QtプログラミングTIPS: QTableViewのセル結合をマスターする
この関数は、指定された開始行と開始列から、指定された行数と列数にわたるセルを結合します。これにより、Excelなどのスプレッドシートソフトウェアで見られるような、セル結合された表示を実現できます。
関数のシグネチャ
void QTableView::setSpan(int row, int column, int rowSpanCount, int columnSpanCount)
引数
columnSpanCount
: 結合する列の数。1を指定すると、その列のみのセルを結合します。rowSpanCount
: 結合する行の数。1を指定すると、その行のみのセルを結合します。column
: 結合を開始するセルの列インデックス(0から始まる)。row
: 結合を開始するセルの行インデックス(0から始まる)。
使用例
例えば、QTableView
の左上のセル (0行0列) から、縦に2行、横に3列にわたってセルを結合したい場合、次のように記述します。
#include <QApplication>
#include <QStandardItemModel>
#include <QTableView>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QTableView *tableView = new QTableView;
QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(5, 5); // 5x5のモデルを作成
// モデルにデータを設定 (例として)
for (int i = 0; i < 5; ++i) {
for (int j = 0; j < 5; ++j) {
model->setItem(i, j, new QStandardItem(QString("Cell (%0, %1)").arg(i).arg(j)));
}
}
tableView->setModel(model);
// 0行0列から縦に2行、横に3列にわたってセルを結合
tableView->setSpan(0, 0, 2, 3);
// 結合されたセルに表示されるデータは、開始セル (0,0) のデータになります。
// 必要に応じて、結合されたセルに表示したいデータをモデルの開始セルに設定します。
model->item(0, 0)->setText("結合されたセル");
tableView->setWindowTitle("QTableView::setSpan Example");
tableView->show();
return app.exec();
}
このコードを実行すると、QTableView
の左上のセルが、通常の2行3列分のスペースを占める大きなセルとして表示されます。
- モデルとの関連:
QTableView
はあくまでビューであり、データの保持はモデル(通常はQStandardItemModel
やカスタムモデル)が行います。setSpan()
はビューの表示方法を制御するものであり、モデルのデータの構造自体を変更するものではありません。 - クリア: 設定した結合を解除したい場合は、
QTableView::clearSpans()
関数を使用します。 - 重なり: 複数の
setSpan()
呼び出しでセルが重なるように設定した場合、Qtの内部的な挙動によって表示が決定されますが、予期せぬ結果になる可能性があるため、セルの結合範囲が重ならないように設計するのが一般的です。 - 表示の優先順位:
setSpan()
でセルを結合すると、結合された範囲のデータは、setSpan()
で指定した開始セル (row
,column
) に設定されたデータが表示されます。他の結合されたセルのデータは隠されますが、モデル上は存在し続けます。
無効な結合範囲 (invalid span given エラー)
これは最も一般的なエラーの一つです。setSpan()
の引数が無効な場合に発生します。
考えられる原因
- モデルが設定されていない:
setSpan()
を呼び出す前にQTableView
にモデル (setModel()
) が設定されていない場合。 - 範囲外: 結合を開始するセル (
row
,column
) や、結合範囲がテーブルの有効な範囲(モデルの行数、列数)を超えている場合。 - ゼロ:
rowSpanCount
やcolumnSpanCount
にゼロを指定した場合。結合するセルの数なので、最低でも1以上である必要があります。 - 負の数:
rowSpanCount
やcolumnSpanCount
に負の数を指定した場合。
トラブルシューティング
- デバッグ出力: 引数をデバッグ出力して、期待通りの値になっているか確認してください。
- モデルの確認:
setSpan()
を呼び出す前に、QTableView
に有効なモデルが設定されていることを確認してください。 - 引数の確認:
row
,column
,rowSpanCount
,columnSpanCount
の値が、モデルの有効な範囲内であり、かつrowSpanCount
とcolumnSpanCount
が1以上であることを確認してください。
セルの結合が期待通りに表示されない (データ表示の混乱)
セルは結合されたように見えるが、表示されるデータが期待と異なる場合があります。
考えられる原因
- モデルデータの不一致: 結合されたセルに表示したいデータが、開始セルに対応するモデルのアイテムに設定されていない場合。
- データの優先順位:
setSpan()
でセルを結合すると、結合された範囲のデータは、setSpan()
で指定した開始セル (row
,column
) に設定されたデータのみが表示されます。結合範囲内の他のセルのデータは隠されますが、モデル上は存在し続けます。
トラブルシューティング
- 不要なデータのクリア: 結合範囲内の他のセルに余分なデータがある場合、それらのセルのテキストをクリアするか、必要に応じて別の目的で使用することを検討してください。
- 開始セルのデータ: 結合された大きなセルに表示したいデータは、
setSpan()
で指定した開始セル(例:model->item(0, 0)->setText("結合されたデータ");
)に設定されていることを確認してください。
