Qt QSpinBoxの範囲設定：setRange()徹底解説
2025-05-31
QSpinBox::setRange() とは？
QSpinBox::setRange(int minimum, int maximum) は、QSpinBox クラスのメンバ関数です。この関数を呼び出すことで、スピンボックスに表示・入力できる数値の範囲（最小値と最大値）を定義します。
引数
maximum: ユーザーが選択できる最も大きい整数値を指定します。minimum: ユーザーが選択できる最も小さい整数値を指定します。
機能
- 視覚的なフィードバック
通常、範囲外の値を入力しようとすると、スピンボックスはそれを拒否し、視覚的なフィードバック（例えば、値が元のままになる、または最小値/最大値にスナップされるなど）を提供します。 - 初期値の制約
もしsetRange()を呼び出す前にsetValue()で設定された値が新しい範囲外になる場合、setValue()は自動的に新しい範囲内に収まるように調整されます（例えば、設定値が新しい最大値よりも大きい場合は最大値に、小さい場合は最小値に設定されます）。 - 入力制限
ユーザーは指定されたminimumとmaximumの範囲外の数値を入力したり、スピンボタン（上矢印/下矢印）で選択したりすることができなくなります。
使用例
以下に、QSpinBox::setRange() の典型的な使用例を示します。
#include <QApplication>
#include <QSpinBox>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
// ウィンドウを作成
QWidget *window = new QWidget;
window->setWindowTitle("QSpinBox::setRange() の例");
// レイアウトを作成
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(window);
// QSpinBoxを作成
QSpinBox *spinBox = new QSpinBox;
// スピンボックスの範囲を設定（-100から200まで）
spinBox->setRange(-100, 200);
// 初期値を設定（この値は範囲内なのでそのまま設定される）
spinBox->setValue(50);
// レイアウトにスピンボックスを追加
layout->addWidget(spinBox);
// ウィンドウを表示
window->show();
return app.exec();
}
このコードでは、spinBox->setRange(-100, 200); という行で、ユーザーがスピンボックスで選択できる数値の範囲を-100から200までに制限しています。これにより、ユーザーは-100未満や200を超える値を入力できなくなります。
setRange() を使う利点
- コードの簡素化
入力値のバリデーションロジックを自分で実装する必要がなくなります。 - ユーザーエクスペリエンスの向上
ユーザーに有効な入力範囲を明確に伝え、誤った入力によるエラーを減らします。 - データの整合性
不正な値の入力を防ぎ、アプリケーションのデータの整合性を保ちます。
QSpinBoxは整数値のみを扱います。浮動小数点数を扱いたい場合は、QDoubleSpinBoxを使用し、QDoubleSpinBox::setRange()を使用します。minimumはmaximum以下である必要があります。もしminimumがmaximumより大きい場合、動作は未定義になる可能性があります（通常、Qtはこれを適切に処理しようとしますが、意図しない結果を避けるために正しい順序で設定することが重要です）。
最小値が最大値より大きい (Minimum > Maximum)
エラーの状況
setRange(maximum, minimum) のように、引数の順序を誤って最小値と最大値を逆に指定してしまうケースです。例えば、spinBox->setRange(100, 0); のように設定した場合などです。
問題
Qtは通常、このような状況を内部的に適切に処理しようとしますが、意図しない挙動（例えば、範囲が0-0になったり、値が正しく設定されなかったり）が発生する可能性があります。また、コードの意図が不明確になり、デバッグが困難になります。
トラブルシューティング
- 論理的な確認
設定したい最小値が実際に最大値よりも小さいか、コードのロジックを再確認してください。 - 引数の順序を確認
setRange(int minimum, int maximum)の引数は、必ずminimumが先に、maximumが後に来るようにしてください。
setValue() の呼び出し順序
エラーの状況
QSpinBox を作成し、setRange() を呼び出す前に setValue() を呼び出して、その値がデフォルトの範囲（通常0〜99）を超えている場合です。
問題
QSpinBox のデフォルトの範囲は0から99です。例えば、spinBox->setValue(150); を呼び出してから spinBox->setRange(0, 200); を呼び出した場合、setValue(150) の時点では値が99に制限され、その後に範囲を広げても値は99のままになることがあります。
トラブルシューティング
- setRange() を先に呼び出す
常にQSpinBox::setRange()をQSpinBox::setValue()よりも先に呼び出すようにしてください。これにより、setValue()が呼び出されたときに、既に正しい範囲が設定されています。QSpinBox *spinBox = new QSpinBox; spinBox->setRange(0, 200); // まず範囲を設定 spinBox->setValue(150); // その後、初期値を設定
