Qt QTreeView::expand()のエラー解消法とトラブルシューティング完全ガイド
QTreeView
は、Qtにおけるツリー構造のデータを表示するためのウィジェットです。ファイルシステムや階層的なデータを表示する際によく利用されます。
QTreeView::expand()
は、このQTreeView
クラスのパブリックスロット(public slot)の一つで、引数に指定されたQModelIndex
が示すモデルアイテムを展開(expand)するために使用されます。
具体的に何をするのか?
QTreeView
では、子アイテムを持つアイテム(ノード)は、通常、展開された状態(子アイテムが表示されている状態)と、折りたたまれた状態(子アイテムが非表示になっている状態)のどちらかになります。
expand(const QModelIndex &index)
メソッドを呼び出すと、引数index
で指定されたアイテムが、もし子アイテムを持つ場合に、その子アイテムが表示されるようにツリービューの状態が変更されます。ユーザーがGUI上でツリーアイテムの隣にある「+」記号をクリックするのと同じ操作を、プログラムから実行するものです。
引数
const QModelIndex &index
: 展開したいアイテムのモデルインデックス(QModelIndex
)を指定します。QModelIndex
は、モデル内の特定のアイテムを一意に識別するためのものです。
関連するメソッドとシグナル
void QTreeView::collapsed(const QModelIndex &index)
[signal]: アイテムが折りたたまれたときに発行されるシグナルです。void QTreeView::expanded(const QModelIndex &index)
[signal]: アイテムが展開されたときに発行されるシグナルです。void QTreeView::collapseAll()
: すべての展開されたアイテムを折りたたみます。void QTreeView::collapse(const QModelIndex &index)
: 指定されたアイテムを折りたたみます。void QTreeView::expandToDepth(int depth)
: すべてのアイテムを指定された深さまで展開します。void QTreeView::expandAll()
: ツリービュー内のすべての展開可能なアイテムを再帰的に展開します。
使用例
例えば、特定のパス(例: /home/user/Documents
)に対応するアイテムをQTreeView
で自動的に展開したい場合、まずそのパスに対応するQModelIndex
を取得し、そのQModelIndex
をexpand()
メソッドに渡すことになります。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QStandardItemModel model;
// ルートアイテム
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
// 親アイテム "Parent 1" を追加
QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("Parent 1");
rootItem->appendRow(parent1);
// "Parent 1" の子アイテム "Child 1.1" を追加
QStandardItem *child1_1 = new QStandardItem("Child 1.1");
parent1->appendRow(child1_1);
// "Parent 1" の子アイテム "Child 1.2" を追加
QStandardItem *child1_2 = new QStandardItem("Child 1.2");
parent1->appendRow(child1_2);
// "Child 1.2" のさらに子アイテム "Grandchild 1.2.1" を追加
QStandardItem *grandchild1_2_1 = new QStandardItem("Grandchild 1.2.1");
child1_2->appendRow(grandchild1_2_1);
// 親アイテム "Parent 2" を追加
QStandardItem *parent2 = new QStandardItem("Parent 2");
rootItem->appendRow(parent2);
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
// 特定のアイテムを展開する例
// "Parent 1" を展開
QModelIndex parent1Index = model.index(0, 0); // 最初のトップレベルアイテム (Parent 1)
treeView.expand(parent1Index);
// "Child 1.2" を展開
QModelIndex child1_2Index = model.index(1, 0, parent1Index); // Parent 1 の2番目の子 (Child 1.2)
treeView.expand(child1_2Index);
treeView.setWindowTitle("QTreeView expand() Example");
treeView.show();
return app.exec();
}
QTreeView::expand()
は直感的に使えるメソッドですが、ツリービューのモデル(QAbstractItemModel
)の仕組みを理解していないと、意図した通りに動作しないことがあります。
QModelIndex が無効、または存在しないアイテムを指している
エラー/症状
- アプリケーションがクラッシュする(稀に、モデルの実装によっては)。
expand()
を呼び出しても何も起こらない。
原因
QModelIndex
の行や列が、モデルのrowCount()
やcolumnCount()
の範囲外になっている。- モデルのデータが変更された後、古い
QModelIndex
