【Qt QML】Flickable.bottomMargin徹底解説！スクロールUIの余白を完璧に制御する方法
2025-05-27
Flickable は、タッチデバイスなどでコンテンツを指でドラッグしたりフリックしたりしてスクロールさせるUI要素を実現するためのものです。例えば、長いリストや大きな画像を表示する際に、画面に収まりきらない部分をスクロールして見せるために使われます。
bottomMargin は、以下の点で重要になります。
- 安全な領域（Safe Area）の考慮: 特にモバイルデバイスでは、システムナビゲーションバーやホームジェスチャーエリアなど、OSによってUIがオーバーレイされる「安全な領域（safe area）」が存在します。
Flickable.bottomMarginは、このような安全な領域を考慮してコンテンツの表示範囲を調整するために使われることがあります。例えば、FelgoフレームワークのAppFlickableは、AndroidのシステムナビゲーションバーやiOSのホームジェスチャーエリアに対応するために、デフォルトでbottomMarginが設定されることがあります。 - 「はみ出し」の制御:
Flickableは、コンテンツをスクロール可能な領域の外側までドラッグできる「はみ出し（overshoot）」動作を許可することがあります。bottomMarginは、このはみ出しが許可される領域の制限にも影響を与えることがあります。 - コンテンツのスクロール範囲の調整:
Flickable内のコンテンツが、Flickable自体の下端からどれだけ離れて表示されるかを制御します。例えば、コンテンツの最後に固定されたUI要素（フッターなど）がある場合、その要素がスクロールによって隠れないように、bottomMarginを設定してコンテンツの下端にスペースを確保することができます。
具体的な例:
Flickable の中に非常に長い Column （縦にアイテムを並べるレイアウト）があり、その Column の一番下に重要なボタンがあるとします。
Flickable {
id: myFlickable
width: parent.width
height: parent.height
// コンテンツ全体の幅と高さを指定
contentWidth: contentColumn.width
contentHeight: contentColumn.height
// ここで bottomMargin を設定
// これにより、コンテンツの下端に 50px の余白ができる
bottomMargin: 50
Column {
id: contentColumn
width: parent.width
spacing: 10
Repeater {
model: 50 // 50個のテキストアイテム
delegate: Text {
text: "Item " + (index + 1)
font.pixelSize: 20
}
}
// 一番下のボタン
Button {
text: "Actions"
width: parent.width
height: 40
onClicked: console.log("Button clicked!")
}
}
}
以下に、Flickable.bottomMargin に関連する一般的なエラーとトラブルシューティングについて説明します。
コンテンツが bottomMargin の下に見切れてしまう、またはスクロールできない
エラーの原因
- コンテンツアイテムの高さの計算が正しくない。特に、
ColumnやRowなど、動的にコンテンツの高さが変わるコンポーネントを使用している場合、childrenRect.heightなどを用いてcontentHeightをバインドしているにもかかわらず、バインディングが正しく評価されていないことがあります。 bottomMarginの値が大きすぎる。単純に設定したマージンが、表示したいコンテンツを覆い隠してしまうほど大きい場合に発生します。contentHeightの設定が正しくない。FlickableはcontentHeightに基づいてスクロール可能な範囲を決定します。contentHeightがFlickableの実際の高さよりも小さかったり、bottomMarginを考慮せずに設定されていると、コンテンツがマージンによって隠れてしまうことがあります。
トラブルシューティング
- 動的コンテンツの高さの更新
RepeaterやLoaderなどを使用して動的にコンテンツを生成している場合、コンテンツが追加・削除されたときにcontentHeightが正しく更新されるように、contentItem.childrenRect.heightやColumnのimplicitHeightなどを監視し、バインディングが機能していることを確認します。 - clip: true の確認
Flickableはデフォルトではコンテンツをクリッピングしません。つまり、Flickableの範囲外にはみ出して表示されることがあります。もしコンテンツが見切れているにもかかわらずスクロールができない場合、clip: trueが設定されていると、その部分が単純に表示されないだけかもしれません。clip: trueは必要な場合のみ設定し、レイアウトの問題とは切り離して考えるのが良いでしょう。 - bottomMargin の値の調整
設定しているbottomMarginの値を小さくしてみて、コンテンツが適切に表示されるか確認してください。 - contentHeight の確認
FlickableのcontentHeightが、Flickable内のすべてのコンテンツアイテムの合計高さにbottomMarginを加えた値になっているか確認してください。Flickable { id: myFlickable height: parent.height // 例として親の高さに合わせる // contentItem.childrenRect.height は Flickable の内部コンテンツの合計高さ contentHeight: contentItem.childrenRect.height + myFlickable.bottomMargin // または、直接コンテンツの Column の高さを使う場合 // contentHeight: myColumn.implicitHeight + myFlickable.bottomMargin bottomMargin: 50 // 例: 50ピクセルの下マージン Column { id: myColumn // ... ここにコンテンツアイテム ... } }
