void QTreeView::keyPressEvent()
QTreeView::keyPressEvent
は、QtのQTreeView
ウィジェットにフォーカスがある状態で、ユーザーがキーボードのキーを押したときに自動的に呼び出されるイベントハンドラ関数です。
Qtのウィジェットは、キーボードやマウスの操作などのイベントを受け取ると、それらを処理するための特定の仮想関数(イベントハンドラ)を呼び出します。keyPressEvent
はその一つで、キーボードのキーが押されたことを通知するイベントを処理するために使われます。
どのような時に使うのか
通常、QTreeView
は標準で多くのキー操作に対応しています。例えば、上下左右の矢印キーでアイテム間を移動したり、Enterキーでアイテムを編集したり、Deleteキーでアイテムを削除したりといった動作は、QTreeView
が内部でkeyPressEvent
を処理することで実現されています。
しかし、以下のようなカスタムのキー操作を実装したい場合に、このkeyPressEvent
をオーバーライド(上書き)して使用します。
- キー入力に基づいてツリービューの表示をフィルタリングする: 例えば、検索ボックスのように、キー入力に応じて表示されるアイテムを絞り込む。
- デフォルトのキー操作を変更または無効にする: 例えば、Enterキーを押してもアイテムの編集を開始しないようにする、など。
- 特定のキーにカスタムの動作を割り当てる: 例えば、
Ctrl + S
でツリービューの内容を保存する、F2
キーでアイテムの名前を変更する、など。
関数の引数
QKeyEvent *event
: ユーザーが押したキーに関する情報(どのキーが押されたか、CtrlやShiftなどの修飾キーも同時に押されたかなど)を持つQKeyEvent
オブジェクトへのポインタです。このオブジェクトのメソッド(例:event->key()
で押されたキーコードを取得、event->modifiers()
で修飾キーを取得)を使って、どのキーが押されたかを判断し、それに応じた処理を記述します。
オーバーライドの例
以下は、QTreeView
を継承したカスタムクラスでkeyPressEvent
をオーバーライドする基本的なC++の例です。
#include <QTreeView>
#include <QKeyEvent> // QKeyEvent クラスを使うために必要
#include <QDebug> // デバッグ出力のために必要
class MyTreeView : public QTreeView
{
Q_OBJECT // Qtのメタオブジェクトシステムを使うために必要
public:
MyTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {}
protected:
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override // keyPressEventをオーバーライド
{
// 押されたキーをチェック
if (event->key() == Qt::Key_S && event->modifiers() == Qt::ControlModifier) {
// Ctrl + S が押された場合のカスタム処理
qDebug() << "Ctrl + S が押されました!データを保存します。";
// ここに保存処理などを記述
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマークし、親クラスのイベント処理を停止
} else if (event->key() == Qt::Key_Delete) {
// Delete キーが押された場合のカスタム処理
qDebug() << "Delete キーが押されました。選択されたアイテムを削除します。";
// ここにアイテム削除処理などを記述
event->accept();
} else {
// それ以外のキーイベントは、親クラスのデフォルト処理に任せる
QTreeView::keyPressEvent(event);
}
}
};
MyTreeView
クラスはQTreeView
を継承しています。protected
セクションでvoid keyPressEvent(QKeyEvent *event) override
を定義します。override
キーワードは、これが基底クラスの仮想関数をオーバーライドしていることを明示します。- 関数内で、
event->key()
を使って押されたキーのコードを取得し、Qt::Key_S
などのQt::Key
列挙型と比較してキーを識別します。 event->modifiers()
を使って、同時に押された修飾キー(Qt::ControlModifier
など)をチェックします。- カスタム処理を実行した後、
event->accept()
を呼び出すことで、このイベントが「処理済み」であることをQtシステムに伝えます。これにより、イベントが親ウィジェットや基底クラスのkeyPressEvent
に伝播するのを防ぎ、デフォルトの動作が実行されなくなります。 - もしカスタム処理を行わないキーイベントであれば、
QTreeView::keyPressEvent(event);
を呼び出して、基底クラス(QTreeView
)のデフォルトのイベント処理を実行させます。これにより、矢印キーによる移動などの標準的な動作が維持されます。
keyPressEvent
は、Qtのイベント処理メカニズムの根幹に関わるため、正しく理解していないと意図した通りに動作しないことがあります。以下に、よくある問題とその解決策を挙げます。
キーイベントが全く発生しない、または特定のキーだけ反応しない
原因
- システムレベルのホットキーとの競合
OSや他のアプリケーションのグローバルホットキーが、Qtアプリケーションのキーイベントを横取りしている場合があります。 - イベントフィルターによって処理されている
アプリケーション全体や他のウィジェットにイベントフィルターがインストールされており、QTreeView
に到達する前にキーイベントを捕捉・破棄している可能性があります。 - イベントが親ウィジェットによって横取りされている
親ウィジェットが先にキーイベントを処理し、子ウィジェットに伝播させないようにしている可能性があります。 - フォーカスポリシーが正しくない
ウィジェットのfocusPolicy
がQt::NoFocus
に設定されている場合、フォーカスを受け取ることができません。 - フォーカスがない
