void QTreeView::mouseDoubleClickEvent()

2025-05-16

QTreeView::mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) は、QtのウィジェットであるQTreeViewクラスの保護された仮想関数です。

役割

QMouseEvent *event 引数

この関数に渡されるQMouseEvent *eventは、ダブルクリックイベントに関する詳細な情報を含むオブジェクトへのポインタです。このオブジェクトから、以下のような情報を取得できます。

  • キーボードの修飾キー(Shift, Ctrl, Altなど)が押されていたか: event->modifiers()
  • ダブルクリックが発生したウィジェット内の座標: event->pos()
  • ダブルクリックが発生したスクリーン上の座標: event->globalPos()
  • どのマウスボタンがダブルクリックされたか: event->button()event->buttons()

使用方法(オーバーライド)

QTreeView::mouseDoubleClickEvent()は「保護された仮想関数」であるため、通常、この関数を直接呼び出すことはありません。代わりに、QTreeViewを継承したカスタムクラスを作成し、その中でこの関数を**オーバーライド(再実装)**することで、ダブルクリックイベントが発生した際のカスタムな振る舞いを定義します。


// MyCustomTreeView.h
#ifndef MYCUSTOMTREEVIEW_H
#define MYCUSTOMTREEVIEW_H

#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent>

class MyCustomTreeView : public QTreeView
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit MyCustomTreeView(QWidget *parent = nullptr);

protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override; // ここでオーバーライド

};

#endif // MYCUSTOMTREEVIEW_H
// MyCustomTreeView.cpp
#include "MyCustomTreeView.h"
#include <QDebug> // デバッグ出力用
#include <QModelIndex> // モデルインデックス用

MyCustomTreeView::MyCustomTreeView(QWidget *parent)
    : QTreeView(parent)
{
}

void MyCustomTreeView::mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event)
{
    // マウスの左ボタンがダブルクリックされた場合のみ処理
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        // ダブルクリックされたアイテムのインデックスを取得
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());

        if (index.isValid()) {
            // 有効なアイテムがダブルクリックされた場合
            qDebug() << "アイテムがダブルクリックされました: " << model()->data(index).toString();

            // ここにカスタムな処理を記述
            // 例: アイテムに関連する詳細ダイアログを開く、ファイルを開くなど
        } else {
            // アイテム以外の領域がダブルクリックされた場合
            qDebug() << "アイテム以外の領域がダブルクリックされました。";
        }
    }

    // 基底クラスのmouseDoubleClickEventを呼び出す(重要な場合が多い)
    // これを呼び出さないと、QTreeViewのデフォルトのダブルクリック動作(例えば、アイテムの展開/折りたたみ)が無効になる可能性があります。
    QTreeView::mouseDoubleClickEvent(event);
}

QTreeViewには、doubleClicked(const QModelIndex &index) というシグナルも用意されています。このシグナルは、アイテムがダブルクリックされたときに、そのアイテムのQModelIndexを引数として発せられます。

多くの場合、カスタムな振る舞いを実装するには、mouseDoubleClickEventをオーバーライドするよりも、doubleClickedシグナルを別のスロットに接続する方がシンプルで推奨される方法です。

  • mouseDoubleClickEventをオーバーライドするケース:

    • 特定の条件(例: 特定の修飾キーが押されている場合など)でダブルクリックイベントの処理を完全に制御したい場合。
    • アイテム以外の領域でのダブルクリックイベントも処理したい場合。
    • QTreeViewのデフォルトのダブルクリック動作(expandsOnDoubleClickプロパティ)を完全に無効にしたい場合。
    • doubleClickedシグナルが発せられる前に、より低レベルなイベント処理を行いたい場合。
  • doubleClickedシグナルを使用するメリット:

    • Qtのシグナル&スロットメカニズムに則っており、よりオブジェクト指向的。
    • ダブルクリックされたアイテムのQModelIndexが直接渡されるため、イベント座標から自分でインデックスを計算する手間が省ける。
    • デフォルトのダブルクリック動作(アイテムの展開/折りたたみ)を妨げない。


