パフォーマンスと精度を両立!Go言語 big.Float.Prec()活用プログラミング例

2025-06-01

big.Float.Prec()は、そのFloat型の値が現在保持している仮数部(mantissa)の精度をビット単位で返します

浮動小数点数は通常、「符号」「仮数部」「指数部」の3つの要素で表現されます。big.Floatは、Goの組み込みのfloat32float64とは異なり、任意の精度(多倍長浮動小数点数)を扱うことができます。この「任意の精度」を決定するのが、この仮数部のビット数です。

もう少し詳しく説明します。

  • 精度 (Precision): big.Floatにおける精度は、仮数部を表現するために使われるビット数です。このビット数が多いほど、より多くの有効数字を正確に表現でき、計算結果の丸め誤差が少なくなります。
  • 指数部 (Exponent): 仮数部をどのくらいスケーリングするかを示す部分です。上記の例では、102 の 2 が指数部に相当します。
  • 仮数部 (Mantissa): 浮動小数点数の有効数字の部分です。例えば、123.45 という数を科学的表記で 1.2345×102 と表す場合、1.2345 が仮数部に相当します。big.Floatでは、この仮数部をバイナリ(2進数)で表現し、そのビット数が精度となります。

Prec()メソッドの挙動

  • 一般的に、big.Floatの精度は、値を設定する際にSetPrec()メソッドで指定するか、あるいはNewFloat()SetString()などのメソッドがデフォルトの精度(通常は64ビット)を使用することで設定されます。
  • このメソッドは、zの仮数部が現在設定されているビット数をuint型で返します。
  • z.Prec()のように呼び出され、z*big.Float型の値であるとします。

なぜこの精度が重要なのか?

big.Floatは、通常のfloat64(倍精度浮動小数点数)では精度が足りないような、非常に高い精度が要求される計算(例:金融計算、科学技術計算)で使用されます。Prec()メソッドを使って現在の精度を確認することで、意図した通りの精度で計算が行われているかを確認したり、必要に応じてSetPrec()で精度を変更したりする際に役立ちます。

package main

import (
	"fmt"
	"math/big"
)

func main() {
	// 新しいbig.Floatをデフォルトの精度(通常53ビット、float64と同じ)で作成
	f1 := big.NewFloat(0.1234567890123456789)
	fmt.Printf("f1の精度: %dビット\n", f1.Prec()) // f1の精度: 53ビット (またはそれに近い値)

	// 100ビットの精度で新しいbig.Floatを作成
	f2 := new(big.Float).SetPrec(100).SetFloat64(0.1234567890123456789)
	fmt.Printf("f2の精度: %dビット\n", f2.Prec()) // f2の精度: 100ビット

	// 文字列から値を設定し、精度を明示的に指定しない場合
	// SetStringは、zの精度が0の場合、64ビットに変更します。
	f3 := new(big.Float)
	f3.SetString("1.2345678901234567890123456789")
	fmt.Printf("f3の精度: %dビット\n", f3.Prec()) // f3の精度: 64ビット
}


意図しない精度の低下(Precision Loss)

よくあるエラー

  • デフォルトの精度での計算
    big.NewFloat(0)new(big.Float)で初期化し、明示的にSetPrec()を呼び出さない場合、デフォルトの精度(通常64ビット、SetFloat64由来の場合は53ビット)が使われます。その後、高精度な計算を期待しても、初期の精度が低いために計算全体がその精度に制限されることがあります。
    f := new(big.Float) // デフォルトの精度 (64ビット)
    f.SetString("1.0000000000000000000000000001") // 25桁の精度が必要
    fmt.Printf("精度: %d, 値: %.30f\n", f.Prec(), f)
    // 出力例: 精度: 64, 値: 1.00000000000000000000000000010000
    // 文字列から設定した場合、デフォルトの精度(64ビット)が使われ、丸められる可能性がある
    
    SetStringは、zの精度が0の場合は64ビットに設定するとドキュメントに記載されています。
  • float64からの変換時の精度損失
    big.NewFloat(x float64)z.SetFloat64(x float64)を使用すると、入力となるfloat64がすでに**倍精度浮動小数点数の精度(通常53ビット)**で表現されているため、たとえbig.Floatの精度を高く設定しても、元のfloat64が持っていた情報以上の精度は得られません。つまり、精度がfloat64の限界に引きずられてしまいます。
    f := big.NewFloat(0.1) // 0.1 は float64 では正確に表現できない
    fmt.Printf("精度: %d, 値: %.20f\n", f.Prec(), f)
    // 出力例: 精度: 53, 値: 0.10000000000000000555
    