ウィジェットがキーイベントを受け取るためには、そのウィジェットがフォーカスを持っている必要があります。これが最も一般的な原因です。
トラブルシューティング
- イベントフィルターの確認
アプリケーション全体にイベントフィルターをインストールしている場合、そのフィルターが意図せずキーイベントを捕捉している可能性があります。 - event->accept()/event->ignore()の扱い
keyPressEvent
内でevent->accept()
を呼び出すと、イベントは処理済みとマークされ、それ以上上位の親ウィジェットや基底クラスのkeyPressEvent
には伝播しません。もし親クラスのデフォルト動作も期待している場合は、event->ignore()
を呼び出すか、QTreeView::keyPressEvent(event);
を呼び出して、イベントを親に渡す必要があります。意図せずevent->accept()
してしまい、標準の動作が失われることがあります。 - イベントの伝播を確認する
keyPressEvent
の先頭にqDebug()
を挿入し、イベントが実際に到達しているか確認します。
もしこのメッセージが表示されない場合、イベントがvoid MyTreeView::keyPressEvent(QKeyEvent *event) { qDebug() << "keyPressEvent called for key:" << event->key(); // ... (以下、既存のコード) }
QTreeView
に到達していません。その場合は、親ウィジェットやQApplication
にイベントフィルターをインストールし、キーイベントがどこでブロックされているかを調査します。 - フォーカスポリシーを設定する
QTreeView
のコンストラクタや初期化時に、適切なフォーカスポリシーを設定します。myTreeView->setFocusPolicy(Qt::StrongFocus); // キーボードとクリックの両方でフォーカスを受け取る // または Qt::TabFocus, Qt::ClickFocus など、用途に合わせて
- フォーカスを確認する
QTreeView
ウィジェットにフォーカスが当たっているか確認してください。プログラム的にmyTreeView->setFocus();
を呼び出すか、アプリケーション実行中にQTreeView
をクリックしてフォーカスを当ててみてください。- デバッグ目的で、
QApplication::focusWidget()
を呼び出して、現在フォーカスを持っているウィジェットが何であるかを確認すると良いでしょう。 <!-- end list -->
#include <QApplication> #include <QDebug> // ... qDebug() << "Current focused widget:" << QApplication::focusWidget();
カスタム処理が実行された後も、デフォルトの動作が続いてしまう
原因
- event->accept()を呼び忘れている
カスタム処理を実行した後、イベントが処理済みであることをQtに知らせるためにevent->accept()
を呼び出す必要があります。これを呼び出さないと、イベントは引き続き親ウィジェットや基底クラスのkeyPressEvent
に伝播し、デフォルトの動作が実行されてしまいます。
トラブルシューティング
-
カスタム処理を行ったコードパスの最後に
event->accept();
を追加してください。void MyTreeView::keyPressEvent(QKeyEvent *event) { if (event->key() == Qt::Key_S && event->modifiers() == Qt::ControlModifier) { qDebug() << "Ctrl + S が押されました!"; // ... (カスタム保存処理) event->accept(); // これが重要! } else { QTreeView::keyPressEvent(event); // デフォルトの動作を継続させる場合 } }
QTreeView::keyPressEvent(event)を呼び出すべきかどうかわからない
原因
- デフォルトの動作を維持したいのか、完全に独自の動作に置き換えたいのかが明確でない。
トラブルシューティング
- 全てのキーイベントを完全に独自に処理したい場合
QTreeView::keyPressEvent(event);
を呼び出す必要はありません。ただし、その場合、QTreeView
の標準的なキーボード操作(移動、展開/折りたたみ、編集など)はすべて自分で実装し直す必要があります。これは稀なケースです。 - デフォルトの動作を維持しつつ、特定のキーだけカスタム処理をしたい場合
カスタム処理を行わないキーイベントについては、必ずQTreeView::keyPressEvent(event);
を呼び出してください。これにより、矢印キーでの移動やEnterキーでの編集など、QTreeView
が本来持っている便利な機能が失われません。void MyTreeView::keyPressEvent(QKeyEvent *event) { if (/* 特定のキーの条件 */) { // カスタム処理 event->accept(); // デフォルト動作を停止 } else { // それ以外のキーはデフォルト処理に任せる QTreeView::keyPressEvent(event); } }
修飾キー(Ctrl, Alt, Shift)が正しく検出されない
原因
event->modifiers()
の比較方法が間違っている。
トラブルシューティング
-
event->modifiers()
はQt::KeyboardModifiers
型で、複数の修飾キーが同時に押された場合、それらのビット OR (|
) となります。特定の修飾キーが含まれているかをチェックするには、ビットAND (&
) を使用します。if (event->key() == Qt::Key_S && (event->modifiers() & Qt::ControlModifier)) { // Ctrl キーが押されていることを検出 } if (event->key() == Qt::Key_A && (event->modifiers() & (Qt::ControlModifier | Qt::ShiftModifier))) { // Ctrl と Shift の両方が押されていることを検出 }