Q_OBJECTマクロの欠如

エラー: undefined reference to 'vtable for MyCustomTreeView' のようなリンカーエラーや、シグナルとスロットが正しく機能しない。

説明: QTreeViewを継承して独自のクラスを作成し、その中でシグナルやスロット、あるいはイベントハンドラをオーバーライドする場合、クラス定義にQ_OBJECTマクロを記述する必要があります。これはQtのメタオブジェクトシステムが正しく機能するために不可欠です。Q_OBJECTマクロがないと、コンパイルは通ってもリンク時にエラーが発生したり、ランタイムで予期せぬ動作をしたりすることがあります。

トラブルシューティング: カスタムクラスのヘッダファイル(.hまたは.hpp)のクラス定義の冒頭にQ_OBJECTマクロを追加します。

// MyCustomTreeView.h
#ifndef MYCUSTOMTREEVIEW_H
#define MYCUSTOMTREEVIEW_H

#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent>

class MyCustomTreeView : public QTreeView
{
    Q_OBJECT // ★ これを追加!

public:
    explicit MyCustomTreeView(QWidget *parent = nullptr);

protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override;

};

#endif // MYCUSTOMTREEVIEW_H

Q_OBJECTマクロを追加した後は、プロジェクトをクリーンアップして再ビルド(qmakeまたはCMakeの再実行を含む)を行う必要があることが多いです。これは、moc(Meta-Object Compiler)が関連ファイルを再生成する必要があるためです。

基底クラスのイベントハンドラの呼び忘れ

エラー: カスタムのダブルクリック処理は実行されるが、QTreeViewのデフォルトの動作(例: アイテムの展開/折りたたみ)が失われる。

説明: mouseDoubleClickEventをオーバーライドする場合、通常はカスタム処理を行った後、基底クラスの同じイベントハンドラを呼び出す必要があります。これを忘れると、QTreeViewが本来持っているデフォルトのダブルクリック動作が実行されず、機能が損なわれます。

トラブルシューティング: オーバーライドしたmouseDoubleClickEvent関数の最後に、基底クラスのイベントハンドラを呼び出します。

void MyCustomTreeView::mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event)
{
    // ... カスタム処理 ...

    // ★ 基底クラスのmouseDoubleClickEventを呼び出す
    QTreeView::mouseDoubleClickEvent(event);
}

ただし、デフォルトの動作を意図的に抑制したい場合は、この呼び出しを省略します。例えば、ダブルクリックで常に外部アプリケーションを起動し、ツリーの展開はさせたくない場合などです。

イベントの受理(Accept/Ignore)

エラー: ダブルクリックイベントが、予期せぬ別のウィジェットにも伝播してしまう。

説明: Qtのイベントシステムでは、イベントがウィジェットに到着した際に、そのイベントを受け入れる(event->accept())か無視する(event->ignore())かを設定できます。通常、イベントハンドラがイベントを処理した場合、accept()を呼び出すことで、そのイベントが親ウィジェットなどに伝播するのを防ぎます。デフォルトでは、mouseDoubleClickEventはイベントを受け入れます。しかし、特定の条件でイベントを無視したい場合や、複数のウィジェットがイベントを処理する可能性がある場合に、この動作を理解しておくことが重要です。

トラブルシューティング: 通常、mouseDoubleClickEventをオーバーライドするだけなら、明示的にevent->accept()event->ignore()を呼び出す必要はあまりありません。しかし、もしイベントの伝播に問題があると感じたら、以下の点を考慮してください。

  • event->ignore(): イベントを処理せず、親ウィジェットなどに伝播させることを示します。
  • event->accept(): イベントを完全に処理し、これ以上他のウィジェットに伝播させないことを示します。通常、イベントハンドラが何か具体的なアクションを実行した場合に暗黙的に行われます。

正しいアイテムの取得(indexAt(event->pos()))

エラー: ダブルクリックされた正確なアイテムが特定できない、または常に無効なインデックスが返される。

説明: mouseDoubleClickEvent内でダブルクリックされたQTreeViewのアイテムを取得するには、indexAt(event->pos())を使用します。ここでevent->pos()は、イベントが発生したウィジェット内のローカル座標を返します。この座標が正しくない場合や、アイテムがない場所をダブルクリックした場合は、無効なQModelIndexが返されます。

