QFont::setPixelSize()のよくある落とし穴と解決策：Qtフォントトラブルシューティング

QFont::setPixelSize()とは？

QFont::setPixelSize(int pixelSize)は、Qtフレームワークにおいてフォントのサイズをピクセル単位で設定するための関数です。

通常、フォントのサイズは「ポイント（pt）」という単位で指定されることが多いですが、setPixelSize()を使うと、ディスプレイ上の実際のピクセル数でフォントの高さ（文字の高さ）を直接指定することができます。

特徴と用途

1. ピクセル単位での正確な制御:

   • フォントのサイズをピクセル単位で直接指定するため、特に固定サイズのレイアウトや、特定のピクセル数に厳密に合わせたい場合に便利です。
   • 例えば、UI要素のサイズに合わせてテキストを正確に配置したい場合などに役立ちます。

2. デバイス依存性:

   • ピクセルサイズはディスプレイのDPI（Dots Per Inch）や拡大率に影響されます。そのため、異なるDPI設定のデバイスやモニターでアプリケーションを実行した場合、同じピクセルサイズを指定しても、見た目のフォントの大きさが変わる可能性があります。
   • これに対し、QFont::setPointSize()で指定するポイントサイズは、一般的にデバイスに依存しない「論理的なサイズ」として扱われるため、異なる環境でも比較的一貫した見た目を保ちやすいという違いがあります。

3. 使用例:

   #include <QApplication>
   #include <QLabel>
   #include <QFont>
   
   int main(int argc, char *argv[]) {
       QApplication a(argc, argv);
   
       QLabel label("こんにちは、世界！"); // 表示するテキスト
       QFont font = label.font();           // 現在のフォントを取得
       font.setPixelSize(30);               // フォントサイズを30ピクセルに設定
       label.setFont(font);                 // ラベルに新しいフォントを適用
   
       label.show();
       return a.exec();
   }
   

   上記のコードでは、QLabelに表示される「こんにちは、世界！」というテキストのフォントサイズが、高さ30ピクセルになるように設定されます。

特徴	setPixelSize(int pixelSize)	setPointSize(int pointSize)
単位	ピクセル（px）	ポイント（pt）
デバイス依存性	高い（ピクセルは物理的な表示単位）	低い（論理的な表示単位として扱われる）
用途	厳密なピクセル単位でのサイズ調整、固定UI	一般的なフォントサイズ設定、デバイス独立性重視

---

"Pixel size <= 0" という警告/エラー

現象: アプリケーションのデバッグ出力にQFont::setPixelSize: Pixel size <= 0 (0)のような警告が表示されることがあります。これは、setPixelSize()に0以下の値が渡されたことを示しています。

原因:

• QtWebKitのような内部コンポーネントが、特定のWebページのレンダリング時に一時的に不正な値を設定することがあります（これはQtのバグとして報告されたこともあります）。
• 特に、QMLのfontSizeプロパティなど、他のフォントサイズ設定と競合する場合に発生することがあります。
• プログラムのロジックエラーにより、計算結果としてフォントサイズが0または負の値になる場合。

トラブルシューティング:

• QtWebKitなど、自身で制御できない部分でこの警告が出る場合は、多くの場合、表示上の問題がない限り無視しても問題ありません。Qtの古いバージョンでは、この警告がよく見られましたが、新しいバージョンでは改善されている場合があります。
• setPixelSize()を呼び出す前に、引数として渡すpixelSizeが必ず正の整数であることを確認してください。特に、ユーザー入力や動的な計算結果を使用する場合は、範囲チェックを行うことが重要です。

異なるディスプレイ環境でのフォントの表示サイズの違い

現象: 開発環境と異なるディスプレイ（特に高DPIディスプレイ）でアプリケーションを実行すると、フォントが小さすぎたり、大きすぎたりして、レイアウトが崩れることがあります。

原因:

• 低DPIディスプレイで30ピクセルと設定した場合と、高DPIディスプレイ（例: Retinaディスプレイ）で同じ30ピクセルと設定した場合では、後者の方が物理的なサイズが小さく表示されます。これは、高DPIディスプレイではより多くのピクセルが狭い領域に詰め込まれているためです。
• setPixelSize()は物理的なピクセル数でサイズを指定するため、ディスプレイのDPI（Dots Per Inch）やOSのスケーリング設定に直接影響されます。

トラブルシューティング:

