QFont::setCapitalization()

QtプログラミングにおけるQFont::setCapitalization()は、フォントがテキストに適用される際の大文字・小文字の変換ルールを設定するために使用されます。

QFont::setCapitalization() とは？

この関数は、QFont::Capitalizationという列挙型で定義された値を引数にとり、そのフォントで描画されるテキストの大文字・小文字の表示方法を変更します。これは、元の文字列自体を変更するのではなく、フォントの表示設定として大文字・小文字の変換を行う点に注意が必要です。

QFont::Capitalization 列挙型の種類

QFont::Capitalization列挙型には、以下のオプションがあります。

• QFont::Capitalize
  
  • 各単語の最初の文字を大文字で表示し、それ以降の文字は小文字で表示します（例: "hello world" → "Hello World"）。これは、いわゆる「タイトルケース」や「キャメルケース」のような表示です。
• QFont::SmallCaps
  
  • テキスト全体をスモールキャップ（小文字の形をした大文字）で表示します。これは、大文字は通常の大文字サイズで、小文字は小さくした大文字で表示されるスタイルです。
• QFont::AllLowercase
  
  • テキスト全体をすべて小文字で表示します。
• QFont::AllUppercase
  
  • テキスト全体をすべて大文字で表示します。
• QFont::MixedCase (デフォルト)
  
  • 通常のテキスト表示で、大文字・小文字の変換は適用されません。入力されたテキストがそのまま表示されます。

使用例

例えば、QLineEdit（一行入力ウィジェット）のフォント設定で、入力されたテキストを常に大文字で表示したい場合は、以下のように設定できます。

#include <QApplication>
#include <QLineEdit>
#include <QFont>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    QLineEdit *lineEdit = new QLineEdit();

    // 現在のフォントを取得
    QFont font = lineEdit->font();

    // 大文字変換のルールを「すべて大文字」に設定
    font.setCapitalization(QFont::AllUppercase);

    // 変更したフォントをQLineEditに設定
    lineEdit->setFont(font);

    lineEdit->setWindowTitle("Uppercase Example");
    lineEdit->show();

    return a.exec();
}

このコードを実行すると、QLineEditに入力された文字が常に大文字で表示されるようになります。

• この設定は、QFontオブジェクトが適用されるすべてのテキストに影響を与えます。例えば、QLabelやQPushButtonなどのテキスト表示にも同様の効果があります。
• フォントによっては、SmallCapsなどの特定のCapitalization設定がサポートされていない場合があります。その場合、意図した通りの表示にならないことがあります。
• QFont::setCapitalization()は、あくまでフォントの表示オプションです。元のQStringオブジェクトの中身が変更されるわけではありません。もし、実際に文字列データを大文字・小文字変換したい場合は、QString::toUpper()やQString::toLower()などの関数を使用する必要があります。

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「テキスト自体が変換されない」という誤解

よくある誤解
setCapitalization()を使うと、文字列データ自体が大文字・小文字に変換されると思い込んでいる。

問題の症状
QLineEditに入力されたテキストを大文字表示にしたのに、そのテキストを別の場所（例: ファイルへの保存）で使用すると、元々の入力通りの大文字・小文字で出力されてしまう。

原因
QFont::setCapitalization()は、あくまでフォントの表示設定であり、基となるQStringデータ自体を変更するものではありません。これは、CSSのtext-transformプロパティがHTML要素の表示を変えるだけで、DOMツリー内のテキストノードを変更しないのと似ています。

トラブルシューティング

• 表示とデータの役割を理解する
  
  • 表示
    QFont::setCapitalization() を使用して、ユーザーインターフェース上でどのようにテキストを見せるかを制御します。
  • データ
    QStringの変換メソッドを使用して、アプリケーションのロジックやデータ保存に必要な形式でテキストを操作します。
• 文字列データを変換したい場合
  QString::toUpper(), QString::toLower(), QString::toTitleCase() などのQStringクラスのメソッドを使用してください。