トラブルシューティング:

  • QModelIndex index = indexAt(event->pos()); の後に if (index.isValid()) で有効性をチェックし、無効なインデックスの場合の処理も考慮に入れます。
  • event->pos()を使用しているか確認します。event->globalPos()はスクリーン上の絶対座標を返すため、indexAt()には適していません。

<!-- end list -->

void MyCustomTreeView::mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event)
{
    if (event->button() == Qt::LeftButton) { // 左ボタンのダブルクリックのみを処理
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());

        if (index.isValid()) {
            // アイテムがダブルクリックされた場合の処理
            qDebug() << "ダブルクリックされたアイテム: " << model()->data(index).toString();
        } else {
            // アイテム以外の領域がダブルクリックされた場合の処理
            qDebug() << "背景がダブルクリックされました。";
        }
    }
    QTreeView::mouseDoubleClickEvent(event);
}

QModelIndexとデータモデルの不整合

エラー: index.isValid()はtrueなのに、model()->data(index)が期待するデータを返さない、またはクラッシュする。

説明: QTreeViewはモデル/ビューアーキテクチャに基づいています。表示されるデータはQAbstractItemModelを継承したデータモデルによって提供されます。QModelIndexはモデル内のデータへのポインタのようなものです。モデルとビューが正しく連携していない場合、またはモデルがデータを提供していない場合に、QModelIndexは有効でもデータが取得できないことがあります。

トラブルシューティング:

  • カスタムモデルを使用している場合は、QModelIndexが正しく作成・管理されているか(特に親と子のインデックスの関係)を確認します。
  • データモデルがdata()関数を正しく実装しており、指定されたQModelIndexQt::DisplayRoleなどのロールに対して適切なデータを返しているか確認します。
  • QTreeView::setModel()を使って、正しいデータモデルが設定されていることを確認します。

イベントフィルターの使用との混同

エラー: mouseDoubleClickEventをオーバーライドしても期待通りに動作しない、または重複してイベントが処理される。

説明: Qtでは、特定のウィジェットのイベントを処理する別の方法として、イベントフィルターがあります。もしQTreeViewまたはその親ウィジェットにイベントフィルターがインストールされており、それがダブルクリックイベントを捕捉して処理または無視している場合、mouseDoubleClickEventが意図通りに呼び出されないか、あるいは二重に処理される可能性があります。

トラブルシューティング:

  • イベントフィルターがQEvent::MouseButtonDblClickを処理しているかどうかを確認し、もし処理している場合は、そのフィルターの動作がmouseDoubleClickEventの動作と競合していないかを検証します。
  • コードベース全体でinstallEventFilter()が使われている箇所がないか確認します。

最も基本的なトラブルシューティング: 問題が発生した場合、QDebug#include <QDebug>)を使用して、mouseDoubleClickEventがいつ、どのような情報(event->pos(), event->button(), index.isValid(), model()->data(index).toString()など)とともに呼び出されているかをログに出力することで、問題の原因を特定する手助けになります。

#include <QDebug>

void MyCustomTreeView::mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event)
{
    qDebug() << "mouseDoubleClickEvent が呼び出されました。";
    qDebug() << "ローカル座標: " << event->pos();
    qDebug() << "グローバル座標: " << event->globalPos();
    qDebug() << "ボタン: " << event->button();
    qDebug() << "修飾キー: " << event->modifiers();

    QModelIndex index = indexAt(event->pos());
    if (index.isValid()) {
        qDebug() << "ダブルクリックされたアイテムの行: " << index.row() << ", 列: " << index.column();
        qDebug() << "ダブルクリックされたアイテムのデータ: " << model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
    } else {
        qDebug() << "アイテム以外の領域がダブルクリックされました。";
    }

    QTreeView::mouseDoubleClickEvent(event);
}


目的

QTreeView::mouseDoubleClickEvent()をオーバーライドする主な目的は、ユーザーがツリービューのアイテムをダブルクリックしたときに、アプリケーション固有のカスタムアクションを実行することです。例えば、

