線形モデルのメモリ最適化:SGDClassifierのsparsify()とその代替手法

2025-05-27

SGDClassifier は、サポートベクターマシン(SVM)やロジスティック回帰などの線形モデルを確率的勾配降下法(SGD)を用いて学習するためのクラスです。大規模なデータセットやスパース(疎)なデータセットにおいて非常に効率的です。

sparsify() メソッドは、この SGDClassifier の学習によって得られた係数行列(coef_ 属性)を疎行列(sparse matrix)形式に変換するためのものです。

疎行列とは?

疎行列とは、その要素のほとんどがゼロである行列のことです。例えば、テキストデータ(単語の出現頻度など)を扱う場合、多くの単語は特定の文書には出現しないため、非常に多くのゼロを含む特徴量行列になります。このようなデータを「疎なデータ」と呼びます。

なぜ疎行列に変換するのか?

sparsify() メソッドを使用する主な理由は以下の通りです。

  1. メモリ効率の向上: ゼロがほとんどの行列を密(dense)な形式で保持すると、メモリを大量に消費します。疎行列形式で保持することで、非ゼロの要素とその位置だけを保存すればよいため、メモリ使用量を大幅に削減できます。特に、特徴量の数が非常に多い大規模なデータセットを扱う場合に効果的です。

  2. 計算効率の向上: 疎行列演算は、非ゼロの要素のみを対象に行われるため、計算速度が向上する場合があります。特に、予測時(predict()decision_function())に、入力データも疎行列形式である場合、このメリットが大きくなります。

sparsify() の仕組み

SGDClassifier の学習が完了すると、モデルの係数は coef_ 属性に格納されます。この coef_ は通常、密なNumPy配列として表現されます。

sparsify() メソッドを呼び出すと、内部的にこの coef_ 属性がSciPyの疎行列形式(通常はCSR形式:Compressed Sparse Row)に変換されます。一度疎行列に変換されると、以降の予測などの操作は、疎行列演算に対応した効率的な方法で行われるようになります。

使用例

from sklearn.linear_model import SGDClassifier
from sklearn.datasets import make_classification
import numpy as np

# ダミーデータの生成
X, y = make_classification(n_samples=1000, n_features=10000, n_informative=10,
                           n_redundant=0, n_repeated=0, n_classes=2,
                           random_state=42, sparse=True) # 疎なデータを生成

# SGDClassifierのインスタンス化と学習
clf = SGDClassifier(loss='log_loss', random_state=42)
clf.fit(X, y)

# 係数行列の形式を確認(学習直後は密なNumPy配列の場合が多い)
print(f"学習後の coef_ の型: {type(clf.coef_)}")
print(f"学習後の coef_ のサイズ: {clf.coef_.nbytes / (1024*1024):.2f} MB") # メモリ使用量

# sparsify() を呼び出して疎行列に変換
clf.sparsify()

# 変換後の係数行列の形式を確認
print(f"sparsify() 後の coef_ の型: {type(clf.coef_)}")
print(f"sparsify() 後の coef_ のサイズ: {clf.coef_.data.nbytes / (1024*1024):.2f} MB (非ゼロ要素のみ)") # 非ゼロ要素のメモリ使用量

上記の例では、sparsify() を呼び出すことで coef_ の型がNumPy配列からSciPyの疎行列に変わるのがわかります。また、疎なデータの場合、メモリ使用量が大幅に削減されることを確認できます。

