QFont::hintingPreference()

2025-06-06

ヒンティングとは？

まず、「ヒンティング」について簡単に説明します。

フォント（特にアウトラインフォント）は、拡大縮小しても滑らかに表示されるように、文字の形を線と曲線で定義しています。しかし、コンピューターの画面はピクセルという小さな四角の点の集まりで構成されているため、フォントの形をピクセルに変換（ラスタライズ）する際に、特に小さなサイズで表示する場合や低解像度のディスプレイで表示する場合に、文字がギザギザになったり、読みにくくなったりすることがあります。

「ヒンティング」は、この問題を解決するために、フォントの製作者がフォントに埋め込んだ情報（ヒント）を使って、文字の形がピクセルグリッドに合うように調整する処理のことです。これにより、文字の見た目の品質が向上し、特に小さな文字でも読みやすくなります。

`QFont::hintingPreference()` の役割

QFont::hintingPreference() 関数は、現在設定されているフォントのヒンティングの優先度を取得します。この優先度は、QFont::HintingPreference 列挙型で定義されており、フォントのラスタライズ時にどの程度ヒンティングを適用するかを制御します。

考えられるヒンティングの優先度（値）としては、以下のようなものがあります（具体的な列挙型の値はQtのバージョンによって異なる場合がありますが、一般的な概念は共通です）：

QFont::PreferFullHinting: 完全なヒンティングを優先します。水平・垂直の両方向で強力なヒンティングが適用され、文字の見た目の鮮明さが向上します。ただし、フォントの元の形状からわずかに歪む可能性もあります。
QFont::PreferVerticalHinting: 垂直方向のヒンティングを優先します。主に、テキストの行間やベースラインの整合性を保つために役立ちます。
QFont::PreferDefaultHinting: プラットフォームのデフォルトのヒンティング設定を使用します。多くの場合は、OSが推奨するヒンティング設定が適用されます。
QFont::NoHinting: ヒンティングを全く行いません。フォントの元の形状が優先され、ピクセルグリッドへの調整は行われません。

hintingPreference() 関数は、主に現在のフォントがどのようなヒンティング設定になっているかを確認するために使用されます。開発者は、この設定に応じて、テキストの描画方法を調整したり、ユーザーにヒンティングの設定を変更するオプションを提供したりすることができます。

例えば、特定の環境やユーザーの好みに合わせて、ヒンティングの強度を調整することで、文字の表示品質を最適化する際に役立ちます。

以下に、QFont::hintingPreference()に関連する一般的なエラーとトラブルシューティングについて説明します。

フォントレンダリングの不一致（見た目の問題）

最も一般的な問題は、期待するフォントの見た目と実際の表示が異なることです。これは、QFont::hintingPreference()で取得した設定と、システムまたはQt内部のフォントレンダリングエンジンの挙動が一致しない場合に起こります。

よくある症状

特定のOSでのみ問題が発生する
Windows、macOS、Linuxなど、OSによってフォントレンダリングの仕組みやデフォルトのヒンティング設定が異なるため、プラットフォーム固有の問題が発生しやすいです。
文字の間隔が不自然
カーニングや字間が期待通りに表示されない。
文字の太さが inconsistent
特定のフォントサイズで文字のストロークが太くなったり細くなったりする。ヒンティングが過剰に適用されている可能性があります。
文字がぼやけて見える、ギザギザしている
ヒンティングが適切に適用されていない、またはヒンティングがオフになっている可能性があります。