意図しない値のリセット
エラーの状況
動的に範囲を変更する場合に、setRange() を呼び出した結果、現在の値が新しい範囲外になり、値が自動的に調整されることに気づかないケースです。
問題
setRange() が呼び出されると、現在の QSpinBox の値が新しい範囲内に収まるように自動的に調整されます。もし現在の値が新しい最小値より小さい場合は最小値に、新しい最大値より大きい場合は最大値に設定されます。これが意図しない値のリセットとして認識されることがあります。
トラブルシューティング
- valueChanged シグナルの確認
setRange()の呼び出しによってvalueChangedシグナルが発行される可能性があるため、これに接続されたスロットの挙動も確認してください。 - 値のリセットを考慮
setRange()を呼び出す前に、現在の値が新しい範囲でどのように扱われるかを考慮してください。必要に応じて、setRange()の前に現在の値を保存し、setRange()の後に再度setValue()で適切な値を設定することも検討してください。
QDoubleSpinBox との混同
エラーの状況
小数点以下の値を扱いたいにもかかわらず、誤って QSpinBox を使用し、setRange() で整数範囲を設定しようとしている場合です。
問題
QSpinBox は整数値のみを扱います。小数点以下の値を設定しようとすると、値が切り捨てられるか、入力が拒否されます。
トラブルシューティング
- QDoubleSpinBox を使用
浮動小数点数を扱いたい場合は、必ずQDoubleSpinBoxを使用してください。QDoubleSpinBoxにも同様にsetRange(double minimum, double maximum)関数があります。QDoubleSpinBox *doubleSpinBox = new QDoubleSpinBox; doubleSpinBox->setRange(0.0, 100.0); doubleSpinBox->setSingleStep(0.1); doubleSpinBox->setValue(50.5);
非常に大きな値やシステムリミットの考慮
エラーの状況
int 型で表現できる最大値や最小値に近い値を設定しようとしている場合です。
問題
QSpinBox は内部的に int 型を使用しているため、int 型の最大値 (INT_MAX) や最小値 (INT_MIN) を超える値は設定できません。環境によっては32ビット整数か64ビット整数かで範囲が異なります。
トラブルシューティング
- システム依存の最大値/最小値の確認
limits.h(climits) のINT_MAXやINT_MINを確認して、設定しようとしている値がこれらの範囲内にあるかを確認してください。 - long long などのより大きな型が必要な場合
非常に大きな整数値を扱いたい場合は、QSpinBoxを直接使用するのではなく、QLineEditを使用してテキスト入力させ、自分でバリデーションや数値変換を行うか、QAbstractSpinBoxを継承してカスタムのスピンボックスを実装する必要があります。Qtのドキュメントやフォーラムでも、QSpinBoxのint制限に関する議論や解決策が提供されています。
シグナルとスロットの連鎖による無限ループ
エラーの状況
複数の QSpinBox が相互に依存しており、一方の setRange() や setValue() が他方の valueChanged() シグナルをトリガーし、それがさらに別の setRange() や setValue() を呼び出すような連鎖が発生している場合です。
問題
このような連鎖が適切に管理されていないと、無限ループに陥り、アプリケーションがフリーズしたりクラッシュしたりする可能性があります。
- ロジックの見直し
複数のウィジェットが相互に影響し合う複雑なUIの場合、設計を見直し、シグナルとスロットの接続を最小限に抑えるか、状態管理をより明確にする必要があります。 - シグナルのブロック
相互依存するスピンボックスがある場合、一時的にシグナルをブロックすることを検討してください。blockSignals(true)を呼び出してシグナルの発行を停止し、処理後にblockSignals(false)で再開します。spinBox1->blockSignals(true); // spinBox1 の範囲や値を変更する処理 spinBox1->blockSignals(false); spinBox2->blockSignals(true); // spinBox2 の範囲や値を変更する処理 spinBox2->blockSignals(false);
QSpinBox::setRange(int minimum, int maximum) は、QSpinBox ウィジェットが許容する数値の最小値と最大値を設定するために使用されます。
例 1: 基本的な範囲設定
これは最も基本的な例で、QSpinBoxを作成し、その範囲を設定するだけです。
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QSpinBox>
#include <QVBoxLayout> // ウィジェットを縦に配置するためのレイアウト
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv); // アプリケーションオブジェクトの作成
// メインウィンドウとなるQWidgetを作成
QWidget window;
window.setWindowTitle("基本的な範囲設定の例"); // ウィンドウのタイトルを設定
