【Qt入門】QFont::setStyleHint()で始める、見やすいUIのフォント設定

QFont::setStyleHint() は Qt フレームワークにおいて、フォントを選択する際のヒント（手掛かり）を提供するために使用される関数です。これは厳密なフォントの指定ではありませんが、システムのフォント選択メカニズムに対して「どのようなスタイルのフォントが望ましいか」を伝えます。

なぜヒントが必要なのか？

コンピュータシステムには様々なフォントがインストールされており、アプリケーションが特定のフォントを要求しても、それがシステムに存在しない場合があります。また、たとえ存在しても、OSやユーザーの設定によって、より適切なフォントが選ばれることがあります。setStyleHint() はこのような状況で、システムが最適なフォントを見つける手助けをします。

具体的な機能

setStyleHint() には QFont::StyleHint 列挙型で定義された値を渡します。これらの値は、一般的なフォントのカテゴリや用途を示します。例えば、以下のようなヒントがあります。

• QFont::Monospace: TypeWriter と同様に、等幅フォントが望ましいことを示します。
• QFont::System: オペレーティングシステムが推奨するデフォルトのシステムフォントが望ましいことを示します。これは多くの場合、アプリケーションのルック＆フィールをOSと統一するために使われます。

  font.setStyleHint(QFont::System);
  

• QFont::Fantasy: 装飾的なフォントが望ましいことを示します。

  font.setStyleHint(QFont::Fantasy);
  

• QFont::Cursive: 筆記体のような手書き風のフォントが望ましいことを示します。

  font.setStyleHint(QFont::Cursive);
  

• QFont::TypeWriter: 等幅フォント（各文字の幅が同じフォント）が望ましいことを示します。コードエディタやターミナルなど、文字の位置が揃っている必要がある場面で使われます。

  font.setStyleHint(QFont::TypeWriter);
  

• QFont::Serif: セリフ（飾りの線）があるフォント（例: タイムズ・ニュー・ローマンのような書体）が望ましいことを示します。伝統的な文書や書籍などで使われることが多いです。

  font.setStyleHint(QFont::Serif);
  

• QFont::SansSerif: ゴシック体や明朝体などのセリフ（飾りの線）がないフォントが望ましいことを示します。Webサイトの本文など、読みやすさが重視される場面でよく使われます。

  font.setStyleHint(QFont::SansSerif);
  

使用例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QLabel label;
    QFont font("Arial", 24); // まずフォントファミリーとサイズを設定

    // ここでスタイルヒントを設定
    // 例として、システムフォントに似たものが望ましいとヒントを与える
    font.setStyleHint(QFont::System);

    // あるいは、サンセリフ体が望ましいとヒントを与える
    // font.setStyleHint(QFont::SansSerif);

    label.setFont(font);
    label.setText("Qt Font Style Hint Example");
    label.show();

    return app.exec();
}

• フォールバック機構: QFont::setStyleHint() は、QFont::setFamily() で指定したフォントが見つからなかった場合のフォールバック（代替）機構にも影響を与えることがあります。
• 性能への影響: 一部の環境では、スタイルヒントによってフォント選択にわずかな性能オーバーヘッドが発生する可能性がありますが、通常は無視できるレベルです。
• ヒントであること: setStyleHint() はあくまで「ヒント」であり、システムが必ずそのヒントに従うとは限りません。利用可能なフォントやOSの設定に基づいて、最終的なフォントが決定されます。

---

QFont::setStyleHint() はQtのフォント選択における「ヒント」であり、直接的なフォントの強制ではないため、その挙動に関する一般的なエラーやトラブルシューティングは、直接的なバグというよりは期待通りの結果が得られないという形で見られることが多いです。

QFont::setStyleHint() は、Qtのフォント選択システムに対して「こんな種類のフォントが欲しい」というヒントを与えるものですが、これが常に開発者の意図通りに機能するとは限りません。以下に、よくある問題点とそれに対するトラブルシューティングを示します。

