QtのQAbstractScrollArea::paintEvent()はなぜ使わない?正しい描画方法を徹底解説
void QAbstractScrollArea::paintEvent(QPaintEvent *event)
とは?
QAbstractScrollArea
は、Qtフレームワークにおけるスクロール可能な領域を提供する基底クラスです。このクラスは、スクロールバー(水平および垂直)と、実際に内容が表示される「ビューポート (viewport)」と呼ばれる中央のウィジェットを管理します。
paintEvent(QPaintEvent *event)
は、Qtのウィジェットが再描画を必要とする際に呼び出される仮想保護関数です。通常、ウィジェットの内容を描画するためのカスタムロジックをここに記述します。
しかし、QAbstractScrollArea
の場合、直接このpaintEvent()
をオーバーライドして描画を行うことは推奨されません。 その理由は以下の通りです。
-
ビューポートでの描画
QAbstractScrollArea
は、その内容を「ビューポート」と呼ばれる別のウィジェットに描画します。つまり、スクロール領域自体の背景やスクロールバー周りの装飾などはQAbstractScrollArea
が担当しますが、スクロールされる実際のコンテンツの描画は、このビューポートウィジェットで行われるのが一般的です。 -
イベントのリマップ
QAbstractScrollArea
は、paintEvent()
を含む多くのウィジェットイベントを、そのビューポートウィジェットのイベントハンドラにリマップします。そのため、QAbstractScrollArea
を継承したクラスでpaintEvent()
をオーバーライドしても、実際にスクロールされるコンテンツの描画イベントが期待通りに発生しないことがあります。
QAbstractScrollArea
を継承してカスタムのスクロール可能なウィジェットを作成する場合、コンテンツの描画は以下のいずれかの方法で行うのが適切です。
-
QScrollAreaを使用する
- ほとんどの場合、
QAbstractScrollArea
を直接継承する必要はなく、QScrollArea
を使用する方が簡単です。 QScrollArea
はQAbstractScrollArea
を継承しており、任意のQWidget
をコンテンツとして設定し、自動的にスクロール機能を提供してくれます。- この場合、
QScrollArea::setWidget(コンテンツウィジェット)
で表示したいウィジェットを設定し、コンテンツウィジェットのpaintEvent()
で描画を行います。
// 例:コンテンツウィジェット class MyContentWidget : public QWidget { Q_OBJECT public: explicit MyContentWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) { setMinimumSize(500, 500); // 十分なサイズを設定してスクロールを発生させる } protected: void paintEvent(QPaintEvent *event) override { QPainter painter(this); // ここにコンテンツの描画ロジックを記述 painter.drawRect(50, 50, 100, 100); painter.drawEllipse(200, 200, 150, 150); // ... } }; // メインウィンドウなどでの使用例 QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea(); MyContentWidget *contentWidget = new MyContentWidget(); scrollArea->setWidget(contentWidget); // コンテンツウィジェットを設定 scrollArea->setWidgetResizable(true); // コンテンツウィジェットをスクロールエリアのサイズに合わせてリサイズ可能にする
- ほとんどの場合、
- 多くの場合、より高レベルな
QScrollArea
クラスを使用し、その中に表示したいウィジェットをセットする方が、カスタムのQAbstractScrollArea
を継承するよりも簡単で推奨されます。 - コンテンツの描画は、
QAbstractScrollArea
のviewport()
で返されるウィジェット、またはQScrollArea
に設定するコンテンツウィジェットのpaintEvent()
で行うのが正しい方法です。 QAbstractScrollArea::paintEvent()
は、スクロール領域の低レベルな描画イベントハンドラですが、スクロールされるコンテンツの描画には直接使用すべきではありません。
前回の説明で述べたように、QAbstractScrollArea
自体のpaintEvent()
を直接オーバーライドしてスクロールされるコンテンツを描画することは、Qtの設計思想から外れており、多くの問題を引き起こします。これが最も一般的な「誤用」とそれに関連するエラーの原因となります。
エラー: paintEvent()をオーバーライドしたが、描画されない、または一部しか描画されない。
原因
QAbstractScrollArea
は、そのコンテンツを「ビューポート」と呼ばれる内部のQWidget
に描画させます。QAbstractScrollArea
のpaintEvent()
は、スクロールバーやその周辺の領域を描画するために使用されることがありますが、スクロールされる実際のコンテンツの描画はビューポートウィジェットの役割です。そのため、QAbstractScrollArea
のサブクラスでpaintEvent()
をオーバーライドしても、コンテンツの描画イベントがビューポートにリマップされるため、期待通りに描画されないことがあります。
トラブルシューティング
-
QPainterのターゲットを確認する
QPainter
を初期化する際に、QPainter painter(this);
とするのではなく、QPainter painter(viewport());
とする必要があります。this
はQAbstractScrollArea
自身を指し、viewport()
は実際の描画領域であるビューポートウィジェットを指します。QPainter
