RプログラミングTips:累積和・累積積・累積極値の効率的な計算方法

2025-05-27

累積和 (Cumulative Sums): cumsum() 関数

cumsum() 関数は、与えられたベクトルや配列の要素を先頭から順に足し算していき、その結果を新しいベクトルとして返します。

例えば、ある商品の毎日の売上データがあったとしましょう。cumsum() を使うことで、初日からその日までの総売上を簡単に計算できます。

# 売上データ
sales <- c(10, 5, 8, 12, 6)

# 累積売上を計算
cumulative_sales <- cumsum(sales)

# 結果を表示
print(cumulative_sales)
# [1] 10 15 23 35 41

この例では、cumulative_sales の各要素は、元の sales ベクトルのその位置までの要素の合計を表しています。

  • ...
  • 3番目の要素: 10 + 5 + 8 = 23
  • 2番目の要素: 10 + 5 = 15
  • 1番目の要素: 10

累積積 (Cumulative Products): cumprod() 関数

cumprod() 関数は、cumsum() と同様に、与えられたベクトルや配列の要素を先頭から順に掛け算していき、その結果を新しいベクトルとして返します。

例えば、毎年の投資の成長率データがあったとしましょう。cumprod() を使うことで、初期投資額に対する累積的な成長率を計算できます。

# 成長率データ (1 + 成長率)
growth_rates <- c(1.05, 1.02, 1.08, 1.03)

# 累積成長率を計算
cumulative_growth <- cumprod(growth_rates)

# 結果を表示
print(cumulative_growth)
# [1] 1.050000 1.071000 1.156680 1.191380

この例では、cumulative_growth の各要素は、元の growth_rates ベクトルのその位置までの要素の積を表しています。初期投資額にこの累積成長率を掛けることで、その時点での投資額を計算できます。

累積的な極値 (Cumulative Extremes): cummax() と cummin() 関数

  • cummin() 関数: 与えられたベクトルや配列の要素を先頭から順に比較していき、その時点までの最小値を新しいベクトルとして返します。
  • cummax() 関数: 与えられたベクトルや配列の要素を先頭から順に比較していき、その時点までの最大値を新しいベクトルとして返します。

例えば、毎日の最高気温データがあったとしましょう。cummax() を使うことで、初日からその日までの最高気温の最大値を追跡できます。同様に、cummin() を使うことで、初日からその日までの最低気温の最小値を追跡できます。

# 最高気温データ
high_temps <- c(25, 28, 26, 30, 29)

# 累積最高気温を計算
cumulative_max_temp <- cummax(high_temps)

# 結果を表示
print(cumulative_max_temp)
# [1] 25 28 28 30 30

# 最低気温データ
low_temps <- c(15, 16, 14, 17, 15)

# 累積最低気温を計算
cumulative_min_temp <- cummin(low_temps)

# 結果を表示
print(cumulative_min_temp)
# [1] 15 15 14 14 14


データ型に関するエラー

  • トラブルシューティング

    • 関数を適用する前に、データの型を is.numeric() 関数などで確認し、必要であれば as.numeric() 関数を使って数値型に変換してください。ただし、文字データに変換できない値が含まれている場合は NA が生成されるため注意が必要です。
    • データフレームの特定の列に対して操作を行う場合は、$ 演算子などで正しく列を指定しているか確認してください。

    <!-- end list -->

    # 文字型データ
    char_data <- c("1", "2", "3")
    # cumsum(char_data) # エラーが発生します
    
    # 数値型に変換
    numeric_data <- as.numeric(char_data)
    cumsum(numeric_data) # [1] 1 3 6
    
    # 変換できない値がある場合
    mixed_data <- c("1", "a", "3")
    numeric_mixed_data <- as.numeric(mixed_data)
    numeric_mixed_data # [1]  1 NA  3
    cumsum(numeric_mixed_data) # [1]  1 NA NA
    
  • エラー
    数値型でないデータに対してこれらの関数を適用しようとすると、エラーが発生します。例えば、文字型のベクトルに対して cumsum() を実行すると、意味のある計算ができないためエラーになります。