あるいは、厳密にCtrlキーだけが押されていることを確認したい場合は、
event->modifiers() == Qt::ControlModifier
のように直接比較します。
keyPressEventの代わりにeventFilterを使うべきか?
原因
QTreeView
を直接継承できない、または単一のウィジェットだけでなく、複数のウィジェットで共通のキーイベント処理を行いたい場合。
-
eventFilter
- 既存のウィジェットクラスを変更せずにキーイベントを捕捉したい場合。
- 親ウィジェットが子ウィジェットのキーイベントを横取りしたい場合。
- 複数のウィジェットで同じキーイベント処理を共有したい場合。
- アプリケーション全体で特定のキーイベントを捕捉したい場合(
QApplication::instance()->installEventFilter(myFilterObject);
)。
eventFilter
はより強力ですが、実装が少し複雑になります。通常、QTreeView
のカスタム動作ではkeyPressEvent
のオーバーライドで十分です。 -
keyPressEventをオーバーライド
最も直接的で、そのウィジェットに特化したキーイベント処理を行う場合に適しています。
例1: 特定のキーでカスタムアクションを実行する
この例では、QTreeView
にフォーカスがある状態で、Ctrl + S
が押されたら「保存」メッセージを、Delete
キーが押されたら「削除」メッセージをデバッグ出力するカスタム動作を実装します。それ以外のキーは、QTreeView
の標準的な動作(矢印キーでの移動など)に任せます。
MyTreeView.h
#ifndef MYTREEVIEW_H
#define MYTREEVIEW_H
#include <QTreeView>
#include <QKeyEvent> // QKeyEvent を使うために必要
#include <QDebug> // qDebug() を使うために必要
class MyTreeView : public QTreeView
{
Q_OBJECT // Qtのメタオブジェクトシステムを使うために必要
public:
explicit MyTreeView(QWidget *parent = nullptr);
protected:
// keyPressEvent をオーバーライドします
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override;
};
#endif // MYTREEVIEW_H
MyTreeView.cpp
#include "MyTreeView.h"
MyTreeView::MyTreeView(QWidget *parent) : QTreeView(parent)
{
// ツリービューがキーイベントを受け取れるようにフォーカスポリシーを設定
setFocusPolicy(Qt::StrongFocus);
}
void MyTreeView::keyPressEvent(QKeyEvent *event)
{
// 押されたキーと修飾キーをチェック
if (event->key() == Qt::Key_S && (event->modifiers() & Qt::ControlModifier)) {
// Ctrl + S が押された場合のカスタム処理
qDebug() << "Ctrl + S が押されました!データを保存します。";
// ここに実際の保存ロジックを追加できます。
// 例: saveCurrentData();
// イベントを処理済みとしてマークし、親クラスのイベント処理を停止します。
event->accept();
} else if (event->key() == Qt::Key_Delete) {
// Delete キーが押された場合のカスタム処理
qDebug() << "Delete キーが押されました。選択されたアイテムを削除します。";
// ここに実際の削除ロジックを追加できます。
// 例: deleteSelectedItems();
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマーク
} else {
// 上記以外のキーイベントは、QTreeView のデフォルト処理に任せます。
// これにより、矢印キーでの移動や Enter キーでの編集などが機能します。
QTreeView::keyPressEvent(event);
}
}
main.cpp (このカスタムMyTreeView
を使用する例)
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QVBoxLayout>
#include <QStandardItemModel> // ツリービューのモデルとして使用
#include "MyTreeView.h"
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
QWidget *centralWidget = new QWidget(&window);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
MyTreeView *treeView = new MyTreeView(centralWidget);
// モデルのセットアップ (簡単な例)
QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 1, centralWidget);
model->setHeaderData(0, Qt::Horizontal, "アイテム");
QStandardItem *parentItem1 = new QStandardItem("親アイテム 1");
parentItem1->appendRow(new QStandardItem("子アイテム 1.1"));
parentItem1->appendRow(new QStandardItem("子アイテム 1.2"));
model->appendRow(parentItem1);
QStandardItem *parentItem2 = new QStandardItem("親アイテム 2");
parentItem2->appendRow(new QStandardItem("子アイテム 2.1"));
model->appendRow(parentItem2);
treeView->setModel(model);