注意点

  • モデルの係数がもともと疎でない(多くのゼロを含まない)場合、sparsify() を呼び出しても大きなメリットは得られないかもしれません。しかし、L1正則化を使用するなどしてモデルの係数を疎にする(多くの係数をゼロにする)学習方法と組み合わせることで、その効果を最大限に引き出すことができます。
  • 通常、SGDClassifier は疎な入力データ(X)を効率的に処理できるように設計されています。sparsify() は、モデルの係数自体を疎に保つことで、さらにメモリと計算の効率を向上させるためのものです。
  • sparsify() を呼び出すと、coef_ が疎行列に変換されます。もし後で密な形式に戻したい場合は、densify() メソッドを使用できます。


sparsify() メソッドは比較的シンプルであり、それ自体が直接的に複雑なエラーを引き起こすことは稀です。しかし、その利用状況や前後処理によっては、予期せぬ挙動や性能の問題につながる可能性があります。

coef_ 属性が存在しない/未学習の状態

エラーの症状
SGDClassifier インスタンスに対して fit() メソッドを呼び出す前に sparsify() を呼び出すと、エラーが発生します。通常は AttributeError が発生し、「SGDClassifier オブジェクトに coef_ 属性がない」といったメッセージが表示されます。

原因
sparsify() メソッドは、モデルの学習によって生成される係数行列 coef_ を疎行列化するためのものです。モデルがまだ学習されていない場合、coef_ 属性は存在しません。

トラブルシューティング

  • 必ず fit() または partial_fit() の後に sparsify() を呼び出すようにしてください。
    from sklearn.linear_model import SGDClassifier
    from sklearn.datasets import make_classification
    
    X, y = make_classification(random_state=42)
    clf = SGDClassifier(random_state=42)
    
    # 誤った例: 学習前にsparsify()を呼び出す
    # clf.sparsify() # <-- エラーが発生
    
    # 正しい例: 学習後にsparsify()を呼び出す
    clf.fit(X, y)
    clf.sparsify()
    print(f"coef_ の型: {type(clf.coef_)}")
    

メモリ使用量が期待通りに削減されない

症状
sparsify() を呼び出したにもかかわらず、モデルのメモリ使用量がほとんど変わらない、または期待するほど減らない。

原因

  • 非常に小さいモデル
    係数行列のサイズが元々非常に小さい場合、疎行列のオーバーヘッド(非ゼロ要素のインデックスを保存するための追加メモリ)が、密行列よりも大きくなることがあります。
  • 係数行列がそもそも密である
    sparsify() は、係数行列 coef_ の非ゼロ要素が少ない場合に効果を発揮します。もしモデルがL1正則化を使用しておらず、ほとんどの係数が非ゼロである場合、疎行列化してもメモリ削減効果はほとんどありません。

トラブルシューティング

  • メモリ使用量を具体的に比較する
    sys.getsizeof()numpy.ndarray.nbytesscipy.sparse.sparse_matrix.data.nbytes などを使って、sparsify() の前後で実際にメモリ使用量がどう変化したかを確認します。
  • L1正則化の使用を検討する
    SGDClassifierpenalty='l1' または penalty='elasticnet' を設定し、alpha パラメータを調整することで、多くの係数をゼロに近づけ、モデルを疎にすることができます。これにより、sparsify() の効果を最大化できます。
    clf_l1 = SGDClassifier(loss='log_loss', penalty='l1', alpha=0.001, random_state=42)
    clf_l1.fit(X, y)
    print(f"L1正則化後の非ゼロ係数の数: {np.count_nonzero(clf_l1.coef_)}")
    clf_l1.sparsify()
    print(f"L1正則化 & sparsify()後の coef_ の型: {type(clf_l1.coef_)}")
    

疎行列化後の予測性能の変化 (稀なケース)

症状
理論的には起こるべきではないが、sparsify() の前後でモデルの予測結果や性能がわずかに変わる。

原因

  • バグ (非常に稀)
    非常に古いバージョンのscikit-learnを使用している場合など、まれに内部的なバグが原因である可能性もゼロではありませんが、最新バージョンではほとんど修正されています。
  • 浮動小数点演算の微細な違い
    密行列と疎行列の内部演算の最適化や、NumPyとSciPyの異なる実装による浮動小数点演算の丸め誤差が、非常に稀に、極めて小さな違いとして現れる可能性があります。これは通常、実用上問題になるレベルではありません。