// QSpinBoxオブジェクトを作成
QSpinBox *spinBox = new QSpinBox(&window); // 親をwindowに設定
// QSpinBoxの範囲を0から100に設定
// ユーザーは0から100までの整数しか選択できなくなります
spinBox->setRange(0, 100);
// QSpinBoxの初期値を設定 (範囲内なのでそのまま設定される)
spinBox->setValue(50);
// QSpinBoxのステップサイズを設定 (デフォルトは1)
// ユーザーが上下の矢印をクリックしたときに、値が5ずつ変化するようになります
spinBox->setSingleStep(5);
// レイアウトを作成し、QSpinBoxを配置
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(spinBox);
window.setLayout(layout); // ウィンドウにレイアウトを設定
window.show(); // ウィンドウを表示
return app.exec(); // アプリケーションのイベントループを開始
}
解説
setValue(50);は初期値を50に設定していますが、もしsetRangeの前にsetValue(150)のように範囲外の値を設定しようとしても、デフォルトの範囲（0-99）または後で設定された範囲（0-100）に自動的に調整されます。spinBox->setRange(0, 100);が、このスピンボックスが0から100までの整数値のみを受け入れるように設定しています。
例 2: 複数の QSpinBox と動的な範囲連動
この例では、2つのQSpinBoxがあり、一方の最大値がもう一方の最小値に連動するように設定します。
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QSpinBox>
#include <QVBoxLayout>
#include <QLabel> // ラベルを表示するため
class MyWindow : public QWidget
{
Q_OBJECT // シグナルとスロットを使用するために必要
public:
MyWindow(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
{
setWindowTitle("範囲連動の例");
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
// SpinBox 1 (最小値を設定)
QLabel *label1 = new QLabel("最小値:", this);
spinBoxMin = new QSpinBox(this);
spinBoxMin->setRange(0, 100); // 最小値のQSpinBoxの範囲
spinBoxMin->setValue(10); // 初期値
layout->addWidget(label1);
layout->addWidget(spinBoxMin);
// SpinBox 2 (最大値を設定)
QLabel *label2 = new QLabel("最大値:", this);
spinBoxMax = new QSpinBox(this);
spinBoxMax->setRange(0, 200); // 最大値のQSpinBoxの範囲
spinBoxMax->setValue(50); // 初期値
layout->addWidget(label2);
layout->addWidget(spinBoxMax);
// シグナルとスロットの接続
// spinBoxMin の値が変わったら、spinBoxMax の最小値を更新
connect(spinBoxMin, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
this, &MyWindow::updateMaxSpinBoxRange);
// spinBoxMax の値が変わったら、spinBoxMin の最大値を更新
connect(spinBoxMax, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
this, &MyWindow::updateMinSpinBoxRange);
// 初期ロード時の同期
updateMaxSpinBoxRange(spinBoxMin->value());
updateMinSpinBoxRange(spinBoxMax->value());
}
private slots:
// spinBoxMin の値に基づいて spinBoxMax の最小値を更新
void updateMaxSpinBoxRange(int minVal)
{
// シグナルが再帰的に呼び出されるのを防ぐ
spinBoxMax->blockSignals(true);
// spinBoxMax の現在の最小値と、spinBoxMin の新しい値の大きい方を採用
spinBoxMax->setMinimum(min(spinBoxMax->value(), minVal));
// 新しい最小値が現在の値より大きい場合、値を調整
if (spinBoxMax->value() < minVal) {
spinBoxMax->setValue(minVal);
}
// spinBoxMax の最小値を更新
spinBoxMax->setMinimum(minVal);
spinBoxMax->blockSignals(false);
}
// spinBoxMax の値に基づいて spinBoxMin の最大値を更新
void updateMinSpinBoxRange(int maxVal)
