Qt QTreeViewでカスタム操作を実現!mouseReleaseEventプログラミング例

2025-05-27

void QTreeView::mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) とは

QTreeView::mouseReleaseEvent() は、QtのウィジェットであるQTreeViewクラスの保護された仮想関数です。これは、ユーザーがQTreeView上でマウスボタンを離したときに、Qtフレームワークによって自動的に呼び出されるイベントハンドラです。

  • 引数
    QMouseEvent *event という引数を受け取ります。このQMouseEventオブジェクトには、どのボタンが離されたか(左クリック、右クリックなど)、マウスカーソルの位置などの情報が含まれています。
  • 呼び出し
    QTreeViewウィジェットがマウスボタンを離すイベント(マウスアップイベント)を受け取ったときに、Qtのイベントループによって自動的に呼び出されます。
  • 継承
    QWidgetクラスから継承されたイベントハンドリングメカニズムの一部です。
  • 目的
    マウスボタンが離されたときの動作をカスタマイズするために使用します。

なぜこれを使うのか?

通常、QTreeViewはクリックや選択など、基本的なマウス操作にはデフォルトの動作が用意されています。しかし、以下のようなカスタムな動作を実現したい場合に、このmouseReleaseEvent()をオーバーライド(再実装)して利用します。

  • ダブルクリック以外の特定のマウス操作
    特定のボタンのクリックとリリースを組み合わせて独自の機能を実現する。
  • カスタムなアイテムの選択ロジック
    デフォルトの選択動作とは異なる方法でアイテムを選択する。
  • ドラッグ&ドロップ操作の完了
    ドラッグ操作が完了した後に、特定の処理を実行する。
  • 右クリックメニュー(コンテキストメニュー)の表示
    特定の項目を右クリックしたときに、カスタムメニューを表示する。

QTreeView::mouseReleaseEvent() を使用するには、QTreeViewを継承したカスタムクラスを作成し、その中でこの関数をオーバーライドします。


#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent> // QMouseEvent を使用するために必要
#include <QDebug>    // デバッグ出力用

class MyCustomTreeView : public QTreeView
{
public:
    MyCustomTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}

protected:
    void mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) override
    {
        // 例えば、左クリックが離されたときにメッセージを表示する
        if (event->button() == Qt::LeftButton) {
            qDebug() << "左ボタンが離されました!";

            // マウスが離された位置にあるアイテムを取得する例
            QModelIndex index = indexAt(event->pos());
            if (index.isValid()) {
                qDebug() << "クリックされたアイテムのデータ: " << model()->data(index).toString();
            }
        }
        // 例えば、右クリックが離されたときにカスタムメニューを表示する(よくあるケース)
        else if (event->button() == Qt::RightButton) {
            qDebug() << "右ボタンが離されました!コンテキストメニューを表示する処理をここに記述します。";
            // 実際には QMenu を作成し、exec() で表示する
            // QMenu menu(this);
            // menu.addAction("アクション1");
            // menu.exec(event->globalPos()); // グローバル座標でメニューを表示
        }

        // 非常に重要: 親クラスのmouseReleaseEventを呼び出すこと
        // これを呼び出さないと、デフォルトの選択動作などが機能しなくなる可能性があります。
        QTreeView::mouseReleaseEvent(event);
    }
};
  • QMouseEvent の情報
    QMouseEventオブジェクトは、どのマウスボタンが離されたか (event->button())、マウスの現在の位置 (event->pos() でローカル座標、event->globalPos() でスクリーン座標) などの情報を提供します。
  • イベントフィルタの使用
    QTreeViewのサブクラス化ができない、または望ましくない場合、installEventFilter()eventFilter() を使用して、他のオブジェクトでQTreeViewのマウスイベントを処理することも可能です。しかし、QTreeView固有の動作(indexAt()など)を利用する場合は、サブクラス化がより直接的です。
  • 親クラスの呼び出し
    mouseReleaseEvent()をオーバーライドする場合、必ず親クラス(QTreeView::mouseReleaseEvent(event);)を呼び出すようにしてください。これを怠ると、QTreeViewのデフォルトの挙動(アイテムの選択、ドラッグ&ドロップの処理など)が失われる可能性があります。


void QTreeView::mouseReleaseEvent() のよくあるエラーとトラブルシューティング

QTreeView::mouseReleaseEvent() をオーバーライドしてカスタム動作を実装する際に、いくつかの一般的な落とし穴や問題に遭遇することがあります。

