Qtドラッグ＆ドロップ開発効率UP！dropEvent()代替メソッドを比較

QAbstractScrollArea::dropEvent()は、Qtフレームワークにおけるドラッグ＆ドロップ操作の一部で、あるウィジェットにデータがドロップされたときに発生するイベントを処理するための仮想関数です。

QAbstractScrollAreaは、スクロール可能な領域を提供する低レベルの抽象クラスであり、QScrollAreaやQAbstractItemViewなどの様々なスクロール可能なウィジェットの基底クラスとなっています。

この関数は、特にQAbstractScrollAreaの「ビューポート」（実際に内容が表示される領域）に対してドロップ操作が行われた際に呼び出されます。

役割と使い方

1. ドラッグ＆ドロップ操作の完了
   ユーザーがドラッグ中のデータ（例えば、ファイル、テキスト、画像など）を、QAbstractScrollAreaを継承するウィジェット（例えば、QTextEditやカスタムのスクロール可能なビュー）のビューポート上に「ドロップ」したときに、このdropEvent()が自動的に呼び出されます。

2. 仮想関数
   dropEvent()はvirtual protected関数です。これは、通常、QAbstractScrollAreaを継承するカスタムクラスでこの関数を**オーバーライド（再実装）**して、ドロップされたデータをどのように処理するかを定義する必要があることを意味します。

3. QDropEventオブジェクト
   引数として渡されるQDropEvent *eventオブジェクトには、ドロップ操作に関する詳細な情報が含まれています。

   • ドロップされたデータのMIMEタイプ
     event->mimeData()からQMimeDataオブジェクトを取得し、その中に含まれるデータのタイプ（例: text/plain, image/png, application/x-qt-windows-filepathなど）を確認できます。
   • ドロップされたデータの形式
     QMimeDataから、実際にドロップされたデータ（例: テキストデータ、URLリスト、画像データなど）を取得できます。
   • ドロップされた位置
     event->pos()やevent->posF()で、ビューポート内でのドロップ位置（ピクセル座標）を取得できます。
   • 許容されるドロップアクション
     event->possibleActions()で、ソースウィジェットが許可しているドロップアクション（コピー、移動など）を確認し、event->proposedAction()で、ユーザーが提案しているアクションを確認できます。
   • ドロップの受け入れ
     event->accept()を呼び出すことで、ドロップイベントを受け入れ、データの処理を続行することをQtシステムに伝えます。これを呼び出さない場合、イベントは無視されます。

実装のポイント

dropEvent()をオーバーライドする際には、通常以下のような処理を行います。

1. ドロップされたデータのチェック
   event->mimeData()->hasUrls(), event->mimeData()->hasText(), event->mimeData()->hasImage()などのメソッドを使って、期待するデータ形式であるかを確認します。
2. データの取得と処理
   適切なデータ形式であれば、event->mimeData()->urls(), event->mimeData()->text(), event->mimeData()->imageData()などを使ってデータを取得し、アプリケーション固有のロジックでそのデータを処理します。例えば、ドロップされたファイルパスをリストに追加したり、画像をビューポートに表示したりします。
3. イベントの受け入れ
   データを正常に処理した場合は、event->accept()を呼び出してイベントを処理済みとマークします。これにより、イベントが親ウィジェットなどに伝播するのを防ぎます。

例（概念的なもの）

#include <QAbstractScrollArea>
#include <QDropEvent>
#include <QMimeData>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

class MyCustomScrollArea : public QAbstractScrollArea
{
    Q_OBJECT

public:
    MyCustomScrollArea(QWidget *parent = nullptr) : QAbstractScrollArea(parent)
    {
        // ドロップイベントを受け入れるように設定
        setAcceptDrops(true);
    }

protected:
    // ドロップイベントハンドラをオーバーライド
    void dropEvent(QDropEvent *event) override
    {
        // ドロップされたデータがURL（ファイルパスなど）を持っているかチェック
        if (event->mimeData()->hasUrls()) {
            QList<QUrl> urls = event->mimeData()->urls();
            qDebug() << "ドロップされたファイル:";
            for (const QUrl &url : urls) {
                qDebug() << url.toLocalFile(); // ローカルファイルパスを出力
                // ここでファイルを開くなどの処理を行う
            }
            event->acceptProposedAction(); // ドロップを受け入れる
        }
        // ドロップされたデータがテキストを持っているかチェック
        else if (event->mimeData()->hasText()) {
            QString text = event->mimeData()->text();
            qDebug() << "ドロップされたテキスト:" << text;
            // ここでテキストをウィジェットに表示するなどの処理を行う
            event->acceptProposedAction(); // ドロップを受け入れる
        }
        else {
            // 処理できないデータ形式の場合
            event->ignore(); // イベントを無視
        }
    }