bottomMargin を設定しても見た目が変わらない、または期待通りに機能しない
エラーの原因
Flickable内のコンテンツがanchors.fill: parentなどでFlickable自体に固定されてしまっている。この場合、bottomMarginはコンテンツの配置には影響を与えません。Flickableのheightがコンテンツの高さと全く同じ、またはそれ以上になっている。この場合、そもそもスクロールが必要ないため、bottomMarginを設定しても視覚的な変化はありません。contentHeightが明示的に設定されていないか、bottomMarginを考慮せずに設定されている。Flickableがスクロール範囲を自動的に計算する場合、bottomMarginの影響を正しく受けられないことがあります。
トラブルシューティング
- コンテンツアイテムのアンカーの確認
Flickableの中に配置するアイテムは、通常FlickableのcontentItemの子として扱われます。もしコンテンツアイテムがparentではなくFlickableのIDに直接アンカーしている場合、意図しないレイアウトになることがあります。parent(FlickableのcontentItemを指す) を使用してアンカーを設定するようにしてください。 - Flickable のサイズとコンテンツのサイズの比較
FlickableのheightとcontentHeightをconsole.log()などで出力し、期待通りの値になっているか確認してください。contentHeightがFlickableのheightよりも大きい場合にのみスクロールが発生します。 - contentHeight の再確認
上記1.のトラブルシューティングと同様に、contentHeightがbottomMarginを含めて正しく計算されているかを確認してください。Flickableの動作は、contentWidthとcontentHeightの設定に大きく依存します。
安全領域 (Safe Area Insets) との連携
問題
- スマートフォンなどのデバイスでは、ノッチやホームインジケーターバーなどのシステムUIが画面の一部を占有し、コンテンツが見切れてしまうことがあります。これを「安全領域（Safe Area）」と呼び、
Flickable.bottomMarginを使用してこれらの領域を考慮する必要があります。
トラブルシューティング
- Felgo フレームワークの AppFlickable の利用
Felgo のようなフレームワークを使用している場合、AppFlickableはデフォルトでAndroidのシステムナビゲーションバーやiOSのホームジェスチャーエリアに対応するためにbottomMarginが設定されていることがあります。カスタムUIで動作が異なる場合は、bottomMarginを適宜調整する必要があります。 - SafeArea アタッチプロパティの利用 (Qt 6.x 以降)
Qt 6.x 以降では、SafeAreaアタッチプロパティを使用して、システムが提供する安全領域の情報を取得できます。これを使ってbottomMarginを動的に調整するのが最も適切な方法です。import QtQuick import QtQuick.Window // Window をインポート Window { // ... Flickable { id: myFlickable anchors.fill: parent // contentHeight はコンテンツの実際の高さ + Safe Area の底部のマージン contentHeight: contentColumn.implicitHeight + SafeArea.margins.bottom // bottomMargin は Flickable 自体の下端に追加する余白。 // Safe Area に合わせる場合は、contentHeight で調整するか、 // 必要に応じて bottomMargin を追加で設定する。 // 例: bottomMargin: SafeArea.margins.bottom // これだとコンテンツが安全領域の下にくる // contentHeight で調整するのが一般的 // bottomMargin: 0 // 通常は0で、contentHeightで調整 Column { id: contentColumn // ... 長いコンテンツ ... } } }
パフォーマンスの問題
問題
Flickable内のコンテンツが非常に多く、特にRepeaterなどで複雑なデリゲートを使用している場合、スクロールがカクついたり、パフォーマンスが低下したりすることがあります。bottomMargin自体が直接的なパフォーマンス問題を引き起こすことは稀ですが、不適切なcontentHeightの計算や、大量のアイテムが同時に生成・破棄されることと組み合わさると問題になります。
- ListView や GridView の利用
大量のリストやグリッドデータを表示する場合は、Flickableを直接使うよりも、アイテムの再利用（recycling）機能を備えたListViewやGridViewを使用する方がパフォーマンスが向上します。これらのコンポーネントは内部でFlickableを使用しており、より高度な最適化がされています。 - 遅延ローディング
必要に応じて、Loaderなどを使用して、表示されるまでコンテンツのロードを遅延させることで、初期ロード時のパフォーマンスを改善します。 - デリゲートの最適化
RepeaterやListViewのデリゲートをシンプルにし、不必要なプロパティバインディングや複雑な計算を避けます。 - clip: true の設定
Flickableはデフォルトでclip: false(コンテンツをクリッピングしない) です。コンテンツがFlickableの境界外にはみ出すのを防ぎ、描画範囲を限定するためにclip: trueを設定することを検討してください。これにより、描画する必要のある領域が減り、パフォーマンスが向上する可能性があります。 - contentHeight の最適化
contentHeightが頻繁に再計算されないように、安定した値をバインドするように努めます。
例1: 基本的な Flickable と bottomMargin
この例では、Flickable の中に長いテキストコンテンツがあり、その一番下にボタンを配置します。bottomMargin を設定することで、スクロール可能な領域の終わりに余白を設け、ボタンがコンテンツの端に隠れないようにします。
// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15 // ボタンのために追加
Window {
width: 360
height: 640
visible: true
title: "Flickable bottomMargin Example"
Rectangle {
anchors.fill: parent
color: "#f0f0f0" // 背景色
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
// contentWidthはコンテンツの幅。通常はFlickableの幅に合わせる。
contentWidth: contentColumn.width
// contentHeightはコンテンツの高さ + bottomMargin
// childrenRect.height は contentItem (暗黙的に作成されるItem) の全子要素の合計高さ
contentHeight: contentColumn.implicitHeight + myFlickable.bottomMargin
// bottomMargin を 80ピクセルに設定
// これにより、コンテンツの最下部からFlickableの表示領域の下端まで80pxの余白ができる
bottomMargin: 80
// Flickable の中に配置する実際のコンテンツ
Column {
id: contentColumn
width: parent.width // Flickableの幅に合わせる
spacing: 10 // アイテム間の間隔
// 長いテキストコンテンツを生成
Repeater {
model: 30 // 30個のテキストアイテム
delegate: Text {
text: "これは長いコンテンツのアイテム #" + (index + 1) + "です。"
font.pixelSize: 18
width: parent.width - 20 // 左右に少し余白
wrapMode: Text.WordWrap
horizontalAlignment: Text.AlignHCenter
color: "black"
}
}
// スクロール可能な領域の最下部に配置されるボタン
Rectangle {
width: parent.width - 40
height: 50
color: "lightsteelblue"
radius: 5
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "最下部のボタン"
font.pixelSize: 20
color: "white"
}
MouseArea {
anchors.fill: parent
onClicked: console.log("最下部のボタンがクリックされました！")
}
}
}
}
}
}
解説
bottomMargin: 80の設定により、コンテンツの最下部からFlickableの表示領域の下端まで80ピクセルのスペースが確保されます。これにより、「最下部のボタン」が常にスクロール可能な範囲の終わりに見えるようになります。FlickableのcontentHeightプロパティは、Flickableがスクロールする範囲を定義します。ここでは、内部のColumn(contentColumn) のimplicitHeight（自動計算される高さ）にmyFlickable.bottomMarginの値を加えています。これにより、FlickableはbottomMarginの分だけ追加でスクロールできるようになり、コンテンツの最後に余白が確保されます。
例2: bottomMargin とセーフエリア (Safe Area Insets) の連携 (Qt 6.x 以降)
モバイルデバイスでは、ノッチやホームインジケーターなど、システムUIが画面の一部を占める「セーフエリア」が存在します。bottomMargin は、このセーフエリアを考慮してコンテンツのレイアウトを調整するのに役立ちます。
注意
この例はQt 6.x以降で導入された SafeArea アタッチプロパティを使用しています。Qt 5.x以前では別の方法（C++から値を渡すなど）でセーフエリアを扱う必要があります。
// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
import QtQuick.Layouts 1.15 // ColumnLayout のために追加
import QtQuick.Core 1.0 // SafeArea のために追加
Window {
width: 360
height: 640
visible: true
title: "Flickable Safe Area bottomMargin Example"
// ウィンドウ全体に適用されるセーフエリアの考慮
// 通常はルートアイテムや主要なレイアウトコンポーネントに設定
Rectangle {
anchors.fill: parent
color: "lightgray"
// 実際のコンテンツを表示するFlickable
Flickable {
id: contentFlickable
anchors.fill: parent
// セーフエリアのボトムマージンをFlickableのbottomMarginに直接適用
// これにより、Flickableのスクロール可能な領域が安全領域によって制約される
bottomMargin: SafeArea.margins.bottom + 20 // システムのセーフエリアに加えて20pxの追加マージン
// contentItem の高さは、内部の ColumnLayout の高さ + bottomMargin
contentHeight: rootLayout.implicitHeight + contentFlickable.bottomMargin
contentWidth: parent.width // 幅はFlickableに合わせる
ColumnLayout {
id: rootLayout
width: parent.width // FlickableのcontentItemの幅に合わせる
spacing: 10
padding: 10
Text {
Layout.fillWidth: true
text: "このFlickableは、デバイスのセーフエリア（特に下部）を考慮して設計されています。"
wrapMode: Text.WordWrap
font.pixelSize: 16