  QString originalText = "Hello World";
  QString upperText = originalText.toUpper(); // "HELLO WORLD"
  

「特定のフォントでSmallCapsが機能しない」

よくある誤解
どのようなフォントでもSmallCapsが常に正しく表示されるはずだと思っている。

問題の症状
QFont::SmallCapsを設定しても、テキストが期待通りのスモールキャップ表示にならず、通常の大文字で表示されたり、全く変化がなかったりする。

原因
SmallCaps（スモールキャップ）は、フォント自体がそのグリフ（文字のデザイン）をサポートしている必要があります。多くの基本的なフォントはSmallCapsグリフを持っていないため、Qtは通常の代替フォントや大文字表示でフォールバックすることがあります。

トラブルシューティング

• 代替手段の検討
  
  • デザイナブルなテキスト表示が必要な場合は、QGraphicsTextItemなど、より高度なテキストレンダリング機能を持つクラスの使用を検討してください。
  • もしくは、手動で大文字と小文字を組み合わせて、見た目的にスモールキャップに近い表現を作り出すこともできますが、これは非常に手間がかかります。
• フォントの変更
  SmallCapsをサポートする別のフォント（例: Google Fontsで"small caps"で検索して出てくるフォントなど）を試してください。
• フォントの確認
  使用しているフォントがSmallCapsをサポートしているか確認してください。一般的に、OpenTypeやTrueTypeの高度なフォント機能を持つフォント（例: Adobe Garamond Pro, Georgia Proなど）はSmallCapsをサポートしている可能性が高いです。

「スタイルシートとの競合/上書き」

よくある誤解
スタイルシートでフォント設定を行っていても、QFont::setCapitalization()が常に優先されると思っている。

問題の症状
C++コードでQFont::setCapitalization()を設定したにもかかわらず、テキストの表示が大文字・小文字変換されない。

原因
Qtのスタイルシート（QSS）は、ウィジェットのプロパティを上書きする強力なメカニズムです。もしスタイルシートでtext-transformプロパティなどが設定されている場合、C++コードでのQFont::setCapitalization()の設定がスタイルシートによって上書きされる可能性があります。

トラブルシューティング

• QSSでの設定
  もしスタイルシートで統一的に大文字・小文字変換を管理したいのであれば、text-transformプロパティをスタイルシート内で設定することを検討してください。

  QLineEdit {
      text-transform: uppercase; /* すべて大文字 */
  }
  

  これはQFont::AllUppercaseに相当します。
• 優先順位の理解
  
  • C++コードでの設定
    プログラム実行時に直接ウィジェットに設定します。
  • スタイルシート
    特定のウィジェットタイプやオブジェクト名に対して、より広範囲にスタイルを適用できます。
  • 一般的に、より具体的なセレクタを持つスタイルシートのルールが優先されます。
• スタイルシートの確認
  アプリケーションで使用しているスタイルシート（.qssファイルやqApp->setStyleSheet()など）を確認し、text-transformプロパティが設定されていないかチェックしてください。

  /* 例: このCSSが適用されていると、setCapitalization()の効果がなくなる可能性がある */
  QLineEdit {
      text-transform: none; /* または uppercase, lowercase など */
  }
  

「動的なテキスト変更時に反映されない」

よくある誤解
一度setCapitalization()を設定すれば、その後に変更されるテキストにも常に反映されると思っている。

問題の症状
QLineEditなどのウィジェットにsetCapitalization()を設定した後、プログラム内でテキストを動的に変更しても、その変更されたテキストに大文字・小文字変換が適用されないことがある。

原因
setCapitalization()はQFontオブジェクトに設定されます。ウィジェットのフォントを一度設定すると、そのフォントオブジェクトがウィジェットに適用されます。しかし、そのフォントオブジェクト自体を後から変更しても、ウィジェットの新しいフォントとして再度設定しない限り、ウィジェットの表示には反映されません。

