【Qt入門】QTableWidgetのイベント処理を極める!event()の代替手段と選び方
bool QTableWidget::event(QEvent *e)
とは
QTableWidget::event()
は、Qtのイベント処理メカニズムの中心となる仮想関数です。
- 戻り値:
bool
型を返します。true
を返すと、そのイベントは処理済みとみなされ、それ以上親ウィジェットや他のイベントハンドラに伝播されません。false
を返すと、そのイベントは処理されなかったとみなされ、親ウィジェットのevent()
関数に転送されます。
- 仮想関数:
QTableWidget
はQWidget
から、そして最終的にはQObject
からこのevent()
関数を継承し、オーバーライド(再実装)しています。これにより、QTableWidget
はテーブルウィジェット特有のイベント処理を行うことができます。 - イベント処理の基盤: Qtの全ての
QObject
から派生するクラス(QWidget
やQTableWidget
を含む)は、このevent()
関数を持っています。これは、システムやユーザーからの様々なイベント(マウスのクリック、キーボード入力、ウィンドウのリサイズなど)を受け取るための主要な入り口です。
どのように機能するか
- イベントの発生: ユーザーが
QTableWidget
上で何か操作を行ったり(セルをクリック、キーボードで入力など)、システムがテーブルウィジェットにイベントを送ったりすると、対応するQEvent
オブジェクトが生成されます。 event()
の呼び出し: このQEvent
オブジェクトは、QTableWidget
のevent(QEvent *e)
関数に渡されます。- イベントの判別と処理:
event()
関数内部では、渡されたQEvent
オブジェクトのタイプ(e->type()
)を調べて、それがどの種類のイベントであるかを判別します。そして、それぞれのイベントタイプに対応する処理を行います。- 例えば、
QMouseEvent
であればマウスイベントとして、QKeyEvent
であればキーボードイベントとして処理されます。 - 多くの場合、
event()
関数は特定のイベントをさらに具体的なイベントハンドラ関数(例:mousePressEvent()
,keyPressEvent()
,paintEvent()
など)にディスパッチ(振り分け)します。
- 例えば、
- イベントの伝播: イベントを完全に処理した場合(それ以上他のオブジェクトにそのイベントを渡す必要がない場合)、
true
を返します。処理しなかった場合、false
を返してイベントを親ウィジェットに渡します。
QTableWidget
は、セル内のデータの編集、セルの選択、スクロール、ヘッダーのクリックなど、テーブル特有の様々なイベントを処理するために event()
関数を利用しています。
通常のQtアプリケーション開発では、直接 event()
関数をオーバーライドすることはあまりありません。多くの場合、mousePressEvent()
や keyPressEvent()
など、特定のイベントタイプに特化した仮想関数をオーバーライドすることで、より簡潔にイベント処理を記述できます。
しかし、以下のようなケースでは event()
をオーバーライドする必要があるかもしれません。
- カスタムイベントを処理したい場合: 独自のイベントタイプを定義して、それを処理する場合。
- 特定のイベントが、より具体的なイベントハンドラ関数にディスパッチされる前に処理したい場合: 例えば、通常のマウスプレスイベントが処理される前に、特定の条件でそのイベントを無視したい場合など。
例(QTableWidget
を継承してイベントをオーバーライドする):
#include <QTableWidget>
#include <QEvent>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
class MyTableWidget : public QTableWidget
{
public:
MyTableWidget(QWidget *parent = nullptr) : QTableWidget(parent)
{
// テーブルの初期設定など
}
protected:
// event() 関数をオーバーライド
bool event(QEvent *e) override
{
// イベントタイプに応じて処理を分岐
if (e->type() == QEvent::KeyPress) {
QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(e);
qDebug() << "キーが押されました: " << keyEvent->key();
// ここで独自のキーイベント処理を行う
// 例えば、特定のキーで何か処理を完了し、イベントを消費する場合
if (keyEvent->key() == Qt::Key_Escape) {
qDebug() << "Escapeキーが押されたのでイベントを処理済みとします。";
return true; // イベントを処理済みとして、それ以上伝播させない
}
} else if (e->type() == QEvent::MouseButtonPress) {
QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(e);
qDebug() << "マウスボタンが押されました: " << mouseEvent->button();
// ここで独自のクリックイベント処理を行う
}
// 基本クラスの event() 関数を呼び出す
// これにより、Qtの標準的なイベント処理が実行される
