Qt開発者必見!Flickableの同期ドラッグをマスターする完全ガイド

2025-05-27

Flickable.synchronousDrag とは

Flickable.synchronousDrag は、Qt QuickのFlickable要素が持つプロパティの一つです。このプロパティをtrueに設定すると、Flickableの子要素(例えば、ListViewGridViewなど)がドラッグされたときに、そのドラッグイベントが親のFlickableにも同期して伝達されるようになります。

通常、Flickable内に別のFlickableやドラッグ可能な要素(例: MouseAreaでドラッグ処理が定義された要素)が配置されている場合、内側の要素がドラッグされると、そのイベントは内側の要素で消費され、親のFlickableはドラッグされません。しかし、synchronousDragtrueにすることで、内側の要素と親のFlickableが同時にドラッグ動作を行うことが可能になります。

用途の例

このプロパティは、以下のようなシナリオで特に役立ちます。

  • 複雑なUIインタラクション: 複数のレイヤーにわたるドラッグ操作が必要な場合に、イベント伝播を制御するために使用されます。
  • カスタムドラッグ挙動: 特定の要素をドラッグしたときに、その要素だけでなく、全体のFlickableも一緒に動かしたい場合に利用されます。
  • 複数のFlickableの同期スクロール: 例えば、水平方向にスクロールするFlickableの中に、さらに垂直方向にスクロールするListViewがある場合、synchronousDragを適切に設定することで、両方のスクロールを連動させることができます。
  • 関連するプロパティとして、flickableDirection(どの方向にフリック可能か)やinteractive(ユーザー操作を許可するか)なども考慮に入れると、より細かく挙動を制御できます。
  • パフォーマンスに影響を与える可能性もあるため、必要に応じて使用を検討することが推奨されます。
  • synchronousDragtrueにすると、イベントの伝播が複雑になり、意図しない挙動を引き起こす可能性があります。特に、タッチイベントの処理順序を理解しておくことが重要です。


Flickable.synchronousDrag におけるよくあるエラーとトラブルシューティング

内側の要素がドラッグされない、または親のFlickableと同時に動かない

原因

  • 内側の要素がドラッグイベントを完全に消費してしまい、親に伝播しない設定になっている。例えば、MouseAreapropagateComposedEventsfalse になっている、または acceptedButtons が厳しく制限されている場合など。
  • synchronousDragtrue に設定されていない。

トラブルシューティング

  • acceptedButtons の確認
    MouseAreaacceptedButtons がデフォルト(Qt.LeftButton)以外に設定されている場合、期待するボタンでドラッグが開始されないことがあります。
  • イベント伝播の確認
    内側の要素でドラッグイベントを処理している場合、MouseArea などの propagateComposedEvents プロパティを true に設定し、イベントが親に伝播するようにします。
    Flickable {
        id: outerFlickable
        synchronousDrag: true
        // ...
    
        Rectangle {
            id: innerItem
            // ...
            MouseArea {
                anchors.fill: parent
                drag.target: parent // 内側のアイテムをドラッグする
                // drag.target: outerFlickable // 直接親のFlickableをドラッグ対象にすることも可能
                propagateComposedEvents: true // これが重要
                onPressed: (mouse) => { mouse.accepted = false; } // イベントが親に伝播するようにする
            }
        }
    }
    
  • synchronousDrag を確認
    まず、親の FlickablesynchronousDrag: true が設定されていることを確認してください。

親と子が同時にドラッグされ、制御が難しい

原因

  • synchronousDragtrue の場合、内側の要素と親の Flickable の両方がドラッグイベントに応答しようとします。これにより、予期しない速度や方向で動いたり、動きがぎこちなくなったりすることがあります。