    // ドラッグ中にカーソル表示などを制御するために、dragEnterEventも通常オーバーライドします
    void dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override
    {
        // ドロップを許可するデータ形式であれば、イベントを受け入れる
        if (event->mimeData()->hasUrls() || event->mimeData()->hasText()) {
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            event->ignore();
        }
    }
};

---

QAbstractScrollArea::dropEvent()はドラッグ＆ドロップ機能の核となる部分ですが、適切に設定・実装されていないと期待通りに動作しないことがあります。以下に、よくある問題とその解決策を挙げます。

dropEvent が全く呼び出されない

原因と解決策

• オーバーライドが正しくない
  

  • 原因
    仮想関数dropEventのオーバーライドが正しく行われていない（例えば、シグネチャが異なる、overrideキーワードを忘れている、virtualキーワードがついていないなど）場合、Qtのイベントシステムが正しくディスパッチできません。
  • 解決策
    関数シグネチャがvoid dropEvent(QDropEvent *event) override;と完全に一致していることを確認してください。ヘッダファイルとソースファイルの両方で正しい記述をしてください。

• 子ウィジェットがイベントを消費している
  

  • 原因
    ドロップ対象のウィジェットの上に、さらに子ウィジェットが配置されている場合、その子ウィジェットがドラッグ＆ドロップイベントを先に受け取り、親ウィジェットに伝播させないことがあります。
  • 解決策
    
    • 子ウィジェットにもsetAcceptDrops(true)を設定し、その子ウィジェットでdropEventを処理するか、または子ウィジェットがイベントを無視するように設定して、親ウィジェットにイベントが伝播するようにします。
    • 可能であれば、イベントを受け取らせたいウィジェット（例: QAbstractScrollAreaのビューポート）に直接ドロップされるようにUI設計を調整します。

• dragEnterEvent または dragMoveEvent で event->accept()/event->acceptProposedAction() を呼び出していない
  

  • 原因
    dropEventが呼び出されるためには、それ以前のドラッグイベント（dragEnterEventやdragMoveEvent）で、そのウィジェットがドロップを受け入れる意図があることをQtに伝える必要があります。これを行わないと、Qtはドロップを許可しないと判断し、dropEventは発生しません。
  • 解決策
    dragEnterEventとdragMoveEventをオーバーライドし、適切な条件（例えば、期待するMIMEタイプである場合）でevent->acceptProposedAction()を呼び出してください。

  void MyCustomScrollArea::dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override
  {
      if (event->mimeData()->hasUrls()) { // 例: URL（ファイルパス）のみ受け入れる場合
          event->acceptProposedAction();
      } else {
          event->ignore();
      }
  }
  
  void MyCustomScrollArea::dragMoveEvent(QDragMoveEvent *event) override
  {
      if (event->mimeData()->hasUrls()) { // dragEnterEventと同じ条件が一般的
          event->acceptProposedAction();
      } else {
          event->ignore();
      }
  }
  

• • 原因
    ドロップイベントを受け入れるウィジェットは、明示的にsetAcceptDrops(true)を呼び出す必要があります。デフォルトはfalseです。
  • 解決策
    カスタムウィジェットのコンストラクタなどで、setAcceptDrops(true);を追加してください。

  MyCustomScrollArea::MyCustomScrollArea(QWidget *parent) : QAbstractScrollArea(parent)
  {
      setAcceptDrops(true); // これが重要！
      // ...
  }
  

ドロップされたデータが取得できない、または期待と異なる

原因と解決策

• データの抽出方法の誤り
  

  • 原因
    正しいMIMEタイプを特定しても、そのMIMEタイプに対応するデータ抽出メソッド（例: text(), urls(), imageData()など）を誤って使用している可能性があります。
  • 解決策
    QtドキュメントでQMimeDataの各メソッドの戻り値と用途を確認し、正しくデータを取得してください。カスタムMIMEタイプの場合は、data(const QString &mimeType)を使用してQByteArrayとして生データを取得し、自前でパースする必要があります。

