big.Accuracy
math/big
パッケージは、Go言語で任意精度の数値(非常に大きな整数、正確な浮動小数点数、有理数)を扱うためのパッケージです。通常のint
やfloat64
では表現できない、桁数が非常に大きい数値や、浮動小数点計算で発生する誤差を避けたい場合に利用されます。
このmath/big
パッケージには、Accuracy
という型が定義されています。
Accuracy
型とは何か?
Accuracy
型は、math/big.Float
型(任意精度の浮動小数点数)の演算結果がどの程度の精度で計算されたかを示す列挙型(enum)です。具体的には以下の3つの値を取ります。
Above
: 演算結果が真の値よりも大きいことを示します。これは、丸めによって値が切り上げられたことを意味します。Below
: 演算結果が真の値よりも小さいことを示します。これは、丸めによって値が切り捨てられたことを意味します。Exact
: 演算結果が正確であることを示します。つまり、丸め誤差が発生していない状態です。例えば、1.0 + 2.0
のような正確に表現できる浮動小数点数の加算結果などです。
なぜAccuracy
が必要なのか?
浮動小数点数の計算では、無限小数を有限の桁数で表現するため、常に丸め誤差が発生する可能性があります。特に、math/big.Float
のような任意精度の浮動小数点数であっても、指定された精度(prec
)に丸める必要があります。
Accuracy
型は、この丸め処理がどのように行われたか、そしてその結果が真の値に対してどのような関係にあるかを知るために使用されます。これにより、計算結果の信頼性を判断したり、必要に応じて追加の処理を行ったりすることができます。
使用例
例えば、big.Float
の除算を行う際に、Quo
メソッドは結果の*big.Float
とAccuracy
を返します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
a := big.NewFloat(1.0)
b := big.NewFloat(3.0)
// 精度を20ビットに設定
c := new(big.Float).SetPrec(20)
// 除算を実行し、精度を取得
c.Quo(a, b) // c = 1.0 / 3.0
fmt.Printf("c = %s (accuracy: %s)\n", c.String(), c.Acc())
// 別の例
x := big.NewFloat(10.0)
y := big.NewFloat(2.0)
z := new(big.Float).SetPrec(53) // float64の標準精度
z.Quo(x, y) // z = 10.0 / 2.0
fmt.Printf("z = %s (accuracy: %s)\n", z.String(), z.Acc())
}
上記のコードを実行すると、以下のような出力が得られるでしょう(具体的な出力はGoのバージョンや環境によって異なる場合がありますが、概念は同じです)。
c = 0.33333333333333331482 (accuracy: Below)
z = 5.0 (accuracy: Exact)
最初の例では1.0 / 3.0
は無限小数になるため、指定された精度(20ビット)で丸められ、真の値より小さくなるのでBelow
が返されます。
2番目の例では10.0 / 2.0
は正確に5.0
と表現できるため、Exact
が返されます。
big.Accuracy
に関連する一般的なエラーと落とし穴
-
- エラーの状況
big.Float
を使えば常に完全に正確な結果が得られると誤解し、Accuracy
がExact
でない場合に「バグだ」と考えることがあります。 - なぜ起こるか
big.Float
は任意精度ですが、無限の精度ではありません。特に1/3
のような循環小数や、sqrt(2)のような無理数は、どのような浮動小数点表現(二進数であろうと十進数であろうと)でも有限の桁数では正確に表現できません。これらの場合、指定された精度で丸めが行われ、Accuracy
はBelow
またはAbove
になります。 - トラブルシューティング
Accuracy
がExact
でないのは、数学的に正確に表現できない数値である可能性が高いことを理解してください。- 計算結果が必要な精度を満たしているか(例えば、誤差が許容範囲内か)を確認するために
Accuracy
を使用し、Exact
であることだけを期待しないようにします。 - 必要な精度を設定する(
SetPrec
)ことで、計算結果の有効桁数を制御できます。精度を上げればより正確な結果が得られますが、計算コストも上がります。
- エラーの状況
-
float64
からの変換時の精度損失- エラーの状況
float64
型の値をbig.Float
に変換した際、big.Float.Acc()
がExact
にならない、あるいは期待した値にならないことがあります。 - なぜ起こるか
float64
はIEEE 754倍精度浮動小数点数であり、約15〜17桁の10進数の精度しか持ちません。例えば0.1
はfloat64
では正確に表現できず、ごくわずかな誤差を含んでいます。この誤差を含んだfloat64
をbig.Float
に変換すると、その誤差がbig.Float
にそのまま引き継がれます。 - トラブルシューティング
- 文字列からの初期化を検討する
可能であれば、float64
を介さずに、数値の文字列表現からbig.Float
を初期化します。big.NewFloat(0.1)