トラブルシューティング

  • イベントのフィルタリング
    MouseAreaonPressedonMouseXChanged などで、特定の条件を満たした場合にのみ mouse.accepted = true とすることで、イベントの消費を制御できます。
  • ドラッグターゲットの明確化
    どちらの要素が優先的にドラッグされるべきかを明確にするために、MouseArea.drag.target を適切に設定します。場合によっては、子要素の MouseArea でドラッグ処理を行わず、親の Flickable に完全に任せる方がシンプルです。
  • 特定の方向での同期
    例えば、水平方向のみ同期させたい場合は、flickableDirectionFlickable.HorizontalFlick に設定し、synchronousDrag を特定のドラッグ方向と組み合わせることを検討します。
  • synchronousDrag の必要性を再検討
    本当に同期ドラッグが必要なのか、別の方法で解決できないかを検討してください。例えば、単に親の Flickable だけで全てをスクロールさせる、または子要素は固定で親だけをスクロールさせるなど。

タッチイベントの衝突

原因

  • 複数の MouseAreaFlickable が重なっている場合、タッチイベントがどの要素に伝播されるか、どの要素がイベントを消費するかが複雑になり、期待通りの動作にならないことがあります。

トラブルシューティング

  • シンプルな構造の検討
    複雑なUIでは、できるだけシンプルな FlickableMouseArea の階層構造を心がけることで、問題発生のリスクを減らせます。
  • MouseArea.bubbleEvents (Qt 6.x 以降)
    より詳細なイベント伝播制御が必要な場合、Qt 6.x 以降の MouseArea.bubbleEvents プロパティを検討してください。これにより、特定のイベント(例: pressrelease)のみをバブリングさせることができます。
  • propagateComposedEvents の理解と利用
    propagateComposedEventstrue の場合、イベントは親に伝播しますが、そのイベントが親でどのように処理されるかを理解しておく必要があります。
  • z プロパティの使用
    重なっている要素がある場合、z プロパティを使って要素の重なり順を制御し、イベントが上にある要素に優先的に伝播するようにします。

パフォーマンスの問題

原因

  • synchronousDrag は複数の Flickable や要素が同時に動き、イベント処理が増えるため、特に低スペックデバイスや複雑なシーンでパフォーマンスが低下する可能性があります。
  • clip: true の設定
    Flickable の範囲外のコンテンツを表示しないように clip: true を設定することで、描画負荷を軽減できる場合があります。
  • 不必要なアニメーションの停止
    ドラッグ中に不必要なアニメーションや重い処理を停止する。
  • 要素の数を減らす
    Flickable 内の要素数を減らす、またはListViewGridView のDelegateを軽量化する。
  • Qtドキュメントの参照
    Qtの公式ドキュメントは非常に詳細です。Flickable のプロパティやシグナルについて再確認することで、見落としていた設定が見つかることがあります。
  • シンプルな再現コードの作成
    問題が発生した場合は、その問題のみを再現できる最小限のQMLコードを作成し、切り分けを行います。
  • console.log() でイベントの追跡
    onPressed, onReleased, onFlickStarted, onDraggingChanged などのシグナルハンドラ内で console.log() を使用し、どの要素がどのタイミングでイベントを受け取っているか、draggingflicking の状態がどうなっているかを追跡します。


例1:内側のMouseAreaと親のFlickableを同時にドラッグ

この例では、Flickableの中にMouseAreaを持つRectangleを配置します。synchronousDragtrueにすることで、MouseAreaでドラッグしたときに、そのRectangleだけでなく、親のFlickableも同時に動くようにします。

// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 600
    height: 400
    visible: true
    title: "Synchronous Drag Example 1"

    // 親のFlickable
    Flickable {
        id: outerFlickable
        anchors.fill: parent
        contentWidth: 1000 // 実際のコンテンツ幅
        contentHeight: 1000 // 実際のコンテンツ高
        clip: true // 範囲外のコンテンツをクリップ

        // synchronousDrag を true に設定
        // これにより、子要素のドラッグイベントが親にも伝播される
        synchronousDrag: true

        Rectangle {
            id: contentRect
            width: outerFlickable.contentWidth
            height: outerFlickable.contentHeight
            color: "lightgray"
            border.color: "darkgray"
            border.width: 2

            // ドラッグ可能なアイテム
            Rectangle {
                id: draggableItem
                width: 150
                height: 150
                color: "skyblue"
                x: 100
                y: 100

                Text {
                    anchors.centerIn: parent
                    text: "Drag Me (Synch.)"
                    font.pixelSize: 18
                    color: "black"
                }