}
Repeater {
model: 40 // 40個のアイテム
delegate: Rectangle {
Layout.fillWidth: true
height: 50
color: "lightblue"
radius: 5
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "アイテム " + (index + 1)
font.pixelSize: 18
}
}
}
// 最下部に配置されるコンテンツ（セーフエリアの影響を受ける可能性のあるフッターなど）
Rectangle {
Layout.fillWidth: true
height: 60
color: "darkblue"
radius: 8
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "フッターコンテンツ"
font.pixelSize: 20
color: "white"
}
}
}
}
// デバイスのセーフエリアを視覚的に示すための半透明のオーバーレイ（デバッグ用）
// 実際のアプリケーションでは通常は表示しません
Rectangle {
anchors.left: parent.left
anchors.right: parent.right
anchors.bottom: parent.bottom
height: SafeArea.margins.bottom // セーフエリアの高さ
color: "rgba(255, 0, 0, 0.3)" // 半透明の赤
visible: SafeArea.margins.bottom > 0 // セーフエリアがある場合のみ表示
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "Safe Area Bottom (" + Math.round(SafeArea.margins.bottom) + "px)"
color: "white"
font.pixelSize: 12
}
}
}
}
解説
- デバッグ用に、
SafeArea.margins.bottomの値を使って、実際にセーフエリアがどこに存在するかを可視化する半透明の矩形を配置しています。これは開発中にレイアウトを確認するのに便利です。 contentHeight: rootLayout.implicitHeight + contentFlickable.bottomMarginは、Flickableのスクロール可能な高さを正しく計算し、bottomMarginを考慮に入れています。contentFlickable.bottomMargin: SafeArea.margins.bottom + 20とすることで、システムが確保するセーフエリアに加えて、さらに20ピクセルの追加マージンを設けています。これにより、フッターコンテンツがシステムのUIに隠れることなく、さらに下部に少し余裕を持たせることができます。SafeArea.margins.bottomは、現在のデバイスでシステムUIによって覆い隠される可能性のある画面下部のピクセル数を返します。
コンテンツの高さが動的に変化する場合（例：ユーザー入力によってテキストが追加される、画像がロードされるなど）、bottomMargin と contentHeight を適切に更新する必要があります。
// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
Window {
width: 400
height: 600
visible: true
title: "Dynamic bottomMargin Example"
Rectangle {
anchors.fill: parent
color: "#e0e0e0"
Flickable {
id: dynamicFlickable
anchors.fill: parent
anchors.bottomMargin: 50 // Flickable自体にも下マージンを設定 (これは表示領域のマージン)
// contentItem の子供たちの合計高さに bottomMargin を加える
contentHeight: contentColumn.implicitHeight + dynamicFlickable.bottomMargin
contentWidth: parent.width // 幅はFlickableに合わせる
// 動的なコンテンツのためのColumn
Column {
id: contentColumn
width: parent.width
spacing: 10
padding: 10
Text {
text: "下にテキストを追加ボタンがあります。コンテンツを追加すると、Flickableのスクロール範囲とbottomMarginが動的に調整されます。"
wrapMode: Text.WordWrap
font.pixelSize: 16
}
// テキストアイテムのRepeater
Repeater {
id: textRepeater
model: 5 // 初期は5個のアイテム
delegate: Rectangle {
width: parent.width - 20
height: 40
color: Qt.lighter("steelblue", 1.2)
radius: 5
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "動的なアイテム #" + (index + 1)
font.pixelSize: 18
color: "white"
}
}
}
}
}
// コンテンツを追加するボタン
Button {
text: "テキストを追加"
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
width: parent.width * 0.8
height: 40
onClicked: {
textRepeater.model += 5 // モデルの数を増やすことでコンテンツを追加
// contentHeightは自動的に再計算される (implicitHeightのバインディングにより)
}
}
}
}