ではなく、new(big.Float).SetString("0.1")
を使用することで、元の10進数表現の正確性を保つことができます。 - float64の限界を理解する
float64
は二進数で数を表現するため、多くの10進数が正確に表現できないという根本的な制約があります。この制約を理解し、必要に応じてbig.Float
の文字列初期化を優先してください。
- 文字列からの初期化を検討する
- エラーの状況
-
比較演算での
Accuracy
の見落とし- エラーの状況
big.Float
の比較(例:Cmp()
メソッド)を行う際に、Accuracy
を考慮せずに比較結果を判断してしまうことがあります。 - なぜ起こるか
例えば、x
が0.3333
でAccuracy: Below
、y
が1/3
を厳密に表現できない状態で0.3334
でAccuracy: Above
である場合、数学的にはx < y
が真かもしれませんが、有限精度での比較では等しいと見なされる可能性があります。あるいは、非常に近い2つの値が、丸め方向によって比較結果が変わることもあります。 - トラブルシューティング
- 許容誤差(epsilon)を設けた比較
big.Float
同士を厳密に比較するのではなく、ある程度の許容誤差を設けて比較することが一般的です。func isEqual(f1, f2 *big.Float, epsilon *big.Float) bool { diff := new(big.Float).Abs(new(big.Float).Sub(f1, f2)) return diff.Cmp(epsilon) < 0 // diff < epsilon }
- AccuracyとCmpの組み合わせ
Accuracy
がExact
でない場合、その値が真の値よりも大きいか小さいかを把握し、それに基づいて比較結果をより慎重に解釈します。
- 許容誤差(epsilon)を設けた比較
- エラーの状況
-
Accuracy
のチェック漏れ- エラーの状況
big.Float
の演算結果として返されるAccuracy
の値を無視し、その結果が常に期待通りであると仮定してしまうことです。 - なぜ起こるか
コードが単純な場合や、デバッグ時にAccuracy
の値を確認し忘れることがあります。 - トラブルシューティング
- エラーハンドリングと同様にAccuracyをチェックする
big.Float
の計算を行うメソッドは、しばしばAccuracy
を返します(例:Quo
,Sqrt
など)。これらの返り値を適切に受け取り、必要に応じてログ出力やエラー処理を行います。result, acc := new(big.Float).Quo(dividend, divisor).Acc() if acc != big.Exact { fmt.Printf("Warning: Division result is not exact. Accuracy: %s\n", acc) }
- テストでAccuracyを確認する
重要な計算については、単体テストでAccuracy
の値もアサートすることで、予期せぬ丸めが発生していないかを確認できます。
- エラーハンドリングと同様にAccuracyをチェックする
- エラーの状況
- ドキュメントの参照
math/big
パッケージの公式ドキュメント (go doc math/big
) は非常に詳細です。各メソッドの動作や返されるAccuracy
の条件などを確認することで、多くの疑問が解決します。 - 文字列表現の活用
big.Float
の値をデバッグする際や、正確な値で初期化する際には、String()
メソッドで取得した文字列表現や、SetString()
メソッドが非常に役立ちます。fmt.Printf("%s\n", f.String())
のように出力して、実際に保持されている値を確認しましょう。 - 精度の設定(SetPrec)
big.Float
の精度はビット数で指定されます。デフォルトはfloat64
と同じ53ビットです。より高い精度が必要な場合は、SetPrec
で明示的に指定する必要があります。しかし、精度を上げすぎるとメモリ消費と計算時間が大幅に増加することにも注意が必要です。 - 丸めモード(RoundingMode)の理解
big.Float
は丸めモードを設定できます(SetMode
)。デフォルトはToNearestEven
(最も近い偶数への丸め)ですが、ToZero
(ゼロ方向への切り捨て)、AwayFromZero
(ゼロから遠ざかる方向への切り上げ)など、他のモードもあります。計算結果が期待と異なる場合は、丸めモードの影響を考慮してください。
例1: 基本的な演算におけるAccuracy
の確認
この例では、正確に表現できる数とできない数の除算を行い、それぞれのAccuracy
を確認します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("--- 例1: 基本的な演算におけるAccuracyの確認 ---")
// 1. 正確に表現できる除算 (10 / 2)
fmt.Println("\n--- 10 / 2 ---")
f1_num := big.NewFloat(10.0)
f1_den := big.NewFloat(2.0)
f1_res := new(big.Float)
f1_res.SetPrec(64) // 精度を少し高めに設定
f1_res.Quo(f1_num, f1_den)
fmt.Printf("結果: %s\n", f1_res.String())