トラブルシューティング

  • 通常は無視して良い
    このような微細な違いは、ほとんどのアプリケーションで問題にはなりません。もし再現性のある大きな違いが見られる場合は、scikit-learnのバージョンアップを検討したり、GitHubのIssueを検索したり、報告したりすることが考えられます。

partial_fit と sparsify の併用時の注意点

症状
partial_fit() を繰り返し呼び出して学習している途中で sparsify() を呼び出すと、内部的な状態が期待通りにならないことがある、あるいはエラーが発生する。

原因
partial_fit() はモデルを逐次的に更新していくため、coef_ のメモリレイアウトや状態が動的に変化することがあります。sparsify() を呼び出すと、その時点の coef_ が疎行列に変換されますが、その後の partial_fit() が疎行列形式に対応していない場合、パフォーマンスの問題やエラーにつながる可能性があります。Scikit-learnの内部実装はこれらを考慮していますが、古いバージョンや特定のEdgeケースでは問題が起こる可能性も示唆されています (例: GitHub issue #6186)。

  • 最新バージョンのscikit-learnを使用する
    過去のバグが修正されている可能性があるため、常に最新の安定版を使用することを推奨します。
  • 学習の終わりに sparsify() を呼び出す
    最も安全な方法は、すべての partial_fit() 呼び出しが完了し、モデルの学習が終了した後に一度だけ sparsify() を呼び出すことです。


sparsify() メソッドは、主にモデルの係数 (coef_ 属性) を疎行列形式に変換し、メモリ使用量を削減し、予測時の計算効率を向上させるために使用されます。ここでは、その基本的な使い方と、効果がより明確になるようなシナリオをいくつか示します。

準備: 必要なライブラリのインポート

import numpy as np
import scipy.sparse as sp
from sklearn.linear_model import SGDClassifier
from sklearn.datasets import make_classification, load_svmlight_file
from sklearn.model_selection import train_test_split
from sklearn.metrics import accuracy_score
import sys

例1: 基本的な使用法と coef_ の型の変化

この例では、SGDClassifier を学習させた後に sparsify() を呼び出し、係数行列 (coef_) の型がどのように変化するかを確認します。

print("--- 例1: 基本的な使用法と coef_ の型の変化 ---")

# ダミーデータの生成 (ここでは密なデータで開始)
# make_classification はデフォルトで密なNumpy配列を返します
X, y = make_classification(n_samples=1000, n_features=50, random_state=42)

# SGDClassifier のインスタンス化と学習
clf = SGDClassifier(loss='log_loss', random_state=42)
clf.fit(X, y)

print(f"学習直後の coef_ の型: {type(clf.coef_)}")
print(f"学習直後の coef_ の形状: {clf.coef_.shape}")

# sparsify() を呼び出して係数を疎行列に変換
clf.sparsify()

print(f"sparsify() 後の coef_ の型: {type(clf.coef_)}")
print(f"sparsify() 後の coef_ が疎行列形式か: {sp.issparse(clf.coef_)}")

# 密な形式に戻すことも可能
clf.densify()
print(f"densify() 後の coef_ の型: {type(clf.coef_)}")

解説

  • clf.densify() を呼び出すと、再びNumPyのndarrayに戻ります。
  • clf.sparsify() を呼び出すと、clf.coef_ はSciPyの疎行列形式(通常はscipy.sparse.csr_matrix)に変換されます。
  • SGDClassifierfit() した直後の clf.coef_ は、NumPyのndarray(密な配列)です。

例2: 大規模で疎なデータにおけるメモリ削減効果

この例では、多くのゼロを含むデータセット(スパースデータ)を使用し、sparsify() が係数のメモリ使用量をどのように削減するかを示します。通常、L1正則化を併用することで、係数自体がより疎になります。

print("\n--- 例2: 大規模で疎なデータにおけるメモリ削減効果 ---")