セルの結合範囲が重なる (overlapping spans)
複数の setSpan()
呼び出しで、異なる結合範囲が物理的に重なるように設定した場合、表示が不安定になったり、予期せぬ描画の乱れが発生したりすることがあります。
考えられる原因
- 意図しない重なり: 異なるロジックで複数の結合を設定した結果、意図せずに結合範囲が重なってしまった。
トラブルシューティング
clearSpans()
の利用: 特定の条件で結合を動的に変更する必要がある場合は、新しい結合を設定する前にclearSpans()
を呼び出して、既存のすべての結合を解除することを検討してください。- 結合範囲の設計: 複数のセルを結合する場合は、結合範囲が互いに重ならないように慎重に設計してください。通常、テーブルのレイアウトを事前に計画し、結合が必要な領域を明確に定義することが重要です。
セルのサイズ変更時に表示がおかしくなる (resize issues)
テーブルの幅や高さが変更されたときに、結合されたセルの表示が崩れることがあります。特に、QHeaderView
のリサイズモードが ResizeToContents
などに設定されている場合に発生しやすいです。
考えられる原因
sizeHint()
との相互作用: モデルのsizeHint()
やQAbstractItemView::sizeHintForColumn()
,QAbstractItemView::sizeHintForRow()
などのサイズ関連のメソッドとの相互作用が期待と異なる場合があります。- Qtの描画ロジック: 結合されたセルが複雑な場合に、Qtの内部的な描画ロジックが最適に機能しないことがあります。
トラブルシューティング
- カスタムデリゲート: より複雑な表示や描画が必要な場合は、カスタムデリゲート (
QStyledItemDelegate
を継承) を使用して、結合されたセルの描画をより細かく制御することを検討してください。 - 手動でのサイズ設定:
tableView->setColumnWidth()
やtableView->setRowHeight()
を使用して、結合されたセルを含む行や列のサイズを手動で調整することを検討してください。 - リサイズモードの調整:
QHeaderView::setSectionResizeMode()
の設定を試してみてください。QHeaderView::Stretch
やQHeaderView::Fixed
など、異なるリサイズモードを試すことで、表示が安定する場合があります。
モデルの変更と結合 (model changes and spans)
モデルの行や列が動的に追加・削除されたときに、setSpan()
で設定された結合が正しく追従しない、またはクラッシュする場合があります。
考えられる原因
- タイミングの問題: モデルの変更通知がビューに伝わる前に
setSpan()
を呼び出すなど、タイミングの問題。 - インデックスのずれ: モデルの行/列が挿入または削除された場合、既存のセルのインデックスがずれてしまい、
setSpan()
で設定された結合範囲が正しくない位置を指すようになる。
beginInsertRows()
,endInsertRows()
などの使用: モデルを実装する際に、beginInsertRows()
/endInsertRows()
などのヘルパー関数を正しく使用していることを確認してください。これらはビューにモデルの変更を適切に通知するために重要です。rowsInserted()
,rowsRemoved()
,columnsInserted()
,columnsRemoved()
シグナル: モデルの変更通知シグナル(例:rowsInserted()
)を監視し、これらのシグナルが発行された後に適切な結合を再適用するロジックを実装します。- モデル変更後の再設定: モデルの行や列が追加または削除された後には、必要に応じて
clearSpans()
を呼び出し、関連するすべてのsetSpan()
を再設定することを検討してください。
- コミュニティフォーラム: Qtの公式フォーラムやStack Overflowなどで同様の問題が報告されていないか検索し、解決策やヒントを探してください。
- デバッグ出力:
qDebug()
を使用して、setSpan()
の呼び出し前後の状態、モデルのデータ、行/列のインデックスなどを出力し、予期せぬ値がないか確認します。 - Qtドキュメントの参照:
QTableView::setSpan()
のドキュメントを再確認し、特に「関連する関数」や「注意点」セクションを確認してください。 - 最小限の再現コード: 問題が発生した場合、できるだけ問題を再現する最小限のコードを作成してください。これにより、原因の特定と解決が容易になります。
例1: 基本的なセルの結合 (2x2の結合)
最も基本的な例として、テーブルの左上から2行2列を結合するコードです。
#include <QApplication>
#include <QStandardItemModel>
#include <QTableView>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// QTableViewのインスタンスを作成
QTableView *tableView = new QTableView;
// モデルを作成 (5行5列)
QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(5, 5);
// モデルにデータを設定
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 5; ++col) {
model->setItem(row, col, new QStandardItem(QString("R%0C%1").arg(row).arg(col)));
}
}
// テーブルビューにモデルを設定
tableView->setModel(model);
// 0行0列から2行2列を結合
// 結合されるセルは、開始セル (0,0) のデータ "R0C0" を表示します。
tableView->setSpan(0, 0, 2, 2);
// 結合されたセルに表示したい特別なテキストを設定
model->item(0, 0)->setText("結合されたメインセル (R0C0)");
