summary.proc_time

2025-05-17

proc.time() 関数は、通常、以下のような3つの要素を含むベクトルを返します。

  • elapsed (経過時間 / 実時間): Rプロセスが開始されてから現在までの実際の時間(壁時計時間)です。これは、CPUがアイドル状態であった時間や、他のプロセスが実行されていた時間も含まれます。
  • system (システムCPU時間): Rプロセスがシステムモードで消費したCPU時間です。これは、ファイルI/Oやメモリ管理など、オペレーティングシステムがRプロセスのために行った処理にかかった時間を示します。
  • user (ユーザーCPU時間): Rプロセスがユーザーモードで消費したCPU時間です。これは、Rスクリプトや関数が実際に計算を行うのにかかった時間を示します。

summary.proc_time という表現は、proc.time() の結果を summary() 関数で表示した際に現れることがあります。しかし、proc.time() 自体が時間計測の結果を直接表示する関数であり、summary() を使うことは一般的ではありません。

Rでコードの実行時間を計測する際には、主に以下の方法が使われます。

  1. system.time(): あるRの式や関数の実行にかかるCPU時間(ユーザー時間、システム時間)と実時間を計測します。これは、特定のコードブロックのパフォーマンスを評価するのに非常に便利です。

    system.time({
      # 時間を計測したいコード
      x <- rnorm(1000000)
      y <- x^2
    })
    

    出力例:

       ユーザー   システム 経過
       0.054    0.009    0.063
    
  2. Sys.time(): 現在のシステム時間を取得します。コードブロックの開始時と終了時に Sys.time() を呼び出し、その差を取ることで実時間を計測できます。

    start_time <- Sys.time()
    # 時間を計測したいコード
    x <- rnorm(1000000)
    y <- x^2
    end_time <- Sys.time()
    
    elapsed_time <- end_time - start_time
    print(elapsed_time)
    
    Time difference of 0.063234 secs
    
  3. proc.time(): Rセッション全体の累積時間を取得します。これは、特定のコードブロックの実行時間を測るのではなく、Rセッション全体でどれだけの時間が費やされたかを概観するのに使われます。

    # Rセッション開始後の累積時間を表示
    proc.time()
    
    # 何らかの処理
    Sys.sleep(2) # 2秒待機
    
    # 処理後の累積時間を表示
    proc.time()
    

    summary.proc_time という記述は、Rのヘルプドキュメントやプロファイリングツールなど、proc.time の結果を要約して表示する文脈で出てくる可能性がありますが、proc.time() が返す値を直接的に summary() 関数で扱うことは一般的ではありません。



まず、前回の説明でも触れたように、summary.proc.timeという関数がRに直接的に存在するわけではありません。proc.time()の結果をsummary()で表示することは可能ですが、通常はproc.time()system.time()を直接使うことが多いため、summary.proc.timeに特化したエラーは稀です。

しかし、proc.time()system.time()、あるいは時間計測全般に関する一般的な問題はいくつか存在します。以下に、それらの一般的なエラーとトラブルシューティングを挙げます。

エラー:「オブジェクト 'proc.time' が見つかりません」または「関数 'system.time' が見つかりません」 (object 'proc.time' not found or could not find function "system.time")

原因
これは、関数名のスペルミスや、必要なパッケージがロードされていない場合に発生します。proc.time()system.time()はRのbaseパッケージに含まれているため、通常は明示的にロードする必要はありませんが、稀に環境設定の問題で発生することがあります。

トラブルシューティング

  • 非常に稀なケースですが、Rのインストールが破損している可能性も考えられます。その場合はRの再インストールを検討してください。
  • Rセッションを再起動してみてください。
  • 関数名のスペルを確認してください(proc.timesystem.time)。

結果の解釈の誤り

問題
proc.time()system.time()の出力値の意味を誤解している場合があります。例えば、「経過時間」が「ユーザーCPU時間」よりも大幅に大きい、または小さい場合に混乱することがあります。

トラブルシューティング

  • elapsed (経過時間 / 実時間)
    プロセスが開始されてから終了するまでの実際の時間です。他のプロセスが実行されていたり、RがI/O待ちでアイドル状態だったりする時間も含まれます。

