Go言語 big.Float.Scan()徹底解説:高精度浮動小数点の読み込みをマスター
big.Float.Scan()
は、fmt.Scanner
インターフェースを実装しているため、Go言語のfmt
パッケージ(fmt.Scan
、fmt.Sscan
、fmt.Fscan
など)を使って文字列からbig.Float
の値を読み込む際に内部的に呼び出されるメソッドです。
Goの組み込みのfloat64
型は、倍精度浮動小数点数を扱いますが、精度には限界があります。math/big
パッケージは、任意精度の算術演算を提供し、big.Float
型は非常に大きな、または非常に小さな浮動小数点数を高い精度で扱うために使用されます。
big.Float.Scan()
の主な目的は、テキスト形式で表現された浮動小数点数を解析し、それをbig.Float
の内部表現に変換することです。これにより、ユーザーが入力した文字列やファイルから読み込んだデータを、高精度な浮動小数点数としてプログラム内で利用できるようになります。
具体的な動作
big.Float.Scan()
は、fmt
パッケージの関数によって呼び出されると、指定されたフォーマット動詞('b'
(2進数), 'e'
, 'E'
, 'f'
, 'F'
, 'g'
, 'G'
など)に基づいて入力ストリーム(文字列やio.Reader
)から浮動小数点数の値を読み込みます。
- エラーハンドリング
読み込み中に不正なフォーマットが見つかった場合や、数値として解釈できない文字があった場合はエラーを返します。 - 値の設定
読み込んだ値をbig.Float
レシーバーに設定します。この際、big.Float
の精度が設定されていない場合(ゼロの場合)、デフォルトで64ビットの精度が使用されます。 - フォーマットの解析
Scan()
は、標準的な浮動小数点数表記(例: "123.45", "1.23e-10", "0x1.FFFFFFFFFFFFFP1023" (16進浮動小数点数))を認識します。
直接的な使用は稀
big.Float.Scan()
は、開発者が直接呼び出すことは稀です。ほとんどの場合、以下のようにfmt.Sscan
やfmt.Scan
といったfmt
パッケージの関数を使用します。これらの関数が、引数に*big.Float
型が渡されたことを認識し、内部的にbig.Float.Scan()
を呼び出して処理を行います。
package main
import (
"fmt"
"log"
"math/big"
)
func main() {
// 文字列からbig.Floatをスキャンする例
f := new(big.Float) // 新しいbig.Floatを初期化 (デフォルト精度は64ビット)
inputString := "1.19282e99"
// fmt.Sscanを使用して文字列からfに値をスキャン
_, err := fmt.Sscan(inputString, f)
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値: %s (型: %T)\n", f.String(), f) // f.String() で文字列に変換して表示
fmt.Println("\n--- 異なるフォーマットの例 ---")
// 非常に大きな数をスキャン
f2 := new(big.Float)
inputString2 := "12345678901234567890.12345678901234567890e+50"
_, err = fmt.Sscan(inputString2, f2)
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値 (大きな数): %s\n", f2.String())
// 負の数をスキャン
f3 := new(big.Float)
inputString3 := "-0.0000000000000000000000000000000000000000000000000123"
_, err = fmt.Sscan(inputString3, f3)
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値 (負の数): %s\n", f3.String())
// 精度を指定してスキャンする例
f4 := new(big.Float).SetPrec(256) // 256ビットの精度を設定
inputString4 := "3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286"
_, err = fmt.Sscan(inputString4, f4)
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値 (高精度): %s\n", f4.Text('f', 50)) // 浮動小数点形式で小数点以下50桁まで表示
}
big.Float.Scan()
に関連する一般的なエラーとトラブルシューティング
不正な入力フォーマット (Invalid Input Format)
エラーの状況
fmt.Sscan
やfmt.Scan
に渡された文字列が、有効な浮動小数点数として解析できない場合。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"log"
)
func main() {
f := new(big.Float)