がアクティブでないという警告が出る場合も、これが原因であることが多いです。// 誤った例 (QAbstractScrollArea::paintEvent() 内) void MyScrollArea::paintEvent(QPaintEvent *event) { QPainter painter(this); // これでは QAbstractScrollArea 自体に描画してしまう // ... } // 正しい例 (カスタムビューポートウィジェット::paintEvent() 内) void MyViewportWidget::paintEvent(QPaintEvent *event) { QPainter painter(this); // ここでの this は MyViewportWidget (ビューポート) を指す // ... } // または、QAbstractScrollArea::paintEvent() からビューポートに直接描画する場合 (非推奨だが、知っておくべき) void MyScrollArea::paintEvent(QPaintEvent *event) { // 親クラスの paintEvent を呼び出すことで、スクロールバーなどが描画される QAbstractScrollArea::paintEvent(event); QPainter painter(viewport()); // ビューポートに描画する // ... }
-
コンテンツはビューポートに描画する
QAbstractScrollArea
を継承する場合は、setViewport()
で設定したカスタムビューポートウィジェットのpaintEvent()
をオーバーライドして、コンテンツを描画します。
エラー: スクロール時に描画がちらつく、または古い内容が残る。
原因
描画領域の更新が適切に行われていないか、描画ロジックが非効率的である可能性があります。特に、スクロール領域の一部のみが更新される場合に、update()
やrepaint()
の呼び出しが不適切だと問題が発生します。
トラブルシューティング
-
描画領域の最適化
QPaintEvent *event
オブジェクトのrect()
メソッドは、実際に再描画が必要な領域を返します。この情報を使用して、その領域内のみを描画するように描画ロジックを最適化することで、パフォーマンスが向上し、ちらつきが軽減されることがあります。特に大きなコンテンツを扱う場合に有効です。void MyViewportWidget::paintEvent(QPaintEvent *event) { QPainter painter(this); // 再描画が必要な領域のみを処理 painter.setClipRect(event->rect()); // ここに描画ロジックを記述(event->rect() の範囲内のみを描画) // ... }
-
viewport()->update()またはviewport()->repaint()を使用する
コンテンツが変更されたり、スクロール位置が変わったりした際に、QAbstractScrollArea
のサブクラスからupdate()
やrepaint()
を直接呼び出すのではなく、必ずviewport()->update()
またはviewport()->repaint()
を呼び出すようにします。これにより、ビューポートウィジェットに再描画イベントが適切に発行されます。// 誤った例 void MyScrollArea::contentChanged() { update(); // QAbstractScrollArea 自体が更新されるが、ビューポートは更新されない可能性がある } // 正しい例 void MyScrollArea::contentChanged() { viewport()->update(); // ビューポートに再描画を要求 }
エラー: スクロールバーが正しく動作しない(表示されない、動かない、範囲がおかしい)。
原因
QAbstractScrollArea
はスクロールバーの「見た目」は提供しますが、その範囲(range)や現在の値(value)は、開発者がコンテンツのサイズとビューポートのサイズに基づいて設定する必要があります。これらの設定が不適切だと、スクロールバーが期待通りに動作しません。
トラブルシューティング
-
scrollContentsBy()を実装する
QAbstractScrollArea
のサブクラスでは、scrollContentsBy(int dx, int dy)
仮想関数をオーバーライドして、スクロールバーの値が変更されたときにコンテンツをどのように移動させるかを実装する必要があります。これは、ビューポート上の描画オフセットを調整する場所です。void MyScrollArea::scrollContentsBy(int dx, int dy) { // ビューポートの内容を指定された量だけスクロールさせる // 例: QWidget をコンテンツとして配置している場合 // viewport()->widget()->move(viewport()->widget()->pos().x() + dx, viewport()->widget()->pos().y() + dy); // または、カスタム描画の場合は、描画オフセットを更新して再描画を要求 m_offsetX += dx; m_offsetY += dy; viewport()->update(); // 描画オフセットが変更されたのでビューポートを更新 }
-
resizeEvent()での更新
QAbstractScrollArea
を継承したクラスでresizeEvent()
をオーバーライドし、ビューポートのサイズ変更に応じてスクロールバーの範囲やコンテンツの位置を更新するようにします。void MyScrollArea::resizeEvent(QResizeEvent *event) { QAbstractScrollArea::resizeEvent(event); // 親クラスの処理を呼び出す // ビューポートの新しいサイズに基づいてスクロールバーの範囲を再計算 // 例: コンテンツが固定サイズの場合 int contentWidth = 1000; // 仮のコンテンツ幅 int contentHeight = 800; // 仮のコンテンツ高さ int viewportWidth = viewport()->width(); int viewportHeight = viewport()->height(); horizontalScrollBar()->setRange(0, qMax(0, contentWidth - viewportWidth)); verticalScrollBar()->setRange(0, qMax(0, contentHeight - viewportHeight)); // 必要に応じてコンテンツの位置も調整 // viewport()->scroll(dx, dy); や viewport()->move(x, y); など }