ヒントが無視される、または意図しないフォントが選ばれる

問題の状況
setStyleHint(QFont::Monospace) を設定したのに等幅フォントにならない、または SansSerif を指定したのにセリフ体のようなフォントが使われるなど、ヒントが適用されないように見えるケースです。

考えられる原因とトラブルシューティング

• スタイルシート（QSS）との競合
  

  • Qtスタイルシート（QSS）を使用している場合、ウィジェットのスタイルシートで定義されたフォント設定が、プログラムで設定した QFont オブジェクトのプロパティを上書きすることがあります。スタイルシートは非常に強力であり、直接 setFont() を呼び出すよりも優先されることが多いです。
  • トラブルシューティング
    スタイルシートにフォントに関する設定（例: font-family, font-size, font-weight など）が含まれていないか確認してください。もし含まれている場合は、スタイルシートのフォント設定を調整するか、プログラムからの setFont() 呼び出しではなく、スタイルシートでフォントを完全に制御することを検討してください。特定のウィジェットに対してのみスタイルシートを適用する場合は、objectName を利用して対象を絞ることができます（例: QLabel#myLabel { font-family: "Arial"; }）。

• Qtのフォントマッチングの限界
  

  • Qtのフォントマッチングアルゴリズムは非常に高度ですが、完璧ではありません。特に、利用可能なフォントの多様性やOSごとのフォント管理方法の違いにより、ヒントが常に意図通りに解釈されるとは限りません。
  • トラブルシューティング
    
    • QFontInfo クラスを使用して、実際にどのフォントが選ばれたかを確認します。QFontInfo fontInfo(myFont); qDebug() << fontInfo.family() << fontInfo.fixedPitch(); のようにすることで、選択されたフォントのファミリー名や等幅性などを確認できます。
    • 特定のフォントが絶対に必要な場合は、QFont::setFamily() で明示的に指定し、そのフォントがシステムに存在することを前提とするか、QFontDatabase::addApplicationFont() などでアプリケーションにフォントを埋め込むことを検討してください。

• QFont::setFamily() との競合
  

  • setFamily() で特定のフォントファミリー（例: "Arial"）を明示的に指定している場合、そのフォントファミリーがスタイルヒントを無視する可能性があります。setStyleHint() は setFamily() よりも優先度が低いヒントとして機能します。
  • トラブルシューティング
    まず setStyleHint() のみで試してみてください。それでも望む結果が得られない場合、setFamily() と setStyleHint() を組み合わせて、より広範な互換性を確保できるフォントファミリー（例: QFont::SansSerif と setFamily("Noto Sans JP")）を探ることを検討してください。あるいは、setFamily() で指定するフォントが存在しない場合のフォールバックとして setStyleHint() を利用するという考え方もできます。
• • setStyleHint() は、システムにインストールされているフォントの中から最適なものを選択しようとします。指定したヒントに合致するフォントがそもそもシステムに存在しない場合、Qtは次善のフォントを選びます。
  • トラブルシューティング
    ターゲットとなるシステムに、目的のヒントに合致するフォント（例: 等幅フォントなら Courier New, DejaVu Sans Mono, Consolas など）がインストールされているか確認してください。場合によっては、フォントのインストールが必要になることがあります。

アプリケーション全体、または特定のウィジェットにフォントが適用されない

問題の状況
QApplication::setFont() や特定のウィジェットの setFont() を呼び出しているにもかかわらず、フォントが変更されない、または一部のウィジェットにしか適用されないケースです。

考えられる原因とトラブルシューティング

• カスタムウィジェットの描画
  

  • カスタムウィジェットで paintEvent() をオーバーライドしてテキストを描画している場合、QPainter のフォントはウィジェットのフォント設定を自動的に反映しないことがあります。
  • トラブルシューティング
    paintEvent() 内で QPainter::setFont(font()) を呼び出して、ウィジェットの現在のフォントを明示的に設定する必要があります。