// (例: QTableWidgetがマウスイベントを解釈してセル選択や編集を開始する)
return QTableWidget::event(e);
}
};
QTableWidget::event()
をオーバーライドする際、Qtのイベント処理メカニズムの深い部分に関わるため、注意が必要です。
親クラスの event() を呼び忘れる (return QTableWidget::event(e); の不足)
これは最もよくある間違いで、深刻な問題を引き起こす可能性があります。
-
トラブルシューティング:
- カスタムのイベント処理を行った後、またはイベントが処理されなかった場合に、必ず
return QTableWidget::event(e);
を呼び出すようにしてください。これにより、未処理のイベントはQtの標準的なメカニズムによって適切に処理されるか、さらに親ウィジェットに伝播されます。
<!-- end list -->
bool MyTableWidget::event(QEvent *e) { if (e->type() == QEvent::KeyPress) { // カスタムのキーイベント処理 QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(e); if (keyEvent->key() == Qt::Key_Return) { // Returnキーの処理を行い、イベントを消費する return true; } } // 他のイベントや、カスタム処理で消費されなかったイベントは親に任せる return QTableWidget::event(e); }
- カスタムのイベント処理を行った後、またはイベントが処理されなかった場合に、必ず
-
原因:
event()
関数は、様々な種類のイベントを適切なイベントハンドラ(例:mousePressEvent()
,keyPressEvent()
,paintEvent()
など)にディスパッチする役割を担っています。オーバーライドしたevent()
関数内で、特定のイベントを処理した後、必ず親クラスのevent()
を呼び出さないと、Qtが本来行うべき標準的なイベント処理が実行されません。 -
エラーの症状:
QTableWidget
の基本的な振る舞い(セルの選択、編集、スクロール、ヘッダーのクリックなど)が機能しなくなる。- 特定のイベントだけが処理され、他のイベントが完全に無視される。
- 予期しない動作やクラッシュが発生する。
イベントの消費を誤る (true の返し忘れ、または不必要な true を返す)
event()
の戻り値 bool
は、イベントが処理されたかどうかを示します。これを誤ると、イベントの伝播に問題が生じます。
- トラブルシューティング:
- カスタム処理がイベントを「消費」し、それ以上伝播させたくない場合にのみ
true
を返してください。 - カスタム処理がイベントを消費しない場合(例: イベントを単に監視するだけの場合や、特定の条件下で処理せず親に任せたい場合)は、
return QTableWidget::event(e);
を呼び出して、親クラスにイベント処理を委譲してください。
- カスタム処理がイベントを「消費」し、それ以上伝播させたくない場合にのみ
- 原因:
イベントを完全に処理し、それ以上他のオブジェクトにそのイベントを渡す必要がない場合にのみ
true
を返す必要があります。それ以外の場合はfalse
を返すか、親クラスのevent()
の戻り値をそのまま返すべきです。 - エラーの症状:
true
を返し忘れる場合: カスタム処理を行ったにも関わらず、そのイベントが親ウィジェットや他のコンポーネントにも伝播してしまい、二重に処理されたり、意図しない副作用が発生したりする。- 不必要に
true
を返す場合: 本来Qtの標準処理に任せるべきイベント(例: マウスの移動やスクロールなど)に対してtrue
を返してしまうと、QTableWidget
がそのイベントに適切に反応しなくなり、基本的なインタラクションが失われる。
不適切な QEvent 型へのキャスト
e->type()
でイベントタイプを確認せずに static_cast
を使用すると、未定義の動作やクラッシュにつながります。
-
トラブルシューティング:
static_cast
を使用する前に、必ずe->type()
を調べてイベントの型を確認してください。- より安全な方法として、
qobject_cast
を使用することもできますが、QEvent
の場合は通常static_cast
が推奨されます(QEvent
とその派生クラスはQObject
から派生しているとは限らないため、qobject_cast
が使えない場合があります)。
bool MyTableWidget::event(QEvent *e) { if (e->type() == QEvent::MouseButtonPress) { QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(e); // 安全 // ... } else if (e->type() == QEvent::KeyPress) { QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(e); // 安全 // ... } // ... return QTableWidget::event(e); }
-
原因:
QEvent *e
は汎用的なイベントポインタです。特定のイベントタイプ(例:QMouseEvent
,QKeyEvent
)のメンバー関数にアクセスするには、そのタイプに安全にキャストする必要があります。イベントタイプが一致しない場合、無効なメモリにアクセスしようとすることになります。 -
エラーの症状:
- プログラムがクラッシュする (
SIGSEGV
やアクセス違反など)。 - 予期しない値や動作。
- プログラムがクラッシュする (
イベント処理の過剰な複雑化
event()
関数内で多くの異なるイベントタイプを処理しようとすると、コードが読みにくくなり、デバッグが困難になります。
-
トラブルシューティング:
event()
関数は、イベントのタイプを判別し、適切なイベントハンドラ関数を呼び出すための「振り分け役」として使用してください。- 特定のイベントタイプの詳細なロジックは、対応するオーバーライドされたイベントハンドラ関数に記述してください。
// 良い例: event()は振り分け役 bool MyTableWidget::event(QEvent *e) { if (e->type() == QEvent::MouseMove) { // マウス移動イベントはmouseMoveEvent()で処理する return mouseMoveEvent(static_cast<QMouseEvent*>(e)); } // 他のイベントは親のevent()に任せる return QTableWidget::event(e); } // mouseMoveEvent()で詳細な処理を行う void MyTableWidget::mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) { // マウスの移動に応じたカスタム処理 qDebug() << "マウスが移動しました: " << event->pos(); QTableWidget::mouseMoveEvent(event); // 親の処理も呼び出す }
-
原因:
event()
はイベントのディスパッチャーとして機能することが望ましいです。特定のイベントタイプの詳細な処理は、それぞれの専用イベントハンドラ(mousePressEvent()
,keyPressEvent()
,paintEvent()
など)に任せるべきです。 -
エラーの症状:
- コードが肥大化し、保守が難しい。
- 意図しないイベントの相互作用やバグが発生しやすい。
QEvent::ignore() と QEvent::accept() の混同
Qtのイベント処理では、QEvent::ignore()
と QEvent::accept()
を使用してイベントの処理状況を制御できますが、event()
の戻り値 bool
との関連で混同しがちです。
-
トラブルシューティング:
event()
関数をオーバーライドする場合は、主にtrue
またはfalse
を返すことでイベントの消費と伝播を制御します。- 特定のイベントハンドラ(例:
mousePressEvent
)をオーバーライドする場合は、イベントオブジェクト (QMouseEvent *event
) に対してevent->accept()
やevent->ignore()
を呼び出すことで、そのイベントハンドラがイベントを消費したか、それとも親に渡したかを示します。最終的にこれらの呼び出しは、event()
関数の戻り値に影響を与えます。
-
QEvent::ignore()
: イベントが処理されなかったことをマークし、親ウィジェットにイベントを伝播させます。event()
関数がfalse
を返すのと同様の効果を持ちます。 -
QEvent::accept()
: イベントが処理されたことをマークします。通常、イベントハンドラ内で呼び出され、そのハンドラがイベントを消費したことを示します。event()
関数がtrue
を返すのと同様の効果を持ちます。
例1: 特定のキーが押された場合に処理を「横取り」し、それ以上伝播させない
この例では、QTableWidget
の中で Escape
キーが押されたときに、通常のエディットモードの終了などの QTableWidget
の標準的な処理を無効にし、独自のメッセージを表示するケースを示します。
MyTableWidget.h
#ifndef MYTABLEWIDGET_H
#define MYTABLEWIDGET_H
#include <QTableWidget>
#include <QEvent>
#include <QKeyEvent>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
class MyTableWidget : public QTableWidget
{
Q_OBJECT // Qtのメタオブジェクトシステムを使用するために必要
public:
explicit MyTableWidget(QWidget *parent = nullptr);
protected:
// event() 関数をオーバーライド
bool event(QEvent *e) override;
};
#endif // MYTABLEWIDGET_H
MyTableWidget.cpp
#include "MyTableWidget.h"
MyTableWidget::MyTableWidget(QWidget *parent)
: QTableWidget(parent)
{
// テーブルの初期設定
setRowCount(5);
setColumnCount(3);
setHorizontalHeaderLabels({"Col 1", "Col 2", "Col 3"});
for (int row = 0; row < rowCount(); ++row) {
for (int col = 0; col < columnCount(); ++col) {
setItem(row, col, new QTableWidgetItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
}