• MIMEタイプの確認不足
  

  • 原因
    QDropEventに含まれるデータは、さまざまなMIMEタイプ（text/plain, image/png, application/x-qt-windows-filepathなど）を持っています。ドロップされたデータが、コードで想定しているMIMEタイプと一致しない場合、データは取得できません。
  • 解決策
    event->mimeData()からQMimeDataオブジェクトを取得し、hasText(), hasUrls(), hasImage(), hasFormat("your/custom-mime-type")などのメソッドを使って、実際にドロップされたデータの形式を確認してください。

  void MyCustomScrollArea::dropEvent(QDropEvent *event) override
  {
      const QMimeData *mimeData = event->mimeData();
  
      if (mimeData->hasUrls()) {
          QList<QUrl> urls = mimeData->urls();
          // URL（ファイルパス）の処理
      } else if (mimeData->hasText()) {
          QString text = mimeData->text();
          // テキストの処理
      } else {
          qDebug() << "サポートされていないMIMEタイプ:" << mimeData->formats(); // デバッグ出力で確認
          event->ignore();
      }
      event->acceptProposedAction(); // 処理した場合は受け入れる
  }
  

ドロップ後に視覚的なフィードバックがない、または間違っている

原因と解決策

• ドラッグアクションの不一致
  

  • 原因
    ドロップ操作のソースが提案するアクション（コピー、移動など）と、ターゲットウィジェットが許可するアクション、そして実際に実行したいアクションが一致していない場合、期待通りのフィードバックが得られないことがあります。
  • 解決策
    
    • dragEnterEventやdragMoveEventで、event->possibleActions()やevent->proposedAction()を確認し、受け入れ可能なアクションを適切にevent->acceptProposedAction()に渡すか、フィルタリングしてください。
    • 例えば、コピーのみを許可したいのに、ソースが移動を提案している場合は、event->setDropAction(Qt::CopyAction); event->accept();のように明示的にアクションを設定することもできます。

• event->acceptProposedAction() を呼び出していない
  

  • 原因
    dropEvent内でevent->acceptProposedAction()（またはevent->accept()）を呼び出さないと、Qtシステムはそのイベントが処理されたことを認識せず、ドラッグ操作が成功したことを示すフィードバック（例えば、元の場所からアイコンが消えるなど）が行われません。
  • 解決策
    データを正常に処理した場合は、必ずevent->acceptProposedAction();を呼び出してください。

パフォーマンスの問題 / UIのフリーズ

原因と解決策

• dropEvent 内での重い処理
  
  • 原因
    dropEventはUIスレッドで実行されるため、その中で時間のかかる処理（大きなファイルの読み込み、複雑な画像処理、ネットワーク通信など）を行うと、UIが一時的にフリーズしたり、応答しなくなったりします。
  • 解決策
    
    • 処理をバックグラウンドスレッドにオフロード
      QtConcurrentやQThreadを使用して、時間のかかる処理を別のスレッドで実行し、処理完了後にシグナルとスロットでUIスレッドに結果を返します。
    • 進捗表示
      処理中はプログレスバーやステータスバーを表示して、ユーザーに進行状況を伝えます。

QAbstractScrollAreaのビューポートに問題がある

原因と解決策

• ビューポートの更新不足
  

  • 原因
    ドロップ操作によってコンテンツが変更されたにもかかわらず、ビューポートが適切に更新されていない場合、変更が反映されないことがあります。
  • 解決策
    データ処理後、viewport()->update()またはupdate()を呼び出して、ビューポートの再描画をトリガーしてください。

• QAbstractScrollAreaの派生クラスではない場合
  

  • 原因
    QAbstractScrollArea::dropEvent()は、QAbstractScrollAreaクラスとその派生クラス（QScrollArea, QListView, QTableViewなど）に特有のものです。QWidgetなど、これら以外のウィジェットでドラッグ＆ドロップを実装する場合は、QWidget::dropEvent()をオーバーライドする必要があります。
  • 解決策
    使用しているウィジェットがQAbstractScrollAreaの派生クラスであることを確認してください。そうでない場合は、親クラスのdropEvent()をオーバーライドしてください。

---

ここでは、画像をドロップすると表示されるカスタムスクロールエリアの例を挙げます。

この例では、MyImageScrollArea という QAbstractScrollArea を継承したカスタムウィジェットを作成します。このウィジェットは、ファイルシステムから画像ファイルをドラッグ＆ドロップで受け入れ、その画像をビューポートに表示します。

ヘッダファイル (myimagescrollarea.h)