• ウィジェットの継承と上書き
  

  • ウィジェットは親ウィジェットのフォント設定を継承しますが、明示的に setFont() を呼び出してフォントを設定すると、そのウィジェットとその子ウィジェット（明示的に上書きされていない限り）のフォントが変更されます。もし特定のウィジェットで setFont() を呼び出しているのに適用されない場合、さらにその子ウィジェットで別のフォントが設定されている可能性があります。
  • トラブルシューティング
    フォントが適用されないウィジェットの階層構造を確認し、どこでフォントが上書きされているかを特定します。

• フォント設定のタイミング
  

  • QApplication::setFont() はアプリケーションの起動初期、通常は QApplication オブジェクトが作成された直後に呼び出すべきです。ウィジェットがすでに作成されている後でアプリケーションのデフォルトフォントを変更しても、既存のウィジェットには適用されないことがあります。
  • トラブルシューティング
    QApplication app(argc, argv); の直後に app.setFont(myFont); を呼び出すようにしてください。

プラットフォーム間のフォント表示の不一致

問題の状況
WindowsではうまくいくがmacOSやLinuxではフォントの表示が崩れる、またはその逆のケースです。

考えられる原因とトラブルシューティング

• フォントメトリクスの違い
  

  • フォントの実際のサイズ（幅や高さ、行間など）は、同じポイントサイズでもOSやフォントによって異なることがあります。これにより、レイアウトが崩れることがあります。
  • トラブルシューティング
    QFontMetrics クラスを使用して、実際に描画されるテキストのサイズを計算し、それに基づいてレイアウトを調整します。

• OSごとのフォントの違い
  

  • 各OSには独自のシステムフォントがあり、フォントのレンダリングエンジンも異なります。あるOSで利用可能なフォントが別のOSでは利用できない、またはレンダリングが異なることがあります。
  • トラブルシューティング
    
    • 汎用的なヒントを使用する
      QFont::System, QFont::SansSerif, QFont::Serif, QFont::Monospace のような汎用的なスタイルヒントを使用し、特定のフォントファミリー名に依存しすぎないようにします。
    • フォントフォールバックを設定する
      QFont::setFamily() で複数のフォントファミリーをカンマ区切りで指定することで、優先順位を付けてフォールバックを設定できます（例: font.setFamily("Arial, Noto Sans JP, Helvetica");）。
    • クロスプラットフォームなフォントの利用
      Google Fontsなどからクロスプラットフォームで利用できるオープンソースフォント（例: Noto Sans, Open Sans, Roboto）を探し、アプリケーションに同梱するか、ユーザーにインストールを促すことを検討します。

QFont::setStyleHint() はQtのフォント選択の柔軟性を高めるための便利な機能ですが、その「ヒント」という性質上、必ずしも開発者の意図通りにフォントが選択されるとは限りません。問題が発生した場合は、以下の点を重点的に確認し、デバッグを行ってください。

1. 目的のシステムに適切なフォントがインストールされているか？
2. setFamily() やスタイルシートとの競合はないか？
3. setFont() の呼び出しタイミングは適切か？
4. QFontInfo を使って実際に選択されたフォントを確認しているか？
5. プラットフォーム間の差異を考慮しているか？

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QFont::setStyleHint() は、Qtアプリケーションでフォントを選択する際に、システムに「このような種類のフォントが欲しい」というヒントを与えるために使用されます。ここでは、いくつかの具体的な使用例とその解説を示します。

例1: 基本的なスタイルヒントの設定（サンセリフ体）

最も一般的なケースとして、Webページや一般的なUIでよく使われる、読みやすいサンセリフ体（ゴシック体）を優先したい場合です。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
#include <QFontInfo> // 実際に選択されたフォント情報を取得するため