// ヘッダーの調整 (オプション)
tableView->horizontalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
tableView->verticalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
tableView->setWindowTitle("QTableView::setSpan - 基本的な結合");
tableView->show();
return app.exec();
}
解説
setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch)
は、テーブルのサイズに合わせて列幅と行高さを自動調整するために設定しています。- 結合されたセルに表示される内容は、結合の起点となるセル (この場合は
model->item(0, 0)
) のデータになります。 setSpan(0, 0, 2, 2)
は、0行0列を起点に、縦に2行、横に2列のセルを結合します。QStandardItemModel
を使用してデータモデルを作成します。
例2: 複数箇所でのセルの結合
テーブル内の複数の異なる場所でセルを結合する例です。
#include <QApplication>
#include <QStandardItemModel>
#include <QTableView>
#include <QDebug>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QTableView *tableView = new QTableView;
QStandardItemModel *model = new QStandardItemModel(6, 6);
for (int row = 0; row < 6; ++row) {
for (int col = 0; col < 6; ++col) {
model->setItem(row, col, new QStandardItem(QString("Cell(%0,%1)").arg(row).arg(col)));
}
}
tableView->setModel(model);
// 1つ目の結合: 0行0列から1行6列 (ヘッダー行のような結合)
tableView->setSpan(0, 0, 1, 6);
model->item(0, 0)->setText("テーブル全体のタイトル");
// 2つ目の結合: 2行1列から3行2列
tableView->setSpan(2, 1, 2, 2);
model->item(2, 1)->setText("データグループA");
// 3つ目の結合: 4行4列から2行1列 (横2行、縦1列)
tableView->setSpan(4, 4, 2, 1);
model->item(4, 4)->setText("縦方向のデータ");
tableView->horizontalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
tableView->verticalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
tableView->setWindowTitle("QTableView::setSpan - 複数箇所の結合");
tableView->show();
return app.exec();
}
解説
setSpan(4, 4, 2, 1)
は、開始セル(4,4)から2行1列の縦方向の結合です。setSpan(2, 1, 2, 2)
は、開始セル(2,1)から2行2列の結合です。setSpan(0, 0, 1, 6)
は、テーブルの最初の行全体をタイトル行のように結合しています。- 複数の
setSpan()
呼び出しを使用して、異なる形状と位置でセルを結合しています。
例3: 動的なセルの結合と解除
ユーザー操作やプログラムのロジックに基づいてセルを動的に結合したり解除したりする例です。この例では、ボタンクリックで結合を切り替えます。
#include <QApplication>
#include <QStandardItemModel>
#include <QTableView>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug>
class SpanExample : public QWidget {
Q_OBJECT // シグナル/スロットを使用する場合に必要
public:
SpanExample(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
tableView = new QTableView;
model = new QStandardItemModel(5, 5);
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 5; ++col) {
model->setItem(row, col, new QStandardItem(QString("R%0C%1").arg(row).arg(col)));
}
}
tableView->setModel(model);
toggleSpanButton = new QPushButton("セルの結合/解除");
connect(toggleSpanButton, &QPushButton::clicked, this, &SpanExample::toggleSpan);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout;
layout->addWidget(tableView);
layout->addWidget(toggleSpanButton);
setLayout(layout);
isSpanned = false; // 初期状態では結合されていない
tableView->horizontalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
tableView->verticalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