{
// シグナルが再帰的に呼び出されるのを防ぐ
spinBoxMin->blockSignals(true);
// spinBoxMin の現在の最大値と、spinBoxMax の新しい値の小さい方を採用
spinBoxMin->setMaximum(max(spinBoxMin->value(), maxVal));
// 新しい最大値が現在の値より小さい場合、値を調整
if (spinBoxMin->value() > maxVal) {
spinBoxMin->setValue(maxVal);
}
// spinBoxMin の最大値を更新
spinBoxMin->setMaximum(maxVal);
spinBoxMin->blockSignals(false);
}
private:
QSpinBox *spinBoxMin;
QSpinBox *spinBoxMax;
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
MyWindow window;
window.show();
return app.exec();
}
#include "main.moc" // mocファイルを含める（Qt Creatorを使用している場合は自動生成される）
解説
setMinimum()とsetMaximum()もsetRange()と同様に、個別に最小値と最大値を設定する関数です。setRange(min, max)はsetMinimum(min)とsetMaximum(max)を一度に行うのと等価です。- blockSignals(true) と blockSignals(false)
これらは非常に重要です。値や範囲を変更する際に、その変更自体が再びvalueChangedシグナルを発行し、無限ループに陥るのを防ぐために、一時的にシグナルをブロックしています。 - 逆に
updateMinSpinBoxRangeでは、spinBoxMaxの値が変更されたときに、spinBoxMinの「最大値」をspinBoxMaxの新しい値に設定しています。これにより、spinBoxMinがspinBoxMaxの値よりも大きくなるのを防ぎます。 updateMaxSpinBoxRangeでは、spinBoxMinの値が変更されたときに、spinBoxMaxの「最小値」をspinBoxMinの新しい値に設定しています。これにより、spinBoxMaxがspinBoxMinの値よりも小さくなるのを防ぎます。connectを使用して、それぞれのスピンボックスの値が変更されたときにupdateMaxSpinBoxRangeまたはupdateMinSpinBoxRangeスロットが呼び出されるようにしています。spinBoxMinは「最小値」を設定し、spinBoxMaxは「最大値」を設定します。
例 3: QDoubleSpinBox との比較
QSpinBox は整数値のみを扱いますが、QDoubleSpinBox は浮動小数点数を扱います。setRange() の使い方自体は非常に似ています。
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QDoubleSpinBox> // QDoubleSpinBox を使用
#include <QVBoxLayout>
#include <QLabel>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
window.setWindowTitle("QDoubleSpinBox の例");
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
// 整数用スピンボックス
QLabel *intLabel = new QLabel("整数値 (QSpinBox):", &window);
QSpinBox *intSpinBox = new QSpinBox(&window);
intSpinBox->setRange(-100, 100); // 整数範囲
intSpinBox->setValue(25);
layout->addWidget(intLabel);
layout->addWidget(intSpinBox);
// 浮動小数点数用スピンボックス
QLabel *doubleLabel = new QLabel("浮動小数点数値 (QDoubleSpinBox):", &window);
QDoubleSpinBox *doubleSpinBox = new QDoubleSpinBox(&window);
// QDoubleSpinBox の範囲を -10.0 から 10.0 に設定
doubleSpinBox->setRange(-10.0, 10.0);
// ステップサイズを 0.1 に設定
doubleSpinBox->setSingleStep(0.1);
// 表示する小数点以下の桁数を設定
doubleSpinBox->setDecimals(2);
doubleSpinBox->setValue(3.14); // 浮動小数点数の初期値
layout->addWidget(doubleLabel);
layout->addWidget(doubleSpinBox);
window.setLayout(layout);
window.show();
return app.exec();
}
setDecimals()は、表示および入力される小数点以下の桁数を設定します。これはQSpinBoxにはないQDoubleSpinBox固有の機能です。setSingleStep()もdouble型の引数を取り、ステップサイズを設定できます。QDoubleSpinBoxでは、setRange(double minimum, double maximum)を使用します。引数がdouble型である点がQSpinBoxと異なります。
