実践PyTorch FX: Graph.erase_node()を使ったモデル最適化のコード例
まず、torch.fx
について簡単に説明します。
torch.fx
は、PyTorchモデルの内部表現(計算グラフ)を抽出し、それを操作・変換するためのツールキットです。モデルの最適化(演算子フュージョンなど)や、特定のハードウェア向けにモデルを変換する際などに利用されます。torch.fx
の中心的な概念はGraph
とNode
です。
Node
:Graph
内の個々の操作(例: テンソルの加算、特定のモジュールの呼び出し、入力、出力など)を表します。Graph
: PyTorchモデルの計算フロー全体を表すものです。各演算やモジュール、入力、出力などがノードとして表現され、それらの間のデータフローがエッジで結ばれます。
torch.fx.Graph.erase_node(node: torch.fx.Node)
メソッドは、指定されたNode
オブジェクトをGraph
から削除するために使用されます。
このメソッドは、指定されたノードを計算グラフから物理的に削除します。ただし、ノードを削除する際にはいくつかの重要な制約があります。
-
使用者(users)の確認:
erase_node()
を呼び出す前に、削除しようとしているノードが他のノードによって使用されていないことを確認する必要があります。もし削除しようとしているノードの出力が、まだグラフ内の他のノードへの入力として使用されている場合、RuntimeError
が発生します。これは、グラフの整合性を保つための重要な制約です。- ノードが使用されているかどうかは、
node.users
プロパティで確認できます。これは、そのノードの出力を使用している他のノードのセットを返します。 - ノードを安全に削除するためには、まずそのノードを使用している他のノードの入力を変更するか、それらのノード自体を削除する必要があります。一般的には、
node.replace_all_uses_with(new_node)
などのメソッドを使用して、削除したいノードのすべての使用箇所を別のノード(通常は新しいノードや、そのノードが置き換えられるノード)に置き換えてからerase_node()
を呼び出すのが一般的な流れです。
- ノードが使用されているかどうかは、
-
グラフの再コンパイル:
Graph
に変更を加えた後、変更を反映させるためには、関連するGraphModule
を再コンパイルする必要があります。これは通常、graph_module.recompile()
を呼び出すことで行われます。再コンパイルしないと、グラフの変更が実際の実行コードに反映されません。 -
使用例: 例えば、ある畳み込み層とそれに続くバッチ正規化層をフュージョン(結合)する最適化を考える場合を想像してください。バッチ正規化層が畳み込み層に統合された後、元のバッチ正規化ノードは不要になります。このような場合に、
erase_node()
を使ってそのバッチ正規化ノードをグラフから削除します。
RuntimeError: Cannot erase a Node that is still used! (最も一般的)
エラーの原因
このエラーメッセージが示す通り、削除しようとしているNode
が、グラフ内の他のNode
によってまだ入力として使用されている場合に発生します。torch.fx
はグラフの整合性を非常に重視しており、使用中のノードを削除しようとすると、後続の計算パスが壊れるため、このエラーを発生させます。
トラブルシューティング
-
node.users を確認する
削除したいノードが本当に使用されていないかを確認する最も簡単な方法は、node.users
プロパティを調べます。これは、そのノードの出力を使用しているすべてのノードのセットを返します。import torch from torch.fx import Graph, Node # 仮のグラフとノードの作成例 g = Graph() a = g.placeholder('a') b = g.call_function(torch.add, (a, a)) # b は a を使用 c = g.call_function(torch.mul, (b, b)) # c は b を使用 # b を削除したいが、c がまだ b を使用している print(f"Nodes using 'b': {b.users}") # 出力例: {Node(mul)} try: g.erase_node(b) except RuntimeError as e: print(f"Error: {e}") # -> RuntimeError: Cannot erase a Node that is still used!
