QFont::Capitalizationの落とし穴と解決策：Qtテキスト表示トラブルシューティング

QFont::Capitalization (enum) とは

QFont::Capitalization は、Qt の QFont クラスで使用される列挙型（enum）で、フォントがテキストを表示する際の大文字・小文字の扱い方を指定するために用いられます。テキストの見た目を統一したり、特定の表現を強制したりする場合に便利です。

この列挙型には、以下の値が定義されています。

• QFont::Capitalize:

  • テキスト内の各単語の最初の文字が強制的に大文字で表示され、それ以外の文字は小文字で表示されます（いわゆる「タイトルケース」や「センテンスケース」に似ています）。
  • 例えば、「hello world」は「Hello World」と表示されます。

• QFont::SmallCaps:

  • テキスト内のすべての文字が、大文字の見た目でありながら、小文字の高さに合わせて縮小された「スモールキャップス」で表示されます。
  • これは、特に本文中で略語や固有名詞を目立たせたい場合などに使われることがあります。フォント自体がスモールキャップスをサポートしている必要があります。

• QFont::AllLowercase:

  • テキスト内のすべての文字が強制的に小文字で表示されます。
  • 元のテキストが大文字であっても、小文字に変換されて表示されます。

• QFont::AllUppercase:

  • テキスト内のすべての文字が強制的に大文字で表示されます。
  • 元のテキストが小文字であっても、大文字に変換されて表示されます。

• QFont::MixedCase:

  • これがデフォルトの設定です。
  • テキストは入力された通りの大文字・小文字で表示されます。特に文字の変換は行われません。

使用例

QFont オブジェクトを作成し、setCapitalization() メソッドを使ってこの列挙値を設定することで、テキストの表示方法を制御できます。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QLabel label1("Hello World!");
    QFont font1 = label1.font();
    font1.setCapitalization(QFont::MixedCase); // デフォルト
    label1.setFont(font1);
    label1.show();
    label1.setWindowTitle("MixedCase");

    QLabel label2("hello world!");
    QFont font2 = label2.font();
    font2.setCapitalization(QFont::AllUppercase); // すべて大文字
    label2.setFont(font2);
    label2.move(0, 50); // 位置をずらす
    label2.show();
    label2.setWindowTitle("AllUppercase");

    QLabel label3("HELLO WORLD!");
    QFont font3 = label3.font();
    font3.setCapitalization(QFont::AllLowercase); // すべて小文字
    label3.setFont(font3);
    label3.move(0, 100);
    label3.show();
    label3.setWindowTitle("AllLowercase");

    QLabel label4("Qt Programming");
    QFont font4 = label4.font();
    font4.setCapitalization(QFont::SmallCaps); // スモールキャップス
    label4.setFont(font4);
    label4.move(0, 150);
    label4.show();
    label4.setWindowTitle("SmallCaps");

    QLabel label5("this is a test sentence.");
    QFont font5 = label5.font();
    font5.setCapitalization(QFont::Capitalize); // 各単語の頭を大文字
    label5.setFont(font5);
    label5.move(0, 200);
    label5.show();
    label5.setWindowTitle("Capitalize");

    return app.exec();
}

このコードを実行すると、それぞれの QLabel に設定された QFont::Capitalization の値に応じて、テキストの表示が大文字・小文字のルールに従って変化するのが確認できます。

• この設定は、QFont が適用されるすべてのテキスト描画に影響を与えます。例えば、QLabel だけでなく、QPushButton や QLineEdit など、フォントを使用する様々なウィジェットに適用できます。
• SmallCaps は、フォント自体がスモールキャップスのグリフ（文字の図形）をサポートしている場合に適切に表示されます。サポートされていない場合は、通常のフォントで大文字が表示されたり、期待通りの見た目にならないことがあります。
• QFont::Capitalization は、テキストの表示方法を視覚的に変更するものであり、元の文字列データ自体を変更するわけではありません。例えば、AllUppercase を設定しても、QLabel::text() で取得できる文字列は元のままです。