  • ノードのカスタム展開/折りたたみ: デフォルトの動作ではなく、特定のロジックに基づいてノードを展開/折りたたむ。
  • アイテムの編集: テキストアイテムをダブルクリックしたときに、編集モードに切り替える。
  • ファイルのオープン: ファイルシステムツリーでファイルをダブルクリックしたときに、関連するアプリケーションでファイルを開く。

ここでは、QTreeViewを継承したカスタムクラスを作成し、その中でmouseDoubleClickEventをオーバーライドする例を示します。

必要なファイル

  • main.cpp (アプリケーションのエントリポイント)
  • MyTreeView.cpp (カスタムQTreeViewの実装ファイル)
  • MyTreeView.h (カスタムQTreeViewのヘッダファイル)

MyTreeView.h

#ifndef MYTREEVIEW_H
#define MYTREEVIEW_H

#include <QTreeView>
#include <QMouseEvent> // QMouseEventを使うため
#include <QStandardItemModel> // 例としてQStandardItemModelを使用

class MyTreeView : public QTreeView
{
    Q_OBJECT // Qtのメタオブジェクトシステムを使用するために必要

public:
    explicit MyTreeView(QWidget *parent = nullptr);

protected:
    // mouseDoubleClickEventをオーバーライド
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override;
};

#endif // MYTREEVIEW_H

MyTreeView.cpp

#include "MyTreeView.h"
#include <QDebug> // デバッグ出力用
#include <QMessageBox> // メッセージボックス表示用
#include <QDesktopServices> // ファイルを開くため
#include <QUrl> // URLを扱うため

MyTreeView::MyTreeView(QWidget *parent)
    : QTreeView(parent)
{
    // ここでモデルを設定することもできますが、main.cppで設定することも可能です。
    // 例: QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(this);
    //     setModel(model);
}

void MyTreeView::mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event)
{
    // 1. 左ボタンのダブルクリックかを確認
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        // 2. ダブルクリックされたウィジェット内の座標からアイテムのインデックスを取得
        QModelIndex index = indexAt(event->pos());

        // 3. 有効なアイテムがダブルクリックされたかを確認
        if (index.isValid()) {
            // ここにアイテムがダブルクリックされた際のカスタム処理を記述します

            // 例1: アイテムのデータをデバッグ出力
            QString itemText = model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
            qDebug() << "ダブルクリックされたアイテム: " << itemText;
            qDebug() << "行: " << index.row() << ", 列: " << index.column();

            // 例2: メッセージボックスでアイテムの情報を表示
            QMessageBox::information(this, "アイテムダブルクリック",
                                     "ダブルクリックされたアイテム: " + itemText +
                                     "\n行: " + QString::number(index.row()) +
                                     ", 列: " + QString::number(index.column()));

            // 例3: 特定のアイテムであれば、別の動作を行う
            if (itemText == "重要ファイル.txt") {
                QMessageBox::information(this, "ファイルオープン", "「重要ファイル.txt」を開きます。");
                // 実際にはQDesktopServices::openUrl()などを使ってファイルを開く
                // QDesktopServices::openUrl(QUrl::fromLocalFile("C:/path/to/重要ファイル.txt"));
            } else if (itemText == "URL") {
                QMessageBox::information(this, "ウェブサイトオープン", "ウェブサイトを開きます。");
                QDesktopServices::openUrl(QUrl("https://www.qt.io/"));
            }

            // 例4: もし、ダブルクリックでQTreeViewのデフォルトの展開/折りたたみ動作を
            //      させたくない場合は、ここで return します。
            //      そうしない場合は、基底クラスのイベントハンドラを呼び出します。
        } else {
            // アイテム以外の空白領域がダブルクリックされた場合の処理
            qDebug() << "アイテム以外の領域がダブルクリックされました。";
            QMessageBox::information(this, "背景ダブルクリック", "ツリーの空白部分がダブルクリックされました。");
        }
    }

