Qtでスクロール領域を最適化: minimumSizeHintのエラーと解決策

2025-05-27

QSize QAbstractScrollArea::minimumSizeHint() は、Qtのウィジェットの最小推奨サイズを返す仮想関数です。特に QAbstractScrollArea クラス（スクロール可能な領域を扱うための基底クラス）において重要な役割を果たします。

`QAbstractScrollArea` について

QAbstractScrollArea は、スクロールバーを必要に応じて表示するスクロール領域の低レベルな抽象化を提供します。この領域は「ビューポート」と呼ばれる中央のウィジェットを持ち、その中にコンテンツが表示され、スクロールされます。

`minimumSizeHint()` の役割

minimumSizeHint() は、そのウィジェットが適切に機能するために最低限必要とするサイズをレイアウトシステムに伝えます。このサイズは、ユーザーがそのウィジェットをこれ以上小さくできないという限界を示すものです。

QAbstractScrollArea の文脈では、minimumSizeHint() はスクロールバーが有効なスクロール範囲を持たない場合（つまり、コンテンツがビューポートに収まっていてスクロールバーが非表示になる場合）のビューポートのサイズを返します。

具体的な意味合い

オーバーライドの可能性
QAbstractScrollArea を継承してカスタムスクロール領域を作成する場合、必要に応じてこの minimumSizeHint() 関数をオーバーライドし、独自の最小サイズロジックを実装することができます。例えば、特定のコンテンツが常に表示されるようにしたい場合などに利用されます。
レイアウトシステムへの影響
レイアウトシステムは、ウィジェットのサイズを決定する際に minimumSizeHint() を考慮します。この値があることで、ウィジェットが意図せず小さくなりすぎて表示が崩れることを防ぎます。
スクロールバーが非表示の場合の最小サイズ
QAbstractScrollArea は、コンテンツがすべてビューポートに収まっている場合、スクロールバーを非表示にすることができます（デフォルトの Qt::ScrollBarAsNeeded ポリシーの場合）。このとき、ビューポートは利用可能なすべてのスペースを占めるように拡大されます。minimumSizeHint() は、この「スクロールバーがない状態」での最小のビューポートサイズを返します。

QAbstractScrollArea::minimumSizeHint() は、スクロール領域の最小サイズをレイアウトシステムに伝える重要な役割を果たしますが、その挙動が期待通りにならない場合に様々な問題が発生することがあります。

スクロールバーが不必要に表示される、または表示されない

原因

QSizePolicy の設定が不適切。特に QScrollArea の sizePolicy が Ignored や Fixed に設定されている場合、コンテンツのサイズ変化に追従しないことがあります。
QScrollArea の setWidgetResizable(true) が設定されていない、または誤解されている。setWidgetResizable(true) は、ビューポートのサイズに合わせて内部ウィジェットのサイズを自動調整しますが、minimumSizeHint() の値は引き続き重要です。
minimumSizeHint() が返すサイズが、コンテンツの実際の最小サイズと一致していない。

トラブルシューティング

レイアウトのマージン
レイアウトに設定されたマージン（setContentsMargins(), setSpacing()）が予期せぬスペースを生み出し、スクロールバーの表示に影響を与えることがあります。これらの値をゼロに設定してみて、挙動が改善するか確認してください。
QSizePolicy の確認
QScrollArea 自体、またはその内部のウィジェットの QSizePolicy が適切に設定されているか確認します。一般的には、QScrollArea は Expanding や Preferred といった、利用可能なスペースを最大限に活用するポリシーが適しています。
QScrollArea::setWidgetResizable(true) の使用
QScrollArea を使用している場合、ビューポート内のウィジェットのサイズを自動調整させるために setWidgetResizable(true) を呼び出すことを強く推奨します。これにより、スクロールエリアは内部ウィジェットの sizeHint() に基づいてスクロールバーの表示/非表示を適切に判断します。
カスタムウィジェットの minimumSizeHint() の正確性確認
QAbstractScrollArea の中に表示するカスタムウィジェットがある場合、そのウィジェット自身の minimumSizeHint() が正確な最小サイズを返しているか確認してください。コンテンツのサイズに合わせて動的に計算する必要があります。