• 手動でのDPIスケーリング: 特定の状況でsetPixelSize()をどうしても使用したい場合は、QScreen::devicePixelRatio()やQGuiApplication::primaryScreen()->logicalDotsPerInch()などの情報を使って、DPIに応じてピクセルサイズを調整するロジックを自分で実装することも可能です。しかし、これは複雑になりがちで、通常はQtの自動スケーリング機能に任せる方が良いでしょう。
• QtのDPIスケーリング機能を利用する: Qt 5以降では、高DPIディスプレイへの対応が強化されています。QApplication::setAttribute(Qt::AA_EnableHighDpiScaling);などを設定することで、Qtが自動的にDPIスケーリングを適用し、UI要素やフォントが適切に拡大・縮小されるようになります。アプリケーションの起動時にこれを設定します。
• QFont::setPointSize()の使用を検討する: ほとんどの場合、デバイスに依存しない「論理的なサイズ」でフォントを指定できるsetPointSize()（またはsetPointSizeF()）を使用することが推奨されます。これにより、Qtが各プラットフォームのDPI設定に応じて自動的に適切なピクセルサイズに調整してくれます。

  QFont font = label.font();
  font.setPointSize(12); // 12ptフォントを設定
  label.setFont(font);
  

フォントの描画品質（ギザギザ、ぼやけ）

現象: フォントがピクセル化されて見えたり、ぼやけて見えることがあります。特に特定のフォントサイズで顕著になることがあります。

原因:

• DPIスケーリングとの競合: 意図しないDPIスケーリングが適用されている場合、画像のようにビットマップが拡大・縮小され、フォントの品質が低下することがあります。
• フォントのヒンティング: フォントにはヒンティング情報が含まれており、特定のピクセルサイズで最適なレンダリングが行われるように設計されています。setPixelSize()で指定したサイズが、そのフォントが持つ最適なヒンティングサイズと一致しない場合に、見栄えが悪くなることがあります。
• アンチエイリアシングの設定: Qtのデフォルト設定や使用しているOSのフォントレンダリング設定により、アンチエイリアシングが有効になっていない場合があります。

トラブルシューティング:

• 異なるフォントの試用: 全てのフォントが全てのピクセルサイズで完璧にレンダリングされるわけではありません。別のフォントを試すことで、見栄えが良くなる場合があります。
• システムフォント設定の確認: WindowsのClearType設定など、OSレベルのフォントレンダリング設定が影響している可能性もあります。
• setPointSize()を試す: setPixelSize()でギザギザが見られる場合、setPointSize()に切り替えて、Qtのフォントマッチングアルゴリズムとシステムのスケーリングに任せてみることで改善されることがあります。
• アンチエイリアシングを強制する: QFont::setStyleStrategy(QFont::PreferAntialias);を設定することで、アンチエイリアシングを優先させることができます。

  QFont font = label.font();
  font.setPixelSize(20);
  font.setStyleStrategy(QFont::PreferAntialias); // アンチエイリアシングを優先
  label.setFont(font);
  

フォントサイズの動的な変更が反映されない

現象: setPixelSize()でフォントサイズを変更しても、UI要素にすぐに反映されない、または一部の要素にしか反映されない。

原因:

• レイアウトの更新不足: フォントサイズが変わるとウィジェットの推奨サイズも変わるため、親ウィジェットのレイアウトが正しく更新されないと表示がおかしくなることがあります。
• フォントの適用漏れ: QFontオブジェクトを変更した後、そのフォントを実際に表示するウィジェット（例: QLabel, QPushButtonなど）にsetFont()で再設定するのを忘れている場合があります。

トラブルシューティング:

• フォントサイズ変更後に、widget->update()やwidget->repaint()、または親ウィジェットのlayout()->invalidate()やparentWidget()->adjustSize()などを呼び出して、UIの再描画とレイアウトの再計算を強制してみてください。
• フォントを変更したら、必ず対象のウィジェットにwidget->setFont(newFont);を呼び出してください。

---

例1: 基本的なQLabelのフォントサイズ設定

最も基本的な例として、QLabel ウィジェットのフォントサイズをピクセル単位で設定する方法を示します。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    // メインウィンドウとして使用するウィジェット
    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    // ラベル1: デフォルトフォントサイズ
    QLabel *label1 = new QLabel("これはデフォルトのフォントサイズです。");
    layout->addWidget(label1);

