Qt QTextStream::setLocale()活用術:数値・日付・通貨の書式設定

2025-05-27

ロケール (Locale) とは

ロケールとは、特定の地域や言語圏に固有の文化的な設定の集合体のことです。これには以下のような情報が含まれます。

  • エンコーディング
    テキストファイルの文字エンコーディング(UTF-8, Shift_JIS, EUC-JPなど)。
  • 文字列のソート順
    各言語における文字の並び順。
  • 通貨の書式
    通貨記号の位置、小数点の桁数。
  • 日付と時刻の書式
    日付の順序(年/月/日、月/日/年など)、時刻の24時間表示か12時間表示か。
  • 数値の書式
    小数点の記号(.,か)、桁区切り記号(,.かスペースか)、負の数の表示方法など。

QTextStream::setLocale()の役割

QTextStreamは、デフォルトではオペレーティングシステムの現在のロケール(またはQtアプリケーションのデフォルトロケール)を使用して数値や日付などの書式を扱います。しかし、setLocale()を使用することで、そのQTextStreamオブジェクトに特定のロケールを明示的に指定することができます。

これにより、以下のようなことが可能になります。

  • デフォルトのロケールからの切り離し
    アプリケーション全体のロケール設定とは異なるロケールで、特定の入出力操作を行いたい場合に役立ちます。
  • 異なるロケールのデータ処理
    読み込むファイルが特定のロケールで書式設定されている場合、そのロケールを設定することで、正しく数値をパースしたり、日付を解釈したりできます。
  • 国際化されたテキスト処理
    例えば、ドイツ語圏のユーザー向けに小数点を「,」で、桁区切りを「.」で表示するような数値の出力を行いたい場合、ドイツのロケールを設定することで、自動的にその書式が適用されます。
#include <QCoreApplication>
#include <QTextStream>
#include <QLocale>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // デフォルトのロケールを使用するQTextStream
    QTextStream defaultStream(stdout);
    double number = 12345.67;
    defaultStream << "Default locale (システム依存): " << number << endl;

    // ドイツのロケールを設定したQTextStream
    QLocale germanLocale(QLocale::German, QLocale::Germany);
    QTextStream germanStream(stdout);
    germanStream.setLocale(germanLocale);
    germanStream << "German locale: " << number << endl;

    // 米国のロケールを設定したQTextStream
    QLocale usLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates);
    QTextStream usStream(stdout);
    usStream.setLocale(usLocale);
    usStream << "US locale: " << number << endl;

    return 0;
}

このコードを実行すると、システムの設定にもよりますが、以下のような出力になる可能性があります。

Default locale (システム依存): 12345.67
German locale: 12.345,67
US locale: 12,345.67

このように、setLocale()を使用することで、数値の表示形式がロケールに応じて変化することがわかります。これは、数値だけでなく、日付や時刻、通貨などの表示にも影響します。



ロケールが期待通りに適用されない

問題
setLocale()を呼び出したにもかかわらず、数値や日付の書式が期待したロケールの形式にならない。

考えられる原因とトラブルシューティング

  • 特定のプラットフォームのロケール制限
    • 原因
      一部のロケールは、特定のオペレーティングシステムで完全にはサポートされていない場合があります。
    • トラブルシューティング
      問題のロケールがそのプラットフォームで期待通りに動作するかどうか、簡単なテストプログラムで確認してみてください。
  • システムロケールの影響
    • 原因
      アプリケーション全体のロケール設定(QLocale::setDefault()など)が、QTextStreamの個別の設定を上書きしている、あるいは予期せぬ影響を与えている。
    • トラブルシューティング
      アプリケーション起動時にQLocale::setDefault()でデフォルトロケールを設定している場合は、それがQTextStream::setLocale()による個別設定に影響しないか確認してください。通常、QTextStream::setLocale()は個別のストリームに対してデフォルトを上書きしますが、稀に複雑な状況で競合する可能性があります。
  • ロケール設定のタイミング
    • 原因
      QTextStreamオブジェクトが既に一部のテキストを処理した後でsetLocale()を呼び出している。setLocale()は、その後の操作に適用されます。
    • トラブルシューティング
      QTextStreamオブジェクトを初期化し、何かを読み書きする前にsetLocale()を呼び出すようにしてください。
  • ロケールオブジェクトの誤り
    • 原因
      QLocaleオブジェクトのコンストラクタに渡す引数が間違っている、または存在しないロケールを指定している。例えば、QLocale::Dutchと指定すべきところをQLocale::Netherlandsと誤って指定するなど。
    • トラブルシューティング
      QtのドキュメントでQLocaleのコンストラクタと利用可能なQLocale::LanguageQLocale::Countryの列挙型を確認し、正しい組み合わせを使用しているか確認してください。
  • エンコーディングとの混同
    • 原因
      QTextStream::setLocale()は数値や日付などの書式を制御しますが、文字エンコーディングは直接制御しません。QTextStream::setCodec()がエンコーディングを設定します。例えば、UTF-8でファイルを作成したいのに、setLocale()を呼び出してもエンコーディングは変わりません。
    • トラブルシューティング
      エンコーディングに関する問題であれば、QTextStream::setCodec(QTextCodec::codecForName("UTF-8"))のように、適切なコーデックを設定してください。