#ifndef MYIMAGESCROLLAREA_H
#define MYIMAGESCROLLAREA_H

#include <QAbstractScrollArea>
#include <QImage>
#include <QVector> // 複数の画像を保持するため
#include <QPoint>  // 画像の表示位置を保持するため

class QDropEvent;
class QDragEnterEvent;
class QPaintEvent;
class QResizeEvent;

class MyImageScrollArea : public QAbstractScrollArea
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit MyImageScrollArea(QWidget *parent = nullptr);

protected:
    // ドラッグ＆ドロップ関連イベントのオーバーライド
    void dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override;
    void dropEvent(QDropEvent *event) override;
    void dragLeaveEvent(QDragLeaveEvent *event) override; // オプション: ドラッグが領域を離れた時の処理

    // 描画関連イベントのオーバーライド
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override;
    void resizeEvent(QResizeEvent *event) override;

    // スクロールバーの動きに合わせてコンテンツを動かすための仮想関数
    void scrollContentsBy(int dx, int dy) override;

private:
    QVector<QImage> images; // 表示する画像データのリスト
    QVector<QPoint> imagePositions; // 各画像の表示位置

    void loadImage(const QUrl &url); // 画像をロードするヘルパー関数
    void updateScrollBars(); // スクロールバーの範囲を更新する関数
    void updateImagePositions(); // 画像の描画位置を更新する関数
};

#endif // MYIMAGESCROLLAREA_H

ソースファイル (myimagescrollarea.cpp)

#include "myimagescrollarea.h"
#include <QDropEvent>
#include <QDragEnterEvent>
#include <QMimeData>
#include <QUrl>
#include <QDebug>
#include <QPainter>
#include <QScrollBar>

MyImageScrollArea::MyImageScrollArea(QWidget *parent)
    : QAbstractScrollArea(parent)
{
    setAcceptDrops(true); // ドロップイベントを受け入れるように設定
    viewport()->setBackgroundRole(QPalette::Dark); // 背景色を設定
    viewport()->setAutoFillBackground(true); // 背景を自動で塗りつぶす

    // スクロールバーの範囲を初期化
    horizontalScrollBar()->setRange(0, 0);
    verticalScrollBar()->setRange(0, 0);
}

// ドロップイベントを受け入れるかどうかを判断
void MyImageScrollArea::dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event)
{
    // ドロップされたデータがURL（ファイルパスなど）を含んでいるかチェック
    if (event->mimeData()->hasUrls()) {
        // 全てのURLが画像ファイルかどうかをより厳密にチェックすることも可能
        event->acceptProposedAction(); // ドロップを受け入れることを提案
    } else {
        event->ignore(); // 受け入れない
    }
}

// ドラッグが領域を離れた時の処理 (オプション)
void MyImageScrollArea::dragLeaveEvent(QDragLeaveEvent *event)
{
    event->accept(); // イベントを受け入れる
}

// データがドロップされた時に呼び出される
void MyImageScrollArea::dropEvent(QDropEvent *event)
{
    const QMimeData *mimeData = event->mimeData();

    if (mimeData->hasUrls()) {
        QList<QUrl> urls = mimeData->urls();
        for (const QUrl &url : urls) {
            if (url.isLocalFile()) { // ローカルファイルであるか確認
                loadImage(url); // 画像をロード
            }
        }
        updateScrollBars();       // 画像が追加されたのでスクロールバーの範囲を更新
        updateImagePositions();   // 画像の位置を更新
        viewport()->update();     // ビューポートの再描画を要求
        event->acceptProposedAction(); // ドロップ操作を受け入れる
    } else {
        event->ignore(); // サポートされていないデータ形式なので無視
    }
}

// 画像のロード処理
void MyImageScrollArea::loadImage(const QUrl &url)
{
    QImage newImage(url.toLocalFile());
    if (!newImage.isNull()) {
        images.append(newImage);
        // 新しい画像の位置を仮で設定 (後の updateImagePositions で再計算される)
        imagePositions.append(QPoint(0, 0));
        qDebug() << "画像をロードしました:" << url.toLocalFile();
    } else {
        qWarning() << "画像をロードできませんでした:" << url.toLocalFile();
    }
}

// ビューポートの描画処理
void MyImageScrollArea::paintEvent(QPaintEvent *event)
{
    Q_UNUSED(event); // 未使用の引数だが、オーバーライドのため必要

    QPainter painter(viewport());
    // スクロールバーの位置に基づいて描画オフセットを計算
    QPoint offset(-horizontalScrollBar()->value(), -verticalScrollBar()->value());

    for (int i = 0; i < images.size(); ++i) {
        // 各画像の描画位置をオフセットで調整
        painter.drawImage(imagePositions[i] + offset, images[i]);
    }
}