setWindowTitle("QTableView::setSpan - 動的な結合");
}
private slots:
void toggleSpan() {
if (isSpanned) {
// 結合を解除
tableView->setSpan(1, 1, 1, 1); // 元のサイズに戻す (1x1)
model->item(1, 1)->setText("R1C1"); // 元のテキストに戻す
qDebug() << "セルの結合を解除しました";
toggleSpanButton->setText("セルの結合");
} else {
// セルを結合
tableView->setSpan(1, 1, 2, 3); // 1行1列から2行3列に結合
model->item(1, 1)->setText("結合されました!");
qDebug() << "セルを結合しました";
toggleSpanButton->setText("セルの解除");
}
isSpanned = !isSpanned; // 状態を反転
}
private:
QTableView *tableView;
QStandardItemModel *model;
QPushButton *toggleSpanButton;
bool isSpanned;
};
#include "main.moc" // mocファイルをインクルード
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
SpanExample window;
window.show();
return app.exec();
}
解説
main.moc
のインクルードは、シグナル/スロットを使用するためにQObjectのメタオブジェクトコンパイラ (moc) が生成するファイルが必要なためです。Qt Creatorなどを使用している場合は自動的に処理されますが、手動でビルドする場合は注意が必要です。setSpan(1, 1, 2, 3)
で結合し、setSpan(1, 1, 1, 1)
で結合を解除(元の1x1のサイズに戻す)しています。toggleSpan()
スロット関数は、isSpanned
フラグに基づいてセルの結合と解除を切り替えます。QWidget
を継承したカスタムクラスSpanExample
を作成し、UI要素(QTableView
とQPushButton
)を配置しています。
すべての結合を一度に解除したい場合に clearSpans()
を使用する例です。
#include <QApplication>
#include <QStandardItemModel>
#include <QTableView>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug>
class ClearSpanExample : public QWidget {
Q_OBJECT
public:
ClearSpanExample(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
tableView = new QTableView;
model = new QStandardItemModel(5, 5);
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 5; ++col) {
model->setItem(row, col, new QStandardItem(QString("R%0C%1").arg(row).arg(col)));
}
}
tableView->setModel(model);
// いくつかのセルを結合
tableView->setSpan(0, 0, 2, 2);
model->item(0, 0)->setText("結合1");
tableView->setSpan(3, 1, 1, 3);
model->item(3, 1)->setText("結合2");
clearSpansButton = new QPushButton("すべての結合を解除");
connect(clearSpansButton, &QPushButton::clicked, this, &ClearSpanExample::clearAllSpans);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout;
layout->addWidget(tableView);
layout->addWidget(clearSpansButton);
setLayout(layout);
tableView->horizontalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
tableView->verticalHeader()->setSectionResizeMode(QHeaderView::Stretch);
setWindowTitle("QTableView::clearSpans Example");
}
private slots:
void clearAllSpans() {
tableView->clearSpans(); // すべての結合を解除
qDebug() << "すべての結合を解除しました。";
// 必要に応じて、結合されていたセルのテキストを元の状態に戻す
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 5; ++col) {
if (model->item(row, col)->text() != QString("R%0C%1").arg(row).arg(col)) {
model->item(row, col)->setText(QString("R%0C%1").arg(row).arg(col));
}
}
}
}
private:
QTableView *tableView;
QStandardItemModel *model;
QPushButton *clearSpansButton;
};
#include "main.moc"
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
