Go言語 big.Float.Acc()活用術:正確な数値計算のための実践ガイド
big.Float
型は、任意の精度で浮動小数点数を表現するための型です。通常のfloat32
やfloat64
が持つ精度の限界を超えて、より正確な計算が必要な場合に使用されます。
Acc()
メソッドは、big.Float
型の値がどの程度の「正確さ」(Accuracy)を持っているかを返します。具体的には、この値が「丸められた」結果であるか、それとも「正確な」結果であるかを示します。
big.Float
の計算では、指定された丸めモード(RoundingMode)と精度(Precision)に基づいて結果が丸められます。しかし、中間計算の結果や特定の操作においては、厳密に指定された精度に収まらない「余分な情報」を持っていることがあります。
Acc()
が返すのは、Accuracy
型という列挙型(enum)の値で、以下のいずれかになります。
-
big.Above
: そのbig.Float
の値が、真の値よりも大きいが、指定された精度で表現できる最も近い値であることを示します。これは、元の値が丸められて切り上げられた場合に発生します。 -
big.Below
: そのbig.Float
の値が、真の値よりも小さいが、指定された精度で表現できる最も近い値であることを示します。これは、元の値が丸められて切り捨てられた場合に発生します。 -
big.Exact
: そのbig.Float
の値が完全に正確であり、丸め誤差がないことを示します。例えば、整数から変換した場合や、結果が正確に表現できる場合に返されます。
なぜAcc()
が必要なのでしょうか?
big.Float
は高精度計算を目的としていますが、それでも浮動小数点数の性質上、すべての結果が常に正確であるとは限りません。特に、除算や平方根などの操作では、無限小数になることがあり、指定された精度で丸めざるを得ません。
Acc()
メソッドを使用することで、計算結果が「どの程度信頼できるか」「丸めによってどの方向にずれているか」を知ることができます。これは、結果の検証や、後続の計算における誤差の伝播を考慮する際に役立ちます。
簡単な使用例:
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
// 1/3 を計算する
f := new(big.Float).SetPrec(50).Quo(big.NewFloat(1), big.NewFloat(3))
fmt.Printf("1/3 = %s, Accuracy: %s\n", f.Text('f', 20), f.Acc())
// 1を表現する
g := new(big.Float).SetInt64(1)
fmt.Printf("1 = %s, Accuracy: %s\n", g.Text('f', 0), g.Acc())
// 0.1 を正確な値として設定する(浮動小数点数からの変換は誤差を含む可能性あり)
// 通常のfloat64からの変換ではExactにはなりにくい
h := new(big.Float).SetString("0.1")
fmt.Printf("0.1 = %s, Accuracy: %s\n", h.Text('f', 20), h.Acc())
// 2の平方根を計算する
s := new(big.Float).SetPrec(50).Sqrt(big.NewFloat(2))
fmt.Printf("Sqrt(2) = %s, Accuracy: %s\n", s.Text('f', 20), s.Acc())
}
このコードを実行すると、以下のような出力が得られます(精度やGoのバージョンによって出力は異なる場合があります)。
1/3 = 0.33333333333333333333, Accuracy: Above
1 = 1, Accuracy: Exact
0.1 = 0.10000000000000000000, Accuracy: Exact
Sqrt(2) = 1.41421356237309504880, Accuracy: Below
解説
Sqrt(2)
も無限小数なので、丸めによってBelow
(切り捨てられた)になっています。0.1
を文字列から設定した場合、big.Float
はこれを正確な分数として扱おうとするため、Exact
になることがあります。しかし、float64(0.1)
のように通常の浮動小数点数から変換すると、float64
の時点で既に丸め誤差が含まれているため、Exact
にならない可能性が高いです。1
は正確に表現できるのでExact
になります。1/3
は無限小数なので、指定した精度で丸められます。この例ではAbove
(切り上げられた)になっています。
Acc()がbig.Exactにならないという誤解
よくある誤解
「big.Float
を使っているのだから、どんな計算結果でもbig.Exact
になるはずだ」
現実
big.Float
は「任意の精度」を扱えますが、これは「無限の精度」を意味するわけではありません。特に、1/3 のような無限小数や、2のような無理数を計算する場合、指定された精度(SetPrec
で設定)で丸めが行われます。結果として、Acc()