ウィンドウサイズを小さくしたときに、ウィジェットが適切に縮小されない（空白領域ができる）

原因

QWidget::setMinimumSize() または QWidget::setMinimumWidth() / setMinimumHeight() が minimumSizeHint() の値よりも大きな値に設定されている。
minimumSizeHint() が過度に大きな値を返しているため、レイアウトシステムがそれ以上ウィジェットを縮小できないと判断している。

トラブルシューティング

レイアウトの制約
レイアウト（例: QVBoxLayout, QHBoxLayout, QGridLayout）に設定されている制約（setSizeConstraint()）が、ウィジェットの最小サイズに影響を与えている可能性があります。特に QLayout::SetNoConstraint 以外の制約が設定されている場合、確認が必要です。
setMinimumSize() の重複設定の確認
QWidget::setMinimumSize() が明示的に設定されている場合、それが minimumSizeHint() の値よりも優先されるため、意図しない最小サイズになっている可能性があります。どちらか一方、または適切な方を設定するようにしてください。
minimumSizeHint() の値を調整
minimumSizeHint() が返す値をデバッグ出力などで確認し、意図しない大きな値になっていないかを確認します。特に、内部の要素の最小サイズをすべて足し合わせた値など、正確な計算が必要です。

スクロール領域内のコンテンツが更新されたときにスクロールバーが追従しない

原因

QScrollArea::widgetResizable(true) を使用していない、またはカスタムの QAbstractScrollArea の場合、コンテンツのサイズ変更時にスクロールバーの範囲を更新するロジックが不足している。
コンテンツのサイズが変更されたことをレイアウトシステムに通知していない。

トラブルシューティング

カスタム QAbstractScrollArea でのロジック実装
QAbstractScrollArea を直接継承してカスタム実装している場合、viewportEvent() （特に QEvent::Resize）や、コンテンツのサイズ変更イベントを処理し、horizontalScrollBar()->setRange() や verticalScrollBar()->setRange() を使ってスクロールバーの範囲を適切に更新する必要があります。また、scrollContentsBy() をオーバーライドして、スクロールバーの値変更時にコンテンツをどのように移動させるかを実装します。
QScrollArea::setWidgetResizable(true) の確認
QScrollArea を使用している場合は、このプロパティを true に設定することで、通常はコンテンツのサイズ変更時に自動的にスクロールバーが調整されます。
updateGeometry() の呼び出し
コンテンツのサイズが動的に変更される場合、そのコンテンツウィジェットの updateGeometry() を呼び出すことで、レイアウトシステムにサイズ変更を通知し、再計算を促します。

スクロール領域の初期表示がおかしい（スクロールバーが表示されるべきでないのに表示される、またはその逆）

原因

QScrollArea に設定するウィジェットが、QScrollArea::setWidget() を呼び出す前にレイアウトを持っているべきだが、そうでない。
初期化時に minimumSizeHint() が正しく計算されていない。

初期の minimumSizeHint() の正確性
アプリケーション起動時やウィジェット表示時に、minimumSizeHint() が正しい初期値を返しているか確認します。特に、動的にロードされるコンテンツがある場合は注意が必要です。
ウィジェットの初期化順序
QScrollArea::setWidget(myWidget) を呼び出す前に、myWidget に適切なレイアウトが設定されていることを確認してください。レイアウトがない場合、QScrollArea は myWidget の正しいサイズを判断できず、不適切な表示になることがあります。

全般的なヒント

Qtドキュメントの参照
QAbstractScrollArea や QScrollArea の公式ドキュメントには、実装に関する詳細な情報とヒントが記載されています。特に「Subclassing Notes」や「Detailed Description」のセクションは役立ちます。
シンプルなテストケースの作成
複雑なUIで問題が発生した場合、問題の根源を特定するために、問題の QAbstractScrollArea と関連するウィジェットのみを含む最小限のテストアプリケーションを作成してみてください。
Qt Designer の使用
Qt Designer を使ってUIを設計している場合、sizePolicy や minimumSize などのプロパティをGUIで設定し、その挙動を確認できます。コードで手動設定する前に、Designerで試してみるのも良いでしょう。
デバッグ出力の活用
qDebug() を使って、minimumSizeHint() や sizeHint() が返す値を常に確認し、期待通りの値になっているか検証しましょう。

QSize QAbstractScrollArea::minimumSizeHint() は、通常、カスタムのスクロール可能なウィジェットを作成する際にオーバーライドされます。ここでは、その使い方を理解するためのいくつかの例を示します。