mouseReleaseEvent() が全く呼び出されない、または意図せず呼び出されない

原因

  • マウスの捕捉 (grabMouse())
    もし、mousePressEvent()などでgrabMouse()を呼び出している場合、マウスボタンが離されるまで、すべてのマウスイベントはそのウィジェットに送られます。しかし、他のウィジェットがgrabMouse()を呼び出している場合、QTreeViewがイベントを受け取れないことがあります。
  • フォーカスがない
    マウスイベントは通常、フォーカスのあるウィジェットに送られます。ただし、マウスイベントに関しては、通常はカーソル下のウィジェットに送られるため、これはmouseReleaseEventが呼び出されない直接的な原因となることは少ないですが、他のイベントとの関連で考慮することもあります。
  • イベントフィルタの影響
    QTreeViewまたはその親にイベントフィルタが設定されており、そのフィルタがmouseReleaseEventを処理してtrueを返している場合、イベントはQTreeViewに到達しません。
  • 親クラスのイベント処理による消費
    Qtのイベント伝播メカニズムでは、イベントは子ウィジェットから親ウィジェットへと伝播します。もし、QTreeView親ウィジェット(またはQTreeView自身が内部的に持つ何らかの要素)がmousePressEvent()mouseMoveEvent()などのイベントをaccept()してしまうと、対応するmouseReleaseEvent()QTreeViewに到達しないことがあります。特に、ドラッグ&ドロップ操作や他の複雑なインタラクションが絡む場合に起こりやすいです。

トラブルシューティング

  • event->accept() / event->ignore() の影響
    イベントハンドラ内でevent->accept()を呼び出すと、イベントはそれ以上伝播されなくなります。意図しない場所でaccept()されていると、mouseReleaseEventが到達しないことがあります。逆に、event->ignore()を呼び出すとイベントは親に伝播します。
  • イベントフィルタの確認
    QTreeViewinstallEventFilter()で追加されたイベントフィルタがないか、また、そのフィルタがmouseReleaseEventをどのように処理しているかを確認します。
  • 親ウィジェットの確認
    QTreeViewの親ウィジェットがマウスイベントをどのように処理しているかを確認します。もし親がカスタムなマウスイベントハンドラを持っている場合、それが原因かもしれません。
  • デバッグ出力の追加
    mouseReleaseEvent()の先頭にqDebug() << "mouseReleaseEvent called!";のようなデバッグ出力を追加し、実際にイベントが呼び出されているかを確認します。

デフォルトの動作が失われる

原因

  • 親クラスのmouseReleaseEvent()の呼び出し忘れ
    これが最も一般的な原因です。mouseReleaseEvent()をオーバーライドする際、カスタムのロジックを追加した後に、必ず QTreeView::mouseReleaseEvent(event); を呼び出す必要があります。これを呼び出さないと、QTreeViewのデフォルトのアイテム選択、ドラッグ&ドロップ処理、スクロールなどの重要な動作が機能しなくなります。

トラブルシューティング

  • カスタムのmouseReleaseEvent()の最後に、QTreeView::mouseReleaseEvent(event); があることを確認してください。

イベントの発生タイミングや状態の認識ミス

原因

  • QModelIndex の取得ミス
    マウスが離された位置のアイテムを取得する際に、QTreeView::indexAt(event->pos()) を正しく使用できていない、または無効なインデックスを処理していない。
  • 不適切なQMouseEvent情報の利用
    event->pos()event->globalPos()の違いを理解していない、またはevent->button()event->buttons()の違いを混同していると、意図しない動作になることがあります。
    • event->button(): イベントを発生させた単一のボタン(例: 左ボタンが離されたとき)
    • event->buttons(): 現在押し下げられているすべてのボタン(例: 左ボタンを離したが、同時に右ボタンも押されている場合)
  • mousePressEventとの連携不足
    マウスのクリックはmousePressEventmouseReleaseEventのペアで構成されます。特定の操作(例: ドラッグ)を開始する条件をmousePressEventで設定し、完了する条件をmouseReleaseEventで設定する場合、両者の状態管理が不十分だと問題が発生します。

