Qt QML Flickableのフリック制御:flickStarted()以外の代替手段と使い分け
Flickableとは
まず、Flickable
について簡単に説明します。
Flickable
は、Qt Quick (QML) で提供されるUI要素で、コンテンツをドラッグしたりフリックしたりしてスクロールできるようにする機能を提供します。スマートフォンやタブレットなどのタッチデバイスでよく見られる、指で画面をなぞってコンテンツを動かす操作を実現するために使われます。ListView
やGridView
などの、多くのアイテムを表示するリスト系のコンポーネントの基盤にもなっています。
flickStarted()シグナルの意味
flickStarted()
シグナルは、ユーザーがFlickable
内のコンテンツを「フリック」し始めた瞬間に発行されます。
- このシグナルは、ユーザーがコンテンツをドラッグしている状態から、指を離してフリック動作に移行したときに発生します。
- フリックとは、指やマウスボタンを素早く動かし、その後指やマウスボタンを離すことで、コンテンツが慣性でさらにスクロールし続ける動作を指します。
flickStarted()
シグナルは、フリックが開始されたときに特定のアクションを実行したい場合に使用します。例えば、フリック中に何かアニメーションを開始したり、UI要素の状態を変更したりする場合に便利です。
QMLでの典型的な使用例は以下のようになります。
import QtQuick 2.0
Flickable {
width: 300
height: 200
contentWidth: image.width
contentHeight: image.height
Image {
id: image
source: "bigImage.png" // 大きな画像ファイル
}
// flickStartedシグナルを受け取るハンドラ
onFlickStarted: {
console.log("フリックが開始されました!");
// ここにフリック開始時に実行したい処理を記述
// 例: UI要素の透明度を変更する、ログを出すなど
}
// flickEndedシグナル(フリックが終了したとき)もよく使われます
onFlickEnded: {
console.log("フリックが終了しました。");
}
}
この例では、ユーザーがFlickable
をフリックし始めると、onFlickStarted
ブロック内のコードが実行され、「フリックが開始されました!」というメッセージがコンソールに出力されます。
flickStartedシグナルが期待通りに発行されない
考えられる原因とトラブルシューティング
- タッチイベントの認識問題(エミュレータ/特定の環境)
- デスクトップ環境でテストしている場合、マウス操作でのフリックはタッチ操作と微妙に異なる認識をされることがあります。特にエミュレータでは、実際のデバイスでの動作と異なる場合があります。
- 確認点
実際のタッチデバイスで動作を確認するか、Qt Creatorの「Designer」ビューでFlickableの挙動をシミュレートしてみるのも有効です。
- 他の要素がイベントを消費している
Flickable
の上に、マウス/タッチイベントを消費する別の要素(例:MouseArea
)が重なっている場合、Flickable
がフリックイベントを受け取れないことがあります。- 確認点
ZオーダーやMouseArea
のpropagateComposedEvents
プロパティなどを確認し、イベントが正しくFlickable
に伝播しているかを確認してください。
- flickable内のコンテンツが小さすぎる/スクロールできない
Flickable
のcontentWidth
またはcontentHeight
が、Flickable
自体のwidth
またはheight
より小さい場合、スクロール可能な領域がないため、フリックも発生しません。- 確認点
contentWidth
/contentHeight
が適切に設定されているか、または内部のアイテムのサイズがFlickable
のサイズを超えているか確認してください。例えば、Image { source: "small.png" }
のような小さな画像ではフリックできません。
- interactiveプロパティがfalseになっている
Flickable
のinteractive
プロパティがfalse
に設定されていると、ユーザーからのインタラクション(フリックやドラッグ)が一切無効になります。- 確認点
Flickable { interactive: true; ... }
となっているか確認してください。デフォルトはtrue
です。
- フリックではない(ドラッグ操作のみ)
flickStarted
は、ユーザーが指を離し、コンテンツが慣性で動き始める「フリック」操作の開始時に発行されます。単にコンテンツをドラッグしているだけでは発行されません。- 確認点
実際に指を素早く動かして離し、コンテンツが慣性でスクロールするか確認してください。ドラッグ中にシグナルを受け取りたい場合は、onDraggingChanged
などのシグナルを使用する必要があります。
flickStartedシグナルが複数回発行される/意図しないタイミングで発行される
考えられる原因とトラブルシューティング
- 高速な繰り返しフリック
- ユーザーが非常に速いペースでフリックと静止を繰り返す場合、短時間で
flickStarted
とflickEnded
が何度も発行されることがあります。これは一般的な挙動であり、エラーではありません。 - 確認点