input := "abc" // 無効な数値文字列
_, err := fmt.Sscan(input, f)
if err != nil {
fmt.Printf("エラーが発生しました: %v\n", err)
// 出力例: エラーが発生しました: %!f(MISSING): "abc" is not a valid floating-point number
}
}
トラブルシューティング
- エラーメッセージの確認
エラーメッセージは、どの部分が問題であるかを示唆していることが多いです。%!f(MISSING)
のようなメッセージは、期待される浮動小数点数フォーマットと一致しないことを意味します。 - 入力値の検証
Scan()
が呼び出される前に、入力文字列が期待される数値フォーマット(例: "123.45", "-1.2e+0", ".5", "INF", "NaN"など)に従っていることを確認します。正規表現などを用いて事前チェックを行うことも有効です。
ポインタの渡し忘れ (Forgetting to Pass a Pointer)
エラーの状況
fmt.Sscan
などのfmt
関数は、スキャン対象の変数へのポインタ(アドレス)を必要とします。big.Float
は構造体なので、ポインタを渡さないと値がスキャンされません。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"log"
)
func main() {
var f big.Float // ポインタではなく値として宣言
input := "123.45"
// ここでエラーは発生しないが、fの値は変更されない
// fmt.Sscanはfのコピーに対して操作を行い、そのコピーは関数終了時に破棄されるため
_, err := fmt.Sscan(input, f) // <<-- ここが問題
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値: %s (この値は通常ゼロです)\n", f.String())
// 出力例: スキャンされた値: 0 (この値は通常ゼロです)
}
トラブルシューティング
new(big.Float)
または&big.Float{}
を使ってbig.Float
のポインタを作成し、それをfmt.Sscan
に渡します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"log"
)
func main() {
f := new(big.Float) // 正しいポインタの渡し方
input := "123.45"
_, err := fmt.Sscan(input, f)
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値: %s\n", f.String())
// 出力例: スキャンされた値: 123.45
}
精度の問題 (Precision Issues)
エラーの状況
big.Float
は任意精度ですが、デフォルトの精度(new(big.Float)
で初期化した場合の53ビット、float64
相当)が、入力文字列のすべての桁を正確に表現するのに十分でない場合があります。これにより、スキャンされた値が元の文字列と完全に一致しないように見えることがあります。これはエラーというよりは、期待と異なる結果になるケースです。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
fDefault := new(big.Float) // デフォルト精度 (53ビット)
input := "0.123456789012345678901234567890" // 非常に長い小数
fmt.Sscan(input, fDefault)
// デフォルト精度では丸めが発生する可能性がある
fmt.Printf("デフォルト精度: %s\n", fDefault.Text('f', 30)) // 小数点以下30桁まで表示
fHighPrec := new(big.Float).SetPrec(256) // 高精度 (256ビット)
fmt.Sscan(input, fHighPrec)
// 高精度ではより正確に表現できる
fmt.Printf("高精度: %s\n", fHighPrec.Text('f', 30))
}
トラブルシューティング
- Text()メソッドでの表示
String()
メソッドは表示される桁数が限られる場合があるため、Text()
メソッドを使って表示する桁数を指定し、スキャンされた値の実際の精度を確認します。 - SetPrec()で精度を設定
big.Float
の変数を初期化する際、またはスキャンする前に、SetPrec()
メソッドを使用して必要な精度(ビット数)を明示的に設定します。これにより、丸め誤差を最小限に抑えることができます。
複数値のスキャン (Scanning Multiple Values)
エラーの状況
fmt.Sscan
などは、複数の値を同時にスキャンできます。入力文字列に複数の数値がスペースで区切られていたり、予期しない文字が混ざっていたりする場合、意図した通りのスキャンができないことがあります。
例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"log"
)
func main() {
f1 := new(big.Float)