ClearSpanExample window;
window.show();
return app.exec();
}
clearSpans()
はビューの表示のみをリセットするため、モデルのデータ自体は変更されません。したがって、結合によって隠されていた他のセルのデータが再び表示されることになります。例では、テキストを元の状態に戻す処理も追加しています。- 「すべての結合を解除」ボタンをクリックすると、
tableView->clearSpans()
が呼び出され、設定されたすべての結合が解除されます。 - 複数のセルが結合された状態でアプリケーションを開始します。
QTableWidget でのセルの結合
QTableWidget
は QTableView
と QStandardItemModel
を一体化した、よりシンプルなテーブルウィジェットです。QTableView
ができることはほぼすべて QTableWidget
でも可能です。QTableWidget
も setSpan()
メソッドを持っています。
利点
- 迅速なプロトタイピング: 簡単なテーブルであれば、少ないコード量で実装できます。
- シンプルさ: モデル/ビューの概念を意識せずに、直接セルにアイテムを設定したり、セルを操作したりできます。
欠点
- 柔軟性に欠ける: 複雑なデータモデルやカスタムビューの描画には向いていません。
- 大規模データには不向き: 非常に大量のデータを扱う場合、すべてのデータをメモリに保持するためパフォーマンスが低下する可能性があります。
使用例
#include <QApplication>
#include <QTableWidget>
#include <QTableWidgetItem>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QTableWidget *tableWidget = new QTableWidget(5, 5); // 5行5列のテーブルを作成
// セルにデータを設定
for (int row = 0; row < 5; ++row) {
for (int col = 0; col < 5; ++col) {
tableWidget->setItem(row, col, new QTableWidgetItem(QString("R%0C%1").arg(row).arg(col)));
}
}
// セルを結合 (QTableView::setSpan と同じように使用)
tableWidget->setSpan(0, 0, 2, 2);
tableWidget->item(0, 0)->setText("QTableWidget 結合セル");
tableWidget->setWindowTitle("QTableWidget::setSpan Example");
tableWidget->show();
return app.exec();
}
カスタムデリゲート (QStyledItemDelegate) を使用した描画
これは setSpan()
の直接の代替ではありませんが、セル内のコンテンツの描画を完全に制御できるため、特定のセルの外観をカスタマイズして「結合されているように見せる」ことができます。複数のセルにまたがるような描画ロジックを実装することで、視覚的に結合されたような効果を出すことが可能です。
利点
- モデルとビューの分離: データモデルは純粋なデータのみを保持し、表示はデリゲートに任せることができます。
- 究極の柔軟性: セル内の描画をピクセル単位で制御できます。カスタムグラフィック、複雑なテキストレイアウト、複数行表示などを実現できます。
欠点
- パフォーマンスへの影響: 複雑な描画ロジックは、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。
- 複雑さ: カスタムデリゲートの実装は、
setSpan()
を使用するよりもはるかに複雑になります。特に描画ロジックは細かく制御する必要があります。
考え方
- カスタムモデル: 結合状態を保持するためのカスタムモデル (
QAbstractTableModel
またはQAbstractItemModel
のサブクラス) を作成します。 - カスタムデリゲート:
QStyledItemDelegate
を継承し、paint()
メソッドをオーバーライドします。 paint()
メソッド内で、渡されたQModelIndex
に基づいて、そのセルが結合されたセルの一部であるかどうかを判断します。- 結合されたセルの描画範囲を計算し、その範囲全体にわたって必要なコンテンツを描画します。必要に応じて、他の結合されるはずだったセルの描画をスキップします。
簡単な描画のアイデア (擬似コード)
// カスタムデリゲートの paint メソッド内
void CustomSpanDelegate::paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const {
if (model->isCellPartOfSpan(index.row(), index.column())) {
// このセルが結合範囲の左上隅のセルであれば、結合された範囲全体を描画
if (model->isSpanStartCell(index.row(), index.column())) {
QRect spanRect = calculateSpanRect(index.row(), index.column()); // 結合されたセルの全体範囲を計算
painter->fillRect(spanRect, option.palette.highlight()); // 背景色など
painter->drawText(spanRect, Qt::AlignCenter, index.data(Qt::DisplayRole).toString()); // テキスト描画
}
// 結合範囲内の他のセルであれば、何もしない(描画をスキップ)
} else {
// 通常のセル描画
QStyledItemDelegate::paint(painter, option, index);
}
}
QGridLayout を使用したレイアウト
これは QTableView
や QTableWidget