トラブルシューティング

スタイルシートとの競合
- Qtスタイルシート (.setStyleSheet()) を使用してフォントを設定している場合、QFont オブジェクトで直接設定した内容がスタイルシートによって上書きされることがあります。スタイルシートでフォントを設定している場合は、そちらの設定も確認してください。
- 「QLabel{ font: 24px "MS Shell Dlg 2", sans-serif; } のようなスタイルシートが、個別の QLabel::setFont() を上書きする」という報告がQtフォーラムにあります。
Qtのバージョンとレンダリングエンジン
- Qtのバージョンや、使用しているQtのグラフィックスシステム（OpenGL、ソフトウェアレンダリングなど）によって、フォントレンダリングの挙動が異なることがあります。
- Qt 5からQt 6への移行などで、内部のフォントレンダリングエンジンに変更があった場合、見た目が変わることがあります。古いバージョンのQtでは問題なかったが、新しいバージョンで問題が発生する場合、Qtの変更点を調査することも必要かもしれません。
フォントファイル自体の問題
- 使用しているフォントファイル自体が破損している、またはヒンティング情報が不適切である可能性があります。別のフォントを試してみて、問題が解決するかどうか確認します。
- 特に、フリーフォントやカスタムフォントを使用している場合に発生しやすいです。
- 使用しているOSのフォントレンダリング設定（例: WindowsのClearType設定、LinuxのFontconfig設定）を確認します。これらのシステムレベルの設定がQtアプリケーションのフォントレンダリングに影響を与えることがあります。
- 特にLinux環境では、~/.config/fontconfig/fonts.conf や /etc/fonts/conf.d/ の設定がヒンティングやアンチエイリアシングに大きく影響します。
QFont::HintingPreference の設定変更
- QFont::NoHinting: ヒンティングを完全に無効にします。これにより、フォントの「元の形」が優先されますが、小さなサイズや低解像度では読みづらくなる可能性があります。
- QFont::PreferDefaultHinting: OSのデフォルト設定に従います。通常はこれで問題ないはずですが、OSの設定自体が原因である可能性もあります。
- QFont::PreferFullHinting: 最も強力なヒンティングを試みます。これにより、鮮明さが向上することがありますが、フォントの元のデザインがわずかに歪む可能性もあります。
- QFont::PreferVerticalHinting: 垂直方向のヒンティングを優先します。行のベースラインの整合性などに影響します。
これらの設定を試して、最も視覚的に良い結果が得られるか確認します。
```
QFont font("Meiryo UI", 10);
font.setHintingPreference(QFont::PreferFullHinting); // 例: フルヒンティングを試す
myWidget->setFont(font);
```

特定の環境でのみ問題が発生する

開発環境では問題ないが、特定のユーザー環境や異なるOSでデプロイするとフォントの表示がおかしくなる、というケースです。

よくある症状

特定のバージョンのOSやグラフィックドライバーで問題が発生する。
Windowsでは問題ないがLinuxでは表示がおかしい、またはその逆。

トラブルシューティング

環境変数
- 一部のLinuxディストリビューションでは、フォントレンダリングに影響を与える環境変数（例: QT_QPA_FONTDIR、FONTCONFIG_FILEなど）が設定されている場合があります。これらが予期しない挙動を引き起こしていないか確認します。
- Qtのドキュメントや関連するフォーラムで、フォントレンダリングに影響を与える可能性のある環境変数を検索します。
クロスプラットフォーム互換性の確認
- 特定のフォントがすべてのOSで利用可能か、または互換性のあるフォントにフォールバックされるかを確認します。QFontDatabase を使用して、システムが利用可能なフォントを列挙したり、特定のフォントファミリの存在を確認したりできます。
- アプリケーションにフォントファイルをバンドルし、QFontDatabase::addApplicationFont() を使用してロードすることを検討します。これにより、ユーザーのシステムに依存せず、一貫したフォントレンダリングを保証できます。

フォント関連のクラッシュや予期しない終了

これはQFont::hintingPreference()自体が原因で起こることは非常に稀ですが、フォントのロードやラスタライズに関連する下位レベルの問題が原因で発生することがあります。

よくある症状

特定のフォントを含むUI要素を表示しようとするとクラッシュする。
アプリケーションの起動時にクラッシュする。

トラブルシューティング

下位レベルのライブラリ（FreeTypeなど）の問題
- Qtのフォントレンダリングは、内部でFreeTypeなどのサードパーティ製ライブラリに依存しています。これらのライブラリや、それらとQtの統合に問題がある場合、予期せぬ挙動やクラッシュが発生することがあります。
- 特に、Qtをソースからビルドしている場合や、特定のフォント設定を適用している場合に、FreeTypeのバージョンやビルドオプションが影響する可能性があります。
メモリリークやポインタの問題
- QFont オブジェクトや、それを設定するウィジェットのライフサイクル管理に問題がないか確認します。特に生ポインタを使用している場合に注意が必要です。
- Qtは通常、値セマンティクスで QFont を扱うため、あまり問題になりませんが、稀なケースで問題が発生する可能性があります。
無効なフォントオブジェクトの使用
- QFont オブジェクトが適切に初期化されていない、または無効なフォント名を使用している場合に、予期せぬ動作を招くことがあります。QFont::isValid() を使用して、フォントが有効であることを確認します。
- QFont::fromString() を使用してフォントを復元する場合、不正な文字列が渡されていないか確認します。