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QLabel label;
    QFont font; // デフォルトのフォントオブジェクトを作成

    // まず、好みのフォントファミリーを設定します。
    // ここでは一般的なものとして"Arial"を挙げますが、
    // システムにない場合はフォールバックされます。
    font.setFamily("Arial");
    font.setPointSize(20);

    // スタイルヒントを設定: サンセリフ体を優先します。
    // これにより、たとえArialが利用できなくても、
    // システムが別のサンセリフ体フォントを探そうとします。
    font.setStyleHint(QFont::SansSerif);

    label.setFont(font);
    label.setText("これはサンセリフ体の例です。");
    label.resize(400, 100);
    label.show();

    // 実際に選択されたフォント情報を確認します。
    QFontInfo fontInfo(label.font());
    qDebug() << "選択されたフォントファミリー:" << fontInfo.family();
    qDebug() << "選択されたフォントスタイルヒント:" << fontInfo.styleHint();
    qDebug() << "フォントのピッチが固定されているか (等幅か):" << fontInfo.fixedPitch();

    return app.exec();
}

解説

• QFontInfo を使用して、実際にQLabelに適用されたフォントの情報を取得し、デバッグ出力で確認しています。これにより、意図した通りのフォントが選択されているか、あるいはどのフォントにフォールバックされたかを知ることができます。
• font.setStyleHint(QFont::SansSerif); を追加することで、もし "Arial" が利用できない場合でも、システムがサンセリフ体のフォント（例: "Noto Sans JP", "Hiragino Sans", "Helvetica", "Segoe UI" など）の中から最適なものを選んでくれるように「ヒント」を与えています。
• font.setFamily("Arial"); で特定のフォントを要求していますが、これはシステムにない場合があるため、完璧ではありません。

例2: 等幅フォントの指定（コード表示用）

プログラミングコードやログなど、文字が正確に揃う必要がある場合に、等幅フォントを優先したいことがあります。

#include <QApplication>
#include <QTextEdit>
#include <QFont>
#include <QDebug>
#include <QFontInfo>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QTextEdit textEdit;
    QFont font;

    // 特定の等幅フォントを試みますが、システムにない場合のためにヒントを与えます。
    font.setFamily("Consolas, Courier New, Menlo, DejaVu Sans Mono");
    font.setPointSize(14);

    // スタイルヒントを設定: 等幅フォント（モノスペース）を優先します。
    font.setStyleHint(QFont::Monospace);
    // あるいは、QFont::TypeWriter も等幅フォントを示します。
    // font.setStyleHint(QFont::TypeWriter);

    textEdit.setFont(font);
    textEdit.setPlainText(
        "int main(int argc, char *argv[]) {\n"
        "    QApplication app(argc, argv);\n"
        "    // This is a comment.\n"
        "    return app.exec();\n"
        "}"
    );
    textEdit.resize(600, 300);
    textEdit.show();

    // 実際に選択されたフォント情報を確認
    QFontInfo fontInfo(textEdit.font());
    qDebug() << "選択されたフォントファミリー:" << fontInfo.family();
    qDebug() << "選択されたフォントスタイルヒント:" << fontInfo.styleHint();
    qDebug() << "フォントのピッチが固定されているか (等幅か):" << fontInfo.fixedPitch(); // true が望ましい

    return app.exec();
}

解説

• QFontInfo::fixedPitch() は、選択されたフォントが実際に等幅であるかどうかを確認するのに役立ちます。
• font.setStyleHint(QFont::Monospace); または QFont::TypeWriter を使用することで、システムが「等幅フォント」という性質を理解し、たとえ上記の指定フォントが見つからなくても、インストールされている等幅フォントの中から最適なものを選択しようとします。
• font.setFamily("Consolas, Courier New, Menlo, DejaVu Sans Mono"); のように、複数のフォントファミリーをカンマ区切りで指定することで、優先順位を付けてフォールバックさせることができます。