layout->addWidget(treeView);
window.setCentralWidget(centralWidget);
window.setWindowTitle("カスタム QTreeView KeyPressEvent の例");
window.resize(400, 300);
window.show();
return a.exec();
}
例2: 特定のキーのデフォルト動作を無効にする
この例では、QTreeView
のデフォルトのEnter
キーによるアイテム編集開始の動作を無効にし、代わりに「Enterキーが押されました」というメッセージを表示するようにします。
MyTreeView.h (例1と同じ)
MyTreeView.cpp
#include "MyTreeView.h"
MyTreeView::MyTreeView(QWidget *parent) : QTreeView(parent)
{
setFocusPolicy(Qt::StrongFocus);
}
void MyTreeView::keyPressEvent(QKeyEvent *event)
{
if (event->key() == Qt::Key_Return || event->key() == Qt::Key_Enter) {
// Enter キーが押されたが、デフォルトの編集動作は行わない
qDebug() << "Enter キーが押されましたが、編集は開始されません。";
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマークし、デフォルト動作を停止
} else {
// それ以外のキーは QTreeView のデフォルト処理に任せる
QTreeView::keyPressEvent(event);
}
}
main.cpp (例1と同じ)
この例では、Enterキーを押してもアイテムが編集モードにならないことを確認できます。
例3: キー入力に基づいてツリービューの表示をフィルタリングする
この例は少し複雑になりますが、keyPressEvent
を使って、ユーザーが入力した文字に基づいてツリービューのアイテムをフィルタリングする基本的なアイデアを示します。この実装には、モデルのフィルタリング機能を利用する必要があります。ここでは概念的な例を示します。実際のフィルタリングにはQSortFilterProxyModel
の使用が推奨されます。
MyFilteringTreeView.h
#ifndef MYFILTERINGTREEVIEW_H
#define MYFILTERINGTREEVIEW_H
#include <QTreeView>
#include <QKeyEvent>
#include <QDebug>
#include <QString>
#include <QStandardItemModel> // この例では直接モデルを操作
class MyFilteringTreeView : public QTreeView
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyFilteringTreeView(QWidget *parent = nullptr);
protected:
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override;
private:
void filterItems(const QString &filterText);
QString currentFilter;
};
#endif // MYFILTERINGTREEVIEW_H
MyFilteringTreeView.cpp
#include "MyFilteringTreeView.h"
MyFilteringTreeView::MyFilteringTreeView(QWidget *parent) : QTreeView(parent)
{
setFocusPolicy(Qt::StrongFocus);
}
void MyFilteringTreeView::keyPressEvent(QKeyEvent *event)
{
// 文字キーが押された場合
if (event->text().length() == 1 && event->text().at(0).isLetterOrNumber()) {
currentFilter += event->text();
qDebug() << "現在のフィルター:" << currentFilter;
filterItems(currentFilter);
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマーク
}
// Backspace でフィルターをクリア (一文字削除)
else if (event->key() == Qt::Key_Backspace) {
if (!currentFilter.isEmpty()) {
currentFilter.chop(1); // 最後の文字を削除
qDebug() << "現在のフィルター:" << currentFilter;
filterItems(currentFilter);
event->accept();
} else {
// フィルターが空の場合はデフォルト動作 (親クラスにイベントを渡す)
QTreeView::keyPressEvent(event);
}
}
// Escape でフィルターをクリア
else if (event->key() == Qt::Key_Escape) {
currentFilter.clear();
qDebug() << "フィルターをクリアしました。";
filterItems(currentFilter);
event->accept();
}
else {
// それ以外のキーはデフォルト処理に任せる
QTreeView::keyPressEvent(event);
}
}
void MyFilteringTreeView::filterItems(const QString &filterText)
{
QStandardItemModel *standardModel = qobject_cast<QStandardItemModel*>(model());
if (!standardModel) {
qDebug() << "モデルが QStandardItemModel ではありません。";
return;
}
// 全てのアイテムを表示/非表示にする簡単な例
