QFont::operator!=()
QtプログラミングにおけるQFont::operator!=()
は、QFont
オブジェクトが等しくないことを比較するための非等価演算子です。
具体的には、以下のように動作します。
- 機能
このフォント(this
オブジェクト)が引数f
で渡されたフォントと異なる場合にtrue
を返します。それ以外の場合(つまり、両方のフォントが等しい場合)はfalse
を返します。 - 定義
bool QFont::operator!= (const QFont &f) const
使用例
#include <QFont>
#include <QDebug>
int main() {
QFont font1("Arial", 10, QFont::Normal, false); // Arial, 10pt, 標準, 斜体ではない
QFont font2("Arial", 10, QFont::Normal, false); // Arial, 10pt, 標準, 斜体ではない
QFont font3("Arial", 12, QFont::Bold, true); // Arial, 12pt, 太字, 斜体
if (font1 != font2) {
qDebug() << "font1 is not equal to font2"; // これは実行されない
} else {
qDebug() << "font1 is equal to font2"; // これが実行される
}
if (font1 != font3) {
qDebug() << "font1 is not equal to font3"; // これが実行される
} else {
qDebug() << "font1 is equal to font3";
}
return 0;
}
この例では、font1
とfont2
はすべての属性が同じなのでoperator!=()
はfalse
を返します。一方、font1
とfont3
はポイントサイズ、ウェイト、スタイルが異なるため、operator!=()
はtrue
を返します。
QFont::operator!=()
は、2つの QFont
オブジェクトが「等しくない」場合に true
を返します。逆に「等しい」場合は false
を返します。ここで「等しい」とは、フォントファミリー、サイズ、ウェイト、スタイルなどの主要な属性が一致することを意味します。しかし、この比較が期待通りに機能しない場合があり、それがトラブルシューティングのポイントになります。
期待と異なるフォントの解決 (Font Resolution Mismatches)
問題点
QFont
オブジェクトを作成しても、システムにそのフォントが正確にインストールされていない場合、Qt は最も近い代替フォントを自動的に選択しようとします。この「フォント解決 (font resolution)」のプロセスは、QFont::operator!=()
や QFont::operator==()
の比較に影響を与える可能性があります。
例えば、コードで "Arial Black" というフォントを指定しても、システムに "Arial Black" がない場合、Qt は代わりに "Arial" や別の太字フォントを選択するかもしれません。このとき、QFont
オブジェクトは内部的には "Arial Black" を保持しているにもかかわらず、実際に表示されるフォントや QFontInfo
で取得できるフォント情報が異なるため、比較の結果が期待と異なることがあります。
トラブルシューティング
- QFont::exactMatch() を利用する
QFont::exactMatch()
は、フォントのすべての属性が完全に一致する場合にのみtrue
を返します。operator==
やoperator!=
よりも厳密な比較が必要な場合に有用です。ただし、これもフォント解決の影響を受ける可能性があります。 - フォントがシステムにインストールされているか確認する
比較しているフォントが本当にシステムにインストールされているかを確認してください。特にカスタムフォントや特定のスタイル(例: "Light", "Condensed" など)を持つフォントの場合、これらが正しくインストールされていないと、Qt が代替フォントを選択します。 - QFontInfo を使用して実際のフォント情報を確認する
QFontInfo
クラスを使用すると、QFont
オブジェクトが実際にシステム上で解決されたフォントの情報を取得できます。比較を行う前に、QFontInfo(myFont).family()
やQFontInfo(myFont).pointSize()
などを利用して、実際に使用されているフォントの属性を確認してください。QFont requestedFont("MyCustomFont", 12); QFontInfo fontInfo(requestedFont); qDebug() << "Requested Font Family:" << requestedFont.family(); qDebug() << "Actual Font Family:" << fontInfo.family(); if (requestedFont != someOtherFont) { // 意図した比較が行われているか確認 }
ポイントサイズとピクセルサイズの混在 (Mixing Point Size and Pixel Size)
問題点
QFont
はポイントサイズ (setPointSize()
, pointSize()
) とピクセルサイズ (setPixelSize()
, pixelSize()
) の両方でフォントサイズを指定できます。内部的にはどちらかの値が -1
に設定されることで、もう一方のサイズが優先されるようになっています。しかし、異なる方法でサイズを設定した QFont
オブジェクトを比較すると、予期せぬ結果になることがあります。
Qt の内部実装(qfont.cpp
のソースコードなど)を見ると、ポイントサイズとピクセルサイズの比較ロジックは少し複雑です。両方が -1
でない場合は、それぞれの値が比較されますが、どちらかが -1
の場合は、もう一方の非負の値が比較されます。また、int
型のポイントサイズと qreal
型の pointSizeF()
の丸め誤差も影響する可能性があります。
トラブルシューティング
- サイズが -1 の意味を理解する
-1