トラブルシューティング

• 新しいフォントオブジェクトの作成
  場合によっては、新しいQFontオブジェクトを作成し、それを設定し直す方が分かりやすいこともあります。
• フォントを再適用する
  フォントオブジェクトのsetCapitalization()を変更した後、そのQFontオブジェクトをウィジェットにsetFont()で再度設定する必要があります。

  QLineEdit *lineEdit = new QLineEdit();
  lineEdit->setText("initial text");
  
  QFont font = lineEdit->font(); // 現在のフォントを取得
  font.setCapitalization(QFont::AllUppercase); // 設定を変更
  lineEdit->setFont(font); // フォントを再適用
  
  // 後でテキストを変更した場合も、設定済みのフォントが適用される
  lineEdit->setText("another text");
  

QFont::setCapitalization()は、QtアプリケーションのUI表示を柔軟に制御するための強力なツールです。しかし、その「表示のみ」という特性と、フォント自体の制約、そしてスタイルシートとの相互作用を理解することが、予期せぬエラーを避け、効果的にトラブルシューティングを行うための鍵となります。 Qt の QFont::setCapitalization() は非常に便利ですが、いくつかの一般的な落とし穴や、期待通りの動作をしない場合のトラブルシューティングのポイントがあります。

文字列データ自体が変更されると誤解している

よくある間違い
setCapitalization() を呼び出すと、元の QString の中身（データ）が大文字・小文字に変換されると思い込んでいる。

実際
setCapitalization() は、フォントの表示方法を設定するだけで、元の文字列データは一切変更されません。これは、ワードプロセッサでテキストに「太字」や「斜体」を適用するのと同じようなものです。表示は変わりますが、テキストそのものは変わりません。

トラブルシューティング

• 例:

  QString originalText = "Hello World";
  // 表示は大文字になるが、originalText の中身は "Hello World" のまま
  myLabel->setFont(fontWithAllUppercase);
  
  // 実際に文字列を大文字にしたい場合
  QString upperText = originalText.toUpper(); // upperText は "HELLO WORLD"
  myLabel->setText(upperText);
  

• もし実際に文字列データを大文字・小文字変換したい場合は、QString::toUpper() や QString::toLower()、または自作の文字列操作関数を使用してください。

フォントがウィジェットに適用されていない

よくある間違い
QFont オブジェクトの setCapitalization() を呼び出した後、その QFont オブジェクトをウィジェットに設定し忘れている。

実際
QFont オブジェクトを変更しても、それは単にそのオブジェクトの状態を変更しただけであり、そのフォントを実際に表示するウィジェットに再設定しないと、変更は反映されません。

トラブルシューティング

• 例:

  QFont font = myWidget->font(); // 現在のフォントを取得
  font.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
  myWidget->setFont(font); // 変更したフォントをウィジェットに設定
  

• setFont() メソッドを呼び出して、変更した QFont オブジェクトをウィジェットに設定することを忘れないでください。

スタイルシートによるフォント設定との競合

よくある間違い
スタイルシート (qss) でフォントを設定している場合でも、QFont::setCapitalization() が適用されると思い込んでいる。

実際
Qt のスタイルシートは、setFont() によるC++コードでのフォント設定よりも優先されることがあります。特に、スタイルシートで font-family, font-size などの詳細なフォントプロパティが指定されている場合、setCapitalization() の効果が上書きされたり、意図した通りに反映されないことがあります。

トラブルシューティング

• スタイルシートとコードでのフォント設定のどちらか一方に統一することをお勧めします。
• 最も確実なのは、スタイルシートの使用を一時的に停止するか、関連するスタイルをコメントアウトして、setCapitalization() の効果を確認することです。
• スタイルシートを使用している場合は、スタイルシート内で qproperty-capitalization などのプロパティがサポートされているか確認してください（ただし、Qt のスタイルシートは QFont::Capitalization を直接サポートするプロパティを持たないため、これは一般的なフォントプロパティの競合問題として捉えるべきです）。