トラブルシューティング

  • big.Ratの活用
    完全に正確な分数表現が必要な場合は、math/bigパッケージのbig.Rat(有理数)型を検討してください。big.Ratは分数を分子と分母の整数で保持するため、浮動小数点特有の精度損失がありません。ただし、計算によってはパフォーマンスが低下する場合があります。
    r := big.NewRat(1, 3)
    f := new(big.Float).SetPrec(100).SetRat(r)
    fmt.Printf("値: %.50f\n", f)
    
  • 計算の前に精度を設定
    計算を開始する前に、すべてのbig.Floatインスタンスに必要な最大精度を設定するようにしてください。一度精度が低い値と演算されると、その結果の精度も低くなる可能性があります。
    prec := uint(200)
    a := new(big.Float).SetPrec(prec).SetString("1.0")
    b := new(big.Float).SetPrec(prec).SetString("3.0")
    c := new(big.Float).SetPrec(prec).Quo(a, b) // 1/3
    fmt.Printf("精度: %d, 値: %.50f\n", c.Prec(), c)
    // 精度: 200, 値: 0.33333333333333333333333333333333333333333333333333
    
  • 文字列による初期化
    最も確実な方法は、文字列として数値を初期化することです。これにより、float64の精度制限を受けることなく、指定した文字列の精度を最大限に利用できます。
    f := new(big.Float).SetPrec(200) // 必要な精度を最初に設定
    f.SetString("0.1")
    fmt.Printf("精度: %d, 値: %.20f\n", f.Prec(), f)
    // 出力例: 精度: 200, 値: 0.10000000000000000000
    

精度の過剰設定によるパフォーマンス問題

  • 必要以上に高い精度
    big.Floatは多倍長計算を行うため、設定する精度(ビット数)に比例して計算コスト(時間、メモリ)が増加します。不必要に高い精度(例: 数千ビット)を設定すると、処理が極端に遅くなったり、メモリを大量に消費したりする可能性があります。
    // 無駄に高精度な計算は避ける
    f := new(big.Float).SetPrec(4000) // 非常に高い精度
    // 大量の演算を行うとパフォーマンスが低下する
    
  • ベンチマークとプロファイリング
    パフォーマンスが懸念される場合は、testingパッケージのベンチマーク機能やGoのプロファイリングツール(pprof)を使用して、精度の設定がパフォーマンスに与える影響を測定してください。これにより、最適な精度設定を見つけることができます。
  • 必要な最小限の精度を特定
    アプリケーションの要件に基づいて、実際に必要な最小限の精度を特定することが重要です。例えば、金融計算でドルセント単位の正確さが求められる場合でも、数千ビットの精度は通常不要です。どの程度の有効桁数が必要かを見積もり、それに対応するビット数を設定します。
    • float64は約15-17桁の10進数を正確に表せます(53ビット)。
    • 10進数1桁は約3.32ビットに相当します(log2​10≈3.3219)。
    • 例えば、100桁の精度が必要なら、100×3.32≈332 ビットが必要です。これに余裕を見て少し多めに設定します。

丸めモードの影響

  • 期待と異なる丸め
    big.Floatbig.RoundingModeを設定できますが、デフォルトはToNearestEven(最も近い偶数への丸め、IEEE 754のデフォルト)です。特定の丸め動作(例: 切り上げ、切り捨て)を期待している場合、SetMode()で明示的に設定しないと、予期しない結果になることがあります。
    f := new(big.Float).SetPrec(64).SetFloat64(2.5) // デフォルト: ToNearestEven
    g := new(big.Float).SetPrec(64).SetMode(big.ToZero).SetFloat64(2.5) // 切り捨て
    
    fmt.Printf("f: %s (Prec: %d)\n", f.Text('f', 0), f.Prec()) // f: 2 (または3, ToNearestEvenの挙動による)
    fmt.Printf("g: %s (Prec: %d)\n", g.Text('f', 0), g.Prec()) // g: 2
    