f2 := new(big.Float)
input := "10.5 20.7"
n, err := fmt.Sscan(input, f1, f2)
if err != nil {
log.Fatalf("エラーが発生しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされた値の数: %d\n", n)
fmt.Printf("f1: %s, f2: %s\n", f1.String(), f2.String())
// 不正な入力の場合
f3 := new(big.Float)
inputInvalid := "30.1abc 40.2"
n2, err2 := fmt.Sscan(inputInvalid, f3)
if err2 != nil {
fmt.Printf("不正な入力のエラー: %v (スキャンされた数: %d)\n", err2, n2)
// 出力例: 不正な入力のエラー: %!f(MISSING): "abc 40.2" is not a valid floating-point number (スキャンされた数: 1)
}
}
トラブルシューティング
- 入力の分割
複雑な入力文字列の場合は、事前にstrings.Fields
などで文字列を分割し、個々の数値文字列をbig.Float.SetString()
で設定することを検討します。これにより、より細かい制御が可能になります。 - fmt.Sscanの戻り値を確認
fmt.Sscan
は、正常にスキャンされた引数の数とエラーを返します。この戻り値を確認することで、どこまでスキャンが進んだか、エラーが何であったかを把握できます。
big.ParseFloatの利用 (Using big.ParseFloat)
エラーの状況
fmt.Scan()
系の関数は汎用的なスキャンに便利ですが、big.Float
に特化したより詳細な解析を行いたい場合や、特定のエラー処理を行いたい場合には、math/big.ParseFloat
の方が適していることがあります。
例 (SetStringの代わりにParseFloatを使用)
package main
import (
"fmt"
"math/big"
"log"
)
func main() {
input := "1.2345e+100"
base := 10 // 10進数
prec := uint(128) // 128ビット精度
mode := big.ToNearestEven // 丸めモード
// ParseFloatを使って明示的に解析
f, _, err := big.ParseFloat(input, base, prec, mode)
if err != nil {
log.Fatalf("ParseFloatエラー: %v", err)
}
fmt.Printf("ParseFloatで解析された値: %s\n", f.String())
// 不正な入力の場合
inputInvalid := "not-a-number"
_, _, errInvalid := big.ParseFloat(inputInvalid, base, prec, mode)
if errInvalid != nil {
fmt.Printf("ParseFloatでの不正な入力エラー: %v\n", errInvalid)
// 出力例: ParseFloatでの不正な入力エラー: strconv.ParseFloat: parsing "not-a-number": invalid syntax
}
}
- 返り値の確認
ParseFloat
は、解析された*big.Float
、読み取られた文字数、およびエラーを返します。これらの情報を使って、より堅牢なエラーハンドリングを実装できます。 - より詳細な制御
big.ParseFloat
は、基数(base
)、精度(prec
)、丸めモード(mode
)を明示的に指定できるため、Scan()
よりもきめ細かい制御が可能です。特に、異なる基数(2進数、16進数など)の浮動小数点数を扱いたい場合に有用です。
- デバッグ出力
エラーが発生した場合、入力文字列とスキャンしようとしている変数の状態をfmt.Printf
などで出力し、何が問題なのかを特定します。 - 入力データの整形
スキャンする前に、入力データが期待されるフォーマットになっているかを確認・整形することが重要です。余分な空白、非数値文字、予期しない改行などを取り除きます。 - エラーチェックを怠らない
fmt.Sscan
やbig.ParseFloat
が返すerror
は必ずチェックし、エラーが発生した場合は適切に処理します。
big.Float.Scan()
メソッド自体は、fmt.Scanner
インターフェースを実装しており、fmt
パッケージがデータを読み取る際に利用します。そのため、通常は直接Scan()
メソッドを呼び出すことはありません。代わりに、fmt.Sscan
、fmt.Scanln
、fmt.Fscan
などの関数を使います。
例1: 基本的な文字列からのスキャン (fmt.Sscan
)
最も一般的な使い方です。文字列からbig.Float
の値を解析します。
package main
import (
"fmt"
"log"
"math/big"
)
func main() {
// big.Float変数を初期化
// new(big.Float) は、デフォルト精度(53ビット、float64相当)の
// big.Floatポインタを返します。