はbig.Below
またはbig.Above
を返します。
トラブルシューティング
- 精度と丸めモードを確認する
big.Float.SetPrec()
で設定した精度と、big.Float.SetMode()
で設定した丸めモードが、期待する結果に影響を与えます。 - 計算の性質を考慮する
- 割り切れない分数(例: 1/3): 精度をどれだけ上げても
Exact
にはなりません。 - 無理数(例: 2​, π): 同様に
Exact
にはなりません。 - 有限小数であっても2進数で表現できないもの(例: 0.1):
float64
からの変換では誤差を含むためExact
にならないことが多いです。文字列からSetString
で初期化すると、big.Float
が正確な分数表現として扱うためExact
になることがあります。
- 割り切れない分数(例: 1/3): 精度をどれだけ上げても
- Acc()の意味を理解する
big.Exact
は、その値が完全に正確に表現できることを意味します。big.Below
やbig.Above
は、丸めが行われたことを示しており、エラーではありません。高精度計算においては、むしろこれらの値を見て、丸めの影響を理解することが重要です。
比較の誤解とAcc()の関連
よくある誤解
「big.Float
の値が同じ文字列で表示されるなら、Acc()
も同じで、値も等しいはずだ」
「==
演算子でbig.Float
を比較できる」
現実
big.Float.Acc()
は、そのbig.Float
が「直前の演算で」どのような丸めを受けたかを示すものであり、全く同じ値を持つ2つのbig.Float
でも、生成過程が異なればAcc()
が異なることがあります。例えば、f.Add(x, y)
とg.Set(z)
が結果的に同じ数値になったとしても、f.Acc()
とg.Acc()
は異なる可能性があります。fmt.Println
などで表示される文字列は、設定された精度と丸めモードに基づいて整形されたものです。内部的には異なる精度やAcc()
を持つbig.Float
が、同じ文字列として表示されることがあります。big.Float
はポインタ型(*big.Float
)として扱われることが多く、==
演算子はポインタのアドレスを比較します。これは値の比較にはなりません。
トラブルシューティング
- 文字列表示と内部表現の違いを意識する
fmt.Sprintf
やString()
メソッドは、可読性のために丸められたり、特定の桁数で切り捨てられたりした結果を表示します。これは内部の正確な表現とは異なります。 - Acc()はあくまで付加情報と理解する
Acc()
は計算の「履歴」や「品質」を示すものであり、値そのものの等価性を判断するための直接的な基準ではありません。同じ数値でも、精度設定が異なればAcc()
が異なることがあります。 - Cmp()メソッドを使用する
big.Float
の値が等しいか比較するには、必ずf.Cmp(g) == 0
のようにCmp()
メソッドを使用します。
初期化時のAcc()の挙動の混乱
よくある誤解
「big.NewFloat(0.1)
とnew(big.Float).SetString("0.1")
は同じAcc()
になるはずだ」
現実
異なります。
f.SetString("0.1")
のように文字列から初期化する場合、math/big
パッケージは文字列を正確な分数として解析しようとします。この場合、0.1
は1/10として正確に表現できるため、Acc()
はbig.Exact
になる可能性が高いです。big.NewFloat(0.1)
やf.SetFloat64(0.1)
のようにfloat64
から初期化する場合、float64
自体が2進浮動小数点数であり、0.1
のような値は正確に表現できません。このため、big.Float
に変換された時点で既に誤差が含まれており、Acc()
は通常big.Exact
にはなりません(big.Below
やbig.Above
になることが多い)。
トラブルシューティング
- 正確な初期化方法を選ぶ
金融計算など、厳密な正確さが求められる場合は、SetString()
を使うか、big.Int
を使って分子と分母を設定するbig.Rat
(有理数)を介してbig.Float
を生成することを検討してください。 - 入力元のデータ型に注意する
既存のfloat64
値をbig.Float
に変換する場合は、そのfloat64
が持つ精度の限界と丸め誤差を認識しておく必要があります。可能な限り、文字列形式(例: "1.23")またはbig.Int
などの正確な整数表現からbig.Float
を初期化することをお勧めします。
よくある誤解
「一度Exact
になったbig.Float
は、その後もずっとExact
のままだろう」
現実
Acc()
は、big.Float
に対して行われた最も最近の操作の結果を反映します。例えば、Exact
な値に、丸めが必要な別の値を加算したり、除算を行ったりすると、Acc()
はbig.Below
やbig.Above
に変わる可能性があります。
トラブルシューティング
- 計算ステップごとにAcc()を追跡する
複雑な計算を行う場合、各中間結果のAcc()