    // ラベル2: 24ピクセルに設定
    QLabel *label2 = new QLabel("このテキストは24ピクセルです。");
    QFont font2 = label2->font(); // 現在のフォントを取得
    font2.setPixelSize(24);       // ピクセルサイズを24に設定
    label2->setFont(font2);       // フォントを適用
    layout->addWidget(label2);

    // ラベル3: 40ピクセルに設定（太字、異なるフォントファミリー）
    QLabel *label3 = new QLabel("40ピクセルの太字フォントです。");
    QFont font3("Arial", -1, QFont::Bold); // フォントファミリーと太字を指定 (サイズは後で設定)
    font3.setPixelSize(40);                // ピクセルサイズを40に設定
    label3->setFont(font3);
    layout->addWidget(label3);

    window.setWindowTitle("QFont::setPixelSize() 例");
    window.show();

    return a.exec();
}

解説:

• QFont コンストラクタでフォントファミリーや太字などを指定し、後から setPixelSize() でサイズを設定することも可能です。
• 変更した QFont オブジェクトを QLabel の setFont() メソッドに渡して適用します。
• 取得した QFont オブジェクトに対して setPixelSize() を呼び出し、ピクセル単位でサイズを指定します。
• QLabel の font() メソッドで現在のフォントオブジェクトのコピーを取得します。

例2: QLineEditでのフォントサイズ設定と動的な変更

ユーザーが入力するテキストボックス（QLineEdit）のフォントサイズを設定し、ボタンで動的に変更する例です。

#include <QApplication>
#include <QLineEdit>
#include <QPushButton>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

class FontChanger : public QWidget {
    Q_OBJECT // QObjectを継承したクラスではQ_OBJECTマクロが必要です

public:
    FontChanger(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
        QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);

        lineEdit = new QLineEdit("ここにテキストを入力してください");
        layout->addWidget(lineEdit);

        QPushButton *increaseButton = new QPushButton("フォントを大きく");
        layout->addWidget(increaseButton);

        QPushButton *decreaseButton = new QPushButton("フォントを小さく");
        layout->addWidget(decreaseButton);

        // 初期フォントサイズを設定
        currentPixelSize = 16;
        updateFont();

        // ボタンのクリックイベントとスロットを接続
        connect(increaseButton, &QPushButton::clicked, this, &FontChanger::increaseFontSize);
        connect(decreaseButton, &QPushButton::clicked, this, &FontChanger::decreaseFontSize);

        setWindowTitle("動的なフォントサイズ変更");
    }

private slots:
    void increaseFontSize() {
        currentPixelSize += 2; // 2ピクセルずつ大きくする
        updateFont();
    }

    void decreaseFontSize() {
        if (currentPixelSize > 8) { // 最小サイズを設定
            currentPixelSize -= 2; // 2ピクセルずつ小さくする
            updateFont();
        }
    }

    void updateFont() {
        QFont font = lineEdit->font();
        font.setPixelSize(currentPixelSize);
        lineEdit->setFont(font);
    }

private:
    QLineEdit *lineEdit;
    int currentPixelSize;
};

#include "main.moc" // mocファイルを含める

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);
    FontChanger changer;
    changer.show();
    return a.exec();
}

解説:

• Q_OBJECT マクロと main.moc のインクルードは、シグナルとスロットのメカニズムを使用するために必要です。
• これらのスロット内で currentPixelSize を更新し、updateFont() を呼び出して QLineEdit のフォントを再設定します。
• 「フォントを大きく」ボタンと「フォントを小さく」ボタンをクリックすると、それぞれ increaseFontSize() と decreaseFontSize() スロットが呼び出されます。
• QLineEdit のフォントを初期設定し、currentPixelSize 変数で現在のピクセルサイズを管理します。

例3: QPainterによるカスタム描画でのフォントサイズ設定

QPainter を使用してウィジェット上に直接テキストを描画する場合にも setPixelSize() を利用できます。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QPainter>
#include <QFont>

class CustomTextWidget : public QWidget {
public:
    CustomTextWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
        setWindowTitle("QPainterでのQFont::setPixelSize()");
        setMinimumSize(400, 200);
    }

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override {
        Q_UNUSED(event);

        QPainter painter(this);
        painter.setRenderHint(QPainter::Antialiasing); // アンチエイリアシングを有効にする