-
node.replace_all_uses_with(new_node) を使用する
これが、このエラーを回避するための最も一般的な方法です。削除したいノードの出力を使っているすべてのノードが、代わりに別のノード(通常は、削除対象のノードの計算を肩代わりする新しいノード、またはそのノードの入力だったノードなど)の出力を使うように変更します。import torch from torch.fx import Graph, Node, GraphModule # 仮のグラフ g = Graph() x = g.placeholder('x') y = g.call_function(torch.relu, (x,)) # 削除したいノード z = g.call_function(torch.add, (y, y)) # y を使用しているノード # y の代わりに x を使うように z の入力を変更 # この場合、z は relu(x) + relu(x) ではなく、x + x になる # もし y が計算した結果を他のノードが使っていた場合、その「結果」を別のノードで生成し、 # その新しいノードで置き換えるのが一般的です。 # 例えば、relu_x_replacement = g.call_function(torch.nn.functional.relu, (x,)) # z.replace_input_with(y, relu_x_replacement) # y.replace_all_uses_with(x) # この例では y の代わりに x を使わせる # もう一つの例: x と y の間に新しいノード (identity) を挿入し、y を削除する # これはあまり一般的ではないが、概念を示す # new_identity_node = g.call_function(torch.nn.functional.relu, (x,)) # Yの処理と同じノードを再作成 # y.replace_all_uses_with(new_identity_node) # 実際のグラフ変換では、y の計算結果が必要ないか、 # 別のノードによって生成される場合に削除される # 例えば、y の処理が他のノードに統合された場合など # 簡潔な例として、y の計算が不要になったと仮定して、y の代わりに x を直接使うようにする y.replace_all_uses_with(x) # y を使用しているノードは全て x を使用するようになる # y はもう誰にも使われていないので、安全に削除できる g.erase_node(y) # グラフの再構築と確認 g.lint() # グラフの整合性チェック # print(g) # 削除されたことを確認 # g_module = GraphModule(torch.nn.Module(), g) # print(g_module.code) # Pythonコードとして確認
replace_all_uses_with()
の正しい使い方:-
フュージョン(結合)の場合:
conv -> bn
のようなグラフでbn
をconv
にフュージョンしたとします。bn
ノードは不要になるので、bn.replace_all_uses_with(conv_node)
を呼び出して、bn
の出力を利用していたノードが代わりにconv
の出力を利用するようにします。その後、erase_node(bn)
を呼び出します。 -
ノードの無効化(最適化などで): あるノードの計算が不要になった場合、そのノードの出力を使っているすべてのノードが、そのノードの入力の一つを直接使うように変更したり、あるいは定数ノードを挿入して置き換えたりします。
-
削除後にグラフが壊れる (論理エラー)
エラーの原因
erase_node()
自体はエラーを吐かないが、グラフの論理的な整合性が失われることがあります。これは、削除したノードが本来必要であったり、削除によってグラフの依存関係が意図せず変更されたりする場合に発生します。結果として、GraphModule
を実行した際に、間違った結果が出たり、形状不一致のエラー (RuntimeError: The size of tensor a (X) must match the size of tensor b (Y) at non-singleton dimension Z
) が発生したりします。
トラブルシューティング
-
グラフの視覚化とデバッグ
変更前と変更後のグラフを視覚化(例えば Graphviz を使用)して比較し、意図した通りの変更が行われているかを確認します。# Graphviz を使う場合 (インストールが必要: pip install graphviz) # from torch.fx.graph_module import GraphModule # from torch.fx.passes.utils.graph_utils import get_graph_as_dot # g_module = GraphModule(torch.nn.Module(), g) # dot = get_graph_as_dot(g_module.graph) # print(dot) # Graphviz DOT 形式で出力されるので、ツールで可視化
また、
print(g)
でグラフのテキスト表現を見ることも役立ちます。 -
g.lint() の活用
Graph.lint()
メソッドは、グラフの基本的な整合性チェックを行います。例えば、孤立したノードや、到達不可能なノード、存在しないノードへの参照などがないかを確認できます。グラフを操作した後には、必ずg.lint()
を実行することをお勧めします。try: g.lint() print("Graph linted successfully!") except Exception as e: print(f"Graph linting error: {e}")
-
