実な場合)

layoutChanged() シグナルは、モデルの構造が大幅に変更された場合にビューに通知するための、より一般的な(しかし重い)方法です。

  • 代替アプローチとしての位置づけ
    • rowsInserted() の直接的な代替ではありません。行の挿入に特化しているわけではなく、より広範な構造変更を通知する「最終手段」のようなものです。
    • 行の挿入のみであれば beginInsertRows() / endInsertRows() を使うべきですが、もしモデルの変更が複雑で、このペアを適切に管理するのが難しい場合に、便宜的に利用されることがあります。ただし、パフォーマンスに注意が必要です。
  • rowsInserted() との違い
    • rowsInserted() は具体的な行の挿入を通知し、ビューはその情報に基づいて効率的に表示を更新します。
    • layoutChanged() は、ビューに「モデルの構造が大きく変わったから、すべてを最初から再構築してくれ」と通知します。これは通常、ビュー全体の再描画や再計算を伴うため、rowsInserted() に比べてパフォーマンスコストが高いです。
  • いつ使用するか
    • 多数の行が異なる場所で挿入・削除され、beginInsertRows()endInsertRows() のペアを複数回呼び出すのが非効率的、または複雑な場合。
    • 行の挿入だけでなく、列の変更やアイテムの親子関係が複雑に変化するような、モデルの全体的なレイアウトが大きく変わる場合。
    • 開発者がモデルの変更を正確に追跡することが困難な、複雑なデータ構造を扱っている場合。

QTreeView の表示オプションの調整

これは行の挿入の通知メカニズムを代替するものではありませんが、挿入された行の表示方法やユーザー体験を調整するために利用できる方法です。

  • QTreeView::setAnimated(bool enable):
    • 行の挿入や削除、展開・折りたたみなどの操作時に、アニメーション効果を有効にするかどうかを制御します。
    • これを有効にすると、行が挿入されたときにスムーズなアニメーションが表示され、ユーザーエクスペリエンスが向上する可能性があります。
  • QTreeView::setAutoScroll(bool enable):
    • デフォルトでは、新しいアイテムが追加されてビューポート外になった場合、自動的にスクロールしてそのアイテムを表示しようとします。
    • もしこの挙動が望ましくない場合(例えば、ユーザーが特定の場所を見続けたい場合など)、これを false に設定して自動スクロールを無効にできます。
  • QTreeView::setUniformRowHeights(bool enable):
    • 各行の高さが常に同じであることをビューに伝えます。これにより、ビューは行の追加や削除の際に、各行の高さを個別に計算する必要がなくなり、レンダリングが高速化される可能性があります。
    • もし挿入される行の高さが他の行と同じであることが保証できるなら、これを true に設定することで、rowsInserted() によるビューの更新パフォーマンスが向上する可能性があります。

QSortFilterProxyModel を介した変更の処理

QSortFilterProxyModel を使用している場合、行の挿入はソースモデルで行われます。プロキシモデルはソースモデルの rowsInserted() シグナルを受け取り、自身の中でフィルタリングやソートを行い、その結果としてプロキシモデル独自の rowsInserted() シグナルを発行します。

  • 代替アプローチとしての考慮
    • 開発者が直接 QTreeView::rowsInserted() を代替するわけではありませんが、もしQTreeView がプロキシモデルを表示している場合、ソースモデルでの行挿入が QTreeView にどう影響するかは、プロキシモデルのフィルタリングやソートロジックに依存します。
    • 例えば、ソースモデルに新しい行を挿入しても、その行が現在のフィルタ条件に合致しない場合、プロキシモデルは rowsInserted() を発行せず、QTreeView にも表示されません。これは、行の挿入通知が「代替」されたのではなく、プロキシモデルによって「処理され、場合によっては抑制された」と考えることができます。

void QTreeView::rowsInserted() は、Qt の Model/View フレームワークの核となる部分であり、直接的に「代替する方法」は存在しません。モデルが beginInsertRows()endInsertRows() を呼び出すことで、ビューに新しい行の挿入を通知し、QTreeView はこのシグナルを受け取って自動的に自身の表示を更新します。