例1: シンプルなカスタムスクロール領域 (QAbstractScrollArea を直接継承)

この例では、QAbstractScrollArea を直接継承し、その minimumSizeHint() をオーバーライドして、コンテンツのサイズに基づいた最小サイズを提供するカスタムウィジェットを作成します。

#include <QApplication>
#include <QAbstractScrollArea>
#include <QPainter>
#include <QScrollBar>
#include <QVBoxLayout>
#include <QLabel>

// カスタムコンテンツを描画するウィジェット
class CustomContentWidget : public QWidget
{
public:
    CustomContentWidget(int contentWidth, int contentHeight, QWidget *parent = nullptr)
        : QWidget(parent), m_contentWidth(contentWidth), m_contentHeight(contentHeight)
    {
        // コンテンツの固定サイズを設定 (例として)
        // 実際のアプリケーションでは、コンテンツの内容によって動的に計算される
        setFixedSize(m_contentWidth, m_contentHeight);
    }

    QSize sizeHint() const override {
        return QSize(m_contentWidth, m_contentHeight);
    }

    // 必要に応じて minimumSizeHint もオーバーライドできますが、
    // setFixedSize を使っているので sizeHint と同じになります
    QSize minimumSizeHint() const override {
        return QSize(m_contentWidth, m_contentHeight);
    }

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event) override {
        Q_UNUSED(event);
        QPainter painter(this);
        painter.fillRect(rect(), Qt::lightGray);
        painter.drawText(rect(), Qt::AlignCenter,
                         QString("Content: %1x%2").arg(m_contentWidth).arg(m_contentHeight));
    }

private:
    int m_contentWidth;
    int m_contentHeight;
};

// カスタムスクロール領域ウィジェット
class MyCustomScrollArea : public QAbstractScrollArea
{
public:
    MyCustomScrollArea(QWidget *parent = nullptr) : QAbstractScrollArea(parent)
    {
        // ビューポートに表示するコンテンツウィジェットを設定
        m_contentWidget = new CustomContentWidget(600, 400, this); // 例として 600x400 のコンテンツ
        setViewport(m_contentWidget);

        // スクロールバーの範囲を設定
        // 通常はビューポートのサイズやコンテンツのサイズに応じて動的に更新されます
        updateScrollBars();
    }

    // QAbstractScrollArea を継承した場合、この関数をオーバーライドして
    // ビューポート内のコンテンツのオフセットを処理します
    void scrollContentsBy(int dx, int dy) override
    {
        // ビューポート内のウィジェットを移動させる
        m_contentWidget->move(-horizontalScrollBar()->value(), -verticalScrollBar()->value());
    }

    // ここが重要: QAbstractScrollArea::minimumSizeHint() のオーバーライド
    // このスクロール領域が適切に機能するために必要な最小サイズを返します。
    // スクロールバーがない場合のビューポートの最小サイズを考慮します。
    QSize minimumSizeHint() const override
    {
        // スクロールバーがない場合のビューポートの最小サイズ
        // ここでは、コンテンツウィジェットの推奨サイズをベースにしています
        QSize baseSize = m_contentWidget->sizeHint();

        // QAbstractScrollArea はフレームやシャドウを持つことがあるため、
        // frameWidth() を加算して正確な最小サイズを計算します。
        // これは QWidget::minimumSizeHint() の実装を参考にしています。
        int horizontalFrameWidth = frameWidth() * 2;
        int verticalFrameWidth = frameWidth() * 2;

        return QSize(baseSize.width() + horizontalFrameWidth,
                     baseSize.height() + verticalFrameWidth);
    }

protected:
    void resizeEvent(QResizeEvent *event) override
    {
        QAbstractScrollArea::resizeEvent(event);
        // ウィンドウサイズが変更されたらスクロールバーを更新
        updateScrollBars();
    }

private:
    void updateScrollBars()
    {
        // コンテンツのサイズ
        QSize contentSize = m_contentWidget->sizeHint();
        // ビューポートの現在のサイズ
        QSize viewportSize = viewport()->size();

        // 水平スクロールバーの範囲を更新
        int hRange = contentSize.width() - viewportSize.width();
        horizontalScrollBar()->setRange(0, hRange > 0 ? hRange : 0);
        horizontalScrollBar()->setPageStep(viewportSize.width());