シグナルハンドラ内で実行する処理が、高速に呼び出されても問題ないように設計されているか確認してください。場合によっては、短期間での再発行を抑制するロジック(Throttling/Debouncing)を導入する必要があるかもしれません。
- ユーザーが非常に速いペースでフリックと静止を繰り返す場合、短時間で
- フリック動作の開始と終了の混同
flickStarted
はフリック開始時の一度だけ発行されます。もしフリックの「終了」時に何らかの処理をしたいのであれば、onFlickEnded
シグナルを使用する必要があります。- 確認点
処理を記述しているシグナルハンドラがonFlickStarted
であることを再確認し、フリック動作のライフサイクルを理解しているか確認してください。
flickStarted内でUIの更新を行うとパフォーマンスが低下する
考えられる原因とトラブルシューティング
- 不必要な要素の更新
- フリック開始時に不要なUI要素まで更新していないか確認してください。
- 確認点
プロファイリングツール(Qt CreatorのQML Profilerなど)を使用して、パフォーマンスのボトルネックを特定してください。
- 重い処理の実行
flickStarted
シグナルハンドラ内で、計算量の多い処理やUIの再描画を伴う処理を行うと、フリック開始時のフレーム落ちやラグが発生する可能性があります。- 確認点
シグナルハンドラ内で実行するコードを最適化するか、非同期処理に切り替えることを検討してください。例えば、複雑なアニメーションを開始する場合、アニメーション自体はflickStarted
内でトリガーするものの、アニメーションの実体は別途最適化されたものであるべきです。
共通のトラブルシューティングのヒント
- ドキュメントを確認する
- Qtの公式ドキュメント(
Flickable
やflickStarted
のページ)を再度確認し、プロパティやシグナルの動作が期待通りであることを再確認してください。
- Qtの公式ドキュメント(
- Qtのバージョンを確認する
- ごく稀に、特定のQtのバージョンでバグが存在する場合があります。使用しているQtのバージョンが最新であるか、または既知のバグに該当しないか確認してください。
- 最小限の再現コードを作成する
- 問題が発生しているQMLコードから、
Flickable
とflickStarted
に関連する部分だけを抜き出し、最小限のコードで問題を再現できるか試してみてください。これにより、他の要素が問題の原因となっている可能性を排除できます。
- 問題が発生しているQMLコードから、
- QML Profilerを使用する
- Qt Creatorに付属しているQML Profilerは、QMLアプリケーションのパフォーマンス問題を特定するのに非常に役立ちます。シグナルの発行頻度や、各ハンドラでの処理時間などを詳細に確認できます。
- console.log()を多用する
- シグナルが発行されているか、どのタイミングで発行されているかを確認するために、
onFlickStarted: { console.log("Flick Started!"); }
のようにログ出力文を多数埋め込むのは非常に効果的です。
- シグナルが発行されているか、どのタイミングで発行されているかを確認するために、
これらの点を確認することで、Flickable.flickStarted()
に関連する多くの問題を解決できるはずです。
Qt QMLのFlickable.flickStarted()
シグナルに関連する一般的なエラーとトラブルシューティングについて説明します。
flickStarted()が発火しない
最も一般的な問題は、フリック操作をしてもflickStarted()
シグナルが期待通りに発火しないケースです。
考えられる原因とトラブルシューティング
-
flickableDirectionが適切に設定されていない
flickableDirection
プロパティは、フリックが許可される方向(水平、垂直、または両方)を制御します。もしFlickable.HorizontalFlick
やFlickable.VerticalFlick
に設定されているのに、その方向ではないフリックを試みている場合、シグナルは発火しません。- 確認点
flickableDirection
が意図したフリック方向を許可しているか確認してください。デフォルトはFlickable.AutoFlickDirection
(コンテンツのサイズに基づいて自動的に判断)です。 - 解決策
必要に応じてflickableDirection: Flickable.AutoFlickDirection
、Flickable.HorizontalFlick
、Flickable.VerticalFlick
、またはFlickable.HorizontalAndVerticalFlick
に設定し直します。
- 確認点
-
他のMouseAreaなどがイベントを消費している
Flickable
の内部や上に別のMouseArea
が存在し、そのMouseArea
がイベントをFlickable
に伝播させずに消費している可能性があります。MouseArea
のpropagateComposedEvents
プロパティやacceptedButtons
プロパティを確認してください。- 確認点
Flickable
の階層内に競合するMouseArea
がないか確認してください。 - 解決策
MouseArea
のonPressed
,onReleased
,onClicked
,onPressAndHold
などのイベントハンドラでmouse.accepted = false
を設定し、イベントを親要素に伝播させるようにします。または、Flickable