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設定が反映されない / 期待通りの表示にならない

よくある原因

• フォントがプロパティをサポートしていない
  特に QFont::SmallCaps の場合、使用しているフォント自体がスモールキャップスのグリフ（文字の形）をサポートしていないと、期待通りの表示になりません。その場合、通常のフォントで大文字が表示されたり、見た目が悪くなることがあります。 トラブルシューティング: 別のフォント（例えば、一般的な欧文フォントの多くはスモールキャップスをサポートしています）を試してみるか、QFontInfo クラスを使用してフォントが特定の機能をサポートしているかを確認することもできますが、QFontInfo が QFont::Capitalization のような視覚的な効果のサポートを直接的に報告する機能は限定的です。最終的には、異なるフォントで実際に表示をテストするのが最も確実です。
• スタイルシートとの競合
  Qt スタイルシート（CSSライクな設定）を使用している場合、スタイルシートがフォントのプロパティを上書きしてしまうことがあります。

  // C++コードで設定
  label->setFont(myFont);
  myFont.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
  label->setFont(myFont);
  
  // スタイルシートで設定している場合
  // label->setStyleSheet("font: 12pt 'Segoe UI';"); // これがCapitalizationの設定を上書きする可能性がある
  

  トラブルシューティング: スタイルシートでフォントが設定されていないか確認し、もし設定されている場合は、スタイルシート側で font-capitalization のようなプロパティがあるか（Qtの標準スタイルシートには直接的なものはありませんが、text-transform などで同様のことが実現できる場合があります）、あるいはC++コードでの設定と競合しないように調整します。一般的に、C++コードでフォントを設定する場合はスタイルシートでのフォント設定は避けるべきです。
• QFont オブジェクトのコピーと適用忘れ
  QFont オブジェクトは値セマンティクス（コピーされると別のインスタンスになる）を持つため、setFont() メソッドでウィジェットに設定する際に、コピーされた QFont オブジェクトに対して setCapitalization() を呼び出しても、元のウィジェットに適用されているフォントには反映されません。

  // 誤った例
  QLabel* label = new QLabel("test");
  QFont font = label->font(); // label->font() はコピーを返す
  font.setCapitalization(QFont::AllUppercase); // この変更はコピーされたfontにのみ影響する
  // label->setFont(font); // この行がないと、変更はウィジェットに適用されない
  
  // 正しい例
  QLabel* label = new QLabel("test");
  QFont font = label->font();
  font.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
  label->setFont(font); // 変更されたQFontオブジェクトをウィジェットに再設定する
  

元の文字列が変わってしまうと誤解する

よくある原因

• QFont::Capitalization は、表示上の見た目を変更するだけで、元の文字列データそのものを変更するわけではありません。

  QLabel* label = new QLabel("hello world");
  QFont font = label->font();
  font.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
  label->setFont(font);
  qDebug() << label->text(); // 出力は "hello world" のまま
  

  トラブルシューティング: もし元の文字列データを大文字・小文字変換したいのであれば、QString::toUpper() や QString::toLower() といった QString のメソッドを使用する必要があります。QFont::Capitalization は純粋に「見た目」の制御であることを理解しておくことが重要です。

よくある原因

Capitalize や SmallCaps の不完全な適用

よくある原因

• SmallCaps の場合と同様に、フォントが Capitalize の適切なロジックをサポートしていない、あるいは特定の言語における単語の区切りを正しく解釈できない場合があります。
• QFont::Capitalize は単語の区切りを認識して最初の文字を大文字にしますが、これはスペースなどの一般的な区切り文字に基づいています。特定の記号や句読点を含む文字列の場合、期待通りに各単語の頭が大文字にならないことがあります。