NA 値の扱い

  • トラブルシューティング

    • is.na() 関数で NA の存在を確認し、必要に応じて na.omit() 関数などで NA を取り除くか、他の適切な値で補完することを検討してください。ただし、NA を取り除く場合はデータの順序が変わる可能性があるため注意が必要です。
    • 累積計算を行う前に、NA の影響を考慮した処理を行うようにしてください。例えば、NA を 0 として扱う(累積和の場合など、意味がある場合に限る)などの工夫が必要になるかもしれません。
    data_with_na <- c(1, 2, NA, 4, 5)
    cumsum(data_with_na) # [1]  1  3 NA NA NA
    cumprod(data_with_na) # [1]  1  2 NA NA NA
    cummax(data_with_na)  # [1]  1  2 NA NA NA
    cummin(data_with_na)  # [1]  1  1 NA NA NA
    
    # NA を取り除く (順序が変わる可能性あり)
    cumsum(na.omit(data_with_na)) # [1]  1  3  7 12
    
  • 問題
    入力データに NA (欠損値) が含まれている場合、累積計算の結果も NA になる可能性があります。cumsum()cumprod() は、NA を含む要素以降の結果も NA にします。cummax()cummin() は、NA と比較しても NA を返すため、累積的な極値も NA になる可能性があります。

ベクトルの長さが異なる場合

  • トラブルシューティング
    • 操作を行う前に、関連するベクトルの長さが一致していることを length() 関数で確認してください。
    • もし長さが異なる場合は、どちらかのベクトルに合わせてデータの抽出、繰り返し、または適切な結合処理を行う必要があります。
  • 問題
    複数のベクトルに対して何らかの累積的な操作を組み合わせようとする際に、ベクトルの長さが異なると意図しない結果やエラーが生じる可能性があります。

極端な値による問題 (cumprod() の場合)

  • トラブルシューティング

    • データの範囲を確認し、極端な値が含まれていないか確認してください。
    • 必要であれば、対数を取ってから累積和を計算し、後で指数関数で戻すなどの代替手段を検討してください。これにより、数値的な安定性を向上させることができます。
    # オーバーフローの例
    large_values <- c(100, 100, 100, 100)
    cumprod(large_values) # [1]    100  10000 1000000 1e+08
    
    # 0 を含む場合の例
    data_with_zero <- c(1, 2, 0, 4)
    cumprod(data_with_zero) # [1] 1 2 0 0
    
  • 問題
    cumprod() は掛け算を繰り返すため、非常に大きな値や非常に小さな値(0に近い値)がデータに含まれている場合、結果がすぐにオーバーフローしたり、逆に 0 になってしまったりする可能性があります。

期待しない結果

  • トラブルシューティング
    • 入力データを注意深く確認し、計算のロジックが意図通りになっているか再検討してください。
    • 小さなサンプルデータを作成し、手計算と比較しながらコードの動作をステップごとに確認してみることをお勧めします。
    • 累積計算の開始時点(通常は最初の要素)が期待する値になっているか確認してください。
  • 問題
    コードはエラーなく実行されるものの、期待した累積和、累積積、または累積的な極値が得られない場合があります。


累積和 (cumsum() の例)

ある商品の1週間ごとの売上データを使って、週ごとの累積売上を計算する例です。

# 週ごとの売上データ (単位: 万円)
weekly_sales <- c(15, 20, 18, 22, 25, 21, 23)

# 累積売上を計算
cumulative_sales <- cumsum(weekly_sales)

# 結果を表示
cat("週ごとの売上:", weekly_sales, "\n")
cat("累積売上:", cumulative_sales, "\n")

# 結果の解釈
# - 1週目の累積売上は 15 万円
# - 2週目の累積売上は 15 + 20 = 35 万円
# - 3週目の累積売上は 15 + 20 + 18 = 53 万円
# ... となります。

# 累積売上を元の売上データと対応させて表示する場合
for (i in 1:length(weekly_sales)) {
  cat(i, "週目までの累積売上:", cumulative_sales[i], "万円\n")
}

この例では、cumsum(weekly_sales) によって、各週までの売上の合計が順番に計算され、cumulative_sales ベクトルに格納されます。

累積積 (cumprod() の例)