    // 4. 基底クラスのmouseDoubleClickEventを呼び出す(重要)
    //    これを呼び出すことで、QTreeViewのデフォルトのダブルクリック動作(例えば、
    //    アイテムの展開/折りたたみ)が実行されます。
    //    もし、デフォルトの動作を完全に抑制したい場合は、この行をコメントアウトするか、
    //    if文の条件内で return します。
    QTreeView::mouseDoubleClickEvent(event);
}

main.cpp

#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include "MyTreeView.h" // カスタムTreeViewのヘッダをインクルード

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QMainWindow window;
    window.setWindowTitle("QTreeView::mouseDoubleClickEvent の例");
    window.resize(400, 300);

    MyTreeView *treeView = new MyTreeView(&window);

    // QStandardItemModelを作成し、ツリービューに設定
    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 1, treeView); // 0行1列
    model->setHeaderData(0, Qt::Horizontal, "アイテム");

    // ルートアイテムを追加
    QStandardItem *rootItem = model->invisibleRootItem();

    // アイテムを追加
    QStandardItem *item1 = new QStandardItem("親アイテム1");
    rootItem->appendRow(item1);

    QStandardItem *subItem1_1 = new QStandardItem("子アイテム1-1");
    item1->appendRow(subItem1_1);
    subItem1_1->appendRow(new QStandardItem("孫アイテム1-1-1"));
    subItem1_1->appendRow(new QStandardItem("孫アイテム1-1-2"));

    QStandardItem *subItem1_2 = new QStandardItem("子アイテム1-2");
    item1->appendRow(subItem1_2);

    QStandardItem *item2 = new QStandardItem("親アイテム2");
    rootItem->appendRow(item2);
    item2->appendRow(new QStandardItem("重要ファイル.txt")); // 特別な処理をするアイテム
    item2->appendRow(new QStandardItem("URL")); // URLを開くアイテム
    item2->appendRow(new QStandardItem("その他のファイル.doc"));

    treeView->setModel(model);

    window.setCentralWidget(treeView);
    window.show();

    return a.exec();
}

ビルドと実行方法

  1. プロジェクトの作成: Qt CreatorなどのIDEで新しいQt Widgets Applicationプロジェクトを作成します。

  2. ファイルを追加: 上記のMyTreeView.hMyTreeView.cppmain.cppをプロジェクトに追加します。

  3. .proファイルの設定: .proファイル(またはCMakeLists.txt)にwidgetsモジュールが含まれていることを確認します。通常は自動で含まれます。

    QT += widgets
    
  4. ビルド: プロジェクトをビルドします。

  5. 実行: アプリケーションを実行します。

  • QTreeView::mouseDoubleClickEvent(event);を呼び出しているため、アイテムをダブルクリックすると、ツリーの展開/折りたたみといったデフォルトの動作も行われます。この行をコメントアウトすると、カスタム処理のみが実行され、デフォルト動作は無効になります。
  • アイテム以外のツリービューの空白部分をダブルクリックすると、「ツリーの空白部分がダブルクリックされました。」というメッセージボックスが表示されます。
  • 特に「重要ファイル.txt」や「URL」といったアイテムをダブルクリックすると、それぞれに特化したメッセージボックスが表示されることがわかります。
  • ツリービューのアイテムをダブルクリックすると、デバッグ出力 (qDebug()) に情報が表示され、設定によってはメッセージボックスも表示されます。
  • アプリケーションを実行すると、作成したツリービューが表示されます。

前述の通り、多くのケースではmouseDoubleClickEventをオーバーライドするよりも、QTreeViewが提供するdoubleClicked(const QModelIndex &index)シグナルを利用する方がシンプルで推奨されます。

doubleClickedシグナルを使った例 (main.cpp内)

#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QDebug>
#include <QMessageBox>
#include <QDesktopServices>
#include <QUrl>
#include "MyTreeView.h" // MyTreeViewを使いますが、今回はオーバーライドなしでOK

void handleItemDoubleClick(const QModelIndex &index)
{
    if (index.isValid()) {
        QString itemText = index.model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
        qDebug() << "シグナルで受信されたアイテム: " << itemText;
        QMessageBox::information(nullptr, "シグナル受信", "ダブルクリックされたアイテム (シグナル): " + itemText);

        if (itemText == "重要ファイル.txt") {
            QMessageBox::information(nullptr, "ファイルオープン", "「重要ファイル.txt」を開きます。");
            // 実際にはQDesktopServices::openUrl()などを使ってファイルを開く
        }
    } else {
        // doubleClickedシグナルはアイテム以外のダブルクリックでは発せられません
        qDebug() << "空白部分のダブルクリックはシグナルでは捕捉されません。";
    }
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QMainWindow window;
    window.setWindowTitle("QTreeView::doubleClicked() シグナルの例");
    window.resize(400, 300);