-
ページステップの設定
horizontalScrollBar()->setPageStep(viewport()->width());
verticalScrollBar()->setPageStep(viewport()->height());
これにより、スクロールバーのページアップ/ダウンボタンがビューポートのサイズに合わせて動作するようになります。
-
スクロールバーの範囲と値を設定する
horizontalScrollBar()->setRange(min, max);
verticalScrollBar()->setRange(min, max);
horizontalScrollBar()->setValue(currentValue);
verticalScrollBar()->setValue(currentValue);
これらの値は、コンテンツの論理的なサイズ(仮想的なサイズ)とビューポートの現在の位置に基づいて計算される必要があります。
エラー: QPainter::begin: Widget painting can only begin as a result of a paintEvent.
原因
QPainter
は、paintEvent()
の呼び出し中(またはQWidget::render()
などの特定の状況下)にのみ、ウィジェット上でアクティブにすることができます。paintEvent()
の外部でQPainter
を作成し、ウィジェットに描画しようとすると、このエラーが発生します。
トラブルシューティング
- 再描画のトリガーはupdate()/repaint()で行う
ウィジェットの見た目を変更したい場合は、直接描画するのではなく、update()
(推奨、Qtが最適なタイミングでpaintEvent()
を呼び出す)またはrepaint()
(即座にpaintEvent()
を呼び出す)を呼び出して、再描画をQtに要求します。
QAbstractScrollArea::paintEvent()
に関連するエラーのほとんどは、Qtの描画モデルとQAbstractScrollArea
の役割を誤解していることから生じます。
重要なポイント
QAbstractScrollArea
はスクロールフレームワークを提供するものであり、コンテンツの直接描画はビューポートウィジェットの責任である。QPainter
は必ず描画対象のウィジェット上で初期化する(特にビューポートに描画する場合はQPainter(viewport())
)。- コンテンツの変更やスクロールバーによる位置変更があった場合は、必ず
viewport()->update()
を呼び出して再描画をトリガーする。
最も簡単な解決策
特別な要件がない限り、QAbstractScrollArea
を直接継承するのではなく、QScrollArea
を使用することを強くお勧めします。 QScrollArea
はQAbstractScrollArea
の一般的なユースケース(任意のウィジェットをスクロール可能にする)をラップしており、上記のような多くの複雑な考慮事項を開発者から隠蔽してくれます。
QScrollArea
を使用する場合、描画はsetWidget()
で設定したコンテンツウィジェットのpaintEvent()
で行います。これにより、非常にシンプルで直感的なコードになります。
繰り返しになりますが、QAbstractScrollArea::paintEvent()
を直接オーバーライドしてスクロールされるコンテンツを描画することは推奨されません。 その代わり、ビューポートウィジェットのpaintEvent()
を使用するか、QScrollArea
のsetWidget()
にコンテンツウィジェットを設定する方法が一般的です。
以下の例では、この推奨される方法を中心に説明します。
例1: QScrollArea
を使用して任意のウィジェットをスクロール可能にする(最も一般的で推奨される方法)
この方法は、既存のウィジェットをスクロール可能な領域に配置したい場合に最も簡単で効果的です。
スクロールされるコンテンツを描画するカスタムウィジェットの定義
// MyContentWidget.h
#ifndef MYCONTENTWIDGET_H
#define MYCONTENTWIDGET_H
#include <QWidget>
#include <QPainter>
#include <QPaintEvent>
#include <QMouseEvent>
#include <QDebug>
class MyContentWidget : public QWidget
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyContentWidget(QWidget *parent = nullptr);
protected:
// コンテンツの描画はここで行う
void paintEvent(QPaintEvent *event) override;
// マウスイベントを処理して、仮想的な「コンテンツ」の位置を更新する
void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override;
void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) override;
private:
QPoint lastMousePos; // マウスドラッグ用
QPoint contentOffset; // コンテンツの仮想的なオフセット
};
#endif // MYCONTENTWIDGET_H
// MyContentWidget.cpp
#include "MyContentWidget.h"
MyContentWidget::MyContentWidget(QWidget *parent)