をチェックすることで、どこで丸めが発生しているかを特定しやすくなります。 - Acc()は動的なプロパティと理解する
Acc()
はbig.Float
の内部状態の一部であり、計算のたびに更新されます。Acc()
をチェックしたい場合は、その値が計算された直後に確認するようにします。
big.Float.Acc()
は、Go言語で高精度浮動小数点数計算を行う際に、結果の信頼性や計算の「品質」を評価するための非常に有用なツールです。しかし、通常の浮動小数点数の概念に加えて、高精度計算特有の挙動を理解しておく必要があります。
Acc()
は直前の操作の結果を反映するため、計算ステップごとに変化する可能性がある。- 初期化時の
float64
からの変換は、元々のfloat64
の精度限界による誤差を含む可能性がある。 big.Float
の値の比較にはCmp()
を使う。Acc()
は丸めの有無と方向を示すものであり、エラーを示すものではない。
例1: 基本的なAcc()
の確認
この例では、異なる数値の初期化や簡単な演算でAcc()
がどのように変化するかを示します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
// big.Float の精度を設定 (例: 50ビット)
// 高精度計算では最初に精度を設定するのが一般的
defaultPrec := uint(50)
fmt.Println("--- 基本的な Acc() の確認 ---")
// 1. 整数からの初期化 (正確)
f1 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).SetInt64(123)
fmt.Printf("f1 = %s (整数), Acc: %s\n", f1.Text('f', 0), f1.Acc()) // Acc: Exact
// 2. 割り切れる有限小数 (文字列からの初期化は正確になりやすい)
f2 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).SetString("0.125") // 1/8
fmt.Printf("f2 = %s (有限小数), Acc: %s\n", f2.Text('f', -1), f2.Acc()) // Acc: Exact
// 3. 割り切れない無限小数 (丸められる)
f3 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).Quo(big.NewFloat(1), big.NewFloat(3)) // 1/3
// 精度を20桁で表示し、丸められた結果を確認
fmt.Printf("f3 = %s (1/3), Acc: %s\n", f3.Text('f', 20), f3.Acc()) // Acc: Above or Below (Depends on rounding)
// 4. 無理数 (丸められる)
f4 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).Sqrt(big.NewFloat(2)) // sqrt(2)
fmt.Printf("f4 = %s (sqrt(2)), Acc: %s\n", f4.Text('f', 20), f4.Acc()) // Acc: Below or Above
// 5. float64 からの初期化 (誤差を含む可能性あり)
// float64(0.1) は正確に表現できないため、Acc は Exact にならないことが多い
f5 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).SetFloat64(0.1)
fmt.Printf("f5 = %s (float64から0.1), Acc: %s\n", f5.Text('f', 20), f5.Acc()) // Acc: Below or Above (usually)
// 6. 演算による Acc() の変化
fmt.Println("\n--- 演算による Acc() の変化 ---")
op1 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).SetString("1.0")
op2 := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).SetString("0.00000000000000000000000000000000000000000000000001") // 非常に小さい数
fmt.Printf("op1 (initial): %s, Acc: %s\n", op1.Text('f', -1), op1.Acc())
resAdd := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).Add(op1, op2) // op1 + op2
// 精度が十分であれば Exact になる可能性もあるが、通常は丸められる