        // フォント1: 20ピクセル
        QFont font1("メイリオ", -1, QFont::Normal);
        font1.setPixelSize(20);
        painter.setFont(font1);
        painter.drawText(50, 50, "これは20ピクセルのメイリオです。");

        // フォント2: 35ピクセル、太字、斜体
        QFont font2("Times New Roman", -1, QFont::Bold, true);
        font2.setPixelSize(35);
        painter.setFont(font2);
        painter.drawText(50, 100, "Hello, Qt World! (35px, Bold, Italic)");

        // フォント3: 15ピクセル、アンチエイリアシング優先
        QFont font3("Courier New", -1, QFont::Normal);
        font3.setPixelSize(15);
        // より滑らかな表示のためにアンチエイリアシングを優先させる
        font3.setStyleStrategy(QFont::PreferAntialias);
        painter.setFont(font3);
        painter.drawText(50, 150, "Small text with PreferAntialias. (15px)");
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);
    CustomTextWidget widget;
    widget.show();
    return a.exec();
}

解説:

• QFont::setStyleStrategy(QFont::PreferAntialias) は、特定の環境でフォントのギザギザを軽減するのに役立ちます。
• QPainter::setFont() メソッドを呼び出す前に QFont オブジェクトを作成し、setPixelSize() でサイズを設定します。
• QPainter::setRenderHint(QPainter::Antialiasing) を設定することで、テキストの描画がより滑らかになります。
• paintEvent() メソッド内で QPainter オブジェクトを作成し、描画を行います。

---

このような問題に対処し、より柔軟でデバイス非依存なフォントサイズ設定を実現するために、いくつかの代替手段がQtには用意されています。

QFont::setPixelSize() の代替手段

QFont::setPointSize() または QFont::setPointSizeF() を使用する（推奨）

これが setPixelSize() の最も一般的で推奨される代替手段です。ポイント (pt) は、歴史的に印刷業界で使われてきた物理的なサイズ単位ですが、コンピュータの世界では、デバイスのDPIに応じて自動的にピクセル数に変換される「論理的なサイズ」として扱われます。

• setPointSizeF(qreal pointSize): フォントサイズを浮動小数点数ポイントで設定します。より細かい調整が可能です。
• setPointSize(int pointSize): フォントサイズを整数ポイントで設定します。

利点:

• スケーラブルなUI: 高DPIディスプレイ環境でのUIのスケーリングに対応しやすくなります。
• デバイス非依存性: アプリケーションが異なるDPIのディスプレイで実行されても、QtがOSのDPI設定を考慮して自動的にフォントのピクセルサイズを調整するため、比較的一貫した見た目を保ちやすいです。

欠点:

• ピクセル単位での厳密な制御が必要な場合（例：特定のピクセルグリッドに完全に合わせたい場合）には、setPixelSize() ほどの直接的な制御はできません。

使用例:

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *label1 = new QLabel("これは12ポイントのフォントです。");
    QFont font1 = label1->font();
    font1.setPointSize(12); // 12ptに設定
    label1->setFont(font1);
    layout->addWidget(label1);

    QLabel *label2 = new QLabel("これは16.5ポイントのフォントです。");
    QFont font2 = label2->font();
    font2.setPointSizeF(16.5); // 16.5ptに設定 (より細かい指定)
    label2->setFont(font2);
    layout->addWidget(label2);

    window.setWindowTitle("QFont::setPointSize()/setPointSizeF() 例");
    window.show();

    return a.exec();
}

アプリケーション全体のデフォルトフォントを設定する

QApplication::setFont() を使用して、アプリケーション全体のデフォルトフォントを設定できます。これにより、個々のウィジェットでフォントを設定する手間を省き、一貫したルック＆フィールを提供できます。

利点:

• 個々のウィジェットで設定を繰り返す必要がない。
• アプリケーション全体でフォント設定を統一しやすい。

欠点:

• 特定のウィジェットだけフォントサイズを変えたい場合は、個別に setFont() を呼び出す必要があります。

使用例:

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    // アプリケーション全体のデフォルトフォントを設定
    QFont defaultAppFont("Meiryo UI", 10); // 例: メイリオ UI、10ポイント
    defaultAppFont.setBold(true);
    QApplication::setFont(defaultAppFont);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *label = new QLabel("このラベルはアプリケーションのデフォルトフォントを使っています。");
    layout->addWidget(label);