setMinimum() と setMaximum() を個別に呼び出す
これは setRange() の最も直接的な代替方法です。setRange(min, max) は、本質的に setMinimum(min) と setMaximum(max) を連続して呼び出すのと同じです。
コード例
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QSpinBox>
#include <QVBoxLayout>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
window.setWindowTitle("setMinimum() & setMaximum() の例");
QSpinBox *spinBox = new QSpinBox(&window);
// QSpinBox::setRange(0, 100) と同じ効果
spinBox->setMinimum(0); // 最小値を設定
spinBox->setMaximum(100); // 最大値を設定
spinBox->setValue(50);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
layout->addWidget(spinBox);
window.setLayout(layout);
window.show();
return app.exec();
}
利点
- 特定の状況下で、最小値のみを変更したり、最大値のみを変更したりする柔軟性が必要な場合に便利です。例えば、ユーザーの入力に基づいて動的に上限だけを変更する場合など。
欠点
- 両方を設定する場合、
setRange()よりもコードが冗長になります。
バリデーター (QValidator) を使用する
これは、スピンボックスに入力される値に対して、より複雑なバリデーションロジックを適用したい場合に強力な方法です。QValidator のサブクラス（QIntValidator, QDoubleValidator, またはカスタムバリデーター）を使用できます。QSpinBox は内部的にバリデーターを使用していますが、カスタムバリデーターを適用することで、範囲設定では不可能な複雑なルールを実装できます。
コード例 (QIntValidator を使用)
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QSpinBox>
#include <QLineEdit> // バリデーターは QLineEdit に適用されることが多い
#include <QVBoxLayout>
#include <QIntValidator> // 整数バリデーター
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
window.setWindowTitle("QIntValidator の例");
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
// QSpinBox は内部的に数値バリデーターを持つため、この例では QLineEdit を使用して説明します。
// QSpinBox に QValidator を直接設定することはできませんが、
// QSpinBox の内部で数値のバリデーションが行われるのと似た概念です。
// QLineEdit で同じような範囲制御をしたい場合に有効です。
QLabel *label = new QLabel("数値を入力してください (10-90):", &window);
QLineEdit *lineEdit = new QLineEdit(&window);
// 10から90までの整数を許可するバリデーターを作成
QIntValidator *validator = new QIntValidator(10, 90, &lineEdit);
lineEdit->setValidator(validator); // QLineEdit にバリデーターを設定
lineEdit->setText("50"); // 初期値
layout->addWidget(label);
layout->addWidget(lineEdit);
window.setLayout(layout);
window.show();
return app.exec();
}
解説
- カスタムバリデーターを作成することで、例えば「偶数のみ許可」「特定のリスト内の数値のみ許可」といった、
setRange()では実現できない複雑なバリデーションルールを実装できます。 QSpinBoxは独自の数値バリデーションメカニズムを持っているため、通常はQSpinBoxに直接QValidatorを設定する必要はありません。しかし、QLineEditなど、より自由なテキスト入力を受け付けるウィジェットで数値範囲を制限したい場合には、QIntValidatorやQDoubleValidatorが非常に役立ちます。
利点
QLineEditなど、他のテキスト入力ウィジェットにも適用できる。setRange()よりもはるかに複雑なバリデーションルールを実装できる。
欠点
QSpinBoxの矢印ボタンによる増減には直接影響しないため、スピンボックスの挙動を完全に制御するには、setRange()と組み合わせるか、カスタムのスピンボックス実装が必要になる場合がある。setRange()ほどシンプルではなく、より多くのコードが必要になる。
valueChanged() シグナルとカスタムロジックを使用する