数値のパース(読み取り)が失敗する

問題
特定のロケール形式で書かれた数値をQTextStreamで読み込もうとすると、正しく解釈されず、0になったり、エラーになったりする。

考えられる原因とトラブルシューティング

  • 大きな数値や非常に小さな数値
    • 原因
      doublefloatの精度を超えた数値、または表現できないほど小さな数値。
    • トラブルシューティング
      long doubleQVariant、あるいはQTextStreamoperator>>が対応していない場合は、文字列として読み込み、QString::toDouble()などのより柔軟な変換関数を使用することを検討してください。
  • 数値形式以外のデータ
    • 原因
      数値以外の文字が混入している、または予期せぬ空白文字や改行コードが含まれている。
    • トラブルシューティング
      読み込むデータの内容をデバッグ出力などで確認し、数値としてパースできる形式になっているか検証してください。QString::trimmed()などで余分な空白を除去することも有効です。
  • setLocale()が未設定、または不一致
    • 原因
      読み込もうとしているファイルの数値書式が、QTextStreamに設定されているロケールの書式と一致していない。例えば、ファイルがドイツの書式(小数点に ,)で書かれているのに、QTextStreamがデフォルトの英語(小数点に .)で設定されている場合。
    • トラブルシューティング
      ファイルの数値書式に合わせて、QTextStream::setLocale()で適切なロケールを設定してください。

考えられる原因とトラブルシューティング

  • コンソール(ターミナル)のエンコーディング不一致
    • 原因
      プログラムが出力しているエンコーディングと、コンソール(ターミナル)が期待するエンコーディングが異なっている。
    • トラブルシューティング
      コンソールの設定を確認し、プログラムが出力するエンコーディング(例:UTF-8)と一致するように設定してください。Windowsのコマンドプロンプトなどでは、chcp 65001を実行してUTF-8に対応させる必要がある場合があります。

日付/時刻のパース(読み取り)が失敗する

問題
特定のロケール形式で書かれた日付や時刻をQTextStreamで読み込もうとすると、正しく解釈されない。

  • カスタムフォーマットの必要性
    • 原因
      QTextStreamoperator>>がサポートしている日付/時刻の書式は、ロケールの標準的な書式に限られます。非常に特殊な書式で書かれている場合は、直接パースできないことがあります。
    • トラブルシューティング
      日付/時刻を文字列として読み込み、QDateTime::fromString(QString, QString, QLocale)QDate::fromString(QString, QString, QLocale)のように、明示的に書式文字列とロケールを指定して変換することを検討してください。
  • setLocale()が未設定、または不一致
    • 原因
      読み込もうとしている日付/時刻の書式が、QTextStreamに設定されているロケールの書式と一致していない。
    • トラブルシューティング
      ファイルの日付/時刻書式に合わせて、QTextStream::setLocale()で適切なロケールを設定してください。
  • システムロケールの確認
    プログラムを実行している環境のシステムロケールが何に設定されているかを確認します。これにより、デフォルトの動作を理解できます。
  • Qtドキュメントの参照
    QTextStreamQLocaleQTextCodecの公式ドキュメントを丁寧に読み込み、各関数の詳細な動作や注意事項を確認します。
  • 小さな再現コード
    問題が発生している部分だけを切り出し、最小限のコードで問題を再現させます。これにより、他の要因の影響を排除し、原因を特定しやすくなります。
  • QDebugの活用
    QTextStreamで読み書きする前後で、変数の値やQTextStreamのロケール設定(stream.locale().name()など)をqDebug()で出力し、期待通りの状態になっているか確認します。