                MouseArea {
                    anchors.fill: parent
                    // drag.target を parent (draggableItem) に設定
                    // これにより、このMouseAreaがdraggableItemを動かす
                    drag.target: parent

                    // これが synchronousDrag と連携するために重要
                    // MouseAreaがイベントを処理した後も、親にイベントを伝播させる
                    propagateComposedEvents: true

                    // クリックイベントがFlickableに伝播しないように、
                    // dragが開始されない限り、pressedイベントを処理しない
                    onPressed: (mouse) => {
                        if (!draggableItem.MouseArea.drag.active) {
                            mouse.accepted = false; // ドラッグが開始されない限り、親にイベントを渡す
                        }
                    }

                    // ドラッグ状態を可視化
                    onPressed: console.log("Draggable Item Pressed")
                    onReleased: console.log("Draggable Item Released")
                    onMouseXChanged: {
                        if (drag.active) {
                            //console.log("Draggable Item Dragging X:", parent.x);
                        }
                    }
                    onMouseYChanged: {
                        if (drag.active) {
                            //console.log("Draggable Item Dragging Y:", parent.y);
                        }
                    }
                }
            }

            // synchronousDrag が false の場合の比較用
            Rectangle {
                id: draggableItemNoSynch
                width: 150
                height: 150
                color: "lightcoral"
                x: 400
                y: 100

                Text {
                    anchors.centerIn: parent
                    text: "Drag Me (No Synch.)"
                    font.pixelSize: 18
                    color: "black"
                }

                MouseArea {
                    anchors.fill: parent
                    drag.target: parent
                    // propagateComposedEvents: false (デフォルト値)
                    // この場合、親のFlickableはドラッグされない
                }
            }
        }
    }
}

このコードのポイント

  • draggableItemNoSynch の方は propagateComposedEvents がデフォルト(false)のままであるため、ドラッグしてもouterFlickableは動きません。
  • 最も重要なのは MouseAreapropagateComposedEvents: true です。これが設定されていないと、MouseAreaがドラッグイベントを消費してしまい、親の outerFlickable に伝播しません。
  • draggableItem 内の MouseAreadrag.target: parent を持ち、それ自身(draggableItem)をドラッグします。
  • outerFlickablesynchronousDrag: true が設定されています。

これを実行すると、「Drag Me (Synch.)」と書かれた青い四角をドラッグすると、その四角自体が動き、同時に背景の Flickable もスクロールします。「Drag Me (No Synch.)」と書かれた赤い四角をドラッグすると、四角は動きますが、Flickableはスクロールしません。

この例では、水平方向にフリック可能なFlickableの中に、垂直方向にスクロール可能なListViewを配置し、両方を同時にスクロールさせる試みを示します。ただし、このようなケースではsynchronousDragだけでは完全な同期スクロールが難しい場合があります。

// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15 // ListViewのために必要

Window {
    width: 800
    height: 600
    visible: true
    title: "Synchronous Drag with Nested Flickables"

    // 外側の水平方向Flickable
    Flickable {
        id: horizontalFlickable
        anchors.fill: parent
        contentWidth: 1500 // 水平方向に長いコンテンツ
        contentHeight: parent.height
        clip: true
        flickableDirection: Flickable.HorizontalFlick // 水平方向のみフリック可能

        // synchronousDrag を true に設定
        // 内側のFlickable (ListView) の垂直ドラッグを親に伝播させる
        synchronousDrag: true

        Rectangle {
            width: horizontalFlickable.contentWidth
            height: horizontalFlickable.contentHeight
            color: "white"

            // 内側の垂直方向ListView
            ListView {
                id: verticalListView
                x: 100 // 水平Flickable内で位置を調整
                width: 300
                height: horizontalFlickable.height
                clip: true
                orientation: ListView.Vertical // 垂直方向スクロール

                model: 50 // 50個のアイテム

                delegate: Rectangle {
                    width: parent.width
                    height: 50
                    color: index % 2 === 0 ? "lightsteelblue" : "lightblue"
                    border.color: "darkblue"
                    border.width: 1

                    Text {
                        anchors.centerIn: parent
                        text: "Item " + (index + 1)
                        font.pixelSize: 18
                        color: "black"
                    }
                }