# 大規模で疎なダミーデータの生成
# n_features を非常に大きくし、n_informative を少なくすることで、係数が疎になる可能性を高める
X_sparse, y_sparse = make_classification(n_samples=1000, n_features=10000, n_informative=10,
                                         n_redundant=0, n_repeated=0, n_classes=2,
                                         random_state=42, sparse=True) # <-- sparse=True で疎行列を生成

# 訓練データとテストデータに分割
X_train_sparse, X_test_sparse, y_train_sparse, y_test_sparse = train_test_split(
    X_sparse, y_sparse, test_size=0.2, random_state=42
)

# SGDClassifier を L1正則化を伴って学習
# L1正則化 (penalty='l1') は、多くの係数をゼロに近づける効果がある
clf_l1 = SGDClassifier(loss='log_loss', penalty='l1', alpha=0.001, random_state=42)
clf_l1.fit(X_train_sparse, y_train_sparse)

print(f"L1正則化後の非ゼロ係数の数: {np.count_nonzero(clf_l1.coef_)}")

# sparsify() 前の coef_ のメモリ使用量
# nbytes はバイト単位のメモリ使用量
print(f"sparsify() 前の coef_ の型: {type(clf_l1.coef_)}")
mem_before = clf_l1.coef_.nbytes / (1024 * 1024)
print(f"sparsify() 前の coef_ のメモリ使用量: {mem_before:.4f} MB")

# sparsify() を呼び出して係数を疎行列に変換
clf_l1.sparsify()

# sparsify() 後の coef_ のメモリ使用量
# 疎行列の場合、.data.nbytes で非ゼロ要素のデータ部分のメモリを見る
print(f"sparsify() 後の coef_ の型: {type(clf_l1.coef_)}")
mem_after = clf_l1.coef_.data.nbytes / (1024 * 1024)
print(f"sparsify() 後の coef_ のメモリ使用量 (データ部分): {mem_after:.4f} MB")
print(f"メモリ削減率: {((mem_before - mem_after) / mem_before * 100):.2f}%")

# 疎行列化後も予測は可能
y_pred_sparse = clf_l1.predict(X_test_sparse)
print(f"テスト精度 (sparsify後): {accuracy_score(y_test_sparse, y_pred_sparse):.4f}")

解説

  • 疎行列化後も、モデルの予測機能は正常に動作します。入力データが疎行列形式の場合、内部的には疎行列演算が使われ、効率的な予測が期待できます。
  • sparsify() の前後で coef_ のメモリ使用量を比較すると、非ゼロ要素が少ないため、大幅な削減が達成されていることがわかります。
  • penalty='l1' を設定することで、SGDClassifier が多くの係数をゼロに近づけるように学習します。これにより、coef_ 自体が疎になります。
  • make_classification(sparse=True) で疎な入力データを生成し、n_features を大きくしています。

例3: partial_fitsparsify の併用 (推奨されないケース)

partial_fit を使ってオンライン学習を行う場合、sparsify() は学習の途中で呼び出すのではなく、学習が完了した後に一度だけ呼び出すのが一般的で安全です。途中で呼び出すと、内部的な状態管理が複雑になる可能性があります。

print("\n--- 例3: partial_fit と sparsify の併用 (推奨されないケースの紹介) ---")

# 小さなデータセットで partial_fit の動作を確認
X_online, y_online = make_classification(n_samples=100, n_features=20, random_state=42)

clf_online = SGDClassifier(loss='log_loss', random_state=42)

# バッチサイズを設定
batch_size = 10
n_batches = X_online.shape[0] // batch_size

for i in range(n_batches):
    start = i * batch_size
    end = (i + 1) * batch_size
    X_batch = X_online[start:end]
    y_batch = y_online[start:end]

    clf_online.partial_fit(X_batch, y_batch, classes=np.unique(y_online))