トラブルシューティング

  • 有効なQModelIndexのチェック
    indexAt()で取得したQModelIndexが有効であるか(index.isValid())を常に確認し、無効な場合は適切なエラー処理を行うか、何も処理しないようにします。
  • QMouseEventのドキュメント確認
    QMouseEventクラスのQt公式ドキュメントを読み、各メソッドがどのような情報を提供するのかを正確に理解します。
  • 状態変数の利用
    mousePressEventでフラグ(例: bool m_isDragging = true;)を設定し、mouseReleaseEventでそのフラグをクリアするといった、状態管理のパターンを適用します。

UIのフリーズやパフォーマンスの問題

原因

  • mouseReleaseEvent()内で時間のかかる処理(ネットワーク通信、大規模なファイルI/O、複雑な計算など)を実行している場合、UIがフリーズしたり、応答しなくなったりします。これはイベントループをブロックするためです。
  • 処理の最適化
    処理自体を高速化できないか検討します。
  • 非同期処理
    QtConcurrentQTimer::singleShot()などを使用して、処理を非同期で行います。
  • スレッドの使用
    時間のかかる処理は別のスレッド(QThreadなど)にオフロードします。
  • イベントのトレース
    Qtは環境変数 QT_LOGGING_RULES を設定することで、イベントの伝播を詳細にログ出力できます。例えば、QT_LOGGING_RULES="qt.qpa.events=true" を設定してアプリケーションを実行すると、詳細なイベント情報が出力されます(ただし非常に多くの情報が出力されるため注意が必要です)。
  • Qt Creatorのデバッガ
    ブレークポイントを設定し、ステップ実行でコードの動作を詳細に追跡します。QMouseEventオブジェクトの中身なども確認できます。
  • qDebug()の活用
    イベントハンドラの開始と終了、重要な条件分岐の中などにqDebug()を挿入し、実行フローを確認します。


QTreeView::mouseReleaseEvent() は、QTreeViewを継承したカスタムクラスを作成し、その中でオーバーライドして使用します。ここでは、一般的な3つのシナリオに絞ってコード例を示します。

  1. 左クリックリリース時のアイテム情報取得
  2. 右クリックリリース時のコンテキストメニュー表示(より推奨されるcustomContextMenuRequestedも併記)
  3. ドラッグ&ドロップ操作の完了(mouseReleaseEventが直接関与しない場合が多いが、関連する概念として説明)

準備: 基本的なQTreeViewとQStandardItemModelの設定

まず、これらの例で使用する基本的なQTreeViewQStandardItemModelを設定するメインウィンドウ(またはウィジェット)のコードを準備します。

mainwindow.h

#ifndef MAINWINDOW_H
#define MAINWINDOW_H

#include <QMainWindow>
#include <QStandardItemModel>
#include <QTreeView>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

// MyCustomTreeView クラスの前方宣言
class MyCustomTreeView;

QT_BEGIN_NAMESPACE
namespace Ui { class MainWindow; }
QT_END_NAMESPACE

class MainWindow : public QMainWindow
{
    Q_OBJECT

public:
    MainWindow(QWidget *parent = nullptr);
    ~MainWindow();

private:
    Ui::MainWindow *ui;
    QStandardItemModel *model;
    MyCustomTreeView *treeView; // カスタムQTreeViewを使用
};
#endif // MAINWINDOW_H

mainwindow.cpp

#include "mainwindow.h"
#include "./ui_mainwindow.h"
#include "mycustomtreeview.h" // カスタムQTreeViewのヘッダをインクルード

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
    , ui(new Ui::MainWindow)
{
    ui->setupUi(this);

    model = new QStandardItemModel(this);
    // ルートアイテムを設定
    QStandardItem *parentItem = model->invisibleRootItem();

    // アイテムを追加
    QStandardItem *item1 = new QStandardItem("Parent Item 1");
    parentItem->appendRow(item1);

    QStandardItem *childItem1_1 = new QStandardItem("Child 1.1");
    item1->appendRow(childItem1_1);
    QStandardItem *childItem1_2 = new QStandardItem("Child 1.2");
    item1->appendRow(childItem1_2);

    QStandardItem *item2 = new QStandardItem("Parent Item 2");
    parentItem->appendRow(item2);

    QStandardItem *childItem2_1 = new QStandardItem("Child 2.1");
    item2->appendRow(childItem2_1);

    // MyCustomTreeViewのインスタンスを作成し、モデルを設定
    treeView = new MyCustomTreeView(this);
    treeView->setModel(model);

    // レイアウトにツリービューを追加
    setCentralWidget(treeView);