特定のフォントやOSでの表示の不一致

よくある間違い
すべてのフォントやOSで SmallCaps や Capitalize が完璧に表示されると思い込んでいる。

実際

• OSの違い
  フォントのレンダリングエンジンやOSのテキスト描画機能の違いにより、同じ設定でも微妙に表示が異なる場合があります。
• Capitalize (単語の先頭を大文字化)
  これはスペースや句読点で単語を区切り、その最初の文字を大文字にするという比較的単純なルールですが、複雑な言語（例えば、ハイフンでつながれた単語や非ラテン文字）では意図しない結果になることがあります。
• SmallCaps (スモールキャップ)
  この機能は、フォント自体がスモールキャップグリフ（専用の文字形状）を持っている場合に最もよく機能します。もしフォントがスモールキャップをサポートしていない場合、Qtは通常の小文字を縮小して大文字のように見せたり、期待通りの表示にならないことがあります。これは、フォントのデザイナーがスモールキャップを考慮して設計しているかどうかに依存します。

トラブルシューティング

• 異なるOS環境でテストし、表示の差異を確認します。
• SmallCaps が機能しない場合は、代替として AllUppercase を使用するか、カスタムの文字列操作でスモールキャップのような効果を再現することを検討してください（これは複雑になります）。
• 異なるフォント（特に標準的なフォント）で試してみて、期待通りに表示されるか確認してください。

QFont オブジェクトのコピーと生存期間

よくある間違い
QFont オブジェクトをコピーしたり、一時的なオブジェクトとして扱った後、その変更が永続的に適用されると思い込んでいる。

実際
QFont は暗黙的に共有される（implicitly shared）クラスですが、一度ウィジェットに設定されたフォントオブジェクトは、そのウィジェットの内部コピーとして扱われます。したがって、元の QFont オブジェクトを変更しても、すでにウィジェットに設定されているフォントには影響しません。常にウィジェットからフォントを取得し、変更し、再度ウィジェットに設定するという流れが重要です。

• 常に widget->font() で現在のフォントを取得し、変更を加えた後、widget->setFont(modifiedFont) で設定し直すようにします。

// 誤った例 (変更が反映されない可能性が高い)
QFont myFont;
myFont.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
// ... 後でどこかで myLabel->setFont(myFont); を呼んでも、
// myFont が変更される前に myLabel に設定されていると、
// その変更は反映されない。

// 正しい例
QLabel *myLabel = new QLabel("some text");
QFont labelFont = myLabel->font(); // 現在のフォントを取得
labelFont.setCapitalization(QFont::AllUppercase);
myLabel->setFont(labelFont); // 変更したフォントを再設定

---

ここでは、QFont::setCapitalization() の具体的な使用例をいくつか示します。

プロジェクトの準備

まず、Qtプロジェクトを作成します。Qt Creator を使用する場合、Qt Widgets Application テンプレートを選択するのが最も簡単です。

main.cpp とメインウィンドウのヘッダー/ソースファイル (mainwindow.h, mainwindow.cpp) が生成されます。

例1: QLabel での全大文字表示

最も基本的な例として、QLabel に表示されるテキストを常に大文字にする方法です。

mainwindow.h

#ifndef MAINWINDOW_H
#define MAINWINDOW_H

#include <QMainWindow>
#include <QLabel> // QLabel を使用するためインクルード

QT_BEGIN_NAMESPACE
namespace Ui { class MainWindow; }
QT_END_NAMESPACE

class MainWindow : public QMainWindow
{
    Q_OBJECT

public:
    MainWindow(QWidget *parent = nullptr);
    ~MainWindow();

private:
    Ui::MainWindow *ui;
    QLabel *uppercaseLabel; // 新しい QLabel オブジェクト
};
#endif // MAINWINDOW_H

mainwindow.cpp

#include "mainwindow.h"
#include "ui_mainwindow.h"
#include <QFont> // QFont を使用するためインクルード
#include <QVBoxLayout> // レイアウトのためにインクルード