: QWidget(parent), contentOffset(0, 0)
{
// スクロールが必要になるように、ビューポートよりも大きい仮想的なサイズを設定
// このサイズは、スクロールバーの範囲計算に使用されます。
setMinimumSize(800, 600); // 描画する内容の仮想的な総サイズ
setBackgroundRole(QPalette::Base); // 背景色を設定
setAutoFillBackground(true); // 背景を自動的に塗りつぶす
}
void MyContentWidget::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
QPainter painter(this);
// 再描画が必要な領域にクリップを設定して描画を最適化
painter.setClipRect(event->rect());
// グリッドの描画 (仮想的なコンテンツ)
// コンテンツの描画は、contentOffsetを考慮して行われる
for (int x = 0; x < 800; x += 50) {
painter.drawLine(x - contentOffset.x(), 0 - contentOffset.y(),
x - contentOffset.x(), height() - contentOffset.y());
}
for (int y = 0; y < 600; y += 50) {
painter.drawLine(0 - contentOffset.x(), y - contentOffset.y(),
width() - contentOffset.x(), y - contentOffset.y());
}
// 文字列の描画
painter.setFont(QFont("Arial", 24));
painter.drawText(100 - contentOffset.x(), 100 - contentOffset.y(), "Hello, Scrollable Content!");
painter.drawText(400 - contentOffset.x(), 300 - contentOffset.y(), "Drag me around!");
}
void MyContentWidget::mousePressEvent(QMouseEvent *event)
{
if (event->button() == Qt::LeftButton) {
lastMousePos = event->pos();
}
}
void MyContentWidget::mouseMoveEvent(QMouseEvent *event)
{
if (event->buttons() & Qt::LeftButton) {
QPoint delta = event->pos() - lastMousePos;
// コンテンツのオフセットを更新
contentOffset -= delta;
// オフセットをコンテンツの範囲内に制限
contentOffset.setX(qBound(0, contentOffset.x(), width() - viewport()->width()));
contentOffset.setY(qBound(0, contentOffset.y(), height() - viewport()->height()));
// この MyContentWidget の再描画を要求
// QScrollArea は、このウィジェットが動いたことを検知し、スクロールバーを自動調整します。
update();
lastMousePos = event->pos();
}
}
メインウィンドウでQScrollAreaを使用する
// main.cpp (またはメインウィンドウクラスのコンストラクタ)
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QScrollArea>
#include "MyContentWidget.h" // 上で定義したカスタムウィジェット
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
window.setWindowTitle("QScrollArea Example");
window.resize(400, 300); // ウィンドウサイズはコンテンツサイズより小さく設定
QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea(&window); // 親をウィンドウに設定
MyContentWidget *contentWidget = new MyContentWidget(scrollArea); // 親をscrollAreaに設定
scrollArea->setWidget(contentWidget); // スクロール領域にコンテンツウィジェットを設定
scrollArea->setWidgetResizable(true); // コンテンツウィジェットがスクロール領域のサイズに合わせてリサイズされるようにする (重要)
window.setCentralWidget(scrollArea); // スクロールエリアを中央ウィジェットに設定
window.show();
return a.exec();
}
この例のポイント
setWidgetResizable(true)
により、ビューポートがリサイズされるとMyContentWidget
もリサイズされ、paintEvent()
が再度呼ばれます。QScrollArea
は、MyContentWidget
のminimumSize()
とビューポートのサイズに基づいて、スクロールバーを自動的に表示・非表示し、その範囲を調整します。MyContentWidget
が実際の描画とマウスイベントを処理します。paintEvent()
はMyContentWidget
自身に描画します。
この方法は、より低レベルな制御が必要な場合や、QScrollArea
では実現できない特定の描画ロジック(例えば、OpenGLを使った描画)がある場合に使用します。
カスタムビューポートウィジェットの定義
// CustomViewport.h
#ifndef CUSTOMVIEWPORT_H
#define CUSTOMVIEWPORT_H