トラブルシューティング
QFont::Capitalize の動作が不十分な場合は、QString のメソッド（split(), toUpper(), toLower(), join() など）を組み合わせて自前でキャピタライズ処理を実装し、その結果の文字列を QLabel::setText() で設定する方が確実な場合が多いです。

QFont オブジェクトの寿命とスコープ

よくある原因

• QFont オブジェクトを一時的に作成し、それがスコープを抜けて破棄されてしまうと、そのフォントが設定されたウィジェットの挙動が不安定になったり、デフォルトのフォントに戻ったりする可能性があります。

  // 誤った例 (一時的なフォントオブジェクト)
  void MyWidget::setupUI() {
      QLabel* label = new QLabel("Hello");
      QFont tempFont = label->font();
      tempFont.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
      label->setFont(tempFont);
      // tempFontはここでスコープを抜けて破棄される
  }
  // この場合、labelにはtempFontのコピーが設定されるため、
  // tempFontが破棄されても問題ないことが多いですが、
  // QFontがより複雑なリソースを保持している場合や、
  // 特定のQtのバージョン・プラットフォームでは注意が必要です。
  // 一般的には、ウィジェットに設定されたフォントのコピーがウィジェットによって保持されるため、
  // この例自体は直接的なエラーにはなりにくいですが、
  // 複雑なケースでは注意が必要です。
  

  トラブルシューティング: QFont オブジェクトは、通常ウィジェットがその設定のコピーを保持するため、上記の例で直接的な問題になることは稀です。しかし、フォントオブジェクトの参照を保持する必要がある場合（例えば、複数のウィジェットで同じフォントを共有し、後で動的に変更したい場合など）は、そのフォントオブジェクトを適切なスコープ（例えばクラスのメンバー変数）で保持する必要があります。

QFont::Capitalization は便利な機能ですが、主に以下の点を意識することで多くの問題を回避できます。

1. setFont() を使ってウィジェットに明示的にフォントを再適用すること。
2. スタイルシートとの競合に注意すること。
3. SmallCaps や Capitalize はフォント自体のサポートに依存する可能性があること。
4. Capitalization は表示のみを変更し、元の文字列データを変更しないこと。
5. 非ラテン文字には期待通りの効果がない場合が多いこと。

---

QFont::Capitalization は、QFont オブジェクトに設定することで、そのフォントが適用されるテキストの表示方法（大文字・小文字の扱い）を制御できます。ここでは、いくつかの具体的な使用例を挙げ、それぞれのコードの動作と目的を説明します。

すべての例で、Qt GUI モジュールを使用するため、QLabel を使ってテキストを表示します。

基本的な使用法：QFont::MixedCase, QFont::AllUppercase, QFont::AllLowercase

これは最も基本的な使用例で、テキストの大文字・小文字をどのように表示するかを切り替えます。

目的

• AllLowercase: すべての文字を強制的に小文字で表示する。
• AllUppercase: すべての文字を強制的に大文字で表示する。
• MixedCase: 入力されたテキストそのままの大文字・小文字で表示する（デフォルト）。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout> // ウィジェットを垂直に並べるため
#include <QWidget>     // メインウィンドウの基底クラス

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    // --- MixedCase (デフォルト) ---
    QLabel *labelMixedCase = new QLabel("Hello World! This is Mixed Case.");
    QFont fontMixedCase = labelMixedCase->font(); // 現在のフォントのコピーを取得
    fontMixedCase.setCapitalization(QFont::MixedCase); // MixedCaseを設定 (デフォルトなので変化なし)
    labelMixedCase->setFont(fontMixedCase); // フォントをラベルに再設定
    layout->addWidget(labelMixedCase);

    // --- AllUppercase ---
    QLabel *labelAllUppercase = new QLabel("hello world! this will be all uppercase.");
    QFont fontAllUppercase = labelAllUppercase->font();
    fontAllUppercase.setCapitalization(QFont::AllUppercase); // すべて大文字に
    labelAllUppercase->setFont(fontAllUppercase);
    layout->addWidget(labelAllUppercase);