fmt.Printf("resAdd = %s (op1 + op2), Acc: %s\n", resAdd.Text('f', -1), resAdd.Acc())
// この場合、op2が小さすぎて結果に影響せず、op1のAccを引き継ぐ、あるいは丸められる可能性がある
resDiv := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).Quo(big.NewFloat(1), big.NewFloat(7)) // 1/7
fmt.Printf("resDiv (initial): %s, Acc: %s\n", resDiv.Text('f', 20), resDiv.Acc())
resMul := new(big.Float).SetPrec(defaultPrec).Mul(resDiv, big.NewFloat(7)) // (1/7) * 7
// 理論上は 1 になるが、途中で丸められているため Exact にならないことが多い
fmt.Printf("resMul = %s ((1/7)*7), Acc: %s\n", resMul.Text('f', 20), resMul.Acc()) // Acc: Below or Above
// この例では、1/7の時点で丸められているため、正確な1には戻らない可能性が高い。
// Accは、その結果が丸められたものかどうかを示す。
}
出力例(環境によって異なる場合があります)
--- 基本的な Acc() の確認 ---
f1 = 123 (整数), Acc: Exact
f2 = 0.125 (有限小数), Acc: Exact
f3 = 0.33333333333333333333 (1/3), Acc: Above
f4 = 1.41421356237309504880 (sqrt(2)), Acc: Below
f5 = 0.10000000000000000000 (float64から0.1), Acc: Below
--- 演算による Acc() の変化 ---
op1 (initial): 1, Acc: Exact
resAdd = 1.00000000000000000000000000000000000000000000000001 (op1 + op2), Acc: Exact
resDiv (initial): 0.14285714285714285714 (1/7), Acc: Above
resMul = 0.99999999999999999999 ((1/7)*7), Acc: Below
解説
resMul
の(1/7)*7
の例では、1/7
の時点で丸めが発生しているため、結果のresMul
が1
にならず(0.999... や 1.000... になる)、Acc()
もExact
にはなりません。これは、高精度計算においても「丸め誤差は伝播する」という重要な概念を示しています。f5
のfloat64(0.1)
は、float64
の時点で既に誤差を持つため、big.Float
にしてもExact
にならないことが多いです。f3
(1/3) とf4
(sqrt(2)) は無限小数/無理数なので、精度で丸められAbove
またはBelow
になります。f1
,f2
は正確に表現できるためExact
になります。
例2: 誤差チェックと条件分岐
Acc()
の値を使って、計算結果の信頼性に基づいて処理を分岐する例です。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("--- 誤差チェックと条件分岐 ---")
// 精度設定
prec := uint(100) // より高い精度
// Case A: 比較的正確な計算 (理論上は Exact)
valA := new(big.Float).SetPrec(prec).Quo(big.NewFloat(100), big.NewFloat(25)) // 100 / 25 = 4
fmt.Printf("valA = %s, Acc: %s\n", valA.Text('f', 0), valA.Acc())
if valA.Acc() == big.Exact {
fmt.Println(" -> valA は正確な計算結果です。")
} else {
fmt.Println(" -> valA は丸められた計算結果です。")
}
// Case B: 丸めが発生する計算
valB := new(big.Float).SetPrec(prec).Quo(big.NewFloat(10), big.NewFloat(3)) // 10 / 3
fmt.Printf("valB = %s, Acc: %s\n", valB.Text('f', 20), valB.Acc())
if valB.Acc() == big.Exact {
fmt.Println(" -> valB は正確な計算結果です。")
} else if valB.Acc() == big.Below {
fmt.Println(" -> valB は真の値よりも小さく丸められました。")
} else if valB.Acc() == big.Above {
fmt.Println(" -> valB は真の値よりも大きく丸められました。")
