Go言語 big.Int.BitLen()のよくある落とし穴と解決策
big.Int.BitLen()
は、Go 言語の math/big
パッケージに含まれるメソッドで、big.Int
型の数値のビット長(bit length)、つまりその数値を表現するのに必要な最小のビット数を返します。
主な特徴と動作
-
非負の整数のみ
BitLen()
メソッドは、レシーバである*big.Int
の絶対値に対して機能します。つまり、負の数であっても、その絶対値のビット長が返されます。- 例:
-10
のBitLen()
は10
のBitLen()
と同じになります。
- 例:
-
ゼロの扱い
0
のBitLen()
は0
を返します。これは、0
を表現するのにビットは不要と考えるためです。
-
正の整数のビット長
- 正の整数 x の場合、
BitLen()
は 2n−1≤x<2n を満たす最小の n の値を返します。これは、その数値を表現するために必要なビット数に相当します。 - 具体的には、最上位ビット(most significant bit, MSB)の位置を返します。
- 例:
1
(20) のBitLen()
は1
(1ビット必要)2
(21) のBitLen()
は2
(10進数で2はバイナリで10、2ビット必要)3
(21+20) のBitLen()
は2
(10進数で3はバイナリで11、2ビット必要)7
(22+21+20) のBitLen()
は3
(10進数で7はバイナリで111、3ビット必要)8
(23) のBitLen()
は4
(10進数で8はバイナリで1000、4ビット必要)
- 正の整数 x の場合、
使用例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
// 例1: 正の整数
num1 := big.NewInt(1)
fmt.Printf("num1: %v, BitLen: %d\n", num1, num1.BitLen()) // num1: 1, BitLen: 1
num2 := big.NewInt(2)
fmt.Printf("num2: %v, BitLen: %d\n", num2, num2.BitLen()) // num2: 2, BitLen: 2
num3 := big.NewInt(7)
fmt.Printf("num3: %v, BitLen: %d\n", num3, num3.BitLen()) // num3: 7, BitLen: 3
num4 := big.NewInt(8)
fmt.Printf("num4: %v, BitLen: %d\n", num4, num4.BitLen()) // num4: 8, BitLen: 4
// 例2: ゼロ
num0 := big.NewInt(0)
fmt.Printf("num0: %v, BitLen: %d\n", num0, num0.BitLen()) // num0: 0, BitLen: 0
// 例3: 負の整数 (絶対値のビット長が返される)
numNeg := big.NewInt(-10)
fmt.Printf("numNeg: %v, BitLen: %d\n", numNeg, numNeg.BitLen()) // numNeg: -10, BitLen: 4 (10のビット長は4)
// 例4: 非常に大きな数
numLarge, _ := new(big.Int).SetString("10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000", 10)
fmt.Printf("numLarge: %v, BitLen: %d\n", numLarge, numLarge.BitLen()) // 10進数で10^100なので、それなりに大きなビット長になります
}
なぜ BitLen()
が重要なのか?