Qtフォーラムやドキュメントの参照
- Qtの公式フォーラムやドキュメントには、フォントレンダリングに関する多くの情報や過去の解決事例があります。似たような問題が報告されていないか検索してみるのが有効です。
最小限の再現コード
- 問題が発生した場合、問題を再現できる最小限のQtアプリケーションを作成します。これにより、問題の原因を特定しやすくなります。
デバッグ出力の活用
- Qtアプリケーションでフォント関連の問題をデバッグする場合、qDebug() を使って QFont オブジェクトのプロパティ（family(), pointSize(), hintingPreference() など）や、QFontInfo の情報（actualPointSize(), family(), fixedPitch() など）を出力すると役立ちます。
- 場合によっては、Qtのデバッグ環境変数を設定することで、フォントレンダリングに関する詳細なログが出力されることがあります。

現在のヒンティング設定を取得する

特定のQFontオブジェクトが現在どのようなヒンティング設定を持っているかを確認する最も基本的な例です。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    // QFontオブジェクトを作成
    QFont font("Arial", 12); // 例としてArialフォント、12ポイントサイズ

    // 現在のヒンティング設定を取得
    QFont::HintingPreference currentHinting = font.hintingPreference();

    // 取得したヒンティング設定を表示
    QString hintingString;
    switch (currentHinting) {
        case QFont::PreferDefaultHinting:
            hintingString = "PreferDefaultHinting (システムのデフォルト)";
            break;
        case QFont::PreferNoHinting:
            hintingString = "PreferNoHinting (ヒンティングなし)";
            break;
        case QFont::PreferVerticalHinting:
            hintingString = "PreferVerticalHinting (垂直方向ヒンティング優先)";
            break;
        case QFont::PreferFullHinting:
            hintingString = "PreferFullHinting (フルヒンティング優先)";
            break;
        default:
            hintingString = "不明なヒンティング設定";
            break;
    }

    qDebug() << "現在のフォントのヒンティング設定: " << hintingString;

    // QLabelにフォントを設定して表示（視覚的な確認のため）
    QLabel label("Hello, Qt Font Hinting!");
    label.setFont(font);
    label.show();

    return app.exec();
}

解説

QLabel にフォントを設定して表示することで、実際のアプリケーションでどのようにフォントが使われるかを確認できます。
switch 文を使って、取得した QFont::HintingPreference 列挙型の値を読みやすい文字列に変換して出力しています。
QFont オブジェクトを作成し、hintingPreference() を呼び出すことで現在の設定を取得します。

ヒンティング設定を変更してフォントを適用する

フォントのヒンティング設定を明示的に変更し、その変更がどのようにテキストの見た目に影響するかを示す例です。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    // デフォルトのヒンティング設定でQLabelを作成
    QLabel *labelDefault = new QLabel("Default Hinting: Hello, Qt Font!");
    QFont fontDefault("Arial", 18);
    labelDefault->setFont(fontDefault);
    layout->addWidget(labelDefault);
    qDebug() << "Default Hinting: " << fontDefault.hintingPreference();

    // ヒンティングなしのQLabelを作成
    QLabel *labelNoHinting = new QLabel("No Hinting: Hello, Qt Font!");
    QFont fontNoHinting("Arial", 18);
    fontNoHinting.setHintingPreference(QFont::PreferNoHinting);
    labelNoHinting->setFont(fontNoHinting);
    layout->addWidget(labelNoHinting);
    qDebug() << "No Hinting: " << fontNoHinting.hintingPreference();

    // フルヒンティング優先のQLabelを作成
    QLabel *labelFullHinting = new QLabel("Full Hinting: Hello, Qt Font!");
    QFont fontFullHinting("Arial", 18);
    fontFullHinting.setHintingPreference(QFont::PreferFullHinting);
    labelFullHinting->setFont(fontFullHinting);
    layout->addWidget(labelFullHinting);
    qDebug() << "Full Hinting: " << fontFullHinting.hintingPreference();