を使い続けている。 QModelIndex
が有効(isValid()
がtrue
)でない。expand()
に渡しているQModelIndex
が、現在モデル内に存在しないアイテムを指している。
トラブルシューティング
- デバッグ出力
qDebug()
を使って、QModelIndex
の行、列、親インデックス、および有効性を出力し、期待通りの値になっているか確認してください。 - モデルの変更に追従する
モデルのデータが動的に変化する場合(アイテムの追加・削除など)、以前に取得したQModelIndex
は無効になる可能性があります。その都度、新しいインデックスを取得し直す必要があります。特に、persistent index
を使用していない場合は注意が必要です。 - QModelIndex の取得元を確認する
QModelIndex
を取得する際に、モデルのindex()
メソッドが正しく呼び出されているか、あるいはQAbstractItemModel::createIndex()
を使って手動で作成している場合は、引数が正しいかを確認してください。 - index.isValid() を確認する
expand()
を呼び出す前に、常にQModelIndex::isValid()
を呼び出して、インデックスが有効であることを確認してください。
モデルに子アイテムがない(または誤って子アイテムがないと報告している)
エラー/症状
expand()
を呼び出しても、ツリービューに変化がない。- アイテムを展開しようとしても、展開記号(「+」や矢印)が表示されない。
原因
- モデルの
rowCount()
メソッドが、子アイテムがあるべき場所で0
を返している。 - モデルの
hasChildren()
メソッドが、子アイテムがあるにも関わらずfalse
を返している。 QModelIndex
が指すアイテムに、実際に子アイテムが存在しない。
トラブルシューティング
- データの整合性を確認する
モデルの内部データ構造が、実際に子アイテムを持つアイテムを正しく表現しているかを確認してください。 - モデルの hasChildren() と rowCount() を確認する
QAbstractItemModel
を継承してカスタムモデルを作成している場合、hasChildren(const QModelIndex &parent)
およびrowCount(const QModelIndex &parent)
メソッドが正しく実装されているか確認してください。- 特に、
hasChildren()
は子アイテムの有無を効率的に判断するために重要です。rowCount() > 0
を返すことで、hasChildren()
を実装することも可能ですが、大規模なモデルではパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
QTreeView がモデルに設定されていない、または非表示になっている
エラー/症状
- ウィンドウにツリービューが表示されない。
expand()
を呼び出しても、ツリービューに変化がない。
原因
QTreeView::setUpdatesEnabled(false)
が設定されており、更新が一時的に無効になっている。QTreeView
が親ウィジェットに追加されていないか、show()
メソッドが呼び出されていないため、表示されていない。treeView->setModel(&myModel);
のように、QTreeView
にモデルが設定されていない。
トラブルシューティング
- 更新の有効化
もし一時的に更新を無効にしていた場合は、setUpdatesEnabled(true)
を呼び出すか、QApplication::processEvents()
を呼び出してイベントキューを処理してみてください。 - 表示状態を確認する
QTreeView
が可視状態(isVisible()
がtrue
)であり、親ウィジェットに正しく配置されていることを確認してください。 - モデルの設定を確認する
QTreeView
オブジェクトにモデルが正しく設定されていることを確認してください。
パフォーマンスの問題(大規模なツリーの場合)
エラー/症状
expandAll()
や多数のexpand()
を呼び出すと、アプリケーションがフリーズする、応答が遅くなる。
原因
QTreeView
は、可視範囲のアイテムのみを描画するように最適化されていますが、展開処理自体はモデルのデータ構造を走査する必要があるため、アイテム数が多いと時間がかかります。- 非常に大規模なツリー(何万ものアイテム)に対して
expandAll()
を呼び出すと、すべてのアイテムの展開処理とレンダリングに時間がかかりすぎる。
トラブルシューティング
- QAbstractItemModel::layoutAboutToBeChanged() と layoutChanged()
モデルの構造が大きく変化する場合、これらのシグナルを適切に発行することで、ビューの更新を最適化できます。 - QTreeView::setUpdatesEnabled(false) の活用
複数のexpand()
を連続して呼び出す場合、処理の開始前にtreeView->setUpdatesEnabled(false);
を呼び出し、処理完了後にtreeView->setUpdatesEnabled(true);
を呼び出すことで、描画更新の回数を減らし、パフォーマンスを向上させることができます。 - 遅延展開(Lazy Expansion)
モデルの実装において、子アイテムのデータをすぐにすべて読み込むのではなく、必要になったとき(展開されたとき)に読み込むようにすることで、初期ロード時間を短縮できます。これはカスタムモデルでWorkspaceMore()
などを実装することで実現できます。 - expandAll() の使用を避ける
必要に応じて、expandAll()
ではなく、ユーザーがよく使うパスや特定の深度までのみ展開するようにexpandToDepth()
を使用することを検討してください。
誤った QModelIndex の親/子の関係
エラー/症状
- 子アイテムが存在しないはずの場所で展開記号が表示される。
expand()