- パフォーマンス最適化
特定の数値演算において、ビット長に基づいて異なるアルゴリズムを選択することでパフォーマンスを最適化できる場合があります。 - 暗号化アルゴリズム
RSAのような暗号化アルゴリズムでは、鍵の長さやモジュラスのビット長が非常に重要になります。BitLen()
はこれらの値を検証するために使用できます。 - メモリ効率
任意の精度の整数を扱う際、その数値を格納するために必要なメモリ量を推定するのに役立ちます。
big.Int.BitLen()
自体は、数値の絶対値のビット長を返すという明確な定義を持つため、このメソッド単体で直接的なエラー(パニックなど)を引き起こすことは稀です。しかし、その結果を誤解したり、他の big.Int
の操作と組み合わせることで予期しない動作につながることがあります。
ゼロ (0) の BitLen() が 0 を返すことの誤解
問題
big.NewInt(0).BitLen()
は 0
を返します。これは数学的なビット長としては正しいですが、他のプログラミング言語でのビット長や、0
を1ビットで表現する (0b0
) といった感覚と異なるため、混乱を招くことがあります。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
zero := big.NewInt(0)
fmt.Printf("BitLen of 0: %d\n", zero.BitLen()) // 0
}
トラブルシューティング/解決策
- 0 の特別扱い
BitLen()
の結果が0
の場合、その数値が0
であることを明示的にチェックすることが多いです。
よりシンプルにif num.BitLen() == 0 && num.Sign() == 0 { // BitLenが0で、かつ符号が0なら0である fmt.Println("The number is zero.") }
num.Cmp(big.NewInt(0)) == 0
を使って0
かどうかをチェックすることもできます。 - 仕様の理解
big.Int.BitLen()
のドキュメントを読み、0
のビット長が0
であることを理解してください。
負の数に対する BitLen() の動作の誤解
問題
BitLen()
は絶対値のビット長を返します。したがって、-10
の BitLen()
は 10
の BitLen()
と同じになります。数値を符号付きのビット表現で考え、例えば2の補数表現でのビット長を期待している場合、予期しない結果となることがあります。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
negNum := big.NewInt(-10)
posNum := big.NewInt(10)
fmt.Printf("BitLen of -10: %d\n", negNum.BitLen()) // 4
fmt.Printf("BitLen of 10: %d\n", posNum.BitLen()) // 4
}
トラブルシューティング/解決策
- 符号の考慮が必要な場合
符号情報が必要な場合は、big.Int.Sign()
メソッドを併用します。
2の補数表現など、特定の符号付き表現でのビット長が必要な場合は、num := big.NewInt(-10) fmt.Printf("Number: %v, Sign: %d, BitLen (abs): %d\n", num, num.Sign(), num.BitLen())
BitLen()
の結果をそのまま使うのではなく、カスタムロジックを実装する必要があります。 - 絶対値の理解
BitLen()
が常に数値の絶対値のビット長を返すことを意識してください。
big.Int のポインタ渡しによる副作用
問題
big.Int
のメソッドは通常、レシーバをポインタで受け取り、結果もポインタで返します(例: Add
, Mul
)。これは効率的なメモリ管理のためですが、意図せず元の big.Int
オブジェクトを変更してしまい、その後の BitLen()
の呼び出しに影響を与える可能性があります。これは BitLen()
自体のエラーではありませんが、関連するロジックで発生する一般的な落とし穴です。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
a := big.NewInt(1)
b := big.NewInt(2)
// c.Add(a, b) は c を a+b に設定する。
// ここで `c` は `a` と同じメモリを指している場合、`a` の値が変更される可能性がある。
// しかし、`big.NewInt` は新しい `big.Int` を返すため、ここでは問題ない。
// もっと一般的な問題は、`a` を別の演算の結果で上書きしてしまうケース。
result := new(big.Int).Add(a, b) // `a` は変更されない
fmt.Printf("a: %v, a.BitLen(): %d\n", a, a.BitLen()) // a: 1, a.BitLen(): 1
fmt.Printf("result: %v, result.BitLen(): %d\n", result, result.BitLen()) // result: 3, result.BitLen(): 2
// 間違いやすい例 (a が変更される)
x := big.NewInt(100)
y := big.NewInt(200)
// x の値を x + y の結果で上書き
x.Add(x, y)
fmt.Printf("x after Add: %v, x.BitLen(): %d\n", x, x.BitLen()) // x after Add: 300, x.BitLen(): 9 (100は7ビット, 200は8ビット, 300は9ビット)
// ここで BitLen を呼び出すと、期待するビット長ではなく、変更された後のビット長が返る
// これ自体は BitLen のエラーではないが、誤解の元となる
}
トラブルシューティング/解決策
- 新しい big.Int を作成する
元の値を保持したい場合は、演算結果を格納するために新しいbig.Int
インスタンスを作成するか、Set
メソッドを使用してコピーを作成します。