f := new(big.Float)
// スキャンする文字列
inputString := "12345678901234567890.12345678901234567890"
fmt.Printf("入力文字列: %s\n", inputString)
fmt.Printf("初期値 (f): %s\n", f.String()) // 初期値は通常0
// fmt.Sscan を使って文字列からfに値をスキャン
// fmt.Sscanは、成功した場合はスキャンしたアイテムの数とnilエラーを返します。
// エラーが発生した場合は、0とエラーオブジェクトを返します。
n, err := fmt.Sscan(inputString, f)
if err != nil {
log.Fatalf("値のスキャンに失敗しました: %v", err)
}
fmt.Printf("スキャンされたアイテム数: %d\n", n)
fmt.Printf("スキャン後の値 (f): %s\n", f.String())
fmt.Printf("スキャン後の値 (f) の型: %T\n", f)
// 注意: big.Floatのデフォルト精度が不足している場合、
// 入力文字列のすべての桁が保持されないことがあります。
// 次の例で精度について説明します。
}
解説
f.String()
:big.Float
の値を文字列として表示します。fmt.Sscan(inputString, f)
:inputString
から値を読み取り、f
に格納します。f
はポインタである必要があります。fmt.Sscan
は、f
がfmt.Scanner
インターフェースを実装していることを認識し、内部的にf.Scan()
を呼び出します。f := new(big.Float)
:big.Float
型の新しいゼロ値を指すポインタを作成します。
例2: 高精度でのスキャンと精度の設定 (SetPrec
)
big.Float
の最大の利点は任意精度です。デフォルト精度では足りない場合にSetPrec()
を使って精度を設定します。
package main
import (
"fmt"
"log"
"math/big"
)
func main() {
// スキャンする非常に長い小数
longDecimal := "0.12345678901234567890123456789012345678901234567890"
// 1. デフォルト精度 (float64相当の53ビット) でスキャン
fDefaultPrec := new(big.Float)
fmt.Sscan(longDecimal, fDefaultPrec)
// デフォルト精度では、桁が丸められる可能性があります。
fmt.Printf("入力: %s\n", longDecimal)
fmt.Printf("デフォルト精度 (%d bits): %s\n", fDefaultPrec.Prec(), fDefaultPrec.Text('f', 50)) // 50桁まで表示
// 2. 高精度 (例: 256ビット) でスキャン
// SetPrec(bits) で、big.Floatの精度をビット単位で設定します。
// 256ビットは一般的な float64 (53ビット) よりもはるかに高精度です。
fHighPrec := new(big.Float).SetPrec(256)
// スキャン前に精度を設定することが重要です。
_, err := fmt.Sscan(longDecimal, fHighPrec)
if err != nil {
log.Fatalf("高精度でのスキャンに失敗しました: %v", err)
}
// 高精度では、より多くの桁が保持されます。
fmt.Printf("高精度 (%d bits): %s\n", fHighPrec.Prec(), fHighPrec.Text('f', 50)) // 50桁まで表示
// 異なるフォーマットのスキャン
hexFloat := "0x1.fffffffffffffp1023" // 16進数浮動小数点数
fHex := new(big.Float).SetPrec(100) // 精度を設定
_, err = fmt.Sscan(hexFloat, fHex)
if err != nil {
log.Fatalf("16進数浮動小数点数のスキャンに失敗しました: %v", err)
}
fmt.Printf("16進数浮動小数点数 (%d bits): %s\n", fHex.Prec(), fHex.Text('g', 20)) // 一般的な形式で20桁まで表示
}
解説
f.Text('f', 50)
:big.Float
の値を文字列としてフォーマットします。'f'
は小数点形式、50
は小数点以下の桁数を示します。'g'
は必要に応じて指数表記を使用する一般的な形式です。fHighPrec := new(big.Float).SetPrec(256)
:new(big.Float)
でポインタを作成し、メソッドチェーンでSetPrec(256)
を呼び出して精度を256ビットに設定します。fDefaultPrec.Prec()
: 現在のbig.Float
の精度をビット単位で取得します。
例3: 標準入力からのスキャン (fmt.Scanln
)
ユーザーからの入力を受け取る場合など、標準入力からスキャンする例です。
package main
import (