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
    , ui(new Ui::MainWindow)
{
    ui->setupUi(this);

    // QLabel オブジェクトを作成
    uppercaseLabel = new QLabel("hello world!"); // 小文字のテキストを初期設定

    // 現在のフォントを取得
    QFont labelFont = uppercaseLabel->font();

    // フォントの大文字変換ルールを「すべて大文字」に設定
    labelFont.setCapitalization(QFont::AllUppercase);

    // 変更したフォントを QLabel に設定
    uppercaseLabel->setFont(labelFont);

    // フォントサイズを少し大きくして見やすくする
    labelFont.setPointSize(24);
    uppercaseLabel->setFont(labelFont);

    // レイアウトを作成し、QLabel を追加
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout();
    layout->addWidget(uppercaseLabel);

    // 中央ウィジェットとレイアウトを設定
    QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
    centralWidget->setLayout(layout);
    setCentralWidget(centralWidget);

    setWindowTitle("Capitalization Example: AllUppercase");
}

MainWindow::~MainWindow()
{
    delete ui;
}

実行結果

ウィンドウに表示されるテキストは「HELLO WORLD!」となります。元の QLabel に設定した文字列は "hello world!" ですが、フォント設定によって大文字で表示されます。

例2: QLineEdit とコンボボックスによる動的な大文字・小文字変換設定

QLineEdit に入力されたテキストの表示を、コンボボックスで選択した Capitalization スタイルに動的に変更する例です。

mainwindow.h

#ifndef MAINWINDOW_H
#define MAINWINDOW_H

#include <QMainWindow>
#include <QLineEdit>
#include <QComboBox>
#include <QLabel> // 説明用のラベル

QT_BEGIN_NAMESPACE
namespace Ui { class MainWindow; }
QT_END_NAMESPACE

class MainWindow : public QMainWindow
{
    Q_OBJECT

public:
    MainWindow(QWidget *parent = nullptr);
    ~MainWindow();

private slots:
    void onCapitalizationChanged(int index); // コンボボックスの選択変更時に呼ばれるスロット

private:
    Ui::MainWindow *ui;
    QLineEdit *lineEdit;
    QComboBox *comboBox;
    QLabel *descriptionLabel; // 説明用のラベル
};
#endif // MAINWINDOW_H

mainwindow.cpp

#include "mainwindow.h"
#include "ui_mainwindow.h"
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout> // 垂直レイアウト
#include <QHBoxLayout> // 水平レイアウト

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
    , ui(new Ui::MainWindow)
{
    ui->setupUi(this);

    // QLineEdit を作成
    lineEdit = new QLineEdit("Example Text For Capitalization");
    lineEdit->setFont(QFont("Arial", 16)); // フォントとサイズを設定

    // QComboBox を作成し、Capitalization オプションを追加
    comboBox = new QComboBox();
    comboBox->addItem("Mixed Case", QFont::MixedCase);      // デフォルト
    comboBox->addItem("All Uppercase", QFont::AllUppercase); // すべて大文字
    comboBox->addItem("All Lowercase", QFont::AllLowercase); // すべて小文字
    comboBox->addItem("Small Caps", QFont::SmallCaps);       // スモールキャップ
    comboBox->addItem("Capitalize (Title Case)", QFont::Capitalize); // 各単語の先頭を大文字

    // 説明用のラベル
    descriptionLabel = new QLabel("Select capitalization style:");

    // レイアウトを設定
    QVBoxLayout *mainLayout = new QVBoxLayout();
    QHBoxLayout *comboLayout = new QHBoxLayout(); // コンボボックスとラベルを横に並べる

    comboLayout->addWidget(descriptionLabel);
    comboLayout->addWidget(comboBox);
    comboLayout->addStretch(); // 右側にスペースを詰める

    mainLayout->addLayout(comboLayout);
    mainLayout->addWidget(lineEdit);
    mainLayout->addStretch(); // 下側にスペースを詰める