    // --- AllLowercase ---
    QLabel *labelAllLowercase = new QLabel("HELLO WORLD! THIS WILL BE ALL LOWERCASE.");
    QFont fontAllLowercase = labelAllLowercase->font();
    fontAllLowercase.setCapitalization(QFont::AllLowercase); // すべて小文字に
    labelAllLowercase->setFont(fontAllLowercase);
    layout->addWidget(labelAllLowercase);

    window.setWindowTitle("Capitalization Examples: Basic");
    window.show();

    return app.exec();
}

解説

1. QApplication を初期化します。
2. QWidget をメインウィンドウとして作成し、QVBoxLayout を使ってラベルを縦に並べます。
3. 各 QLabel に対して、初期テキストを設定します。
4. label->font() で現在のフォントのコピーを取得します。ここが重要です。 font() メソッドはフォントオブジェクトのコピーを返します。
5. コピーした QFont オブジェクトの setCapitalization() メソッドを呼び出し、目的の QFont::Capitalization 列挙値を設定します。
6. 変更した QFont オブジェクトを label->setFont() でラベルに再設定します。これにより、変更がラベルの表示に反映されます。

このコードを実行すると、labelAllUppercase のテキストはすべて大文字で、labelAllLowercase のテキストはすべて小文字で表示されることが確認できます。

QFont::SmallCaps の使用

SmallCaps は、大文字の形をしていますが、小文字の高さに合わせて縮小された文字を表示します。これはフォント自体がこの機能に対応している必要があります。

目的

• テキストを「スモールキャップス」で表示し、特定の単語や略語を目立たせる。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *labelNormal = new QLabel("This is Normal Text.");
    layout->addWidget(labelNormal);

    QLabel *labelSmallCaps = new QLabel("This is Small Caps Text.");
    QFont fontSmallCaps = labelSmallCaps->font();
    fontSmallCaps.setPointSize(20); // 見やすくするために少し大きく
    fontSmallCaps.setCapitalization(QFont::SmallCaps); // SmallCapsを設定
    labelSmallCaps->setFont(fontSmallCaps);
    layout->addWidget(labelSmallCaps);

    QLabel *labelMixedWithSmallCaps = new QLabel("Testing NATO and UNESCO in Small Caps.");
    QFont fontMixedWithSmallCaps = labelMixedWithSmallCaps->font();
    fontMixedWithSmallCaps.setPointSize(20);
    fontMixedWithSmallCaps.setCapitalization(QFont::SmallCaps);
    labelMixedWithSmallCaps->setFont(fontMixedWithSmallCaps);
    layout->addWidget(labelMixedWithSmallCaps);


    window.setWindowTitle("Capitalization Examples: SmallCaps");
    window.show();

    return app.exec();
}

解説
QFont::SmallCaps を設定したラベルは、テキストが大文字の形を保ちつつ、小文字と同じくらいの高さで表示されます。フォントによっては、この機能が適切に表示されない場合がある点に注意してください。

QFont::Capitalize の使用

Capitalize は、各単語の最初の文字を大文字に、残りを小文字にします。

目的

• タイトルや固有名詞のように、各単語の頭を大文字にする。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *labelNormal = new QLabel("this is a normal sentence.");
    layout->addWidget(labelNormal);

    QLabel *labelCapitalize1 = new QLabel("this is an example sentence for capitalize.");
    QFont fontCapitalize1 = labelCapitalize1->font();
    fontCapitalize1.setCapitalization(QFont::Capitalize); // 各単語の頭を大文字に
    labelCapitalize1->setFont(fontCapitalize1);
    layout->addWidget(labelCapitalize1);

    QLabel *labelCapitalize2 = new QLabel("QML and C++ Integration.");
    QFont fontCapitalize2 = labelCapitalize2->font();
    fontCapitalize2.setCapitalization(QFont::Capitalize); // 既に大文字の頭も処理されるか確認
    labelCapitalize2->setFont(fontCapitalize2);
    layout->addWidget(labelCapitalize2);