        // 垂直スクロールバーの範囲を更新
        int vRange = contentSize.height() - viewportSize.height();
        verticalScrollBar()->setRange(0, vRange > 0 ? vRange : 0);
        verticalScrollBar()->setPageStep(viewportSize.height());

        // スクロールバーの表示ポリシーを更新 (必要に応じて)
        setHorizontalScrollBarPolicy(hRange > 0 ? Qt::ScrollBarAsNeeded : Qt::ScrollBarAlwaysOff);
        setVerticalScrollBarPolicy(vRange > 0 ? Qt::ScrollBarAsNeeded : Qt::ScrollBarAlwaysOff);

        // コンテンツの位置を更新してスクロール位置を調整
        scrollContentsBy(horizontalScrollBar()->value(), verticalScrollBar()->value());
    }

    CustomContentWidget *m_contentWidget;
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    MyCustomScrollArea *scrollArea = new MyCustomScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("Custom Scroll Area Example");
    scrollArea->setMinimumSize(300, 200); // ウィンドウの最小サイズを設定
    scrollArea->resize(400, 300); // 初期サイズを設定
    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

解説

updateScrollBars(): スクロールバーの範囲（最小値と最大値）とページステップを計算し、コンテンツのサイズやビューポートのサイズに基づいてスクロールバーの表示/非表示ポリシーを更新します。resizeEvent で呼び出されることで、ウィンドウサイズ変更時にスクロールバーが適切に調整されます。
scrollContentsBy(): QAbstractScrollArea を直接継承する場合、この仮想関数をオーバーライドして、スクロールバーの値が変更されたときにビューポート内のコンテンツを実際に移動させるロジックを実装する必要があります。
MyCustomScrollArea::minimumSizeHint(): ここがこの例の主要なポイントです。
- m_contentWidget->sizeHint(): まず、ビューポート内に表示される CustomContentWidget の推奨サイズを取得します。これは、スクロールバーが不要な場合にコンテンツが収まる最小のサイズと考えることができます。
- frameWidth() * 2: QAbstractScrollArea はフレーム（枠線）を持つことがあり、その分の幅も最小サイズに含める必要があります。frameWidth() は、フレームの片側の幅を返すため、左右（または上下）で2倍します。
- これらの値を合計することで、スクロール領域全体として、スクロールバーが非表示の場合にコンテンツをすべて表示するために必要な最小サイズをレイアウトシステムに伝えます。

例2: QScrollArea を使用する場合 (より一般的)

ほとんどの場合、QAbstractScrollArea を直接継承するよりも、QScrollArea クラスを使う方が簡単です。QScrollArea は QAbstractScrollArea を継承しており、スクロールバーの管理やビューポート内のウィジェットの配置を自動的に行ってくれます。この場合、通常は QScrollArea::minimumSizeHint() をオーバーライドする必要はありません。内部のウィジェットの sizeHint() や minimumSizeHint() が適切に設定されていれば、QScrollArea がそれらを考慮して自身の minimumSizeHint() を計算します。

#include <QApplication>
#include <QScrollArea>
#include <QVBoxLayout>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>

// スクロールされるコンテンツウィジェット
class LargeContentWidget : public QWidget
{
public:
    LargeContentWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
    {
        QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
        layout->setContentsMargins(50, 50, 50, 50); // 広めのマージンを設定
        layout->setSpacing(20); // ボタン間のスペース

        for (int i = 0; i < 20; ++i) {
            layout->addWidget(new QPushButton(QString("Button %1").arg(i)));
        }
        layout->addStretch(); // コンテンツの終わりを伸ばす

        // このウィジェット自身の最小サイズヒントを設定 (コンテンツによって決定される)
        // QWidget はデフォルトでレイアウトのサイズヒントを返します
        // minimumSizeHint() も同様にレイアウトから導出されます
        //setMinimumSize(400, 800); // 最小サイズを明示的に設定することも可能
    }

    // sizeHint() はレイアウトによって自動的に計算されますが、
    // カスタムロジックが必要な場合はオーバーライドできます。
    // 通常、QScrollArea が内部ウィジェットの sizeHint() を参照します。
    /*
    QSize sizeHint() const override {
        // 例: 特定の最小幅と高さ
        return QSize(400, 800);
    }
    */