    // 中央ウィジェットを作成し、レイアウトを設定
    QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
    centralWidget->setLayout(mainLayout);
    setCentralWidget(centralWidget);

    // シグナルとスロットを接続: コンボボックスの選択が変更されたら onCapitalizationChanged を呼び出す
    connect(comboBox, QOverload<int>::of(&QComboBox::currentIndexChanged),
            this, &MainWindow::onCapitalizationChanged);

    // 初期設定として、コンボボックスの現在の選択に基づいてフォントを適用
    onCapitalizationChanged(comboBox->currentIndex());

    setWindowTitle("Capitalization Styles");
}

MainWindow::~MainWindow()
{
    delete ui;
}

void MainWindow::onCapitalizationChanged(int index)
{
    // コンボボックスから選択された Capitalization の値を取得
    QFont::Capitalization selectedCapitalization =
        static_cast<QFont::Capitalization>(comboBox->currentData().toInt());

    // lineEdit の現在のフォントを取得
    QFont currentFont = lineEdit->font();

    // 選択された Capitalization スタイルを設定
    currentFont.setCapitalization(selectedCapitalization);

    // 変更したフォントを lineEdit に再設定
    lineEdit->setFont(currentFont);
}

実行結果

このアプリケーションを実行すると、QLineEdit に "Example Text For Capitalization" と表示され、下のコンボボックスで「All Uppercase」を選択すると「EXAMPLE TEXT FOR CAPITALIZATION」に、「Small Caps」を選択するとスモールキャップ表示に、といった具合に動的に表示が変わります。

• テキストデータとの分離
  繰り返しになりますが、setCapitalization() はあくまで表示を変更するものであり、QLineEdit::text() や QLabel::text() で取得できる元の文字列データ自体は変更されません。
• 動的な変更
  QComboBox などの入力ウィジェットと組み合わせることで、ユーザーが実行時に表示スタイルを切り替えられるインタラクティブなアプリケーションを作成できます。
• QFont::Capitalization 列挙型
  setCapitalization() の引数には、QFont::MixedCase (デフォルト), QFont::AllUppercase, QFont::AllLowercase, QFont::SmallCaps, QFont::Capitalize のいずれかを指定します。
• QFont オブジェクトの取得と設定
  ウィジェットに適用されているフォントを変更するには、まず widget->font() で現在の QFont オブジェクトを取得し、そのオブジェクトに対して setCapitalization() を呼び出します。その後、変更された QFont オブジェクトを widget->setFont() でウィジェットに設定し直す必要があります。

---

QString クラスの変換関数を使用する

これが最も一般的で直接的な代替方法です。QString クラスは、文字列データ自体を大文字または小文字に変換するための便利な関数を提供しています。

メリット

• フォントに依存せず、あらゆるテキストデータに適用できます。
• ファイルへの保存、ネットワーク送信など、変換された文字列データが必要な場合に適しています。
• 文字列データそのものが変更されるため、QFont::setCapitalization() が提供する表示上の変更とは異なり、実際に変換された文字列データを扱うことができます。

デメリット

• スモールキャップ (QFont::SmallCaps) や各単語の先頭のみ大文字 (QFont::Capitalize) といったフォント固有の表示スタイルは再現できません。これらは、文字列を解析して手動で変換ロジックを実装する必要があります。
• 表示だけでなくデータ自体を変更するため、元の文字列が必要な場合は別途保持しておく必要があります。

具体的な関数

• QString::toLower(): 文字列全体を小文字に変換します。

  QString originalText = "HELLO WORLD";
  QString lowerText = originalText.toLower(); // lowerText は "hello world"
  myLabel->setText(lowerText);
  

• QString::toUpper(): 文字列全体を大文字に変換します。

  QString originalText = "Hello World";
  QString upperText = originalText.toUpper(); // upperText は "HELLO WORLD"
  myLabel->setText(upperText);
  