のコンテンツの配置を見直します。
- 確認点
-
interactiveプロパティがfalseに設定されている
Flickable
のinteractive
プロパティがfalse
に設定されていると、ユーザーとのインタラクションが無効になり、フリックやドラッグができなくなります。デフォルトはtrue
です。- 確認点
Flickable
にinteractive: false
が設定されていないか確認してください。 - 解決策
interactive: true
に設定するか、設定を削除してください。
- 確認点
-
コンテンツのサイズがFlickableのサイズよりも小さい
Flickable
は、そのcontentWidth
またはcontentHeight
がFlickable
自身のwidth
またはheight
よりも大きい場合にのみスクロール可能になります。コンテンツが小さすぎると、スクロールする必要がないためフリック操作も発生しません。- 確認点
Flickable
のwidth
/height
と、contentWidth
/contentHeight
の値を確認してください。 - 解決策
コンテンツのサイズがFlickable
のサイズよりも大きくなるように設定してください。動的にコンテンツのサイズが変わる場合は、contentItem.childrenRect.width
やcontentItem.childrenRect.height
を使用して、コンテンツの実際のサイズにcontentWidth
/contentHeight
をバインドするのが一般的です。
Flickable { width: 300 height: 200 // コンテンツの実際のサイズにバインド contentWidth: contentItem.childrenRect.width contentHeight: contentItem.childrenRect.height clip: true // コンテンツがFlickableの境界外に出るのを防ぐ Column { // 適当なコンテンツ Repeater { model: 20 Text { text: "Item " + index; font.pixelSize: 20 } } } onFlickStarted: { console.log("フリック開始!"); } }
- 確認点
flickStarted()が意図しないタイミングで発火する
フリックの開始とドラッグの開始を混同している場合があります。
考えられる原因とトラブルシューティング
- ドラッグとフリックの区別
flickStarted()
は「フリック」が開始されたときに発火します。つまり、ユーザーが指を離し、コンテンツが慣性で動き始めたときです。指を置いてコンテンツをドラッグしている間は、dragging
プロパティがtrue
になりますが、flickStarted()
は発火しません。ドラッグ開始時に処理を行いたい場合は、onMovementStarted
シグナルを使用することを検討してください。- 確認点
どのタイミングで処理を行いたいのか、フリック開始時なのか、ドラッグ開始時なのかを明確にしてください。 - 解決策
ドラッグ開始時に何かしたい場合はonMovementStarted
シグナルを使用し、ドラッグ終了時(フリックの可能性あり)に何かしたい場合はonMovementEnded
、onFlickEnded
シグナルを検討してください。
- 確認点
flickStarted()
に限らず、Flickable
自体の動作が不安定な場合、以下の点が原因である可能性があります。
考えられる原因とトラブルシューティング
-
パフォーマンスの問題
大量のアイテムや複雑なグラフィックスをFlickable
内に配置すると、レンダリングパフォーマンスが低下し、フリック操作がカクつくことがあります。- 確認点
Flickable
内の要素が多すぎるか、複雑すぎるか確認してください。 - 解決策
Loader
を使用して、画面外のコンテンツのロードを遅延させる。ListView
やGridView
の最適化機能(cacheBuffer
など)を利用する。- 複雑な要素を
Item
でラップし、clip: true
を設定して描画範囲を制限する。 - 画像やアニメーションの最適化を行う。
- 確認点
-
Flickable内のアイテムのサイズ計算が不正確
特にListView
やGridView
などのデリゲートを使用している場合、デリゲートの高さや幅が動的に変わるときに、Flickable
のcontentHeight
やcontentWidth
が正しく計算されず、スクロールが不安定になることがあります。- 確認点
デリゲートのサイズが適切に計算されているか、Flickable
のcontentWidth
/contentHeight
がデリゲートの合計サイズを反映しているか確認してください。 - 解決策
contentItem.childrenRect.width
やcontentItem.childrenRect.height
を使用して動的なコンテンツサイズを正確に取得するようにしてください。また、テキストの折り返しなど、コンテンツのサイズを予測しにくい場合は、レイアウトシステムの利用も検討してください。
- 確認点
基本的なフリック開始の検出
最も基本的な例として、フリックが開始されたときにメッセージをコンソールに出力するコードです。
// main.qml
import QtQuick 2.0
import QtQuick.Window 2.0
Window {
width: 400
height: 300
visible: true
title: "Flickable Basic Example"
