QtプログラマーのためのQPlainTextEdit入門: modificationChanged()を中心に
QPlainTextEdit::modificationChanged() とは?
QPlainTextEdit::modificationChanged() は、Qt Widgets モジュールで提供されるシグナルで、QPlainTextEdit ウィジェットの内容が変更された際に発せられます。
- シグナル: あるイベントが発生した際に、他のオブジェクトに通知するために使用されるメカニズムです。
- QPlainTextEdit: 多行のプレーンテキストを編集するためのウィジェットです。
つまり、このシグナルは、ユーザーがテキストを入力したり、削除したり、コピー&ペーストを行ったりして、テキストエディタの内容が変更されたことをプログラムに知らせるためのものです。
具体的な使い方
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QPlainTextEdit textEdit;
QObject::connect(&textEdit, &QPlainTextEdit::modificationChanged,
[&textEdit]() {
bool modified = textEdit.document()->isModified();
qDebug() << "テキストが変更されました: " << modified;
});
textEdit.show();
return a.exec();
}
このコードでは、
- QPlainTextEdit オブジェクトを作成します。
- modificationChanged() シグナルとスロットを接続します。
- スロットの中では、isModified() メソッドを使って、ドキュメントが変更されたかどうかを確認し、変更された場合はデバッグ出力を行います。
- 変更通知
ユーザーにテキストが変更されたことを知らせるダイアログを表示する。 - 自動保存
一定時間ごとに変更内容を自動保存する。 - 「元に戻す」「やり直し」機能の実装
変更履歴を管理し、これらの機能を有効にする。 - 「保存」ボタンの有効化
テキストが変更されたときにのみ「保存」ボタンを有効にする。
QPlainTextEdit::modificationChanged() シグナルは、テキストエディタのコンテンツが変更されたことを検知し、それに応じた処理を行うために非常に有用なツールです。このシグナルを活用することで、よりインタラクティブで機能的なテキストエディタを開発することができます。
- setModified() メソッドは、ドキュメントの変更状態を手動で設定できます。
- isModified() メソッドは、ドキュメントが最後に保存されてから変更されたかどうかを返します。
このシグナルは、カスタムのテキストエディタを作成する際だけでなく、既存の QPlainTextEdit を継承したクラスで、より高度な機能を実装する際にも利用できます。
QPlainTextEdit::modificationChanged() の利用時に発生する可能性のあるエラーやトラブル、そしてそれらの解決方法について解説します。
よくあるエラーとその原因
- スロット内で例外が発生する
- 原因
スロット内の処理でエラーが発生し、シグナル処理が中断している、など。 - 解決
try-catch ブロックで例外を捕捉し、適切な処理を行ってください。
- 原因
- シグナルが頻繁に発火しすぎる
- 原因
テキストの入力中に何度もシグナルが発火している、など。 - 解決
debounce (デバウンス) 処理を導入し、一定時間内に複数のシグナルが発火した場合、最後のシグナルのみ処理するようにすることができます。
- 原因
- isModified() が期待通りに動作しない
- 原因
ドキュメントの変更状態が正しく設定されていない、他の要因で変更状態がリセットされている、など。 - 解決
setModified() を使用して手動で変更状態を設定したり、他の要因による変更状態のリセットを調査してください。
- 原因
- シグナルとスロットの接続が正しく行われていない
- 原因
connect() 関数の引数が間違っている、オブジェクトが破棄されている、など。 - 解決
connect() 関数の引数を再確認し、接続先オブジェクトが有効であることを確認してください。
- 原因
トラブルシューティングのヒント
- Qt のドキュメント
Qt の公式ドキュメントには、QPlainTextEdit やシグナルとスロットに関する詳細な情報が記載されています。 - ブレークポイント
デバッガを使って、問題が発生している箇所でプログラムの実行を中断し、変数の値などを詳しく調べることができます。 - デバッグ出力
qDebug() などのデバッグ出力機能を使って、シグナルが発火するタイミングやスロット内の変数の値を確認することで、問題の原因を特定できます。
シグナルが頻繁に発火する場合のデバウンス処理
#include <QTimer>
// ...
QObject::connect(&textEdit, &QPlainTextEdit::modificationChanged,
[&textEdit, this]() {
if (modificationTimer.isActive()) {
modificationTimer.stop();
}
modificationTimer.singleShot(500, this, [this] {
bool modified = textEdit.document()->isModified();
qDebug() << "テキストが変更されました: " << modified;
});
});
上記のコードでは、QTimer を利用して、一定時間内に複数のシグナルが発火した場合、最後のシグナルのみ処理するようにしています。
- カスタムテキストエディタ
QPlainTextEdit を継承して、独自のテキストエディタを作成することができます。 - undo/redo 機能
QTextDocument クラスの undoStack() メソッドを使って、undo/redo 機能を実装できます。 - QTextEdit と QPlainTextEdit の違い
QTextEdit はリッチテキストを扱うことができ、QPlainTextEdit はプレーンテキストに特化しています。
保存ボタンの有効化
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
#include <QPushButton>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QPlainTextEdit textEdit;
QPushButton saveButton("保存");
saveButton.setEnabled(false); // 初期状態では無効
QObject::connect(&textEdit, &QPlainTextEdit::modificationChanged,
[&saveButton]() {
saveButton.setEnabled(textEdit.document()->isModified());
});
// レイアウト設定など...
