QSpinBox cleanTextとvalue()の違い：Qt数値入力のベストプラクティス

QSpinBox::cleanText は、Qtの QSpinBox クラスにおいて、ユーザーが入力したテキストから、数値として意味のある部分だけを抽出した文字列を返す関数です。

具体的には、以下の処理が行われます。

• 数値以外の文字（例えば、通貨記号、単位、空白など）が取り除かれます。

この関数の主な目的は以下の通りです。

• 表示形式と内部データの分離
  QSpinBox の表示形式（プレフィックス、サフィックス、桁区切りなど）に影響されずに、実際の数値データだけを取得できます。
• 数値の取得準備
  cleanText が返す文字列を toInt() や toDouble() などの関数に渡すことで、簡単に整数や浮動小数点数として値を取得できます。
• ユーザー入力の正規化
  ユーザーが様々な形式で数値を入力した場合でも、プログラム内部で一貫した形式の数値文字列として扱えるようにします。

例

例えば、QSpinBox に以下のような入力があったとします。

• "$1,234.56" (英語ロケールの場合)

このとき、cleanText() を呼び出すと、それぞれ以下の文字列が返されます。

• "1234.56"
• "1234.56"
• "1234.56"

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一般的なエラーとトラブルシューティング

1. • 原因
     ユーザーが数値として認識されない文字を入力している場合（例えば、アルファベットのみ、記号のみなど）。
   • 対策
     
     • QSpinBox の入力制限 (setValidator()) を適切に設定し、数値や許容される記号以外の入力を防ぐ。
     • cleanText() の結果を検証し、期待する形式の文字列であるか確認する。必要に応じて、さらに文字列の処理を行う。

2. ロケールによる挙動の違い
   

   • 原因
     cleanText() は現在のロケール設定に基づいて小数点や桁区切り文字を処理するため、異なるロケールで実行した場合に、期待と異なる文字列が返ることがある。
   • 対策
     
     • アプリケーションのターゲットとするロケールを明確にし、そのロケールでテストを行う。
     • ロケールに依存しない数値処理が必要な場合は、QLocale クラスを明示的に使用して数値を解析する (QLocale::toDouble(), QLocale::toInt()). cleanText() の結果を直接これらの関数に渡すのではなく、必要に応じて事前に文字列を調整する。

3. プレフィックスやサフィックスの影響
   

   • 原因
     QSpinBox にプレフィックス (setPrefix()) やサフィックス (setSuffix()) が設定されている場合、cleanText() はこれらの装飾を取り除いた文字列を返しますが、ユーザーがプレフィックスやサフィックスの一部を変更したり、誤って削除したりする可能性があります。
   • 対策
     
     • プレフィックスやサフィックスは固定文字列として扱い、ユーザーが編集できないように設定することを検討する（難しい場合もあります）。
     • cleanText() の結果だけでなく、value() 関数を使用して数値を取得することを推奨します。value() は QSpinBox が内部的に保持している数値を直接返すため、表示形式に依存しません。

4. バリデーターとの連携
   

   • 原因
     setValidator() で設定したバリデーターが、cleanText() が返す文字列を前提としていない場合、バリデーションが意図通りに機能しないことがある。
   • 対策
     
     • バリデーターは、ユーザーが入力する可能性のあるすべての文字列を考慮して設計する。
     • cleanText() が返す文字列の形式を把握し、バリデーターの正規表現や検証ロジックを適切に調整する。

5. 数値変換時のエラー
   

   • 原因
     cleanText() が返した文字列を toInt() や toDouble() で数値に変換する際に、依然として数値として解析できない文字が含まれている場合（例えば、複数の小数点など）。
   • 対策
     
     • cleanText() の結果を数値に変換する前に、さらに不要な文字を取り除く処理を追加する。
     • 数値変換関数の戻り値をチェックし、変換が成功したか確認する。エラーが発生した場合は、適切なエラー処理を行う。

トラブルシューティングのヒント

• Qtドキュメントの参照
  QSpinBox クラスや関連する関数（setValidator(), QLocale など）のドキュメントを再度確認し、正しい使用方法を理解する。
• テストケース
  様々な入力パターン（有効な数値、無効な文字、異なるロケール設定など）で QSpinBox の動作をテストし、予期しない挙動がないか確認する。
• デバッグ出力
  qDebug() を使用して、cleanText() が返す文字列や、その後の数値変換の結果をログ出力し、問題の原因を特定する。

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例1: cleanText() の基本的な使い方

この例では、QSpinBox の値が変更されたときに、cleanText() を使用して数値部分の文字列を取得し、それをラベルに表示します。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
#include <QString>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    QLabel label("Clean Text:");
    QLabel cleanTextLabel;

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&label);
    layout.addWidget(&cleanTextLabel);