                // ListViewは内部的にFlickableなので、
                // ListViewのドラッグイベントも親Flickableに伝播させる
                // ここでMouseAreaを使用しなくても、ListViewの内部的なフリックが
                // synchronousDragによって伝播されます。
                // ただし、完全に一致する動作をさせるには、イベント処理の調整が必要になる場合があります。
                // 例: ListViewの`interactive`プロパティをfalseにし、
                // 親のFlickableで全てを制御することも考えられますが、
                // その場合ListViewのスクロールバーなどは機能しなくなります。
            }

            Rectangle {
                x: 600
                width: 300
                height: horizontalFlickable.height
                color: "lightgreen"
                Text {
                    anchors.centerIn: parent
                    text: "Another Section"
                    font.pixelSize: 24
                }
            }
        }
    }
}

このコードのポイント

  • synchronousDrag: true の効果として、verticalListView を垂直にフリックしようとすると、horizontalFlickablecontentX も一緒に少し動く(水平方向のドラッグとして認識される)可能性があります。これは、タッチ開始点が親と子の両方に伝播し、両方がドラッグ操作と判断しようとするためです。
  • verticalListView は垂直方向にスクロールします。
  • horizontalFlickable は水平方向にスクロールし、synchronousDrag: true が設定されています。
  • 多くの場合、ユーザー体験を損なわないためには、水平方向のフリックと垂直方向のフリックを明確に分離するか、片方をスクロールバーなどで補助する方法を検討する方が適切です。
  • このような複雑なネストされたフリック動作を完全に制御するには、synchronousDrag だけでなく、MouseAreadrag.targetpropagateComposedEventsonPressed での mouse.accepted の制御、さらにはカスタムのイベントハンドラや状態管理が必要になることが多いです。
  • このシナリオでは、synchronousDrag は、内側の垂直方向のフリック操作が外側の水平方向のフリック操作に影響を与えることを意味します。しかし、これにより完全に連動した垂直・水平スクロールが実現できるわけではありません。ユーザーが垂直にスクロールしようとすると、水平方向にも意図せず動いてしまう「ぎこちなさ」が生じる可能性があります。


Flickable.synchronousDrag の代替方法

MouseArea.drag.target を利用した直接的なドラッグ制御

これは最も一般的で分かりやすい代替手段です。子要素の MouseArea で、親の FlickablecontentXcontentY を直接操作することで、親のスクロールを制御します。

特徴

  • 子要素のドラッグを検知し、親のスクロール位置を調整する。
  • イベント伝播の複雑さを回避し、明示的に制御できる。

コード例

import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 600
    height: 400
    visible: true
    title: "Alternative: Direct Drag Control"

    Flickable {
        id: outerFlickable
        anchors.fill: parent
        contentWidth: 1000
        contentHeight: 1000
        clip: true
        // synchronousDrag は使わない

        Rectangle {
            id: contentRect
            width: outerFlickable.contentWidth
            height: outerFlickable.contentHeight
            color: "lightgray"
            border.color: "darkgray"
            border.width: 2

            // ドラッグ可能なアイテム
            Rectangle {
                id: draggableItem
                width: 150
                height: 150
                color: "skyblue"
                x: 100
                y: 100

                Text {
                    anchors.centerIn: parent
                    text: "Drag Me (Direct Control)"
                    font.pixelSize: 18
                    color: "black"
                }

                MouseArea {
                    anchors.fill: parent
                    // drag.target は draggableItem 自体
                    drag.target: parent
                    // propagateComposedEvents は false (デフォルト) でもOK

                    // ドラッグ中の位置変化を検知し、FlickableのcontentX/Yを調整
                    property real lastMouseX: 0
                    property real lastMouseY: 0

                    onPressed: (mouse) => {
                        lastMouseX = mouse.x;
                        lastMouseY = mouse.y;
                    }

                    onPositionChanged: (mouse) => {
                        if (drag.active) {
                            // マウスの移動量に応じてFlickableのcontentX/Yを更新
                            outerFlickable.contentX -= (mouse.x - lastMouseX);
                            outerFlickable.contentY -= (mouse.y - lastMouseY);
                            // マウスの現在位置を更新
                            lastMouseX = mouse.x;
                            lastMouseY = mouse.y;
                        }
                    }
                }
            }
        }
    }
}