    big.Float.String()Text()メソッドも丸めモードと精度に基づいて値を文字列化します。
  • 丸めモードの理解と設定
    big.Floatのドキュメントを読み、各big.RoundingModeの挙動を理解してください。そして、必要に応じてSetMode()で明示的に丸めモードを設定します。
    • big.ToNearestEven: 最も近い値に丸める。値が2つの丸め可能な値の中間にある場合は、偶数の方に丸める。
    • big.ToNearestAway: 最も近い値に丸める。値が2つの丸め可能な値の中間にある場合は、0から遠い方に丸める。
    • big.ToZero: 0の方向に丸める(切り捨て)。
    • big.AwayFromZero: 0から遠い方向に丸める(切り上げ)。
    • big.ToNegativeInf: 負の無限大の方向に丸める(切り下げ)。
    • big.ToPositiveInf: 正の無限大の方向に丸める(切り上げ)。
  • String()やfmt.Print()での表示精度の誤解
    f.String()fmt.Printf("%v", f)(または%g%fなど)でbig.Floatの値を表示する際、表示される桁数と内部のPrec()で示されるビット精度が直接一致しないことがあります。これは、Goのフォーマッタが値を正確に区別できる最小限の桁数で表示しようとするためです。
    f := new(big.Float).SetPrec(100).SetString("0.33333333333333333333333333333333333333333333333333") // 50桁
    fmt.Printf("精度: %d, 値: %v\n", f.Prec(), f)
    // 出力例: 精度: 100, 値: 0.33333333333333333333333333333333333333333333333333 (表示される桁数は丸めモードや実際の値による)
    // %v や %g は必要最小限の桁数で表示しようとするため、設定した精度全てを表示するとは限らない
    
  • Prec()とText()のprec引数の違いを理解する
    Prec()内部表現のビット単位の仮数部精度であるのに対し、Text()prec引数は出力文字列における小数点以下の桁数(または有効桁数)です。これらは異なる概念であり、混同しないように注意が必要です。
  • Text()メソッドの使用
    f.Text('f', decimalPlaces)のようにText()メソッドを使用すると、表示する小数点以下の桁数を明示的に指定できます。これにより、内部の精度が十分に高く、表示したい桁数をカバーしている場合に、意図した桁数で表示できます。
    f := new(big.Float).SetPrec(100).SetString("0.33333333333333333333333333333333333333333333333333")
    fmt.Printf("精度: %d, 値: %s\n", f.Prec(), f.Text('f', 50)) // 小数点以下50桁まで表示
    

big.Float.Prec()は、big.Floatが現在保持している仮数部のビット精度を示すメソッドです。この値自体がエラーを引き起こすことはありませんが、精度の設定ミス(意図しない低精度、過剰な高精度)や初期化時の注意不足丸めモードの不理解文字列出力の誤解などが、big.Floatを使う上での一般的な問題の原因となります。



Prec()の基本的な使い方と初期化時の精度

big.Floatを初期化する際に、どのように精度が設定され、Prec()がそれをどう返すかを見てみましょう。

package main

import (
	"fmt"
	"math/big"
)

func main() {
	fmt.Println("--- 1. Prec()の基本的な使い方と初期化時の精度 ---")

	// (1) big.NewFloat() で float64 から初期化する場合
	// big.NewFloatは、float64の値を内部に格納する際に、デフォルトの精度(通常53ビット)を使用します。
	// float64の精度はIEEE 754倍精度浮動小数点数に準拠し、仮数部は53ビットです。
	f1 := big.NewFloat(0.12345)
	fmt.Printf("f1 (float64からの初期化): 値 = %v, 精度 = %dビット\n", f1, f1.Prec())
	// 出力例: f1 (float64からの初期化): 値 = 0.12345, 精度 = 53ビット

	// (2) new(big.Float) で初期化し、SetPrec() で精度を設定する場合
	// new(big.Float) は精度が0の状態で初期化されます。
	// その後、SetPrec() で明示的に精度を指定できます。
	f2 := new(big.Float).SetPrec(128) // 128ビットの精度を設定
	f2.SetFloat64(1.0 / 3.0) // float64の値を設定。精度は128ビットだが、float64の限界がある
	fmt.Printf("f2 (SetPrec()後のSetFloat64): 値 = %v, 精度 = %dビット\n", f2, f2.Prec())
	// 出力例: f2 (SetPrec()後のSetFloat64): 値 = 0.3333333333333333, 精度 = 128ビット
	// 値の表示はfloat64の精度に丸められている点に注意。内部は128ビット保持