    QLabel *labelWithNumbers = new QLabel("item number 123 in the list.");
    QFont fontWithNumbers = labelWithNumbers->font();
    fontWithNumbers.setCapitalization(QFont::Capitalize);
    labelWithNumbers->setFont(fontWithNumbers);
    layout->addWidget(labelWithNumbers);

    window.setWindowTitle("Capitalization Examples: Capitalize");
    window.show();

    return app.exec();
}

解説
QFont::Capitalize を設定すると、「this is an example sentence for capitalize.」が「This Is An Example Sentence For Capitalize.」のように表示されます。数字や記号が含まれる場合でも、単語と認識される区切りで処理が適用されます。

動的な変更（ボタンクリックで切り替え）

UI の操作に応じて Capitalization を動的に変更する例です。

目的

• ユーザーのアクション（ボタンクリック）に応じてテキストの表示形式を切り替える。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

class CapitalizationChanger : public QWidget
{
    Q_OBJECT // シグナルとスロットを使用するために必要

public:
    CapitalizationChanger(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
    {
        currentCapitalizationIndex = 0;
        capitalizationModes << QFont::MixedCase
                            << QFont::AllUppercase
                            << QFont::AllLowercase
                            << QFont::Capitalize;

        label = new QLabel("This is a Test Sentence for Capitalization.");
        label->setFont(QFont("Arial", 16)); // フォントを設定
        updateLabelCapitalization(); // 初期状態を設定

        QPushButton *button = new QPushButton("Change Capitalization");
        connect(button, &QPushButton::clicked, this, &CapitalizationChanger::changeCapitalization);

        QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
        layout->addWidget(label, 0, Qt::AlignCenter); // 中央に配置
        layout->addWidget(button, 0, Qt::AlignCenter); // 中央に配置
    }

private slots:
    void changeCapitalization()
    {
        currentCapitalizationIndex = (currentCapitalizationIndex + 1) % capitalizationModes.size();
        updateLabelCapitalization();
    }

    void updateLabelCapitalization()
    {
        QFont font = label->font(); // 現在のフォントのコピーを取得
        font.setCapitalization(capitalizationModes.at(currentCapitalizationIndex));
        label->setFont(font); // ラベルに再設定

        // 現在のモードを示すテキストも更新 (オプション)
        QString modeName;
        switch (capitalizationModes.at(currentCapitalizationIndex)) {
            case QFont::MixedCase: modeName = "MixedCase"; break;
            case QFont::AllUppercase: modeName = "AllUppercase"; break;
            case QFont::AllLowercase: modeName = "AllLowercase"; break;
            case QFont::SmallCaps: modeName = "SmallCaps"; break; // この例では使用しないが含める
            case QFont::Capitalize: modeName = "Capitalize"; break;
            default: modeName = "Unknown"; break;
        }
        setWindowTitle("Current Mode: " + modeName);
    }

private:
    QLabel *label;
    QList<QFont::Capitalization> capitalizationModes;
    int currentCapitalizationIndex;
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);
    CapitalizationChanger changer;
    changer.resize(400, 200);
    changer.show();
    return app.exec();
}

#include "main.moc" // mocツールで生成されるファイル

解説

1. CapitalizationChanger というカスタムウィジェットを作成し、Q_OBJECT マクロを使用してシグナル・スロットを有効にします。
2. QLabel と QPushButton を配置します。
3. capitalizationModes という QList に、切り替えたい QFont::Capitalization の列挙値を格納します。
4. ボタンがクリックされるたびに changeCapitalization() スロットが呼ばれ、currentCapitalizationIndex をインクリメントして次のモードに切り替えます。
5. updateLabelCapitalization() スロット内で、ラベルの現在のフォントを取得し、新しい Capitalization モードを設定して、再度ラベルにフォントを適用します。これにより、ラベルの表示が即座に更新されます。