// ウィジェットのリサイズイベント
void MyImageScrollArea::resizeEvent(QResizeEvent *event)
{
    QAbstractScrollArea::resizeEvent(event); // 基底クラスの処理を呼び出す
    updateScrollBars();       // ビューポートサイズが変わったのでスクロールバーの範囲を更新
    updateImagePositions();   // 画像の位置を再計算
    viewport()->update();     // ビューポートの再描画を要求
}

// スクロールバーが動いた時にコンテンツをスクロールさせる
void MyImageScrollArea::scrollContentsBy(int dx, int dy)
{
    Q_UNUSED(dx); // dxは描画オフセット計算で間接的に使われるため、直接は使わない
    Q_UNUSED(dy); // 同上

    // スクロールバーの値が変更されたので、ビューポートを更新して再描画をトリガーする
    viewport()->update();
}


// スクロールバーの範囲を更新する
void MyImageScrollArea::updateScrollBars()
{
    if (images.isEmpty()) {
        horizontalScrollBar()->setRange(0, 0);
        verticalScrollBar()->setRange(0, 0);
        return;
    }

    // 全ての画像を包含する最小の矩形を計算
    int maxX = 0;
    int maxY = 0;

    for (int i = 0; i < images.size(); ++i) {
        maxX = qMax(maxX, imagePositions[i].x() + images[i].width());
        maxY = qMax(maxY, imagePositions[i].y() + images[i].height());
    }

    // スクロール範囲を計算
    horizontalScrollBar()->setRange(0, qMax(0, maxX - viewport()->width()));
    verticalScrollBar()->setRange(0, qMax(0, maxY - viewport()->height()));

    // ページステップも設定 (ビューポートのサイズに基づいて)
    horizontalScrollBar()->setPageStep(viewport()->width());
    verticalScrollBar()->setPageStep(viewport()->height());
}

// 画像の表示位置を更新する（ここでは単純に横に並べる）
void MyImageScrollArea::updateImagePositions()
{
    int currentX = 0;
    int currentY = 0;
    int maxHeightInRow = 0;

    // ビューポートの幅を取得
    int viewportWidth = viewport()->width();

    for (int i = 0; i < images.size(); ++i) {
        const QImage &img = images[i];

        // 次の画像を現在の行に収められるかチェック
        if (currentX + img.width() > viewportWidth && currentX > 0) {
            // 新しい行に移動
            currentY += maxHeightInRow;
            currentX = 0;
            maxHeightInRow = 0;
        }

        imagePositions[i] = QPoint(currentX, currentY);
        currentX += img.width();
        maxHeightInRow = qMax(maxHeightInRow, img.height());
    }
    // 最後の行の高さも考慮して、最終的なコンテンツサイズを更新するために updateScrollBars を再度呼び出す
    updateScrollBars();
}

メインファイル (main.cpp)

#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include "myimagescrollarea.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QMainWindow window;
    MyImageScrollArea *imageArea = new MyImageScrollArea(&window);
    window.setCentralWidget(imageArea);
    window.setWindowTitle("画像をドロップしてください");
    window.resize(600, 400);
    window.show();

    return a.exec();
}

解説

1. • QAbstractScrollArea を継承しています。
   • コンストラクタで setAcceptDrops(true) を呼び出し、このウィジェットがドロップイベントを受け入れるように設定します。

2. dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event)
   

   • ドラッグ操作がウィジェットの領域に入ったときに呼び出されます。
   • event->mimeData()->hasUrls() で、ドラッグされているデータがURL（多くの場合、ファイルパス）を持っているかを確認します。
   • 画像ファイルを受け入れたいので、URL形式であれば event->acceptProposedAction() を呼び出して、ドロップが可能であることをQtに伝えます。これにより、ドロップ可能領域を示すカーソル（緑のプラスアイコンなど）が表示されます。

3. dropEvent(QDropEvent *event)
   

   • データがウィジェットのビューポートに実際にドロップされたときに呼び出されます。
   • event->mimeData()->hasUrls() で再度URLの有無を確認し、event->mimeData()->urls() でURLのリストを取得します。
   • 取得したURLがローカルファイルであれば、loadImage() を呼び出して画像をロードし、images リストに追加します。
   • updateScrollBars() と updateImagePositions() を呼び出して、新しい画像が追加されたことに応じてスクロールバーの範囲と画像の位置を更新します。
   • viewport()->update() を呼び出すことで、ビューポートの再描画を強制し、新しい画像が表示されるようにします。
   • 最後に event->acceptProposedAction() を呼び出し、ドロップ操作が正常に処理されたことをQtに伝えます。