	// (3) new(big.Float) で初期化し、SetString() で値を設定する場合
	// SetString() は、zの精度が0の場合、デフォルトの64ビットに設定します。
	// (通常、float64より少し高い精度)
	f3 := new(big.Float)
	f3.SetString("0.12345678901234567890123456789") // 長い文字列で精度を試す
	fmt.Printf("f3 (SetString() デフォルト精度): 値 = %.30f, 精度 = %dビット\n", f3, f3.Prec())
	// 出力例: f3 (SetString() デフォルト精度): 値 = 0.123456789012345677000000000000, 精度 = 64ビット
	// 64ビットの精度で丸められていることがわかる

	// (4) SetPrec() で精度を設定してから SetString() で値を設定する場合 (推奨)
	// これが最も柔軟で、指定した精度で正確な値を扱うための推奨される方法です。
	f4 := new(big.Float).SetPrec(256) // 256ビットの精度を設定
	f4.SetString("3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286") // 円周率
	fmt.Printf("f4 (SetPrec()後のSetString()): 値 = %.70f, 精度 = %dビット\n", f4, f4.Prec())
	// 出力例: f4 (SetPrec()後のSetString()): 値 = 3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406, 精度 = 256ビット
}

精度と計算結果への影響

異なる精度で同じ計算を行った場合に、結果の正確さがどのように変わるかを見てみましょう。

package main

import (
	"fmt"
	"math/big"
)

func main() {
	fmt.Println("\n--- 2. 精度と計算結果への影響 ---")

	// 低精度での計算
	lowPrec := uint(64) // float64の精度に少し余裕を持たせた程度
	aLow := new(big.Float).SetPrec(lowPrec).SetString("1.0")
	bLow := new(big.Float).SetPrec(lowPrec).SetString("3.0")
	cLop := new(big.Float).SetPrec(lowPrec).Quo(aLow, bLow) // 1/3
	fmt.Printf("低精度 (%dビット) 計算結果 (1/3): %.20f\n", cLop.Prec(), cLop)
	// 出力例: 低精度 (64ビット) 計算結果 (1/3): 0.33333333333333331483

	// 高精度での計算
	highPrec := uint(256) // 非常に高い精度
	aHigh := new(big.Float).SetPrec(highPrec).SetString("1.0")
	bHigh := new(big.Float).SetPrec(highPrec).SetString("3.0")
	cHigh := new(big.Float).SetPrec(highPrec).Quo(aHigh, bHigh) // 1/3
	fmt.Printf("高精度 (%dビット) 計算結果 (1/3): %.50f\n", cHigh.Prec(), cHigh)
	// 出力例: 高精度 (256ビット) 計算結果 (1/3): 0.33333333333333333333333333333333333333333333333333

	// 桁数の多い値の計算
	xPrec := uint(100)
	x := new(big.Float).SetPrec(xPrec).SetString("0.00000000000000000000000000000000000000000000000001") // 50桁目から1
	yPrec := uint(50) // より低い精度で計算
	y := new(big.Float).SetPrec(yPrec).SetString("0.00000000000000000000000000000000000000000000000001")
	
	sumHigh := new(big.Float).SetPrec(xPrec).Add(x, x)
	sumLow := new(big.Float).SetPrec(yPrec).Add(y, y)

	fmt.Printf("元の値の精度: %dビット, 計算結果の精度: %dビット\n", x.Prec(), sumHigh.Prec())
	fmt.Printf("高精度での加算 (x+x): %.60f\n", sumHigh) // 0.00...02
	fmt.Printf("低精度での加算 (y+y): %.60f\n", sumLow)  // 0.00...00 (丸められてしまう)
	// 上記の例では、低精度の場合、最下位桁の1が丸められてしまい、結果が0.00...00になる可能性が高いです。
	// これは、設定された精度では最下位の1を表現できないためです。
}

big.Floatを使用する際の一般的なヒントと、Prec()を効果的に利用する方法です。

package main

import (
	"fmt"
	"math/big"
)

func main() {
	fmt.Println("\n--- 3. 精度設定のベストプラクティス ---")