は「未設定」や「デフォルト」を意味する特殊な値です。比較する両方のフォントが異なる方法でサイズを設定している場合、Qt の内部比較ロジックがどのように機能するかを考慮する必要があります。 - pointSizeF() を使用して浮動小数点数で比較する
特に細かいサイズの比較を行う場合、pointSizeF()
を使用して浮動小数点数で比較すると、より正確な結果が得られることがあります。 - 一貫したサイズ設定を使用する
フォントサイズを設定する際は、setPointSize()
またはsetPixelSize()
のいずれかに統一して使用することを検討してください。
スタイルシートによるフォントの上書き (Stylesheet Overrides)
問題点
ウィジェットにスタイルシート (setStyleSheet()
) を適用している場合、そのスタイルシートのフォント設定は、C++コードで setFont()
を使用して設定された QFont
オブジェクトよりも優先されることがあります。このため、setFont()
で設定したフォントと、スタイルシートで設定されたフォントが一致しない場合、operator!=()
の結果が期待と異なるように見えることがあります。
トラブルシューティング
- setObjectName() を使用してウィジェットを特定する
特定のウィジェットにのみスタイルシートのフォントを適用したい場合、setObjectName()
を使用してウィジェットに名前を付け、スタイルシートでその名前を指定することで、意図しない上書きを防ぐことができます。 - スタイルシートでフォントを設定する場合、C++での比較は注意深く行う
もしスタイルシートでフォントを完全に管理している場合、C++コードでQFont
オブジェクトを比較する意味が薄れるかもしれません。あるいは、スタイルシートからフォント情報を取得して比較する必要があります(これは直接は難しいことが多いです)。 - スタイルシートと setFont() の優先順位を理解する
Qt のスタイルシートは、C++コードによるプロパティ設定よりも高い優先順位を持つことがよくあります。フォントが期待通りに適用されない場合、まずスタイルシートを確認してください。
OS/プラットフォーム間の差異 (OS/Platform Differences)
問題点
フォントのレンダリングや利用可能なフォントは、オペレーティングシステム(Windows, macOS, Linux)やそのバージョンによって異なります。同じ QFont
設定でも、異なるプラットフォームでは微妙に異なるフォントが解決されたり、フォントメトリクスが異なったりする可能性があります。これにより、operator!=()
の結果がプラットフォーム間で一貫しないことがあります。
トラブルシューティング
- フォントの代替戦略を理解する
Qt は、指定されたフォントが見つからない場合に、QFont::StyleHint
やQFontDatabase
を使用して代替フォントを検索します。これらのメカニズムがプラットフォーム間でどのように機能するかを理解することが重要です。 - 複数プラットフォームでのテスト
アプリケーションを複数のターゲットプラットフォームでテストし、フォントの表示と比較の動作が期待通りであることを確認してください。
文字列の比較における大文字・小文字、スペースなどの影響 (Case/Whitespace in Family Names)
問題点
フォントファミリー名 (setFamily()
) を比較する場合、大文字・小文字の違いや余分なスペース、特殊文字などが影響する可能性があります。例えば、"Arial" と "arial"、または "Times New Roman" と "TimesNewRoman" が異なるものとして扱われることがあります。
- QString::toLower() や QString::trimmed() を使用して比較する
手動で文字列比較を行う場合は、QString::toLower()
で小文字に変換したり、QString::trimmed()
で前後の空白を取り除いたりして、一貫した形式で比較することを検討してください。 - 正規化されたフォント名を使用する
可能であれば、QFontInfo(myFont).family()
のように、実際にシステムが解決したフォント名を取得して比較することをお勧めします。Qt の内部では、フォント名を比較する際に正規化処理が行われる場合がありますが、常に完璧とは限りません。
基本的なフォント属性の比較
最もシンプルなケースとして、フォントファミリー、サイズ、ウェイト、斜体などの属性が異なる場合に true
を返すことを確認します。
#include <QApplication>
#include <QFont>
#include <QLabel>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// 異なる属性を持つフォントを作成
QFont font1("Arial", 12, QFont::Normal, false); // Arial, 12pt, 標準, 斜体ではない
QFont font2("Arial", 12, QFont::Normal, false); // font1 と同じ属性
QFont font3("Arial", 14, QFont::Normal, false); // サイズが異なる
QFont font4("Arial", 12, QFont::Bold, false); // ウェイトが異なる
QFont font5("Times New Roman", 12, QFont::Normal, false); // フォントファミリーが異なる
QFont font6("Arial", 12, QFont::Normal, true); // 斜体が異なる
qDebug() << "--- QFont::operator!=() の基本的な比較 ---";
// font1 と font2 は同じなので false
if (font1 != font2) {
qDebug() << "font1 != font2: true (予期せず)";
} else {
qDebug() << "font1 != font2: false (期待通り)";
}
// font1 と font3 (サイズ違い)
if (font1 != font3) {
qDebug() << "font1 != font3: true (期待通り - サイズが異なる)";
} else {
qDebug() << "font1 != font3: false (予期せず)";
}
// font1 と font4 (ウェイト違い)