利点

  • 親と子のドラッグ挙動を完全に分離または連動させやすい。
  • 複雑なイベント伝播のデバッグが不要。
  • 明示的な制御により、挙動を予測しやすい。

欠点

  • 複数の子要素が親のフリックを操作する場合、衝突管理が必要になることがある。

親の Flickable のみを操作し、子要素は静的に配置

この方法は、子要素自体はドラッグせず、親の Flickable だけがドラッグに応答するようにします。子要素は単に FlickablecontentItem の一部として配置されます。

特徴

  • 子要素はユーザーによって直接ドラッグされない。
  • 最もシンプルで、標準的なスクロール動作。

コード例

import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 600
    height: 400
    visible: true
    title: "Alternative: Parent Flickable Only"

    Flickable {
        id: outerFlickable
        anchors.fill: parent
        contentWidth: 1000
        contentHeight: 1000
        clip: true
        // synchronousDrag は使わない

        // contentItem はデフォルトでFlickableの範囲
        // contentItem にRectangleを配置し、その中に他の要素を配置する
        Rectangle {
            width: outerFlickable.contentWidth
            height: outerFlickable.contentHeight
            color: "lightgray"
            border.color: "darkgray"
            border.width: 2

            // このアイテムはMouseAreaを持たず、ドラッグされない
            Rectangle {
                width: 150
                height: 150
                color: "plum"
                x: 100
                y: 100

                Text {
                    anchors.centerIn: parent
                    text: "Static Item in Flickable"
                    font.pixelSize: 18
                    color: "black"
                }
            }

            // ListViewなどもこのFlickableのcontentItem内に配置する
            ListView {
                x: 400
                y: 50
                width: 200
                height: 300
                model: 10 // 短いリスト
                delegate: Rectangle {
                    width: parent.width
                    height: 40
                    color: index % 2 === 0 ? "white" : "lightgreen"
                    Text { anchors.centerIn: parent; text: "List Item " + index }
                }
                // このListViewは自身で垂直スクロールする
                // 親のFlickableは水平スクロールを担当できる
                // (flickableDirectionを適切に設定することで、タッチの方向でフリックを分離できる)
            }
        }
    }
}

利点

  • 意図しないイベントの衝突が少ない。
  • Flickable の標準的なフリック(慣性スクロール)機能がそのまま利用できる。
  • 実装が非常にシンプル。

欠点

  • ネストされた Flickable (例: 水平 Flickable 内の垂直 ListView)の場合、タッチイベントの方向によって、どちらの Flickable が操作されるかをユーザーが意図通りに制御するのが難しい場合がある。flickableDirection を活用して方向で分離することが一般的。
  • 子要素自体をドラッグして動かす、という直接的なインタラクションはできない。

イベントハンドラでの mouse.accepted と mouse.grab の利用

MouseAreaonPressedonReleased などのイベントハンドラ内で、mouse.acceptedfalse に設定することでイベントを親に伝播させたり、mouse.grab() / mouse.ungrab() を使用してマウスイベントを独占したり解除したりすることで、より細かく制御できます。

特徴

  • 複雑なジェスチャー認識や、特定の条件でのみドラッグを開始・停止したい場合に有効。
  • 最も低レベルなイベント制御。

コード例 (概念)

MouseArea {
    onPressed: (mouse) => {
        // 特定の条件で、イベントを親に伝播させる
        if (mouse.button === Qt.RightButton) {
            mouse.accepted = false; // 親がこのイベントを受け取る
        } else {
            // 左クリックの場合はこのMouseAreaがイベントを消費
            mouse.accepted = true;
            mouse.grab(); // イベントを独占
        }
    }
    onReleased: (mouse) => {
        if (mouse.grabbed) { // 独占中なら
            mouse.ungrab(); // 解放
        }
    }
    // ... ドラッグロジック
}