fmt.Printf("Accuracy: %s\n", f1_res.Acc()) // Exact が期待される
// 2. 正確に表現できない除算 (1 / 3)
fmt.Println("\n--- 1 / 3 ---")
f2_num := big.NewFloat(1.0)
f2_den := big.NewFloat(3.0)
f2_res := new(big.Float)
f2_res.SetPrec(64) // 精度を少し高めに設定
f2_res.Quo(f2_num, f2_den)
fmt.Printf("結果: %s\n", f2_res.String())
fmt.Printf("Accuracy: %s\n", f2_res.Acc()) // Below または Above が期待される (丸めによる)
// 3. 浮動小数点数における正確な値の確認 (0.5 + 0.25)
fmt.Println("\n--- 0.5 + 0.25 ---")
f3_a := big.NewFloat(0.5)
f3_b := big.NewFloat(0.25)
f3_res := new(big.Float).SetPrec(64)
f3_res.Add(f3_a, f3_b)
fmt.Printf("結果: %s\n", f3_res.String())
fmt.Printf("Accuracy: %s\n", f3_res.Acc()) // Exact が期待される
}
実行結果の解説
0.5 + 0.25
:0.75
は二進数で正確に表現できるため、Accuracy
はExact
になります。1 / 3
: 無限小数であるため、指定された精度で丸めが行われます。結果として、Accuracy
はBelow
(切り捨て)またはAbove
(切り上げ)のいずれかになります。Below
が出力されることが一般的です。10 / 2
:5.0
と正確に表現できるため、Accuracy
はExact
になります。
例2: float64
からの変換とAccuracy
float64
は二進数浮動小数点数であるため、多くの10進数が正確に表現できません。この例ではその影響を確認します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- 例2: float64からの変換とAccuracy ---")
// 1. float64で正確に表現できない0.1をbig.Floatに変換
fmt.Println("\n--- big.NewFloat(0.1) ---")
f_from_float64 := big.NewFloat(0.1)
fmt.Printf("結果: %s\n", f_from_float64.String())
fmt.Printf("Accuracy: %s\n", f_from_float64.Acc()) // Below または Above が期待される (float64の誤差を引き継ぐ)
// 2. 文字列から0.1をbig.Floatに変換
fmt.Println("\n--- new(big.Float).SetString(\"0.1\") ---")
f_from_string := new(big.Float)
_, exact := f_from_string.SetString("0.1") // SetStringは変換が正確だったかを示すboolを返す
fmt.Printf("結果: %s\n", f_from_string.String())
fmt.Printf("Accuracy: %s\n", f_from_string.Acc()) // Exact が期待される
fmt.Printf("SetStringがExactだったか: %t\n", exact)
}
実行結果の解説
new(big.Float).SetString("0.1")
: 文字列から直接初期化することで、0.1
を正確な形でbig.Float
に格納できます。この場合、Accuracy
はExact
になり、SetString
が返すexact
もtrue
になります。big.NewFloat(0.1)
:0.1
はfloat64
では正確に表現できないため、内部的に最も近いfloat64
値に丸められた状態でbig.Float
に設定されます。このため、Accuracy
はBelow
またはAbove
になります。
ポイント
可能な限り、float64
を介さずに文字列からbig.Float
を初期化することが、精度を保つ上で推奨されます。
計算結果のAccuracy
をチェックし、必要に応じて警告メッセージを表示する例です。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- 例3: Accuracyを用いたエラー(警告)ハンドリング ---")
// 計算結果とAccuracyを返す関数
doDivision := func(numerator, denominator *big.Float, prec uint) (*big.Float, big.Accuracy) {
res := new(big.Float).SetPrec(prec)
res.Quo(numerator, denominator)
return res, res.Acc()
}
// 1. 割り切れる計算
num1 := big.NewFloat(15.0)
den1 := big.NewFloat(3.0)
result1, acc1 := doDivision(num1, den1, 64)