if (font1 != font4) {
qDebug() << "font1 != font4: true (期待通り - ウェイトが異なる)";
} else {
qDebug() << "font1 != font4: false (予期せず)";
}
// font1 と font5 (フォントファミリー違い)
if (font1 != font5) {
qDebug() << "font1 != font5: true (期待通り - フォントファミリーが異なる)";
} else {
qDebug() << "font1 != font5: false (予期せず)";
}
// font1 と font6 (斜体違い)
if (font1 != font6) {
qDebug() << "font1 != font6: true (期待通り - 斜体が異なる)";
} else {
qDebug() << "font1 != font6: false (予期せず)";
}
// ウィンドウを作成して結果を視覚化(オプション)
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLabel *label1 = new QLabel("Font 1: Arial, 12pt, Normal");
label1->setFont(font1);
layout->addWidget(label1);
QLabel *label2 = new QLabel("Font 2: Arial, 12pt, Normal (同じ)");
label2->setFont(font2);
layout->addWidget(label2);
QLabel *label3 = new QLabel("Font 3: Arial, 14pt, Normal (サイズ違い)");
label3->setFont(font3);
layout->addWidget(label3);
QLabel *label4 = new QLabel("Font 4: Arial, 12pt, Bold (ウェイト違い)");
label4->setFont(font4);
layout->addWidget(label4);
QLabel *label5 = new QLabel("Font 5: Times New Roman, 12pt, Normal (ファミリー違い)");
label5->setFont(font5);
layout->addWidget(label5);
QLabel *label6 = new QLabel("Font 6: Arial, 12pt, Normal, Italic (斜体違い)");
label6->setFont(font6);
layout->addWidget(label6);
window.setWindowTitle("QFont::operator!=() Examples");
window.show();
return app.exec();
}
解説
この例では、異なるQFont
オブジェクトを作成し、operator!=()
を使ってそれらを比較しています。デバッグ出力を見れば、どの属性が異なるとtrue
になるかが明確にわかります。視覚的な確認のために、QLabel
にそれぞれのフォントを適用して表示しています。
QFontInfo を使った実際のフォント情報の確認と比較
システムにインストールされていないフォント名を指定した場合、Qtは代替フォントを自動的に選択します。QFontInfo
を使用すると、実際にシステムが解決したフォントの情報を取得でき、これを使って比較結果を検証できます。
#include <QApplication>
#include <QFont>
#include <QFontInfo>
#include <QLabel>
#include <QVBoxLayout>
#include <QDebug>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// 存在しない可能性のあるフォント (例: "NonExistentFont")
QFont requestedFont("NonExistentFont", 12);
// 存在する可能性の高いフォント
QFont systemFont("Arial", 12);
qDebug() << "--- QFontInfo を使った比較 ---";
qDebug() << "Requested Font (希望):" << requestedFont.family() << "size:" << requestedFont.pointSize();
QFontInfo infoRequested(requestedFont);
qDebug() << "Actual Resolved (実体):" << infoRequested.family() << "size:" << infoRequested.pointSize();
qDebug() << "Exact Match for Requested Font:" << infoRequested.exactMatch(); // exactMatch() も重要
qDebug() << "System Font (希望):" << systemFont.family() << "size:" << systemFont.pointSize();
QFontInfo infoSystem(systemFont);
qDebug() << "Actual Resolved (実体):" << infoSystem.family() << "size:" << infoSystem.pointSize();
qDebug() << "Exact Match for System Font:" << infoSystem.exactMatch();
// QFont オブジェクトとして比較
if (requestedFont != systemFont) {
qDebug() << "requestedFont != systemFont: true (期待通り、異なるフォントなので)";
} else {
qDebug() << "requestedFont != systemFont: false (予期せず)";
}
// 実際の解決済みフォント情報に基づいて比較する場合 (より堅牢な比較)
// QFontInfo オブジェクト自体は operator!= を持たないため、各属性を比較します