textRepeater.model += 5を実行すると、Repeaterが新しいアイテムを生成し、contentColumnのimplicitHeightが増加します。これに伴い、FlickableのcontentHeightが更新され、スクロール可能な範囲が拡張されます。bottomMarginもこの計算に含まれているため、コンテンツの下端には常に設定された余白が保たれます。contentHeight: contentColumn.implicitHeight + dynamicFlickable.bottomMarginのバインディングにより、contentColumnのimplicitHeightが変更されると、自動的にdynamicFlickableのcontentHeightが再計算されます。
以下に、Flickable.bottomMargin の代替となるプログラミング方法と、それぞれの利点・欠点を説明します。
Flickable.bottomMargin の代替方法
contentItem のパディング (padding) またはマージン (anchors.bottomMargin) を使用する
Flickable は、その中に表示されるコンテンツを保持するために、暗黙的に contentItem と呼ばれる Item を作成します。この contentItem に対してパディングやマージンを設定することで、Flickable.bottomMargin と同様の効果を得ることができます。
利点
- 柔軟性
contentItemのパディングだけでなく、個々のコンテンツ要素にマージンを設定することもできます。 - 明示的なレイアウト制御
コンテンツ自体に余白を設定するため、視覚的に何に余白が適用されているのかが分かりやすい場合があります。
欠点
- 少し冗長になる可能性
シンプルな余白設定のためにcontentItemを意識する必要があるかもしれません。 - contentHeight の手動調整の必要性
Flickable.bottomMarginのようにcontentHeightに自動的に加算されるわけではないため、contentHeightを計算する際にこのパディングやマージンを手動で加える必要があります。
コード例
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
// contentWidth と contentHeight は contentItem のサイズを基準に計算
contentWidth: myFlickable.width
contentHeight: myContentColumn.implicitHeight + myContentItem.anchors.bottomMargin // bottomMarginを手動で加算
// Flickable の contentItem にプロパティを設定
// contentItem は Flickable の子として、すべてのコンテンツをラップする暗黙的な Item
// ここで contentItem を明示的に参照し、anchors.bottomMargin を設定
Item { // これが myFlickable.contentItem
id: myContentItem
width: parent.width // FlickableのcontentItemの幅は通常Flickableの幅に合わせる
// この Item に下マージンを設定
anchors.bottomMargin: 80 // ここでコンテンツの下に80pxの余白を設ける
Column {
id: myContentColumn
width: parent.width // contentItemの幅に合わせる
spacing: 10
Repeater {
model: 30
delegate: Text {
text: "アイテム #" + (index + 1)
font.pixelSize: 18
}
}
Rectangle { // 最下部の要素
width: parent.width - 40; height: 50; color: "lightgray"
Text { anchors.centerIn: parent; text: "フッター" }
}
}
}
}
Flickable の中に Column や Row を配置し、その padding や最終要素の Layout.bottomMargin を利用する
コンテンツが Column や Row のようなレイアウトマネージャーの中に配置されている場合、そのレイアウトの padding プロパティを利用したり、最終の要素に対して Layout.bottomMargin (QtQuick.Layoutsを使用している場合) を設定したりすることで、Flickable.bottomMargin と同様の余白を実現できます。
利点
- implicitHeight/implicitWidth との連携
ColumnやRowのimplicitHeightはパディングを考慮するため、Flickable.contentHeightの計算がよりシンプルになります。 - 自然なレイアウト
コンテンツのレイアウト構造に沿って余白を定義できるため、より直感的です。
欠点
- レイアウトマネージャーの知識が必要
QtQuick.Layoutsの使用方法を理解している必要があります。 - 特定のレイアウトに依存
ColumnやRowを使用していない場合は適用できません。
コード例 (Columnのpaddingを使用)
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
// contentWidth と contentHeight は Column のサイズを基準に計算
// Column の implicitHeight は padding を含むため、計算がシンプル
contentWidth: myColumn.width
contentHeight: myColumn.implicitHeight
// Column を直接 Flickable の contentItem として配置
Column {
id: myColumn
width: parent.width
spacing: 10
padding.bottom: 80 // ここで下パディングを設定
padding.top: 10
padding.left: 10
padding.right: 10
Repeater {
model: 30
delegate: Text {
text: "アイテム #" + (index + 1)
font.pixelSize: 18
}
}
Rectangle { // 最下部の要素
width: parent.width - 20; height: 50; color: "lightgray"
Text { anchors.centerIn: parent; text: "フッター" }
