Qt QPlainTextEdit 行折り返し (lineWrapMode) の解説とプログラミング
QPlainTextEdit::lineWrapMode とは
QPlainTextEdit::lineWrapMode
は、QPlainTextEdit
ウィジェット(複数行のプレーンテキストを表示・編集するためのクラス)内で、長い行がどのように表示されるかを制御するためのプロパティ(設定)です。具体的には、テキストがウィジェットの幅を超えた場合に、自動的に折り返して表示するかどうか、そしてどのように折り返すかを指定します。
主な値(モード)
lineWrapMode
プロパティには、以下の主要な値を設定できます。これらの値は QPlainTextEdit::LineWrapMode
というenum型で定義されています。
-
QPlainTextEdit::FixedColumnWidth
: 指定された文字数で長い行が折り返されます。折り返し位置は固定された文字数に基づいており、ウィジェットのサイズが変更されても変わりません。このモードを使用するには、setLineWrapColumnOrWidth()
メソッドで具体的な文字数を設定する必要があります。 -
QPlainTextEdit::FixedPixelWidth
: 指定されたピクセル幅で長い行が折り返されます。折り返し幅は固定されており、ウィジェットのサイズが変更されても変わりません。このモードを使用するには、setLineWrapColumnOrWidth()
メソッドで具体的なピクセル幅を設定する必要があります。 -
QPlainTextEdit::WidgetWidth
: 長い行がウィジェットの現在の幅に合わせて自動的に折り返されます。ウィジェットのサイズが変更されると、折り返しの位置も動的に調整されます。単語の途中ではなく、通常は空白文字(スペース、タブなど)の位置で折り返されます。 -
QPlainTextEdit::NoWrap
: これはデフォルト値です。長い行は折り返されず、水平スクロールバーが表示され、ユーザーはスクロールして行全体を確認する必要があります。
設定方法
lineWrapMode
プロパティは、以下のメソッドを使用して設定および取得できます。
- 取得
LineWrapMode QPlainTextEdit::lineWrapMode() const
- 設定
void QPlainTextEdit::setLineWrapMode(LineWrapMode mode)
例
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QPlainTextEdit textEdit;
textEdit.setPlainText("これは非常に長い一行のテキストです。このテキストは、QPlainTextEditの幅を超えており、lineWrapModeの設定によって表示方法が変わります。");
// 折り返しなし(水平スクロールバーが表示される)
// textEdit.setLineWrapMode(QPlainTextEdit::NoWrap);
// ウィジェットの幅で折り返す
textEdit.setLineWrapMode(QPlainTextEdit::WidgetWidth);
// 固定ピクセル幅で折り返す(例:200ピクセル)
// textEdit.setLineWrapMode(QPlainTextEdit::FixedPixelWidth);
// textEdit.setLineWrapColumnOrWidth(200);
// 固定文字数で折り返す(例:30文字)
// textEdit.setLineWrapMode(QPlainTextEdit::FixedColumnWidth);
// textEdit.setLineWrapColumnOrWidth(30);
textEdit.show();
return a.exec();
}
一般的なエラーとトラブルシューティング
QPlainTextEdit::lineWrapMode
の設定や期待される動作に関して、以下のようなエラーや問題が発生することがあります。
-
- 原因
これらの固定幅モードを使用する場合、setLineWrapColumnOrWidth()
メソッドで具体的な幅(ピクセル数または文字数)を設定する必要があります。このメソッドの呼び出しを忘れている、または誤った値を設定している可能性があります。 - 解決策
setLineWrapMode()
をFixedPixelWidth
またはFixedColumnWidth
に設定した後、必ずsetLineWrapColumnOrWidth()
を適切な値で呼び出していることを確認してください。
- 原因
-
ウィンドウのリサイズ時に折り返しが適切に更新されない
- 原因
通常、QPlainTextEdit::WidgetWidth
モードでは、ウィンドウのリサイズに応じて自動的に折り返しが調整されます。もしそうならない場合、レイアウトの問題や、親ウィジェットのサイズポリシーが適切に設定されていない可能性があります。 - 解決策
親ウィジェットのレイアウト(例:QVBoxLayout
,QHBoxLayout
など)が適切に設定され、QPlainTextEdit
がレイアウトマネージャーによって管理されていることを確認してください。また、QPlainTextEdit
自体のサイズポリシーも確認し、必要に応じて調整してください。
- 原因
-
単語の途中で折り返されてしまう
- 原因
デフォルトでは、QPlainTextEdit::WidgetWidth
は空白文字(スペース、タブなど)の位置で折り返そうとします。しかし、非常に長い単語が含まれている場合など、やむを得ず単語の途中で折り返されることがあります。 - 解決策
QTextOption::setWrapMode()