QFont::Capitalize の代替（各単語の先頭のみ大文字）
QString に直接的な capitalize() 関数はありませんが、手動で実装することは可能です。

QString capitalizeWords(const QString &text) {
    QString result;
    bool capitalizeNext = true;
    for (QChar ch : text) {
        if (ch.isSpace() || ch == '-') { // スペースやハイフンで区切る例
            result += ch;
            capitalizeNext = true;
        } else {
            if (capitalizeNext) {
                result += ch.toUpper();
                capitalizeNext = false;
            } else {
                result += ch.toLower();
            }
        }
    }
    return result;
}

// 使用例
QString original = "this is a test-string.";
QString capitalized = capitalizeWords(original); // "This Is A Test-String."
myLabel->setText(capitalized);

この例はシンプルなもので、より複雑な句読点や言語固有のルールに対応するには、さらにロジックを追加する必要があります。

カスタムウィジェットまたは paintEvent() で描画を制御する

特定のウィジェットで非常に細かい表示制御を行いたい場合、ウィジェットをサブクラス化し、その paintEvent() メソッド内でテキストの描画を直接カスタマイズする方法があります。

メリット

• フォントのグリフデータにアクセスして、より詳細な描画（例：手動でのスモールキャップ風の描画）を行うことも理論的には可能です。
• 非常に高い柔軟性があり、QFont::setCapitalization() では不可能な独自のテキスト表示ルール（例：特定のパターンにマッチする部分だけ大文字にする、カスタムのスモールキャップ効果）を実装できます。

デメリット

• Qtの既存ウィジェットの機能を最大限に活用しづらくなります。
• パフォーマンスに影響を与える可能性があります（特に大量のテキストを頻繁に再描画する場合）。
• QPainter による低レベルな描画知識が必要になります。
• 実装が複雑になり、コード量が増えます。

// MyCustomLabel.h
#include <QLabel>
#include <QPainter>

class MyCustomLabel : public QLabel
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyCustomLabel(const QString &text = "", QWidget *parent = nullptr)
        : QLabel(text, parent) {}

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override {
        Q_UNUSED(event);
        QPainter painter(this);
        painter.setFont(font()); // QLabel のフォント設定を使用

        // ここでテキストをカスタム描画
        // 例えば、スモールキャップ風に描画したい場合:
        QString originalText = text();
        QString displayString;

        // 簡単なスモールキャップ風の処理（完全な再現ではない）
        // 大文字はそのまま、小文字は少し小さくして大文字にする
        QFontMetrics fm(font());
        int ascent = fm.ascent();
        int descent = fm.descent();

        QTextOption option(Qt::AlignLeft | Qt::AlignVCenter); // 配置オプション

        for (QChar ch : originalText) {
            if (ch.isLower()) {
                // 小文字の場合、より小さなフォントで大文字化して描画
                QFont smallCapsFont = font();
                smallCapsFont.setPointSize(smallCapsFont.pointSize() * 0.8); // 80%のサイズ
                painter.setFont(smallCapsFont);
                painter.drawText(QRect(painter.currentTransform().map(QPointF(0, ascent + descent)).x(),
                                       painter.currentTransform().map(QPointF(0, ascent + descent)).y(),
                                       fm.horizontalAdvance(ch.toUpper()),
                                       fm.height()),
                                 ch.toUpper());
                painter.setFont(font()); // 元のフォントに戻す
            } else {
                // 大文字の場合、そのまま描画
                painter.drawText(QRect(painter.currentTransform().map(QPointF(0, ascent + descent)).x(),
                                       painter.currentTransform().map(QPointF(0, ascent + descent)).y(),
                                       fm.horizontalAdvance(ch),
                                       fm.height()),
                                 QString(ch));
            }
            // 各文字を描画した後、QPainter を右に移動させるロジックが必要
            // これは非常に複雑になるため、通常は QTextLayout を使う
            // もしくは、事前に変換した QString を QTextLayout で描画する
        }