この例では、ボタンをクリックするたびにテキストの表示が大文字・小文字、キャピタライズ、すべて小文字へと切り替わります。

---

QFont::Capitalization は Qt が提供する便利な機能ですが、特定のニーズや環境においては、他の方法で同等またはより柔軟なテキスト変換・表示制御を行うことが望ましい場合があります。

主な代替手段は以下の通りです。

1. QString の文字列変換メソッドを使用する
2. CSS (Qt Style Sheets) の text-transform プロパティを使用する
3. QML で Text エレメントの textFormat および JavaScript を使用する
4. カスタムペイントイベントでテキストを描画する際に変換を行う

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

QString の文字列変換メソッドを使用する

これは最も一般的で柔軟な代替手段です。QFont::Capitalization が表示のみを変更するのに対し、QString のメソッドは実際の文字列データそのものを変更します。

利用シーン

• QFont::Capitalization では対応できない複雑なルールで文字列を変換したい場合（例：特定の単語だけ変換、ハイフン区切りの単語をそれぞれキャピタライズ）。
• データそのものを大文字・小文字変換して保存したい場合。

主なメソッド

• QString::replace(), QString::split(), QString::join() などを組み合わせて複雑な変換ロジックを実装。
• QString::toTitleCase() (Qt 5.10 以降): 各単語の先頭を大文字に、残りを小文字に変換します（QFont::Capitalize に相当しますが、より強力で言語規則に沿った処理が可能です）。
• QString::toLower(): すべての文字を小文字に変換します。
• QString::toUpper(): すべての文字を大文字に変換します。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QString>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QString originalText = "hello world! this is a test string.";

    // --- toUpper() を使用 ---
    QLabel *labelUpper = new QLabel(originalText.toUpper());
    labelUpper->setText("toUpper(): " + originalText.toUpper());
    layout->addWidget(labelUpper);

    // --- toLower() を使用 ---
    QLabel *labelLower = new QLabel(originalText.toLower());
    labelLower->setText("toLower(): " + originalText.toLower());
    layout->addWidget(labelLower);

    // --- toTitleCase() を使用 (Qt 5.10 以降) ---
    // QFont::Capitalize と似ているが、より言語に応じた処理が可能
    QLabel *labelTitleCase = new QLabel();
    labelTitleCase->setText("toTitleCase(): " + originalText.toTitleCase());
    layout->addWidget(labelTitleCase);

    // --- カスタムのキャピタライズロジック (toTitleCaseがない場合や、より複雑な要件の場合) ---
    QString customCapitalizedText;
    QStringList words = originalText.split(' ');
    for (const QString &word : words) {
        if (!word.isEmpty()) {
            customCapitalizedText += word.at(0).toUpper(); // 最初の文字を大文字に
            customCapitalizedText += word.mid(1).toLower(); // 残りを小文字に
        }
        customCapitalizedText += " "; // 単語の間にスペースを追加
    }
    QLabel *labelCustomCapitalize = new QLabel();
    labelCustomCapitalize->setText("Custom Capitalize: " + customCapitalizedText.trimmed()); // 末尾のスペースを削除
    layout->addWidget(labelCustomCapitalize);


    window.setWindowTitle("QString Conversion Examples");
    window.show();

    return app.exec();
}

利点

• Qt のバージョンに依存せず、どこでも使用可能。
• 非常に柔軟で、複雑な変換ルールを実装できる。
• 元のデータ自体を変換できる。

欠点

• 表示のために文字列を変換するたびに新しい QString オブジェクトが生成されるため、頻繁な更新が必要な場合はわずかなオーバーヘッドが生じる可能性がある（通常は問題ないレベル）。

CSS (Qt Style Sheets) の text-transform プロパティを使用する

Web 技術に精通している開発者にはおなじみの方法です。Qt Style Sheets は、Web の CSS に似た構文で Qt ウィジェットの見た目をカスタマイズできます。