例3: システムフォントの使用

アプリケーションの見た目をOSの標準的なものに合わせたい場合、システムフォントのヒントが便利です。

#include <QApplication>
#include <QPushButton>
#include <QFont>
#include <QDebug>
#include <QFontInfo>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QPushButton button("OK");
    QFont font;

    // フォントファミリーは指定せず、システムフォントに任せます。
    // font.setFamily("SomeFancyFont"); // 指定しないことで、Systemヒントがより強く影響します。
    font.setPointSize(16);

    // スタイルヒントを設定: システムのデフォルトフォントを優先します。
    font.setStyleHint(QFont::System);

    button.setFont(font);
    button.resize(150, 50);
    button.show();

    // 実際に選択されたフォント情報を確認
    QFontInfo fontInfo(button.font());
    qDebug() << "選択されたフォントファミリー:" << fontInfo.family();
    qDebug() << "選択されたフォントスタイルヒント:" << fontInfo.styleHint();

    return app.exec();
}

解説

• QFont::System は、アプリケーションが実行されているオペレーティングシステムが推奨するデフォルトのUIフォントを選択しようとします（例: WindowsならSegoe UI、macOSならSan Francisco、LinuxならNoto Sansなど）。これは、アプリケーションがネイティブな見た目と感触を持つために非常に便利です。
• この例では、font.setFamily() を明示的に呼び出していません。これにより、setStyleHint(QFont::System); がより強力な影響力を持つことになります。

QFont::setStyleHint() は、直接的なフォントの強制ではなく、フォント選択におけるシステムへの柔軟なガイドとして機能します。

• QFontInfo を使用して、実際に適用されたフォントを確認することが、デバッグにおいて非常に重要です。
• プラットフォーム間で一貫した「種類の」フォントを優先したい場合に便利です（例: 常にサンセリフ体、常に等幅フォントなど）。
• 特定のフォントファミリーが見つからない場合のフォールバック機構を強化します。

---

QFont::setFamily() を用いた明示的なフォントファミリーの指定

これは最も直接的な方法で、特定のフォントファミリー名を指定します。

特徴

• 複数指定
  カンマ区切りで複数のフォントファミリー名を指定でき、優先順位を付けてフォールバックさせることができます。
• 直接的
  指定したフォントがシステムに存在すれば、それが優先して使用されます。

利点

• フォントの順序を細かく制御できます。
• 開発者が意図する特定のフォントを確実に使用したい場合に有効です。

欠点

• OSや環境によってフォント名が異なる場合、すべてのプラットフォームで同じフォントが適用される保証はありません。
• 指定したフォントがユーザーのシステムにインストールされていない場合、Qtは次善のフォントを探します。このフォールバックの挙動は、setStyleHint() なしでは予測しにくいことがあります。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QFontInfo>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QLabel label;
    QFont font;

    // 複数のフォントファミリーを優先順位順に指定
    // 環境によって存在するフォントが異なるため、一般的なフォントをいくつか列挙
    font.setFamily("Noto Sans JP, Arial, Meiryo, Yu Gothic, Helvetica, sans-serif");
    font.setPointSize(18);

    label.setFont(font);
    label.setText("これはsetFamily()による明示的なフォント指定の例です。");
    label.resize(600, 100);
    label.show();

    QFontInfo fontInfo(label.font());
    qDebug() << "選択されたフォントファミリー:" << fontInfo.family();

    return app.exec();
}

QFontDatabase を用いたアプリケーションへのフォント埋め込み

アプリケーションが特定のフォントに依存し、それがユーザーのシステムにインストールされているか保証できない場合に非常に強力な方法です。フォントファイルをアプリケーションのリソースとして含め、実行時に読み込みます。

特徴

• クロスプラットフォーム
  すべてのプラットフォームで同じフォントを使用できます。
• 自己完結型
  アプリケーション自体がフォントデータを持つため、ユーザーのシステム依存性を排除できます。

