QGraphicsView::wheelEvent() の具体的な実装例

2025-01-18

QGraphicsView::wheelEvent() の解説

QGraphicsView::wheelEvent() は、Qt フレームワークにおける QGraphicsView クラスの仮想関数です。この関数は、マウスホイールがスクロールされたときに呼び出され、ビューのズームやパンなどの操作を実現するために使用されます。

基本的な使い方

  1. 継承
    QGraphicsView クラスを継承したカスタムクラスを作成します。
  2. オーバーライド
    wheelEvent() 関数をオーバーライドします。
  3. イベント処理
    イベントハンドラ内で、QWheelEvent オブジェクトから必要な情報を取得します。

QWheelEvent オブジェクト

QWheelEvent オブジェクトには、以下の情報を取得できます:

  • 位置
    マウスポインタの現在の位置。
  • ピクセルデルタ
    マウスホイールがスクロールしたピクセル数。
  • 角度デルタ
    マウスホイールが回転した角度の差分。

一般的な使い方の例

#include <QGraphicsView>
#include <QWheelEvent>

class MyGraphicsView : public QGraphicsView {
public:
    MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr   ) : QGraphicsView(parent) {}

protected:
    vo   id wheelEvent(QWheelEvent *event) override {
        // マウスホイールの回転方向を取得
        int delta = event->angleDelta().y();

        // ズームイン/アウトの処理
        if (delta > 0) {
            scale(1.2, 1.2); // 20% ズームイン
        } else {
            scale(0.8, 0.8); // 20% ズームアウト
        }

        // 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
        QGraphicsView::wheelEvent(event);
    }
};
  • QWheelEvent オブジェクトの情報を適切に利用して、ビューの操作をカスタマイズすることができます。
  • カスタムのイベント処理を実装する場合は、親クラスの wheelEvent() 関数を呼び出すことを忘れないでください。
  • QGraphicsView のデフォルトの動作では、マウスホイールによるスクロールが有効になっています。


QGraphicsView::wheelEvent() の一般的なエラーとトラブルシューティング

QGraphicsView::wheelEvent() の実装でよく発生するエラーと、それらの解決方法について説明します。

誤ったスケーリング

  • 解決方法
    • 角度デルタやピクセルデルタの符号を確認し、正しくスケーリングの増減を制御します。
    • スケーリングファクターを適切に計算します。例えば、20% ズームインの場合は 1.2、20% ズームアウトの場合は 0.8 といった具合です。
    • ビューの現在のスケールファクターを考慮して、スケーリングの量を調整します。
  • 原因
    角度デルタやピクセルデルタの誤った解釈、スケーリングファクターの計算ミスなど。
  • 問題
    ビューのスケーリングが意図しない方向や量になる。

ビューの境界外へのスクロール

  • 解決方法
    • ビューの現在の視覚範囲を取得し、スクロール後の範囲がコンテンツの境界内に収まるように制限します。
    • QGraphicsView の viewport() メソッドを使用して、ビューポートのサイズと位置を制御します。
  • 原因
    ビューの境界チェックやスクロール範囲の制限が適切に実装されていない。
  • 問題
    マウスホイールをスクロールすると、ビューがコンテンツの境界外に移動してしまう。

パフォーマンスの問題

  • 解決方法
    • QGraphicsView の最適化機能を利用します。例えば、シーンの更新を遅延させたり、最適化された描画アルゴリズムを使用したりします。
    • 高負荷な処理を別スレッドに移して、メインスレッドの負荷を軽減します。
    • ビューのキャッシュ機能を活用して、再描画を減らします。
  • 原因
    頻繁な再描画や複雑な計算による負荷。
  • 問題
    マウスホイールスクロール時に、ビューの更新が遅くなったり、カクついたりする。

イベントの競合

  • 解決方法
    • イベントキューの処理順序を考慮し、必要なイベントを適切に処理します。
    • イベントの重複を防止するために、イベントフィルタリングやフラグの利用を検討します。
    • QApplication の event フィルタを使用して、特定のイベントを事前に処理します。
  • 原因
    イベントキューの処理順序や、イベントの重複処理など。
  • 問題
    他のイベントハンドラと競合して、予期しない動作が発生する。
  • Qt のデバッグツールを使用して、メモリリークやパフォーマンスボトルネックを特定します。
  • コンソール出力やログファイルを使用して、エラーメッセージや警告を確認します。
  • デバッガーを使用して、イベントハンドラの呼び出し順序や変数の値を確認します。