これは、setRange() では対応できない「値の範囲外への変更を許容するが、特定の条件で警告したり、値を元に戻したりしたい」といったシナリオで有効です。
コード例
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QSpinBox>
#include <QVBoxLayout>
#include <QMessageBox> // メッセージボックス表示用
class MyCustomSpinBoxWindow : public QWidget
{
Q_OBJECT
public:
MyCustomSpinBoxWindow(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
{
setWindowTitle("カスタムロジックでの範囲制御");
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
spinBox = new QSpinBox(this);
// setRange は設定しないか、非常に広い範囲を設定する
spinBox->setRange(-1000, 1000); // 広い範囲を設定
spinBox->setValue(50);
layout->addWidget(spinBox);
// valueChanged シグナルを接続
connect(spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
this, &MyCustomSpinBoxWindow::onSpinBoxValueChanged);
}
private slots:
void onSpinBoxValueChanged(int value)
{
const int MIN_ALLOWED = 0;
const int MAX_ALLOWED = 100;
if (value < MIN_ALLOWED || value > MAX_ALLOWED) {
// 範囲外の値が入力された場合に警告
QMessageBox::warning(this, "範囲外の警告",
QString("値 %1 は許容範囲 (%2 - %3) 外です。").arg(value).arg(MIN_ALLOWED).arg(MAX_ALLOWED));
// 値を範囲内に戻す (元の値に戻すか、境界値に設定する)
// ここでは、直前の有効な値に戻す例
spinBox->blockSignals(true); // 再帰的なシグナル発行を防ぐ
if (value < MIN_ALLOWED) {
spinBox->setValue(MIN_ALLOWED);
} else { // value > MAX_ALLOWED
spinBox->setValue(MAX_ALLOWED);
}
spinBox->blockSignals(false);
}
}
private:
QSpinBox *spinBox;
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc);
MyCustomSpinBoxWindow window;
window.show();
return app.exec();
}
#include "main.moc" // mocファイルを含める
解説
- spinBox->blockSignals(true) と spinBox->blockSignals(false)
これらは、setValue()を呼び出したときにvalueChangedシグナルが再度発行され、無限ループに陥るのを防ぐために不可欠です。 - 値が範囲外になった場合、
QMessageBoxでユーザーに警告し、その後setValue()を使って値を有効な範囲内に強制的に戻しています。 - このアプローチでは、
QSpinBox::setRange()で非常に広い範囲を設定し、実際の有効な範囲のチェックはvalueChanged()シグナルに接続されたスロット内で行います。
利点
- 一時的に範囲外の値を許可し、後でバリデーションを行いたい場合に有効。
- 値が範囲外になったときに、ユーザーに通知するなどの追加のロジックを実行できる。
欠点
- ユーザーエクスペリエンスの観点から、値が自動的に戻される挙動は直感的ではない場合がある。
setRange()よりも複雑な実装が必要。
カスタムの QAbstractSpinBox サブクラスを実装する
これは最も高度で柔軟な方法ですが、ほとんどのユースケースでは不要です。QSpinBox は QAbstractSpinBox を継承しており、独自の複雑な増減ロジックや値の表現方法が必要な場合に、QAbstractSpinBox を直接継承してカスタムウィジェットを作成できます。
利点
- 値の表現方法（例：Roman numerals, scientific notation）や、矢印ボタンの挙動、キーボード入力のバリデーションなど、スピンボックスのあらゆる側面を完全に制御できる。
- よほど特殊な要件がない限り、過剰な設計になる。
- 非常に複雑で、時間と労力がかかる。
- 極めて特殊な要件がある場合にのみ、カスタムの
QAbstractSpinBoxサブクラスを検討します。 - 値が範囲外になったときに特定のユーザーフィードバックや追加処理をしたい場合は、
valueChanged()シグナルとカスタムロジックを組み合わせることができます。 QSpinBox以外のテキスト入力ウィジェットで数値範囲を制限したい場合は、QValidatorが有効です。- 個別に最小値や最大値を設定したい場合は、
setMinimum()とsetMaximum()が便利です。 - ほとんどの基本的な範囲制御には、
QSpinBox::setRange()が最もシンプルで推奨される方法です。