を使用して、より詳細な折り返しポリシーを設定することができます。例えば、QTextOption::WrapAnywhere
を設定すると、どんな文字位置でも折り返すようになりますが、通常は可読性を損なうため推奨されません。QTextOption::WrapAtWordBoundaryOrAnywhere
など、他のオプションも検討できます。QPlainTextEdit::document()->setDefaultTextOption()
を使用して設定します。
- 原因
-
水平スクロールバーが意図せず表示される
- 原因
折り返しモードがQPlainTextEdit::NoWrap
に設定されている場合、または固定幅モードで設定された幅がウィジェットの実際の幅よりも大きい場合に、水平スクロールバーが表示されます。 - 解決策
意図しない水平スクロールバーの表示を防ぐためには、適切な折り返しモードを選択し、固定幅モードを使用する場合は、ウィジェットのサイズを考慮した適切な幅を設定してください。
- 原因
-
パフォーマンスの問題 (非常に長いテキストの場合)
- 原因
非常に長いテキストに対してQPlainTextEdit::WidgetWidth
を設定すると、ウィンドウのリサイズなどの際に折り返しを再計算する必要があるため、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。 - 解決策
必要に応じて、水平スクロールを許可するQPlainTextEdit::NoWrap
を使用するか、固定幅モードで適切な幅を設定することを検討してください。また、テキストの量が多い場合は、表示するテキストの量を制限するなどの工夫も考えられます。
- 原因
-
他のスタイルシートや設定との干渉
- 原因
QPlainTextEdit
に適用しているスタイルシートや、他の設定がlineWrapMode
の動作に影響を与える可能性があります。 - 解決策
スタイルシートや他の設定を一つずつ確認し、lineWrapMode
の動作に影響を与えている可能性のある要素を特定してください。
- 原因
トラブルシューティングのヒント
- Qtのドキュメント
Qtの公式ドキュメントでQPlainTextEdit
および関連するクラス(QTextOption
など)の情報を確認してください。詳細な説明や例が記載されています。 - 簡単なテスト
新しいシンプルなプロジェクトを作成し、QPlainTextEdit
といくつかのテキストだけを追加して、lineWrapMode
の動作を確認してみることで、問題の切り分けがしやすくなります。 - デバッグ出力
qDebug()
などを使用して、lineWrapMode()
の現在の値や、lineWrapColumnOrWidth()
の設定値を出力し、実行時の状態を確認してください。
基本的な例:異なる折り返しモードの設定
この例では、QPlainTextEdit
ウィジェットを作成し、異なる lineWrapMode
の値を設定して、テキストの表示がどのように変わるかを示します。
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QPlainTextEdit *noWrapEdit = new QPlainTextEdit("これは非常に長い一行のテキストです。折り返しなし (NoWrap) モードでは、水平スクロールバーが表示されます。");
noWrapEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::NoWrap);
layout->addWidget(noWrapEdit);
QPlainTextEdit *widgetWidthEdit = new QPlainTextEdit("これも非常に長い一行のテキストです。ウィジェットの幅で折り返す (WidgetWidth) モードでは、ウィンドウのサイズに合わせてテキストが折り返されます。");
widgetWidthEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::WidgetWidth);
layout->addWidget(widgetWidthEdit);
QPlainTextEdit *fixedPixelWidthEdit = new QPlainTextEdit("そして、これも非常に長い一行のテキストです。固定ピクセル幅 (FixedPixelWidth) モードでは、指定したピクセル数で折り返されます。");
fixedPixelWidthEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::FixedPixelWidth);
fixedPixelWidthEdit->setLineWrapColumnOrWidth(200); // 200ピクセルで折り返す
layout->addWidget(fixedPixelWidthEdit);
QPlainTextEdit *fixedColumnWidthEdit = new QPlainTextEdit("最後に、これも非常に長い一行のテキストです。固定文字数 (FixedColumnWidth) モードでは、指定した文字数で折り返されます。");
fixedColumnWidthEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::FixedColumnWidth);
fixedColumnWidthEdit->setLineWrapColumnOrWidth(30); // 30文字で折り返す
layout->addWidget(fixedColumnWidthEdit);
window.setWindowTitle("QPlainTextEdit::lineWrapMode の例");