例1: 基本的な数値の読み書きとロケールの影響

この例では、異なるロケールを設定したQTextStreamを使用して、同じ浮動小数点数の出力がどのように変化するかを示します。

#include <QCoreApplication>
#include <QTextStream>
#include <QLocale>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    double myNumber = 12345.678;

    qDebug() << "--- 数値の出力例 ---";

    // 1. デフォルトのロケール (システムまたはQtアプリケーションのデフォルト)
    QTextStream defaultStream(stdout); // 標準出力へのストリーム
    defaultStream << "デフォルトロケール: " << myNumber << endl;
    // (例: 12345.678 または 12345,678 - システム設定による)

    // 2. 米国のロケール (小数点に '.'、桁区切りに ',')
    QLocale usLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates);
    QTextStream usStream(stdout);
    usStream.setLocale(usLocale);
    usStream << "米国 (US) ロケール: " << myNumber << endl;
    // 出力例: 12,345.678

    // 3. ドイツのロケール (小数点に ','、桁区切りに '.')
    QLocale germanLocale(QLocale::German, QLocale::Germany);
    QTextStream germanStream(stdout);
    germanStream.setLocale(germanLocale);
    germanStream << "ドイツ (DE) ロケール: " << myNumber << endl;
    // 出力例: 12.345,678

    // 4. 日本のロケール (通常、小数点に '.'、桁区切りに ',')
    QLocale japaneseLocale(QLocale::Japanese, QLocale::Japan);
    QTextStream japaneseStream(stdout);
    japaneseStream.setLocale(japaneseLocale);
    japaneseStream << "日本 (JP) ロケール: " << myNumber << endl;
    // 出力例: 12,345.678 (ほとんどUSと共通)

    qDebug() << "\n--- 文字列からの数値の読み込み例 ---";

    // 文字列から数値を読み込む
    QString germanFormattedNumber = "12.345,678";
    QString usFormattedNumber = "12,345.678";

    double parsedNumber1, parsedNumber2;

    // ドイツロケールでドイツ形式の文字列を読み込む
    QTextStream parseGermanStream(&germanFormattedNumber, QIODevice::ReadOnly);
    parseGermanStream.setLocale(germanLocale);
    parseGermanStream >> parsedNumber1;
    qDebug() << "ドイツ形式 (" << germanFormattedNumber << ") をドイツロケールでパース: " << parsedNumber1;
    // 出力例: ドイツ形式 (12.345,678) をドイツロケールでパース: 12345.678

    // 米国ロケールで米国形式の文字列を読み込む
    QTextStream parseUsStream(&usFormattedNumber, QIODevice::ReadOnly);
    parseUsStream.setLocale(usLocale);
    parseUsStream >> parsedNumber2;
    qDebug() << "米国形式 (" << usFormattedNumber << ") を米国ロケールでパース: " << parsedNumber2;
    // 出力例: 米国形式 (12,345.678) を米国ロケールでパース: 12345.678

    // 注意: ロケールが合わない場合のパースの失敗例
    double parsedNumber3;
    QTextStream failParseStream(&germanFormattedNumber, QIODevice::ReadOnly);
    failParseStream.setLocale(usLocale); // ドイツ形式の文字列を米国ロケールで読み込もうとする
    failParseStream >> parsedNumber3;
    qDebug() << "ドイツ形式 (" << germanFormattedNumber << ") を米国ロケールでパース (失敗例): " << parsedNumber3;
    // 出力例: ドイツ形式 (12.345,678) を米国ロケールでパース (失敗例): 0 (または部分的にパース)

    return 0;
}

解説

  • 数値の読み込み(パース)では、文字列の書式とQTextStreamに設定されたロケールが一致しない場合、パースが失敗するか、意図しない結果になることを示しています。
  • 数値の出力では、設定されたロケールに応じて小数点の記号や桁区切り記号が変わることがわかります。
  • QLocaleオブジェクトを作成し、setLocale()QTextStreamに設定します。
  • QTextStream(stdout)は標準出力へのストリームを作成します。ファイルへの出力やQStringへの出力も同様に可能です。

例2: 日付と通貨の書式設定

この例では、日付と通貨の出力にロケールがどのように影響するかを示します。

#include <QCoreApplication>
#include <QTextStream>
#include <QLocale>
#include <QDate>
#include <QTime>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QDate today = QDate::currentDate();
    QTime now = QTime::currentTime();
    double amount = 9876.54; // 通貨の値

    qDebug() << "--- 日付と時刻の出力例 ---";