"fmt"
"log"
"math/big"
)
func main() {
f := new(big.Float).SetPrec(100) // ある程度の精度を設定
fmt.Print("任意の浮動小数点数を入力してください: ")
// fmt.Scanln を使って標準入力からfに値をスキャン
// 入力は改行で終了します。
_, err := fmt.Scanln(f)
if err != nil {
log.Fatalf("入力のスキャンに失敗しました: %v", err)
}
fmt.Printf("入力された値: %s (精度: %d bits)\n", f.String(), f.Prec())
// 複数の値を一度にスキャンすることも可能
f2 := new(big.Float)
f3 := new(big.Float)
fmt.Print("スペース区切りで2つの浮動小数点数を入力してください: ")
_, err = fmt.Scanln(f2, f3) // 複数の引数を渡す
if err != nil {
log.Fatalf("複数の値のスキャンに失敗しました: %v", err)
}
fmt.Printf("入力された2つの値: %s と %s\n", f2.String(), f3.String())
}
実行時のインタラクション例
任意の浮動小数点数を入力してください: 123.456789012345678901234567890123456789
入力された値: 123.456789012345678901234567890123456789 (精度: 100 bits)
スペース区切りで2つの浮動小数点数を入力してください: 3.14159 2.71828
入力された2つの値: 3.14159 と 2.71828
例4: 不正な入力のハンドリング
Scan()
は、入力が期待されるフォーマットでない場合にエラーを返します。
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
f := new(big.Float)
// 不正な数値文字列
invalidInput := "hello world"
_, err := fmt.Sscan(invalidInput, f)
if err != nil {
fmt.Printf("エラー発生(不正な入力): %v\n", err)
// エラーメッセージの例: %!f(MISSING): "hello world" is not a valid floating-point number
} else {
fmt.Printf("成功(不正な入力はありえない): %s\n", f.String())
}
// 部分的に正しいが、その後に不正な文字がある場合
partiallyInvalidInput := "123.45abc"
_, err = fmt.Sscan(partiallyInvalidInput, f)
if err != nil {
fmt.Printf("エラー発生(部分的に不正な入力): %v\n", err)
// エラーメッセージの例: %!f(MISSING): "abc" is not a valid floating-point number
// big.Floatは123.45をパースしようとしますが、残りの"abc"でエラーになります。
} else {
fmt.Printf("成功(部分的に不正な入力はありえない): %s\n", f.String())
}
// NaN (Not a Number) と Inf (Infinity) のスキャン
fNaN := new(big.Float)
fmt.Sscan("NaN", fNaN)
fmt.Printf("スキャンされたNaN: %s\n", fNaN.String()) // "NaN"
fInf := new(big.Float)
fmt.Sscan("Inf", fInf) // または "+Inf", "-Inf"
fmt.Printf("スキャンされたInf: %s\n", fInf.String()) // "+Inf"
}
NaN
やInf
は、Goのbig.Float
でサポートされている特別な値であり、これらもScan()
で正しく解析されます。fmt.Sscan
は、解析できない文字列や途中で不正な文字が検出された場合にエラーを返します。
主な代替方法は以下の3つです。
big.Float.SetString(s string) (*Float, bool)
big.ParseFloat(s string, base int, prec uint, mode Mode) (*Float, int, error)
big.Float.SetInt(x *Int) *Float
/big.Float.SetRat(x *Rat) *Float
など (整数型や有理数型からの変換)
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
big.Float.SetString(s string) (*Float, bool)
これは、文字列からbig.Float
を生成する最も一般的で直接的な代替方法です。fmt.Sscan
が内部で使うこともありますが、開発者が明示的に呼び出すことができます。
特徴
big.Float.Scan()
と異なり、SetString
はfmt
パッケージのフォーマット動詞(%e
,%f
