Qtプログラマ必見！QPlainTextEditダブルクリックイベントの応用

QPlainTextEdit::mouseDoubleClickEvent() の役割

このイベントハンドラは、デフォルトではテキストの単語選択を行います。つまり、ダブルクリックした単語が選択状態になります。しかし、このイベントハンドラをオーバーライド（再定義）することで、ダブルクリック時の動作をカスタマイズできます。

イベントハンドラの仕組み

1. ダブルクリックの検出
   ユーザーがQPlainTextEdit内でマウスボタンを短時間に2回クリックすると、Qtはダブルクリックを検出します。
2. イベントの生成
   ダブルクリックが検出されると、QMouseEventオブジェクトが生成されます。このオブジェクトには、マウスの位置、ボタンの種類、修飾キーの状態などの情報が含まれます。
3. イベントハンドラの呼び出し
   QPlainTextEditは、生成されたQMouseEventオブジェクトを引数として、mouseDoubleClickEvent()イベントハンドラを呼び出します。
4. デフォルトの動作
   mouseDoubleClickEvent()のデフォルト実装では、ダブルクリックされた位置の単語を選択します。
5. オーバーライドによるカスタマイズ
   mouseDoubleClickEvent()をサブクラスでオーバーライドすることで、デフォルトの動作を置き換え、独自の処理を実装できます。

オーバーライドの例

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>

class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override {
        // デフォルトの動作を抑制
        // QPlainTextEdit::mouseDoubleClickEvent(event);

        // 独自の処理を追加
        qDebug() << "Double click at:" << event->pos();

        //追加でカーソル下の単語を取得する。
        QTextCursor cursor = cursorForPosition(event->pos());
        cursor.select(QTextCursor::WordUnderCursor);
        qDebug() << "Selected word:" << cursor.selectedText();

        //追加で任意の処理をおこなう。
    }
};

この例では、MyPlainTextEditクラスでmouseDoubleClickEvent()をオーバーライドしています。

• qDebug() << "Selected word:" << cursor.selectedText();で選択された単語をコンソールに出力します。
• cursor.select(QTextCursor::WordUnderCursor);でカーソル下の単語を選択状態にします。
• QTextCursor cursor = cursorForPosition(event->pos());でクリックされた位置のカーソルを取得します。
• qDebug() << "Double click at:" << event->pos();で、ダブルクリックされた位置をコンソールに出力しています。
• QPlainTextEdit::mouseDoubleClickEvent(event);をコメントアウトすることで、デフォルトの単語選択の動作を無効化しています。

使用例

#include "myplaintextedit.h"
#include <QApplication>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    MyPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("This is a sample text.");
    textEdit.show();

    return app.exec();
}

この例では、MyPlainTextEditを作成し、テキストを設定して表示しています。ダブルクリックすると、コンソールにダブルクリックの位置と選択された単語が出力されます。

---

一般的なエラーとトラブルシューティング

1. • 原因
     
     • ウィジェットがマウスイベントを受け取るように設定されていない。
     • 親ウィジェットがマウスイベントを遮断している。
     • ダブルクリックの間隔が長すぎるか短すぎる。
   • トラブルシューティング
     
     • QPlainTextEditのsetMouseTracking(true)を呼び出し、マウスイベントを常に追跡するように設定します。（必要な場合にのみ）
     • 親ウィジェットのマウスイベントハンドラを確認し、イベントがQPlainTextEditに伝搬されているか確認します。
     • OSの設定でダブルクリックの間隔を調整します。
     • QPlainTextEditが正しく表示されているか確認します。表示されていない場合イベントは発生しません。

2. イベントは発生するが、期待した動作にならない

   • 原因
     
     • mouseDoubleClickEvent()のオーバーライドが正しく実装されていない。
     • QMouseEventオブジェクトの情報を誤って使用している。
     • QPlainTextEditのカーソル、選択状態が期待するものと異なっている。
   • トラブルシューティング
     
     • mouseDoubleClickEvent()のオーバーライドを慎重に確認し、必要な処理が正しく実装されているか確認します。
     • QMouseEventオブジェクトのpos()、button()、modifiers()などの情報をデバッグ出力し、期待通りの値が取得されているか確認します。
     • QTextCursorを使用してカーソル位置や選択範囲の操作を行う場合、その操作が意図通りであるかデバッグ出力等で確認します。
     • QPlainTextEditのreadOnly()状態を確認します。読み取り専用の場合、カーソル操作や選択範囲の変更が制限されます。