GraphModule の再コンパイルと実行テスト
Graph
に変更を加えた後、torch.fx.GraphModule
を再作成し、実際にモデルを実行して結果が正しいかを確認します。from torch.fx import GraphModule # グラフgを操作した後... g_module = GraphModule(torch.nn.Module(), g) # ダミー入力で実行テスト try: dummy_input = torch.randn(1, 3, 224, 224) # モデルに合わせて形状を調整 output = g_module(dummy_input) print("Model executed successfully after graph modification.") except Exception as e: print(f"Model execution failed after graph modification: {e}")
エラーの原因
これは単純なタイポか、メソッドの呼び出し方が間違っている場合です。erase_node()
はGraph
クラスのメソッドであり、Node
クラスのメソッドではありません。
トラブルシューティング
graph.erase_node(node_to_erase)
のように、Graph
オブジェクトから呼び出していることを確認してください。
# 誤った例
# node_to_erase.erase_node()
# 正しい例
# graph.erase_node(node_to_erase)
torch.fx.Graph.erase_node()
を安全かつ効果的に使用するためには、以下の点を常に意識してください。
erase_node()
を呼び出す前に、削除したいノードが誰にも使われていないことを確認する。- ノードが使われている場合は、
replace_all_uses_with()
を使って依存関係を解決する。 - グラフの変更後は
g.lint()
で基本的な整合性チェックを行う。 - 変更を反映させるために
GraphModule
を再コンパイルし、実際の入力で実行テストを行う。
例1: 不要な中間ノードの削除(最も基本的な例)
この例では、計算グラフに挿入された「何もしない」identity
ノードを削除します。
import torch
import torch.nn as nn
from torch.fx import symbolic_trace, GraphModule, Node
# 1. 元のモデルの定義
class MyModel(nn.Module):
def forward(self, x):
# 意図的に何もしないnn.Identity層を挿入
x = nn.Identity()(x) # このノードを後で削除する
x = x + 1
x = x * 2
return x
# 2. モデルのシンボリックトレース
# symbolic_trace を使ってモデルから計算グラフを抽出します。
model = MyModel()
traced_model = symbolic_trace(model)
graph = traced_model.graph
print("--- 変更前のグラフ ---")
graph.print_tabular() # グラフのノードをテーブル形式で表示
# 3. 削除するノードの特定
# graph.nodes をイテレートして、削除したいノード('identity'モジュール呼び出し)を見つけます。
node_to_erase = None
for node in graph.nodes:
if node.op == 'call_module' and isinstance(node.target, torch.fx.Target) and node.target.name == 'identity':
node_to_erase = node
break
if node_to_erase is None:
print("エラー: 'identity' ノードが見つかりませんでした。")
else:
print(f"\n--- 削除対象ノード: {node_to_erase.name} (op: {node_to_erase.op}, target: {node_to_erase.target}) ---")
# 4. ノードの依存関係の処理 (非常に重要!)
# erase_node() を呼び出す前に、削除するノードが他のノードによって使用されていないことを確認する必要があります。
# node_to_erase の出力を使用しているすべてのノードに、node_to_erase の入力を使用するように指示します。
# この例では、identity ノードの入力は 'x' なので、identity の出力を使っていたノードは代わりに 'x' を使うようになります。
node_to_erase.replace_all_uses_with(node_to_erase.args[0])
# 5. ノードの削除
# replace_all_uses_with() の後、node_to_erase は誰にも使われていないので、安全に削除できます。
graph.erase_node(node_to_erase)
print(f"ノード '{node_to_erase.name}' を削除しました。")
# 6. グラフの整合性チェック
# 変更後には、グラフの整合性をチェックするために lint() を呼び出すことを強く推奨します。
graph.lint()
print("\nグラフの整合性チェック完了 (lint)。")
# 7. 変更後のグラフの確認
print("\n--- 変更後のグラフ ---")
graph.print_tabular()