}
}
}
コード例 (Layout.bottomMarginを使用 - QtQuick.Layoutsが必要)
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
import QtQuick.Layouts 1.15 // Layoutsモジュールのインポート
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
contentWidth: myColumnLayout.width
contentHeight: myColumnLayout.implicitHeight // Layoutsは implicitHeight を自動で計算してくれる
ColumnLayout { // ColumnLayout を使用
id: myColumnLayout
width: parent.width // FlickableのcontentItemの幅に合わせる
spacing: 10
padding: 10 // 全体のパディング
Repeater {
model: 30
delegate: Text {
Layout.fillWidth: true // Layoutsでは fillWidth を使う
text: "アイテム #" + (index + 1)
font.pixelSize: 18
}
}
Rectangle { // 最下部の要素
Layout.fillWidth: true
Layout.preferredHeight: 50
Layout.bottomMargin: 80 // この要素の下に80pxのマージンを設定
color: "lightgray"
Text { anchors.centerIn: parent; text: "フッター" }
}
}
}
Flickable の外に固定フッターを配置し、Flickable の高さを調整する
これは Flickable の bottomMargin を使うというより、レイアウト全体を再考するアプローチです。Flickable 自体の下に常に表示しておきたいUI要素（フッターバーなど）がある場合、その要素を Flickable とは独立して配置し、Flickable の高さをその要素の分だけ縮めることで、目的の表示効果を実現できます。
利点
- シンプルなスクロール制御
Flickable自体はフッターの存在を意識する必要がなく、純粋にコンテンツのみをスクロールします。 - 明確なUI構造
フッターがスクロールコンテンツの一部ではなく、独立した要素として扱われるため、UIの構造が分かりやすくなります。
欠点
- フッターがスクロールしない
フッターはFlickableの外にあるため、スクロールに追従しません。これが望ましくない場合もあります。 - レイアウトの複雑さが増す可能性
フッターとFlickableの相対位置関係を適切に管理する必要があります。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Controls 2.15
Window {
width: 360
height: 640
visible: true
title: "Fixed Footer Example"
Rectangle {
anchors.fill: parent
color: "#f0f0f0"
Flickable {
id: myFlickable
anchors.top: parent.top
anchors.left: parent.left
anchors.right: parent.right
// フッターの高さ分だけFlickableの高さを縮める
anchors.bottom: footerRect.top // フッターのY座標にアンカー
contentWidth: myColumn.width
contentHeight: myColumn.implicitHeight // Flickableはコンテンツの高さのみを考慮
Column {
id: myColumn
width: parent.width
spacing: 10
padding: 10
Repeater {
model: 30
delegate: Text {
text: "アイテム #" + (index + 1)
font.pixelSize: 18
}
}
}
}
// Flickable の下に固定されるフッター
Rectangle {
id: footerRect
anchors.left: parent.left
anchors.right: parent.right
anchors.bottom: parent.bottom
height: 60 // フッターの高さ
color: "darkcyan"
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "固定フッター"
font.pixelSize: 22
color: "white"
}
MouseArea {
anchors.fill: parent
onClicked: console.log("固定フッターがクリックされました！")
}
}
}
}
-
固定フッター
- 最適なケース
スクロールコンテンツとは独立して、画面の特定の位置に常に表示しておきたいUI要素がある場合。例えば、タブバー、ナビゲーションバー、操作ボタンなど。
- 最適なケース
-
Column/Row のパディングまたは Layout.bottomMargin
- 最適なケース
コンテンツがすでにColumnやRowなどのレイアウトマネージャーで組織されている場合。レイアウトの構造に沿って余白を定義できるため、コードの可読性が高まります。QtQuick.Layoutsを使用している場合はLayout.bottomMarginが非常に自然な選択肢です。
- 最適なケース
-
contentItem のパディング/マージン
- 最適なケース
Flickableの内部コンテンツ全体に一貫したパディングを適用したい場合。FlickableのcontentItemが持つ他のプロパティも同時に設定したい場合に便利です。
- 最適なケース
-
Flickable.bottomMargin
- 最適なケース
最もシンプルにFlickableのコンテンツの最後に一定の余白を設けたい場合。特に、コンテンツの終わりに「オーバーシュート」を許可したいが、その下にも少しスペースが欲しい場合などに適しています。セーフエリアの考慮にも直接的に利用できます。
- 最適なケース