これはoriginalA := big.NewInt(1) b := big.NewInt(2) tempA := new(big.Int).Set(originalA) // originalA のコピーを作成 result := tempA.Add(tempA, b) // tempA を使用して演算 fmt.Printf("originalA: %v, originalA.BitLen(): %d\n", originalA, originalA.BitLen()) fmt.Printf("result: %v, result.BitLen(): %d\n", result, result.BitLen())
BitLen()
に直接関連するエラーではありませんが、big.Int
を扱う上での最も一般的な間違いの一つであり、結果としてBitLen()
の出力が意図しないものになる可能性があります。 - 破壊的な操作を意識する
big.Int
のメソッドの多くは、レシーバの値を変更する(破壊的な操作)ことを理解する。
パフォーマンスへの懸念 (まれ)
問題
BitLen()
は比較的軽量な操作ですが、非常に大きな数値を扱うループ内で頻繁に呼び出す場合、パフォーマンスにわずかな影響を与える可能性があります。ただし、これはほとんどのアプリケーションでは問題になりません。
トラブルシューティング/解決策
- 最適化
もしボトルネックであると判明した場合、結果をキャッシュするなどの最適化を検討します。ただし、これは極めて稀なケースです。 - ベンチマーク
パフォーマンスがクリティカルな場合は、BitLen()
の呼び出し頻度やその影響をベンチマークで確認します。
nil レシーバの BitLen()
問題
*big.Int
はポインタ型なので、nil
ポインタに対してメソッドを呼び出すとランタイムパニック (nil pointer dereference
) が発生します。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
var num *big.Int // nil ポインタ
// fmt.Printf("BitLen: %d\n", num.BitLen()) // ここでパニック発生!
// パニックを避けるためにはチェックが必要
if num == nil {
fmt.Println("num is nil. Cannot call BitLen().")
} else {
fmt.Printf("BitLen: %d\n", num.BitLen())
}
}
- 適切な初期化
big.NewInt()
を使うか、new(big.Int)
でゼロ値として初期化する(0
になります)など、適切に初期化してから使用します。 - nil チェック
big.Int
ポインタを使用する前に、必ずnil
でないことを確認します。特に、関数引数として*big.Int
を受け取る場合など、外部からの入力がある場合は重要です。
big.Int.BitLen()
は、math/big
パッケージで非常に大きな整数(多倍長整数)を扱う際に、その数値が何ビットで表現できるかを知るために使われます。これにより、メモリの使用量を推定したり、特定のビット操作のロジックを組んだり、暗号化関連の処理でビット長を検証したりするのに役立ちます。
基本的な使用法
最も基本的な例として、様々な整数のビット長を確認します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("--- 基本的な使用法 ---")
// 1 (バイナリ: 1) -> 1ビット
num1 := big.NewInt(1)
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", num1, num1.BitLen()) // Output: Number: 1, BitLen: 1
// 2 (バイナリ: 10) -> 2ビット
num2 := big.NewInt(2)
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", num2, num2.BitLen()) // Output: Number: 2, BitLen: 2
// 7 (バイナリ: 111) -> 3ビット
num7 := big.NewInt(7)
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", num7, num7.BitLen()) // Output: Number: 7, BitLen: 3
// 8 (バイナリ: 1000) -> 4ビット
num8 := big.NewInt(8)
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", num8, num8.BitLen()) // Output: Number: 8, BitLen: 4
// 0 -> 0ビット
num0 := big.NewInt(0)
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", num0, num0.BitLen()) // Output: Number: 0, BitLen: 0
// 負の数 (-10 の絶対値は 10, バイナリ: 1010) -> 4ビット
numNeg := big.NewInt(-10)
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", numNeg, numNeg.BitLen()) // Output: Number: -10, BitLen: 4
// 非常に大きな数 (10^30)
numLarge := new(big.Int)
numLarge.SetString("1000000000000000000000000000000", 10) // 10の30乗
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d\n", numLarge, numLarge.BitLen()) // Output: Number: 100...00, BitLen: 100 (log2(10^30) ≈ 30 * 3.32 = 99.65 なので100ビット)
}
解説
0
の場合は0
が返されます。- 負の数の場合も、その絶対値のビット長が返される点に注意してください。
num.BitLen()
を呼び出すだけで、その数値のビット長(最上位ビットの位置 + 1)がint