など)の概念を持ちません。単純に浮動小数点数として解析を試みます。- 精度は、レシーバーの
big.Float
が既に持っている精度(またはデフォルト精度)を使用します。 - 成功した場合はレシーバーのポインタと
true
を返します。失敗した場合はnil
とfalse
を返します。 - 指定された文字列
s
を解析し、その値をレシーバーのbig.Float
に設定します。
使用例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
// 1. 基本的な使用法
f1 := new(big.Float) // デフォルト精度 (53ビット)
input1 := "123.4567890123456789"
f1, ok1 := f1.SetString(input1)
if !ok1 {
fmt.Printf("エラー: %s を SetString できませんでした。\n", input1)
return
}
fmt.Printf("SetString (デフォルト精度): %s\n", f1.Text('f', 20))
// 2. 精度を設定してからSetString
f2 := new(big.Float).SetPrec(256) // 256ビットの精度を設定
input2 := "0.12345678901234567890123456789012345678901234567890"
f2, ok2 := f2.SetString(input2)
if !ok2 {
fmt.Printf("エラー: %s を SetString できませんでした。\n", input2)
return
}
fmt.Printf("SetString (高精度): %s\n", f2.Text('f', 50))
// 3. 不正な入力
f3 := new(big.Float)
input3 := "invalid-number"
f3, ok3 := f3.SetString(input3)
if !ok3 {
fmt.Printf("エラー: '%s' は有効な数値ではありません。\n", input3)
// f3 の値は変更されず、通常はゼロのまま
fmt.Printf("f3 の現在の値: %s\n", f3.String())
}
}
big.Float.Scan()との比較
SetString
は、fmt
パッケージを介さないため、fmt.Scan
のような複数の値を一度に読み取るような汎用的な機能は提供しません。単一の文字列を単一のbig.Float
に変換するのに適しています。SetString
は成功/失敗をbool
で返すため、より直接的なエラーハンドリングが可能です。Scan()
はerror
オブジェクトを返します。
big.ParseFloat(s string, base int, prec uint, mode Mode) (*Float, int, error)
この関数は、文字列からbig.Float
を生成する最も詳細な制御を提供するメソッドです。
特徴
- 成功した場合は
*big.Float
、読み取った文字数、nil
エラーを返します。失敗した場合はnil
、0
、error
を返します。 mode
: 丸めモード(big.ToNearestEven
,big.ToZero
,big.AwayFromZero
,big.ToNegativeInf
,big.ToPositiveInf
)。prec
:big.Float
に設定するビット精度。base
: 数値の基数(0
、2
、10
、16
)。0
を指定すると、通常のGoの数値リテラル(0x
なら16進数、0
始まりなら8進数、それ以外は10進数)と同様に自動的に基数を推測します。s
: 解析する文字列。
使用例
package main
import (
"fmt"
"log"
"math/big"
)
func main() {
// 1. 10進数での基本的な解析
input1 := "1234.56789"
prec1 := uint(100) // 100ビット精度
f1, consumed1, err1 := big.ParseFloat(input1, 10, prec1, big.ToNearestEven)
if err1 != nil {
log.Fatalf("ParseFloatエラー: %v", err1)
}
fmt.Printf("ParseFloat (10進数): %s (精度: %d bits, 消費文字数: %d)\n", f1.String(), f1.Prec(), consumed1)
// 2. 16進数浮動小数点数の解析
// 例: 0x1.FFFFFFFFFFFFFP1023 (float64の最大値)
input2 := "0x1.fffffffffffffp1023"
prec2 := uint(64) // float64相当の精度
f2, consumed2, err2 := big.ParseFloat(input2, 0, prec2, big.ToNearestEven) // base=0 で自動検出
if err2 != nil {
log.Fatalf("ParseFloatエラー (16進数): %v", err2)
}
fmt.Printf("ParseFloat (16進数): %s (精度: %d bits, 消費文字数: %d)\n", f2.String(), f2.Prec(), consumed2)
// 3. 不正な入力とそのエラーハンドリング