#include <QWidget>
#include <QPainter>
#include <QPaintEvent>
#include <QDebug>
class CustomViewport : public QWidget
{
Q_OBJECT
public:
explicit CustomViewport(QWidget *parent = nullptr);
// スクロールオフセットを設定するメソッド
void setContentOffset(const QPoint &offset);
QPoint contentOffset() const { return m_contentOffset; }
protected:
void paintEvent(QPaintEvent *event) override;
// 必要に応じて、マウスイベントなどをここに追加
// void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override;
private:
QPoint m_contentOffset; // 描画オフセット
};
#endif // CUSTOMVIEWPORT_H
// CustomViewport.cpp
#include "CustomViewport.h"
CustomViewport::CustomViewport(QWidget *parent)
: QWidget(parent), m_contentOffset(0, 0)
{
// ビューポートの背景を自動的に塗りつぶす
setAutoFillBackground(true);
setBackgroundRole(QPalette::Dark); // 例として暗い背景色
}
void CustomViewport::setContentOffset(const QPoint &offset)
{
if (m_contentOffset != offset) {
m_contentOffset = offset;
update(); // オフセットが変更されたら再描画を要求
}
}
void CustomViewport::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
QPainter painter(this);
painter.setClipRect(event->rect()); // 再描画領域にクリップ
// 例として、大きな格子を描画
painter.setPen(Qt::lightGray);
for (int x = -m_contentOffset.x(); x < width() - m_contentOffset.x() + 1000; x += 50) {
painter.drawLine(x, -m_contentOffset.y(), x, height() - m_contentOffset.y() + 1000);
}
for (int y = -m_contentOffset.y(); y < height() - m_contentOffset.y() + 1000; y += 50) {
painter.drawLine(-m_contentOffset.x(), y, width() - m_contentOffset.x() + 1000, y);
}
// 文字列の描画 (オフセットを適用)
painter.setPen(Qt::white);
painter.setFont(QFont("Arial", 30));
painter.drawText(200 - m_contentOffset.x(), 200 - m_contentOffset.y(), "Custom Scroll Area Content");
painter.drawText(600 - m_contentOffset.x(), 400 - m_contentOffset.y(), "More content here!");
}
QAbstractScrollAreaを継承したカスタムスクロールエリアの定義
// MyCustomScrollArea.h
#ifndef MYCUSTOMSCROLLAREA_H
#define MYCUSTOMSCROLLAREA_H
#include <QAbstractScrollArea>
#include <QScrollBar>
#include <QResizeEvent>
#include "CustomViewport.h" // 上で定義したカスタムビューポート
class MyCustomScrollArea : public QAbstractScrollArea
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyCustomScrollArea(QWidget *parent = nullptr);
// 仮想的なコンテンツのサイズを取得
QSize getContentSize() const { return QSize(1000, 800); } // 例: 仮想的なコンテンツサイズ
protected:
// スクロールバーの値変更時に呼び出される
void scrollContentsBy(int dx, int dy) override;
// ウィジェットのリサイズ時に呼び出される
void resizeEvent(QResizeEvent *event) override;
// paintEvent は通常オーバーライドしないか、スクロールエリア自体の装飾に使う
// void paintEvent(QPaintEvent *event) override; // ここではオーバーライドしない
private:
CustomViewport *m_customViewport; // カスタムビューポートへのポインタ
void updateScrollBars(); // スクロールバーの範囲を更新するヘルパー関数
};
#endif // MYCUSTOMSCROLLAREA_H
// MyCustomScrollArea.cpp
#include "MyCustomScrollArea.h"
MyCustomScrollArea::MyCustomScrollArea(QWidget *parent)
: QAbstractScrollArea(parent)
{