window.show();
return a.exec();
}
このコードでは、4つの QPlainTextEdit
ウィジェットを作成し、それぞれ異なる lineWrapMode
を設定しています。
fixedColumnWidthEdit
:QPlainTextEdit::FixedColumnWidth
を設定し、setLineWrapColumnOrWidth(30)
によって 30 文字で折り返されます。fixedPixelWidthEdit
:QPlainTextEdit::FixedPixelWidth
を設定し、setLineWrapColumnOrWidth(200)
によって 200 ピクセル幅で折り返されます。widgetWidthEdit
:QPlainTextEdit::WidgetWidth
を設定し、ウィンドウの幅に合わせてテキストが自動的に折り返されます。noWrapEdit
:QPlainTextEdit::NoWrap
を設定し、長い行は折り返されず、水平スクロールバーが表示されます。
動的に折り返しモードを変更する例
この例では、ボタンをクリックすることで QPlainTextEdit
の lineWrapMode
を動的に変更する方法を示します。
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QPlainTextEdit *textEdit = new QPlainTextEdit("これは非常に長い一行のテキストです。ボタンをクリックすることで折り返しモードが変更されます。");
layout->addWidget(textEdit);
QPushButton *toggleWrapButton = new QPushButton("折り返しモードを切り替え");
layout->addWidget(toggleWrapButton);
bool wrapEnabled = false;
QObject::connect(toggleWrapButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
if (wrapEnabled) {
textEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::NoWrap);
wrapEnabled = false;
toggleWrapButton->setText("折り返しモードを有効にする");
} else {
textEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::WidgetWidth);
wrapEnabled = true;
toggleWrapButton->setText("折り返しモードを無効にする");
}
});
window.setWindowTitle("QPlainTextEdit::lineWrapMode の動的変更");
window.show();
return a.exec();
}
このコードでは、QPlainTextEdit
とボタンを作成します。ボタンがクリックされるたびに、lineWrapMode
が QPlainTextEdit::NoWrap
と QPlainTextEdit::WidgetWidth
の間で切り替わります。
QTextOption
を使用してより詳細な折り返し設定を行う例
この例では、QTextOption
クラスを使用して、単語の境界で折り返すように設定します。
#include <QApplication>
#include <QPlainTextEdit>
#include <QTextOption>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QPlainTextEdit *textEdit = new QPlainTextEdit("This is a very long line of text with some verylongwordsinitalso. We want to ensure that the wrapping happens at word boundaries if possible.");
QTextOption option = textEdit->document()->defaultTextOption();
option.setWrapMode(QTextOption::WrapAtWordBoundaryOrAnywhere); // 単語境界で折り返す(必要があればどこでも)
textEdit->document()->setDefaultTextOption(option);
textEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::WidgetWidth); // WidgetWidth と組み合わせて使用
layout->addWidget(textEdit);
window.setWindowTitle("QTextOption を使用した折り返し");
window.show();
return a.exec();
}
この例では、まず QPlainTextEdit
のドキュメントからデフォルトの QTextOption
を取得し、その wrapMode()
を QTextOption::WrapAtWordBoundaryOrAnywhere
に設定しています。その後、このオプションをドキュメントに再度設定し、lineWrapMode
を QPlainTextEdit::WidgetWidth
に設定することで、ウィンドウ幅に合わせて単語の境界で折り返すようになります。
QTextEdit の利用
- 例
例えば、<br>
タグをテキストに挿入することで、強制的に改行を入れることができます。また、CSS のwhite-space