fmt.Printf("\n%s / %s (精度%dビット):\n", num1.String(), den1.String(), 64)
fmt.Printf("結果: %s, Accuracy: %s\n", result1.String(), acc1)
if acc1 != big.Exact {
fmt.Printf("警告: 計算結果は正確ではありませんでした。\n")
} else {
fmt.Printf("情報: 計算結果は正確でした。\n")
}
// 2. 割り切れない計算 (円周率の近似)
num2 := big.NewFloat(22.0)
den2 := big.NewFloat(7.0) // 22/7 はπの近似値
result2, acc2 := doDivision(num2, den2, 64)
fmt.Printf("\n%s / %s (精度%dビット):\n", num2.String(), den2.String(), 64)
fmt.Printf("結果: %s, Accuracy: %s\n", result2.String(), acc2)
if acc2 != big.Exact {
fmt.Printf("警告: 計算結果は正確ではありませんでした。\n")
} else {
fmt.Printf("情報: 計算結果は正確でした。\n")
}
// 3. 別の割り切れない計算 (1/7) - 低い精度で
num3 := big.NewFloat(1.0)
den3 := big.NewFloat(7.0)
result3, acc3 := doDivision(num3, den3, 20) // 精度を低く設定
fmt.Printf("\n%s / %s (精度%dビット):\n", num3.String(), den3.String(), 20)
fmt.Printf("結果: %s, Accuracy: %s\n", result3.String(), acc3)
if acc3 != big.Exact {
fmt.Printf("警告: 計算結果は正確ではありませんでした。\n")
} else {
fmt.Printf("情報: 計算結果は正確でした。\n")
}
}
実行結果の解説
1 / 7
(低精度): 同様に無限小数であり、さらに低い精度で計算しているため、Accuracy
はBelow
またはAbove
となり、「計算結果は正確ではありませんでした」と表示されます。22 / 7
: この分数も無限小数になるため、Accuracy
はBelow
またはAbove
となり、「計算結果は正確ではありませんでした」と表示されます。15 / 3
: 結果は5.0
であり正確なので、Accuracy
はExact
となり、「計算結果は正確でした」と表示されます。
ポイント
Accuracy
をチェックすることで、ユーザーやログに対して、計算結果が数学的に正確であるか、あるいは丸められた近似値であるかを伝えることができます。これは、金融計算や科学技術計算など、高い精度が求められるアプリケーションで特に重要です。
Accuracy
が非常に有用である一方で、プログラミングの状況によっては、Accuracy
を直接的に扱う代わりに、あるいはAccuracy
と組み合わせて、異なるアプローチで数値計算の精度を管理したり、誤差を評価したりする方法があります。
ここでは、big.Accuracy
に関連するプログラミングの代替方法や補完的な方法について説明します。
許容誤差(Epsilon)を用いた比較
これはAccuracy
そのものの代替というよりは、浮動小数点数の比較において最も一般的な方法です。Accuracy
は丸めの方向を示しますが、2つの浮動小数点数が「どれくらい近いか」は示しません。
方法
非常に小さい正の数(イプシロン、ϵ)を定義し、2つの数値の絶対差がこのイプシロンよりも小さい場合に、その2つの数値は「ほぼ等しい」と判断します。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
// AreFloatsApproximatelyEqual は2つのbig.Floatが指定されたepsilonの範囲内で等しいかを確認します。
func AreFloatsApproximatelyEqual(f1, f2, epsilon *big.Float) bool {
diff := new(big.Float).Abs(new(big.Float).Sub(f1, f2))
// diff < epsilon の場合、ほぼ等しいと見なす
return diff.Cmp(epsilon) < 0
}
func main() {
fmt.Println("--- 1. 許容誤差(Epsilon)を用いた比較 ---")
a := new(big.Float).SetString("0.3333333333333333") // 1/3 の近似値
b := new(big.Float).SetString("0.3333333333333334") // 1/3 の別の近似値
// 1/3 を正確に表現できない big.Float の場合
one := big.NewFloat(1.0)
three := big.NewFloat(3.0)
c := new(big.Float).SetPrec(64)
c.Quo(one, three) // 1/3 の計算
// 許容誤差を定義
epsilon := new(big.Float).SetString("0.0000000000000001") // 10^-16