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
clip: true // コンテンツがFlickableの境界外に出るのを防ぐ
// コンテンツの幅と高さをFlickableより大きく設定
contentWidth: 800
contentHeight: 600
// 大きなRectangleをコンテンツとして配置
Rectangle {
width: parent.contentWidth
height: parent.contentHeight
color: "lightblue"
Text {
text: "この領域をフリックしてください!"
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 24
}
}
// flickStartedシグナルハンドラ
onFlickStarted: {
console.log("フリックが開始されました!");
}
// flickEndedシグナルハンドラ(フリックが終了したとき)
onFlickEnded: {
console.log("フリックが終了しました。");
}
// contentX/Yの変化を監視(参考)
onContentXChanged: {
// console.log("contentX:", contentX);
}
onContentYChanged: {
// console.log("contentY:", contentY);
}
}
}
解説
onFlickEnded
は、フリックが終了し、慣性スクロールが停止したときに発火します。onFlickStarted
シグナルハンドラ内に、フリック開始時に実行したいQMLコードを記述します。contentWidth
とcontentHeight
をFlickable
自身のwidth
とheight
よりも大きく設定することが重要です。これにより、スクロール可能な領域が生まれます。Flickable
要素を作成し、その中に表示したいコンテンツ(ここでは大きなRectangle
)を配置します。
フリック開始時にUIの状態を変更する
フリックが開始されたときに、視覚的なフィードバックを与える例です。例えば、フリック中はコンテンツの透明度を少し下げるといったことができます。
// main.qml
import QtQuick 2.0
import QtQuick.Window 2.0
Window {
width: 400
height: 300
visible: true
title: "Flickable UI State Example"
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
clip: true
contentWidth: 800
contentHeight: 600
Rectangle {
id: contentRect
width: parent.contentWidth
height: parent.contentHeight
color: "lightgreen"
opacity: 1.0 // 初期透明度
Text {
text: "フリックして透明度を確認"
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 24
}
// 透明度をアニメーションするためのPropertyAnimation
PropertyAnimation {
id: opacityAnimation
target: contentRect
property: "opacity"
duration: 200
}
}
onFlickStarted: {
console.log("フリック開始!透明度を下げます。");
opacityAnimation.from = 1.0;
opacityAnimation.to = 0.7; // フリック開始時に透明度を0.7にする
opacityAnimation.start();
}
onFlickEnded: {
console.log("フリック終了。透明度を戻します。");
opacityAnimation.from = 0.7;
opacityAnimation.to = 1.0; // フリック終了時に透明度を1.0に戻す
opacityAnimation.start();
}
}
}
解説
onFlickEnded
で再びopacityAnimation
を起動し、透明度を元に戻します。onFlickStarted
でopacityAnimation
を起動し、コンテンツの透明度を下げます。contentRect
というRectangle
をコンテンツとして使用し、そのopacity
プロパティをアニメーションで制御します。
Flickable
内で、フリックの開始・終了に応じて個々のアイテムの挙動を変える例です。
// main.qml
import QtQuick 2.0
import QtQuick.Window 2.0
Window {
width: 400
height: 300
visible: true
title: "Flickable Item Behavior Example"
Flickable {
id: myFlickable
anchors.fill: parent
clip: true
contentWidth: myContent.width
contentHeight: myContent.height
Column {
id: myContent
width: 800
spacing: 10
Repeater {
model: 20 // 20個のアイテムを生成