m_customViewport = new CustomViewport(this); // ビューポートをこのスクロールエリアの子として作成
setViewport(m_customViewport); // カスタムビューポートを設定
// スクロールバーのポリシーを設定 (常に表示)
setHorizontalScrollBarPolicy(Qt::ScrollBarAlwaysOn);
setVerticalScrollBarPolicy(Qt::ScrollBarAlwaysOn);
// スクロールバーの値が変更されたときに、コンテンツオフセットを更新する
connect(horizontalScrollBar(), &QScrollBar::valueChanged, this, [this](int value){
m_customViewport->setContentOffset(QPoint(value, m_customViewport->contentOffset().y()));
});
connect(verticalScrollBar(), &QScrollBar::valueChanged, this, [this](int value){
m_customViewport->setContentOffset(QPoint(m_customViewport->contentOffset().x(), value));
});
updateScrollBars(); // 初期のスクロールバー範囲を設定
}
void MyCustomScrollArea::scrollContentsBy(int dx, int dy)
{
// QAbstractScrollAreaのデフォルト実装ではビューポートの子ウィジェットを移動させるが、
// ここではビューポートの描画オフセットを直接変更する。
// スクロールバーの値変更に connect しているので、このメソッドはここでは直接何も行わない。
// ただし、もしスクロールバー以外の方法でスクロールを制御する場合(例: マウスドラッグでスクロールさせるなど)は、
// ここで m_customViewport->setContentOffset() を呼び出す必要がある。
// QAbstractScrollArea::scrollContentsBy(dx, dy); // 親のデフォルト実装を呼び出す場合
// この例ではconnectでスクロールバーのvalueChangedを処理しているため、この関数は直接描画に関与しない。
}
void MyCustomScrollArea::resizeEvent(QResizeEvent *event)
{
QAbstractScrollArea::resizeEvent(event); // 親クラスの処理を呼び出す
updateScrollBars(); // ビューポートサイズが変わったらスクロールバーの範囲を更新
}
void MyCustomScrollArea::updateScrollBars()
{
QSize contentSize = getContentSize();
QSize viewportSize = viewport()->size();
// 水平スクロールバーの範囲設定
int hMax = qMax(0, contentSize.width() - viewportSize.width());
horizontalScrollBar()->setRange(0, hMax);
horizontalScrollBar()->setPageStep(viewportSize.width());
// 垂直スクロールバーの範囲設定
int vMax = qMax(0, contentSize.height() - viewportSize.height());
verticalScrollBar()->setRange(0, vMax);
verticalScrollBar()->setPageStep(viewportSize.height());
// 現在のスクロール位置を調整(ビューポートが小さくなった場合に範囲内に収める)
horizontalScrollBar()->setValue(qMin(horizontalScrollBar()->value(), hMax));
verticalScrollBar()->setValue(qMin(verticalScrollBar()->value(), vMax));
}
メインウィンドウでMyCustomScrollAreaを使用する
// main.cpp
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include "MyCustomScrollArea.h" // 上で定義したカスタムスクロールエリア
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
window.setWindowTitle("QAbstractScrollArea Custom Viewport Example");
window.resize(600, 400); // ウィンドウサイズ
MyCustomScrollArea *customScrollArea = new MyCustomScrollArea(&window);
window.setCentralWidget(customScrollArea);
window.show();
return a.exec();
}
この例のポイント
- スクロールバーの
valueChanged
シグナルを捕捉し、CustomViewport
のsetContentOffset()
を呼び出して、描画オフセットを更新します。これにより、ビューポートが再描画されます。 - スクロールバーの範囲(
setRange
)とページステップ(setPageStep
)を、コンテンツの仮想サイズとビューポートの現在のサイズに基づいて手動で計算し、resizeEvent()
や初期化時にupdateScrollBars()
で設定します。 MyCustomScrollArea
は、setViewport()
でCustomViewport
インスタンスをビューポートとして設定します。- 実際の描画ロジックは
CustomViewport
クラスのpaintEvent()
にあります。 MyCustomScrollArea
はQAbstractScrollArea