の代替ではなく、テーブルのようなグリッドレイアウトをゼロから構築する場合の選択肢です。各「セル」が独立したウィジェットであるため、非常に柔軟なレイアウトが可能です。
利点
- 視覚的な結合:
QGridLayout
のaddWidget()
メソッドでrowSpan
とcolumnSpan
を指定することで、ウィジェットが複数のグリッドセルにまたがるように配置できます。これはsetSpan()
と同様の概念です。 - ウィジェットベースの柔軟性: 各セルに任意の
QWidget
を配置できます。ボタン、ラベル、画像、カスタム描画ウィジェットなどを自由に配置できます。
欠点
- 標準的なテーブル機能の欠如: ソート、フィルタリング、選択、ヘッダーなどの標準的なテーブル機能は、自分で実装する必要があります。
- 大規模データには不向き: 大量のデータを扱う場合、大量のウィジェットを作成することになるため、パフォーマンスが低下する可能性があります。
- データモデルがない:
QGridLayout
はデータモデルとは直接関連しません。データを表示するには、各ウィジェットに手動でデータを設定する必要があります。
使用例
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QGridLayout>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QWidget *window = new QWidget;
QGridLayout *gridLayout = new QGridLayout(window);
// 通常のセルにQLabelを配置
gridLayout->addWidget(new QLabel("Cell (0,0)"), 0, 0);
gridLayout->addWidget(new QLabel("Cell (0,1)"), 0, 1);
gridLayout->addWidget(new QLabel("Cell (1,0)"), 1, 0);
// 複数のグリッドセルにまたがるウィジェット (rowSpan=2, columnSpan=3)
QLabel *mergedLabel = new QLabel("このラベルは2行3列にまたがります");
mergedLabel->setAlignment(Qt::AlignCenter);
mergedLabel->setStyleSheet("background-color: lightblue; border: 1px solid blue;");
gridLayout->addWidget(mergedLabel, 1, 1, 2, 3); // row=1, col=1, rowSpan=2, colSpan=3
// 結合された領域と重ならないように他のウィジェットを配置
gridLayout->addWidget(new QPushButton("ボタン"), 3, 0);
gridLayout->addWidget(new QLabel("Cell (3,4)"), 3, 4);
// レイアウトの伸縮を設定 (オプション)
for (int i = 0; i < 5; ++i) {
gridLayout->setColumnStretch(i, 1);
gridLayout->setRowStretch(i, 1);
}
window->setWindowTitle("QGridLayout Span Example");
window->resize(400, 300);
window->show();
return app.exec();
}
解説
rowSpan
とcolumnSpan
は、QTableView::setSpan()
と同じように機能します。QGridLayout::addWidget(QWidget *widget, int row, int column, int rowSpan, int columnSpan)
を使用して、ウィジェットが複数のグリッドセルにまたがるように配置します。
これは最も柔軟で強力なアプローチですが、最も複雑でもあります。QGraphicsView
はカスタムの2Dグラフィックシーンを表示するためのフレームワークです。これを使用して、完全にカスタムなテーブルをゼロから描画することができます。
利点
- インタラクション: 各グラフィックアイテムは独自のインタラクション(クリック、ドラッグなど)を持つことができます。
- 高パフォーマンス: 大量のカスタムグラフィックアイテムを効率的に描画できます。
- 完全な描画制御: どのような形状のセルでも、どのような描画でも可能です。曲線的な結合、非矩形のセルなども実現できます。
欠点
- 複雑な実装: 標準的なテーブルの機能(ソート、選択、編集など)はすべて自分で実装する必要があります。
- 学習コスト:
QGraphicsView
,QGraphicsScene
,QGraphicsItem
の概念を理解し、実装する必要があります。
考え方
QGraphicsScene
を作成し、そこにテーブルの各セルを表すQGraphicsRectItem
やカスタムのQGraphicsItem
を追加します。- 結合されたセルは、複数のグリッドスペースを占める単一の
QGraphicsItem
として作成します。 - セルのデータは、対応する
QGraphicsItem
のカスタムプロパティとして保持するか、外部のデータモデルと連携させます。 QGraphicsView
でそのシーンを表示します。
QTableView::setSpan()
は、QTableView
や QTableWidget
で既存のテーブル構造のセルを結合する最も簡単な方法です。
代替案を検討する際は、以下の点を考慮してください。
- 開発の複雑さ: プロトタイピングやシンプルな要件には
QTableWidget
やQGridLayout
が適していますが、より柔軟性が必要な場合は複雑さが増します。 - 必要なカスタマイズのレベル: 単純なセル結合であれば
setSpan()
で十分です。複雑な描画やインタラクションが必要な場合は、カスタムデリゲートやQGraphicsView
が必要になるかもしれません。 - データの量と複雑さ: 大量のデータや複雑なデータ構造を扱う場合は、モデル/ビューアーキテクチャ (
QTableView
+ カスタムモデル) が最適です。