型で返されます。big.NewInt()
やnew(big.Int).SetString()
を使ってbig.Int
オブジェクトを作成します。
ビット長に基づいた条件分岐
特定のビット長を持つ数値を処理したい場合などに利用できます。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- ビット長に基づいた条件分岐 ---")
checkNumber := func(num *big.Int) {
bitLen := num.BitLen()
fmt.Printf("Number: %v, BitLen: %d -> ", num, bitLen)
if bitLen <= 64 {
fmt.Println("64ビット以下の範囲です (標準の int64 に収まる可能性あり)")
} else if bitLen <= 128 {
fmt.Println("65〜128ビットの範囲です")
} else {
fmt.Println("128ビットを超える大きな数です")
}
}
checkNumber(big.NewInt(42))
checkNumber(new(big.Int).SetUint64(1<<63 - 1)) // max int64 value (approx)
checkNumber(new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 70)) // 2^70
checkNumber(big.NewInt(0))
}
解説
- このように、数値の「大きさ」をビット長で判断し、それに応じた処理を行うことができます。
checkNumber
というヘルパー関数を作成し、渡されたbig.Int
のビット長を判定して異なるメッセージを出力します。
暗号化アルゴリズムでのビット長検証
RSA の鍵生成など、暗号化アルゴリズムでは鍵やモジュラスのビット長がセキュリティ上非常に重要になります。
package main
import (
"crypto/rand"
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- 暗号化アルゴリズムでのビット長検証 (例) ---")
// 例: 2048ビットの素数を生成しようとする
// 実際にはもっと複雑な素数生成ロジックが必要
bits := 2048
prime, err := rand.Prime(rand.Reader, bits) // 指定したビット長の素数を生成 (確定的ではない)
if err != nil {
fmt.Printf("素数生成エラー: %v\n", err)
return
}
fmt.Printf("生成された素数 (一部): %s...\n", prime.String()[:20])
fmt.Printf("期待するビット長: %d\n", bits)
fmt.Printf("実際の素数のビット長: %d\n", prime.BitLen())
// 検証
if prime.BitLen() == bits {
fmt.Println("→ ビット長は期待通りです。")
} else {
fmt.Println("→ 警告: ビット長が期待と異なります!")
}
// 別の例: 512ビットの乱数を生成し、そのビット長を確認
randomBytes := make([]byte, 64) // 512 bits = 64 bytes
_, err = rand.Read(randomBytes)
if err != nil {
fmt.Printf("乱数生成エラー: %v\n", err)
return
}
randomNum := new(big.Int).SetBytes(randomBytes)
fmt.Printf("\n生成された乱数のビット長: %d\n", randomNum.BitLen())
// SetBytes はバイト列の最上位ビットが0の場合、BitLen が期待より小さくなる可能性がある。
// これは `rand.Prime` とは異なる振る舞いなので注意。
}
解説
- 乱数生成の例では、バイト列から
big.Int
を作成した場合、先頭のバイトが0x00
だとビット長が短くなる可能性があることを示しています。これはBitLen()
の動作の理解に役立ちます。 crypto/rand.Prime()
は指定したビット長(ほぼ)の素数を生成します。BitLen()
を使って、実際に生成された素数のビット長が期待通りであるかを検証できます。
特定のビットがセットされているかどうかのチェック (応用)
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- 特定のビットのチェック (応用) ---")
num := big.NewInt(42) // バイナリ: 101010
fmt.Printf("Number: %v (Binary: %b)\n", num, num)
fmt.Printf("BitLen: %d\n", num.BitLen()) // 6ビット
// Bit(i) は i 番目のビットがセットされているか (0 または 1) を返す
// i は 0-indexed (LSBが0)
fmt.Printf("Bit 0 (LSB): %d\n", num.Bit(0)) // 0
fmt.Printf("Bit 1: %d\n", num.Bit(1)) // 1
fmt.Printf("Bit 2: %d\n", num.Bit(2)) // 0
fmt.Printf("Bit 3: %d\n", num.Bit(3)) // 1
fmt.Printf("Bit 4: %d\n", num.Bit(4)) // 0
fmt.Printf("Bit 5 (MSB): %d\n", num.Bit(5)) // 1
// BitLen() を使って、最上位ビットが本当にセットされているかを確認する
// num.Bit(num.BitLen() - 1) は、BitLen() が1以上の場合に最上位ビットを示す
if num.BitLen() > 0 {
msbIndex := num.BitLen() - 1
fmt.Printf("MSB (Bit %d) is: %d\n", msbIndex, num.Bit(msbIndex))
} else {
fmt.Println("Number is 0, no MSB.")