bool MyTableWidget::event(QEvent *e)
{
// キープレスイベントをチェック
if (e->type() == QEvent::KeyPress) {
QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(e); // QKeyEventに安全にキャスト
// Escapeキーが押された場合
if (keyEvent->key() == Qt::Key_Escape) {
qDebug() << "MyTableWidget: Escapeキーが押されました!標準処理をブロックします。";
// イベントを処理済みとしてマークし、それ以上伝播させない
return true;
}
}
// 他の全てのイベントは、QTableWidgetの基本的なイベントハンドラに渡す
// これを忘れると、QTableWidgetの基本的な機能(選択、編集など)が動かなくなる
return QTableWidget::event(e);
}
main.cpp
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QVBoxLayout>
#include "MyTableWidget.h"
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
QWidget *centralWidget = new QWidget(&window);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
MyTableWidget *myTable = new MyTableWidget();
layout->addWidget(myTable);
window.setCentralWidget(centralWidget);
window.setWindowTitle("QTableWidget::event() Example");
window.resize(600, 400);
window.show();
return a.exec();
}
動作確認:
このコードを実行し、QTableWidget
内で何かセルをクリックして編集状態にし、Escape
キーを押してみてください。通常であれば編集がキャンセルされますが、このコードでは qDebug()
のメッセージが表示され、編集モードが終了しない(または標準の終了処理が実行されない)ことを確認できます。これは、event()
関数が true
を返し、イベントを消費したためです。
例2: マウスの左クリックと右クリックの両方でカスタムアクションを実行する
この例では、QTableWidget
のセルが左クリックされた場合と右クリックされた場合の両方で、独自の処理を event()
内で行います。
MyTableWidget.h (変更なし)
#ifndef MYTABLEWIDGET_H
#define MYTABLEWIDGET_H
#include <QTableWidget>
#include <QEvent>
#include <QKeyEvent> // 必要に応じて残すか削除
#include <QMouseEvent> // マウスイベント用
#include <QDebug>
class MyTableWidget : public QTableWidget
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyTableWidget(QWidget *parent = nullptr);
protected:
bool event(QEvent *e) override;
};
#endif // MYTABLEWIDGET_H
MyTableWidget.cpp
#include "MyTableWidget.h"
#include <QMessageBox> // メッセージボックス用
MyTableWidget::MyTableWidget(QWidget *parent)
: QTableWidget(parent)
{
setRowCount(5);
setColumnCount(3);
setHorizontalHeaderLabels({"Col 1", "Col 2", "Col 3"});
for (int row = 0; row < rowCount(); ++row) {
for (int col = 0; col < columnCount(); ++col) {
setItem(row, col, new QTableWidgetItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
}
bool MyTableWidget::event(QEvent *e)
{
// マウスプレスイベントをチェック
if (e->type() == QEvent::MouseButtonPress) {
QMouseEvent *mouseEvent = static_cast<QMouseEvent*>(e);
// 左クリックの場合
if (mouseEvent->button() == Qt::LeftButton) {
QTableWidgetItem *item = itemAt(mouseEvent->pos());
if (item) {
qDebug() << "MyTableWidget: 左クリックされました - Row:" << item->row() << ", Col:" << item->column();
// 必要であれば、ここでカスタムアクションを実行
// QMessageBox::information(this, "Left Click", QString("Left-clicked on Item %1,%2").arg(item->row()).arg(item->column()));