    QPushButton *button = new QPushButton("このボタンもデフォルトフォントです。");
    layout->addWidget(button);

    // 特定のラベルだけ異なるフォントサイズを設定する例（これはデフォルトを上書きします）
    QLabel *customLabel = new QLabel("このラベルは20ポイントのTimes New Romanです。");
    QFont customFont("Times New Roman", 20);
    customLabel->setFont(customFont);
    layout->addWidget(customLabel);

    window.setWindowTitle("QApplication::setFont() 例");
    window.show();

    return a.exec();
}

スタイルシート (Qt Style Sheets) を利用する

Qt Style Sheetsは、CSSライクな構文を使用してウィジェットの外観をカスタマイズする方法です。これを使ってフォントサイズを設定することも可能です。

利点:

• フォントサイズは pt (ポイント) または px (ピクセル) で指定可能。
• 実行時にスタイルを変更しやすい。
• 柔軟性が高く、特定のウィジェット、クラス、またはグローバルにスタイルを適用できる。
• UIのデザインとロジックを分離できる。

欠点:

• C++コードでのフォントオブジェクトの直接操作に比べて、デバッグが難しい場合があります。
• 非常に複雑なスタイルを適用しようとすると、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。

使用例:

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *label1 = new QLabel("スタイルシートでフォントサイズを設定");
    // px単位で指定
    label1->setStyleSheet("QLabel { font-size: 20px; font-family: 'Yu Gothic UI'; }");
    layout->addWidget(label1);

    QLabel *label2 = new QLabel("スタイルシートでポイントサイズを設定");
    // pt単位で指定
    label2->setStyleSheet("QLabel { font-size: 14pt; font-weight: bold; }");
    layout->addWidget(label2);

    QPushButton *button = new QPushButton("すべてのQPushButtonのフォントサイズを設定");
    // QPushButton全体に適用されるスタイル
    a.setStyleSheet("QPushButton { font-size: 16px; color: blue; }");
    layout->addWidget(button);

    window.setWindowTitle("スタイルシートのフォント設定例");
    window.show();

    return a.exec();
}

DPIスケーリングを有効にする

利点:

• 開発者が手動でDPI計算を行う必要がなくなる。
• アプリケーション全体のDPI対応が容易になる。

使用例:

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[]) {
    // 高DPIスケーリングを有効にする (Qt 5.6以降推奨)
    // Qt 6ではデフォルトで有効な場合が多いですが、明示的に設定することもできます。
    QApplication::setAttribute(Qt::AA_EnableHighDpiScaling); // 論理ピクセルへの自動スケーリング
    QApplication::setAttribute(Qt::AA_UseHighDpiPixmaps);    // ピックスマップもスケーリング

    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QLabel *label = new QLabel("このテキストは14ptで、DPIに応じてスケーリングされます。");
    QFont font = label->font();
    font.setPointSize(14); // ポイント単位で設定
    label->setFont(font);
    layout->addWidget(label);

    window.setWindowTitle("DPIスケーリングの例");
    window.show();

    return a.exec();
}

解説:

• Qt::AA_UseHighDpiPixmaps は、高DPIバージョン（例：@2x サフィックスの画像）のピックスマップが利用可能であればそれを使用し、そうでない場合は自動的にスケーリングを行います。
• Qt::AA_EnableHighDpiScaling は、Qtがウィジェットのサイズ、フォント、アイコンなどをOSのDPI設定に基づいて自動的にスケーリングするようにします。

• 特定のピクセル精度が必要な場合: ごくまれに、特定のグラフィック描画などでピクセル単位での厳密なフォントサイズが必要な場合にのみ、QFont::setPixelSize() を使用することを検討してください。ただし、その場合でも、DPIスケーリングによる影響を考慮する必要があります。
• デザインとロジックの分離、柔軟なカスタマイズ: UIのデザイン要素をコードから分離したい場合や、実行時に見た目を動的に変更したい場合は、Qt Style Sheets が非常に強力です。
• 全体的なルック＆フィール: アプリケーション全体のフォントを統一したい場合は、QApplication::setFont() が便利です。
• 最も推奨される方法: ほとんどのアプリケーションでは、QFont::setPointSize() (または setPointSizeF()) と、必要に応じてDPIスケーリングを有効にするのが最善です。これにより、異なるディスプレイ環境でアプリケーションの見た目の一貫性を保ちやすくなります。