    理解すべきポイント

    • elapsed > user + system の場合
      これは一般的で、I/O待ち、ネットワーク通信、他のプロセスがCPUを使用している、Rが複数のCPUコアを効率的に使用していない(シングルスレッド処理)などの理由が考えられます。
    • elapsed &lt; user + system の場合
      これはマルチコア/マルチスレッド処理が行われている場合に発生します。Rは(並列処理パッケージを使用した場合に)複数のCPUコアを使って同時に計算を進めることができ、その場合、CPU時間の合計は実時間を上回ることがあります。
  • system (システムCPU時間)
    Rプロセスがシステムコール(ファイルI/O、メモリ確保など)を実行するのにかかった時間です。

  • user (ユーザーCPU時間)
    RスクリプトがCPU上で実際に計算を行った時間です。

不正確な時間計測

問題
非常に短いコードの実行時間を計測しようとした場合、結果がゼロになったり、非常に小さい値になったりして、正確な測定ができないことがあります。これは、CPUのクロックサイクルが非常に速いため、測定の精度が十分でない場合に起こります。

トラブルシューティング

  • より高精度なパッケージの利用
    microbenchmarkパッケージなど、より高精度なベンチマーク測定を目的としたパッケージを使用することを検討してください。これは、非常に短いコードの実行時間を統計的に正確に測定するのに適しています。

    # install.packages("microbenchmark")
    library(microbenchmark)
    
    microbenchmark(
      sqrt_val = sqrt(12345),
      log_val = log(12345)
    )
    
  • 短いコードの繰り返し実行
    測定したいコードをループなどで複数回(例:1000回)実行し、その合計時間を計測します。その後、合計時間を実行回数で割ることで、より正確な平均実行時間を推定できます。

    N <- 10000
    system.time({
      for (i in 1:N) {
        # 測定したい短いコード
        x <- sqrt(i)
      }
    }) / N
    

プロファイリングと時間計測の混同



ここでは、Rで時間の計測を行う際の一般的なコード例と、それがproc.time()の結果とどのように関連するかを具体的に示します。

proc.time()の基本的な使用例

proc.time()関数は、Rセッションが開始されてから現在までの累積CPU時間と実時間(経過時間)を報告します。

# Rセッション開始直後のproc.time()の結果
# この時点での累積時間を示します
print("Rセッション開始直後:")
print(proc.time())

# 何らかの時間のかかる処理
print("時間のかかる処理を実行中...")
Sys.sleep(3) # 3秒間Rの実行を停止(実時間のみが増加)

# 大規模な数値計算(CPU時間を消費)
vec1 <- rnorm(10^7) # 1000万個の乱数生成
vec2 <- vec1 * 2    # 各要素を2倍
sum(vec2)           # 合計を計算

print("処理後:")
print(proc.time())

実行結果の例

[1] "Rセッション開始直後:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.158    0.032    0.191 
[1] "時間のかかる処理を実行中..."
[1] "処理後:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.285    0.046    3.490 

解説

  • 経過 (elapsed): 処理が開始されてから終了するまでの実際の時間(壁時計時間)。
  • システム (system): Rがシステムコール(I/Oなど)を実行するのにかかったCPU時間。
  • ユーザー (user): Rがユーザーコードを実行するのにかかったCPU時間。

最初のproc.time()と2番目のproc.time()の差分を見ることで、その間の処理がどれくらいの時間を消費したかをおおまかに把握できます。

system.time()による特定のコードブロックの計測

system.time()は、特定のRの式やブロックの実行時間を計測するために最も一般的に使用されます。proc.time()のようにセッション全体の累積時間ではなく、指定されたコードの実行時間のみを測定します。

print("--- system.time() の使用例 ---")

# 例1: シンプルな数値計算の時間を計測
system_time_result_1 <- system.time({
  x <- rnorm(10^6) # 100万個の乱数生成
  y <- x^2          # 各要素を2乗
})
print("10^6個の数値計算の時間:")
print(system_time_result_1)

# 例2: 比較的重いデータ操作の時間を計測
# データフレームの作成と集計
system_time_result_2 <- system.time({
  df <- data.frame(
    id = rep(1:1000, each = 100),
    value = rnorm(1000 * 100)
  )
  agg_df <- aggregate(value ~ id, data = df, FUN = mean)
})
print("データフレームの作成と集計の時間:")
print(system_time_result_2)