}
// 例: 2のべき乗かどうかのチェック (BitLen と SetBit の組み合わせ)
// 2のべき乗なら BitLen で示されるビットのみが1
checkPowerOfTwo := func(n *big.Int) bool {
if n.Sign() <= 0 { // 0 や負の数は2のべき乗ではない
return false
}
// n & (n-1) == 0 であれば2のべき乗
// big.Int では Cmp を使う
minusOne := new(big.Int).Sub(n, big.NewInt(1))
andResult := new(big.Int).And(n, minusOne)
return andResult.Cmp(big.NewInt(0)) == 0
}
fmt.Println("\n--- 2のべき乗チェック ---")
fmt.Printf("Is 8 a power of 2? %t (BitLen: %d)\n", checkPowerOfTwo(big.NewInt(8)), big.NewInt(8).BitLen())
fmt.Printf("Is 7 a power of 2? %t (BitLen: %d)\n", checkPowerOfTwo(big.NewInt(7)), big.NewInt(7).BitLen())
fmt.Printf("Is 1 a power of 2? %t (BitLen: %d)\n", checkPowerOfTwo(big.NewInt(1)), big.NewInt(1).BitLen())
fmt.Printf("Is 0 a power of 2? %t (BitLen: %d)\n", checkPowerOfTwo(big.NewInt(0)), big.NewInt(0).BitLen())
}
- 2のべき乗のチェックでは、
BitLen()
が直接使われているわけではありませんが、その概念(ビットパターン)と密接に関連しており、big.Int
の他のビット操作メソッド (Sub
,And
,Cmp
) と組み合わせて利用できることを示しています。 BitLen()
は最上位ビットの位置を示すため、num.Bit(num.BitLen() - 1)
を使って最上位ビットの値を確認できます。num.Bit(i)
は、i
番目のビット(0から始まる)がセットされているかどうかを返します。
注意点
ここで紹介する代替方法は、ほとんどの場合、BitLen()
よりも低速であったり、複雑になったりします。BitLen()
のパフォーマンスは非常に最適化されており、Go の標準ライブラリのベストプラクティスです。
Bytes() メソッドとバイト長の計算
big.Int
の絶対値をバイトスライスとして取得し、そのバイト長からビット長を推定する方法です。
Bytes() の特徴
- 先頭の不要なゼロバイトは含まれません。
0
の場合、空のバイトスライス ([]byte{}
) を返します。- 数値の絶対値をビッグエンディアン(最上位バイトが最初)のバイトスライスとして返します。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func getBitLenFromBytes(num *big.Int) int {
if num.Cmp(big.NewInt(0)) == 0 {
return 0 // 0 の場合、BitLen() と同じく 0 を返す
}
// 絶対値を取得
absNum := new(big.Int).Abs(num)
// バイトスライスに変換
b := absNum.Bytes()
// バイト長を計算
byteLen := len(b)
if byteLen == 0 {
return 0 // ここに到達することはないはずだが、念のため
}
// 最上位バイトのビット長を計算
// math/bits.LeadingZeros8() を使うと効率的
msb := b[0]
bitLenInMsb := 8 - leadingZeros8(msb) // Go 1.9+ の math/bits.LeadingZeros8 に相当
return (byteLen-1)*8 + bitLenInMsb
}
// 8ビット整数における先行ゼロの数を手動で計算 (math/bits.LeadingZeros8 の簡易版)
// 実際には math/bits を使うべき
func leadingZeros8(x byte) int {
if x == 0 {
return 8
}
count := 0
for i := 7; i >= 0; i-- {
if (x>>i)&1 == 1 {
break
}
count++
}
return count
}
func main() {
fmt.Println("--- Bytes() メソッドとバイト長からの計算 ---")
nums := []*big.Int{
big.NewInt(1), // 0b1
big.NewInt(2), // 0b10
big.NewInt(127), // 0b1111111
big.NewInt(128), // 0b10000000
big.NewInt(255), // 0b11111111
big.NewInt(256), // 0b100000000
big.NewInt(-42), // 絶対値は 42 (0b101010)
big.NewInt(0),
new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 100), // 2^100
}
for _, num := range nums {
bitLen := num.BitLen() // 標準の BitLen()
manualBitLen := getBitLenFromBytes(num)
fmt.Printf("Number: %v (Binary: %b)\n", num, num)
fmt.Printf(" BitLen(): %d, Manual: %d\n", bitLen, manualBitLen)
if bitLen != manualBitLen {
fmt.Println("!!! 不一致 !!!")