利用シーン

• 特定のウィジェットタイプ全体に一貫した大文字・小文字ルールを適用したい場合。
• デザイナーがスタイルシートで見た目を定義したい場合。
• UI の見た目を統一的に管理したい場合。

主要なプロパティ

• text-transform: none;: 変換しない（デフォルト、QFont::MixedCase に相当）。
• text-transform: capitalize;: 各単語の先頭を大文字に変換して表示 (QFont::Capitalize に相当)。
• text-transform: lowercase;: すべて小文字に変換して表示 (QFont::AllLowercase に相当)。
• text-transform: uppercase;: すべて大文字に変換して表示 (QFont::AllUppercase に相当)。

コード例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *label1 = new QLabel("hello world!");
    label1->setStyleSheet("QLabel { text-transform: uppercase; font-size: 16px; }");
    layout->addWidget(label1);

    QLabel *label2 = new QLabel("HELLO WORLD!");
    label2->setStyleSheet("QLabel { text-transform: lowercase; font-size: 16px; }");
    layout->addWidget(label2);

    QLabel *label3 = new QLabel("this is a capitalized sentence.");
    label3->setStyleSheet("QLabel { text-transform: capitalize; font-size: 16px; }");
    layout->addWidget(label3);

    // QFont::SmallCaps に直接対応する CSS プロパティは存在しません。
    // 代わりに font-variant を使用することになりますが、これはフォントのサポートに依存します。
    QLabel *label4 = new QLabel("small caps example.");
    label4->setStyleSheet("QLabel { font-variant: small-caps; font-size: 16px; }"); // SmallCapsの代替
    layout->addWidget(label4);


    window.setWindowTitle("Qt Style Sheets text-transform");
    window.show();

    return app.exec();
}

利点

• Web 開発者には馴染みやすい。
• 見た目の変更をコードから分離できる。

欠点

• QFont::Capitalization のような C++ の API とは異なる学習曲線がある。
• CSS の適用順序や継承に注意が必要。
• QFont::SmallCaps に直接対応する text-transform プロパティはない（font-variant: small-caps; で代替）。

QML で Text エレメントの textFormat および JavaScript を使用する

QML を使用している場合、Text エレメント内で JavaScript を使って文字列を変換するか、textFormat プロパティを活用できます。

利用シーン

• 動的なデータバインディングと組み合わせたい場合。
• QML ベースの UI を開発している場合。

主な方法

• Text { textFormat: Text.RichText; text: "<span>" + myString + "</span>" } とし、HTML/CSS で text-transform を使う。
• Text { textFormat: Text.PlainText; text: myString.toLowerCase() }
• Text { text: myString.toUpperCase() } (JavaScript の文字列メソッド)

コード例 (QML)

// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 640
    height: 480
    visible: true
    title: "QML Text Transformation"

    Column {
        anchors.centerIn: parent
        spacing: 10

        Text {
            text: "Hello World! (Original)"
            font.pixelSize: 20
        }

        // JavaScript toUpperCase()
        Text {
            text: "hello world! (to UpperCase)".toUpperCase()
            font.pixelSize: 20
        }

        // JavaScript toLowerCase()
        Text {
            text: "HELLO WORLD! (to LowerCase)".toLowerCase()
            font.pixelSize: 20
        }

        // カスタムのキャピタライズ関数 (JavaScript)
        function capitalize(str) {
            return str.split(' ').map(function(word) {
                return word.charAt(0).toUpperCase() + word.slice(1).toLowerCase();
            }).join(' ');
        }
        Text {
            text: capitalize("this is a sentence for capitalize.")
            font.pixelSize: 20
        }

        // CSS text-transform via HTML (RichText)
        Text {
            text: "<span style='text-transform: uppercase;'>text via css uppercase</span>"
            textFormat: Text.RichText
            font.pixelSize: 20
        }