    // 1. 米国のロケール
    QLocale usLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates);
    QTextStream usStream(stdout);
    usStream.setLocale(usLocale);
    usStream << "米国 (US) ロケール (日付/時刻): " << today << " " << now << endl;
    usStream << "米国 (US) ロケール (通貨): " << QLocale::Currency << amount << endl;
    // 出力例: 5/26/25 06:19:28 (日付) / $9,876.54 (通貨)

    // 2. ドイツのロケール
    QLocale germanLocale(QLocale::German, QLocale::Germany);
    QTextStream germanStream(stdout);
    germanStream.setLocale(germanLocale);
    germanStream << "ドイツ (DE) ロケール (日付/時刻): " << today << " " << now << endl;
    germanStream << "ドイツ (DE) ロケール (通貨): " << QLocale::Currency << amount << endl;
    // 出力例: 26.05.2025 06:19:28 (日付) / 9.876,54 € (通貨)

    // 3. 日本のロケール
    QLocale japaneseLocale(QLocale::Japanese, QLocale::Japan);
    QTextStream japaneseStream(stdout);
    japaneseStream.setLocale(japaneseLocale);
    japaneseStream << "日本 (JP) ロケール (日付/時刻): " << today << " " << now << endl;
    japaneseStream << "日本 (JP) ロケール (通貨): " << QLocale::Currency << amount << endl;
    // 出力例: 2025/05/26 06:19:28 (日付) / ¥9,876.54 (通貨)

    qDebug() << "\n--- 文字列からの日付の読み込み例 ---";

    QString usDateString = "05/26/2025";
    QString germanDateString = "26.05.2025";

    QDate parsedDate1, parsedDate2;

    // 米国ロケールで米国形式の日付を読み込む
    QTextStream parseUsDateStream(&usDateString, QIODevice::ReadOnly);
    parseUsDateStream.setLocale(usLocale);
    parseUsDateStream >> parsedDate1;
    qDebug() << "米国形式 (" << usDateString << ") を米国ロケールでパース: " << parsedDate1.toString(Qt::ISODate);

    // ドイツロケールでドイツ形式の日付を読み込む
    QTextStream parseGermanDateStream(&germanDateString, QIODevice::ReadOnly);
    parseGermanDateStream.setLocale(germanLocale);
    parseGermanDateStream >> parsedDate2;
    qDebug() << "ドイツ形式 (" << germanDateString << ") をドイツロケールでパース: " << parsedDate2.toString(Qt::ISODate);


    return 0;
}

解説

  • 読み込みの際も、文字列の日付書式とQTextStreamのロケールを一致させる必要があります。
  • 日付と時刻も、ロケールによって表示順序や区切り文字が異なります。
  • QLocale::Currencyマニピュレータを使用すると、ロケールに応じた通貨記号と書式で数値が出力されます。

この例では、ファイルに特定のロケールとエンコーディングでデータを書き込み、その後、別のロケールでそのファイルを読み込む場合の挙動を示します。

#include <QCoreApplication>
#include <QTextStream>
#include <QLocale>
#include <QFile>
#include <QTextCodec>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString fileName = "locale_test.txt";
    double valueToWrite = 1234.56;
    QString japaneseText = "こんにちは世界!"; // 日本語のテキスト

    // --- ファイルへの書き込み ---
    QFile file(fileName);
    if (!file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        qCritical() << "ファイルオープン失敗 (書き込み):" << file.errorString();
        return 1;
    }

    QTextStream outStream(&file);
    // ドイツのロケールを設定
    QLocale germanLocale(QLocale::German, QLocale::Germany);
    outStream.setLocale(germanLocale);
    // UTF-8エンコーディングを設定 (日本語を含めるため)
    outStream.setCodec(QTextCodec::codecForName("UTF-8"));

    outStream << "ドイツ形式の数値: " << valueToWrite << endl;
    outStream << "日本語テキスト: " << japaneseText << endl;

    file.close();
    qDebug() << "ファイル '" << fileName << "' に書き込みました。";
    qDebug() << "  (ロケール: ドイツ, エンコーディング: UTF-8)";

    // --- ファイルからの読み込み ---
    if (!file.open(QIODevice::ReadOnly | QIODevice::Text)) {
        qCritical() << "ファイルオープン失敗 (読み込み):" << file.errorString();
        return 1;
    }

    QTextStream inStream(&file);
    // 読み込み用に、今度は米国のロケールを設定してみる
    QLocale usLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates);
    inStream.setLocale(usLocale);
    // 書き込み時と同じUTF-8エンコーディングを設定
    inStream.setCodec(QTextCodec::codecForName("UTF-8"));