    // minimumSizeHint() もレイアウトによって自動的に計算されますが、
    // より厳密な最小サイズが必要な場合はオーバーライドできます。
    // QScrollArea がビューポート内のウィジェットの minimumSizeHint() を考慮します。
    /*
    QSize minimumSizeHint() const override {
        return QSize(300, 600); // 例えば、これ以上小さくしたくない場合
    }
    */
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // QScrollArea を作成
    QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("QScrollArea Example");

    // スクロールするコンテンツウィジェットを作成
    LargeContentWidget *contentWidget = new LargeContentWidget();

    // QScrollArea にコンテンツウィジェットを設定
    scrollArea->setWidget(contentWidget);
    // これを true にすると、ビューポートのサイズに合わせて内部ウィジェットのサイズが自動調整されます。
    // これが最も一般的な使用法です。
    scrollArea->setWidgetResizable(true);

    // QScrollArea のサイズポリシー
    // デフォルトは Expanding ですが、必要に応じて調整
    scrollArea->setSizePolicy(QSizePolicy::Expanding, QSizePolicy::Expanding);

    // ウィンドウの初期サイズと最小サイズ
    scrollArea->resize(300, 400);
    scrollArea->setMinimumSize(200, 300); // QScrollArea 自体の最小サイズ

    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

LargeContentWidget の sizeHint() と minimumSizeHint(): QVBoxLayout を使用しているため、これらの関数はデフォルトでレイアウト内のウィジェットの合計サイズを元に適切に計算されます。明示的にオーバーライドすることは可能ですが、多くの場合必要ありません。
QScrollArea::setWidgetResizable(true): この設定が重要です。 これを true に設定すると、QScrollArea はそのビューポートのサイズに合わせて内部の contentWidget のサイズを自動的に調整します。これにより、通常、QScrollArea 自身の minimumSizeHint() を明示的にオーバーライドする必要がなくなります。QScrollArea は、内部ウィジェットの sizeHint() や minimumSizeHint() を考慮して、スクロールバーの表示/非表示を適切に判断します。
QScrollArea::setWidget(contentWidget): これにより、LargeContentWidget が QScrollArea のビューポート内に配置されます。

QScrollArea を使用する場合 (推奨)
- 通常、QScrollArea::minimumSizeHint() をオーバーライドする必要はありません。
- setWidget(yourContentWidget) でコンテンツウィジェットを設定します。
- setWidgetResizable(true) を呼び出すことが非常に重要です。 これにより、QScrollArea がコンテンツウィジェットの sizeHint() や minimumSizeHint() を考慮して、スクロールバーの表示や自身のサイズを自動的に管理します。
- コンテンツウィジェット自身の sizeHint() や minimumSizeHint() が適切に定義されていることを確認します（レイアウトを使用していれば多くの場合自動的に適切になります）。
QAbstractScrollArea を直接継承する場合
- minimumSizeHint() をオーバーライドして、スクロールバーが非表示の場合のビューポートの最小サイズ（通常は内部コンテンツの最小サイズ＋フレーム幅）を正確に計算して返します。
- scrollContentsBy() をオーバーライドして、スクロールバーの値に基づいてコンテンツを移動させるロジックを実装します。
- resizeEvent() でスクロールバーの範囲を更新するロジックが必要です。

QSize QAbstractScrollArea::minimumSizeHint() は、カスタムの QAbstractScrollArea を作成する際にその最小サイズをレイアウトシステムに伝えるためにオーバーライドされますが、多くの場合、より高レベルなQtの機能を利用することで、同等またはより柔軟な結果を得ることができます。

主な代替手段は以下の通りです。

QScrollArea の利用 (最も推奨される方法)
内部ウィジェットの sizeHint() と minimumSizeHint() を適切に設定する
QSizePolicy を利用してレイアウトの挙動を制御する
QWidget::setMinimumSize() / setMaximumSize() を使用する
レイアウトのストレッチファクターとスペーサーを調整する

これらの方法を組み合わせて使用することで、複雑なUIでも柔軟なレイアウトを実現できます。

QScrollArea の利用 (最も推奨される方法)