// 実際のアプリケーションでは、QSortFilterProxyModel を使用することを強く推奨します
for (int i = 0; i < standardModel->rowCount(); ++i) {
QStandardItem *item = standardModel->item(i);
if (item) {
bool matches = item->text().contains(filterText, Qt::CaseInsensitive);
setRowHidden(i, QModelIndex(), !matches); // トップレベルアイテムの表示/非表示
// 子アイテムも同様に処理する場合
for (int j = 0; j < item->rowCount(); ++j) {
QStandardItem *childItem = item->child(j);
if (childItem) {
bool childMatches = childItem->text().contains(filterText, Qt::CaseInsensitive);
// 親が一致しない場合でも、子アイテムが一致すれば親を展開して表示するロジックが必要になる
// このシンプルな例では、親が非表示なら子も非表示になります
setRowHidden(j, item->index(), !childMatches && !matches); // 子アイテムの表示/非表示
}
}
}
}
}
main.cpp (MyFilteringTreeViewを使用する例)
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QVBoxLayout>
#include <QStandardItemModel>
#include "MyFilteringTreeView.h" // MyFilteringTreeView をインクルード
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
QWidget *centralWidget = new QWidget(&window);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
MyFilteringTreeView *treeView = new MyFilteringTreeView(centralWidget); // ここでカスタムクラスを使用
QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(0, 1, centralWidget);
model->setHeaderData(0, Qt::Horizontal, "アイテム");
QStandardItem *parentItem1 = new QStandardItem("Apple");
parentItem1->appendRow(new QStandardItem("Red Apple"));
parentItem1->appendRow(new QStandardItem("Green Apple"));
model->appendRow(parentItem1);
QStandardItem *parentItem2 = new QStandardItem("Banana");
parentItem2->appendRow(new QStandardItem("Yellow Banana"));
model->appendRow(parentItem2);
QStandardItem *parentItem3 = new QStandardItem("Orange");
model->appendRow(parentItem3);
treeView->setModel(model);
layout->addWidget(treeView);
window.setCentralWidget(centralWidget);
window.setWindowTitle("QTreeView フィルタリングの例");
window.resize(400, 300);
window.show();
return a.exec();
}
実行結果
このプログラムを実行し、QTreeView
にフォーカスを当ててキーボードで文字を入力すると、デバッグ出力に現在のフィルターテキストが表示され、それに合わせてツリービューのアイテムが表示/非表示されることを確認できます。例えば、「a」と入力すると「Apple」や「Banana」が表示され、「p」と続けて入力すると「Apple」だけが表示されるようになります(ただし、子アイテムの表示ロジックは単純な例のため、子アイテムがフィルターにヒットしても親がヒットしない場合は親も非表示になる点に注意してください。本格的なフィルタリングにはQSortFilterProxyModel
を使うべきです)。
イベントフィルター (Event Filters)
これは最も強力で柔軟な代替手段の一つです。イベントフィルターを使用すると、特定のオブジェクトに送信される全てのイベント(キーイベント、マウスイベント、サイズ変更イベントなど)を、そのオブジェクトが処理する前に捕捉・検査・変更・破棄することができます。
特徴
- アプリケーション全体
QApplication
インスタンスにイベントフィルターをインストールすると、アプリケーション内の全てのウィジェットに送信されるイベントを捕捉できます。 - 複数オブジェクトへの適用
同じイベントフィルターを複数のウィジェットにインストールできます。 - 分離
イベント処理ロジックをウィジェットクラスの外部に分離できます。 - 柔軟性
任意のQObject
から継承したオブジェクトにインストールでき、そのオブジェクトが受け取る全てのイベントを傍受できます。
使用シナリオ
- デバッグ目的で、特定のイベントのフローを監視したい場合。
- 親ウィジェットが子ウィジェットのキーイベントを処理したい場合。
- 複数の異なるウィジェットで共通のキーボードショートカットやジェスチャーを実装したい場合。
QTreeView
クラス自体を変更できない場合(例: Qtの標準QTreeView
をそのまま使用している場合)。
実装方法
QObject
を継承したクラスを作成し、eventFilter(QObject *watched, QEvent *event)
仮想関数をオーバーライドします。- この関数内で、
event->type()
をチェックしてQEvent::KeyPress
であるかを確認し、qobject_cast<QKeyEvent*>(event)