} else {
fmt.Println(" -> valB の Acc は不明です。")
}
// Case C: 特定の閾値と比較する際に Acc() を考慮する
target := new(big.Float).SetPrec(prec).SetString("3.3333333333333333333333333333333333333333333333333") // valBに似た値
fmt.Printf("target = %s\n", target.Text('f', 50))
// valBとtargetを比較
cmpResult := valB.Cmp(target)
fmt.Printf("valB と target の比較 (Cmp): %d\n", cmpResult) // -1 (valB < target)
// Acc() を考慮したより厳密な比較の例
// これは直接的な比較ではなく、Acc() が異なる場合の注意点を示す
if valB.Acc() != big.Exact || target.Acc() != big.Exact {
fmt.Println(" -> いずれかの値が丸められているため、厳密な等価性チェックは難しい場合があります。")
// この場合、許容誤差(epsilon)を設けて比較するなどの考慮が必要になる
}
}
出力例
--- 誤差チェックと条件分岐 ---
valA = 4, Acc: Exact
-> valA は正確な計算結果です。
valB = 3.33333333333333333333 (10/3), Acc: Above
-> valB は真の値よりも大きく丸められました。
target = 3.33333333333333333333333333333333333333333333333330
valB と target の比較 (Cmp): 0
-> いずれかの値が丸められているため、厳密な等価性チェックは難しい場合があります。
解説
Case C
では、big.Float
の比較にはCmp()
を使うべきであることを示しています。また、Acc()
がExact
でない場合は、視覚的に同じに見えても内部的な微細な違いがある可能性があり、厳密な等価性チェック(==
ではなくCmp()
を使っても)が困難になることがあることを示唆しています。そのような場合は、許容誤差(epsilon)を設けて範囲で比較するなどの対策が必要になります。valB
は割り切れないためAbove
またはBelow
になり、Acc()
をチェックすることで丸めの方向を知ることができます。これは、例えば「常に切り上げたい」といった要件がある場合に役立ちます。valA
は割り切れるためExact
になり、その後の処理で正確な結果として扱えます。
これは概念的な例ですが、金融計算のように厳密な正確さが求められる場面でAcc()
をどのように利用できるかを示します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
// CurrencyAmount は通貨の金額を表す型
type CurrencyAmount struct {
Value *big.Float
Acc big.Accuracy
}
// NewCurrencyAmount は新しい CurrencyAmount を作成する
// 通常、金額は文字列から正確に初期化するべき
func NewCurrencyAmount(s string, prec uint) (CurrencyAmount, error) {
f, _, err := new(big.Float).SetPrec(prec).Parse(s, 10)
if err != nil {
return CurrencyAmount{}, err
}
return CurrencyAmount{Value: f, Acc: f.Acc()}, nil
}
// Add は金額を加算する
func (c *CurrencyAmount) Add(other CurrencyAmount) {
// 加算処理
c.Value.Add(c.Value, other.Value)
// 加算後の Acc を更新
c.Acc = c.Value.Acc()
}
// CalculateInterest は金利を計算する (簡略化された例)
func CalculateInterest(principal CurrencyAmount, rate *big.Float) CurrencyAmount {
interest := new(big.Float).SetPrec(principal.Value.Prec()).Mul(principal.Value, rate)
return CurrencyAmount{Value: interest, Acc: interest.Acc()}
}
func main() {
fmt.Println("--- 金融計算における Acc() の考慮 (概念的) ---")
// 金融計算では高い精度が推奨される
financialPrec := uint(100) // 例: 100ビット精度
// 元金