前述の例でも触れましたが、ほとんどのシナリオでは QAbstractScrollArea を直接継承するのではなく、QScrollArea を使用することが推奨されます。QScrollArea は QAbstractScrollArea を継承しており、スクロールバーの管理、ビューポート内のウィジェットの配置、およびサイズヒントの処理を自動的に行ってくれます。

いつ使用するか
- 任意の QWidget をスクロール可能にしたい場合。
- 複雑なレイアウトを持つカスタムウィジェットをスクロールさせたい場合。
利点
- スクロールバーの表示/非表示、範囲の計算などを自動で行ってくれるため、開発コストが大幅に削減されます。
- 内部のウィジェットの sizeHint() や minimumSizeHint() を考慮して、自身の minimumSizeHint() を適切に計算します。
- setWidgetResizable(true) を設定することで、ビューポートのサイズに合わせて内部ウィジェットのサイズを自動調整し、スクロールバーの出現を最適化できます。

例

#include <QApplication>
#include <QScrollArea>
#include <QVBoxLayout>
#include <QLabel>
#include <QPushButton>

class MyContentWidget : public QWidget
{
public:
    MyContentWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
    {
        QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
        layout->setContentsMargins(20, 20, 20, 20); // マージン
        layout->setSpacing(10); // 要素間のスペース

        for (int i = 0; i < 15; ++i) {
            layout->addWidget(new QPushButton(QString("Item %1").arg(i)));
        }
        layout->addStretch(); // 下部に余白があれば拡張
    }

    // このウィジェットのサイズヒント。レイアウトが自動的に計算するので、
    // ここで明示的にオーバーライドすることは稀です。
    // QScrollArea はこの sizeHint を利用します。
    // QSize sizeHint() const override { return QSize(200, 400); }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("QScrollArea Alternative");

    MyContentWidget *contentWidget = new MyContentWidget();
    scrollArea->setWidget(contentWidget); // コンテンツを設定
    scrollArea->setWidgetResizable(true); // これを true にするのがポイント

    scrollArea->resize(250, 300); // 初期サイズ
    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

解説
MyContentWidget の sizeHint() や minimumSizeHint() をオーバーライドしなくても、QVBoxLayout がコンテンツのサイズを適切に計算し、QScrollArea::setWidgetResizable(true) が設定されているため、QScrollArea はその情報に基づいてスクロールバーを自動的に調整します。

内部ウィジェットの sizeHint() と minimumSizeHint() を適切に設定する

QAbstractScrollArea または QScrollArea の内部に表示されるウィジェット（ビューポートウィジェット）が、自身の推奨サイズと最小サイズを正確にレイアウトシステムに伝えることが重要です。レイアウトはこれらのヒントを組み合わせて、親ウィジェットのサイズを決定します。

minimumSizeHint()
ウィジェットが機能するために、これ以上小さくできない最小のサイズを返します。デフォルトでは sizeHint() と同じ値を返すか、レイアウトが設定されていればレイアウトによって計算されます。
sizeHint()
ウィジェットが「理想的」と考える推奨サイズを返します。

例 (CustomWidget の minimumSizeHint をオーバーライド)

#include <QApplication>
#include <QScrollArea>
#include <QTextEdit>
#include <QVBoxLayout>

class MyFixedMinTextEdit : public QTextEdit
{
public:
    MyFixedMinTextEdit(QWidget *parent = nullptr) : QTextEdit(parent)
    {
        setText("This is a long text that needs to be scrolled. "
                "The minimum size hint is fixed for this custom text edit. "
                "It will try to keep this size even if the parent tries to shrink it. "
                "More text to ensure scrolling. "
                "Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit. "
                "Sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua.");
        setWordWrapMode(QTextOption::WordWrap); // 折り返しを有効にする
    }

    // QTextEdit のデフォルトの挙動を上書きし、固定の最小サイズを返す
    QSize minimumSizeHint() const override
    {
        // 例えば、コンテンツが多すぎても、最低でもこのサイズは維持したい
        return QSize(200, 150);
    }

    // sizeHint はデフォルトの QTextEdit の挙動に任せるか、必要に応じてオーバーライド
    QSize sizeHint() const override
    {
        // 基本的には、コンテンツのサイズを考慮した推奨サイズを返す
        return QSize(250, 200);
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("Custom minimumSizeHint for inner widget");