でQKeyEvent
にキャストします。 - イベントを処理した場合は
true
を返し、処理しなかった(イベントをさらに伝播させたい)場合はfalse
を返します。 - イベントフィルターオブジェクトを作成し、対象の
QTreeView
インスタンスに対してinstallEventFilter(this)
(this
はイベントフィルターオブジェクト)を呼び出します。
例
// MyKeyEventFilter.h
#ifndef MYKEYEVENTFILTER_H
#define MYKEYEVENTFILTER_H
#include <QObject>
#include <QEvent>
#include <QKeyEvent>
#include <QDebug>
#include <QTreeView> // フィルター対象がQTreeViewであることを想定
class MyKeyEventFilter : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyKeyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}
protected:
bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override
{
if (event->type() == QEvent::KeyPress) {
QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(event);
if (keyEvent->key() == Qt::Key_Space) {
// QTreeView にフォーカスがある時にスペースキーが押された
if (watched == parent()) { // このフィルターが親オブジェクト(例: MyTreeView)にインストールされている場合
qDebug() << "イベントフィルター: スペースキーが押されました。";
// ここで QTreeView のカスタム処理を記述できます
// 例: treeView->expandAll(); or treeView->collapseAll();
return true; // イベントを処理し、それ以上伝播させない
}
}
}
// 他のイベントや処理しないキーイベントは、通常のイベント処理に任せる
return QObject::eventFilter(watched, event);
}
};
#endif // MYKEYEVENTFILTER_H
// MyTreeView.h (または main.cpp の中で直接)
// MyTreeView クラスは MyKeyEventFilter を使用するように変更
#ifndef MYTREEVIEW_H
#define MYTREEVIEW_H
#include <QTreeView>
#include <QKeyEvent>
#include <QDebug>
#include "MyKeyEventFilter.h" // イベントフィルターをインクルード
class MyTreeView : public QTreeView
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyTreeView(QWidget *parent = nullptr) : QTreeView(parent) {
setFocusPolicy(Qt::StrongFocus);
// このツリービューにイベントフィルターをインストール
installEventFilter(new MyKeyEventFilter(this)); // 親をthisに設定することで、ツリービューが破棄されるときにフィルターも破棄される
}
protected:
// keyPressEvent は必要に応じてオーバーライドしても良いが、
// イベントフィルターがイベントを accept() するとここには到達しない
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override {
qDebug() << "QTreeView::keyPressEvent called for key:" << event->key();
QTreeView::keyPressEvent(event);
}
};
#endif // MYTREEVIEW_H
アクション (QAction) とショートカット (QShortcut)
QtのQAction
クラスは、メニュー項目、ツールバーボタン、コンテキストメニュー項目、そしてキーボードショートカットに紐付けられるアクションを抽象化します。QShortcut
クラスは、より直接的にキーボードショートカットを特定のウィジェットに紐付けるために使用できます。
特徴
- QShortcut
特定のウィジェットにカスタムショートカットを設定したい場合に直接的です。 - QAction
複数のUI要素(メニュー、ツールバー、ショートカット)に同じ動作を割り当てたい場合に非常に便利です。QAction
にはshortcut()
プロパティがあり、キーシーケンスを設定できます。
使用シナリオ
QTreeView
上で特定のキーシーケンス(例:Ctrl+Shift+X
)が押されたときに、定義済みのアクションを実行したい場合。QTreeView
のコンテキストメニューやメインメニューにも表示されるような、一般的なアクションをキーボードショートカットでトリガーしたい場合。
実装方法 (QAction)
QAction
オブジェクトを作成し、必要なテキスト、アイコン、ショートカット(QKeySequence
)を設定します。QAction
のtriggered()
シグナルを、カスタム処理を行うスロットに接続します。QTreeView
にQAction
を追加します(例:myTreeView->addAction(myAction);
)。これにより、QTreeView
にフォーカスがあるときにショートカットが有効になります。
例
// main.cpp または QMainWindow のコンストラクタなど
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QVBoxLayout>
#include <QStandardItemModel>
#include <QAction> // QAction を使うために必要
#include <QDebug>