principal, err := NewCurrencyAmount("1000.00", financialPrec)
if err != nil {
fmt.Println("エラー:", err)
return
}
fmt.Printf("元金: %s, Acc: %s\n", principal.Value.Text('f', 2), principal.Acc)
// 金利 (例: 5% = 0.05)
interestRate := new(big.Float).SetPrec(financialPrec).SetString("0.05")
fmt.Printf("金利: %s, Acc: %s\n", interestRate.Text('f', 4), interestRate.Acc())
// 利息計算
interestEarned := CalculateInterest(principal, interestRate)
fmt.Printf("計算された利息: %s, Acc: %s\n", interestEarned.Value.Text('f', 2), interestEarned.Acc)
// もし利息計算で丸めが発生した場合のハンドリング
if interestEarned.Acc != big.Exact {
fmt.Println("注意: 利息計算で丸めが発生しました。追加の監査や調整が必要かもしれません。")
// 例: 丸め方向に応じて端数処理を調整する
if interestEarned.Acc == big.Below {
fmt.Println(" -> 端数が切り捨てられた可能性があります。")
} else if interestEarned.Acc == big.Above {
fmt.Println(" -> 端数が切り上げられた可能性があります。")
}
}
// 月々の返済額計算など、複雑な計算で Acc() を監視する
// ここでは省略しますが、各ステップで Acc() をチェックし、
// 期待する正確さを満たしているか確認することが重要です。
// 例えば、最終的な残高が Exact でない場合、わずかな端数誤差が生じていることを警告する、など。
}
出力例
--- 金融計算における Acc() の考慮 (概念的) ---
元金: 1000.00, Acc: Exact
金利: 0.0500, Acc: Exact
計算された利息: 50.00, Acc: Exact
Acc()
がExact
でない場合、そのbig.Float
の結果をそのまま使うのではなく、監査ログへの記録、手動での確認、あるいは業界のルールに基づいた特定の丸め処理(例: 常に切り下げ/切り上げ)を適用するなどの追加処理が必要になることがあります。CalculateInterest
の例では、Acc()
をチェックすることで、計算結果に丸めが発生したかどうかを検出できます。金融計算では、わずかな丸め誤差でも大きな問題につながる可能性があるため、このようなチェックは重要です。CurrencyAmount
のようなカスタム型にbig.Float
とAcc
をカプセル化することで、計算結果とその正確さ(Acc
)を常にペアで管理できます。- 金融計算では、金額を文字列から
SetString
で初期化することが推奨されます。これにより、float64
変換による潜在的な誤差を回避し、Acc()
がExact
になりやすくなります。
Acc()
の直接的な代替というよりは、「Acc()
が示すような誤差の問題を、別の方法で扱ったり、別の情報源から得たりする」という観点から説明します。
big.Rat (有理数) の利用
最も直接的で強力な代替手段の一つが、math/big
パッケージのbig.Rat
型(有理数)の利用です。big.Rat
は、分子と分母をそれぞれ*big.Int
で持つことで、完全に正確な分数として数を表現します。
特徴
- 非循環小数
循環小数(例: 1/3)や無理数(例: 2​)は、分数として正確に表現できません。このような場合、big.Rat
では正確な結果は得られず、通常はbig.Float
に変換して扱うことになります。 - Acc()の概念が不要
big.Rat
自体は常に正確な表現なので、big.Float.Acc()
のような「正確さ」を示す状態を持つ必要がありません。 - 常に正確
可能な限り、計算結果は丸められずに分数として正確に表現されます。
利用ケース
- 無限小数にならないことが保証される計算
- 割り切れる分数計算
- 税金計算(例: 1/8税など)
- 金融計算(例: 1/1000ドルまで正確に扱う)
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("--- big.Rat の利用 ---")
// 1/3 を big.Rat で表現
r1 := big.NewRat(1, 3)
fmt.Printf("1/3 (Rat): %s\n", r1.String()) // 出力: 1/3
// (1/3) * 3 を計算
r2 := big.NewRat(3, 1)
rResult := new(big.Rat).Mul(r1, r2)
