Qtスクロールバーの悩み解消！horizontalScrollBarPolicyの基本から応用プログラミング例まで

2025-05-27

このプロパティは、Qt::ScrollBarPolicyという列挙型で設定されます。主な設定値は以下の通りです。

Qt::ScrollBarAlwaysOff
- コンテンツがビューポートに収まらない場合でも、常に水平スクロールバーは非表示になります。
- この設定では、ユーザーはスクロールバーを使ってコンテンツをスクロールすることはできません。プログラマが別の方法でスクロールを制御する場合などに使用されます。
Qt::ScrollBarAlwaysOn
- コンテンツがビューポートに収まるかどうかにかかわらず、常に水平スクロールバーが表示されます。
- スクロールバーは常に領域を占有するため、ビューポートのサイズは常にスクロールバーの分だけ小さくなります。
Qt::ScrollBarAsNeeded (デフォルト)
- これが最も一般的な設定です。
- スクロール可能なコンテンツがビューポートに収まりきらない場合にのみ、水平スクロールバーが表示されます。
- コンテンツがビューポート内に完全に収まっている場合は、スクロールバーは非表示になります。スクロールバーが非表示になると、ビューポートはその分の領域を広げて使用します。

- 原因1: setWidget()が適切に設定されていない QScrollArea（QAbstractScrollAreaの派生クラス）は、内部に単一のウィジェットを保持し、そのウィジェットの内容をスクロール可能にします。もし、scrollArea->setWidget(innerWidget); のように内部ウィジェットが正しく設定されていない場合、スクロールエリアは何をスクロールすべきか認識せず、スクロールバーが表示されません。
  - トラブルシューティング
    QScrollAreaに対して必ず setWidget() を呼び出し、スクロールさせたいコンテンツを含むウィジェットを設定してください。
- 原因2: 内部ウィジェットにレイアウトが設定されていない、またはサイズヒントがない QScrollAreaが内部ウィジェットの「実質的なサイズ」を計算できないと、スクロールが必要かどうかを判断できません。これは、内部ウィジェットにレイアウト（QVBoxLayout, QHBoxLayout, QGridLayoutなど）が設定されていない場合や、内部ウィジェットがsizeHint()を適切に実装していない（あるいは固定サイズである）場合に起こりえます。
  - トラブルシューティング
    内部ウィジェットに適切にレイアウトを設定し、そのレイアウトに子ウィジェットを追加してください。子ウィジェットが固定サイズでない場合、sizeHint()が正しく返されるようにするか、setSizePolicy()で伸縮ポリシーを設定することも考慮してください。
- 原因3: setWidgetResizable(true)の設定忘れ QScrollAreaに設定されたウィジェットが、スクロールエリアのサイズに合わせて自動的にリサイズされるかどうかを制御します。これをtrueにしないと、内部ウィジェットが自身のサイズを維持しようとし、スクロールバーが必要なのに表示されないことがあります。
  - トラブルシューティング
    scrollArea->setWidgetResizable(true); を設定して、内部ウィジェットがスクロールエリアのビューポートに合わせて伸縮できるようにしてください。
- 原因4: コンテンツのサイズがビューポートより小さい Qt::ScrollBarAsNeededを設定している場合、コンテンツがビューポートに完全に収まっている場合はスクロールバーは表示されません。これはエラーではなく、期待される動作です。
  - トラブルシューティング
    コンテンツのサイズが本当にビューポートよりも大きいことを確認してください。デバッグのために一時的にQt::ScrollBarAlwaysOnを設定して、スクロールバー自体が表示されるか確認するのも有効です。
Qt::ScrollBarAlwaysOffを設定してもスクロールできてしまう
- 原因
  horizontalScrollBarPolicyは、あくまでスクロールバーの「視覚的な表示」を制御するものです。マウスホイールやトラックパッドのジェスチャーによるスクロールイベントは、スクロールバーが非表示でも発生する可能性があります。
  - トラブルシューティング
    完全にスクロールを無効にしたい場合は、horizontalScrollBar()->setEnabled(false); のようにスクロールバー自体を無効にするか、viewport()に対してイベントフィルターをインストールし、QEvent::Wheelイベントをフィルタリングして無視する必要があります。
```
scrollArea->horizontalScrollBar()->setEnabled(false);
// または
scrollArea->viewport()->installEventFilter(myEventFilterObject);
// myEventFilterObjectのeventFilterメソッドでQEvent::Wheelを処理
```
デザイナー（Qt Designer）で設定が反映されない
- 原因
  Qt DesignerでhorizontalScrollBarPolicyを設定しても、コードで明示的に上書きしている場合や、他のレイアウトの制約が優先されている場合があります。
  - トラブルシューティング
    生成されたUIコード（ui_*.h）を確認し、設定が正しく反映されているか確認します。また、コード内で意図せずhorizontalScrollBarPolicyを再度設定していないか、他のレイアウトマネージャー（例: QSizePolicy）が優先されていないかを確認してください。