}
}
}
解説
num.Abs(num)
で絶対値を取得します。BitLen()
も絶対値を返すため、これに合わせます。absNum.Bytes()
で数値のビッグエンディアンバイト表現を取得します。- バイトスライスが空の場合(元の数値が
0
の場合)、ビット長は0
です。 - それ以外の場合、
byteLen
はバイトスライス全体のバイト数です。 b[0]
が最上位バイトです。このバイトが8
ビット全てを使っているとは限らないため、leadingZeros8()
(またはmath/bits.LeadingZeros8()
) を使って、そのバイト内の有効なビット数を特定します。(byteLen-1)*8
で、最上位バイトを除く下位のバイトが持つビット数を計算し、それに最上位バイトの有効ビット数を加算します。
利点
- バイト単位で処理を理解できる。
big.Int
の内部表現に直接アクセスせずに、公開されているBytes()
メソッドを使うため、比較的安全。
欠点
math/bits.LeadingZeros8
を使わない場合、最上位バイトのビット長計算が複雑になりがちです。BitLen()
よりも処理が重い可能性があります(バイトスライスの生成とループ処理)。
Bits() メソッドと math/bits パッケージの使用
big.Int.Bits()
メソッドは、big.Int
の内部表現(big.Word
のスライス)に直接アクセスします。big.Word
は通常 uint64
または uint32
です。このメソッドと math/bits
パッケージの関数を組み合わせることで、より低レベルなビット長計算が可能です。
Bits() の特徴
0
の場合、空のスライスを返します。- 結果のスライスは、元の
big.Int
と同じ基盤配列を共有します(コピーではないため、変更には注意が必要です)。 - 数値の絶対値を little-endian
Word
スライスとして返します。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"math/bits" // Go 1.9 から導入されたビット操作用のパッケージ
)
func getBitLenFromWords(num *big.Int) int {
if num.Cmp(big.NewInt(0)) == 0 {
return 0 // 0 の場合、BitLen() と同じく 0 を返す
}
// 絶対値を取得
absNum := new(big.Int).Abs(num)
// Word スライスに変換 (little-endian)
words := absNum.Bits()
wordLen := len(words)
if wordLen == 0 {
return 0 // ここに到達することはないはずだが、念のため
}
// 最上位 Word のインデックスは wordLen - 1
msw := words[wordLen-1] // little-endian なので、最後の要素が最上位ワード
// 最上位 Word の有効なビット数を計算
// bits.Len() は非負の整数のビット長を返す (0 の場合は 0)
bitLenInMsw := bits.Len(uint(msw)) // big.Word は uint なのでキャスト
// (wordLen-1) * bits.UintSize で、最上位 Word を除く下位の Word が持つビット数を計算
// bits.UintSize はシステムにおける uint のビットサイズ (例: 32 または 64)
return (wordLen-1)*bits.UintSize + bitLenInMsw
}
func main() {
fmt.Println("\n--- Bits() メソッドと Word 長からの計算 ---")
nums := []*big.Int{
big.NewInt(1),
big.NewInt(256),
big.NewInt(0),
new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 63), // 2^63 (1 Word の最上位ビット)
new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 64), // 2^64 (2 Word の最上位ビット)
new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 127), // 2^127 (2 Word の最上位ビット)
new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 128), // 2^128 (3 Word の最上位ビット)
}
for _, num := range nums {
bitLen := num.BitLen() // 標準の BitLen()
manualBitLen := getBitLenFromWords(num)
fmt.Printf("Number: %v\n", num)
fmt.Printf(" BitLen(): %d, Manual: %d\n", bitLen, manualBitLen)
if bitLen != manualBitLen {
fmt.Println("!!! 不一致 !!!")