	// 問題: float64から初期化すると精度が失われる
	valFloat64 := 0.1 // float64では正確に表現できない値
	fProblem := big.NewFloat(valFloat64)
	fmt.Printf("問題: float64からの初期化: 値 = %.20f, 精度 = %dビット\n", fProblem, fProblem.Prec())
	// 出力例: 問題: float64からの初期化: 値 = 0.10000000000000000555, 精度 = 53ビット

	// 解決策: 文字列から初期化し、必要な精度を事前に設定する
	const desiredPrec = 128 // 必要な精度をビット単位で定義
	valString := "0.1"
	fSolution := new(big.Float).SetPrec(desiredPrec)
	_, _, err := fSolution.Parse(valString, 10) // Base 10でパース
	if err != nil {
		fmt.Printf("Parse Error: %v\n", err)
		return
	}
	fmt.Printf("解決策: 文字列からの初期化: 値 = %.20f, 精度 = %dビット\n", fSolution, fSolution.Prec())
	// 出力例: 解決策: 文字列からの初期化: 値 = 0.10000000000000000000, 精度 = 128ビット

	// 計算前にすべての big.Float の精度を設定する
	// 異なる精度の値が演算されると、結果の精度は最も低い精度に合わせられるか、
	// あるいは計算によって丸めが発生する可能性があるため、事前に統一するのが安全です。
	p := uint(200) // 計算で使うすべてのbig.Floatの精度を設定

	x := new(big.Float).SetPrec(p).SetString("1.0")
	y := new(big.Float).SetPrec(p).SetString("7.0")
	z := new(big.Float).SetPrec(p).Quo(x, y) // 1/7

	fmt.Printf("統一された精度 (%dビット) での計算 (1/7): %.60f\n", z.Prec(), z)
	// 出力例: 統一された精度 (200ビット) での計算 (1/7): 0.142857142857142857142857142857142857142857142857142857142857

	// パフォーマンスと精度のトレードオフ
	// 精度を高く設定しすぎると、計算が遅くなり、メモリ使用量も増えます。
	// アプリケーションの要件に応じて、適切な精度を見つけることが重要です。
	// 必要最小限の精度を設定するように心がけましょう。
	// 例えば、金融計算でセント単位の正確さが必要な場合でも、数千ビットの精度は通常不要です。
	// (10進数N桁は、約 N * log2(10) ビット、つまり N * 3.32 ビットに相当)
	// 例えば、100桁の精度が必要なら、100 * 3.32 = 332ビット程度が必要。
	// これに少し余裕を持たせて350ビットなどと設定します。
}


Go言語のmath/bigパッケージにおけるbig.Float.Prec()は、big.Floatの現在の仮数部の精度(ビット数)を取得するためのメソッドです。これ自体に代替手段があるわけではありませんが、Prec()が関連する精度設定の代替方法や、異なる数値型での代替手段について解説します。

big.Floatの精度設定の代替(Prec()自体は取得のみ)

Prec()は精度を「取得」するメソッドなので、これの代替というよりは、big.Floatの精度を「設定」する文脈での代替手段を考えることになります。

  1. big.NewFloat(f float64)またはz.SetFloat64(f float64)
    これはfloat64からの変換であり、一番手軽ですが、精度がfloat64の限界(通常53ビット)に制限されます。 内部的にはbig.Floatに変換されますが、元のfloat64が持っていた精度以上のものは得られません。 もし、これより高い精度が必要な場合は、他の初期化方法を検討する必要があります。

    package main
    
    import (
    	"fmt"
    	"math/big"
    )
    
    func main() {
    	f := big.NewFloat(0.12345) // float64から初期化
    	fmt.Printf("big.NewFloat(float64): 値 = %v, 精度 = %dビット\n", f, f.Prec())
    	// 出力例: big.NewFloat(float64): 値 = 0.12345, 精度 = 53ビット
    }
    