3. ダブルクリック時のテキスト選択が予期しない動作をする

   • 原因
     
     • デフォルトのテキスト選択動作とオーバーライドした処理が競合している。
     • テキストの書式や構造が複雑で、単語の境界が正しく認識されない。
     • QPlainTextEditのwordWrapMode()が意図しない動作をしている。
   • トラブルシューティング
     
     • QPlainTextEdit::mouseDoubleClickEvent(event);を呼び出すかどうかを慎重に検討し、必要な場合にのみ呼び出します。
     • QTextCursor::WordUnderCursorを使用している場合、テキストの内容によって単語の認識が異なる場合があります。必要に応じて、より細かい単位でのテキスト選択を実装します。
     • QPlainTextEditのwordWrapMode()を確認し、必要に応じてQTextOption::NoWrapなどに変更します。

4. イベントが発生するが、GUIの更新が遅延する

   • 原因
     
     • イベントハンドラ内で時間のかかる処理を実行している。
     • GUIの更新が頻繁に発生し、負荷が高くなっている。
   • トラブルシューティング
     
     • 時間のかかる処理は、別のスレッドで実行することを検討します。
     • GUIの更新を最小限に抑え、必要な場合にのみ更新するようにします。
     • QApplication::processEvents()を適宜呼び出し、イベントループを処理します。

デバッグのヒント

• Qtのドキュメントやオンラインフォーラムを参照し、同様の問題が発生していないか確認します。
• デバッガを使用して、イベントハンドラの処理をステップ実行し、変数の値や処理の流れを確認します。
• qDebug()を使用して、イベントの発生や変数の値をコンソールに出力し、動作を確認します。

---

例1: ダブルクリックされた位置の情報を表示する

この例では、ダブルクリックされた位置の座標をコンソールに出力します。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>

class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override {
        qDebug() << "ダブルクリック位置: (" << event->pos().x() << ", " << event->pos().y() << ")";
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    MyPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("これはサンプルテキストです。\nダブルクリックしてください。");
    textEdit.show();

    return app.exec();
}

解説

• qDebug()を使用して、座標をコンソールに出力しています。
• mouseDoubleClickEvent()をオーバーライドし、QMouseEventオブジェクトのpos()メソッドを使用してダブルクリックされた位置の座標を取得しています。
• MyPlainTextEditクラスはQPlainTextEditを継承しています。

例2: ダブルクリックされた単語を選択し、コンソールに出力する

この例では、ダブルクリックされた単語を選択し、選択された単語をコンソールに出力します。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>
#include <QTextCursor>

class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override {
        QTextCursor cursor = cursorForPosition(event->pos());
        cursor.select(QTextCursor::WordUnderCursor);
        qDebug() << "選択された単語: " << cursor.selectedText();
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    MyPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("これはサンプルテキストです。単語をダブルクリックしてください。");
    textEdit.show();

    return app.exec();
}

解説

• cursor.selectedText()を使用して、選択された単語のテキストを取得し、qDebug()で出力します。
• cursor.select(QTextCursor::WordUnderCursor)を使用して、カーソル位置の単語を選択します。
• cursorForPosition(event->pos())を使用して、ダブルクリックされた位置のQTextCursorオブジェクトを取得します。

例3: ダブルクリックで特定の行をハイライトする

この例では、ダブルクリックされた行をハイライト表示します。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>
#include <QTextCursor>
#include <QTextBlockFormat>
#include <QTextCharFormat>

class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override {
        QTextCursor cursor = cursorForPosition(event->pos());
        cursor.select(QTextCursor::LineUnderCursor);

        QTextBlockFormat blockFormat;
        blockFormat.setBackground(Qt::yellow);

        QTextCursor tempCursor = textCursor();
        tempCursor.setPosition(cursor.selectionStart());
        tempCursor.setPosition(cursor.selectionEnd(), QTextCursor::KeepAnchor);
        tempCursor.setBlockFormat(blockFormat);
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    MyPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("行1\n行2\n行3\n行4");
    textEdit.show();

    return app.exec();
}

解説

• tempCursor.setBlockFormat(blockFormat)を使用して、行の背景色を変更します。
• QTextCursorを新たに作成し、選択された行の範囲に設定します。
• QTextBlockFormatを作成し、背景色を黄色に設定します。
• cursor.select(QTextCursor::LineUnderCursor)を使用して、ダブルクリックされた行を選択します。