    // ツリービューを拡張して全ての項目を表示
    treeView->expandAll();
}

MainWindow::~MainWindow()
{
    delete ui;
}

mycustomtreeview.h (カスタムQTreeViewの基盤)

#ifndef MYCUSTOMTREEVIEW_H
#define MYCUSTOMTREEVIEW_H

#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent> // QMouseEvent を使用するために必要
#include <QDebug>      // デバッグ出力用
#include <QMenu>       // コンテキストメニュー用
#include <QAction>     // メニューアクション用

class MyCustomTreeView : public QTreeView
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyCustomTreeView(QWidget *parent = nullptr);

protected:
    // mouseReleaseEvent をオーバーライド
    void mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) override;

    // customContextMenuRequested シグナル用のスロット(推奨される方法)
    void customContextMenu(const QPoint &pos);
};

#endif // MYCUSTOMTREEVIEW_H

左クリックリリース時のアイテム情報取得

この例では、QTreeView上で左マウスボタンが離されたときに、その位置にあるアイテムのテキストをデバッグ出力します。

mycustomtreeview.cpp

#include "mycustomtreeview.h"

MyCustomTreeView::MyCustomTreeView(QWidget *parent)
    : QTreeView(parent)
{
    // コンテキストメニューポリシーを設定 (customContextMenuRequested シグナルを使用する場合に必要)
    setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu);
    connect(this, &MyCustomTreeView::customContextMenuRequested, this, &MyCustomTreeView::customContextMenu);
}

void MyCustomTreeView::mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event)
{
    // 左ボタンが離された場合
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        // マウスが離された位置にあるアイテムのインデックスを取得
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());

        if (index.isValid()) {
            // アイテムが有効な場合、そのデータを表示
            qDebug() << "左ボタンが離されました。選択されたアイテム: " << model()->data(index).toString();
        } else {
            // アイテムがない場所で離された場合
            qDebug() << "左ボタンが離されました。しかし、特定のアイテムは選択されていません。";
        }
    }

    // ★重要★ 親クラスのmouseReleaseEventを呼び出す!
    // これを呼び出さないと、デフォルトの選択動作などが機能しなくなります。
    QTreeView::mouseReleaseEvent(event);
}

void MyCustomTreeView::customContextMenu(const QPoint &pos)
{
    // この関数は右クリックメニューの例で使われるため、ここでは空実装
    // mouseReleaseEventとは直接関係ありませんが、ヘッダで宣言しているので実装します
}

解説

  • model()->data(index).toString() で、そのアイテムの表示テキストを取得し、デバッグ出力しています。
  • index.isValid() で取得したインデックスが有効な(実際にアイテムが存在する)ものかを確認します。
  • indexAt(event->pos()) を使用して、マウスイベントのローカル座標 (event->pos()) にあるアイテムのQModelIndexを取得します。
  • event->button() == Qt::LeftButton で、離されたボタンが左ボタンであるかを確認します。

右クリックリリース時のコンテキストメニュー表示

mouseReleaseEventで右クリックを検出してコンテキストメニューを表示することも可能ですが、QtではQt::CustomContextMenuポリシーを設定し、customContextMenuRequestedシグナルを接続する方が推奨されます。これは、右クリック以外の方法(キーボードショートカットなど)でコンテキストメニューが開かれた場合にも対応できるため、より汎用的でアクセシビリティが高いからです。

ここでは、両方の方法を併記し、比較できるようにします。

mycustomtreeview.cpp (前のコードに追加・修正)

#include "mycustomtreeview.h"

MyCustomTreeView::MyCustomTreeView(QWidget *parent)
    : QTreeView(parent)
{
    // コンテキストメニューポリシーを設定
    // Qt::CustomContextMenuPolicy: customContextMenuRequested シグナルを発行します。
    // Qt::NoContextMenu: コンテキストメニューを無効にします。
    // Qt::DefaultContextMenu: プラットフォーム固有のデフォルトの動作を使用します。
    // Qt::ActionsContextMenu: ウィジェットに追加されたQActionを表示します。
    setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu);