        // 実際には、QTextLayout を使用してテキストを描画するのが一般的です
        // 例:
        // QTextLayout layout(originalText, font());
        // layout.beginLayout();
        // while (layout.createLine()) {} // 行を作成
        // layout.endLayout();
        // layout.draw(&painter, QPoint(0, 0)); // 描画
    }
};

// mainwindow.cpp での使用例:
// MyCustomLabel *myLabel = new MyCustomLabel("custom small caps");
// myLabel->setFont(QFont("Arial", 20));
// mainLayout->addWidget(myLabel);

上記の paintEvent の例は簡略化されており、実際に SmallCaps を適切にレンダリングするには QTextLayout を使うなど、より高度なテキスト描画メカニズムを理解する必要があります。多くの場合、これは過剰な解決策となります。

イベントフィルター (QEventFilter) を使用する

特定のウィジェットのテキスト表示を、そのウィジェットのサブクラス化なしで変更したい場合に、イベントフィルターを利用できます。ウィジェットの paintEvent をインターセプトし、カスタム描画を挿入します。

メリット

• 複数のウィジェットに対して同じ描画ロジックを適用したい場合に、再利用性が高まります。
• 既存のQtウィジェットの動作を、サブクラス化せずに変更できます。

デメリット

• イベントフィルターが登録されている間は常に機能するため、制御が難しくなる場合があります。
• paintEvent のインターセプトと再描画は、paintEvent() を直接オーバーライドするのと同様に複雑です。

// MyCapitalizationFilter.h
#include <QObject>
#include <QPainter>
#include <QLabel> // 例としてQLabelを対象とする

class MyCapitalizationFilter : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyCapitalizationFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}

protected:
    bool eventFilter(QObject *obj, QEvent *event) override {
        if (event->type() == QEvent::Paint) {
            if (QLabel *label = qobject_cast<QLabel*>(obj)) {
                QPainter painter(label);
                painter.setFont(label->font()); // ラベルのフォントを使用

                // ここでカスタムの大文字化ロジックを適用したテキストを描画
                QString originalText = label->text();
                QString transformedText = originalText.toUpper(); // 例: 常に大文字

                painter.drawText(label->rect(), label->alignment(), transformedText);

                return true; // このイベントは処理されたので、元の paintEvent は呼ばない
            }
        }
        return QObject::eventFilter(obj, event); // 他のイベントは通常通り処理
    }
};

// mainwindow.cpp での使用例:
// MyCapitalizationFilter *filter = new MyCapitalizationFilter(this);
// QLabel *myLabel = new QLabel("Filtered text");
// myLabel->installEventFilter(filter); // ラベルにフィルターをインストール
// mainLayout->addWidget(myLabel);

この方法は、QLabel の描画を完全に置き換えるため、QLabel 固有の描画オプション（テキストの省略表示など）を失う可能性があります。

Qt スタイルシートはフォントの設定に非常に強力ですが、QFont::setCapitalization() が提供するようなテキストの大文字・小文字変換機能は直接サポートしていません。

メリット

• CSSに似た構文で、デザイナーにも扱いやすい。
• UIの外観とロジックを分離できる。

• スタイルシートだけで QFont::setCapitalization() と同じ効果を出すことはできません。
• text-transform のようなCSSプロパティは Qt スタイルシートには存在しません。

• スタイルシート
  現在のところ、QFont::setCapitalization() の直接的な代替としては機能しません。
• より高度なカスタマイズが必要な場合
  カスタムウィジェット (paintEvent() をオーバーライド) またはイベントフィルターを使用する。ただし、これらは複雑で、通常は最後の手段として検討されます。
• 最も推奨される代替方法
  QString::toUpper() および QString::toLower() を使用し、必要に応じて文字列データそのものを変換すること。これはシンプルで、期待通りの結果が得やすく、フォントに依存しません。