を呼び出すと、意図しないアイテムが展開される。
原因
QModelIndex
の親子の関係が正しくない。特に、QAbstractItemModel::index()
メソッドの実装で、親インデックスと子インデックスの紐付けが誤っている場合。
- モデルの index()、parent()、rowCount() の実装を確認する
これらのメソッドは互いに整合性が取れている必要があります。例えば、index(row, column, parent)
で返されるインデックスのparent()
は、引数で渡されたparent
と一致する必要があります。
QTreeView::expand()
メソッドは、ツリービューの特定のアイテムを展開するために使用されます。ここでは、一般的な使用シナリオとそのコード例をいくつか示します。
例 1: 特定のアイテムを展開する
最も基本的な使用法は、特定の QModelIndex
を指定してアイテムを展開することです。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QVBoxLayout>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// 1. QStandardItemModel を作成
QStandardItemModel model;
// 2. モデルにデータを追加
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("Parent 1");
rootItem->appendRow(parent1);
QStandardItem *child1_1 = new QStandardItem("Child 1.1");
parent1->appendRow(child1_1);
QStandardItem *child1_2 = new QStandardItem("Child 1.2");
parent1->appendRow(child1_2);
QStandardItem *grandchild1_2_1 = new QStandardItem("Grandchild 1.2.1");
child1_2->appendRow(grandchild1_2_1);
QStandardItem *parent2 = new QStandardItem("Parent 2");
rootItem->appendRow(parent2);
QStandardItem *child2_1 = new QStandardItem("Child 2.1");
parent2->appendRow(child2_1);
// 3. QTreeView を作成し、モデルを設定
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
// 4. 特定のアイテムを展開する
// "Parent 1" の QModelIndex を取得
QModelIndex parent1Index = model.index(0, 0); // 最初のトップレベルアイテム (Parent 1)
// "Parent 1" を展開
treeView.expand(parent1Index);
// "Child 1.2" の QModelIndex を取得
// 親インデックス (parent1Index) の子として取得
QModelIndex child1_2Index = model.index(1, 0, parent1Index); // Parent 1 の2番目の子 (Child 1.2)
// "Child 1.2" を展開
treeView.expand(child1_2Index);
// 5. ウィンドウを表示
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(&treeView);
window.setWindowTitle("QTreeView::expand() Example 1");
window.resize(400, 300);
window.show();
return app.exec();
}
解説
treeView.expand(targetIndex)
を呼び出すことで、そのアイテムが展開されます。model.index(row, column, parentIndex)
メソッドを使って、展開したいアイテムのQModelIndex
を取得します。トップレベルアイテムの場合はparentIndex
をデフォルトのQModelIndex()
(無効なインデックス)のままにします。QStandardItemModel
を使って階層的なデータを作成しています。
例 2: 全てのアイテムを展開する (expandAll()
)
ツリービュー内の展開可能な全てのアイテムを展開したい場合は、expandAll()
メソッドが便利です。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QVBoxLayout>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QStandardItemModel model;
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("Parent 1");
rootItem->appendRow(parent1);
parent1->appendRow(new QStandardItem("Child 1.1"));
QStandardItem *child1_2 = new QStandardItem("Child 1.2");
parent1->appendRow(child1_2);
child1_2->appendRow(new QStandardItem("Grandchild 1.2.1"));
child1_2->appendRow(new QStandardItem("Grandchild 1.2.2"));
QStandardItem *parent2 = new QStandardItem("Parent 2");