利点

  • ジェスチャー認識ライブラリと組み合わせて、複雑なインタラクションを構築できる。
  • 非常に柔軟なイベント処理が可能。

欠点

  • 標準的なフリックの挙動を再現するには、手動でアニメーションや物理シミュレーションを実装する必要がある。
  • イベント伝播のライフサイクルを深く理解する必要がある。
  • 実装が複雑になりがち。
代替手段synchronousDrag との主な違い利点欠点
MouseArea.drag.target による直接制御synchronousDrag はイベント伝播に依存するが、これは明示的に親のプロパティを操作する。制御が明示的で予測しやすい。複雑なイベント伝播を回避。フリックの再現が複雑。
親のFlickableのみ操作synchronousDrag は子要素のドラッグも親に影響を与えるが、これは親が排他的にドラッグを受け持つ。実装がシンプル。Flickableの標準フリック機能がそのまま使える。子要素の直接ドラッグはできない。
mouse.accepted / grabsynchronousDrag は特定の同期挙動を自動化するが、これはイベントの伝播・独占を低レベルで制御。非常に柔軟なイベント処理。実装が複雑。フリックの再現が複雑。イベントライフサイクルの理解が必要。

Flickable.synchronousDrag は、子要素のドラッグイベントを親の Flickable に伝播させることで同期的な動きを実現します。しかし、よりきめ細やかな制御が必要な場合や、特定の動作パターンを実現したい場合には、以下の代替手段が有効です。

Flickable の contentX, contentY を直接バインディング/操作する

FlickablecontentXcontentY プロパティは、Flickableの表示領域の左上隅のコンテンツ座標を示します。これらのプロパティを直接操作することで、Flickableのスクロール位置をプログラム的に制御できます。

ユースケース

  • アニメーションを伴うスクロール(例:特定のアイテムにスムーズに移動する)を実現したい場合。
  • カスタムのスクロールバーやナビゲーション要素を作成し、それらの操作によって Flickable を制御したい場合。
  • 複数の FlickableListView を特定の基準で同期スクロールさせたい場合。

コード例
水平方向の Flickable と垂直方向の ListView があり、互いのスクロールをある程度同期させたい場合。

// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15

Window {
    width: 800
    height: 600
    visible: true
    title: "ContentX/Y Binding Example"

    // 水平スクロール用のFlickable
    Flickable {
        id: horizontalFlickable
        width: parent.width
        height: parent.height / 2
        contentWidth: 1500
        contentHeight: height
        clip: true
        flickableDirection: Flickable.HorizontalFlick // 水平方向のみ

        Rectangle {
            width: horizontalFlickable.contentWidth
            height: horizontalFlickable.contentHeight
            color: "lightgray"

            Text { anchors.centerIn: parent; text: "Horizontal Content" }
        }
    }

    // 垂直スクロール用のListView (水平Flickableの下に配置)
    ListView {
        id: verticalListView
        y: horizontalFlickable.height // horizontalFlickable の下に配置
        width: parent.width
        height: parent.height / 2
        clip: true
        orientation: ListView.Vertical

        // ListViewのcontentXを水平FlickableのcontentXにバインド
        // これにより、水平FlickableがスクロールするとListViewの横位置も動く
        // ただし、ListViewは垂直スクロールなので、これは「水平位置」の同期
        // 厳密なネストされたスクロールの連動ではないことに注意
        // verticalListView.contentX = horizontalFlickable.contentX
        // ListViewのコンテンツが水平方向にも広い場合、このバインディングは意味を持つ
        // 例: 各ListViewのデリゲートが水平スクロールを持つ場合など
        // 今回の例ではListViewのcontentWidthはListViewのwidthと同じなので、このバインディングは直接的な効果はない
        // しかし、概念としてFlickableのcontentX/Yを他の要素にバインドする例として示す
        // horizontalFlickable.contentY は使わない (HorizontalFlick なので)

        model: 50
        delegate: Rectangle {
            width: parent.width
            height: 50
            color: index % 2 === 0 ? "lightsteelblue" : "lightblue"
            border.color: "darkblue"
            border.width: 1
            Text { anchors.centerIn: parent; text: "Item " + (index + 1) }
        }
    }