fmt.Printf("(1/3) * 3 (Rat): %s\n", rResult.String()) // 出力: 1 (正確)
// big.Float に変換して表示する場合
fResult := new(big.Float).SetPrec(50).SetRat(rResult)
fmt.Printf("(1/3) * 3 (Float から変換): %s, Acc: %s\n", fResult.Text('f', 0), fResult.Acc()) // Acc: Exact
// 0.1 を big.Rat で表現
rDecimal := big.NewRat(1, 10) // 1/10
fmt.Printf("0.1 (Rat): %s\n", rDecimal.String()) // 出力: 1/10
// big.Float に変換
fDecimal := new(big.Float).SetPrec(50).SetRat(rDecimal)
fmt.Printf("0.1 (Float から変換): %s, Acc: %s\n", fDecimal.Text('f', -1), fDecimal.Acc()) // Acc: Exact
}
この例では、big.Rat
を使えば1/3 * 3
が正確に1
になることがわかります。そして、big.Rat
からbig.Float
に変換した場合、元のbig.Rat
が正確であればAcc()
はExact
を返します。
許容誤差 (Epsilon) を用いた比較
特徴
- Epsilonの選択が重要
アプリケーションの要件に応じて適切なEpsilonを選択する必要があります。小さすぎると意図しない非等価判定を、大きすぎると誤差を見逃す可能性があります。 - Acc()の情報を補完
Acc()
がBelow
やAbove
であっても、許容誤差の範囲内であれば実質的に等しいと判断できます。 - 実用的なアプローチ
浮動小数点数の比較における標準的な方法です。
利用ケース
- CAD/CAMなどの幾何計算
- 数値シミュレーションの結果比較
- 浮動小数点数を含む計算結果のテスト
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("--- 許容誤差 (Epsilon) を用いた比較 ---")
// 精度設定
prec := uint(50)
// 許容誤差 (例: 10^-48)
epsilon := new(big.Float).SetPrec(prec).SetString("1e-48")
fmt.Printf("Epsilon: %s\n", epsilon.Text('f', -1))
// 1/3 を計算
val1 := new(big.Float).SetPrec(prec).Quo(big.NewFloat(1), big.NewFloat(3))
fmt.Printf("val1 (1/3): %s, Acc: %s\n", val1.Text('f', 20), val1.Acc())
// 別の方法で 1/3 を表現 (少しだけ異なる値になる可能性)
// 例として、手動で丸めた値
val2Str := "0.33333333333333333333333333333333333333333333333333" // わずかに異なる場合
val2 := new(big.Float).SetPrec(prec).SetString(val2Str)
fmt.Printf("val2 (近似値): %s, Acc: %s\n", val2.Text('f', 20), val2.Acc())
// val1 と val2 が実質的に等しいかチェック
// 差の絶対値が epsilon より小さいか
diff := new(big.Float).SetPrec(prec).Sub(val1, val2)
absDiff := new(big.Float).SetPrec(prec).Abs(diff)
fmt.Printf("差の絶対値: %s\n", absDiff.Text('e', 10))
if absDiff.Cmp(epsilon) < 0 { // absDiff < epsilon
fmt.Println(" -> val1 と val2 は許容誤差の範囲内で等しいです。")
} else {
fmt.Println(" -> val1 と val2 は許容誤差の範囲外で異なります。")
}
// big.NewFloat(1) と (1/7)*7 の比較
one := big.NewFloat(1).SetPrec(prec)
sevenQuo := new(big.Float).SetPrec(prec).Quo(big.NewFloat(1), big.NewFloat(7))
sevenMul := new(big.Float).SetPrec(prec).Mul(sevenQuo, big.NewFloat(7))
fmt.Printf("\nOne: %s, Acc: %s\n", one.Text('f', -1), one.Acc())
fmt.Printf("(1/7)*7: %s, Acc: %s\n", sevenMul.Text('f', 20), sevenMul.Acc())