}
}
// 右クリックの場合
else if (mouseEvent->button() == Qt::RightButton) {
QTableWidgetItem *item = itemAt(mouseEvent->pos());
if (item) {
qDebug() << "MyTableWidget: 右クリックされました - Row:" << item->row() << ", Col:" << item->column();
// 通常の右クリックメニューの表示をブロックしたい場合は、ここで true を返す
// QMessageBox::information(this, "Right Click", QString("Right-clicked on Item %1,%2").arg(item->row()).arg(item->column()));
// return true; // ここで true を返すと、標準のコンテキストメニューが出なくなる
}
}
}
// その他のイベントは親クラスに委譲
return QTableWidget::event(e);
}
動作確認:
このコードを実行し、QTableWidget
内のセルを左クリックおよび右クリックしてみてください。デバッグ出力にメッセージが表示されることを確認できます。右クリックの処理で return true;
のコメントを外すと、通常表示されるコンテキストメニューが表示されなくなることを確認できます。これは、イベントがMyTableWidget::event()
で消費されたためです。
event()
関数内でイベントを処理し、それ以上伝播させたくない場合にのみreturn true;
を返します。QTableWidget::event()
をオーバーライドする場合、ほとんどのイベントは親クラスのQTableWidget::event(e)
に委譲する必要があります。これを怠ると、テーブルウィジェットの基本的な機能が失われます。
以下に、QTableWidget::event()
の主要な代替手段を説明します。
bool QTableWidget::event()
の代替手段
特定のイベントハンドラ関数をオーバーライドする
QWidget
およびその派生クラス(QTableWidget
を含む)は、一般的なイベントタイプに対応する仮想関数を多数提供しています。これらをオーバーライドする方が、event()
全体をオーバーライドするよりも推奨されます。
例: マウスイベント、キーボードイベント、ペイントイベントなど
void closeEvent(QCloseEvent *event)
: ウィジェットが閉じられようとするときに呼び出されます。void resizeEvent(QResizeEvent *event)
: ウィジェットのサイズが変更されたときに呼び出されます。void paintEvent(QPaintEvent *event)
: ウィジェットが再描画される必要があるときに呼び出されます。void keyReleaseEvent(QKeyEvent *event)
: キーが離されたときに呼び出されます。void keyPressEvent(QKeyEvent *event)
: キーが押されたときに呼び出されます。void mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *event)
: マウスがダブルクリックされたときに呼び出されます。void mouseMoveEvent(QMouseEvent *event)
: マウスが移動したときに呼び出されます(mouseTracking
が有効な場合)。void mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event)
: マウスボタンが離されたときに呼び出されます。void mousePressEvent(QMouseEvent *event)
: マウスボタンが押されたときに呼び出されます。
これらの関数をオーバーライドすることで、特定のイベントタイプに特化した処理を記述でき、コードが整理されます。各関数内で event->accept()
または event->ignore()
を呼び出すことで、イベントの消費(それ以上伝播させない)または伝播(親ウィジェットへ渡す)を制御できます。
利点:
event()
で手動で行うイベントの型判別やキャストが不要。- Qtのイベント処理メカニズムとシームレスに統合される。
- コードが整理され、特定のイベントに対する処理がどこにあるか分かりやすい。
例(keyPressEvent
をオーバーライドする):
#include <QTableWidget>
#include <QKeyEvent>
#include <QDebug>
class MyTableWidget : public QTableWidget
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyTableWidget(QWidget *parent = nullptr) : QTableWidget(parent)
{
setRowCount(2);
setColumnCount(2);
setItem(0, 0, new QTableWidgetItem("Hello"));
setItem(0, 1, new QTableWidgetItem("World"));
setItem(1, 0, new QTableWidgetItem("Qt"));
setItem(1, 1, new QTableWidgetItem("Programming"));
}