を継承します。
もし、QAbstractScrollArea
自体のpaintEvent()
をオーバーライドする必要があるとしたら、それはスクロールバーの隙間(コーナーウィジェットの場所など)や、スクロールエリア自体のフレームや背景など、スクロールされるコンテンツではない領域を描画したい場合に限られます。
// これは通常のコンテンツ描画には使用しないことを強く推奨します
void MyCustomScrollArea::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
// QAbstractScrollArea のデフォルトの paintEvent を呼び出すことで、
// スクロールバーやビューポートの背景などが適切に描画される
QAbstractScrollArea::paintEvent(event);
QPainter painter(this);
// スクロールバーの交差点にある「コーナー」部分に何かを描画する例
// この描画はビューポートではなく、QAbstractScrollArea そのものに行われる
QRect cornerRect = rect();
if (horizontalScrollBar()->isVisible() && verticalScrollBar()->isVisible()) {
cornerRect = QRect(verticalScrollBar()->x(), horizontalScrollBar()->y(),
verticalScrollBar()->width(), horizontalScrollBar()->height());
painter.fillRect(cornerRect, Qt::blue); // 例として青い四角を描画
painter.drawText(cornerRect, Qt::AlignCenter, "Corner");
}
// デバッグ目的でビューポートの境界を描画するなども考えられる
// painter.drawRect(viewport()->geometry());
}
この例では、QAbstractScrollArea::paintEvent()
内で描画されるのは、スクロールエリア自身の(通常はスクロールバーとビューポートの)描画の「上書き」や「追加」であり、スクロールされるコンテンツの描画とは分離されていることを示しています。
ここでは、その代替手段について詳しく説明します。
QAbstractScrollArea
は、その名前が示す通り「抽象的なスクロール領域」を提供するための基底クラスであり、スクロールバーの管理やビューポートの提供に特化しています。実際のコンテンツの描画は、以下のいずれかの方法で行うべきです。
QScrollArea を使用し、コンテンツウィジェットの paintEvent() をオーバーライドする(最も一般的かつ推奨)
これは、最も簡単でよく使われる方法です。QScrollArea
はQAbstractScrollArea
を継承しており、任意のQWidget
をスクロール可能な内容として設定する機能を提供します。
特徴
- イベントの自動リマップ
QScrollArea
は、ビューポートウィジェットに発生したイベント(paintEvent
、mouseEvent
など)を自動的にコンテンツウィジェットにリマップします。 - ビューポートの自動調整
setWidgetResizable(true)
を設定することで、QScrollArea
がリサイズされた際に、内部のコンテンツウィジェットも自動的にリサイズされ、ビューポートにフィットするようになります。 - 自動的なスクロールバー管理
コンテンツウィジェットの推奨サイズや最小サイズに基づいて、QScrollArea
が自動的にスクロールバーの表示・非表示、範囲、ページステップなどを管理してくれます。 - 簡単さ
QScrollArea::setWidget()
メソッドを使って、表示したいウィジェットをセットするだけでスクロール機能が追加されます。
実装方法
- 描画したい内容を持つカスタム
QWidget
クラスを作成します。 - このカスタム
QWidget
クラスでpaintEvent(QPaintEvent *event)
をオーバーライドし、その中でQPainter
を使ってコンテンツを描画します。 - 必要であれば、マウスイベント(
mousePressEvent
、mouseMoveEvent
など)もこのカスタムQWidget
で処理します。 - メインのアプリケーションコードで
QScrollArea
のインスタンスを作成し、そのsetWidget()
メソッドにカスタムQWidget
のインスタンスを設定します。
利点
- ほとんどのユースケースに対応可能。
- Qtの標準的なウィジェットモデルに忠実。
- 開発が非常にシンプル。
QAbstractScrollArea を継承し、カスタムビューポートウィジェットの paintEvent() をオーバーライドする
これは、QScrollArea
の提供する機能では不十分な場合(例: QOpenGLWidget
をビューポートとして使用したい、非常に特殊な描画ロジックが必要な場合など)に選択される、より低レベルな方法です。
特徴
- viewportEvent(QEvent *event) の利用
ビューポートウィジェットで発生したイベント(リサイズイベントなど)をQAbstractScrollArea
側で受け取って処理したい場合に、この仮想関数をオーバーライドできます。 - scrollContentsBy(int dx, int dy) のオーバーライド
スクロールバーの動きに応じてコンテンツをどのように「移動」させるかを、この仮想関数で実装する必要があります。通常は、ビューポートウィジェット内の描画オフセットを変更し、ビューポートの再描画を要求します。 - 手動でのスクロールバー管理
スクロールバーの範囲、値、ページステップなどを手動で計算し、設定する必要があります。コンテンツのサイズやビューポートのサイズが変更された際に、これらの値を適切に更新するロジックが必要です。 - 柔軟なビューポートの制御
任意のQWidget
をビューポートとして設定できます。これにより、QOpenGLWidget
やQQuickWidget
など、カスタムな描画バックエンドを持つウィジェットをスクロール可能な領域として利用できます。
実装方法
- 描画したい内容を持つカスタム