    // 垂直ヒンティング優先のQLabelを作成
    QLabel *labelVerticalHinting = new QLabel("Vertical Hinting: Hello, Qt Font!");
    QFont fontVerticalHinting("Arial", 18);
    fontVerticalHinting.setHintingPreference(QFont::PreferVerticalHinting);
    labelVerticalHinting->setFont(fontVerticalHinting);
    layout->addWidget(labelVerticalHinting);
    qDebug() << "Vertical Hinting: " << fontVerticalHinting.hintingPreference();

    window.setWindowTitle("Font Hinting Examples");
    window.show();

    return app.exec();
}

解説

異なるヒンティング設定が適用されたテキストの見た目を比較することで、その効果を視覚的に確認できます。特に、アンチエイリアシングの有無や、文字のエッジの鮮明さ、太さなどが変わるのが分かります。
setHintingPreference() メソッドを使って、フォントのヒンティング設定を変更します。
複数のQLabel を作成し、それぞれ異なる QFont::HintingPreference を設定しています。

アプリケーション全体のデフォルトフォントのヒンティング設定を変更することも可能です。これは、QApplication::setFont() を使用して行います。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    // アプリケーション全体のデフォルトフォントを設定
    QFont defaultAppFont("Verdana", 14);
    defaultAppFont.setHintingPreference(QFont::PreferFullHinting); // アプリケーション全体でフルヒンティングを優先
    QApplication::setFont(defaultAppFont);

    // アプリケーションのデフォルトフォントのヒンティング設定を取得
    qDebug() << "Application Default Font Hinting Preference: "
             << QApplication::font().hintingPreference();

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    // 明示的にフォントを設定しないQLabel
    QLabel *label1 = new QLabel("このテキストはアプリケーションのデフォルトフォントを使用します。");
    layout->addWidget(label1);

    // 個別にフォントを設定するQLabel (これはデフォルト設定を上書きします)
    QLabel *label2 = new QLabel("このテキストは明示的に別のフォントを設定しています。");
    QFont customFont("Times New Roman", 16);
    customFont.setHintingPreference(QFont::PreferNoHinting); // こちらはヒンティングなし
    label2->setFont(customFont);
    layout->addWidget(label2);

    window.setWindowTitle("Global Font Hinting Example");
    window.show();

    return app.exec();
}

個別にsetFont() を呼び出した QLabel は、その独自のフォント設定を持ち、アプリケーションのデフォルト設定を上書きします。
明示的にフォントが設定されていないQLabel は、このアプリケーションのデフォルトフォントを使用します。
QApplication::setFont() を使用して、アプリケーション全体に適用されるデフォルトフォントを設定します。このフォントには、setHintingPreference() で設定したヒンティング設定が反映されます。

QFont::setStyleStrategy() を使用する

QFont::setStyleStrategy() は、QFont::hintingPreference() よりも広範なフォントのレンダリング戦略を設定する関数です。ヒンティングを含む、フォントのアンチエイリアシングやサブピクセルレンダリングなどの挙動に影響を与えます。

QFont::StyleStrategy 列挙型

QFont::ForceOutline: アウトラインフォントを強制します。
QFont::ForceOldMetrics: 古いフォントメトリクスを使用します。
QFont::PreferMatch: 利用可能なフォントで最も似たフォントを優先します。
QFont::PreferQuality: 品質を優先します。通常はアンチエイリアシングと最適なヒンティングを適用します。
QFont::PreferNoShaping: タイポグラフィシェイピング（合字など）を無効にします。
QFont::PreferAntialias: アンチエイリアシングを優先します。
QFont::NoSubpixelAntialias: サブピクセルアンチエイリアシングを無効にします。
QFont::NoAntialias: アンチエイリアシングを無効にします（ヒンティングは適用される場合がありますが、ギザギザした見た目になりやすいです）。

使用例

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    // デフォルトのスタイル戦略
    QLabel *labelDefault = new QLabel("Default Style Strategy: Hello, Qt!");
    QFont fontDefault("Arial", 18);
    labelDefault->setFont(fontDefault);
    layout->addWidget(labelDefault);