`QAbstractScrollArea::horizontalScrollBarPolicy` のプログラミング例

QScrollArea は QAbstractScrollArea を継承しており、最も一般的に使われるスクロール可能なコンテナウィジェットです。ここでは QScrollArea を使って説明します。

必要なモジュール

QtCore
QtGui
QtWidgets

基本的なセットアップ
まず、QScrollArea の中にコンテンツ（例: QLabel や QPushButton を複数含む QWidget）を配置し、そのコンテンツがスクロールエリアのビューポートよりも大きくなるように設定します。

#include <QtWidgets>

// スクロールエリアの内部に配置するコンテンツウィジェット
QWidget* createContentWidget(int width, int height, const QString& text) {
    QWidget* contentWidget = new QWidget();
    QVBoxLayout* layout = new QVBoxLayout(contentWidget);
    layout->setContentsMargins(0, 0, 0, 0); // マージンをなくして正確なサイズを示す

    QLabel* label = new QLabel(text);
    label->setFixedSize(width, height); // 固定サイズを設定してスクロールが必要な状態を作る
    label->setAlignment(Qt::AlignCenter);
    label->setStyleSheet("background-color: lightblue; border: 1px solid blue;");
    layout->addWidget(label);

    return contentWidget;
}

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    // メインウィンドウ
    QMainWindow window;
    window.setWindowTitle("QAbstractScrollArea::horizontalScrollBarPolicy Example");

    // 中央ウィジェット
    QWidget* centralWidget = new QWidget();
    QHBoxLayout* mainLayout = new QHBoxLayout(centralWidget);
    window.setCentralWidget(centralWidget);

    // スクロールエリアの表示サイズ
    int scrollAreaWidth = 200;
    int scrollAreaHeight = 150;

    // コンテンツのサイズ (スクロールエリアより大きい)
    int contentWidth = 400; // スクロールエリアの幅より大きい
    int contentHeight = 300; // スクロールエリアの高さより大きい

    // --- 例 1: Qt::ScrollBarAsNeeded (デフォルト) ---
    QScrollArea* scrollArea1 = new QScrollArea();
    scrollArea1->setFixedSize(scrollAreaWidth, scrollAreaHeight);
    scrollArea1->setWindowTitle("AsNeeded Policy");
    scrollArea1->setHorizontalScrollBarPolicy(Qt::ScrollBarAsNeeded); // デフォルトだが明示的に設定
    scrollArea1->setWidgetResizable(true); // 内部ウィジェットがスクロールエリアに合わせて伸縮できるようにする

    QWidget* content1 = createContentWidget(contentWidth, contentHeight, "Qt::ScrollBarAsNeeded\n(Horizontal Scrollbar will appear)");
    scrollArea1->setWidget(content1);
    mainLayout->addWidget(scrollArea1);

    // --- 例 2: Qt::ScrollBarAlwaysOn ---
    QScrollArea* scrollArea2 = new QScrollArea();
    scrollArea2->setFixedSize(scrollAreaWidth, scrollAreaHeight);
    scrollArea2->setWindowTitle("AlwaysOn Policy");
    scrollArea2->setHorizontalScrollBarPolicy(Qt::ScrollBarAlwaysOn);
    scrollArea2->setWidgetResizable(true);

    QWidget* content2 = createContentWidget(contentWidth, contentHeight, "Qt::ScrollBarAlwaysOn\n(Horizontal Scrollbar always visible)");
    scrollArea2->setWidget(content2);
    mainLayout->addWidget(scrollArea2);

    // --- 例 3: Qt::ScrollBarAlwaysOff ---
    QScrollArea* scrollArea3 = new QScrollArea();
    scrollArea3->setFixedSize(scrollAreaWidth, scrollAreaHeight);
    scrollArea3->setWindowTitle("AlwaysOff Policy");
    scrollArea3->setHorizontalScrollBarPolicy(Qt::ScrollBarAlwaysOff);
    scrollArea3->setWidgetResizable(true);