delegate: Rectangle {
width: 380 // Flickableの幅より少し狭くして余白を作る
height: 50
color: "cornflowerblue"
border.color: "darkblue"
border.width: 1
Text {
text: "Item " + index
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 18
color: "white"
}
// フリック開始時に影をつけるなど
// ここでは例として、フリック中はZ値を上げて手前に表示
z: myFlickable.flicking ? 1 : 0 // Flickable.flickingプロパティを使用
// スケールをアニメーションで調整
scale: myFlickable.flicking ? 1.05 : 1.0
Behavior on scale { NumberAnimation { duration: 150 } }
}
}
}
// flickingプロパティがtrue/falseに変化するのを監視
onFlickingChanged: {
if (flicking) {
console.log("フリック中...");
} else {
console.log("フリック停止。");
}
}
onFlickStarted: {
console.log("フリックが開始されました! (from signal)");
}
}
}
解説
onFlickingChanged
シグナルハンドラも、フリック状態の変化を追跡するのに役立ちます。- 同様に、
scale
プロパティもflicking
にバインドし、Behavior on scale
でアニメーションを適用しています。 - 各
Rectangle
のz
プロパティは、myFlickable.flicking
というFlickable
の読み取り専用プロパティにバインドされています。flicking
はフリック操作が行われている間true
になります。これにより、フリック中はアイテムのZ値が上がり、他のアイテムの上に表示されるようになります。 Repeater
を使って複数のRectangle
アイテムを生成し、Column
に配置しています。
Flickable.flickStarted()
は主にQMLのシグナルですが、C++側からQMLのオブジェクトにアクセスして、そのシグナルをQML側で処理することも可能です。C++から直接flickStarted()
を「発行」することは一般的ではありませんが、QMLのFlickableのプロパティをC++から操作することは可能です。
例えば、C++側でQMLのFlickable
オブジェクトを取得し、そのcontentX
やcontentY
プロパティを変更することで、プログラム的にスクロールを開始させることができます。
// main.cpp
#include <QGuiApplication>
#include <QQmlApplicationEngine>
#include <QQuickItem> // QML Itemへのアクセス用
int main(int argc, char *argv[])
{
QGuiApplication app(argc, argv);
QQmlApplicationEngine engine;
engine.load(QUrl(QStringLiteral("qrc:/main.qml")));
// QMLエンジンがロードされた後に、QMLのFlickableオブジェクトを取得
QObject *rootObject = engine.rootObjects().isEmpty() ? nullptr : engine.rootObjects().first();
if (rootObject) {
// FlickableのID 'myFlickable' を使ってオブジェクトを探す
QQuickItem *flickable = rootObject->findChild<QQuickItem*>("myFlickable");
if (flickable) {
// 例: C++からFlickableを強制的にスクロールさせる
// flick() メソッドはフリックを開始させるために使えます
// 引数はXとY方向の初期速度
// シグナルflickStarted() はこの flick() メソッドが呼ばれた時にも発火します
QMetaObject::invokeMethod(flickable, "flick",
Q_ARG(qreal, 0),
Q_ARG(qreal, -500)); // 上方向にフリック
}
}
return app.exec();
}
main.qml (上記C++コードに対応するFlickableを含む)
// main.qml
import QtQuick 2.0
import QtQuick.Window 2.0
Window {
width: 400
height: 300
visible: true
title: "C++ control Flickable"
Flickable {
id: myFlickable // C++から参照するためのID
anchors.fill: parent
clip: true
contentWidth: 800
contentHeight: 600
Rectangle {
width: parent.contentWidth
height: parent.contentHeight
color: "orange"
Text {
text: "C++からフリック操作が開始されます!"
