イベントフィルタで実現！QTreeView の mousePressEvent をオーバーライドしない方法

void QTreeView::mousePressEvent(QMouseEvent *event) は、Qt のGUIフレームワークにおいて、QTreeView クラス（ツリー状のデータを表示するウィジェット）内でマウスボタンが押された際に呼び出される仮想関数です。

各部分の説明

• mousePressEvent: これは関数の名前であり、Qtのイベント処理機構における特定のイベント（この場合はマウスボタンが押されたイベント）に対応しています。Qtの多くのウィジェットクラスは、さまざまなイベントに対応するためにこのような名前の仮想関数を提供しています。

• QTreeView
  : これは、この関数が QTreeView クラスのメンバ関数であることを示しています。QTreeView オブジェクトに対してこの関数が関連付けられています。

• void: この関数は値を返さないことを意味します。つまり、処理が終わっても何か特定のデータを呼び出し元に伝える必要はありません。

この関数の役割と重要性

mousePressEvent() 関数は、QTreeView ウィジェットがマウスボタンの押し込みというユーザーインタラクションを検出した際に、デフォルトの動作を行う前に呼び出されます。この関数を再実装（オーバーライド）することで、QTreeView におけるマウスボタンが押されたときの動作をカスタマイズできます。

具体的にどのようなカスタマイズができるのか？

• カスタムの選択動作
  デフォルトのアイテム選択方法を変更したり、複数のアイテムを特定の方法で選択できるようにしたりできます。
• ドラッグ＆ドロップの開始
  マウスボタンが押された位置に基づいて、ドラッグ＆ドロップ操作を開始する処理を実装できます。
• マウスボタンの種類による異なる動作
  左クリックと右クリックで異なる処理を行わせることができます。

基本的な流れ

1. ユーザーが QTreeView ウィジェット上でマウスボタンを押します。
2. Qtのイベントループがこのマウスプレスイベントを検出し、QTreeView オブジェクトの mousePressEvent() 関数を呼び出します。
3. もし QTreeView クラスを継承したカスタムクラスで mousePressEvent() 関数を再実装していなければ、ベースクラス（通常は QAbstractItemView またはその親クラス）のデフォルトの mousePressEvent() が実行され、標準的なマウスプレス処理（アイテムの選択など）が行われます。
4. もしカスタムクラスで mousePressEvent() を再実装していれば、その再実装された関数内のコードが実行されます。必要であれば、再実装した関数内で QTreeView の親クラスの mousePressEvent() を明示的に呼び出すことで、デフォルトの動作も維持することができます（QTreeView::mousePressEvent(event); のように）。

void QTreeView::mousePressEvent(QMouseEvent *event) は、QTreeView ウィジェットにおけるマウスボタンの押し込みイベントを捕捉し、そのイベントに対するカスタムな処理を実装するための重要な仮想関数です。QMouseEvent オブジェクトを通じて、イベントの詳細な情報を取得し、それに基づいてウィジェットの振る舞いを柔軟に変更できます。

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一般的なエラーとトラブルシューティング

1. • エラー
     mousePressEvent() を再実装した際に、QTreeView のデフォルトの動作（アイテムの選択、フォーカスの移動など）が行われなくなってしまうことがあります。
   • 原因
     再実装した mousePressEvent() 内で、ベースクラスの mousePressEvent() を呼び出していないことが原因です。
   • 解決策
     再実装した関数の適切な箇所で、必ず QTreeView::mousePressEvent(event); （または親クラスが QAbstractItemView であれば QAbstractItemView::mousePressEvent(event);）を呼び出し、デフォルトのイベント処理を継続するようにします。どのタイミングで呼び出すかは、カスタム処理の前に行うか後に行うかによって変わります。