# 例3: I/O処理を含む場合の計測
system_time_result_3 <- system.time({
  # 大量のデータを一時ファイルに書き込み
  write.csv(df, "temp_data.csv", row.names = FALSE)
  # その後読み込み
  read.csv("temp_data.csv")
})
print("I/O処理を含む時間の計測:")
print(system_time_result_3)

# 一時ファイルの削除
if (file.exists("temp_data.csv")) {
  file.remove("temp_data.csv")
}

実行結果の例

[1] "--- system.time() の使用例 ---"
[1] "10^6個の数値計算の時間:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.038    0.007    0.045 
[1] "データフレームの作成と集計の時間:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.063    0.008    0.071 
[1] "I/O処理を含む時間の計測:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.027    0.006    0.033 

解説

  • 例3のようにI/O処理が含まれる場合、システム時間や経過時間が相対的に大きくなる傾向があります。
  • ユーザーシステム経過の各値は、そのブロックの実行のみにかかった時間を示します。
  • system.time()は、与えられた式(波括弧{}で囲まれたブロック)の実行にかかるCPU時間と実時間を返します。

proc.time()system.time()の戻り値は、内部的にはproc_timeクラスの数値ベクトルです。このオブジェクトに対してsummary()を呼び出すことは可能ですが、通常の数値ベクトルと同じような要約統計量(最小値、最大値、中央値など)が表示されるため、時間計測の結果を解釈する上ではあまり有用ではありません。

print("--- proc.time() の結果に対する summary() の使用例(推奨されません)---")

current_proc_time <- proc.time()
print("proc.time() の結果:")
print(current_proc_time)

# proc.time() の結果に対する summary()
# これは各要素(ユーザー、システム、経過)の要約統計量を示しますが、
# 時間計測の文脈では通常使われません。
print("proc.time() の結果に対する summary():")
summary(current_proc_time)

print("--- system.time() の結果に対する summary() の使用例(推奨されません)---")

test_time <- system.time({ Sys.sleep(1) })
print("system.time() の結果:")
print(test_time)

# system.time() の結果に対する summary()
print("system.time() の結果に対する summary():")
summary(test_time)

実行結果の例

[1] "--- proc.time() の結果に対する summary() の使用例(推奨されません)---"
[1] "proc.time() の結果:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.301    0.048    3.528 
[1] "proc.time() の結果に対する summary():"
   Min. 1st Qu.  Median    Mean 3rd Qu.    Max. 
  0.048   0.174   0.301   1.292   1.914   3.528 
[1] "--- system.time() の結果に対する summary() の使用例(推奨されません)---"
[1] "system.time() の結果:"
   ユーザー   システム 経過 
      0.000    0.001    1.001 
[1] "system.time() の結果に対する summary():"
   Min. 1st Qu.  Median    Mean 3rd Qu.    Max. 
  0.000   0.000   0.001   0.334   0.501   1.001 

解説

ご覧の通り、summary()proc_timeオブジェクトに適用しても、時間計測の値(ユーザー、システム、経過)そのものが要約されるわけではなく、それらの数値の「統計的要約」が表示されます。これは、時間計測の文脈では通常意味をなさないため、proc_timeオブジェクトに対してsummary()を使用することは推奨されません。



proc.time()system.time()は基本的な時間計測には十分ですが、より詳細な分析や、特定のユースケースに特化したツールがあります。

Sys.time() を使用した経過時間(実時間)の計測

system.time()がCPU時間も考慮するのに対し、Sys.time()は純粋な経過時間(壁時計時間)のみを計測します。非常にシンプルで、外部プロセスとの連携時間などを含めたい場合に便利です。

特徴

  • ミリ秒以下の精度が必要な場合は、lubridateパッケージなどの高精度な時間関数と組み合わせることも可能。
  • 開始時刻と終了時刻の差分で経過時間を計測。
# Sys.time() を使用した経過時間の計測
print("--- Sys.time() の使用例 ---")

start_time <- Sys.time()

# 時間を計測したい処理
Sys.sleep(1.5) # 1.5秒間Rの実行を停止
x <- rnorm(10^6)
y <- x * x

end_time <- Sys.time()

# 経過時間の計算
elapsed_seconds <- end_time - start_time

print(paste("経過時間:", elapsed_seconds, "秒"))