    # 学習途中でsparsify()を呼び出すのは一般的ではない
    # if i == n_batches // 2:
    #     print(f"--- バッチ {i} で sparsify() を呼び出し ---")
    #     clf_online.sparsify()
    #     print(f"中間 sparsify() 後の coef_ の型: {type(clf_online.coef_)}")

# 全ての学習が完了した後に sparsify() を呼び出すのが推奨される
print("--- 全ての partial_fit が完了後 ---")
print(f"partial_fit 完了後の coef_ の型: {type(clf_online.coef_)}")

clf_online.sparsify()
print(f"最終 sparsify() 後の coef_ の型: {type(clf_online.coef_)}")
  • 最も良いプラクティスは、すべての partial_fit() 呼び出しが完了し、モデルが最終的な学習を終えた後に、一度だけ sparsify() を呼び出すことです。
  • コード内のコメントアウト部分のように、学習の途中で sparsify() を呼び出すことは技術的には可能ですが、通常は推奨されません。モデルの係数が頻繁に更新される途中で疎密変換を行うと、オーバーヘッドが生じる可能性があります。
  • partial_fit() を使って少量のデータずつ学習を進めます。


sparsify() の直接的な「代替方法」というよりは、sparsify() が提供するメリットを別の方法で実現したり、その必要性を減らしたりするアプローチと考えることができます。以下にいくつかの代替方法と関連する考慮事項を説明します。

L1正則化 (L1 Regularization) の活用

説明
SGDClassifier は、学習時に正則化項(penalty パラメータ)を適用できます。penalty='l1' または penalty='elasticnet' (L1とL2の組み合わせ) を使用すると、モデルは多くの特徴量に対する係数をゼロに近づけるように学習します。その結果、学習後の coef_ 属性が自然と疎になります。

sparsify() との関係
sparsify() は、既存の coef_ 配列を疎行列形式に「変換」するのに対し、L1正則化は、coef_ 自体を「疎な状態」で学習させます。もしモデルが既に疎であるならば、sparsify() を呼び出すことで、その疎な構造をメモリ効率の良い形式で保存することができます。

メリット

  • sparsify() を併用することで、さらにメモリ効率を最適化できる。
  • sparsify() を明示的に呼び出さなくても、学習段階で疎なモデルを生成できる。
  • 特徴量選択の役割も果たす。
  • モデルの解釈性が向上する(重要な特徴量が浮き彫りになる)。

デメリット

  • 必ずしもすべての係数をゼロにするわけではない。
  • 最適な alpha (正則化の強さ) の選択が重要。大きすぎるとアンダーフィッティング、小さすぎるとオーバーフィッティングになる可能性がある。

コード例

from sklearn.linear_model import SGDClassifier
from sklearn.datasets import make_classification
import numpy as np
import scipy.sparse as sp

print("--- 代替方法1: L1正則化の活用 ---")

# 多数の特徴量を持つダミーデータ
X, y = make_classification(n_samples=1000, n_features=1000, n_informative=10, random_state=42)

# L1正則化を伴うSGDClassifier
clf_l1 = SGDClassifier(loss='log_loss', penalty='l1', alpha=0.001, random_state=42)
clf_l1.fit(X, y)

print(f"L1正則化後の非ゼロ係数の数: {np.count_nonzero(clf_l1.coef_)}")
print(f"学習直後の coef_ の型 (L1正則化後): {type(clf_l1.coef_)}") # まだ密なNumPy配列

# ここでsparsify()を呼び出すと、さらに効率的になる
clf_l1.sparsify()
print(f"sparsify()後の coef_ の型 (L1正則化後): {type(clf_l1.coef_)}")
print(f"sparsify()後の coef_ が疎行列か: {sp.issparse(clf_l1.coef_)}")