rootItem->appendRow(parent2);
parent2->appendRow(new QStandardItem("Child 2.1"));
QStandardItem *child2_2 = new QStandardItem("Child 2.2");
parent2->appendRow(child2_2);
child2_2->appendRow(new QStandardItem("Grandchild 2.2.1"));
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
// 全ての展開可能なアイテムを展開
treeView.expandAll();
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(&treeView);
window.setWindowTitle("QTreeView::expandAll() Example");
window.resize(400, 300);
window.show();
return app.exec();
}
解説
- 大規模なツリービューでは、この操作に時間がかかる可能性があるため注意が必要です。
treeView.expandAll()
を呼び出すだけで、ツリービュー内のすべてのアイテムが展開されます。
例 3: 特定の深さまでアイテムを展開する (expandToDepth()
)
特定の深さまでアイテムを展開したい場合は、expandToDepth()
メソッドを使用します。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QVBoxLayout>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QStandardItemModel model;
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("Parent 1 (Depth 0)");
rootItem->appendRow(parent1);
QStandardItem *child1_1 = new QStandardItem("Child 1.1 (Depth 1)");
parent1->appendRow(child1_1);
QStandardItem *grandchild1_1_1 = new QStandardItem("Grandchild 1.1.1 (Depth 2)");
child1_1->appendRow(grandchild1_1_1);
grandchild1_1_1->appendRow(new QStandardItem("Great-grandchild 1.1.1.1 (Depth 3)"));
QStandardItem *parent2 = new QStandardItem("Parent 2 (Depth 0)");
rootItem->appendRow(parent2);
parent2->appendRow(new QStandardItem("Child 2.1 (Depth 1)"));
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
// 深さ 1 まで展開する (トップレベルの子アイテムまで)
// 深さ 0: トップレベルアイテム自身
// 深さ 1: トップレベルアイテムの子アイテム
// 深さ 2: トップレベルアイテムの孫アイテム
treeView.expandToDepth(1);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(&treeView);
window.setWindowTitle("QTreeView::expandToDepth() Example");
window.resize(400, 300);
window.show();
return app.exec();
}
解説
- この例では
expandToDepth(1)
を使用しているため、「Parent 1」と「Parent 2」は展開されますが、「Child 1.1」は展開されず、その子孫は表示されません。 depth
が1
の場合、トップレベルのアイテムが展開され、その直接の子アイテムが表示されます。depth
が0
の場合、トップレベルのアイテムは展開されません。treeView.expandToDepth(depth)
は、指定された深さまでツリーを展開します。
通常、QTreeView
はアイテムをダブルクリックすると自動的に展開/折りたたみます。シングルクリックで同じ動作をさせたい場合は、clicked
シグナルと isExpanded()
、expand()
、collapse()
を組み合わせることができます。
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QStandardItemModel>
#include <QStandardItem>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug> // for debugging
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QStandardItemModel model;
QStandardItem *rootItem = model.invisibleRootItem();
QStandardItem *parent1 = new QStandardItem("Parent 1");
rootItem->appendRow(parent1);
parent1->appendRow(new QStandardItem("Child 1.1"));
QStandardItem *child1_2 = new QStandardItem("Child 1.2");
parent1->appendRow(child1_2);
child1_2->appendRow(new QStandardItem("Grandchild 1.2.1"));
