Qt Flickable.flickingのよくあるエラーと解決策：QML開発者必見のトラブルシューティング
2025-05-26
Flickableとは？
まず、Flickableアイテムについて簡単に説明します。Flickableは、子要素をドラッグしたりフリックしたりして、その内容をスクロールさせるためのQMLアイテムです。スマートフォンの画面を指でスワイプしてコンテンツをスクロールさせるような操作を実現するために使用されます。例えば、画像ビューアーで大きな画像を部分的に表示し、指でなぞって異なる部分を見る、といったケースで活用されます。
flickingプロパティの役割
Flickable.flickingプロパティは、以下の状態を示します。
falseの場合:Flickableがフリック中ではないことを示します。これには、コンテンツが静止している状態、またはユーザーがドラッグしてスクロールしているが、まだ指を離していない状態などが含まれます。trueの場合: ユーザーがFlickableを「フリック」している状態であることを示します。フリックとは、指を素早く動かして離すことで、コンテンツが慣性でしばらくスクロールし続ける動作を指します。
flickingが役立つケース
このflickingプロパティは、UIの挙動を調整したり、特定のイベントをトリガーしたりする際に非常に便利です。例えば：
- 状態の表示: 「フリック中…」のような視覚的なフィードバックをユーザーに提供する場合に、このプロパティを使用できます。
- アニメーションの停止/開始: フリックが始まったら他の要素のアニメーションを一時停止し、フリックが終わったら再開する、といった連携が可能です。
- インタラクションの制御: フリック中に他のインタラクション（ボタンのクリックなど）を無効にしたい場合に、
flickingプロパティをチェックして制御できます。 - コンテンツの描画最適化: フリック中は高速にスクロールするため、複雑な描画処理を一時的に停止したり、簡略化したりすることでパフォーマンスを向上させることができます。
flickingがtrueの間は低解像度の画像を使い、flickingがfalseになったら高解像度の画像に切り替える、といった制御が考えられます。
Flickableには、flicking以外にもスクロールの状態を示す類似のプロパティがあります。
flickingVertically:Flickableが垂直方向にフリック中であるかどうかを示します。flickingHorizontally:Flickableが水平方向にフリック中であるかどうかを示します。movingVertically:Flickableが垂直方向に移動中であるかどうかを示します。movingHorizontally:Flickableが水平方向に移動中であるかどうかを示します。moving:Flickableが現在移動中（ドラッグまたはフリックのいずれか）であるかどうかを示します。
flicking プロパティが期待通りに反応しない
問題点:
flicking プロパティを使ってUIの表示を切り替えたり、特定の処理を停止したりしているのに、フリック動作中にUIが反応しない、または期待通りに表示が切り替わらない。
考えられる原因とトラブルシューティング:
- 非同期処理との競合:
flickingの状態に基づいて非同期で処理を行う場合、その処理がフリック動作の速度に追いついていない可能性があります。例えば、flickingがfalseになった瞬間に高解像度画像をロードする処理が、フリックが完全に停止する前に終わらない、といったケースです。- 画像をロードする処理の負荷を軽減する、またはロード完了までプレースホルダーを表示するなどの対策を検討します。
- QMLの
LoaderやImageのasynchronousプロパティを適切に設定することで、パフォーマンスを改善できる場合があります。
- プロパティのバインディングの問題:
flickingプロパティの値が正しくUI要素にバインドされていない可能性があります。QMLのバインディングが正しく機能しているか確認してください。 flickingの使用方法の誤り:flickingは「フリックによる慣性スクロール中」にtrueになります。指でドラッグしている間はflickingはfalseのままです。ドラッグ中も反応させたい場合は、Flickable.moving(フリックとドラッグの両方を含む移動中) またはFlickable.active(ユーザーがFlickableを操作中) を使用することを検討してください。// 例: Flickableがフリック中またはドラッグ中にRectangeを非表示にする Flickable { id: myFlickable // ... Rectangle { visible: !myFlickable.moving // ドラッグでもフリックでも非表示 // または // visible: !myFlickable.flicking // フリック中のみ非表示 // または // visible: !myFlickable.active // Flickableに指が触れている間非表示 } }
パフォーマンスの低下
問題点:
flicking プロパティを利用してUI要素の表示/非表示を切り替えているにもかかわらず、フリック中にUIがカクつく、またはフレームレートが低下する。
考えられる原因とトラブルシューティング:
- JavaScriptの実行オーバーヘッド:
flickingの変更に反応して複雑なJavaScript関数を実行している場合、それがパフォーマンスのボトルネックになる可能性があります。- 可能な限りQMLのプロパティバインディングを利用し、JavaScriptの使用を最小限に抑えるようにします。
- 重い計算が必要な場合は、C++に処理をオフロードすることを検討してください。
flickingがtrueの間の描画処理の負荷:flickingがtrueの間に実行される描画処理が重すぎる可能性があります。- 複雑な要素の描画抑制: フリック中は、影、グラデーション、複雑なテキストレンダリングなど、計算負荷の高い描画処理を一時的に停止または簡略化することを検討してください。
- 画像の解像度調整: 大量の画像を扱う場合、フリック中は低解像度のプレースホルダー画像を表示し、フリックが停止した後に高解像度画像をロードするように切り替えることで、パフォーマンスを大幅に改善できます。
- 要素の非表示:
visible: falseやopacity: 0を使って要素を非表示にしても、QMLによっては内部的に描画処理が完全に停止しない場合があります。完全に描画から除外したい場合は、Loaderを使って要素をアンロードすることを検討してください。Loader { active: !myFlickable.flicking // フリック中はコンテンツを非アクティブにする sourceComponent: myContentComponent // フリックが止まったらロードするコンポーネント }
他のインタラクションとの競合
問題点:
Flickable 内の要素（ボタンなど）がフリック動作中に誤って反応してしまう、またはフリックがボタンのクリックを阻害してしまう。
考えられる原因とトラブルシューティング:
flickingを使用したインタラクションの無効化: フリック中は特定のインタラクションを完全に無効にすることで、意図しない操作を防ぐことができます。Flickable { id: myFlickable // ... Button { text: "Click Me" enabled: !myFlickable.flicking // フリック中はボタンを無効にする onClicked: { console.log("Button clicked!"); } } }MouseAreaのpropagateComposedEvents/preventStealing:Flickableの子要素にMouseAreaがある場合、フリックのドラッグジェスチャーとMouseAreaのクリックイベントが競合することがあります。MouseAreaのpropagateComposedEventsをfalseに設定して、イベントが親要素（Flickable）に伝播しないようにします。MouseAreaのpreventStealingを使用して、フリック動作からイベントを「奪う」かどうかを制御できます。Flickable { // ... Rectangle { // ... MouseArea { anchors.fill: parent onClicked: { console.log("Button clicked!"); } // フリック動作中にクリックイベントが誤って発生しないように // イベントの伝播を停止する propagateComposedEvents: false } } }
flicking プロパティの挙動を理解し、問題をトラブルシューティングするために以下のデバッグ手法が役立ちます。
- Qt Creator の QML/JS デバッガ: Qt Creator のデバッガを使用して、QMLプロパティの値をリアルタイムで確認し、コードの実行フローを追跡できます。
- 視覚的なフィードバック:
flickingの状態に応じてUIの色や透明度を変更することで、現在の状態を視覚的に確認できます。Flickable { id: myFlickable // ... Rectangle { width: parent.width height: 20 color: myFlickable.flicking ? "red" : "green" Text { anchors.centerIn: parent text: myFlickable.flicking ? "FLICKING" : "STOPPED" color: "white" } } } console.logで状態を出力:onFlickingChangedシグナルハンドラを使用して、flickingプロパティが変化したときにコンソールにメッセージを出力します。Flickable { id: myFlickable // ... onFlickingChanged: { console.log("Flicking state changed:", myFlickable.flicking); } }
flicking の状態を視覚的に表示する
flicking プロパティの最も基本的な使用例は、その状態をユーザーに視覚的にフィードバックすることです。
// FlickableFlickingExample1.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
Window {
width: 400
height: 600
visible: true
title: "Flickable Flicking State Example"
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
contentWidth: width // 水平スクロールを無効にする
contentHeight: 2000 // 垂直スクロールを可能にするために高さを設定
clip: true // 子要素がFlickableの境界を越えて描画されないようにする
// Flickableの状態に応じて背景色を変更する
// フリック中は赤、それ以外は緑
background: Rectangle {
color: myFlickable.flicking ? "red" : "green"
radius: 10
// ficking状態が変更されたときに色変更のアニメーション
Behavior on color { ColorAnimation { duration: 100 } }
}
Column {
width: parent.width
spacing: 5
Repeater {
model: 50 // 50個のテキスト要素を作成
Text {
text: "Item " + (index + 1)
font.pixelSize: 20
color: "black"
anchors.left: parent.left
anchors.leftMargin: 10
}
}
}
// 現在のflicking状態を表示するテキスト
Text {
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
text: myFlickable.flicking ? "フリック中..." : "停止中"
font.pixelSize: 24
color: "white"
z: 100 // 他の要素の上に表示されるようにする
}
}
}
解説:
この例では、Flickable の background の Rectangle の color プロパティを myFlickable.flicking にバインドしています。フリック中は赤、それ以外は緑に変化します。また、最下部に現在の状態を示すテキストも表示しています。これにより、ユーザーがフリック操作をしているときに、flicking プロパティがどのように変化するかを簡単に確認できます。
フリック中のパフォーマンス最適化（画像の例）
フリック中に高負荷な描画を避けるために flicking を利用する一般的な例です。例えば、高解像度の画像を表示するリストがある場合、フリック中は低解像度のプレースホルダーを表示し、停止した後に高解像度画像をロードするように切り替えることができます。
// FlickableFlickingExample2.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
Window {
width: 400
height: 600
visible: true
title: "Flickable Performance Optimization Example"
Flickable {
id: imageFlickable
anchors.fill: parent
contentWidth: width
contentHeight: childrenRect.height // 子要素の高さに合わせてコンテンツ高さを調整
clip: true
Column {
width: parent.width
spacing: 10
Repeater {
model: 10 // 10個の画像アイテムを作成
delegate: Item {
width: parent.width
height: 150
Image {
id: imageItem
anchors.fill: parent