    // customContextMenuRequested シグナルをスロットに接続
    // これが推奨される方法です。
    connect(this, &MyCustomTreeView::customContextMenuRequested,
            this, &MyCustomTreeView::customContextMenu);
}

void MyCustomTreeView::mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event)
{
    // 左ボタンが離された場合(前述の例と同じ)
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());
        if (index.isValid()) {
            qDebug() << "左ボタンが離されました。選択されたアイテム: " << model()->data(index).toString();
        } else {
            qDebug() << "左ボタンが離されました。しかし、特定のアイテムは選択されていません。";
        }
    }
    // ★非推奨ながらも、mouseReleaseEventで右クリックを処理する例★
    else if (event->button() == Qt::RightButton) {
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());
        if (index.isValid()) {
            qDebug() << "右ボタンが離されました。アイテム上でコンテキストメニューを表示します(mouseReleaseEvent)。";
            // ここでQMenuを作成し、表示する処理を書く
            QMenu menu(this);
            QAction *action1 = menu.addAction("アイテムアクション A");
            QAction *action2 = menu.addAction("アイテムアクション B");

            // メニューを表示
            // mapToGlobal(event->pos()) は、ウィジェット内のローカル座標をスクリーン上のグローバル座標に変換します。
            QAction *selectedAction = menu.exec(mapToGlobal(event->pos()));

            if (selectedAction == action1) {
                qDebug() << "アクション A が選択されました。アイテム: " << model()->data(index).toString();
            } else if (selectedAction == action2) {
                qDebug() << "アクション B が選択されました。アイテム: " << model()->data(index).toString();
            }
        } else {
            qDebug() << "右ボタンが離されました。ツリービューの何もない場所でコンテキストメニューを表示します(mouseReleaseEvent)。";
            // アイテムがない場所でのメニュー表示
            QMenu menu(this);
            menu.addAction("一般的なアクション X");
            menu.exec(mapToGlobal(event->pos()));
        }
    }

    // ★重要★ 親クラスのmouseReleaseEventを呼び出す!
    QTreeView::mouseReleaseEvent(event);
}

// ★推奨されるカスタムコンテキストメニュー処理のスロット★
void MyCustomTreeView::customContextMenu(const QPoint &pos)
{
    // mouseReleaseEvent とは異なり、pos はすでにビューポート内のローカル座標です。
    QModelIndex index = indexAt(pos);

    QMenu menu(this);

    if (index.isValid()) {
        qDebug() << "カスタムコンテキストメニューがリクエストされました。アイテム上で表示(推奨)。";
        // アイテム固有のメニュー
        menu.addAction(QString("アイテム '%1' の編集").arg(model()->data(index).toString()));
        menu.addAction(QString("アイテム '%1' の削除").arg(model()->data(index).toString()));
    } else {
        qDebug() << "カスタムコンテキストメニューがリクエストされました。ツリービューの何もない場所で表示(推奨)。";
        // 何もない場所でのメニュー
        menu.addAction("新しいアイテムを追加");
        menu.addAction("ツリーを更新");
    }

    // グローバル座標に変換してメニューを表示
    // viewport()->mapToGlobal(pos) を使うのが一般的です。
    menu.exec(viewport()->mapToGlobal(pos));
}

解説

  • customContextMenuRequested シグナルとスロット
    • setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu) を設定することが必須です。
    • connect()customContextMenuRequestedシグナルをcustomContextMenuスロットに接続します。
    • customContextMenuスロットに渡されるposは、すでにビューポート内のローカル座標です。
    • メニューを表示する際は、viewport()->mapToGlobal(pos) を使用してグローバル座標に変換するのがより正確です。これは、QTreeViewがスクロール可能な領域 (viewport()) を持つためです。
  • mouseReleaseEvent での右クリック処理
    • event->button() == Qt::RightButton で右クリックを検出します。
    • QMenu オブジェクトを作成し、addAction() でメニュー項目を追加します。
    • menu.exec(mapToGlobal(event->pos())) を呼び出して、メニューをマウスカーソルの位置に表示します。mapToGlobal() は、ウィジェットのローカル座標をスクリーン上のグローバル座標に変換するために必要です。

推奨
ほとんどの場合、右クリックメニューの表示にはcustomContextMenuRequestedシグナルを使用する方が良い選択肢です。mouseReleaseEventは、より低レベルなマウス操作(例えば、特定のドラッグ&ドロップ操作の完了条件の一部として)を処理する必要がある場合に適しています。

ドラッグ&ドロップ操作の完了

QTreeViewにおけるドラッグ&ドロップは、通常、mousePressEventmouseMoveEvent、そしてmouseReleaseEventが連携して機能しますが、直接的にmouseReleaseEventをオーバーライドしてドラッグ&ドロップの「完了」を処理することは稀です。