    // PreferQuality (品質優先) 戦略
    QLabel *labelQuality = new QLabel("PreferQuality: Hello, Qt!");
    QFont fontQuality("Arial", 18);
    fontQuality.setStyleStrategy(QFont::PreferQuality);
    labelQuality->setFont(fontQuality);
    layout->addWidget(labelQuality);

    // NoAntialias (アンチエイリアシングなし) 戦略
    QLabel *labelNoAntialias = new QLabel("NoAntialias: Hello, Qt!");
    QFont fontNoAntialias("Arial", 18);
    fontNoAntialias.setStyleStrategy(QFont::NoAntialias);
    labelNoAntialias->setFont(fontNoAntialias);
    layout->addWidget(labelNoAntialias);

    window.setWindowTitle("Style Strategy Examples");
    window.show();

    return app.exec();
}

解説
PreferQuality は通常、最適な視覚的品質を得るためにアンチエイリアシングとヒンティングを組み合わせます。NoAntialias はテキストのギザギザ感を強くしますが、ヒンティングが適用される場合でも視覚的に目立つことがあります。

QFontMetrics を使用してフォントメトリクスを調整する

QFontMetrics は、特定のフォントのサイズや間隔に関する情報を提供します。直接ヒンティングを制御するものではありませんが、取得したフォントメトリクスに基づいて、レイアウトを調整することで、ヒンティングによる見た目の変化を補償する場合があります。

例えば、ヒンティングによって文字の幅や高さがわずかに変わる場合、QFontMetrics を使って正確なサイズを取得し、それに基づいてウィジェットのサイズやレイアウトを調整することで、視覚的なずれを最小限に抑えることができます。

#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QFont>
#include <QFontMetrics>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication app(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);

    QFont font("Arial", 18);
    font.setHintingPreference(QFont::PreferFullHinting); // ヒンティングを強制

    QLabel *label = new QLabel("Hello, World!");
    label->setFont(font);

    // フォントメトリクスを取得
    QFontMetrics fm(font);
    int textWidth = fm.horizontalAdvance(label->text()); // テキストの幅
    int textHeight = fm.height();                       // テキストの高さ

    qDebug() << "Text Width (with hinting):" << textWidth;
    qDebug() << "Text Height (with hinting):" << textHeight;

    // ウィジェットの推奨サイズを調整するなど
    label->setFixedSize(textWidth + 10, textHeight + 10); // 少し余白を追加

    layout->addWidget(label);
    window.show();

    return app.exec();
}

解説
QFontMetrics はフォントレンダリング後の実際のピクセル情報を提供するため、ヒンティングの結果として生じるわずかな寸法の変化を考慮したレイアウトが可能になります。

フォントの代替（Fallback Fonts）とバンドル

QFont::hintingPreference() の設定は、特定のフォントに適用されます。しかし、そのフォントがシステムに存在しない場合や、特定の文字グリフを持たない場合、Qtは代替フォント（fallback font）を使用します。この代替フォントのヒンティング設定は、元のフォントの設定とは異なる可能性があります。

代替手段/考慮事項

QFontDatabase の活用
QFontDatabase::standardSizes() や QFontDatabase::fontFamilies() などを使用して、利用可能なフォントやその特性をプログラムで確認し、最適なフォントを選択することができます。
フォントのバンドル
アプリケーションにカスタムフォントや特定のフォントをバンドルし、QFontDatabase::addApplicationFont() を使用してロードすることで、ユーザーのシステムに依存せず、一貫したフォントレンダリングを保証できます。これにより、意図しない代替フォントによるヒンティングの挙動の変化を防ぎます。

システムレベルのフォント設定（間接的な影響）

QFont::hintingPreference() で QFont::PreferDefaultHinting を選択した場合、QtはOSのデフォルトのフォントレンダリング設定に従います。したがって、ユーザーのシステムレベルのフォント設定を変更することも、間接的にフォントの見た目に影響を与えます。

例（Windowsの場合）

ClearType 設定
Windowsの「ClearType テキストの調整」設定は、サブピクセルアンチエイリアシングとヒンティングの挙動に直接影響します。ここでの設定変更は、Qtアプリケーションの PreferDefaultHinting の見た目に影響します。