input3 := "123.abc"
_, consumed3, err3 := big.ParseFloat(input3, 10, 64, big.ToNearestEven)
if err3 != nil {
fmt.Printf("ParseFloatエラー (不正な入力): %v (消費文字数: %d)\n", err3, consumed3)
}
// エラーは通常、strconv.ParseFloatが返すものと似ています。
// 例: strconv.ParseFloat: parsing "123.abc": invalid syntax
// 4. 文字列の途中で止める場合 (例: "123.45end")
input4 := "3.14159end"
prec4 := uint(64)
f4, consumed4, err4 := big.ParseFloat(input4, 10, prec4, big.ToNearestEven)
if err4 != nil {
// ここではエラーにならない(3.14159 までが有効なため)
log.Fatalf("ParseFloatエラー (部分的な解析): %v", err4)
}
fmt.Printf("ParseFloat (部分解析): %s (消費文字数: %d)\n", f4.String(), consumed4)
}
big.Float.Scan()との比較
Scan()
はfmt
パッケージの汎用スキャン機能の一部ですが、ParseFloat
はbig.Float
に特化した強力なパーサーです。- エラー処理がより詳細で、どのくらいの文字が消費されたかを知ることができます。
ParseFloat
は最も強力で柔軟な方法です。基数、精度、丸めモードを明示的に指定できます。
big.Float.SetInt(x *Int) *Float / big.Float.SetRat(x *Rat) *Float など
これらのメソッドは、math/big
パッケージ内の他の型(*big.Int
や*big.Rat
)からbig.Float
を生成する場合に使用します。文字列からの直接変換ではありませんが、数値データのソースがこれらの型である場合に有効な代替手段です。
特徴
- これらのメソッドは、変換元の型の精度を失うことなく
big.Float
に設定します。 SetRat
:big.Rat
(有理数、分数)の値をbig.Float
に変換します。SetInt
:big.Int
の値をbig.Float
に変換します。
使用例
package main
import (
"fmt"
"math/big"
)
func main() {
// 1. big.Int から big.Float へ変換
i := new(big.Int)
i.SetString("123456789012345678901234567890", 10) // 10進数で大きな整数を設定
fInt := new(big.Float).SetPrec(100) // 変換先の精度を設定
fInt.SetInt(i) // big.Int の値を big.Float に設定
fmt.Printf("SetInt から: %s (元のInt: %s)\n", fInt.String(), i.String())
// 2. big.Rat から big.Float へ変換
// 例: 1/3
r := new(big.Rat)
r.SetString("1/3") // 有理数を設定
fRat := new(big.Float).SetPrec(100) // 変換先の精度を設定
fRat.SetRat(r) // big.Rat の値を big.Float に設定
// 1/3 は無限小数なので、精度によって表示が変わります。
fmt.Printf("SetRat から: %s (元のRat: %s)\n", fRat.Text('f', 30), r.String()) // 小数点以下30桁で表示
// 3. float64 から big.Float へ変換
// この方法もよく使われますが、float64の精度限界があることに注意
f64Val := 0.12345678901234567 // float64は精度に限界がある
fFromF64 := new(big.Float).SetFloat64(f64Val)
fmt.Printf("SetFloat64 から: %s (元のfloat64: %f)\n", fFromF64.Text('f', 20), f64Val)
}
- データのソースが既にGoの数値型(特に
math/big
の型)である場合に非常に効率的です。 - これらのメソッドは、文字列解析ではなく、他の数値型からの変換に特化しています。
-
big.Intやbig.Ratなど、他のmath/bigの型から変換したい
big.Float.SetInt()
,big.Float.SetRat()
など -
文字列からの解析で、基数、精度、丸めモードを細かく制御したい
big.ParseFloat()
(最も強力で柔軟な方法) -
文字列から直接big.Floatを生成したい、エラーチェックもしたい
big.Float.SetString()
(最も一般的で推奨される代替方法) -
手軽に文字列からスキャンしたい、汎用的な入力処理をしたい
fmt.Sscan()
,fmt.Scanln()
,fmt.Fscan()
(big.Float.Scan()
を介する)