4. paintEvent(QPaintEvent *event)
   

   • ビューポートの内容を描画するためのイベントハンドラです。
   • QPainter を使用して、images リストに格納されている画像を、imagePositions と現在のスクロール位置 (horizontalScrollBar()->value(), verticalScrollBar()->value()) を考慮したオフセットで描画します。

5. resizeEvent(QResizeEvent *event)
   

   • ウィジェットのサイズが変更されたときに呼び出されます。
   • ビューポートのサイズが変わるため、updateScrollBars() と updateImagePositions() を呼び出して、スクロールバーの範囲と画像の位置を再計算します。

6. scrollContentsBy(int dx, int dy)
   

   • スクロールバーの値が変更されたときにQtによって呼び出されます。
   • ここでは単にviewport()->update()を呼び出して、ビューポートの再描画をトリガーしています。描画ロジックはpaintEventで行われるため、ここでの複雑な計算は不要です。

7. loadImage(const QUrl &url)
   

   • 指定されたURLから画像をロードし、成功すれば images リストに追加するヘルパー関数です。

8. updateScrollBars()
   

   • 現在表示されている全ての画像を包含する最小の矩形を計算し、そのサイズに基づいて水平・垂直スクロールバーの最大値（範囲）を設定します。これにより、全てのコンテンツをスクロールして見れるようになります。

9. updateImagePositions()
   

   • ロードされた画像をビューポート内にどのように配置するかを決定する関数です。この例では、画像を左上から横に並べ、ビューポートの幅を超えたら次の行に折り返すようにしています。

---

以下に、dropEvent() のオーバーライドに代わる、または補完するプログラミング方法をいくつか説明します。

QAbstractItemView クラスのドラッグ＆ドロップ機能を利用する

QAbstractScrollArea の最も一般的な派生クラスとして、QListView、QTableView、QTreeView などがあります。これらは QAbstractItemView を継承しており、モデル/ビューアーキテクチャに基づいて動作します。これらのクラスには、ドラッグ＆ドロップを非常に簡単に設定できるプロパティとメソッドが用意されています。

特徴

• dropMimeData() (モデルクラスのオーバーライド)
  カスタムモデルを使用している場合、QAbstractItemModel の dropMimeData() をオーバーライドすることで、ドロップされたデータの処理ロジックをモデル側で実装できます。これにより、ビューとモデルの関心を分離できます。
• setAcceptDrops(bool on)
  ビューが外部からのドロップを受け入れるかを設定します。
• setDragEnabled(bool enable)
  アイテムのドラッグを有効/無効にします。
• setDragDropMode()
  アイテムのドラッグとドロップの動作を設定します。
  • QAbstractItemView::NoDragDrop (デフォルト): ドラッグ＆ドロップなし
  • QAbstractItemView::DragOnly: アイテムのドラッグのみ許可
  • QAbstractItemView::DropOnly: アイテムのドロップのみ許可
  • QAbstractItemView::DragDrop: ドラッグとドロップの両方を許可（内部移動、外部からのドロップなど）
  • QAbstractItemView::InternalMove: 同じビュー内でのアイテムの移動のみ許可

利点

• 標準的な挙動
  Qtの標準的なドラッグ＆ドロップの挙動（ドロップインジケーターなど）を自動的に提供します。
• モデル/ビューの分離
  データ処理ロジックをモデルにカプセル化できるため、コードの保守性が向上します。
• 簡単さ
  多くの基本的なドラッグ＆ドロップのユースケース（リストアイテムの並べ替え、テーブルへのファイルのドロップなど）は、数行のコードで実現できます。