fmt.Printf("a = %s, b = %s\n", a.String(), b.String())
fmt.Printf("c (1/3) = %s, Accuracy: %s\n", c.String(), c.Acc())
fmt.Printf("a と b はほぼ等しいか?: %t\n", AreFloatsApproximatelyEqual(a, b, epsilon)) // true が期待される
fmt.Printf("b と c はほぼ等しいか?: %t\n", AreFloatsApproximatelyEqual(b, c, epsilon)) // true が期待される (設定された精度による)
fmt.Printf("a と c はほぼ等しいか?: %t\n", AreFloatsApproximatelyEqual(a, c, epsilon)) // true が期待される (設定された精度による)
// 厳密な比較 (ほぼ等しいとは異なる)
fmt.Printf("a と b は厳密に等しいか?: %t\n", a.Cmp(b) == 0) // false
}
利点
Accuracy
がExact
でない場合でも、実用的な意味で等しいと判断できる。- 浮動小数点数の比較における標準的な方法であり、結果の「近さ」を数値で評価できる。
欠点
- 適切なϵの値を決定するのが難しい場合がある。計算のスケールによってϵの値を調整する必要がある。
相対誤差を用いた比較
絶対誤差(Abs(f1 - f2)
)が常に適切とは限りません。非常に大きな数値では絶対誤差が大きくても相対的に小さい場合がありますし、非常に小さな数値では絶対誤差が小さくても相対的に大きい場合があります。
方法
2つの数値の差を、いずれかの数値(通常は大きい方)で割って、相対的な差を評価します。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
// AreFloatsRelativelyEqual は2つのbig.Floatが指定されたrelativeEpsilonの範囲内で相対的に等しいかを確認します。
func AreFloatsRelativelyEqual(f1, f2, relativeEpsilon *big.Float) bool {
zero := big.NewFloat(0.0)
if f1.Cmp(zero) == 0 && f2.Cmp(zero) == 0 {
return true // 両方ゼロなら等しい
}
absDiff := new(big.Float).Abs(new(big.Float).Sub(f1, f2))
maxAbs := new(big.Float).Abs(f1)
if maxAbs.Cmp(new(big.Float).Abs(f2)) < 0 {
maxAbs.Abs(f2)
}
// maxAbs がゼロに近い場合のエラーを避ける
if maxAbs.Cmp(zero) == 0 {
return absDiff.Cmp(zero) == 0 // 両方ゼロの場合のみ
}
relativeDiff := new(big.Float).Quo(absDiff, maxAbs)
return relativeDiff.Cmp(relativeEpsilon) < 0
}
func main() {
fmt.Println("\n--- 2. 相対誤差を用いた比較 ---")
a := new(big.Float).SetString("1000000000000000.1")
b := new(big.Float).SetString("1000000000000000.2")
c := new(big.Float).SetString("0.0000000000000001")
d := new(big.Float).SetString("0.0000000000000002")
relativeEpsilon := new(big.Float).SetString("1e-15") // 0.000000000000001
fmt.Printf("a = %s, b = %s\n", a.String(), b.String())
fmt.Printf("a と b は相対的に等しいか? (epsilon %s): %t\n", relativeEpsilon.String(), AreFloatsRelativelyEqual(a, b, relativeEpsilon))
fmt.Printf("c = %s, d = %s\n", c.String(), d.String())
fmt.Printf("c と d は相対的に等しいか? (epsilon %s): %t\n", relativeEpsilon.String(), AreFloatsRelativelyEqual(c, d, relativeEpsilon))
}
利点
- 科学技術計算などで、誤差の「割合」が重要な場合に有用。
- 桁数が大きく異なる数値の比較に適している。
欠点
relativeEpsilon
の適切な設定が依然として課題。- ゼロに近い数値の比較では特殊なハンドリングが必要(ゼロ除算を避ける)。
計算パスの制御と丸めモードの活用
Accuracy
は丸めの結果を示しますが、丸め自体をどのように制御するかはAccuracy
の代替ではなく、Accuracy
に影響を与える要因です。
方法
big.Float
のSetPrec
メソッドで精度(ビット数)を設定し、SetMode
で丸めモード(例: ToNearestEven
, ToZero