例（Linuxの場合）

Fontconfig
Linux環境では、Fontconfigライブラリがフォントの選択、アンチエイリアシング、ヒンティングなどを制御します。ユーザーやシステム管理者は、~/.config/fontconfig/fonts.conf や /etc/fonts/conf.d/ の設定ファイルを編集することで、フォントレンダリングの挙動をカスタマイズできます。これらの設定は、Qtアプリケーションのフォントレンダリングに大きく影響します。

これらのシステムレベルの設定は、Qtアプリケーションから直接制御するものではありませんが、トラブルシューティングや、特定の環境での一貫したフォント表示を実現するために考慮すべき重要な要素です。

Qtの描画バックエンド（例えば、OpenGL、Direct2D、ソフトウェアレンダリングなど）や、グラフィックドライバーの設定もフォントのレンダリングに影響を与えることがあります。

グラフィックドライバーの更新
古いまたはバグのあるグラフィックドライバーは、フォントのレンダリング問題を発生させる可能性があります。ドライバーを最新に保つことは、問題解決の第一歩となりえます。
QApplication::setAttribute(Qt::AA_UseDesktopOpenGL) など
グラフィックスAPIの選択によって、フォントのレンダリングパイプラインが変わることがあり、結果的にヒンティングの見た目に影響を与える可能性があります。

QFont::hintingPreference() はフォントのヒンティングを直接制御する機能ですが、フォントの見た目に影響を与える方法は多岐にわたります。

ハードウェアアクセラレーション
描画バックエンドやグラフィックドライバーも間接的に影響を与えます。
システムレベルの設定
OSのフォントレンダリング設定が、Qtアプリケーションのデフォルトヒンティング挙動に影響します。
フォントのバンドル/代替
意図しないフォントのフォールバックを防ぎ、一貫性を保ちます。
QFontMetrics: ヒンティングの結果としてのフォントメトリクスの変化を考慮したレイアウトを可能にします。
QFont::setStyleStrategy(): より包括的なレンダリング戦略を設定します。

【Qt】QFont::StyleHintで実現する洗練されたUIデザイン - フォント選びのヒント

StyleHintには、以下のようないくつかの値があります。それぞれの値は、フォントの一般的な特性を表しており、Qtはこれらのヒントに基づいて最適なフォントを選択しようとします。QFont::Monospace: 等幅フォントを優先します。Typewriterと似ていますが、より一般的な等幅フォントを指す場合があります。

QFont::StyleStrategy によるフォントの外観とパフォーマンスの調整

Qt プログラミングにおける QFont::StyleStrategy は、フォントのレンダリング戦略を指定する列挙型です。この戦略は、特に異なるフォントサイズやスタイルを使用する場合に、フォントの外観を最適化するために使用されます。列挙型の値と意味

Qt でフォントの太さをカスタマイズする

Qt プログラミングにおける QFont::Weight は、フォントの太さを表す列挙型です。この列挙型を使うことで、フォントの太さを細かく指定することができます。主な列挙値QFont::Black 極太QFont::ExtraBold 超太字

QtプログラミングにおけるQFont::bold()は、QFontオブジェクトが現在、太字の設定になっているかどうかを調べるための関数です。具体的には、以下の特徴があります。関連関数: setBold(bool enable): フォントを太字にするか、通常（太字ではない）にするかを設定します。enableがtrueの場合、フォントのウェイトはQFont::Boldに設定され、falseの場合はQFont::Normalに設定されます。 weight(): フォントのウェイト（太さ）を数値で取得します。QFont::bold()はこのweight()の値がQFont::Normalより大きいかどうかをチェックして結果を返します。 QFontInfo::bold(): 実際に表示されるフォントが太字かどうかを調べたい場合は、QFontInfoクラスのbold()関数を使用します。QFontオブジェクトに設定した太字設定が、システムにインストールされているフォントで実際に適用されるかどうかは、QFontInfoで確認できます。

QFont::hintingPreference()

ヒンティングとは？

QFont::hintingPreference() の役割

フォントレンダリングの不一致（見た目の問題）

特定の環境でのみ問題が発生する

フォント関連のクラッシュや予期しない終了

現在のヒンティング設定を取得する

ヒンティング設定を変更してフォントを適用する

QFont::setStyleStrategy() を使用する

QFontMetrics を使用してフォントメトリクスを調整する

フォントの代替（Fallback Fonts）とバンドル

システムレベルのフォント設定（間接的な影響）

`QFont::hintingPreference()` の役割