入力データとして疎行列形式を使用する

説明
SGDClassifier は、入力データ X がSciPyの疎行列形式(例: scipy.sparse.csr_matrix)である場合、内部的に効率的な疎行列演算を使用するように設計されています。これは sparsify() がモデルの係数 (coef_) を疎行列化するのとは異なり、入力データが最初から疎であることを活用します。

sparsify() との関係
sparsify() はモデルの出力 (係数) を疎にしますが、この方法はモデルの入力が疎である状況を活用します。両者は相補的な関係にあり、どちらもメモリと計算の効率に貢献します。

メリット

  • SGDClassifier は疎行列入力に対して最適化されているため、特別な設定は不要。
  • 学習時および予測時の計算が高速化される可能性がある。
  • 特徴量が疎なデータ(例:テキストのBag-of-Words表現、One-Hotエンコーディングされたカテゴリカルデータ)を扱う場合に、メモリを大幅に削減できる。

デメリット

  • 疎行列の構造を理解し、適切にデータを準備する必要がある。
  • 元のデータが密である場合、無理に疎行列に変換すると、かえってオーバーヘッドが生じることがある。

コード例

from sklearn.linear_model import SGDClassifier
from sklearn.datasets import make_classification
import scipy.sparse as sp
import numpy as np

print("\n--- 代替方法2: 入力データとして疎行列形式を使用 ---")

# 疎なダミーデータの生成
# sparse=True を指定すると、X が SciPy の疎行列 (CSR形式) になります
X_sparse, y_sparse = make_classification(n_samples=1000, n_features=10000,
                                         n_informative=10, n_redundant=0,
                                         random_state=42, sparse=True)

print(f"入力データの型: {type(X_sparse)}")
print(f"入力データが疎行列か: {sp.issparse(X_sparse)}")

# SGDClassifier のインスタンス化と学習
# 入力Xが疎行列であれば、SGDClassifierは自動的に疎行列演算を利用
clf_input_sparse = SGDClassifier(loss='log_loss', random_state=42)
clf_input_sparse.fit(X_sparse, y_sparse)

print(f"学習後の coef_ の型 (入力疎行列): {type(clf_input_sparse.coef_)}")
# この段階でcoef_はまだ密なNumPy配列である可能性がある (ゼロが少ない場合)

# 必要であれば、ここでsparsify()を適用してcoef_も疎にできる
clf_input_sparse.sparsify()
print(f"sparsify()後の coef_ の型 (入力疎行列 & sparsify): {type(clf_input_sparse.coef_)}")

手動での係数行列の疎行列変換

説明
SGDClassifiersparsify() メソッドを使わず、coef_ 属性を直接SciPyの疎行列オブジェクトに変換することも可能です。これは、sparsify() と同じことを手動で行う方法です。

sparsify() との関係
sparsify() メソッドは、この手動変換を内部でラップしている便利な機能です。通常は sparsify() を使う方が簡潔で推奨されます。しかし、特定のカスタム処理が必要な場合や、coef_ を別の疎行列形式(例: COO形式など)で保存したい場合に検討できます。

メリット

  • 特定のSciPy疎行列形式を選択できる(CSRが一般的だが)。
  • 完全に制御できる。

デメリット

  • SGDClassifier オブジェクトの状態を直接変更するため、注意が必要。
  • コードが冗長になる。

コード例

from sklearn.linear_model import SGDClassifier
from sklearn.datasets import make_classification
import numpy as np
import scipy.sparse as sp

print("\n--- 代替方法3: 手動での係数行列の疎行列変換 ---")

X, y = make_classification(n_samples=100, n_features=50, random_state=42)
clf_manual = SGDClassifier(loss='log_loss', random_state=42)
clf_manual.fit(X, y)

print(f"手動変換前の coef_ の型: {type(clf_manual.coef_)}")