    // 2つのFlickable間で完全に同期した2Dスクロールを実現したい場合
    // 片方のFlickableのcontentX/Yの変更をもう片方にミラーリングする
    Flickable {
        id: masterFlickable
        visible: false // 実際のUIには表示しないが、スクロール状態を管理
        contentWidth: 1500
        contentHeight: 1000

        // 他のFlickableのcontentX/Yをこれにバインド
        // または、onContentXChanged / onContentYChanged シグナルハンドラで更新
        onContentXChanged: {
            horizontalFlickable.contentX = masterFlickable.contentX;
            // verticalListView.contentX = masterFlickable.contentX; // ListViewのコンテンツが水平の場合
        }
        onContentYChanged: {
            // verticalListView.contentY = masterFlickable.contentY; // ListViewが垂直に動く場合
        }
        // ここにMouseAreaなどを置いて、このmasterFlickableをドラッグすることで
        // 他のFlickableを同期して動かすことも可能
    }
}

利点

  • プログラムによるスクロールやアニメーションが容易。
  • 複数の要素間で複雑な同期ロジックを実装できる。
  • スクロール動作を非常に細かく制御できる。

欠点

  • イベントの伝播を自分で管理する必要があるため、コードが複雑になりがち。
  • Flickable のフリック動作の物理的な挙動(慣性スクロールなど)を自分で管理する必要がある場合がある(flick() メソッドなどで補完)。

DragHandler を使用してカスタムドラッグロジックを実装する

Qt 5.14 以降で導入された DragHandler は、よりモダンで柔軟なドラッグ操作のハンドリングを提供します。MouseAreadrag プロパティよりも強力で、複数のポインターイベントや複雑なジェスチャーにも対応できます。

ユースケース

  • Flickable のデフォルトのドラッグ挙動を完全に置き換える場合。
  • ドラッグ中に特別な視覚的フィードバック(例:ズームや回転)を与えたい場合。
  • ドラッグ開始の条件(例:特定のしきい値を超えたらドラッグ開始)を細かく設定したい場合。
  • Flickable の内部の特定の領域だけをドラッグ可能にし、そのドラッグによってFlickable全体を動かしたい場合。

コード例
DragHandler を使って、Flickable のコンテンツを直接ドラッグして動かす。

// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15

Window {
    width: 600
    height: 400
    visible: true
    title: "DragHandler Example"

    Flickable {
        id: myFlickable
        anchors.fill: parent
        contentWidth: 1000
        contentHeight: 1000
        clip: true
        interactive: false // Flickable自身のデフォルトのドラッグを無効化

        // Flickableのコンテンツ
        Rectangle {
            width: parent.contentWidth
            height: parent.contentHeight
            color: "lightgray"
            border.color: "darkgray"
            border.width: 2

            // DragHandler をコンテンツにアタッチ
            DragHandler {
                id: dragHandler
                target: parent // コンテンツ自体をドラッグ対象にする

                // ドラッグ開始時に、Flickableの現在のコンテンツ位置を保存
                onPressed: {
                    dragHandler.xOffset = myFlickable.contentX - dragHandler.centroid.position.x;
                    dragHandler.yOffset = myFlickable.contentY - dragHandler.centroid.position.y;
                }

                // ドラッグ中にFlickableのcontentX/Yを更新
                onActiveChanged: {
                    if (active) {
                        // ドラッグがアクティブになったら、Flickableの慣性スクロールを停止
                        myFlickable.flick(0, 0);
                    } else {
                        // ドラッグが終了したら、最後にフリック動作をシミュレート
                        myFlickable.flick(-dragHandler.velocity.x, -dragHandler.velocity.y);
                    }
                }

                onTranslationChanged: {
                    // DragHandlerの移動量に基づいてFlickableのcontentX/Yを更新
                    // DragHandlerの移動方向とFlickableのスクロール方向が逆なので注意
                    myFlickable.contentX = dragHandler.xOffset + dragHandler.translation.x;
                    myFlickable.contentY = dragHandler.yOffset + dragHandler.translation.y;
                }
            }

            Text { anchors.centerIn: parent; text: "Drag Me with DragHandler" }
        }
    }
}