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 20
}
}
onFlickStarted: {
console.log("C++からフリックが開始されました!");
}
onFlickEnded: {
console.log("フリックが終了しました。");
}
}
}
QMetaObject::invokeMethod()
を使って、QMLのFlickable
が持つflick()
メソッドをC++から呼び出します。これにより、QML側でflickStarted()
シグナルが発行されます。findChild<QQuickItem*>("myFlickable")
を使って、QMLで定義したFlickable
インスタンスへのポインタを取得します。QQmlApplicationEngine::rootObjects()
でQMLのルートオブジェクトを取得します。
flickStarted()
の代替または関連する検出方法
Flickable.flickingプロパティの変化を監視する
Flickable.flicking
は、Flickable
が現在フリック状態(慣性スクロール中)であるかどうかを示すブーリアン型の読み取り専用プロパティです。このプロパティがfalse
からtrue
に変化したときに、フリックが開始されたとみなすことができます。
特徴
- 欠点
flickStarted()
シグナル自体が直接イベントを発火するのに対し、こちらはプロパティの変化を監視するため、概念的には少し異なります。しかし、多くの場合は同等の結果が得られます。 - 利点
flickStarted()
と同じタイミングでtrue
になります。より「フリック中」という状態全体を把握するのに適しています。
例
Flickable {
id: myFlickable
// ... (Flickableの基本的な設定) ...
onFlickingChanged: {
if (myFlickable.flicking) { // flickingがtrueになったとき
console.log("フリックが開始されました (flicking property)!");
// フリック開始時の処理
} else {
console.log("フリックが停止しました (flicking property)。");
// フリック停止時の処理
}
}
}
Flickable.movementStarted()シグナルを使用する
movementStarted()
シグナルは、ユーザーがFlickable
のコンテンツのドラッグを開始したときに発火します。これはフリック動作の前段階である「ドラッグ」の開始を意味します。
特徴
- 欠点
フリック(慣性スクロール)の開始を直接意味するわけではありません。フリックの開始とドラッグの開始を区別する必要があります。 - 利点
ユーザーがコンテンツを指で触って動かし始めた瞬間に反応したい場合に非常に有効です。flickStarted()
は指を離して慣性が働いたときに発火しますが、movementStarted()
は指が触れている間の動き始めに反応します。
例
Flickable {
id: myFlickable
// ... (Flickableの基本的な設定) ...
onMovementStarted: {
console.log("コンテンツの移動(ドラッグ)が開始されました!");
// ドラッグ開始時の処理
}
onFlickStarted: {
console.log("フリックが開始されました! (通常のフリック)");
}
}
Flickable.movementEnded()シグナルとFlickable.flickingプロパティを組み合わせる
movementEnded()
シグナルは、ユーザーがコンテンツへのタッチを離したとき(またはマウスボタンを離したとき)に発火します。この時点でFlickable.flicking
がtrue
であれば、ユーザーはフリック操作を行ったと判断できます。
特徴
- 欠点
flickStarted()
ほど直接的ではありません。 - 利点
ドラッグが終了した後の、フリックへの移行をより正確に把握できます。
例
Flickable {
id: myFlickable
// ... (Flickableの基本的な設定) ...