# coef_ が1D配列の場合はreshapeが必要な場合がある (多クラス分類など)
# SGDClassifierのcoef_は (n_classes, n_features) または (1, n_features)
# csr_matrixの変換は2D配列を想定
if clf_manual.coef_.ndim == 1:
    coef_dense = clf_manual.coef_.reshape(1, -1)
else:
    coef_dense = clf_manual.coef_

# NumPy配列をSciPyのCSR疎行列に手動で変換
coef_sparse_manual = sp.csr_matrix(coef_dense)

# モデルのcoef_属性を上書きすることも可能だが、通常は推奨されない
# clf_manual.coef_ = coef_sparse_manual

print(f"手動変換後の coef_ の型: {type(coef_sparse_manual)}")
print(f"手動変換後の coef_ が疎行列か: {sp.issparse(coef_sparse_manual)}")

他の線形モデルの検討

説明
SGDClassifier.sparsify() の主要な目的は、大規模データや疎なデータでの効率性です。もし、SGDClassifier を使っている理由が単に線形モデルであり、かつデータがそれほど大きくない、あるいは係数を疎にする必要性が低い場合、他の線形モデルを検討することもできます。

関連するモデル

  • RidgeClassifier: リッジ回帰ベースの分類器。L2正則化がデフォルト。
  • LinearSVC: 線形SVM。SGDClassifier(loss='hinge') と同等だが、実装が異なる。
  • LogisticRegression: ロジスティック回帰。多くのソルバーが利用可能で、大規模データ向けにはSAG/SAGAソルバーが疎データも効率的に扱える。

メリット

  • 一部のモデルは、内部的に疎行列をより効率的に扱うよう最適化されている。
  • モデルによっては、より高速な学習や、異なる最適化アルゴリズムを提供する場合がある。

デメリット

  • SGDClassifier の持つオンライン学習 (partial_fit) の機能が必要な場合は、代替が難しい。
  • モデルを変更することで、ハイパーパラメータの調整や解釈が再び必要になる場合がある。

コード例 (LogisticRegression の例)

from sklearn.linear_model import LogisticRegression
from sklearn.datasets import make_classification
import scipy.sparse as sp

print("\n--- 代替方法4: 他の線形モデルの検討 (LogisticRegression の例) ---")

# 疎な入力データ
X_sparse, y_sparse = make_classification(n_samples=1000, n_features=10000,
                                         n_informative=10, n_redundant=0,
                                         random_state=42, sparse=True)

# LogisticRegression を使用 (solver='liblinear' や 'saga' は疎行列に対応)
# L1正則化で疎なモデルを生成することも可能
clf_lr = LogisticRegression(penalty='l1', solver='liblinear', random_state=42, max_iter=1000)
clf_lr.fit(X_sparse, y_sparse)

print(f"LogisticRegression学習後の coef_ の型: {type(clf_lr.coef_)}")
print(f"LogisticRegression学習後の coef_ が疎行列か: {sp.issparse(clf_lr.coef_)}")
print(f"LogisticRegression後の非ゼロ係数の数: {np.count_nonzero(clf_lr.coef_)}")

# LogisticRegressionは、L1正則化を行うとcoef_が疎なNumPy配列になるが、
# 自動的にSciPyの疎行列形式に変換されるわけではない。
# 必要であれば、ここでも手動でsparsify() と同様の変換を行うことは可能。

SGDClassifier.sparsify() は、モデルの係数を効率的に扱うための便利な機能です。その代替方法というよりは、sparsify() が解決しようとしている問題(メモリと計算効率)に対して、異なる層でアプローチする方法として上記の選択肢を考えるのが適切です。

  • 他の線形モデル
    データや要件に応じて、より適切な別の線形モデルを選択する。
  • 手動変換
    sparsify() の低レベルな代替。特殊なケース以外は推奨されない。
  • 疎行列入力
    入力データが疎な場合に、SGDClassifier が自動的に効率的に処理する。
  • L1正則化
    係数自体を疎にする。sparsify() と併用すると最大の効果。