    QString line1 = inStream.readLine();
    QString line2 = inStream.readLine();

    qDebug() << "\nファイル '" << fileName << "' から読み込みました。";
    qDebug() << "  (ロケール: 米国, エンコーディング: UTF-8)";
    qDebug() << "  Line 1: " << line1; // 数値のパースはロケールが合わないため失敗しやすい
    qDebug() << "  Line 2: " << line2; // 日本語はエンコーディングが合っていれば正しく表示

    // 読み込んだ行から数値部分を抽出してパースを試みる
    // 注意: QTextStream::operator>>(double)は行全体から数値を読み込むため、
    // "ドイツ形式の数値: 1.234,56" のような文字列からは直接読み込めない。
    // そのため、文字列として読み込んだ後、QLocale::toDouble()を使用するのが一般的。
    QString numString1 = line1.mid(line1.indexOf(":") + 2); // ": "の後の部分を取得
    double parsedValue;
    // QLocale::toDouble()を使うと、文字列とロケールを指定して正確にパースできる
    parsedValue = germanLocale.toDouble(numString1); // 元の書き込みロケールでパース
    qDebug() << "抽出した数値 (" << numString1 << ") をドイツロケールでパース: " << parsedValue;

    file.close();

    return 0;
}
  • QLocale::toDouble()のように、QLocaleオブジェクト自体が持つ変換関数を使用すると、特定のロケールに合わせた文字列からの数値変換を確実に行うことができます。これは、QTextStream::operator>>が常に最も柔軟なパースを行うわけではないため、より堅牢な方法です。
  • 読み込み時には、あえて米国ロケールを設定しています。そのため、読み込んだ文字列を直接QTextStreamで数値としてパースしようとすると失敗しやすいことがわかります。
  • この例では、ドイツロケールとUTF-8でファイルを書き込みます。
  • QFileを使用してファイルを開き、QTextStreamにバインドします。


QLocale クラスの直接使用 (最も一般的で推奨される代替方法)

QTextStream::setLocale()QTextStreamオブジェクトの内部でQLocaleを使用していますが、QLocaleクラス自体が、数値、日付、時刻、通貨などの書式設定とパース(解析)のための豊富な機能を提供しています。これは、QTextStreamの挙動を直接制御するよりも、より柔軟で明示的な方法です。

特徴

  • ロケールと書式を完全に分離して扱える。
  • QTextStreamを介さない、より低レベルなデータ変換が可能。
  • 特定の文字列の書式変換に特化できる。

主なメソッド

  • QLocale::currencySymbol(): ロケールに応じた通貨記号を取得する。
  • QLocale::toDate(), QLocale::toTime(), QLocale::toDateTime(): 特定のロケール書式やカスタム書式の日付/時刻文字列をパースする。
  • QLocale::toDouble(), QLocale::toInt(), etc.: 特定のロケール書式の文字列を数値にパースする。
  • QLocale::toString(): 数値、日付、時刻などを特定のロケール書式で文字列に変換する。

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QDebug>
#include <QLocale>
#include <QDate>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    double myNumber = 12345.678;
    QDate myDate = QDate(2025, 12, 25);

    // ドイツのロケールオブジェクトを直接作成
    QLocale germanLocale(QLocale::German, QLocale::Germany);

    // 数値をドイツ形式で文字列に変換
    QString germanFormattedNumber = germanLocale.toString(myNumber);
    qDebug() << "QLocale::toString() (ドイツ):" << germanFormattedNumber;
    // 出力例: QLocale::toString() (ドイツ): 12.345,678

    // 日付をドイツ形式で文字列に変換 (ShortFormat)
    QString germanFormattedDate = germanLocale.toString(myDate, QLocale::ShortFormat);
    qDebug() << "QLocale::toString() (ドイツ日付):" << germanFormattedDate;
    // 出力例: QLocale::toString() (ドイツ日付): 25.12.25

    // ドイツ形式の文字列から数値をパース
    QString stringToParse = "987,65";
    double parsedNumber = germanLocale.toDouble(stringToParse);
    qDebug() << "QLocale::toDouble() (ドイツ):" << parsedNumber;
    // 出力例: QLocale::toDouble() (ドイツ): 987.65

    // 米国のロケールオブジェクトを直接作成
    QLocale usLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates);