onMovementEnded: {
console.log("コンテンツの移動(ドラッグ)が終了しました。");
if (myFlickable.flicking) {
console.log("-> そしてフリックが開始されました (movementEnded + flicking check)!");
// ここでフリック開始時の処理
} else {
console.log("-> フリックは発生しませんでした。");
}
}
onFlickStarted: {
console.log("フリックが開始されました! (通常のフリック)");
}
}
contentXChanged / contentYChangedと速度を組み合わせる(より高度な方法)
Flickable
のcontentX
やcontentY
プロパティは、コンテンツの現在のスクロール位置を示します。これらのプロパティが変化したときに、その変化速度を計算することで、フリックが開始されたことを間接的に推測することができます。この方法は、flickStarted()
が提供する機能以上の細かい制御が必要な場合に検討されますが、実装は複雑になります。
特徴
- 欠点
速度の計算ロジックを自分で実装する必要があり、複雑になります。通常はflickStarted()
やflicking
プロパティで十分です。 - 利点
スクロール速度に基づいて、より詳細なフリックの開始条件を定義できます。
例(概念的):
Flickable {
id: myFlickable
// ... (Flickableの基本的な設定) ...
property real lastContentX: 0
property real lastContentY: 0
property real lastTime: Qt.elapsedTimer.elapsed() // 経過時間を追跡
onContentXChanged: {
var currentTime = Qt.elapsedTimer.elapsed();
var deltaTime = currentTime - lastTime;
if (deltaTime > 0) {
var speedX = (contentX - lastContentX) / deltaTime;
// console.log("Speed X:", speedX);
// ある閾値以上の速度でフリックと判断するロジック
// ただし、flickingプロパティやflickStartedシグナルの方が簡単で正確
}
lastContentX = contentX;
lastTime = currentTime;
}
onContentYChanged: {
// 同様にY方向の速度も計算
}
onFlickStarted: {
console.log("フリックが開始されました! (通常のフリック)");
}
}
どの代替方法を選ぶべきか?
- ドラッグの終了後、フリックに移行したことを確実に検出したい場合は、
onMovementEnded
とflicking
プロパティの組み合わせが役立ちます。 - ユーザーがコンテンツを触って動かし始めた時点で何かをしたい場合は、
Flickable.movementStarted()
が適切です。 - フリック「中」であるかどうかの状態を常に追跡したい場合は、
Flickable.flicking
プロパティの変化を監視するのが便利です。 - 最も推奨されるのは、やはり
Flickable.flickStarted()
です。 これがフリック開始を検出するための最も直接的で意図されたシグナルです。
ほとんどのユースケースでは、flickStarted()
またはonFlickingChanged
で十分に対応できます。特定の高度な要件がない限り、これらを使用することをお勧めします。
Qt QML の Flickable.flickStarted()
シグナルは非常に便利ですが、フリック操作の開始を検出する以外にも、Flickable
の状態変化を監視したり、ユーザーのインタラクションをより詳細に制御したりするための代替手段や関連するプロパティ・シグナルがいくつか存在します。
Flickable.flicking プロパティの変更を監視する (onFlickingChanged)
flickStarted()
はフリックが開始された瞬間に一度だけ発火しますが、flicking
プロパティはフリック操作が行われている間ずっと true
になります。このプロパティの変更を監視することで、フリックが開始された瞬間だけでなく、フリックが継続している状態、そしてフリックが終了した状態も検出できます。
Flickable {
id: myFlickable
// ... その他のプロパティ設定
onFlickingChanged: {
if (myFlickable.flicking) {
console.log("フリック操作が開始されました(flicking: true)");
// フリック開始時の処理
} else {
console.log("フリック操作が終了しました(flicking: false)");
// フリック終了時の処理(慣性スクロールの停止後)
}
}
}
flickStarted() と onFlickingChanged の違い
onFlickingChanged
:flicking
プロパティがfalse
からtrue
に変わる「瞬間」に発火します。多くの場合、これはflickStarted()
と同じタイミングです。ただし、flicking
はフリック中ずっとtrue
のままなので、フリックが終了した (false
に戻った) タイミングも同時に検出できます。flickStarted()