2. QMouseEvent オブジェクトの誤った使用
   

   • エラー
     event ポインタが nullptr である可能性を考慮していなかったり、QMouseEvent のメソッド（button(), pos(), globalPos(), modifiers() など）の戻り値を適切に扱わなかったりする。
   • 原因
     イベントが発生していない状況で event を参照しようとしたり、メソッドの戻り値の型を誤解したりしている。
   • 解決策
     
     • 関数内で event が nullptr でないことを確認してから使用します。通常は nullptr になることは稀ですが、念のため確認しておくと安全です。
     • QMouseEvent のドキュメントをよく読み、各メソッドの戻り値の意味と型を正しく理解します。例えば、button() はどのボタンが押されたかを Qt::MouseButton 型のenum値で返します。
     • 座標系の違い (pos() はウィジェット内座標、globalPos() はスクリーン座標) を意識して使用します。

3. 意図しないタイミングでの処理実行
   

   • エラー
     マウスボタンが押されたときだけでなく、他のマウスイベント（例えば、マウスカーソルがウィジェットに入ったときなど）でも再実装した mousePressEvent() が呼び出されると誤解している。
   • 原因
     イベントの種類を正しく理解していない。mousePressEvent() はあくまでマウスボタンが「押された」瞬間にのみ発生します。
   • 解決策
     必要な処理が本当にマウスボタンが押されたときにのみ実行されるように、条件分岐 (if (event->button() == Qt::LeftButton) { ... } など) を適切に使用します。

4. カスタム処理がデフォルト処理を妨げる
   

   • エラー
     再実装した mousePressEvent() 内で、デフォルトの選択処理やドラッグ＆ドロップの開始などを意図せず妨げてしまう。
   • 原因
     デフォルトの処理を行う前に event->ignore() を呼び出してしまったり、イベントを処理済みとしてマークしてしまったりする（意図しない event->accept() など）。
   • 解決策
     カスタム処理が必要な場合のみ処理を行い、それ以外の場合はベースクラスの mousePressEvent() を呼び出すことで、デフォルトの動作を維持するようにします。event->ignore() の使用は慎重に行う必要があります。

5. 座標系の誤解による誤動作
   

   • エラー
     pos() で取得したウィジェット内座標を、モデルのインデックス取得 (indexAt()) に直接渡す際に、ヘッダー部分や空白部分をクリックしたときに意図しない結果になる。
   • 原因
     indexAt() はアイテムが表示されている領域の座標を期待しますが、クリックされた位置がアイテムの領域外である可能性があるため。
   • 解決策
     クリックされた座標が実際にアイテムの上にあるかどうかを事前に確認したり、ヘッダー部分のクリックに対する特別な処理を追加したりする必要があります。

6. 他のイベントとの競合
   

   • エラー
     マウスプレスイベントと、他のマウスイベント（mouseMoveEvent(), mouseReleaseEvent(), mouseDoubleClickEvent() など）との間で処理が競合したり、予期しない順序で実行されたりする。
   • 原因
     複数のマウスイベントハンドラを同時に再実装し、それらの間で状態が適切に管理されていない。
   • 解決策
     関連するマウスイベントハンドラ全体を通して、処理の流れと状態の遷移を注意深く設計し、必要に応じてフラグ変数などを使用して状態を共有します。

トラブルシューティングのヒント

• 簡単な例で検証
  問題が複雑な場合に、最小限のコードで mousePressEvent() の動作を確認する簡単なテストプログラムを作成してみます。
• ドキュメント参照
  Qtの公式ドキュメントで QTreeView、QAbstractItemView、QMouseEvent クラスの説明を再確認します。
• ステップ実行
  デバッガを使用して、mousePressEvent() 内のコードを一行ずつ実行し、変数の値の変化や処理の流れを追跡します。
• デバッグ
  qDebug() を使用して、mousePressEvent() がいつ呼び出されているか、QMouseEvent の各メソッドがどのような値を返しているかなどをログ出力して確認します。