利点

• 特定のデザイン要件を満たすためにカスタムフォントを使用できます。
• アプリケーションのルック＆フィールを厳密に制御できます。

欠点

• 商用フォントを使用する場合、ライセンスに注意が必要です。
• フォントファイルのサイズがアプリケーションの実行ファイルサイズを増加させます。

コード例

まず、.ttf や .otf などのフォントファイルをプロジェクトのどこかに配置し、.qrc ファイル（Qt Resource File）に追加します。

my_resources.qrc の例

<!DOCTYPE RCC><RCC version="1.0">
<qresource prefix="/fonts">
    <file>MyCustomFont.ttf</file>
</qresource>
</RCC>

C++ コードの例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QFontDatabase> // QFontDatabase を使用
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    // 1. フォントファイルをアプリケーションにロード
    int fontId = QFontDatabase::addApplicationFont(":/fonts/MyCustomFont.ttf");
    QStringList fontFamilies = QFontDatabase::applicationFontFamilies(fontId);

    if (fontFamilies.isEmpty()) {
        qWarning() << "フォントのロードに失敗しました。";
        // フォントがロードできない場合のフォールバック
        QFont defaultFont;
        defaultFont.setFamily("Arial");
        defaultFont.setPointSize(20);
        app.setFont(defaultFont);
    } else {
        // 2. ロードしたフォントファミリー名を使用してQFontを設定
        QLabel label;
        QFont font(fontFamilies.at(0), 18); // 最初のファミリー名を使用

        // 必要に応じて太さやスタイルを設定
        font.setWeight(QFont::Bold);
        font.setItalic(true);

        label.setFont(font);
        label.setText("これは埋め込みフォントの例です。");
        label.resize(500, 100);
        label.show();

        QFontInfo fontInfo(label.font());
        qDebug() << "選択されたフォントファミリー (埋め込み):" << fontInfo.family();
    }

    return app.exec();
}

CMakeLists.txt (Qt6の場合) でリソースファイルを処理する設定

qt_add_resources(MyApp_RESOURCES my_resources.qrc)
target_link_libraries(MyApp PRIVATE Qt::Widgets ${MyApp_RESOURCES})

Qt Style Sheets (QSS) を用いたフォントの制御

WebのCSSに似たQt Style Sheetsを使用して、UI要素のフォントを宣言的に設定できます。

特徴

• 動的な変更
  実行時にスタイルシートを変更することで、フォントを動的に切り替えることができます。
• 柔軟な適用範囲
  アプリケーション全体、特定のウィジェットクラス、または特定のオブジェクト名を持つウィジェットに適用できます。
• 宣言的
  プログラムコードではなく、スタイルシートファイルまたは文字列としてフォント設定を記述します。

利点

• 既存のウィジェットの外観をコードを変更せずに変更できます。
• テーマ切り替えやカスタマイズが容易になります。
• UIのデザインとロジックを分離できます。

欠点

• デバッグが難しい場合があります。
• 複雑なスタイルシートはパフォーマンスに影響を与える可能性があります。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    // アプリケーション全体にスタイルシートを適用
    // sans-serif を指定することで、システムが適切なサンセリフ体を探します
    app.setStyleSheet(
        "QLabel { "
        "   font-family: 'Noto Sans JP', 'Arial', sans-serif; " // 複数のフォントファミリーを指定
        "   font-size: 20px; "
        "   color: blue; "
        "} "
        "QPushButton { "
        "   font-family: 'Consolas', monospace; " // ボタンには等幅フォントを適用
        "   font-size: 16px; "
        "   font-weight: bold; "
        "} "
        "QPushButton#mySpecialButton { " // 特定のQPushButtonにはさらに別のスタイルを適用
        "   font-family: 'Times New Roman', serif; "
        "   font-size: 22px; "
        "   color: red; "
        "}"
    );