QTreeView treeView;
treeView.setModel(&model);
// QTreeView の設定: ダブルクリックでの展開を無効にする
treeView.setExpandsOnDoubleClick(false);
// アイテムがクリックされたときの処理
QObject::connect(&treeView, &QTreeView::clicked, [&](const QModelIndex &index) {
if (index.isValid()) {
qDebug() << "Item clicked:" << model.data(index).toString();
if (treeView.isExpanded(index)) {
treeView.collapse(index); // 展開されている場合は折りたたむ
qDebug() << "Collapsed:" << model.data(index).toString();
} else {
treeView.expand(index); // 折りたたまれている場合は展開する
qDebug() << "Expanded:" << model.data(index).toString();
}
}
});
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(&treeView);
window.setWindowTitle("QTreeView Click to Expand/Collapse Example");
window.resize(400, 300);
window.show();
return app.exec();
}
- 状態に応じて
treeView.collapse(index)
またはtreeView.expand(index)
を呼び出して、展開/折りたたみを行います。 - スロット内で、クリックされたアイテムの
QModelIndex
を取得し、treeView.isExpanded(index)
で現在の展開状態を確認します。 QTreeView::clicked
シグナルにスロットを接続します。treeView.setExpandsOnDoubleClick(false);
を設定することで、デフォルトのダブルクリック展開動作を無効にします。
QTreeView::expand()
が直接的な展開操作を行うのに対し、以下に示すのは、より高レベルな制御、パフォーマンス最適化、または異なるユーザーインタラクションパターンを考慮した方法です。
QModelIndex の選択とナビゲーションによる展開
QTreeView::expand()
は特定の QModelIndex
を引数に取りますが、その QModelIndex
をどうやって取得するか、という点が重要になります。ユーザーの操作に基づいて展開を行う場合、直接 expand()
を呼び出すのではなく、間接的な方法で展開を促すこともできます。
アプローチ
- QTreeView::setCurrentIndex(const QModelIndex &index)
- 指定されたインデックスのアイテムを現在の選択アイテムとして設定します。
- 選択されたアイテムは通常ハイライト表示されるため、ユーザーの注意を引くことができます。
- 特定のアイテムにフォーカスを当ててから、ユーザーに展開操作を促す場合に利用できます。
- QTreeView::scrollTo(const QModelIndex &index, ScrollHint hint = EnsureVisible)
- このメソッドは、指定されたインデックスのアイテムがツリービューの可視領域に入るようにスクロールします。
- アイテムが可視領域に入ることで、ユーザーが展開記号(「+」)をクリックしやすくなります。
- 直接的な展開は行いませんが、ユーザーが展開操作を行うための準備として有効です。
コード例 (スクロールと選択)
// ユーザーが何か操作した後に特定のアイテムにスクロールし、選択する例
QModelIndex targetIndex = /* ... 展開したいアイテムのQModelIndexを取得 ... */;
if (targetIndex.isValid()) {
treeView.scrollTo(targetIndex); // そのアイテムまでスクロール
treeView.setCurrentIndex(targetIndex); // そのアイテムを選択
// ユーザーに展開を促すメッセージ表示など
}
モデル側でのデータロードと展開(遅延ロード)
大規模なツリービューでは、最初から全てのデータをメモリにロードし、全てのアイテムを展開するとパフォーマンス問題が発生する可能性があります。この場合、**遅延ロード(Lazy Loading)**のアプローチが有効です。
アプローチ
- モデルがデータロードを完了した後の自動展開
QFileSystemModel
のような一部の組み込みモデルには、ディレクトリのロード完了を通知するシグナルがあります(例:QFileSystemModel::directoryLoaded(const QString &path)
)。- このシグナルを受信した後、そのパスに対応する
QModelIndex
を取得し、QTreeView::expand()
を呼び出すことで、ロード完了後に自動的に展開できます。
- QAbstractItemModel::hasChildren(const QModelIndex &parent) の最適化
- モデルは、子アイテムがあるかどうかを効率的に報告できるように実装する必要があります。
QAbstractItemModel::canFetchMore(const QModelIndex &parent)
とQAbstractItemModel::fetchMore(const QModelIndex &parent)
を使用して、必要な時に子アイテムを非同期でロードするように実装します。QTreeView
は、ユーザーが展開記号をクリックしたり、プログラムからexpand()
が呼び出されたりすると、hasChildren()
を呼び出し、もしcanFetchMore()