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#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QMouseEvent>
#include <QMessageBox>
#include <QModelIndex>

class CustomTreeView : public QTreeView {
public:
    CustomTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}

protected:
    void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override {
        // 左ボタンが押された場合のみ処理を行う
        if (event->button() == Qt::LeftButton) {
            // クリックされた位置のインデックスを取得
            QModelIndex index = indexAt(event->pos());

            // 有効なインデックスであるか確認
            if (index.isValid()) {
                // モデルからアイテムのテキストを取得
                QVariant data = model()->data(index, Qt::DisplayRole);
                QString text = data.toString();

                // メッセージボックスを表示
                QMessageBox::information(this, "クリック", "クリックされたアイテム: " + text);
            }
        }
        // デフォルトの mousePressEvent の処理も行う (アイテムの選択など)
        QTreeView::mousePressEvent(event);
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel model;
    QStandardItem *parentItem = model.invisibleRootItem();
    QStandardItem *item1 = new QStandardItem("アイテム 1");
    QStandardItem *item2 = new QStandardItem("アイテム 2");
    QStandardItem *subItem1 = new QStandardItem("サブアイテム 1");
    item1->appendRow(subItem1);
    parentItem->appendRow(item1);
    parentItem->appendRow(item2);

    // カスタム TreeView の作成とモデルの設定
    CustomTreeView treeView;
    treeView.setModel(&model);
    treeView.expandAll();
    treeView.show();

    return a.exec();
}

コードの説明

1. CustomTreeView クラスは QTreeView を継承しています。
2. mousePressEvent() 関数を override して再実装しています。
3. 関数内で event->button() == Qt::LeftButton を使用して、左マウスボタンのクリックかどうかをチェックしています。
4. indexAt(event->pos()) を呼び出して、クリックされたウィジェット内の座標 (event->pos()) に対応するモデルのインデックス (QModelIndex) を取得します。
5. 取得したインデックスが有効 (isValid()) であるか確認します。
6. 有効なインデックスであれば、model()->data(index, Qt::DisplayRole) を使用して、そのインデックスのアイテムの表示テキストを取得します。
7. QMessageBox::information() を使用して、取得したテキストを含むメッセージボックスを表示します。
8. 最後に、QTreeView::mousePressEvent(event); を呼び出すことで、ベースクラスのデフォルトのマウスプレス処理（アイテムの選択など）も実行されるようにしています。

この例では、マウスの右ボタンでアイテムがクリックされたときに、簡単なカスタムメニューを表示します。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QMouseEvent>
#include <QMenu>
#include <QAction>
#include <QModelIndex>

class CustomTreeView : public QTreeView {
public:
    CustomTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}

protected:
    void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override {
        // 右ボタンが押された場合のみ処理を行う
        if (event->button() == Qt::RightButton) {
            // クリックされた位置のインデックスを取得
            QModelIndex index = indexAt(event->pos());

            // 有効なインデックスであるか確認
            if (index.isValid()) {
                // カスタムメニューの作成
                QMenu menu(this);
                QAction *action1 = new QAction("アクション 1", this);
                QAction *action2 = new QAction("アクション 2", this);
                menu.addAction(action1);
                menu.addAction(action2);

                // メニューの表示 (グローバル座標を使用)
                menu.exec(event->globalPos());
            }
        }
        // デフォルトの mousePressEvent の処理も行う
        QTreeView::mousePressEvent(event);
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    // モデルの作成
    QStandardItemModel model;
    QStandardItem *parentItem = model.invisibleRootItem();
    QStandardItem *item1 = new QStandardItem("アイテム A");
    QStandardItem *item2 = new QStandardItem("アイテム B");
    parentItem->appendRow(item1);
    parentItem->appendRow(item2);