    QTreeView *treeView = new QTreeView(&window); // MyTreeViewではなく、QTreeViewのインスタンス

    QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 1, treeView);
    model->setHeaderData(0, Qt::Horizontal, "アイテム");

    QStandardItem *rootItem = model->invisibleRootItem();
    QStandardItem *item1 = new QStandardItem("親アイテム1");
    rootItem->appendRow(item1);
    QStandardItem *subItem1_1 = new QStandardItem("子アイテム1-1");
    item1->appendRow(subItem1_1);
    subItem1_1->appendRow(new QStandardItem("孫アイテム1-1-1"));
    subItem1_1->appendRow(new QStandardItem("孫アイテム1-1-2"));
    QStandardItem *item2 = new QStandardItem("親アイテム2");
    rootItem->appendRow(item2);
    item2->appendRow(new QStandardItem("重要ファイル.txt"));
    item2->appendRow(new QStandardItem("URL"));

    treeView->setModel(model);

    // ★ ここでシグナルをスロットに接続
    QObject::connect(treeView, &QTreeView::doubleClicked,
                     &handleItemDoubleClick); // 関数ポインタまたはラムダ式で接続

    // ラムダ式を使う場合
    // QObject::connect(treeView, &QTreeView::doubleClicked,
    //                  [&](const QModelIndex &index){
    //     if (index.isValid()) {
    //         QString itemText = index.model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
    //         qDebug() << "ラムダで受信されたアイテム: " << itemText;
    //         QMessageBox::information(nullptr, "ラムダ受信", "ダブルクリックされたアイテム: " + itemText);
    //     }
    // });

    window.setCentralWidget(treeView);
    window.show();

    return a.exec();
}


QTreeView::doubleClicked() シグナル

これは、mouseDoubleClickEvent()をオーバーライドする最も一般的で推奨される代替方法です。

  • ユースケース: ほとんどの「アイテムをダブルクリックしたら何かする」という要件に最適です。
  • デメリット:
    • 空白領域のダブルクリックを処理できない: QTreeViewのアイテムがクリックされた場合にのみシグナルが発せられます。ツリービューの背景(アイテムがない部分)をダブルクリックした場合のイベントは捕捉できません。
    • 詳細なマウスイベント情報がない: QMouseEventオブジェクトが直接渡されないため、ダブルクリックに使用されたマウスボタンや修飾キー(Ctrl, Shiftなど)の詳細な情報を直接取得することはできません。これらの情報が必要な場合は、QApplication::queryKeyboardModifiers()などを使って別途取得する必要があります。
  • メリット:
    • シンプルさ: QTreeViewを継承したカスタムクラスを作成する必要がなく、既存のQTreeViewインスタンスに接続するだけで済むため、コードが簡潔になります。
    • Qtのシグナル&スロットメカニズム: Qtの基本的なイベント処理パラダイムに沿っており、理解しやすいです。
    • アイテムに特化: アイテムがダブルクリックされた場合にのみ発せられるため、アイテム以外の空白領域のダブルクリックを気にする必要がない場合は便利です。
    • デフォルト動作の維持: デフォルトでQTreeViewの展開/折りたたみ動作を妨げません。
  • 説明: QTreeView(実際にはその基底クラスであるQAbstractItemView)は、ビュー内のアイテムがダブルクリックされたときにdoubleClicked(const QModelIndex &index)シグナルを発します。このシグナルは、ダブルクリックされたアイテムのQModelIndexを引数として提供します。

コード例:

// main.cpp または関連するウィジェットクラスのコンストラクタで
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QDebug>
#include <QMessageBox>

// スロット関数(またはラムダ式)
void onTreeViewDoubleClicked(const QModelIndex &index)
{
    if (index.isValid()) {
        QString itemText = index.model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
        qDebug() << "doubleClickedシグナル受信: " << itemText;
        QMessageBox::information(nullptr, "アイテムダブルクリック", "ダブルクリックされたアイテム: " + itemText);
    }
}

// ... QTreeViewのセットアップ ...
QTreeView *treeView = new QTreeView(parentWidget);
// モデルの設定など...