, AwayFromZero
, Ceil
, Floor
)を設定します。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- 3. 計算パスの制御と丸めモードの活用 ---")
one := big.NewFloat(1.0)
three := big.NewFloat(3.0)
// デフォルトの丸め (ToNearestEven)
fmt.Println("\n--- デフォルト (ToNearestEven) ---")
f1 := new(big.Float).SetPrec(10) // 低い精度で
f1.Quo(one, three)
fmt.Printf("1/3 (Prec 10, ToNearestEven): %s, Acc: %s\n", f1.String(), f1.Acc())
// 切り捨て (ToZero)
fmt.Println("\n--- 切り捨て (ToZero) ---")
f2 := new(big.Float).SetPrec(10).SetMode(big.ToZero)
f2.Quo(one, three)
fmt.Printf("1/3 (Prec 10, ToZero): %s, Acc: %s\n", f2.String(), f2.Acc())
// 切り上げ (AwayFromZero)
fmt.Println("\n--- 切り上げ (AwayFromZero) ---")
f3 := new(big.Float).SetPrec(10).SetMode(big.AwayFromZero)
f3.Quo(one, three)
fmt.Printf("1/3 (Prec 10, AwayFromZero): %s, Acc: %s\n", f3.String(), f3.Acc())
}
利点
- 特定の数学的、金融的な要件(例: 常に切り下げ/切り上げを行う)を満たすことができる。
- 計算結果の丸め方を明示的に制御できる。
欠点
Accuracy
とは異なる概念であり、丸めの結果としてのAccuracy
は引き続き重要。- 丸めモードの選択は、計算の性質と要件に深く依存し、誤った選択は結果の精度に悪影響を与える可能性がある。
浮動小数点数(big.Float
)では正確に表現できない分数(例: 1/3, 1/7)を、有理数(分子と分母の整数ペア)として扱うことで、無限小数による丸め誤差を完全に回避できます。
方法
math/big.Rat
型を使用します。
コード例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fmt.Println("\n--- 4. 有理数(*big.Rat)の使用 ---")
// 1/3 を有理数で表現
r1 := big.NewRat(1, 3)
fmt.Printf("1/3 (Rat): %s\n", r1.String())
// 1/7 を有理数で表現
r2 := big.NewRat(1, 7)
fmt.Printf("1/7 (Rat): %s\n", r2.String())
// 有理数の加算 (1/3 + 1/7)
rSum := new(big.Rat).Add(r1, r2) // (7+3)/21 = 10/21
fmt.Printf("1/3 + 1/7 (Rat): %s\n", rSum.String())
// 有理数を浮動小数点数に変換する際の精度制御
fmt.Println("\n--- 有理数をFloatに変換 ---")
fFromRat := new(big.Float).SetPrec(64).SetRat(rSum) // 10/21 を Float に変換
fmt.Printf("10/21 (Float, Prec 64): %s, Acc: %s\n", fFromRat.String(), fFromRat.Acc())
fFromRatLowPrec := new(big.Float).SetPrec(20).SetRat(rSum) // 10/21 を Float に変換 (低精度)
fmt.Printf("10/21 (Float, Prec 20): %s, Acc: %s\n", fFromRatLowPrec.String(), fFromRatLowPrec.Acc())
}
利点
Accuracy
の概念自体が不要になる(有理数同士の計算では丸めが発生しないため)。- 分数として正確に表現できる数値については、完全に誤差なしで計算できる。
欠点
- 分子・分母が非常に大きくなる可能性があり、メモリ消費が増える場合がある。
- 演算によっては(例: 平方根)、
big.Rat
では直接表現できない場合がある。 - 無理数(π, 2​など)は有理数で正確に表現できないため、最終的には
big.Float
への変換や近似が必要になる。
big.Accuracy
は、big.Float
の演算によって発生する丸め誤差の方向を示す非常に直接的な情報です。これは、計算結果の信頼性を評価する上で不可欠なツールです。
しかし、プログラミングの文脈によっては、Accuracy
を直接チェックするだけでなく、上記のような代替または補完的なアプローチを組み合わせることで、より堅牢で目的に合った数値計算ロジックを構築できます。
- 丸めの挙動を制御したい場合
big.Float
のSetPrec
とSetMode
。 - 数学的に正確な分数を扱いたい場合
big.Rat
の使用。 - 「どれくらい近いか」を評価したい場合
許容誤差(絶対誤差または相対誤差)を用いた比較。