protected:
// keyPressEvent() をオーバーライド
void keyPressEvent(QKeyEvent *event) override
{
if (event->key() == Qt::Key_Space) {
qDebug() << "スペースキーが押されました!";
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマークし、それ以上伝播させない
return;
}
// それ以外のキーイベントは、親クラスの処理に任せる
QTableWidget::keyPressEvent(event);
}
};
シグナル&スロットメカニズムを使用する
Qtのシグナル&スロットメカニズムは、オブジェクト間の通信において最も一般的で推奨される方法です。QTableWidget
は、ユーザーの操作に応じて多数のシグナルを発行します。これらのシグナルをカスタムスロットに接続することで、イベントに反応するコードを記述できます。
QTableWidget
が提供する主なシグナル:
currentItemChanged(QTableWidgetItem *current, QTableWidgetItem *previous)
: 現在のアイテムが変更されたとき。currentCellChanged(int currentRow, int currentColumn, int previousRow, int previousColumn)
: 現在のセルが変更されたとき。itemSelectionChanged()
: 選択範囲が変更されたとき。itemChanged(QTableWidgetItem *item)
: アイテムの内容が変更されたとき。itemDoubleClicked(QTableWidgetItem *item)
: アイテムがダブルクリックされたとき。itemClicked(QTableWidgetItem *item)
: アイテムがクリックされたとき。cellChanged(int row, int column)
: セルの内容が変更されたとき。cellDoubleClicked(int row, int column)
: セルがダブルクリックされたとき。cellClicked(int row, int column)
: セルがクリックされたとき。
利点:
- イベントフィルターよりもシンプルで、特定のUI操作に焦点を当てやすい。
- デカップリングされたデザインになり、将来の変更に強い。
- コードのモジュール性が向上し、イベント処理ロジックとウィジェットのUIロジックを分離できる。
- Qtの強力なコンセプトであり、他のUI要素との連携が容易。
例(cellClicked
シグナルを接続する):
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QVBoxLayout>
#include <QTableWidget>
#include <QTableWidgetItem>
#include <QDebug>
class MyWindow : public QMainWindow
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyWindow(QWidget *parent = nullptr) : QMainWindow(parent)
{
QTableWidget *tableWidget = new QTableWidget(5, 3, this);
for (int row = 0; row < tableWidget->rowCount(); ++row) {
for (int col = 0; col < tableWidget->columnCount(); ++col) {
tableWidget->setItem(row, col, new QTableWidgetItem(QString("Cell %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
// cellClicked シグナルをカスタムスロットに接続
connect(tableWidget, &QTableWidget::cellClicked,
this, &MyWindow::handleCellClick);
setCentralWidget(tableWidget);
setWindowTitle("Signal & Slot Example");
}
private slots:
void handleCellClick(int row, int column)
{
qDebug() << "シグナルでセルがクリックされました: Row =" << row << ", Column =" << column;
// ここでクリックされたセルに対するカスタムアクションを実行
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyWindow w;
w.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc" // Q_OBJECT を使用する場合に必要
イベントフィルターを使用する
イベントフィルターは、特定のオブジェクトに送られるすべてのイベントを、そのオブジェクトの event()
関数が処理する前に傍受できる強力なメカニズムです。これにより、元のウィジェットクラスを継承せずにイベント処理をカスタマイズできます。
仕組み:
QObject
を継承したクラスでeventFilter(QObject *watched, QEvent *event)
関数をオーバーライドします。- フィルターを適用したいオブジェクト (
QTableWidget