    QWidget* content3 = createContentWidget(contentWidth, contentHeight, "Qt::ScrollBarAlwaysOff\n(Horizontal Scrollbar never visible)");
    scrollArea3->setWidget(content3);
    mainLayout->addWidget(scrollArea3);

    window.show();
    return app.exec();
}

上記のコードを実行すると、3つの QScrollArea が並んだウィンドウが表示されます。

- 説明
  これがデフォルトのポリシーです。コンテンツがビューポート（スクロールエリアの表示領域）に収まりきらない場合にのみ、水平スクロールバーが表示されます。コンテンツが完全に収まる場合は、スクロールバーは非表示になります。
- 期待される動作
  この例では、contentWidth (400) が scrollAreaWidth (200) より大きいため、水平スクロールバーが表示されます。ユーザーはスクロールバーを操作してコンテンツを水平方向に移動できます。
Qt::ScrollBarAlwaysOn (例 2)
- 説明
  コンテンツのサイズに関わらず、常に水平スクロールバーが表示されます。スクロールバーは常に領域を占有するため、ビューポートのサイズはスクロールバーの分だけ小さくなります。
- 期待される動作
  この例では、contentWidth が scrollAreaWidth より大きいかどうかに関わらず、常に水平スクロールバーが表示されます。コンテンツが収まらない場合はスクロール可能になり、収まる場合でもスクロールバーは表示されたままです（ただし、無効化された状態）。
Qt::ScrollBarAlwaysOff (例 3)
- 説明
  コンテンツのサイズに関わらず、常に水平スクロールバーは非表示になります。ユーザーはスクロールバーを使ってコンテンツを水平方向にスクロールすることはできません。
- 期待される動作
  この例では、contentWidth が scrollAreaWidth より大きくても、水平スクロールバーは表示されません。ユーザーはマウスホイールの上下スクロールや、スクロールエリアをドラッグしてスクロールすることはできますが、スクロールバー自体は表示されないため、スクロールの状態を視覚的に把握したり、スクロールバーを直接操作したりすることはできません。

verticalScrollBarPolicy
同様に、垂直スクロールバーの表示ポリシーを制御するには setVerticalScrollBarPolicy() を使用します。
setWidgetResizable(true)
この設定は非常に重要です。これを true に設定すると、QScrollArea は内部のウィジェットをビューポートのサイズに合わせて自動的にリサイズしようとします。これにより、ウィジェットのサイズがスクロールエリアによって制御され、スクロールバーが必要かどうかの判断が正確に行われます。false の場合、内部ウィジェットは自身の sizeHint() や minimumSizeHint() に基づいてサイズを維持しようとし、スクロールバーの表示がおかしくなることがあります。

個別のスクロールバーを直接操作する (QScrollBar)

QAbstractScrollArea は、内部に実際のスクロールバーオブジェクトを持っています。これらにアクセスし、そのプロパティを直接操作することで、より詳細な制御が可能です。

シグナル・スロット接続
QScrollBar は valueChanged(int) や sliderMoved(int) などのシグナルを発行します。これらを独自のロジックに接続することで、スクロールイベントを捕捉し、カスタムの描画やデータ更新を行うことができます。
QScrollBar::setRange(int min, int max) / setValue(int value)
スクロールバーのスクロール範囲や現在値をプログラムから設定したい場合にこれらを使用します。例えば、特定のコンテンツ領域を強制的に表示したい場合や、カスタムのスクロールロジックを実装する場合に役立ちます。
```
myScrollArea->horizontalScrollBar()->setRange(0, 1000); // 0から1000の範囲でスクロール
myScrollArea->horizontalScrollBar()->setValue(500);    // スクロール位置を中央に設定
```
QScrollBar::setVisible(bool)
スクロールバーを完全に表示/非表示にするには、このメソッドを使用します。これは setHorizontalScrollBarPolicy(Qt::ScrollBarAlwaysOn) や (Qt::ScrollBarAlwaysOff) と同様の効果がありますが、実行時に動的に切り替えたい場合に便利です。
```
myScrollArea->horizontalScrollBar()->setVisible(false); // 水平スクロールバーを非表示にする
```
QScrollBar::setEnabled(bool)
スクロールバー自体を無効にするには、このメソッドを使用します。これにより、ユーザーはスクロールバーを操作できなくなります。Qt::ScrollBarAlwaysOff と似ていますが、スクロールバーの「存在」は維持しつつ、操作を禁止する点が異なります。
```
myScrollArea->horizontalScrollBar()->setEnabled(false); // 水平スクロールバーを無効にする
```
horizontalScrollBar() メソッドで取得
QAbstractScrollArea::horizontalScrollBar() を呼び出すことで、水平スクロールバーの QScrollBar オブジェクトを取得できます。