Qtのモデル/ビューフレームワークでは、ドラッグ&ドロップの主要なロジックは以下のメソッドとフラグによって処理されます。

  • ビュー側
    • QAbstractItemView::setDragEnabled(true)
    • QAbstractItemView::setAcceptDrops(true)
    • QAbstractItemView::setDragDropMode(): QAbstractItemView::InternalMove など、ドラッグ&ドロップのモードを設定します。
    • QTreeView::dragMoveEvent(): ドラッグ中のマウスの動きを処理します。
    • QTreeView::dropEvent(): ドロップ操作の最終的な処理を行います。
  • モデル側
    • QAbstractItemModel::flags(): Qt::ItemIsDragEnabledQt::ItemIsDropEnabled フラグを設定します。
    • QAbstractItemModel::mimeData(): ドラッグされるデータのQMimeDataを作成します。
    • QAbstractItemModel::dropMimeData(): ドロップされたデータを受け入れ、モデルを更新します。
    • QAbstractItemModel::supportedDropActions(): モデルがサポートするドロップアクション (Qt::CopyAction, Qt::MoveActionなど) を返します。

mouseReleaseEventは、ドラッグ操作が開始されなかった場合のマウスリリース、またはカスタムのドラッグロジックの開始と終了を検出するために使用されることがあります。

例: カスタムドラッグ開始の検出とドラッグ終了の管理(簡略化)

この例は、標準のドラッグ&ドロップとは異なり、mousePressEventでカスタムドラッグを開始し、mouseReleaseEventでそのカスタムドラッグが終了したことを検出するシナリオを想定しています。

mycustomtreeview.h (追加)

#ifndef MYCUSTOMTREEVIEW_H
#define MYCUSTOMTREEVIEW_H

#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>
#include <QMenu>
#include <QAction>
#include <QStandardItemModel> // model() を使うのであれば必要

class MyCustomTreeView : public QTreeView
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyCustomTreeView(QWidget *parent = nullptr);

protected:
    void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override; // 追加
    void mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) override;
    void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) override; // 追加

    void customContextMenu(const QPoint &pos);

private:
    bool m_isCustomDragging = false; // カスタムドラッグ中かどうか
    QPoint m_dragStartPosition;     // ドラッグ開始位置
};

#endif // MYCUSTOMTREEVIEW_H

mycustomtreeview.cpp (追加・修正)

#include "mycustomtreeview.h"
#include <QApplication> // QApplication::startDragDistance() のために必要
#include <QDrag>        // カスタムドラッグの例のため

MyCustomTreeView::MyCustomTreeView(QWidget *parent)
    : QTreeView(parent)
    , m_isCustomDragging(false)
{
    setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu);
    connect(this, &MyCustomTreeView::customContextMenuRequested,
            this, &MyCustomTreeView::customContextMenu);

    // 標準のドラッグ&ドロップを有効にする場合はここに設定します
    // setDragEnabled(true);
    // setAcceptDrops(true);
    // setDragDropMode(QAbstractItemView::InternalMove);
}

void MyCustomTreeView::mousePressEvent(QMouseEvent *event)
{
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        m_dragStartPosition = event->pos();
        m_isCustomDragging = false; // ドラッグ開始ではないと仮定
    }
    QTreeView::mousePressEvent(event);
}

void MyCustomTreeView::mouseMoveEvent(QMouseEvent *event)
{
    // 左ボタンが押されている状態で、ドラッグ開始距離を超えた場合
    if (event->buttons() & Qt::LeftButton) {
        int distance = (event->pos() - m_dragStartPosition).manhattanLength();
        if (!m_isCustomDragging && distance >= QApplication::startDragDistance()) {
            qDebug() << "カスタムドラッグが開始されました!";
            m_isCustomDragging = true;
            // ここでカスタムのドラッグ処理を開始する
            // 例: QDrag オブジェクトを作成し、drag->exec() を呼び出すなど
            // QMimeData *mimeData = new QMimeData;
            // mimeData->setText("Dragging some data!");
            // QDrag *drag = new QDrag(this);
            // drag->setMimeData(mimeData);
            // drag->exec(Qt::CopyAction | Qt::MoveAction);
        }
    }
    QTreeView::mouseMoveEvent(event);
}