    QObject::connect(&spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
                     [&](int value) {
        QString text = spinBox.cleanText();
        cleanTextLabel.setText(text);
    });

    window.setWindowTitle("QSpinBox CleanText Example");
    window.show();

    return a.exec();
}

解説

• 取得した文字列を cleanTextLabel に表示しています。
• ラムダ関数の中で、spinBox.cleanText() を呼び出し、数値部分の文字列を取得しています。
• QSpinBox の valueChanged シグナル（値が変更されたときに発行されるシグナル）をラムダ関数に接続しています。
• QSpinBox と QLabel を作成し、レイアウトに配置しています。

例2: プレフィックスとサフィックスがある場合の cleanText()

この例では、QSpinBox にプレフィックスとサフィックスを設定し、cleanText() がどのように数値部分だけを抽出するかを示します。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
#include <QString>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    spinBox.setPrefix("$");
    spinBox.setSuffix(" USD");

    QLabel label("Clean Text:");
    QLabel cleanTextLabel;

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&label);
    layout.addWidget(&cleanTextLabel);

    QObject::connect(&spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
                     [&](int value) {
        QString text = spinBox.cleanText();
        cleanTextLabel.setText(text);
    });

    window.setWindowTitle("QSpinBox CleanText with Prefix/Suffix");
    window.show();

    return a.exec();
}

解説

• ユーザーが例えば "$123 USD" と入力しても、cleanText() は "123" という文字列を返します。
• spinBox.setPrefix("$"); と spinBox.setSuffix(" USD"); で、プレフィックスとサフィックスを設定しています。

例3: ロケールによる小数点と桁区切り文字の違い

この例は、異なるロケール設定で cleanText() の挙動がどのように変わるかを示すための概念的なものです。実際にロケールを動的に切り替えるには、より複雑な設定が必要になります。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
#include <QString>
#include <QLocale>
#include <QPushButton>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    spinBox.setRange(0, 1000000);
    spinBox.setValue(123456);

    QLabel englishLabel("English (US) Clean Text:");
    QLabel englishCleanText;
    QLabel japaneseLabel("Japanese (JP) Clean Text:");
    QLabel japaneseCleanText;

    QPushButton englishButton("Set Locale to en_US");
    QPushButton japaneseButton("Set Locale to ja_JP");

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&englishButton);
    layout.addWidget(&englishLabel);
    layout.addWidget(&englishCleanText);
    layout.addWidget(&japaneseButton);
    layout.addWidget(&japaneseLabel);
    layout.addWidget(&japaneseCleanText);

    QObject::connect(&englishButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
        QLocale::setDefault(QLocale(QLocale::English, QLocale::UnitedStates));
        englishCleanText.setText(spinBox.cleanText());
    });

    QObject::connect(&japaneseButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
        QLocale::setDefault(QLocale(QLocale::Japanese, QLocale::Japan));
        japaneseCleanText.setText(spinBox.cleanText());
    });

    // 初期ロケールでの cleanText を表示
    if (QLocale::system().name().startsWith("ja_")) {
        japaneseCleanText.setText(spinBox.cleanText());
    } else {
        englishCleanText.setText(spinBox.cleanText());
    }


    window.setWindowTitle("QSpinBox CleanText with Locale");
    window.show();

    return a.exec();
}

解説

• 注意
  アプリケーション全体のロケールを変更することは、他の部分にも影響を与える可能性があるため、慎重に行う必要があります。特定の QSpinBox の振る舞いを制御したい場合は、QLocale オブジェクトを明示的に使用して数値の解析やフォーマットを行う方が良い場合があります。

例4: cleanText() の結果を数値に変換する

この例では、cleanText() で取得した文字列を toInt() 関数を使って整数に変換し、その結果を表示します。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
#include <QString>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    QLabel label("Clean Text:");
    QLabel cleanTextLabel;
    QLabel intValueLabel("Int Value:");
    QLabel intValueResult;

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&label);
    layout.addWidget(&cleanTextLabel);
    layout.addWidget(&intValueLabel);
    layout.addWidget(&intValueResult);

    QObject::connect(&spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
                     [&](int value) {
        QString text = spinBox.cleanText();
        cleanTextLabel.setText(text);
        bool ok;
        int intValue = text.toInt(&ok);
        if (ok) {
            intValueResult.setText(QString::number(intValue));
        } else {
            intValueResult.setText("Invalid Integer");
        }
    });

    window.setWindowTitle("QSpinBox CleanText to Int");
    window.show();

    return a.exec();
}

• ok 変数は、変換が成功したかどうかを示すブール値です。変換が成功した場合のみ、結果を intValueResult に表示します。
• cleanText() で取得した文字列に対して toInt(&ok) を呼び出し、整数に変換を試みています。

---

QSpinBox::value() を直接使用する

最も直接的で推奨される代替方法は、QSpinBox が内部的に保持している数値を取得する value() 関数を使用することです。この関数は int 型の値を直接返すため、テキスト形式の数値を扱う必要がありません。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    QLabel valueLabel("Value:");
    QLabel valueResult;