イベントフィルタリングによるユーザー操作のブロック

QAbstractScrollArea のビューポート（コンテンツが表示される領域）にイベントフィルターをインストールし、特定のマウスイベントやホイールイベントを捕捉して無視することで、ユーザーによるスクロール操作を制限できます。これは、スクロールバー自体は表示させたいが、マウスホイールでのスクロールは無効にしたい場合などに有効です。

// カスタムイベントフィルタークラス
class ScrollEventFilter : public QObject {
protected:
    bool eventFilter(QObject *obj, QEvent *event) override {
        if (event->type() == QEvent::Wheel) {
            // マウスホイールイベントを無視する
            return true; // イベントを処理済みとして伝播を停止
        }
        // その他のイベントは通常通り処理
        return QObject::eventFilter(obj, event);
    }
};

// 使用例
QScrollArea* scrollArea = new QScrollArea();
// ... コンテンツの設定 ...

ScrollEventFilter* filter = new ScrollEventFilter();
scrollArea->viewport()->installEventFilter(filter); // ビューポートにイベントフィルターをインストール

この方法では、水平スクロールバー自体が表示されていても、マウスホイールによる水平スクロール（トラックパッドのジェスチャーも含む）が無効になります。

QAbstractScrollArea のサブクラス化と仮想関数のオーバーライド

より低レベルでスクロール動作をカスタマイズしたい場合、QAbstractScrollArea (または QScrollArea) をサブクラス化し、特定の仮想関数をオーバーライドする方法があります。これは高度なケースで使われます。

sizeHint() と minimumSizeHint()
スクロールエリア自体の推奨サイズや最小サイズを決定します。これらを適切に実装することで、スクロールエリアがレイアウト内でどのように振る舞うかを制御し、間接的にスクロールバーの表示に影響を与えることができます。
viewportEvent(QEvent* event)
ビューポートに送信されるすべてのイベントを処理できます。これにより、マウスイベントやキーボードイベントなどをより細かく制御し、スクロールバーのポリシーでは実現できないカスタムのスクロール動作（例: ドラッグスクロール、特定のキーによるスクロールなど）を実装できます。

scrollContentsBy(int dx, int dy)
この仮想関数をオーバーライドすることで、スクロールバーの値が変更されたときに実際にコンテンツをどのように動かすかを制御できます。Qt のデフォルトの動作（内部ウィジェットを移動させる）を変更したい場合に有用です。

class MyCustomScrollArea : public QAbstractScrollArea {
protected:
    void scrollContentsBy(int dx, int dy) override {
        // dx, dy はスクロールするピクセル量
        // ここで独自の描画ロジックやコンテンツ移動ロジックを実装する
        // 例: ビューポートのコンテンツを再描画する
        viewport()->scroll(dx, dy); // 通常のQScrollAreaの動作
        // または、独自のコンテンツの描画位置を更新する
        // myCustomContent->move(myCustomContent->x() - dx, myCustomContent->y() - dy);
    }
};

スクロールバーの表示は、スクロールエリア内のコンテンツのサイズと、スクロールエリア自体のサイズに依存します。QAbstractScrollArea::horizontalScrollBarPolicy を設定するだけでなく、コンテンツウィジェットのサイズポリシーやレイアウトを調整することで、スクロールバーの表示を「不要にする」ことができます。

最小・最大サイズの設定
setMinimumWidth(), setMaximumWidth() などを使って、コンテンツウィジェットやその中の要素の最小・最大サイズを制御します。これにより、コンテンツがビューポートの幅に収まるように設計し、水平スクロールバーを不要にすることができます。
QSizePolicy の設定
内部のウィジェットやその中の要素に適切な QSizePolicy を設定します。例えば、水平方向の伸縮ポリシーを QSizePolicy::Expanding に設定することで、ウィジェットが利用可能なスペースを最大限に利用し、水平スクロールバーが表示される可能性を減らすことができます。
```
myWidget->setSizePolicy(QSizePolicy::Expanding, QSizePolicy::Preferred);
```

Qtスクロールバーの悩み解消！horizontalScrollBarPolicyの基本から応用プログラミング例まで

QAbstractScrollArea::horizontalScrollBarPolicy のプログラミング例

個別のスクロールバーを直接操作する (QScrollBar)

イベントフィルタリングによるユーザー操作のブロック

QAbstractScrollArea のサブクラス化と仮想関数のオーバーライド

`QAbstractScrollArea::horizontalScrollBarPolicy` のプログラミング例