void MyCustomTreeView::mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event)
{
    // 左ボタンが離された場合(前述の例と同じ)
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        if (m_isCustomDragging) {
            qDebug() << "カスタムドラッグが終了しました!";
            m_isCustomDragging = false;
            // ここでカスタムドラッグ完了後の処理を実行
        } else {
            // ドラッグではなく、単なるクリックのリリース
            QModelIndex index = indexAt(event->pos());
            if (index.isValid()) {
                qDebug() << "左ボタンが離されました。選択されたアイテム: " << model()->data(index).toString();
            } else {
                qDebug() << "左ボタンが離されました。特定のアイテムは選択されていません。";
            }
        }
    }
    // 右ボタンが離された場合(コンテキストメニューの例と同じ)
    else if (event->button() == Qt::RightButton) {
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());
        if (index.isValid()) {
            qDebug() << "右ボタンが離されました。アイテム上でコンテキストメニューを表示します(mouseReleaseEvent)。";
            QMenu menu(this);
            menu.addAction(QString("アイテム '%1' のアクション").arg(model()->data(index).toString()));
            menu.exec(mapToGlobal(event->pos()));
        } else {
            qDebug() << "右ボタンが離されました。ツリービューの何もない場所でコンテキストメニューを表示します(mouseReleaseEvent)。";
            QMenu menu(this);
            menu.addAction("一般的なアクション");
            menu.exec(mapToGlobal(event->pos()));
        }
    }

    // ★重要★ 親クラスのmouseReleaseEventを呼び出す!
    QTreeView::mouseReleaseEvent(event);
}

void MyCustomTreeView::customContextMenu(const QPoint &pos)
{
    // こちらが推奨されるコンテキストメニューの処理
    QModelIndex index = indexAt(pos);
    QMenu menu(this);

    if (index.isValid()) {
        qDebug() << "カスタムコンテキストメニューがリクエストされました。アイテム上で表示(推奨)。";
        menu.addAction(QString("アイテム '%1' の編集(推奨)").arg(model()->data(index).toString()));
        menu.addAction(QString("アイテム '%1' の削除(推奨)").arg(model()->data(index).toString()));
    } else {
        qDebug() << "カスタムコンテキストメニューがリクエストされました。ツリービューの何もない場所で表示(推奨)。";
        menu.addAction("新しいアイテムを追加(推奨)");
    }

    menu.exec(viewport()->mapToGlobal(pos));
}
  • 注意点
    QDragオブジェクトがexec()を呼び出すと、そのドラッグ操作が完了するまでイベントループをブロックします。この間はmouseReleaseEventが呼び出されない可能性があるため、より複雑なドラッグ&ドロップ操作では、モデル/ビューの組み込みのドラッグ&ドロップ機能(dropMimeDataなど)を使用する方が堅牢です。
  • mouseReleaseEventm_isCustomDraggingtrueであれば、カスタムドラッグが終了したと判断し、必要な後処理を行います。
  • mouseMoveEventで、マウスが一定距離(QApplication::startDragDistance())移動したら、カスタムドラッグを開始したと判断し、m_isCustomDraggingtrueに設定します。
  • mousePressEventでドラッグ開始位置を記録します。
  • m_isCustomDraggingm_dragStartPosition をメンバー変数として持ち、カスタムドラッグの状態を管理します。


QAbstractItemView が提供するシグナルとスロット

QTreeViewQAbstractItemViewを継承しており、この基底クラスはマウスイベントを抽象化した便利なシグナルを提供しています。多くの場合、mouseReleaseEvent()を直接オーバーライドするよりも、これらのシグナルを利用する方が推奨されます。

  • customContextMenuRequested(const QPoint &pos)

    • 説明: コンテキストメニュー(通常は右クリック)がリクエストされたときに発行されます。QTreeView::setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu)を設定する必要があります。posはビューポート内のローカル座標です。
    • 用途: 右クリックメニューの表示に最も推奨される方法です。
    • 利点:
      • プラットフォームの慣習(例: 特定のキーボードショートカットでコンテキストメニューが開かれる場合)にも対応できます。
      • mouseReleaseEventでボタンの種類を判定する手間が省けます。
    // MyCustomTreeView.cpp (コンストラクタで接続)
    MyCustomTreeView::MyCustomTreeView(QWidget *parent)
        : QTreeView(parent)
    {
        setContextMenuPolicy(Qt::CustomContextMenu); // これが重要
        connect(this, &QTreeView::customContextMenuRequested, this, &MyCustomTreeView::showContextMenu);
    }
    