return app.exec();
}
このコードでは、QPlainTextEditの内容が変更されると、saveButtonが有効/無効になります。
自動保存
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
#include <QTimer>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QPlainTextEdit textEdit;
QTimer autoSaveTimer;
autoSaveTimer.setInterval(10000); // 10秒ごとに保存
QObject::connect(&textEdit, &QPlainTextEdit::modificationChanged,
[&autoSaveTimer]() {
autoSaveTimer.start();
});
QObject::connect(&autoSaveTimer, &QTimer::timeout,
[&textEdit]() {
// 保存処理
qDebug() << "自動保存";
textEdit.document()->setModified(false);
});
// ...
return app.exec();
}
このコードでは、QPlainTextEditの内容が変更されると、QTimerがスタートし、一定時間後に自動保存が行われます。
元に戻す/やり直し
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QPlainTextEdit textEdit;
// ...
// 元に戻す/やり直しのアクションを定義
QAction *undoAction = textEdit.document()->createUndoAction(this, tr("&元に戻す"));
QAction *redoAction = textEdit.document()->createRedoAction(this, tr("&やり直し"));
// ...
return app.exec();
}
QTextDocumentのcreateUndoAction()とcreateRedoAction()を使うことで、簡単に元に戻す/やり直しの機能を実装できます。
- 検索
QPlainTextEdit::find()メソッドを使って、テキスト内を検索できます。 - ドラッグ&ドロップ
QPlainTextEditはドラッグ&ドロップに対応しています。 - カスタムコンテキストメニュー
QPlainTextEdit::customContextMenuRequested()シグナルを利用して、右クリックメニューをカスタマイズできます。
- メモリリーク
QObjectを正しく破棄しないと、メモリリークが発生する可能性があります。 - スレッドセーフ
Qtのシグナルとスロットはスレッドセーフではありません。異なるスレッドからシグナルとスロットを接続したり、呼び出したりする場合には注意が必要です。
QPlainTextEdit::modificationChanged() シグナルは、QPlainTextEdit の内容が変更された際に発せられ、非常に便利な機能ですが、状況によっては他の方法も検討できます。
代替方法の検討が必要なケース
- カスタムな変更検知ロジック
標準的な変更検知では対応できない、独自の変更検知ロジックが必要な場合。 - より細かい変更の検知
modificationChanged() は、内容が変更されたこと自体を通知しますが、どの部分がどのように変更されたかまでは詳細な情報を与えません。 - 高頻度の変更検知
テキストエディタのように、ユーザーが頻繁に内容を変更する場合、modificationChanged() が頻繁に呼び出され、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。
代替方法
QTextDocument の変更履歴を利用する
- デメリット
undo/redo 操作を頻繁に行う場合は、オーバーヘッドが発生する可能性があります。 - メリット
undo/redo 機能と連携しやすく、より詳細な変更履歴を取得できます。 - undo/redo スタック
QTextDocument は、undo/redo 操作のためのスタックを持っています。このスタックの状態を監視することで、内容が変更されたかどうかを検知できます。
QObject::connect(textEdit->document(), &QTextDocument::undoAvailable,
[&textEdit]() {
// 元に戻すことができる状態になった
});
QPlainTextEdit を継承してカスタムシグナルを発する
- デメリット
コードの量が増え、保守性が低下する可能性があります。 - メリット
柔軟な変更検知が可能になります。 - カスタムロジック
QPlainTextEdit を継承して、独自の変更検知ロジックを実装し、カスタムシグナルを発することができます。
class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit {
Q_OBJECT
public:
MyPlainTextEdit(QWidget *parent = nullptr) : QPlainTextEdit(parent ) {}
signals:
void myTextChanged();
protected:
void insertText(const QString &text, QTextCursor &cursor) override {
QPlainTextEdit::insertText(text, cursor);
emit myTextChanged();
}
// ...その他のオーバーライド
};
タイマーを利用して定期的に状態を比較する
- デメリット
変更検知のタイミングが遅れる可能性があります。 - メリット
実装が簡単です。 - 簡易的な変更検知
一定時間ごとにテキストの内容を比較し、変更があれば処理を行う方法です。
QTimer timer;
timer.setInterval(1000); // 1秒ごとにチェック
QObject::connect(&timer, &QTimer::timeout, [&textEdit] {
// テキストの内容を比較する
});
- 実装の容易さ
カスタムロジックを実装する場合は、開発コストも考慮する必要があります。 - 詳細度
どのようなレベルの変更を検知したいかによって、適切な方法が変わります。 - パフォーマンス
高頻度の変更検知が必要な場合は、パフォーマンスを考慮する必要があります。
どの方法を選ぶかは、具体的なユースケースによって異なります。 それぞれのメリットデメリットを比較し、最適な方法を選択してください。
- QTextDocument のブロックシグナル
QTextDocument は、ブロックの挿入、削除、変更などのイベントを通知するシグナルも提供しています。