}
}
}
解説
num.Abs(num)
で絶対値を取得します。absNum.Bits()
で数値の little-endianWord
スライスを取得します。- スライスが空の場合、ビット長は
0
です。 words[wordLen-1]
で、big.Word
スライス内の最上位ワード(数値の最上位部分)を取得します。bits.Len(uint(msw))
を使って、その最上位ワード内の有効なビット数を計算します。bits.Len(x)
はx
を表現するのに必要な最小ビット数を返します(0
の場合は0
)。(wordLen-1)*bits.UintSize
で、最上位ワードを除く下位のワードが持つビット数を計算し、それに最上位ワードの有効ビット数を加算します。
利点
math/bits
パッケージはビット操作に最適化されており、効率的です。Bytes()
を使うよりも、big.Int
の内部実装に近い形でビット長を計算できます。
欠点
BitLen()
ほど直接的ではなく、複雑さが増します。big.Word
の概念や little-endian/big-endian の違いを理解する必要があります。
2進数文字列への変換と文字列長の利用 (非効率)
問題点
これは非常に非効率な方法であり、実用的な代替方法ではありません。デバッグ目的や、極めて特殊なケース(非常に小さな数値で、かつ文字列操作がボトルネックにならないことが保証される場合など)以外では使用すべきではありません。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"strings"
)
func getBitLenFromString(num *big.Int) int {
if num.Cmp(big.NewInt(0)) == 0 {
return 0
}
// 絶対値を取得
absNum := new(big.Int).Abs(num)
// 2進数文字列に変換 (プレフィックス "0b" は含まれない)
binaryString := absNum.Text(2)
// 文字列の長さがビット長
return len(binaryString)
}
func main() {
fmt.Println("\n--- 2進数文字列への変換と文字列長からの計算 (非推奨) ---")
nums := []*big.Int{
big.NewInt(1),
big.NewInt(2),
big.NewInt(7),
big.NewInt(8),
big.NewInt(0),
big.NewInt(-10),
new(big.Int).Lsh(big.NewInt(1), 100), // 2^100
}
for _, num := range nums {
bitLen := num.BitLen()
manualBitLen := getBitLenFromString(num)
fmt.Printf("Number: %v (Binary: %s)\n", num, num.Text(2))
fmt.Printf(" BitLen(): %d, Manual: %d\n", bitLen, manualBitLen)
if bitLen != manualBitLen {
fmt.Println("!!! 不一致 !!!")
}
}
}
解説
0
の場合は空文字列になるため、別途0
を返します。num.Text(2)
で2進数表現の文字列を取得し、その長さを返します。
利点
- 概念的に最も直感的かもしれません(2進数を見て数えるのと同じ)。
欠点
- 極めて非効率
非常に大きなbig.Int
の場合、2進数文字列の生成自体に多大な時間とメモリを消費します。文字列操作はビット操作よりもはるかに遅いです。
big.Int.BitLen()
の代替方法を考える場合でも、通常は big.Int.BitLen()
をそのまま使うべきです。 Go の標準ライブラリの math/big
パッケージは、パフォーマンスと正確性を両立させるように設計されています。
代替方法は、主に以下のような場合に考慮されることがあります。
- デバッグ/検証
稀なケースですが、BitLen()
の結果が疑わしい場合に、別の方法で計算して検証したい場合。 - 非常に特殊な最適化
big.Int
の内部データ構造 (Bits()
でアクセスできるWord
スライス) を直接操作するカスタムアルゴリズムを実装し、かつBitLen()
のオーバーヘッドが許容できないほど大きいとベンチマークで判明した場合(これは非常に稀です)。 - 学習目的
BitLen()
が内部でどのように機能するかを理解したい場合。