例4: デフォルトのダブルクリック動作を抑制する

この例では、デフォルトの単語選択の動作を抑制し、独自の処理のみを実行します。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>

class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
protected:
    void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event) override {
        // デフォルトの動作を抑制
        // QPlainTextEdit::mouseDoubleClickEvent(event);

        // 独自の処理
        qDebug() << "独自のダブルクリック処理";
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    MyPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("ダブルクリックしても単語は選択されません。");
    textEdit.show();

    return app.exec();
}

• qDebug()を使用して、独自の処理が実行されたことをコンソールに出力しています。
• QPlainTextEdit::mouseDoubleClickEvent(event);をコメントアウトすることで、デフォルトの単語選択の動作を無効化しています。

---

イベントフィルタを使用する

イベントフィルタは、特定のオブジェクトに送信されるすべてのイベントを監視し、必要に応じて処理または変更できる強力なメカニズムです。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>

class MyEventFilter : public QObject {
public:
    MyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}

protected:
    bool eventFilter(QObject *obj, QEvent *event) override {
        if (event->type() == QEvent::MouseButtonDblClick) {
            QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent *>(event);
            qDebug() << "イベントフィルタ: ダブルクリック位置: (" << mouseEvent->pos().x() << ", " << mouseEvent->pos().y() << ")";
            return true; // イベントを処理済みとして伝搬を止める(必要に応じてfalseにする)
        }
        return QObject::eventFilter(obj, event);
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    QPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("イベントフィルタでダブルクリックを検出します。");
    textEdit.show();

    MyEventFilter *filter = new MyEventFilter(&textEdit);
    textEdit.installEventFilter(filter);

    return app.exec();
}

メリット

• イベントの伝搬を制御できる。
• ウィジェットのサブクラス化を避けられる。
• 複数のウィジェットに対して同じイベントフィルタを再利用できる。

デメリット

• デバッグが難しくなることがある。
• イベントフィルタの処理が複雑になる可能性がある。

QObject::connect()とラムダ式を使用する

QObject::connect()とラムダ式を使用して、マウスのダブルクリックイベントを捕捉し、処理できます。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    QPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("connectとラムダ式でダブルクリックを検出します。");
    textEdit.show();

    QObject::connect(&textEdit, &QPlainTextEdit::cursorPositionChanged, [&textEdit]() {
        //必要に応じて、カーソル位置の変化を監視して、ダブルクリック相当の処理を実装する。
    });

    //マウスイベントを直接connectで捕捉することはできない。
    //イベントフィルタと組み合わせると、この方法でもダブルクリックイベントを処理できる。

    return app.exec();
}

メリット

• ラムダ式を使用して、イベントハンドラをインラインで定義できる。
• コードが簡潔になる。

デメリット

• イベントフィルタと組み合わせた場合、イベントフィルタのデメリットも考慮する必要がある。
• QPlainTextEditのcursorPositionChangedシグナルはダブルクリックイベントそのものではないため、ダブルクリックイベントを直接捕捉することは難しい。ダブルクリックイベントを直接捕捉するためには、イベントフィルタと組み合わせる必要がある。

マウスイベントを監視し、ダブルクリックを自前で検出する

mousePressEvent()とmouseReleaseEvent()をオーバーライドし、クリックの間隔を監視してダブルクリックを自前で検出することもできます。

#include <QPlainTextEdit>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>
#include <QElapsedTimer>

class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
public:
    MyPlainTextEdit(QWidget *parent = nullptr) : QPlainTextEdit(parent) {}

protected:
    void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override {
        if (event->button() == Qt::LeftButton) {
            if (m_lastClickPos == event->pos() && m_elapsedTimer.elapsed() < 500) { // ダブルクリックと判定
                qDebug() << "自前でダブルクリックを検出: (" << event->pos().x() << ", " << event->pos().y() << ")";
            } else {
                m_lastClickPos = event->pos();
                m_elapsedTimer.restart();
            }
        }
        QPlainTextEdit::mousePressEvent(event);
    }

private:
    QPoint m_lastClickPos;
    QElapsedTimer m_elapsedTimer;
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    MyPlainTextEdit textEdit;
    textEdit.setPlainText("自前でダブルクリックを検出します。");
    textEdit.show();

    return app.exec();
}

メリット

• プラットフォームに依存しない。
• ダブルクリックの検出条件を細かく制御できる。

• OSのダブルクリック設定と独立して動作する。
• クリックの間隔を調整する必要がある。
• 実装が複雑になる。