    // 数値を米国形式で文字列に変換
    QString usFormattedNumber = usLocale.toString(myNumber);
    qDebug() << "QLocale::toString() (米国):" << usFormattedNumber;
    // 出力例: QLocale::toString() (米国): 12,345.678

    // 米国形式の文字列から日付をパース (ShortFormat)
    QString usDateToParse = "12/25/25";
    QDate parsedDate = usLocale.toDate(usDateToParse, QLocale::ShortFormat);
    qDebug() << "QLocale::toDate() (米国):" << parsedDate.toString(Qt::ISODate);
    // 出力例: QLocale::toDate() (米国): 2025-12-25

    return 0;
}

カスタムフォーマット文字列の使用

QTextStream::setLocale()が提供する標準的なロケール書式ではなく、特定の固定された書式で出力したい場合(例: CSVファイルなど)、QLocaletoString()QDateTime::toString()/QDate::toString()などの関数でカスタムフォーマット文字列を指定できます。

特徴

  • データのエクスポート/インポートなど、機械可読性を重視する場合に有効。
  • ロケールに依存しない、厳密に制御された出力が可能。

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QDebug>
#include <QDateTime>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QDateTime now = QDateTime::currentDateTime();
    double value = 12345.67;

    // カスタムフォーマットで日付と時刻を出力
    QString customDateTimeFormat = "yyyy-MM-dd HH:mm:ss";
    qDebug() << "カスタム日付時刻フォーマット:" << now.toString(customDateTimeFormat);
    // 出力例: カスタム日付時刻フォーマット: 2025-05-26 06:20:45

    // 常に小数点に'.'、桁区切りなしで数値を文字列化
    // (QString::number() はロケールに影響されない)
    QString customNumberFormat = QString::number(value, 'f', 2); // 浮動小数点、小数点以下2桁
    qDebug() << "カスタム数値フォーマット:" << customNumberFormat;
    // 出力例: カスタム数値フォーマット: 12345.68

    // QString::arg() を使って出力する場合 (ロケールはQLocale::setDefault()に依存)
    qDebug() << QString("カスタム文字列補間: %1 の値は %2 です。").arg(now.toString("yyyyMMdd")).arg(value, 0, 'f', 1);
    // 出力例: カスタム文字列補間: 20250526 の値は 12345.7 です。

    return 0;
}

QLocale::setDefault() の使用 (アプリケーション全体に影響)

QTextStream::setLocale()は特定のQTextStreamインスタンスのロケールを設定しますが、QLocale::setDefault()アプリケーション全体のデフォルトロケールを設定します。これは、QTextStreamを含む、ロケールに依存するすべてのQtコンポーネントのデフォルトの挙動に影響を与えます。

特徴

  • 個々のQTextStreamsetLocale()を呼び出す手間を省ける。
  • アプリケーションの国際化において、統一されたロケール設定を適用したい場合に便利。
#include <QCoreApplication>
#include <QTextStream>
#include <QLocale>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // アプリケーション全体のデフォルトロケールをドイツに設定
    QLocale::setDefault(QLocale(QLocale::German, QLocale::Germany));
    qDebug() << "アプリケーションのデフォルトロケール設定後:" << QLocale::system().name();

    double myNumber = 12345.678;

    // ロケールを明示的に設定しないQTextStream
    QTextStream stream(stdout);
    stream << "デフォルトロケール (アプリケーション設定): " << myNumber << endl;
    // 出力例: デフォルトロケール (アプリケーション設定): 12.345,678

    // ただし、個々のストリームでsetLocale()を呼び出すと、デフォルトを上書きできる
    QLocale usLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates);
    QTextStream usStream(stdout);
    usStream.setLocale(usLocale);
    usStream << "明示的に米国ロケールを設定: " << myNumber << endl;
    // 出力例: 明示的に米国ロケールを設定: 12,345.678

    return 0;
}
  • アプリケーション全体で一貫したロケール設定を適用したい場合

    • QLocale::setDefault()の使用が有効です。これにより、QTextStreamを含む多くのQtコンポーネントが、自動的に指定されたロケールで動作するようになります。
  • ファイル形式など、厳密に固定された出力書式が必要な場合

    • カスタムフォーマット文字列の使用が適しています。これにより、ロケール設定に左右されずに、常に同じ形式でデータを出力できます。
  • 個々の文字列や数値の変換を柔軟に制御したい場合

    • QLocaleクラスの直接使用が最も推奨されます。これはQTextStream::setLocale()よりも粒度が高く、特定の変換だけをロケール化できます。