ある企業の毎年の成長率データを使って、累積的な成長率を計算する例です(初期値を1とした場合の倍率)。

# 毎年の成長率 (1 + 成長率)
annual_growth_rates <- c(1.03, 1.05, 1.02, 1.04)

# 累積成長率を計算
cumulative_growth <- cumprod(annual_growth_rates)

# 結果を表示
cat("毎年の成長率:", annual_growth_rates, "\n")
cat("累積成長率:", cumulative_growth, "\n")

# 結果の解釈
# - 1年後の累積成長率は 1.03 倍 (初期値の 1.03 倍)
# - 2年後の累積成長率は 1.03 * 1.05 = 1.0815 倍 (初期値の 1.0815 倍)
# - 3年後の累積成長率は 1.03 * 1.05 * 1.02 = 1.10313 倍
# ... となります。

# 初期投資額が 100 万円だった場合の各年末の投資額
initial_investment <- 100
end_of_year_investment <- initial_investment * cumulative_growth
cat("各年末の投資額 (初期投資 100万円):", end_of_year_investment, "万円\n")

ここでは、cumprod(annual_growth_rates) によって、各年までの成長率の積が計算され、初期投資額に乗じることで、各年末の投資額を求めることができます。

累積最大値 (cummax() の例)

ある日の時間ごとの気温データを使って、その日の中で時間とともに更新される最高気温を追跡する例です。

# 時間ごとの気温データ (単位: ℃)
hourly_temps <- c(18, 20, 22, 23, 24, 23, 25, 26, 25, 24)

# 累積最高気温を計算
cumulative_max_temp <- cummax(hourly_temps)

# 結果を表示
cat("時間ごとの気温:", hourly_temps, "\n")
cat("累積最高気温:", cumulative_max_temp, "\n")

# 結果の解釈
# - 1時までの最高気温は 18 ℃
# - 2時までの最高気温は max(18, 20) = 20 ℃
# - 3時までの最高気温は max(18, 20, 22) = 22 ℃
# ... となります。

# 時間と累積最高気温を対応させて表示
for (i in 1:length(hourly_temps)) {
  cat(i, "時までの最高気温:", cumulative_max_temp[i], "℃\n")
}

cummax(hourly_temps) は、その時点までの要素の中で最も大きな値を順番に返します。

# 時間ごとの気温データ (単位: ℃)
hourly_temps <- c(18, 20, 22, 23, 24, 23, 25, 26, 25, 24)

# 累積最低気温を計算
cumulative_min_temp <- cummin(hourly_temps)

# 結果を表示
cat("時間ごとの気温:", hourly_temps, "\n")
cat("累積最低気温:", cumulative_min_temp, "\n")

# 結果の解釈
# - 1時までの最低気温は 18 ℃
# - 2時までの最低気温は min(18, 20) = 18 ℃
# - 3時までの最低気温は min(18, 20, 22) = 18 ℃
# - 4時までの最低気温は min(18, 20, 22, 23) = 18 ℃
# ... となります。

# 時間と累積最低気温を対応させて表示
for (i in 1:length(hourly_temps)) {
  cat(i, "時までの最低気温:", cumulative_min_temp[i], "℃\n")
}


累積和の代替方法

  • 明示的なループ処理
    for ループなどを使って、各要素を順番に足し上げていく方法です。

    data <- c(1, 2, 3, 4, 5)
    cumulative_sum_loop <- numeric(length(data))
    current_sum <- 0
    for (i in 1:length(data)) {
      current_sum <- current_sum + data[i]
      cumulative_sum_loop[i] <- current_sum
    }
    print(cumulative_sum_loop) # [1]  1  3  6 10 15
    