使用例（QListWidget の場合）：

#include <QListWidget>
#include <QApplication>
#include <QDropEvent>
#include <QMimeData>
#include <QUrl>
#include <QDebug>

class MyListWidget : public QListWidget
{
    Q_OBJECT
public:
    MyListWidget(QWidget *parent = nullptr) : QListWidget(parent)
    {
        // ドロップイベントを受け入れるように設定
        setAcceptDrops(true);
        // 外部からのドロップと内部移動の両方を許可
        setDragDropMode(QAbstractItemView::DragDrop);
        // アイテムのドラッグを許可
        setDragEnabled(true);
        // ドロップインジケーターを表示
        setDropIndicatorShown(true);
    }

protected:
    // dragEnterEvent は QAbstractItemView のデフォルト実装で十分なことが多い
    // 必要に応じてオーバーライドして、MIMEタイプを厳密にチェック
    void dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override
    {
        if (event->mimeData()->hasUrls() || event->mimeData()->hasText()) {
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            QListWidget::dragEnterEvent(event); // 基底クラスのハンドラを呼び出す
        }
    }

    void dropEvent(QDropEvent *event) override
    {
        const QMimeData *mimeData = event->mimeData();

        if (mimeData->hasUrls()) {
            QList<QUrl> urls = mimeData->urls();
            for (const QUrl &url : urls) {
                if (url.isLocalFile()) {
                    addItem(url.toLocalFile()); // ファイルパスをリストアイテムとして追加
                    qDebug() << "ファイルがドロップされました:" << url.toLocalFile();
                }
            }
            event->acceptProposedAction();
        } else if (mimeData->hasText()) {
            addItem(mimeData->text()); // テキストをリストアイテムとして追加
            qDebug() << "テキストがドロップされました:" << mimeData->text();
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            // QListWidget 内部のドラッグ＆ドロップなど、基底クラスの処理に任せる場合
            QListWidget::dropEvent(event);
        }
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    MyListWidget listWidget;
    listWidget.setWindowTitle("ファイルをドロップしてください");
    listWidget.resize(300, 200);
    listWidget.show();

    return a.exec();
}

この例では、QListWidget の標準的なドラッグ＆ドロップ機能を活用しつつ、dropEvent() をオーバーライドして外部からドロップされたファイルやテキストをカスタムで処理しています。内部移動などは QListWidget のデフォルト実装が自動的に行います。

QGraphicsView および QGraphicsScene でのドラッグ＆ドロップ

グラフィックスビューフレームワーク (QGraphicsView, QGraphicsScene, QGraphicsItem) を使用している場合、ドラッグ＆ドロップのイベント処理は通常のウィジェットとは異なります。

特徴

• QGraphicsScene::dragEnterEvent() など
  QGraphicsScene もドラッグ＆ドロップイベントハンドラを持ち、シーン全体でのドロップを処理できます。
• QGraphicsItem::dragEnterEvent() など
  QGraphicsItem は独自のドラッグ＆ドロップイベントハンドラを提供します（QGraphicsSceneDragDropEvent を引数に取ります）。これにより、特定のグラフィックスアイテムに対してドロップを処理できます。
• QGraphicsView::dragEnterEvent() など
  QGraphicsView は QWidget を継承しているため、ビュー全体に対しては QWidget のドラッグ＆ドロップイベントハンドラ（dragEnterEvent, dropEvent など）をオーバーライドできます。

利点

• 複雑な描画
  独自の描画ロジックを持つアイテムへのドロップに最適です。
• アイテム単位の制御
  グラフィックスアイテム単位でドロップイベントを細かく制御できます。

使用例（概念的なもの）：

#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QDropEvent>
#include <QMimeData>
#include <QDebug>

class MyGraphicsItem : public QGraphicsRectItem
{
public:
    MyGraphicsItem(const QRectF &rect, QGraphicsItem *parent = nullptr)
        : QGraphicsRectItem(rect, parent)
    {
        setAcceptDrops(true); // このアイテムがドロップを受け入れるように設定
        setBrush(Qt::lightGray);
    }

protected:
    void dragEnterEvent(QGraphicsSceneDragDropEvent *event) override
    {
        if (event->mimeData()->hasText()) {
            setBrush(Qt::green); // ドロップ可能な状態を示す
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            event->ignore();
        }
    }

    void dragLeaveEvent(QGraphicsSceneDragDropEvent *event) override
    {
        Q_UNUSED(event);
        setBrush(Qt::lightGray); // 元に戻す
    }

    void dropEvent(QGraphicsSceneDragDropEvent *event) override
    {
        if (event->mimeData()->hasText()) {
            qDebug() << "アイテムにテキストがドロップされました:" << event->mimeData()->text();
            setBrush(Qt::darkGreen); // ドロップされたことを示す
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            event->ignore();
        }
    }
};

class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
    Q_OBJECT
public:
    MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr) : QGraphicsView(parent)
    {
        QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(this);
        setScene(scene);
        setRenderHint(QPainter::Antialiasing);