# 8. GraphModule の再コンパイルと実行テスト
# グラフの変更を反映させるには、GraphModule を再コンパイルする必要があります。
new_traced_model = GraphModule(traced_model, graph) # 新しいグラフで GraphModule を作成
# 実行テスト
dummy_input = torch.randn(1, 3, 224, 224)
original_output = model(dummy_input)
modified_output = new_traced_model(dummy_input)
print(f"\n元のモデルの出力と変更後のモデルの出力の一致: {torch.allclose(original_output, modified_output)}")
assert torch.allclose(original_output, modified_output)
print("出力が一致しました。ノードの削除が成功し、モデルの振る舞いは変わっていません。")
コード解説
MyModel
の定義:nn.Identity
レイヤーを持つシンプルなモデルを定義します。このIdentity
レイヤーが削除の対象です。symbolic_trace
: モデルをトレースしてGraphModule
とそのgraph
を取得します。- 削除対象ノードの特定:
graph.nodes
をループし、identity
モジュールに対応するノードを探します。 - 依存関係の処理 (
replace_all_uses_with
): ここが最も重要です。node_to_erase.replace_all_uses_with(node_to_erase.args[0])
を呼び出しています。node_to_erase.args[0]
は、identity
ノードへの入力(この場合はx
)です。- この行は、「
node_to_erase
の出力を入力として使用していたすべてのノードは、代わりにnode_to_erase
の入力 (x
) を使用するように」と指示します。これにより、node_to_erase
はどのノードからも参照されなくなります。
graph.erase_node()
:identity
ノードはもう誰にも使われていないため、安全に削除できます。graph.lint()
: グラフの基本的な整合性をチェックします。何か問題があればここでエラーが出ます。- グラフの確認:
graph.print_tabular()
で変更前後のグラフ構造を確認します。identity
ノードが消えていることがわかります。 GraphModule
の再コンパイルと実行テスト: グラフの変更を実際に反映させるためには、新しいGraphModule
を作成する必要があります。そして、元のモデルと変更後のモデルの出力が一致するかを確認し、モデルの振る舞いが意図せず変わっていないことを検証します。
この例では、畳み込み層とバッチ正規化層を「フュージョン(結合)」したと仮定し、フュージョン後に不要になったバッチ正規化ノードを削除します。実際のフュージョンロジックは簡略化しています。
import torch
import torch.nn as nn
from torch.fx import symbolic_trace, GraphModule, Node
# 1. 元のモデルの定義
class ConvBNModel(nn.Module):
def __init__(self):
super().__init__()
self.conv = nn.Conv2d(3, 16, 3, padding=1)
self.bn = nn.BatchNorm2d(16)
self.relu = nn.ReLU()
def forward(self, x):
x = self.conv(x)
x = self.bn(x) # このノードをフュージョン後に削除する
x = self.relu(x)
return x
# 2. モデルのシンボリックトレース
model = ConvBNModel()
traced_model = symbolic_trace(model)
graph = traced_model.graph
print("--- 変更前のグラフ ---")
graph.print_tabular()
# 3. フュージョンとノード削除のロジック (簡略化)
# 実際には、convとbnを統合するより複雑なロジックがここに入る
# ここでは、convとbnノードを見つけ、bnノードを削除するシナリオをシミュレートします。
conv_node = None
bn_node = None
relu_node = None
for node in graph.nodes:
if node.op == 'call_module':
if isinstance(node.target, torch.fx.Target) and node.target.name == 'conv':
conv_node = node
elif isinstance(node.target, torch.fx.Target) and node.target.name == 'bn':
bn_node = node
elif isinstance(node.target, torch.fx.Target) and node.target.name == 'relu':
relu_node = node
if conv_node and bn_node and relu_node:
print(f"\n--- フュージョン対象ノード: {conv_node.name}, {bn_node.name} ---")
# シミュレーション: convとbnがフュージョンされ、bnの計算がconvに含まれたとする。
# したがって、bnノードは不要になる。
# bnノードの出力を使っていた relu_node は、代わりに conv_node の出力を使うべき。
bn_node.replace_all_uses_with(conv_node)