利点

  • QMLの新しい推奨される入力ハンドリング方法。
  • ジェスチャーの検出(マルチタッチなど)が容易。
  • MouseArea.drag よりも高機能で、より詳細な制御が可能。

欠点

  • Flickable のデフォルトのフリック挙動を完全に置き換える場合、フリックの慣性や境界の挙動を自分で実装する必要がある。上記の例ではflick()メソッドを使って簡単な慣性スクロールをシミュレートしているが、完全に同じ物理挙動を再現するのは複雑。

イベントフィルターとカスタムイベントハンドリング

QMLの入力イベントは、階層構造を介して伝播します。この伝播メカニズムを利用して、親と子の要素間でイベントを明示的にフィルタリングし、どちらがイベントを消費するかを決定できます。

ユースケース

  • synchronousDrag では実現できない、より複雑なイベントルーティングが必要な場合。
  • 複雑なネストされたFlickableで、どちらのFlickableを動かすかを動的に決定したい場合。
  • 特定の条件に基づいてイベントを親または子に「横取り」させたい場合。

コード例
MouseAreaonPressedmouse.accepted = false を使ってイベント伝播を制御する。

// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 600
    height: 400
    visible: true
    title: "Event Filtering Example"

    Flickable {
        id: outerFlickable
        anchors.fill: parent
        contentWidth: 1000
        contentHeight: 1000
        clip: true
        // interactive: true (デフォルト)
        // synchronousDrag: false (デフォルト)

        Rectangle {
            width: parent.contentWidth
            height: parent.contentHeight
            color: "lightgray"
            border.color: "darkgray"
            border.width: 2

            // 内側のドラッグ可能なアイテム
            Rectangle {
                id: innerItem
                width: 150
                height: 150
                color: "skyblue"
                x: 100
                y: 100

                Text {
                    anchors.centerIn: parent
                    text: "Conditional Drag"
                    font.pixelSize: 18
                    color: "black"
                }

                MouseArea {
                    anchors.fill: parent
                    drag.target: innerItem // このアイテムをドラッグする

                    // イベントを条件によって親に伝播させるかどうかを決定
                    onPressed: (mouse) => {
                        // 特定の条件(例:Controlキーが押されている場合)で
                        // 内側のアイテムではなく、親のFlickableを動かす
                        if (mouse.modifiers & Qt.ControlModifier) {
                            mouse.accepted = false; // イベントを親に渡す
                            // innerItem.MouseArea.drag.active を false にするなどして、
                            // このアイテムのドラッグを阻止するロジックも必要に応じて追加
                        } else {
                            mouse.accepted = true; // このアイテムがイベントを消費し、ドラッグする
                        }
                    }

                    // ドラッグがアクティブでない限り、イベントを親に伝播
                    // これにより、クリックは内側のアイテムに、ドラッグは条件によって内外に割り振る
                    // onReleased や onCanceled も適切に処理する必要がある
                }
            }
        }
    }
}

利点

  • 動的な条件に基づいてイベント処理を切り替えることができる。
  • 既存の MouseAreaFlickable のイベントシステムを利用できる。

欠点

  • 複雑なジェスチャーやマルチタッチには DragHandler の方が適している。
  • mouse.accepted の制御は非常に重要で、誤ると意図しないイベント消費や伝播のバグにつながりやすい。

Flickable.synchronousDrag は、子要素のドラッグを親の Flickable に同期させるための手軽な方法ですが、その制御は限定的です。より高度な制御やカスタムのインタラクションが必要な場合は、以下の代替方法を検討してください。

  1. Flickable の contentX, contentY を直接操作
    複数の Flickable 間で完全に同期したスクロールや、プログラムによる精密なスクロール制御が必要な場合に最適です。フリックの物理挙動は自分で管理する必要があります。
  2. DragHandler を使用したカスタムドラッグロジック
    MouseAreadrag よりも高機能で、柔軟なドラッグジェスチャーの検出と、Flickableの動作へのマッピングが可能です。フリックの物理挙動の再実装が必要になることがあります。
  3. イベントフィルターとカスタムイベントハンドリング
    mouse.accepted の制御や、特定の条件に基づくイベントの伝播切り替えが必要な場合に有効です。イベントのフローを正確に理解しておくことが重要です。