    // カスタム TreeView の作成とモデルの設定
    CustomTreeView treeView;
    treeView.setModel(&model);
    treeView.show();

    return a.exec();
}

コードの説明

1. CustomTreeView クラスは QTreeView を継承しています。
2. mousePressEvent() 関数を override しています。
3. 関数内で event->button() == Qt::RightButton を使用して、右マウスボタンのクリックかどうかをチェックしています。
4. indexAt(event->pos()) でクリック位置のインデックスを取得し、有効性を確認します。
5. 有効なインデックスの場合、QMenu オブジェクトを作成し、いくつか QAction を追加します。
6. menu.exec(event->globalPos()) を使用して、マウスカーソルのグローバル座標 (event->globalPos()) にメニューを表示します。
7. 最後に、QTreeView::mousePressEvent(event); を呼び出し、デフォルトの処理も継続します。

この例では、特定のアイテムのアイコン領域がクリックされた場合に、特別な処理を行います。

#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QMouseEvent>
#include <QPixmap>
#include <QIcon>
#include <QRect>
#include <QModelIndex>
#include <QDebug>

class CustomTreeView : public QTreeView {
public:
    CustomTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {
        // モデルにアイコンを設定
        QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(this);
        QStandardItem *item = new QStandardItem("アイコン付きアイテム");
        item->setIcon(QIcon(":/images/icon.png")); // ":/images/icon.png" はリソースファイルに登録されたアイコン
        model->appendRow(item);
        setModel(model);
    }

protected:
    void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override {
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());
        if (index.isValid()) {
            // アイコンの表示領域を取得
            QRect iconRect = visualRect(index).adjusted(0, 0, style()->pixelMetric(QStyle::PM_SmallIconSize), style()->pixelMetric(QStyle::PM_SmallIconSize));
            QPoint itemTopLeft = visualRect(index).topLeft();
            QRect actualIconRect(itemTopLeft, QSize(style()->pixelMetric(QStyle::PM_SmallIconSize), style()->pixelMetric(QStyle::PM_SmallIconSize)));

            // クリックされた位置がアイコンの領域内かどうかをチェック
            if (actualIconRect.contains(event->pos())) {
                qDebug() << "アイコンがクリックされました！";
                // ここにアイコンクリック時のカスタム処理を記述
                return; // イベントをここで処理したので、デフォルトの処理は行わない
            }
        }
        // アイコン領域外のクリックの場合は、デフォルトの処理を行う
        QTreeView::mousePressEvent(event);
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);
    CustomTreeView treeView;
    treeView.show();
    return a.exec();
}

#include "main.moc" // moc ファイル (必要に応じて)

1. CustomTreeView クラスは QTreeView を継承しています。
2. コンストラクタで、アイコン付きのアイテムを持つモデルを設定しています。
3. mousePressEvent() を再実装し、クリックされた位置のインデックスを取得します。
4. visualRect(index) でアイテムの画面上の矩形を取得し、style()->pixelMetric(QStyle::PM_SmallIconSize) でアイコンのサイズを取得して、アイコンの矩形 (actualIconRect) を計算します。
5. actualIconRect.contains(event->pos()) で、クリックされた位置がアイコンの矩形内にあるかどうかをチェックします。
6. アイコン領域内がクリックされた場合は、デバッグメッセージを出力し、return; することで、これ以上のデフォルト処理を行わないようにしています。
7. アイコン領域外がクリックされた場合は、QTreeView::mousePressEvent(event); を呼び出し、デフォルトの処理を行います。

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• 特定のアイテムに対するカスタムなインタラクション（クリックによる状態変更など）を実装する場合
  カスタムの QItemDelegate が適していることがあります。
• マウスボタンの種類やクリック位置の詳細な情報を必要とする場合、かつビュー全体のイベントを監視したい場合
  イベントフィルタが強力な選択肢となります。
• 右クリックによるコンテキストメニューの表示
  customContextMenuRequested() シグナルが便利です。
• 特定のアイテムのダブルクリック処理
  doubleClicked() シグナルが適しています。
• 特定のアイテムのクリックに応じた簡単な処理 (ボタンの種類を問わない)
  clicked() シグナルが簡潔です。