# bnノードはもう誰にも使われていないので、安全に削除できる
graph.erase_node(bn_node)
print(f"ノード '{bn_node.name}' を削除しました。")
# グラフの整合性チェック
graph.lint()
print("\nグラフの整合性チェック完了 (lint)。")
# 変更後のグラフの確認
print("\n--- 変更後のグラフ ---")
graph.print_tabular()
# GraphModule の再コンパイルと実行テスト
new_traced_model = GraphModule(traced_model, graph)
dummy_input = torch.randn(1, 3, 32, 32) # モデルに合わせて形状を調整
# 本来は、フュージョンによってBNの計算結果がConvに統合されるため、
# モデルの出力は元のモデルと同じになるはずです。
# この簡略化された例では、BNが単にスキップされるため、出力は一致しません。
# 実際のフュージョンでは、フュージョン後のConvモジュールの重みとバイアスが更新されます。
# 実行テスト(この例では出力が一致しないが、実際のフュージョンでは一致するはず)
try:
modified_output = new_traced_model(dummy_input)
print("\n変更後のモデルの実行成功。")
except Exception as e:
print(f"モデル実行失敗: {e}")
else:
print("エラー: conv, bn, または relu ノードが見つかりませんでした。")
ConvBNModel
:Conv2d
とBatchNorm2d
が連続する一般的なパターンを持つモデルです。- ノードの特定:
conv
、bn
、relu
ノードをグラフから見つけます。 - フュージョンシミュレーションと依存関係の処理:
- 「
conv
とbn
がフュージョンされた」という状況をシミュレートします。 - フュージョン後、
bn
ノードは不要になるため、その出力を利用していた次のrelu
ノードが、代わりにconv
ノードの出力を利用するように変更します。これはbn_node.replace_all_uses_with(conv_node)
で行われます。 - 重要: 実際のフュージョンでは、
conv
モジュールの重みやバイアスがbn
の統計情報を使って更新されます。この例ではその部分を省略しているため、単純にbn
ノードを削除すると、元のモデルと出力は一致しません。実際の最適化では、フュージョン後の新しい畳み込み層が正確な出力を出すように設定されます。
- 「
graph.erase_node(bn_node)
:bn
ノードが誰にも参照されなくなった後、安全に削除します。
node.replace_all_uses_with() を使用してノードを実質的に「無効化」する
これは erase_node()
を使う前の準備段階としてよく使われますが、物理的な削除を行わずにノードを論理的にバイパスする目的でも利用できます。
方法
削除したいノードの出力を使っているすべてのノードが、別のノード(通常は削除したいノードの入力の1つ)を代わりに使うように変更します。
import torch
from torch.fx import Graph, Node, GraphModule
g = Graph()
x = g.placeholder('x')
# y は削除したいノード、または実質的に無効化したいノード
y = g.call_function(torch.relu, (x,))
z = g.call_function(torch.add, (y, y))
# y の出力を利用していたノード (z) が、y の入力 (x) を利用するように変更
# これにより、y の計算はグラフの実行パスから外れる
y.replace_all_uses_with(x)
# この時点では y ノードはまだグラフ内に存在するが、どのノードもその出力を参照しない
print("--- 'y' ノードの出力を変更後 ---")
g.print_tabular()
# ノード 'y' はグラフに表示されるが、その 'users' は空になっているはず
# この後、必要であれば erase_node(y) で物理的に削除することも可能
# g.erase_node(y)
利点
erase_node()
のRuntimeError
を回避できます。- ノードを物理的に削除せず、単にその出力を迂回させたい場合に有効です。デバッグや一時的な変更に便利です。
erase_node()
を呼び出す前の安全な準備段階として機能します。
欠点
- メモリ使用量や計算量に影響はなくなりますが、グラフの走査時には依然としてノードが存在します。
- ノード自体はグラフから削除されないため、グラフの複雑さが視覚的には残ります。
node.replace_input_with() を使用して特定の入力のみを変更する
replace_all_uses_with()
がノードのすべての利用箇所を変更するのに対し、replace_input_with()
は特定のノードの特定の入力だけを変更したい場合に便利です。
方法
some_node.replace_input_with(old_input_node, new_input_node)
を呼び出して、some_node
の入力リストから old_input_node
を new_input_node
に置き換えます。
import torch
from torch.fx import Graph, Node, GraphModule
g = Graph()
x = g.placeholder('x')
y = g.call_function(torch.relu, (x,))
z = g.call_function(torch.add, (x, y)) # z は x と y を入力とする