#include "MyTreeView.h" // 例1の MyTreeView を使用
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
QWidget *centralWidget = new QWidget(&window);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
MyTreeView *treeView = new MyTreeView(centralWidget);
// ... (モデルのセットアップは例1と同じ)
// QAction を作成し、ショートカットを設定
QAction *saveAction = new QAction("保存", &window);
saveAction->setShortcut(QKeySequence(Qt::Control | Qt::Key_S));
// アクションがトリガーされたときに実行されるスロットを接続
QObject::connect(saveAction, &QAction::triggered, [](){
qDebug() << "QAction: Ctrl + S がトリガーされました!データを保存します。";
// ここに実際の保存ロジック
});
// QTreeView にアクションを追加
// これにより、QTreeView にフォーカスがある時にショートカットが有効になります。
treeView->addAction(saveAction);
treeView->setContextMenuPolicy(Qt::ActionsContextMenu); // コンテキストメニューにも表示されるようにする(オプション)
layout->addWidget(treeView);
window.setCentralWidget(centralWidget);
window.setWindowTitle("QAction ショートカットの例");
window.resize(400, 300);
window.show();
return a.exec();
}
installEventFilterを介したQApplicationレベルのイベントフィルター
上記1のイベントフィルターの特殊なケースですが、QApplication
インスタンスにイベントフィルターをインストールすると、全てのウィジェットに到達する前のイベントを捕捉できます。これは非常に強力ですが、注意して使用する必要があります。
特徴
- 優先度が高い
イベントが個々のウィジェットに到達する前に処理されます。 - グローバルな傍受
アプリケーション内のいかなるウィジェットに送られるイベントも捕捉できます。
使用シナリオ
- 特定の種類のイベント(例: 全てのキープレス)をデバッグ目的でログに記録したい場合。
- アプリケーション全体で特定のグローバルなホットキーを実装したい場合。
実装方法
QApplication::instance()->installEventFilter(myFilterObject);
を呼び出します。
例
// main.cpp
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QDebug>
#include <QKeyEvent>
#include <QEvent>
// グローバルイベントフィルタークラス
class GlobalKeyEventFilter : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
explicit GlobalKeyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}
protected:
bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override
{
if (event->type() == QEvent::KeyPress) {
QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(event);
qDebug() << "グローバルフィルター: キーが押されました - " << keyEvent->key()
<< "オブジェクト:" << watched->objectName(); // オブジェクト名を出力
// 例: F1 キーが押されたらヘルプを表示し、イベントを消費
if (keyEvent->key() == Qt::Key_F1) {
qDebug() << "グローバルフィルター: F1キーが押されました。ヘルプを表示します。";
// showHelpDialog(); // ヘルプダイアログ表示などの処理
return true; // イベントを消費
}
}
return QObject::eventFilter(watched, event);
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
// グローバルイベントフィルターをインストール
GlobalKeyEventFilter *globalFilter = new GlobalKeyEventFilter(&a); // QApplication を親とする
a.installEventFilter(globalFilter);
QMainWindow window;
// ... (QTreeView のセットアップは省略、例1と同じ)
window.setWindowTitle("グローバルイベントフィルターの例");
window.resize(400, 300);
window.show();
return a.exec();
}
void QTreeView::keyPressEvent()
のオーバーライドは、QTreeView
に特化したキーイベント処理を行うための最も直接的な方法ですが、上記の代替手段も知っておくと、より複雑なアプリケーションの要件に対応できます。
- QApplicationレベルのイベントフィルター
アプリケーション全体でグローバルなキーイベントを処理したい場合。 - QAction / QShortcut
UIアクションとキーボードショートカットを統合したい場合や、特定のキーシーケンスに明確なアクションを割り当てたい場合。 - イベントフィルター
ウィジェットの外部でイベントを傍受・処理したい場合や、複数のウィジェットで共通の処理をしたい場合。 - keyPressEventオーバーライド
特定のウィジェットに直接関連するキーイベント処理。最も一般的。