    QLabel label("これはQSSによるフォント設定の例です。");
    QPushButton button("一般的なボタン");
    QPushButton specialButton("特別なボタン");
    specialButton.setObjectName("mySpecialButton"); // スタイルシートで参照できるようにオブジェクト名を設定

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
    layout->addWidget(&label);
    layout->addWidget(&button);
    layout->addWidget(&specialButton);
    window.resize(400, 200);
    window.show();

    // QSSの場合、QStyleSheetStyleが内部的にフォントを決定するため、
    // QFontInfoで取得できるファミリー名が必ずしも設定したのと同一でないことがあります。
    // しかし、スタイルシートで設定した意図は反映されます。
    qDebug() << "ラベルの実際のフォントファミリー:" << label.font().family();
    qDebug() << "ボタンの実際のフォントファミリー:" << button.font().family();
    qDebug() << "特別なボタンの実際のフォントファミリー:" << specialButton.font().family();


    return app.exec();
}

解説

• font-size, font-weight, font-style など、Web CSSと同様のプロパティが利用できます。
• sans-serif, serif, monospace, cursive, fantasy などのジェネリックファミリー名を指定することで、QFont::setStyleHint() と同様の「ヒント」を与えることができます。これは、システムが適切なフォントを選択する際の指針となります。
• font-family プロパティで複数のフォント名をカンマ区切りで指定できます。

QFontMetrics を用いた動的なサイズ調整

これはフォントの設定自体とは異なりますが、選択されたフォントの実際のメトリクス（幅、高さなど）に基づいてUIレイアウトを動的に調整する場合に重要です。特に、異なるフォントや異なるOSでUIの見た目を一貫させたい場合に役立ちます。

特徴

• 動的調整
  実行時にフォントや文字列に応じてレイアウトを調整できます。
• 測定
  テキストの描画に必要なピクセルサイズを正確に計算します。

利点

• 国際化されたアプリケーションで、言語によって文字列の長さが大きく異なる場合に対応できます。
• UIのオーバーラップや切り詰めを防ぎ、より堅牢なレイアウトを実現できます。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QFontMetrics>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QLabel label("Hello, world! こんにちは世界！");
    QFont font("Arial", 20);
    // 例えば、システムフォントのヒントを与えることで、
    // 実際に選ばれるフォントが環境によって変わる可能性がある
    font.setStyleHint(QFont::System);
    label.setFont(font);

    // QLabelに実際に設定されたフォントのメトリクスを取得
    QFontMetrics fm(label.font());

    // テキストの幅と高さを計算
    int textWidth = fm.horizontalAdvance(label.text());
    int textHeight = fm.height();

    qDebug() << "テキストの幅:" << textWidth << "px";
    qDebug() << "テキストの高さ:" << textHeight << "px";

    // 計算したサイズに基づいてQLabelのサイズを調整
    // パディングなどを考慮して少し余裕を持たせる
    label.setFixedSize(textWidth + 20, textHeight + 20); // 左右に10pxずつ、上下に10pxずつパディング

    label.show();

    return app.exec();
}

どの方法を選ぶべきか？

• フォントサイズに基づいてレイアウトを正確に調整する必要がある場合
  QFontMetrics を利用して、テキストの実際のサイズを測定します。
• UIの外観をデザイン的に制御し、コードから分離したい場合
  Qt Style Sheets が非常に強力な選択肢です。
• 特定のフォントを必ず使用したい場合（ユーザーのシステム依存を排除したい場合）
  QFontDatabase::addApplicationFont() でフォントを埋め込むのが最も確実です。
• 特定のフォントを優先したいが、フォールバックも考慮したい場合
  QFont::setFamily() で複数のフォントファミリーを指定するのが良いでしょう。
• 簡単なヒントで十分な場合
  QFont::setStyleHint() は、特定のフォントファミリーに固執せず、OSに適切なフォントの選択を任せたい場合に最適です。