のインスタンスなど) にinstallEventFilter()
を呼び出して、フィルターオブジェクトを登録します。
利点:
- より柔軟なイベント処理が可能。
- 複数のオブジェクトに対して同じイベントフィルターを適用できる。
- 既存のウィジェットクラスを継承する必要がないため、ウィジェットの振る舞いを変更せずにイベントを監視または変更できる。
考慮事項:
eventFilter
がtrue
を返すと、そのイベントは監視対象オブジェクトのevent()
関数には到達しません。event()
のオーバーライドと同様に、適切なイベントタイプの判別とキャストが必要。
例(QTableWidget にイベントフィルターを適用する):
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QVBoxLayout>
#include <QTableWidget>
#include <QTableWidgetItem>
#include <QEvent>
#include <QKeyEvent>
#include <QDebug>
class MyEventFilter : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyEventFilter(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent) {}
protected:
bool eventFilter(QObject *watched, QEvent *event) override
{
// watched オブジェクトが QTableWidget のインスタンスであるか確認
if (QTableWidget *tableWidget = qobject_cast<QTableWidget*>(watched)) {
if (event->type() == QEvent::KeyPress) {
QKeyEvent *keyEvent = static_cast<QKeyEvent*>(event);
if (keyEvent->key() == Qt::Key_Delete) {
qDebug() << "イベントフィルター: Deleteキーが押されました!選択セルをクリアします。";
// 選択されているセルがあればクリアする例
foreach (QTableWidgetItem *item, tableWidget->selectedItems()) {
item->setText(""); // セル内容をクリア
}
return true; // イベントを処理済みとして、それ以上伝播させない
}
}
}
// 他のイベントや、このフィルターで処理しないイベントは標準処理に任せる
return QObject::eventFilter(watched, event);
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QMainWindow window;
QWidget *centralWidget = new QWidget(&window);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
QTableWidget *myTable = new QTableWidget(5, 3);
for (int row = 0; row < myTable->rowCount(); ++row) {
for (int col = 0; col < myTable->columnCount(); ++col) {
myTable->setItem(row, col, new QTableWidgetItem(QString("Item %1,%2").arg(row).arg(col)));
}
}
MyEventFilter *filter = new MyEventFilter(&window); // 親オブジェクトを設定
myTable->installEventFilter(filter); // テーブルウィジェットにフィルターをインストール
layout->addWidget(myTable);
window.setCentralWidget(centralWidget);
window.setWindowTitle("Event Filter Example");
window.resize(600, 400);
window.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc" // Q_OBJECT を使用する場合に必要
動作確認:
このコードを実行し、QTableWidget
内のセルをいくつか選択してから Delete
キーを押してみてください。選択されたセルの内容がクリアされることを確認できます。これは、MyEventFilter
が Delete
キーのイベントを傍受し、処理したためです。
- イベントフィルターでも対応できないような、非常に特殊で低レベルなイベント処理が必要な場合にのみ、
QTableWidget::event()
を直接オーバーライドすることを検討してください。これは稀なケースです。 - ウィジェットのクラスを変更せずに、または複数のウィジェットのイベントを共通で監視/変更したい場合は、イベントフィルターが強力な選択肢となります。
- 特定のイベントタイプの標準的な動作を少し変更したい場合や、ウィジェットの内部的なイベント処理を拡張したい場合は、対応するイベントハンドラ関数をオーバーライドするのが適切です。
- **最も一般的で推奨されるのは「シグナル&スロット」**です。UI操作に直接関連するカスタムロジックのほとんどは、既存のシグナルにスロットを接続することで対応できます。