プロパティをpre-wrap
やword-break
などに設定することで、折り返しの挙動を細かく制御できます。ただし、QTextEdit
はプレーンテキストの編集にはQPlainTextEdit
よりもオーバーヘッドが大きいため、用途に応じて選択する必要があります。 - 説明
QPlainTextEdit
はプレーンテキスト専用ですが、リッチテキストを扱えるQTextEdit
を使用することで、より高度なテキストレイアウト制御が可能になります。QTextEdit
は HTML のサブセットや独自の書式タグをサポートしており、これらを利用して間接的に折り返し挙動を制御できます。
テキストの事前整形
- 欠点
ウィンドウのリサイズに応じて動的に折り返し位置を調整するのは困難です。 - 利点
折り返しロジックを完全に制御できます。特定の単語やパターンに基づいて折り返すなど、複雑な要件に対応できます。 - 例
QString longText = "これは非常に長い一行のテキストです。プログラム側で適切な位置に改行を挿入することで、QPlainTextEdit の折り返し設定に依存せずに表示を制御できます。"; int lineWidth = 50; // 例:一行の最大文字数 QString formattedText; QString currentLine; for (const QString &word : longText.split(' ')) { if (currentLine.length() + word.length() + (currentLine.isEmpty() ? 0 : 1) <= lineWidth) { if (!currentLine.isEmpty()) { currentLine += " "; } currentLine += word; } else { formattedText += currentLine + "\n"; currentLine = word; } } formattedText += currentLine; plainTextEdit->setPlainText(formattedText); plainTextEdit->setLineWrapMode(QPlainTextEdit::NoWrap); // 折り返しはプログラム側で行うため NoWrap に設定
- 説明
QPlainTextEdit
に表示する前に、プログラム側でテキストを適切な長さに分割し、改行文字 (\n
) を挿入しておく方法です。
カスタムウィジェットによる描画
- 欠点
実装が複雑になり、テキストの編集機能(カーソル移動、選択、入力など)も自力で実装する必要があります。主に、特殊な表示要件がある場合に適しています。 - 利点
非常に柔軟なテキストレイアウトが可能です。テキストの描画方法、折り返しロジック、ハイライト表示などを完全にカスタマイズできます。 - 例
QFontMetrics
を使用してテキストの幅を計測し、指定された幅を超えないように改行を挿入しながら描画します。 - 説明
QPlainTextEdit
やQTextEdit
を直接使用せず、QWidget
を継承したカスタムウィジェット内でテキストを描画する方法です。QPainter
を使用してテキストのレイアウトを完全に制御できます。
QAbstractTextDocumentLayout の利用 (高度な方法)
- 欠点
高度な知識が必要であり、実装も複雑になります。通常はQTextEdit
の機能で十分な場合が多いです。 - 利点
QTextEdit
の柔軟性を持ちつつ、より低レベルな制御が可能です。 - 例
カスタムのレイアウトクラスを作成し、テキストの幅や高さ、改行位置などを独自に計算して制御します。 - 説明
QTextDocument
のレイアウトエンジンであるQAbstractTextDocumentLayout
を直接操作することで、テキストのレイアウトをより細かく制御できます。QTextEdit
やQPlainTextEdit
は内部的にこれを使用しています。
イベントフィルタの利用
- 欠点
基本的な折り返し制御はlineWrapMode
に依存するため、完全に代替する方法ではありません。 - 利点
特定の状況に応じて折り返し挙動を微調整できます。 - 例
class MyPlainTextEdit : public QPlainTextEdit { protected: void resizeEvent(QResizeEvent *event) override { QPlainTextEdit::resizeEvent(event); if (lineWrapMode() == QPlainTextEdit::WidgetWidth) { // ウィンドウサイズに合わせて再レイアウトが必要な処理があればここに記述 } else if (lineWrapMode() == QPlainTextEdit::FixedPixelWidth) { // 必要に応じて固定幅を再計算 // setLineWrapColumnOrWidth(calculateFixedWidth()); } } };
- 説明
QPlainTextEdit
のリサイズイベントなどを監視し、そのタイミングでlineWrapMode
を動的に変更したり、固定幅モードの場合はsetLineWrapColumnOrWidth()
を再設定したりする方法です。
これらの代替方法は、QPlainTextEdit::lineWrapMode
が提供する基本的な折り返し機能では実現できない、より特殊な要件に対応するためのものです。通常は、lineWrapMode
を適切に設定することで、多くのケースに対応できます。代替方法を選択する際は、その複雑さ、パフォーマンスへの影響、および必要な機能とのバランスを考慮する必要があります。