fillMode: Image.PreserveAspectCrop
source: {
// フリック中は低解像度プレースホルダー
// 停止中は高解像度画像（仮のパス）
if (imageFlickable.flicking) {
return "qrc:/images/placeholder.png" // 低解像度プレースホルダー画像
} else {
return "qrc:/images/image_" + (index % 3 + 1) + ".jpg" // 高解像度画像（例として3種類の画像を循環）
}
}
// 画像がロード中であることを示すプログレスインジケータなど
// asynchronous: true は非同期ロードを可能にする
asynchronous: true
// ロード中のインジケータ（オプション）
BusyIndicator {
anchors.centerIn: parent
running: imageItem.status === Image.Loading
visible: running
}
}
Text {
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
text: "Image " + (index + 1)
color: "white"
font.pixelSize: 18
// テキストの背景
Rectangle {
anchors.fill: parent
color: "#80000000" // 半透明の黒
z: -1
}
}
}
}
}
}
}
解説:
この例では、Image の source プロパティを imageFlickable.flicking の状態によって切り替えています。
imageFlickable.flickingがfalseになると、高解像度の実際の画像に切り替わります。 これにより、フリック中の描画負荷を軽減し、よりスムーズなスクロール体験を提供できます。asynchronous: trueは画像をバックグラウンドでロードするため、UIのブロックを防ぎます。imageFlickable.flickingがtrueの間は、qrc:/images/placeholder.pngのような低解像度のプレースホルダー画像を表示します。
注意点: この例を実行するには、プロジェクトにplaceholder.pngとimage_1.jpg, image_2.jpg, image_3.jpgといった画像をリソースファイル（.qrc）に追加する必要があります。
フリック中にボタンや他のインタラクティブな要素が誤ってクリックされるのを防ぐために、flicking を使用してそれらの要素を無効にすることができます。
// FlickableFlickingExample3.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
Window {
width: 400
height: 600
visible: true
title: "Flickable Interaction Disabling Example"
Flickable {
id: myFlickableContent
anchors.fill: parent
contentWidth: width
contentHeight: childrenRect.height
clip: true
Column {
width: parent.width
spacing: 10
Repeater {
model: 20
Item {
width: parent.width
height: 80
// フリック中はボタンを無効にする
Button {
anchors.centerIn: parent
width: 200
height: 50
text: "Item " + (index + 1) + " Button"
enabled: !myFlickableContent.flicking // Flicking中は無効
onClicked: {
console.log("Button " + (index + 1) + " clicked!");
}
}
// フリック状態の表示
Text {
anchors.left: parent.left
anchors.leftMargin: 10
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
text: myFlickableContent.flicking ? "フリック中" : "準備完了"
color: myFlickableContent.flicking ? "orange" : "green"
font.pixelSize: 16
}
Rectangle {
anchors.fill: parent
color: "lightgrey"
opacity: 0.2
z: -1
}
}
}
}
}
}
解説:
この例では、Button の enabled プロパティを !myFlickableContent.flicking にバインドしています。これにより、Flickable がフリック中である間はボタンが自動的に無効になり、クリックイベントを受け付けなくなります。フリックが停止すると、ボタンは再び有効になります。
Flickable.moving プロパティ
flicking が「フリックによる慣性スクロール中」に特化しているのに対し、moving はより広範な「移動中」の状態を示します。
Flickable.moving:- 意味: Flickableのコンテンツが現在移動中であるかどうかを示します。
- 状態: ユーザーが指でドラッグしている間（
flickingはfalse）、および指を離してフリックによる慣性スクロールが発生している間（flickingはtrue）の両方でtrueになります。コンテンツが完全に静止している場合にのみfalseになります。 - 用途: ユーザーがFlickableを操作している間、またはコンテンツが動いている間は常に特定のUI要素を非表示にしたい場合や、パフォーマンス最適化を行いたい場合に適しています。
例: ドラッグ中も画像プレースホルダーを表示したい場合
Image {
source: myFlickable.moving ? "qrc:/images/placeholder.png" : "qrc:/images/full_res_image.jpg"
}
Flickable.active プロパティ
active プロパティは、Flickableが現在ユーザーからの入力を受け付けているかどうかを示します。
Flickable.active:- 意味: Flickableがユーザーによってアクティブに操作されているかどうかを示します。
- 状態: ユーザーがFlickableに指を置いている間は
trueになります。指を離すと、flickingがtrueであってもすぐにfalseになります。 - 用途: ユーザーが画面に触れている間にのみ特定の視覚的フィードバックを提供したい場合などに使用できます。例えば、スクロールバーをタッチした瞬間に表示し、指を離したらすぐに非表示にする、といった動作です。
例: ユーザーがFlickableに触れている間だけスクロールバーを表示する
Flickable {
id: myFlickable
// ...