// シグナルとスロットを接続
QObject::connect(treeView, &QTreeView::doubleClicked,
                 onTreeViewDoubleClicked); // またはラムダ式

イベントフィルター (QObject::installEventFilter())

イベントフィルターを使用すると、特定のオブジェクトに送られるすべてのイベントを、そのオブジェクトが処理する前に傍受・処理できます。

  • ユースケース:
    • 複数のウィジェットで共通のダブルクリック処理を行いたい場合。
    • 既存のウィジェットを継承せずに、そのイベント処理を変更したい場合。
    • 低レベルなイベント情報(マウスボタン、修飾キー、座標など)にアクセスし、それに基づいて複雑なロジックを実装したい場合。
  • デメリット:
    • 複雑さ: mouseDoubleClickEvent()のオーバーライドやシグナル接続に比べて、実装が少し複雑になります。
    • qobject_cast: イベントの種類を判別し、適切なイベント型にキャストする必要があります。
    • イベントの伝播管理: eventFilter()内でtrueを返すとイベントがそこで停止し、falseを返すと伝播が続きます。これを適切に管理する必要があります。
  • メリット:
    • 柔軟性: 任意のオブジェクト(自身のクラスを含む)の任意のイベントタイプを傍受できます。
    • 事前処理: イベントがターゲットオブジェクトの特定のイベントハンドラに到達する前に処理できます。
    • 複数のフィルター: 1つのオブジェクトに対して複数のイベントフィルターをインストールできます。
    • 空白領域の処理: QEvent::MouseButtonDblClickタイプでフィルタリングすれば、アイテム以外の空白領域のダブルクリックも捕捉できます。
  • 説明: QObject::installEventFilter()を呼び出して、QObjectを継承したクラスのインスタンスをイベントフィルターとして登録します。登録されたフィルターオブジェクトのeventFilter(QObject *watched, QEvent *event)メソッドが、監視対象オブジェクトに送られるすべてのイベントについて呼び出されます。

コード例:

// MyEventFilter.h
#ifndef MYEVENTFILTER_H
#define MYEVENTFILTER_H

#include <QObject>
#include <QEvent>
#include <QMouseEvent>
#include <QTreeView> // フィルター内でQTreeView固有の操作をする場合
#include <QDebug>
#include <QMessageBox>

class MyEventFilter : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}

protected:
    bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override
    {
        // 監視対象がQTreeViewであることを確認
        if (QTreeView *treeView = qobject_cast<QTreeView *>(watched)) {
            // イベントタイプがマウスダブルクリックであることを確認
            if (event->type() == QEvent::MouseButtonDblClick) {
                QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent *>(event);

                // 左ボタンのダブルクリックかを確認
                if (mouseEvent->button() == Qt::LeftButton) {
                    QModelIndex index = treeView->indexAt(mouseEvent->pos());
                    if (index.isValid()) {
                        QString itemText = treeView->model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
                        qDebug() << "イベントフィルターでアイテムダブルクリック: " << itemText;
                        QMessageBox::information(nullptr, "イベントフィルター", "アイテム: " + itemText);
                        // イベントを処理したので、他のオブジェクトには伝播させない
                        return true;
                    } else {
                        qDebug() << "イベントフィルターで空白領域ダブルクリック";
                        QMessageBox::information(nullptr, "イベントフィルター", "ツリーの空白領域がダブルクリックされました。");
                        // イベントを処理したので、他のオブジェクトには伝播させない
                        return true;
                    }
                }
            }
        }
        // 他のイベントや、このフィルターで処理しないイベントは通常通り伝播させる
        return QObject::eventFilter(watched, event);
    }
};

#endif // MYEVENTFILTER_H

// main.cpp または関連するウィジェットクラスのコンストラクタで
#include "MyEventFilter.h"
// ... QTreeViewのセットアップ ...
QTreeView *treeView = new QTreeView(parentWidget);
// モデルの設定など...