    ループ処理は柔軟性が高いですが、ベクトルのサイズが大きい場合は cumsum() などの最適化された関数よりも処理が遅くなる可能性があります。

  • scan() 関数を使った方法 (やや特殊)
    ファイルからの読み込みを装って累積和を計算する方法もありますが、少しトリッキーです。

    data <- c(1, 2, 3, 4, 5)
    temp_file <- tempfile()
    writeLines(as.character(data), temp_file)
    cumulative_sum_scan <- scan(temp_file, cumsum = TRUE, quiet = TRUE)
    unlink(temp_file)
    print(cumulative_sum_scan) # [1]  1  3  6 10 15
    

    cumsum = TRUE オプションを使うと、読み込みながら累積和を計算します。

  • Reduce() 関数と + 演算子
    Reduce() 関数は、ベクトルに対して二項演算を累積的に適用します。+ 演算子と組み合わせることで、累積和を計算できます。

    data <- c(1, 2, 3, 4, 5)
    cumulative_sum_reduce <- Reduce(`+`, data, accumulate = TRUE)
    print(cumulative_sum_reduce) # [1]  1  3  6 10 15
    

    accumulate = TRUE を指定することで、各ステップの結果がベクトルとして返されます。

累積積の代替方法

  • 明示的なループ処理
    各要素を順番に掛け合わせていく方法です。

    data <- c(1, 2, 3, 4, 5)
    cumulative_product_loop <- numeric(length(data))
    current_product <- 1
    for (i in 1:length(data)) {
      current_product <- current_product * data[i]
      cumulative_product_loop[i] <- current_product
    }
    print(cumulative_product_loop) # [1]   1   2   6  24 120
    
  • scan() 関数を使った方法 (累積和と同様)
    cumprod = TRUE オプションを使うことで累積積を計算できます。

    data <- c(1, 2, 3, 4, 5)
    temp_file <- tempfile()
    writeLines(as.character(data), temp_file)
    cumulative_product_scan <- scan(temp_file, cumprod = TRUE, quiet = TRUE)
    unlink(temp_file)
    print(cumulative_product_scan) # [1]   1   2   6  24 120
    
  • Reduce() 関数と * 演算子
    累積和と同様に、Reduce() 関数と * 演算子を組み合わせることで累積積を計算できます。

    data <- c(1, 2, 3, 4, 5)
    cumulative_product_reduce <- Reduce(`*`, data, accumulate = TRUE)
    print(cumulative_product_reduce) # [1]   1   2   6  24 120
    

累積的な極値 (最大値と最小値) の代替方法

  • 明示的なループ処理
    現在までの最大値または最小値を保持しながら、要素を順番に比較していく方法です。

    data <- c(5, 2, 8, 1, 6)
    cumulative_max_loop <- numeric(length(data))
    current_max <- -Inf # 初期値を負の無限大に
    for (i in 1:length(data)) {
      current_max <- max(current_max, data[i])
      cumulative_max_loop[i] <- current_max
    }
    print(cumulative_max_loop) # [1] 5 5 8 8 8
    
    cumulative_min_loop <- numeric(length(data))
    current_min <- Inf  # 初期値を正の無限大に
    for (i in 1:length(data)) {
      current_min <- min(current_min, data[i])
      cumulative_min_loop[i] <- current_min
    }
    print(cumulative_min_loop) # [1] 5 2 2 1 1
    
  • Reduce() 関数と pmax() / pmin() 関数
    pmax() は複数のベクトルから要素ごとの最大値を、pmin() は要素ごとの最小値を返します。Reduce() と組み合わせることで、累積的な最大値と最小値を計算できます。

    data <- c(5, 2, 8, 1, 6)
    cumulative_max_reduce <- Reduce(pmax, data, accumulate = TRUE)
    print(cumulative_max_reduce) # [1] 5 5 8 8 8
    
    cumulative_min_reduce <- Reduce(pmin, data, accumulate = TRUE)
    print(cumulative_min_reduce) # [1] 5 2 2 1 1