ScrollBar.horizontal: ScrollBar {
policy: ScrollBar.AlwaysOn
visible: myFlickable.active // ユーザーが触っている間だけ表示
}
}
Flickable.atXExtremes / Flickable.atYExtremes プロパティ
これらは直接flickingの代替ではありませんが、スクロールの「端」の状態を検知するのに役立ち、特定のフリック終了時の挙動と組み合わせられます。
Flickable.atYExtremes:- 意味: 垂直方向のコンテンツがスクロール可能な範囲のどちらかの端（上端または下端）にあるかどうかを示します。
Flickable.atXExtremes:- 意味: 水平方向のコンテンツがスクロール可能な範囲のどちらかの端（左端または右端）にあるかどうかを示します。
用途: 特定の端に到達した際に、フリックが終了した後に自動でコンテンツを調整する（例: スナップする）などの処理を行う場合に利用できます。
onFlickingChanged / onMovingChanged / onActiveChanged シグナル
プロパティの値をポーリングするのではなく、これらのプロパティが変更されたときに特定の処理を実行したい場合は、対応するシグナルハンドラを使用します。
onActiveChanged:activeプロパティの値が変更されたときに発生します。onMovingChanged:movingプロパティの値が変更されたときに発生します。onFlickingChanged:flickingプロパティの値が変更されたときに発生します。
例: flicking が false になったときに一度だけ処理を実行する
Flickable {
id: myFlickable
// ...
onFlickingChanged: {
if (!myFlickable.flicking) {
// フリックが停止した後の処理（例: 高解像度画像をロード、データフェッチなど）
console.log("Flicking stopped. Performing post-flick actions.");
}
}
}
これらのプロパティとシグナルを監視することで、Flickableが移動していることを検出できます。
onContentXChanged/onContentYChanged:- 意味: それぞれ水平方向または垂直方向のスクロール位置が変更されたときに発生します。
Flickable.contentX/Flickable.contentY:- 意味: Flickableのコンテンツの現在のスクロール位置（左上隅の座標）を示します。
用途: スクロールが開始されたこと、または終了したことを、これらの座標が変化しなくなった（または変化し始めた）ことで検出できます。ただし、flicking や moving のような状態プロパティに比べて、自分で状態を管理する必要があり、より複雑になります。
例: contentY が変化したときに何かを行う（ただし、通常は moving や flicking の方が適切）
Flickable {
id: myFlickable
// ...
onContentYChanged: {
// コンテンツが垂直方向に動いている
// このシグナルはflicking、movingの両方で発生する
// より詳細な状態を知るにはflickingやmovingを使うのが望ましい
console.log("Content Y changed:", myFlickable.contentY);
}
}
| プロパティ | 説明 | 主な用途 |
|---|---|---|
flicking | フリックによる慣性スクロール中 | フリック中のパフォーマンス最適化、ボタンの無効化 |
moving | ドラッグ中またはフリックによる慣性スクロール中 | 全ての移動中の最適化、UI要素の表示/非表示 |
active | ユーザーがFlickableに触れている間 | タッチジェスチャー中の視覚的フィードバック、スクロールバーの表示 |
on...Changed | 各プロパティの値が変更されたときにイベントをトリガーする | 特定の状態変化後の処理、アニメーションの開始/停止 |
contentX/Y | コンテンツの現在位置 | スクロール位置に基づくカスタムロジック（一般的ではない） |