    MyFixedMinTextEdit *textEdit = new MyFixedMinTextEdit();
    scrollArea->setWidget(textEdit);
    scrollArea->setWidgetResizable(true); // これにより、textEdit の minimumSizeHint が尊重される

    scrollArea->resize(300, 200);
    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

解説
MyFixedMinTextEdit は minimumSizeHint() をオーバーライドし、固定の最小サイズを返しています。QScrollArea は setWidgetResizable(true) であるため、この内部ウィジェットの minimumSizeHint() を尊重し、スクロールエリア自体の最小サイズを決定する際に考慮します。

QSizePolicy を利用してレイアウトの挙動を制御する

QSizePolicy は、ウィジェットがレイアウト内でどのようにサイズ変更に応じるか（拡大・縮小できるか、推奨サイズを維持したいかなど）を定義します。これは minimumSizeHint() と並んで、Qtのレイアウトシステムにおけるサイズの振る舞いを制御する非常に強力なツールです。

setHorizontalStretch(), setVerticalStretch()
複数の Expanding ポリシーのウィジェットがある場合に、どのウィジェットにどれだけの比率で余分なスペースを割り当てるかを指定します。
setHorizontalPolicy(), setVerticalPolicy()
水平・垂直方向のポリシーを設定します。
QSizePolicy::Policy (例: Preferred, Expanding, Minimum, Fixed, Ignored など)
- Preferred: sizeHint() が最適だが、拡大・縮小も可能。
- Expanding: 利用可能なスペースをできるだけ多く使いたい。
- Minimum: sizeHint() が最小サイズで、それ以上縮小できないが、拡大は可能。
- Fixed: sizeHint() と同じサイズを維持し、拡大・縮小不可。
- Ignored: sizeHint() を無視し、利用可能なスペースを最大限に占める。

例 (QSizePolicy の活用)

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QPushButton>
#include <QScrollArea>

class SizePolicyExampleWidget : public QWidget
{
public:
    SizePolicyExampleWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
    {
        QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
        layout->setContentsMargins(10, 10, 10, 10);

        QPushButton *fixedBtn = new QPushButton("Fixed (200x50)");
        fixedBtn->setFixedSize(200, 50); // 明示的に固定サイズを設定
        layout->addWidget(fixedBtn);

        QPushButton *minBtn = new QPushButton("Minimum (min size hint)");
        // デフォルトでは QPushButton の sizeHint() はテキストに基づきます。
        // ここでは明示的に Minimum ポリシーを設定。
        minBtn->setSizePolicy(QSizePolicy::Minimum, QSizePolicy::Minimum);
        layout->addWidget(minBtn);

        QPushButton *expandingBtn = new QPushButton("Expanding");
        expandingBtn->setSizePolicy(QSizePolicy::Expanding, QSizePolicy::Expanding);
        layout->addWidget(expandingBtn);

        QPushButton *prefBtn = new QPushButton("Preferred");
        prefBtn->setSizePolicy(QSizePolicy::Preferred, QSizePolicy::Preferred); // デフォルト
        layout->addWidget(prefBtn);

        // スクロールエリア内にこのウィジェットを配置
        // MyScrollArea::minimumSizeHint() のオーバーライドは不要
        // MyScrollArea は、内部ウィジェットのサイズポリシーを考慮して動作します。
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("SizePolicy Example in Scroll Area");

    SizePolicyExampleWidget *content = new SizePolicyExampleWidget();
    scrollArea->setWidget(content);
    scrollArea->setWidgetResizable(true);

    scrollArea->resize(400, 300);
    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

解説
SizePolicyExampleWidget 内の各ボタンは異なる QSizePolicy を持っています。QScrollArea はこれらのポリシーと、ボタンの sizeHint() / minimumSizeHint() を考慮して、スクロールバーの表示やレイアウトを決定します。Expanding のボタンは、利用可能なスペースがあれば最大限に広がろうとします。

QWidget::setMinimumSize() / setMaximumSize() を使用する

ウィジェットの絶対的な最小サイズや最大サイズを直接設定できます。これは sizeHint() や minimumSizeHint() よりも優先されます。

setMaximumSize(QSize) / setMaximumWidth(int) / setMaximumHeight(int)
ウィジェットの最大サイズを設定します。これ以上大きくはなりません。
setMinimumSize(QSize) / setMinimumWidth(int) / setMinimumHeight(int)
ウィジェットの最小サイズを設定します。これ以上小さくはなりません。