: ユーザーが指を離し、コンテンツが慣性で動き始めた「瞬間」に発火します。
ドラッグ操作の開始を検出する (Flickable.dragStarted())
flickStarted()
はフリック(慣性スクロールを伴う操作)の開始に特化していますが、単にユーザーがコンテンツをドラッグし始めたときに処理を行いたい場合は、dragStarted()
シグナルを使用できます。
Flickable {
id: myFlickable
// ... その他のプロパティ設定
onDragStarted: {
console.log("ドラッグが開始されました!");
// ドラッグ開始時の処理
// 例: スクロールバーを一時的に表示する
}
onDragEnded: {
console.log("ドラッグが終了しました。");
// ドラッグ終了時の処理
}
}
flickStarted() と dragStarted() の違い
flickStarted()
: ドラッグが終わり、指が離された後に慣性スクロールが開始されたときに発火します。dragStarted()
: ユーザーが指をコンテンツに置き、動かし始めたときに発火します。この時点ではまだフリックになるか、単なるドラッグで終わるかは確定していません。
移動の開始・終了を検出する (Flickable.movementStarted(), Flickable.movementEnded())
Flickable
内のコンテンツが何らかの理由で移動を開始または終了したときに処理を行いたい場合は、これらのシグナルがより汎用的に使えます。これらは、ユーザーのドラッグ、フリック、あるいはプログラムによるスクロールなど、あらゆる種類の移動をカバーします。
Flickable {
id: myFlickable
// ... その他のプロパティ設定
onMovementStarted: {
console.log("Flickableが移動を開始しました。");
// 移動開始時の共通処理
}
onMovementEnded: {
console.log("Flickableの移動が終了しました。");
// 移動終了時の共通処理
}
}
movementStarted() と flickStarted() の違い
flickStarted()
: フリックによる慣性スクロールが開始される特定のタイミングでのみ発火します。movementStarted()
: ドラッグ、フリック、プログラムによるスクロールなど、コンテンツが移動を開始するあらゆるイベントで発火します。
contentX / contentY プロパティの変更を監視する
Flickable
のコンテンツの現在の位置は contentX
と contentY
プロパティで表されます。これらのプロパティが変化するたびにシグナルが発火するため、非常にきめ細かくスクロールの進行状況を追跡できます。
Flickable {
id: myFlickable
// ... その他のプロパティ設定
onContentXChanged: {
// console.log("contentXが変更されました:", myFlickable.contentX);
// 水平スクロールの進行状況に応じて何かをする
}
onContentYChanged: {
// console.log("contentYが変更されました:", myFlickable.contentY);
// 垂直スクロールの進行状況に応じて何かをする
}
}
利点と注意点
- 注意点
非常に頻繁に発火するため、このシグナルハンドラ内で重い処理を行うとパフォーマンスに影響が出る可能性があります。 - 利点
最も詳細なスクロール位置の情報が得られます。スクロールバーの更新など、UI要素の動的な位置調整によく使用されます。
特定の状況下でフリック操作を一時的に無効にしたい場合、interactive
プロパティを使用するのが簡単です。
Flickable {
id: myFlickable
interactive: true // デフォルトはtrue
// ... その他のプロパティ設定
// ある条件でフリックを無効にする
// 例: ボタンが押されたらフリックを無効にする
Button {
text: "フリックを無効にする/有効にする"
onClicked: {
myFlickable.interactive = !myFlickable.interactive;
console.log("Flickableのインタラクティブ状態:", myFlickable.interactive);
}
}
}
解説
interactive
をfalse
に設定すると、ユーザーはドラッグやフリック操作ができなくなります。これはflickStarted()
が発火する機会を奪います。
Flickable.flickStarted()
はフリック操作の開始を正確に捉えるために使用されますが、アプリケーションの要件に応じて、以下の代替方法や関連プロパティを組み合わせることで、より柔軟なユーザーインタラクションの制御が可能です。
interactive
: ユーザーによるフリック操作を一時的に無効にしたい場合。onContentXChanged
/onContentYChanged
: スクロール位置の変化に厳密に追従したい場合(パフォーマンスに注意)。onMovementStarted
/onMovementEnded
: ドラッグ、フリック、プログラム的スクロールなど、あらゆるコンテンツ移動の開始と終了を検出したい場合。onDragStarted
/onDragEnded
: ドラッグ操作の開始と終了を検出したい場合。onFlickingChanged
: フリックの開始と終了の両方を検出したい場合。