MyEventFilter *filter = new MyEventFilter(treeView); // 親をtreeViewにするとメモリ管理が楽
treeView->installEventFilter(filter); // treeViewにフィルターをインストール

QObject::event() の再実装

これは、特定のウィジェットクラスが自身のイベントを処理する最も低レベルな方法です。QWidgetQTreeViewのイベントハンドラ(例: mouseDoubleClickEvent())も、内部的にはこのevent()関数から呼び出されています。

  • ユースケース:
    • 複数の異なるイベントタイプを連携して処理する必要がある、非常に特殊なカスタムウィジェットの場合。
    • Qtのデフォルトのイベント処理フローを根本的に変更したい場合(稀)。
  • デメリット:
    • 非常に低レベル: イベントの種類を自分で判別し、適切な型にキャストし、それぞれのイベントハンドラ(例: mouseDoubleClickEvent())を呼び出すロジックを自分で実装する必要があります。
    • 基底クラスの呼び出し: 自分で処理しないイベントは、必ず基底クラスのevent()を呼び出して伝播させる必要があります。これを怠ると、他の多くのイベント(ペイント、キープレスなど)が機能しなくなります。
    • 複雑なコードになりがち: 通常、特定のイベントハンドラをオーバーライドする方が簡潔です。
  • メリット:
    • 最高レベルの制御: 特定のイベントハンドラが呼び出される前に、すべてのイベントを傍受できます。
    • すべてのイベントタイプ: mouseDoubleClickEvent()のような特定のイベントハンドラが存在しないイベントタイプも処理できます。
  • 説明: QObject(およびそのサブクラス)は、すべてのイベントが最終的にevent(QEvent *event)仮想関数に送られます。この関数を再実装することで、任意のイベントタイプを捕捉できます。

コード例:

// MyTreeView.h は mouseDoubleClickEvent() のオーバーライド例とほぼ同じ
// protected: bool event(QEvent *event) override; を追加

// MyTreeView.cpp (MyTreeViewクラス内)
#include "MyTreeView.h"
#include <QDebug>
#include <QMessageBox>

// ... MyTreeViewのコンストラクタ ...

bool MyTreeView::event(QEvent *event)
{
    if (event->type() == QEvent::MouseButtonDblClick) {
        QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent *>(event);

        if (mouseEvent->button() == Qt::LeftButton) {
            QModelIndex index = indexAt(mouseEvent->pos());
            if (index.isValid()) {
                QString itemText = model()->data(index, Qt::DisplayRole).toString();
                qDebug() << "event()でアイテムダブルクリック: " << itemText;
                QMessageBox::information(this, "event()", "アイテム: " + itemText);
                // イベントを処理したので、他のイベントハンドラには伝播させない
                return true;
            } else {
                qDebug() << "event()で空白領域ダブルクリック";
                QMessageBox::information(this, "event()", "ツリーの空白領域がダブルクリックされました。");
                return true;
            }
        }
    }
    // 処理しないイベントは基底クラスのevent()に任せる
    return QTreeView::event(event);
}
  • 非常に複雑で広範囲なイベント処理が必要な場合(稀): QObject::event()を再実装する
  • 特定のウィジェットを継承せずにイベント処理をカスタマイズしたい場合: イベントフィルターを使用する
  • 低レベルなマウスイベントの詳細(修飾キーなど)が必要な場合: QTreeView::mouseDoubleClickEvent()をオーバーライドするか、イベントフィルターを使用する
  • アイテム以外の領域のダブルクリックを処理したい場合: QTreeView::mouseDoubleClickEvent()をオーバーライドするか、イベントフィルターを使用する
  • 最も一般的で推奨されるアプローチ: QTreeView::doubleClicked()シグナルを使用する。ほとんどの「アイテムのダブルクリック」処理はこの方法で十分であり、コードが最もシンプルで安全です。