例

#include <QApplication>
#include <QScrollArea>
#include <QLabel>
#include <QVBoxLayout>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("setMinimumSize Example");

    QWidget *content = new QWidget();
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(content);

    QLabel *label = new QLabel("This is a label with a fixed minimum size. "
                               "Even if the window shrinks, this label will try to maintain its width and height.");
    label->setWordWrap(true);
    // ラベルの最小サイズを明示的に設定
    label->setMinimumSize(300, 100);
    layout->addWidget(label);

    QLabel *anotherLabel = new QLabel("Another label.");
    layout->addWidget(anotherLabel);

    scrollArea->setWidget(content);
    scrollArea->setWidgetResizable(true);

    scrollArea->resize(200, 200); // 最小サイズより小さく設定してみる
    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

解説
label->setMinimumSize(300, 100); を使用して、QLabel の最小サイズを直接設定しています。これにより、QScrollArea がビューポートをこのラベルの最小サイズに合わせて調整し、必要に応じてスクロールバーを表示します。

レイアウトのストレッチファクターとスペーサーを調整する

QBoxLayout (例: QVBoxLayout, QHBoxLayout) の addStretch() や addSpacerItem()、またはウィジェットをレイアウトに追加する際のストレッチファクター (addWidget(widget, stretch)) を使用することで、利用可能なスペースの配分を制御できます。これは、ウィジェットがどのように拡大・縮小するかを間接的に影響を与えます。

addSpacerItem(QSpacerItem *item)
固定または伸縮可能なスペースを追加します。
addWidget(QWidget *widget, int stretch = 0, Qt::Alignment alignment = 0)
ウィジェットにストレッチファクターを割り当ててレイアウトに追加します。
addStretch(int stretch = 0)
利用可能なスペースを占める「伸縮可能なスペース」を追加します。ストレッチファクターが高いほど、より多くのスペースを受け取ります。

例 (ストレッチファクターとスペーサー)

#include <QApplication>
#include <QScrollArea>
#include <QVBoxLayout>
#include <QPushButton>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QScrollArea *scrollArea = new QScrollArea();
    scrollArea->setWindowTitle("Stretch and Spacer Example");

    QWidget *content = new QWidget();
    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(content);

    layout->addWidget(new QPushButton("Top Button"));
    layout->addStretch(1); // ここに伸縮可能なスペース (ストレッチファクター 1)

    layout->addWidget(new QPushButton("Middle Button"));
    layout->addStretch(2); // ここに伸縮可能なスペース (ストレッチファクター 2)

    layout->addWidget(new QPushButton("Bottom Button"));

    scrollArea->setWidget(content);
    scrollArea->setWidgetResizable(true);

    scrollArea->resize(300, 500);
    scrollArea->show();

    return a.exec();
}

解説
レイアウト内の addStretch() は、利用可能な余分な垂直スペースを Top Button と Middle Button の間、および Middle Button と Bottom Button の間に割り振ります。ストレッチファクターが2のスペースは、1のスペースの2倍の量を受け取ります。これにより、QScrollArea のサイズが変更されたときに、内部のボタンの配置が柔軟に調整されます。

Qtでスクロール領域を最適化: minimumSizeHintのエラーと解決策

QAbstractScrollArea について

minimumSizeHint() の役割

具体的な意味合い

スクロールバーが不必要に表示される、または表示されない

ウィンドウサイズを小さくしたときに、ウィジェットが適切に縮小されない（空白領域ができる）

スクロール領域内のコンテンツが更新されたときにスクロールバーが追従しない

スクロール領域の初期表示がおかしい（スクロールバーが表示されるべきでないのに表示される、またはその逆）

全般的なヒント

例1: シンプルなカスタムスクロール領域 (QAbstractScrollArea を直接継承)

例2: QScrollArea を使用する場合 (より一般的)

QScrollArea の利用 (最も推奨される方法)

内部ウィジェットの sizeHint() と minimumSizeHint() を適切に設定する

QSizePolicy を利用してレイアウトの挙動を制御する

QWidget::setMinimumSize() / setMaximumSize() を使用する

レイアウトのストレッチファクターとスペーサーを調整する

`QAbstractScrollArea` について

`minimumSizeHint()` の役割