    // スロットの実装
    void MyCustomTreeView::showContextMenu(const QPoint &pos)
    {
        QMenu menu(this);
        QModelIndex index = indexAt(pos); // クリックされたアイテムを取得
    
        if (index.isValid()) {
            menu.addAction(QString("アイテム '%1' を編集").arg(model()->data(index).toString()));
            menu.addAction(QString("アイテム '%1' を削除").arg(model()->data(index).toString()));
        } else {
            menu.addAction("新しいアイテムを追加");
        }
        menu.exec(viewport()->mapToGlobal(pos)); // グローバル座標でメニューを表示
    }
    
  • pressed(const QModelIndex &index)

    • 説明: アイテム上でマウスボタンが押し下げられたときに発行されます。mousePressEvent()に近い動作をしますが、QModelIndexが引数として提供されます。
    • 説明: アイテムがダブルクリックされたときに発行されます。
    • 用途: アイテムの編集、ドリルダウン、関連するウィンドウのオープンなど、シングルクリックとは異なる「実行」アクションに利用します。

イベントフィルタ (QObject::installEventFilter())

QTreeViewをサブクラス化できない場合や、単一のオブジェクトで複数のウィジェットのイベントを処理したい場合に、イベントフィルタを使用することができます。

  • 欠点:

    • QTreeView固有の便利なメソッド(例: indexAt())を直接呼び出すことができないため、ターゲットオブジェクトへのポインタを保持したり、qobject_castを使用したりする必要がある場合があります。
    • イベント処理のロジックが、イベントを受け取るウィジェット自体ではなく、別の場所にあるため、コードの見通しが悪くなることがあります。
    // myeventfilter.h
    #include <QObject>
    #include <QEvent>
    #include <QMouseEvent>
    #include <QTreeView> // QTreeViewのメソッドを呼び出すため
    #include <QDebug>
    #include <QStandardItemModel> // model() を使うため
    
    class MyEventFilter : public QObject
    {
        Q_OBJECT
    public:
        explicit MyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}
    
    protected:
        bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override
        {
            if (watched->isWidgetType() && event->type() == QEvent::MouseButtonRelease) {
                QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(event);
                if (mouseEvent->button() == Qt::LeftButton) {
                    QTreeView *treeView = qobject_cast<QTreeView*>(watched);
                    if (treeView) {
                        QModelIndex index = treeView->indexAt(mouseEvent->pos());
                        if (index.isValid()) {
                            qDebug() << "イベントフィルタ: 左ボタンが離されました。アイテム: " << treeView->model()->data(index).toString();
                        } else {
                            qDebug() << "イベントフィルタ: 左ボタンが離されました。特定のアイテムは選択されていません。";
                        }
                        // イベントをここで消費する場合: return true;
                        // 通常通りTreeViewのイベントハンドラに渡す場合: return false;
                        return false; // デフォルトの動作を維持
                    }
                }
            }
            return QObject::eventFilter(watched, event); // 他のイベントは親に渡す
        }
    };
    
    // mainwindow.cpp (MyCustomTreeView を使用せず、直接 QTreeView をインスタンス化する場合)
    // QTreeView *treeView = new QTreeView(this);
    // MyEventFilter *filter = new MyEventFilter(this);
    // treeView->installEventFilter(filter);
    
  • 利点:

    • 既存のQTreeViewインスタンスに対して動的にイベント処理を追加できます。
    • 複数の異なるウィジェットのイベントを、単一のフィルタオブジェクトで集中管理できます。
  • 方法:

    1. イベントをフィルタリングしたいクラス(フィルタオブジェクト)でeventFilter(QObject *watched, QEvent *event)メソッドをオーバーライドします。
    2. ターゲットとなるQTreeViewオブジェクトに対して、フィルタオブジェクトをinstallEventFilter()でインストールします。
    3. eventFilter()内で、QEvent::type()QEvent::MouseButtonReleaseであるかを確認し、event->type() == QEvent::MouseButtonRelease の場合はQMouseEventにキャストして処理します。
    4. イベントを完全に処理してそれ以上伝播させたくない場合はtrueを返し、そうでなければfalseを返して通常通りターゲットオブジェクトのイベントハンドラにイベントを渡します。
  • 説明: あるQObject(フィルタオブジェクト)が別のQObject(ターゲットオブジェクト)のイベントを、そのターゲットオブジェクトのイベントハンドラが呼び出される前に「傍受」するメカニズムです。