        MyGraphicsItem *item1 = new MyGraphicsItem(QRectF(0, 0, 100, 100));
        item1->setPos(50, 50);
        scene->addItem(item1);

        MyGraphicsItem *item2 = new MyGraphicsItem(QRectF(0, 0, 120, 80));
        item2->setPos(200, 100);
        scene->addItem(item2);

        // ビュー全体でドロップを受け入れる場合
        setAcceptDrops(true); // これがないと、QGraphicsView がドロップイベントを無視する
    }

protected:
    // QGraphicsView 全体へのドロップを処理する場合
    void dropEvent(QDropEvent *event) override
    {
        // アイテムへのドロップが優先されるが、アイテムが受け入れなかったり、
        // アイテム以外の場所へのドロップはここで処理される
        if (event->mimeData()->hasUrls()) {
            qDebug() << "ビューにファイルがドロップされました:" << event->mimeData()->urls().first().toLocalFile();
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            QGraphicsView::dropEvent(event); // 基底クラスのハンドラを呼び出す
        }
    }

    void dragEnterEvent(QDragEnterEvent *event) override
    {
        if (event->mimeData()->hasUrls() || event->mimeData()->hasText()) {
            event->acceptProposedAction();
        } else {
            QGraphicsView::dragEnterEvent(event);
        }
    }
};

// main.cpp は前の例と同様に MyGraphicsView を使用

イベントフィルター (Event Filter) を使用する

特定のウィジェットのdropEvent()をオーバーライドできない、またはしたくない場合に、イベントフィルターを使用してドロップイベントを横取りし、処理することができます。

特徴

• QObject::eventFilter(QObject *watched, QEvent *event): フィルターオブジェクトでこの仮想関数をオーバーライドし、フィルタリングしたいイベントタイプ（QEvent::Dropなど）をチェックします。
• QObject::installEventFilter(QObject *filterObj): 対象のオブジェクトにイベントフィルターをインストールします。

利点

• 分離
  イベント処理ロジックを別のクラスに分離できます。
• 柔軟性
  既存のウィジェットの動作を変更することなく、イベント処理を追加できます。

欠点

• イベントの順序
  イベントはフィルターを通るため、他のイベントハンドラとの相互作用を考慮する必要があります。
• パフォーマンス
  イベントフィルターはすべてのイベントを監視するため、不必要に多くのイベントを処理するとパフォーマンスに影響を与える可能性があります。

#include <QTextEdit>
#include <QApplication>
#include <QDropEvent>
#include <QMimeData>
#include <QDebug>

class MyDropEventFilter : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyDropEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}

protected:
    bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override
    {
        if (event->type() == QEvent::Drop) {
            QDropEvent *dropEvent = static_cast<QDropEvent *>(event);
            if (dropEvent->mimeData()->hasText()) {
                QTextEdit *textEdit = qobject_cast<QTextEdit *>(watched);
                if (textEdit) {
                    textEdit->append(dropEvent->mimeData()->text());
                    qDebug() << "フィルター経由でテキストがドロップされました:" << dropEvent->mimeData()->text();
                    dropEvent->acceptProposedAction();
                    return true; // イベントを処理したので、これ以上伝播させない
                }
            }
            return false; // イベントを処理しないので、通常のイベント処理を続行
        }
        // 他のイベントタイプはそのまま通過させる
        return QObject::eventFilter(watched, event);
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QTextEdit *textEdit = new QTextEdit();
    textEdit->setWindowTitle("テキストをドロップしてください (イベントフィルター)");
    textEdit->resize(300, 200);
    textEdit->setAcceptDrops(true); // ドロップを受け入れるように設定

    MyDropEventFilter *filter = new MyDropEventFilter(textEdit);
    textEdit->installEventFilter(filter); // QTextEdit にフィルターをインストール

    textEdit->show();

    return a.exec();
}

• 既存のウィジェットの動作を変更したいが、サブクラス化できない/したくない場合
  イベントフィルターを検討してください。
• グラフィックスアイテムに特化したD&Dが必要な場合
  QGraphicsView フレームワークのイベントハンドラを使用します。
• カスタムの描画ロジックが必要な場合
  QAbstractScrollArea や QWidget を直接継承し、dragEnterEvent() と dropEvent() をオーバーライドする方法が適しています。
• 最も一般的で推奨される方法
  対象のウィジェットが QAbstractItemView の派生クラスである場合、まずは setDragDropMode() などの高レベルなプロパティと、必要に応じてモデルの dropMimeData() を検討してください。