QWidget
クラスを作成します(これがビューポートになります)。 - このカスタムビューポートウィジェットで
paintEvent(QPaintEvent *event)
をオーバーライドし、QPainter
を使ってコンテンツを描画します。この際、スクロールオフセットを考慮して描画する必要があります。 QAbstractScrollArea
を継承したカスタムスクロールエリアクラスを作成します。- カスタムスクロールエリアクラスのコンストラクタで、カスタムビューポートウィジェットをインスタンス化し、
setViewport()
メソッドで設定します。 - カスタムスクロールエリアクラスで
scrollContentsBy(int dx, int dy)
をオーバーライドし、ビューポートの描画オフセットを更新し、viewport()->update()
を呼び出します。 - カスタムスクロールエリアクラスで
resizeEvent(QResizeEvent *event)
をオーバーライドし、ビューポートのサイズ変更に応じてスクロールバーの範囲を更新します。 - スクロールバーの
valueChanged
シグナルをカスタムスクロールエリア内で接続し、その値に基づいてビューポートの描画オフセットを更新するようにします。
利点
- OpenGLなどの特殊な描画をスクロール領域内で利用できる。
- より高度なカスタマイズが可能。
欠点
- スクロールバーのロジックを手動で実装する必要がある。
QScrollArea
を使用するよりもコード量が多く、管理が複雑になる。
グラフィックスビューフレームワーク (QGraphicsView, QGraphicsScene, QGraphicsItem) を使用する
非常に複雑な描画、大量のアイテム、ズーム、インタラクティブ性などを必要とする場合は、Qtのグラフィックスビューフレームワークが最適な選択肢です。QGraphicsView
自体がスクロール機能を持っています。
特徴
- QGraphicsViewのスクロール機能
QGraphicsView
自体がスクロールバーを持ち、シーンのサイズに基づいて自動的に動作します。 - 豊富な機能
衝突検知、グループ化、アニメーション、ズーム、パンなどの機能が組み込まれています。 - 描画の最適化
Qtが自動的に表示されているアイテムのみを描画したり、部分的な更新を行ったりするため、非常に高いパフォーマンスを発揮します。 - アイテムベースの描画
シーン内に描画する要素を「アイテム」として管理し、それぞれのアイテムが独立して描画、イベント処理、変換(移動、回転、スケール)を行います。
実装方法
QGraphicsScene
のインスタンスを作成します。これが描画の「世界」になります。- 描画したい要素を
QGraphicsItem
のサブクラス(例:QGraphicsRectItem
,QGraphicsTextItem
, またはカスタムQGraphicsItem
)として作成し、QGraphicsScene
に追加します。 QGraphicsView
のインスタンスを作成します。QGraphicsView::setScene()
メソッドを使って、作成したQGraphicsScene
をビューに設定します。
利点
- 開発者が描画のオフセット計算などを手動で行う必要がない。
- パフォーマンスが高い。
- 複雑な描画やインタラクティブなアプリケーションに最適。
欠点
- 学習曲線がやや高い。
- シンプルな描画タスクにはオーバーキルになる場合がある。
// main.cpp (またはメインウィンドウクラスのコンストラクタ)
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QGraphicsTextItem>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
window.setWindowTitle("Graphics View Scroll Example");
window.resize(600, 400);
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(&window);
// シーンの矩形を設定 (コンテンツの仮想サイズ)
scene->setSceneRect(0, 0, 1000, 800); // 1000x800 の仮想的な領域
// シーンにアイテムを追加 (描画内容)
QGraphicsRectItem *rectItem = new QGraphicsRectItem(0, 0, 150, 100);
rectItem->setBrush(Qt::red);
scene->addItem(rectItem);
QGraphicsTextItem *textItem = new QGraphicsTextItem("Hello, Graphics View!");
textItem->setPos(200, 150);
textItem->setFont(QFont("Arial", 24));
scene->addItem(textItem);
// QGraphicsView は QAbstractScrollArea を継承しているため、
// 自動的にスクロール機能を持つ
QGraphicsView *view = new QGraphicsView(scene, &window);
// スクロールバーポリシーはデフォルトで必要に応じて表示される (ScrollBarAsNeeded)
window.setCentralWidget(view);
window.show();
return a.exec();
}
QAbstractScrollArea::paintEvent()
は、Qtの内部実装でスクロールエリアのフレームやスクロールバーの描画に利用されることがありますが、開発者がスクロールされるコンテンツを描画するために直接オーバーライドすることはほとんどありません。
代わりに、以下のいずれかの方法を選択してください。
- 複雑な描画、多数のアイテム、インタラクティブ性が必要なケース
QGraphicsView
フレームワーク。 - より詳細な制御や特殊なビューポートが必要なケース
QAbstractScrollArea
を継承し、カスタムビューポートウィジェットのpaintEvent()
を利用。 - 簡単なケースや一般的な用途
QScrollArea
とカスタムQWidget
の組み合わせ。