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&valueLabel);
    layout.addWidget(&valueResult);

    QObject::connect(&spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
                     [&](int value) {
        valueResult.setText(QString::number(value));
    });

    window.setWindowTitle("QSpinBox value() Example");
    window.show();

    return a.exec();
}

利点

• より安全で効率的な数値処理が可能です。
• ロケールや表示形式（プレフィックス、サフィックス）の影響を受けません。
• 数値型 (int) で直接値を取得できるため、文字列への変換や解析が不要です。

欠点

• 入力されたテキスト形式そのものを取得したい場合には適していません。

QSpinBox::text() と QString::toInt()/toDouble() を組み合わせる

QSpinBox の現在のテキストを取得する text() 関数と、QString の数値変換関数 (toInt(), toDouble()) を組み合わせて、数値を取得する方法です。この場合、ロケールを考慮した処理や、数値以外の文字の除去を自分で行う必要があります。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
#include <QString>
#include <QLocale>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    spinBox.setPrefix("$");
    spinBox.setSuffix(" USD");

    QLabel textLabel("Text:");
    QLabel textResult;
    QLabel intValueLabel("Int Value:");
    QLabel intValueResult;

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&textLabel);
    layout.addWidget(&textResult);
    layout.addWidget(&intValueLabel);
    layout.addWidget(&intValueResult);

    QObject::connect(&spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
                     [&](int value) {
        QString text = spinBox.text();
        textResult.setText(text);

        QLocale currentLocale; // 現在のロケールを使用
        bool ok;
        int intValue = currentLocale.toInt(text, &ok);
        if (ok) {
            intValueResult.setText(QString::number(intValue));
        } else {
            intValueResult.setText("Invalid Integer");
        }
    });

    window.setWindowTitle("QSpinBox text() and toInt() Example");
    window.show();

    return a.exec();
}

利点

• cleanText() よりも細かい制御で数値解析を行いたい場合に有効です（例えば、特定のプレフィックスやサフィックスを自分で処理するなど）。
• 入力されたテキストをそのまま取得できます。

欠点

• 数値以外の文字が混入している場合の処理を自分で実装する必要があります。cleanText() ほど自動的に不要な文字を取り除いてはくれません。
• ロケールを考慮した数値変換を明示的に行う必要があります。

QValidator を使用して入力制限と検証を行う

QSpinBox に QValidator を設定することで、ユーザーが入力できる内容を制限し、意図しない形式のテキストが入力されるのを防ぐことができます。これにより、後続の数値変換処理がより安全になります。

#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QVBoxLayout>
#include <QSpinBox>
#include <QLabel>
#include <QIntValidator>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QWidget window;
    QVBoxLayout layout(&window);

    QSpinBox spinBox;
    QIntValidator validator(-100, 100); // -100 から 100 までの整数のみ許可
    spinBox.setValidator(&validator);

    QLabel textLabel("Text:");
    QLabel textResult;
    QLabel valueLabel("Value:");
    QLabel valueResult;

    layout.addWidget(&spinBox);
    layout.addWidget(&textLabel);
    layout.addWidget(&textResult);
    layout.addWidget(&valueLabel);
    layout.addWidget(&valueResult);

    QObject::connect(&spinBox, &QSpinBox::textChanged,
                     [&](const QString &text) {
        textResult.setText(text);
    });

    QObject::connect(&spinBox, QOverload<int>::of(&QSpinBox::valueChanged),
                     [&](int value) {
        valueResult.setText(QString::number(value));
    });

    window.setWindowTitle("QSpinBox with QIntValidator");
    window.show();

    return a.exec();
}

利点

• 後続の数値処理を簡略化できます。
• 不正な入力自体を早期に防ぐことができます。

欠点

• より複雑な入力形式（例えば、浮動小数点数や特定の記号を含む数値）を許可する場合には、より高度なカスタムバリデーターが必要になる場合があります。

カスタムのスピンボックスを作成する

より高度な制御が必要な場合は、QSpinBox を継承して独自のカスタムスピンボックスを作成することもできます。これにより、入力の処理、表示形式、数値の取得方法などを完全にカスタマイズできます。

利点

• 特定のアプリケーション要件に完全に合致したコンポーネントを作成できます。
• 非常に柔軟な振る舞いを実現できます。

欠点

• QSpinBox の基本的な機能（範囲制限、ステップなど）を自分で実装する必要がある場合があります。
• 開発に時間と手間がかかります。

• QSpinBox の標準的な振る舞いを大幅に変更したい場合（カスタムスピンボックスを作成します）。
• 特定の入力形式のみを許可したい場合 (QValidator を使用します)。
• 入力されたテキストをそのまま扱いたい場合 (text() を使用し、必要に応じて自分で解析します)。
• 常に数値として値を取得したい場合 (value() が最適です)。