# z の入力である y を、別のノード (例: x) に置き換える
# これにより、z は x と x を足し算するようになる
z.replace_input_with(y, x)
print("--- 'z' の入力 'y' を 'x' に変更後 ---")
g.print_tabular()
# ここで y ノードはまだ誰かに使われている可能性があるので、erase_node(y) はそのままでは呼べない
利点
- ノードの出力を変更するのではなく、ノードへの入力を変更します。
- より粒度の細かい制御が可能です。特定のノードの特定の入力だけを変更したい場合に最適です。
欠点
erase_node()
の代替というよりは、グラフ操作の一環として使われることが多いです。このメソッド自体はノードを削除しません。
新しいノードを挿入して元のノードをバイパスする
元のノードの直後に新しいノードを挿入し、その新しいノードが出力を生成するようにして、元のノードの処理を実質的に置き換える方法です。その後、元のノードを削除します。
方法
graph.inserting_after(original_node)
または graph.inserting_before(original_node)
を使用して、指定したノードの前後でノードを挿入します。
import torch
from torch.fx import symbolic_trace, GraphModule, Node, Graph
class MyModel(torch.nn.Module):
def forward(self, x):
x = torch.relu(x) # このreluノードを新しいノードで置き換えたい
x = x + 1
return x
model = MyModel()
traced_model = symbolic_trace(model)
graph = traced_model.graph
relu_node = None
for node in graph.nodes:
if node.op == 'call_function' and node.target == torch.relu:
relu_node = node
break
if relu_node:
# relu_node の直後に新しいノード(例えば、恒等関数)を挿入する
# これはあくまで例であり、実際の最適化ではより複雑なロジック
with graph.inserting_after(relu_node):
# 新しいノードを作成し、relu_node の入力と同じ入力を持つ
new_node = graph.call_function(lambda x: x, relu_node.args) # 恒等関数
# relu_node の出力を使っていたノードが、new_node の出力を利用するように変更
relu_node.replace_all_uses_with(new_node)
# relu_node を削除
graph.erase_node(relu_node)
print("--- relu ノードを新しい恒等ノードで置き換え後 ---")
graph.print_tabular()
new_traced_model = GraphModule(traced_model, graph)
# 検証コードなど
利点
- 例えば、特定の最適化パスでノードの挙動を完全に置き換えたい場合に有効です。
- ノードの処理を変更しつつ、グラフの構造をより柔軟に操作できます。
欠点
- コードが複雑になりがちです。
erase_node()
を使う必要があるため、結局は依存関係の処理が必要です。
torch.fx
のより高レベルな抽象化を利用して、ノードの削除を含む複雑なグラフ変換を行うことができます。torch.fx.passes
には、フュージョンパスのような一般的な最適化パスが含まれています。これらは内部的にノードの削除を行うことがあります。
方法
torch.fx.Pass
を継承した独自のカスタムパスを作成し、call_module
やcall_function
などのメソッドをオーバーライドして、グラフを走査しながら変更を加える。- 既存の
torch.fx.passes
を利用する。
# 例: PassManager を使用してフュージョンパスを実行
# これは erase_node() を直接呼び出す代替というより、
# erase_node() を内部的に含む高レベルな操作の例です。
# from torch.fx.passes.graph_drawer import FxGraphDrawer
# from torch.fx.passes.pass_manager import PassManager
# from torch.fx.passes.fusion_passes import fuse_conv_bn_eval
# model = MyConvBNModel() # 例2のConvBNModelのようなもの
# traced_model = symbolic_trace(model)
# pm = PassManager([fuse_conv_bn_eval]) # Conv-BNフュージョンパス
# fused_model = pm(traced_model)
# print("--- フュージョン後のグラフ ---")
# fused_model.graph.print_tabular()
# ここで 'bn' ノードは削除されているはずです。
利点
- 多くの場合、グラフの整合性や依存関係の処理がパスの内部で自動的に管理されます。
- 再利用可能なロジックを作成できます。
- 複雑な最適化や変換を構造化された方法で実装できます。
- カスタムパスの作成には、
torch.fx
の内部動作に対する深い理解が必要です。 - 単純なノード削除には大げさすぎる場合があります。