がtrue
を返す場合、WorkspaceMore()
を呼び出して子アイテムをロードしようとします。
コード例 (QFileSystemModel での遅延ロード後の展開)
#include <QApplication>
#include <QTreeView>
#include <QFileSystemModel>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug>
#include <QPushButton>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QFileSystemModel *model = new QFileSystemModel;
model->setRootPath(QDir::homePath()); // ユーザーのホームディレクトリをルートに設定
QTreeView treeView;
treeView.setModel(model);
treeView.setRootIndex(model->index(QDir::homePath())); // ルートインデックスを設定
// 特定のディレクトリがロードされたら展開する
QObject::connect(model, &QFileSystemModel::directoryLoaded, [&](const QString &path) {
qDebug() << "Directory loaded:" << path;
// 例えば、特定のサブディレクトリがロードされたらそれを展開する
if (path.endsWith("Documents")) { // "Documents" ディレクトリがロードされたら
QModelIndex index = model->index(path);
if (index.isValid()) {
treeView.expand(index);
qDebug() << "Expanded:" << path;
}
}
});
// 初期表示時に特定のパスを展開(ただし、データロードが完了しているかは保証されない)
// 通常はdirectoryLoadedシグナルを待つ方が確実
QModelIndex initialIndex = model->index(QDir::homePath() + "/Downloads");
if (initialIndex.isValid()) {
// この時点ではDownloadsの中身はロードされていない可能性が高い
// したがって、expandしても展開記号が見えない場合がある
// その場合はdirectoryLoadedシグナルを待つ必要がある
treeView.expand(initialIndex);
}
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(&treeView);
window.setWindowTitle("QTreeView Lazy Loading and Expand Example");
window.resize(600, 400);
window.show();
return app.exec();
}
解説
- このシグナルを受け取った後に
expand()
を呼び出すことで、確実に子アイテムが存在し、展開可能になった時点で操作を行うことができます。 directoryLoaded
シグナルは、特定のディレクトリ(パス)がモデルに完全にロードされたときに発行されます。QFileSystemModel
はデフォルトで遅延ロードを行うモデルです。
状態の保存と復元
アプリケーションのセッション間でツリービューの展開状態を保存し、次回起動時に復元したい場合があります。これは expand()
の直接的な代替ではありませんが、expand()
を利用する一般的なシナリオです。
アプローチ
QTreeView::restoreState()
とQTreeView::saveState()
(非推奨):QTreeView
には、QTreeWidget
と同様にsaveState()
とrestoreState()
が存在しましたが、これらは現在ほとんどのバージョンで非推奨または存在しません。モデル/ビューアーキテクチャでは、状態管理は通常、モデルまたはアプリケーションレベルで行われるためです。QTreeWidget
には同様のメソッドがありますが、QTreeView
はより柔軟なモデルとの連携を意図しているため、このような直接的な状態保存・復元は提供されません。
- 起動時に expand() で復元
- アプリケーション起動時に保存されたリストを読み込みます。
- それぞれの識別子から対応する
QModelIndex
を再構築し、QTreeView::expand()
を呼び出して展開状態を復元します。
- 展開された QModelIndex のリストを保存
QTreeView::expanded
シグナルを監視し、展開されたアイテムのQModelIndex
を記録します(例: パスやIDに変換して保存)。- 保存されたインデックス(またはそれに相当する識別子)をファイルや設定に書き込みます。
注意点
QModelIndex
はモデルの内部構造に依存するため、モデルのデータが変更されると無効になる可能性があります。永続的なインデックス(QPersistentModelIndex
)を使用するか、パスやユニークIDなど、モデルの変更に影響されない識別子を保存することをお勧めします。
QTreeView::expand()
は、ビュー側で特定のアイテムを展開するための主要な手段です。しかし、その利用方法やコンテキストに応じて、以下のような代替的または補完的なアプローチを検討することが重要です。
- 状態管理
アプリケーションのセッション間で展開状態を保存・復元するために、QModelIndex
の識別子を管理し、起動時にexpand()
を利用する。 - パフォーマンス
遅延ロード(WorkspaceMore()
) をモデルに実装し、必要に応じてexpand()
を呼び出す。 - ユーザーインタラクション
scrollTo()
やsetCurrentIndex()
でユーザーの操作を補助する。