if (infoRequested.family() != infoSystem.family() ||
infoRequested.pointSize() != infoSystem.pointSize() ||
infoRequested.weight() != infoSystem.weight() ||
infoRequested.italic() != infoSystem.italic())
{
qDebug() << "Actual resolved fonts are different.";
} else {
qDebug() << "Actual resolved fonts are the same.";
}
// GUI で表示
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLabel *labelRequested = new QLabel("Requested Font (実際には解決済みフォントで表示): Sample Text");
labelRequested->setFont(requestedFont);
layout->addWidget(labelRequested);
QLabel *labelSystem = new QLabel("System Font (Arial): Sample Text");
labelSystem->setFont(systemFont);
layout->addWidget(labelSystem);
window.setWindowTitle("QFontInfo and QFont::operator!=()");
window.show();
return app.exec();
}
解説
この例では、存在しない可能性のあるフォント名 ("NonExistentFont"
) を指定しています。requestedFont
はその名前を保持しますが、QFontInfo(requestedFont)
で取得できる infoRequested.family()
は、システムが実際に表示に使う代替フォントの名前になります。
requestedFont != systemFont
の比較は、QFont
オブジェクトが保持している情報に基づいて行われます。しかし、実際に表示されるフォントが異なる場合(例えば、"NonExistentFont"
が"MS UI Gothic"に解決される場合)、QFontInfo
で取得した情報を使って各属性を比較する方が、より「ユーザーが目にする」結果に近い比較ができます。exactMatch()
も、要求したフォントがシステムに完全に存在するかどうかを確認するのに役立ちます。
QFont
はポイントサイズとピクセルサイズの両方をサポートしており、これが比較に影響を与えることがあります。
#include <QApplication>
#include <QFont>
#include <QDebug>
#include <QLabel>
#include <QVBoxLayout>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QFont fontPt("Arial", 12); // 12ポイント
QFont fontPx("Arial");
fontPx.setPixelSize(16); // 約12ポイントに相当するピクセルサイズ(DPIによる)
QFont fontPtLarge("Arial", 14); // 14ポイント
qDebug() << "--- ポイントサイズ vs ピクセルサイズの比較 ---";
qDebug() << "fontPt pointSize:" << fontPt.pointSize() << ", pixelSize:" << fontPt.pixelSize();
qDebug() << "fontPx pointSize:" << fontPx.pointSize() << ", pixelSize:" << fontPx.pixelSize();
// QFont::operator!=() の比較
// 通常、fontPt と fontPx は異なるフォントとして扱われる(内部表現が異なるため)
if (fontPt != fontPx) {
qDebug() << "fontPt != fontPx: true (期待通り - 設定方法が異なる、またはDPIによるずれ)";
} else {
qDebug() << "fontPt != fontPx: false (予期せず)";
}
// fontPt と fontPtLarge の比較
if (fontPt != fontPtLarge) {
qDebug() << "fontPt != fontPtLarge: true (期待通り - ポイントサイズが異なる)";
} else {
qDebug() << "fontPt != fontPtLarge: false (予期せず)";
}
// GUI で表示
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLabel *labelPt = new QLabel("Font set by setPointSize(12): Sample Text");
labelPt->setFont(fontPt);
layout->addWidget(labelPt);
QLabel *labelPx = new QLabel("Font set by setPixelSize(16): Sample Text");
labelPx->setFont(fontPx);
layout->addWidget(labelPx);
QLabel *labelPtLarge = new QLabel("Font set by setPointSize(14): Sample Text");
labelPtLarge->setFont(fontPtLarge);
layout->addWidget(labelPtLarge);
window.setWindowTitle("QFont Size Comparison");
window.show();
return app.exec();
}
解説
QFont
の内部では、pointSize
とpixelSize
のどちらかが-1
(未設定)になっていることで、どちらのサイズが優先されるかが決まります。operator!=()
はこれらの内部状態も考慮して比較するため、同じ視覚的なサイズに見えても、設定方法が異なる場合はtrue
を返すことがあります。