  2. z.SetString(s string)
    文字列からbig.Floatを初期化する方法です。もしzの精度が0new(big.Float)で初期化した直後など)の場合、SetStringはデフォルトの64ビット精度を設定します。これはfloat64の53ビットよりは少し高精度ですが、任意の精度ではありません。 SetStringは便利ですが、文字列がfloat64の表現可能な桁数を超えている場合でも、デフォルトの64ビットに丸められる可能性があることに注意が必要です。

    package main
    
    import (
    	"fmt"
    	"math/big"
    )
    
    func main() {
    	f := new(big.Float) // 精度0で初期化
    	f.SetString("0.12345678901234567890") // 20桁の文字列
    	fmt.Printf("SetString() デフォルト精度: 値 = %.20f, 精度 = %dビット\n", f, f.Prec())
    	// 出力例: SetString() デフォルト精度: 値 = 0.12345678901234567700, 精度 = 64ビット
    	// 64ビットに丸められていることがわかる
    }
    

big.Floatの精度設定で実現したいことが、「ある程度の精度保証された浮動小数点計算」であれば良いのですが、もし「完全に正確な計算」や「桁落ちのない厳密な計算」が必要な場合は、big.Float以外のmath/bigパッケージ内の型や、別の数値表現を検討する必要があります。

  1. math/big.Rat (有理数)
    これは、分数を分子と分母の2つのbig.Intで表現する型です。浮動小数点数特有の丸め誤差が一切発生しません。 加算、減算、乗算、除算など、すべての計算が完全に正確に行われます。 ただし、無理数(例:2​、π)を正確に表現することはできません(有理数で近似することは可能)。また、大量の計算や非常に大きな分子・分母を持つ分数になると、パフォーマンスがbig.Floatよりも劣る場合があります。

    利用シーン

    • 金融計算で、利息の計算など厳密な端数処理が必要な場合。
    • 分数計算が頻繁に出てくる数学的な問題。
    • 循環小数を正確に表現したい場合(例:1/3)。
    package main
    
    import (
    	"fmt"
    	"math/big"
    )
    
    func main() {
    	fmt.Println("--- big.Rat (有理数) の利用 ---")
    
    	// 1/3 を表現
    	r1 := big.NewRat(1, 3)
    	fmt.Printf("1/3 (big.Rat): %v\n", r1)
    
    	// 2/7 を表現
    	r2 := big.NewRat(2, 7)
    	fmt.Printf("2/7 (big.Rat): %v\n", r2)
    
    	// 加算: 1/3 + 2/7 = 7/21 + 6/21 = 13/21
    	rSum := new(big.Rat).Add(r1, r2)
    	fmt.Printf("1/3 + 2/7 (big.Rat): %v\n", rSum)
    
    	// big.Ratからbig.Floatへの変換
    	fFromRat := new(big.Float).SetPrec(100).SetRat(rSum)
    	fmt.Printf("13/21 を big.Float に変換 (精度100ビット): %.50f\n", fFromRat)
    }
    
  2. math/big.Int (任意精度整数)
    厳密な整数計算が必要な場合に使用します。big.Floatが浮動小数点数を扱うのに対し、big.Intは整数の任意精度計算を提供します。 もし、計算の途中で常に正確な整数値が保証されるのであれば、big.Intのほうがシンプルで効率的な場合があります。

    利用シーン

    • 暗号学的な計算(非常に大きな素数の生成や因数分解など)。
    • 大きな数を扱うカウンタやID。
    • 任意精度な数値シミュレーションで、中間結果が整数である場合。
    package main
    
    import (
    	"fmt"
    	"math/big"
    )
    
    func main() {
    	fmt.Println("--- big.Int (任意精度整数) の利用 ---")
    
    	i1 := new(big.Int)
    	i1.SetString("123456789012345678901234567890", 10) // 10進数で設定
    
    	i2 := new(big.Int)
    	i2.SetString("987654321098765432109876543210", 10)
    
    	iSum := new(big.Int).Add(i1, i2)
    	fmt.Printf("big.Int 加算結果: %v\n", iSum)
    
    	// big.Intからbig.Floatへの変換
    	fFromInt := new(big.Float).SetInt(iSum)
    	fmt.Printf("big.Int を big.Float に変換: %v, 精度 = %dビット\n", fFromInt, fFromInt.Prec())
    }
    
  • 整数演算のみで十分な場合は、math/big.Intが適切な選択肢となります。
  • 計算で厳密な精度保証が必要で、浮動小数点数特有の丸め誤差を避けたい場合は、big.Floatの代わりに**math/big.Rat(有理数)**の使用を検討してください。これは、計算途中で常に正確な分数表現を維持します。
  • big.Float.Prec()自体に直接の代替はありませんが、big.Float精度を設定する方法は複数あります。最も推奨されるのは、必要な精度をSetPrec()で先に設定し、その後SetString()で正確な値をロードする方法です。