        // CSS font-variant: small-caps via HTML (RichText)
        Text {
            text: "<span style='font-variant: small-caps;'>text via css small caps</span>"
            textFormat: Text.RichText
            font.pixelSize: 20
        }
    }
}

利点

• データバインディングと組み合わせることで、モデルデータの変更に動的に対応できる。
• QML の宣言的な構文とJavaScript の柔軟性を組み合わせられる。

欠点

• 複雑な変換の場合、JavaScript コードが QML ファイル内に散らばる可能性がある。
• QML プロジェクトに限定される。

カスタムペイントイベントでテキストを描画する際に変換を行う

これは最も低レベルな方法で、QWidget::paintEvent() をオーバーライドして QPainter で直接テキストを描画する際に、変換を適用します。

利用シーン

• 既存のウィジェットの描画を細かくカスタマイズしたい場合。
• 標準ウィジェットでは実現できないような、非常に特殊なテキスト描画が必要な場合。

コード例 (抜粋)

// MyCustomWidget.h
#include <QWidget>
#include <QString>
#include <QFont>

class MyCustomWidget : public QWidget
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyCustomWidget(QWidget *parent = nullptr);
    void setText(const QString &text) { m_text = text; update(); }
    void setDisplayMode(QFont::Capitalization mode) { m_displayMode = mode; update(); }

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override;

private:
    QString m_text;
    QFont::Capitalization m_displayMode;
};

// MyCustomWidget.cpp
#include "MyCustomWidget.h"
#include <QPainter>
#include <QDebug> // デバッグ用

MyCustomWidget::MyCustomWidget(QWidget *parent) : QWidget(parent)
{
    m_text = "Default Custom Text";
    m_displayMode = QFont::MixedCase;
    setFont(QFont("Arial", 20)); // 基本フォントを設定
}

void MyCustomWidget::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
    Q_UNUSED(event);
    QPainter painter(this);
    painter.setFont(font()); // ウィジェットのフォントをpainterに設定

    QString displayText = m_text;

    // ここで変換ロジックを実装
    switch (m_displayMode) {
        case QFont::AllUppercase:
            displayText = m_text.toUpper();
            break;
        case QFont::AllLowercase:
            displayText = m_text.toLower();
            break;
        case QFont::Capitalize:
            // QString::toTitleCase() を使用するか、カスタムロジックをここに記述
            displayText = m_text.toTitleCase(); // Qt 5.10+
            break;
        case QFont::SmallCaps:
            // QFont::setSmallCaps(true) を利用するには、
            // painter.setFont() の前にフォントに設定が必要。
            // あるいは、ここでdisplayTextをカスタム変換する。
            // QFont::SmallCaps は QPainter で直接変換されるわけではない。
            // フォントにその設定を渡す必要がある。
            // QPainter::setFont(QFont("Arial", 20, QFont::Normal, false, QFont::SmallCaps));
            // というように、QFontのsetCapitalizationを直接指定する。
            // ただし、この例ではQString変換が主眼なので省略。
            break;
        case QFont::MixedCase:
        default:
            // 何もしない
            break;
    }

    // 変換されたテキストを描画
    painter.drawText(rect(), Qt::AlignCenter, displayText);
}

利点

• 既存の QFont::Capitalization が利用できない、または不十分な場合に有効。
• 究極の制御。描画のあらゆる側面をカスタマイズできる。

欠点

• テキストの描画は複雑なため、通常は Qt の提供するウィジェットやスタイルシートを使用することが推奨される。
• パフォーマンスを考慮する必要がある。
• 実装が複雑になる。

QFont::Capitalization は、フォントレベルでの簡単な表示変換には非常に便利で、最も直接的な方法です。しかし、より複雑なテキスト処理、データそのものの変更、あるいはスタイルの一元管理が必要な場合には、QString のメソッド、Qt Style Sheets、または QML の機能が強力な代替手段となります。