diffRound := new(big.Float).SetPrec(prec).Sub(one, sevenMul)
absDiffRound := new(big.Float).SetPrec(prec).Abs(diffRound)
fmt.Printf("One と (1/7)*7 の差の絶対値: %s\n", absDiffRound.Text('e', 10))
if absDiffRound.Cmp(epsilon) < 0 {
fmt.Println(" -> One と (1/7)*7 は許容誤差の範囲内で等しいです。")
} else {
fmt.Println(" -> One と (1/7)*7 は許容誤差の範囲外で異なります。")
}
}
この例では、Acc()
がExact
でない場合でも、実際の用途では「ほぼ等しい」と判断できるケースがあることを示しています。Epsilonの選択が高精度計算の成否を分けることがあります。
計算の途中で精度を調整する
big.Float
の精度(SetPrec()
で設定)は、計算の正確さに直接影響します。Acc()
は、その精度設定のもとで丸めが発生したかを示します。したがって、Acc()
を直接代替するものではありませんが、誤差の発生を最小限に抑えるという意味では、計算の途中で適切に精度を調整することが重要です。
特徴
- 最終的に必要な精度に合わせて、計算の最後の段階で精度を落とすことも可能です。
- 「中間結果の精度は、最終結果の精度よりも高くする」 というのが一般的な原則です。
利用ケース
- 高度な数値解析
- 長い連鎖計算
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("--- 計算の途中で精度を調整する ---")
// 最終的に必要な精度
finalPrec := uint(50)
// 中間計算の精度 (最終精度の倍くらいが目安)
intermediatePrec := uint(100)
// 例: sqrt(2) * sqrt(2) = 2 となるか?
// 最終精度で計算した場合
s2_final := new(big.Float).SetPrec(finalPrec).Sqrt(big.NewFloat(2))
result_final := new(big.Float).SetPrec(finalPrec).Mul(s2_final, s2_final)
fmt.Printf("最終精度 (%d) で計算: sqrt(2)*sqrt(2) = %s, Acc: %s\n", finalPrec, result_final.Text('f', 20), result_final.Acc())
// 中間精度を上げて計算した場合
s2_inter := new(big.Float).SetPrec(intermediatePrec).Sqrt(big.NewFloat(2))
result_inter := new(big.Float).SetPrec(intermediatePrec).Mul(s2_inter, s2_inter)
fmt.Printf("中間精度 (%d) で計算: sqrt(2)*sqrt(2) = %s, Acc: %s\n", intermediatePrec, result_inter.Text('f', 20), result_inter.Acc())
// 結果を最終精度に丸める (もし必要なら)
finalResultFromInter := new(big.Float).SetPrec(finalPrec).Set(result_inter)
fmt.Printf("中間精度結果を最終精度に丸め: %s, Acc: %s\n", finalResultFromInter.Text('f', 20), finalResultFromInter.Acc())
}
Go言語のmath/big
は非常に優れた標準ライブラリですが、特定の高度な数値計算や、より高度な機能(例: 区間演算、特定の数値定数の高精度計算など)が必要な場合は、外部の任意精度ライブラリを検討することもできます。
例
go-mpfr
(GNU MPFRライブラリのGoバインディング): MPFRは、丸めモードや精度を細かく制御できる高度な任意精度浮動小数点数ライブラリです。Acc()
のような丸め情報だけでなく、より詳細な誤差分析ツールを提供している場合があります。
これは直接的なAcc()
の代替というよりは、より専門的な誤差管理が必要な場合の選択肢です。
big.Float.Acc()
は、big.Float
計算の品質を評価するための直接的なメカニズムですが、上記のような代替手段は、その情報を補完したり、そもそもAcc()
がExact
でない場合にどう振る舞うべきかを設計したりするために役立ちます。
- 外部ライブラリ: より高度な誤差管理や数値計算機能が必要な場合の選択肢。
- 計算中の精度調整: 誤差の発生自体を最小限に抑えるための予防策。
- 許容誤差 (Epsilon): 実用的な比較が必要な場合に、丸め誤差を許容して判断する。
big.Rat
: 可能な限り正確な分数表現が必要な場合に最適。Acc()
の概念が不要になる。