QGraphicsView::wheelEvent() の例題解説

例題 1: 基本的なズームイン/ズームアウト

#include <QGraphicsView>
#include <QWheelEvent>

class MyGraphicsView : public QGraphicsView {
public:
    MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr   ) : QGraphicsView(parent) {}

protected:
    vo   id wheelEvent(QWheelEvent *event) override {
        // マウスホイールの回転方向を取得
        int delta = event->angleDelta().y();

        // ズームイン/アウトの処理
        if (delta > 0) {
            scale(1.2, 1.2); // 20% ズームイン
        } else {
            scale(0.8, 0.8); // 20% ズームアウト
        }

        // 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
        QGraphicsView::wheelEvent(event);
    }
};

解説

  1. マウスホイール回転方向の取得
    event->angleDelta().y() でマウスホイールの回転方向と量を取得します。正の値は上方向の回転、負の値は下方向の回転を表します。
  2. ズームイン/ズームアウト
    scale(factor, factor) メソッドを使用してビューをスケーリングします。factor の値が 1 より大きいとズームイン、1 より小さいとズームアウトになります。
  3. 親クラスのイベントハンドラ呼び出し
    QGraphicsView::wheelEvent(event) を呼び出すことで、デフォルトのホイールイベント処理も行われます。

例題 2: 中心点を固定したズーム

void MyGraphicsView::wheelEvent(QWheelEvent *event) {
    // マウスポインタの位置を取得
    QPointF point = mapToScene(event->pos());

    // ズームイン/アウト
    if (event->angleDelta().y() > 0) {
        scale(1.2, 1.2);
    } else {
        scale(0.8, 0.8);
    }

    // ズームの中心をマウスポインタの位置に設定
    centerOn(point);

    // 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
    QGraphicsView::wheelEvent(event);
}

解説

  1. マウスポインタの位置取得
    mapToScene(event->pos()) でマウスポインタのシーン座標を取得します。
  2. ズームイン/ズームアウト
    これは例題 1 と同じです。
  3. ズームの中心設定
    centerOn(point) メソッドを使用して、ズームの中心を指定したポイントに設定します。これにより、マウスポインタの位置を中心としてズームが行われます。

例題 3: パン機能の実装

void MyGraphicsView::wheelEvent(QWheelEvent *event) {
    if (event->modifiers() == Qt::ControlModifier) {
        // Ctrl キーを押しながらホイールをスクロールした場合、パン操作
        setTransformationAnchor(QGraphicsView::AnchorUnderMouse);
        horizontalScrollBar()->setValue(horizontalScrollBar()->value() - event->angleDelta().x());
        verticalScrollBar()->setValue(verticalScrollBar()->value() - event->angleDelta().y());
    } else {
        // 通常のズーム操作
        // ... (例題 1 または 2 のズーム処理)
    }

    // 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
    QGraphicsView::wheelEvent(event);
}
  1. Ctrl キーのチェック
    event->modifiers() == Qt::ControlModifier で Ctrl キーが押されているかどうかをチェックします。
  2. パン操作
    Ctrl キーが押されている場合、setTransformationAnchor(QGraphicsView::AnchorUnderMouse) でアンカーポイントをマウスポインタの位置に設定し、スクロールバーの値を調整することでパン操作を行います。


QGraphicsView::wheelEvent() の代替手法

QGraphicsView::wheelEvent() は、マウスホイールのイベントを処理する一般的な手法ですが、他にもいくつかの代替方法があります。

QGraphicsScene のイベントフィルタ

QGraphicsScene クラスの eventFilter() メソッドを使用して、シーンレベルでマウスホイールイベントをフィルタリングすることができます。これにより、複数の QGraphicsView が同じシーンを共有している場合でも、統一的なホイールイベント処理が可能になります。

bool MyScene::eventFilter(QObject *object, QEvent *event) {
    if (event->type() == QEvent::Wheel) {
        QWheelEvent *wheelEvent = static_cast<QWheelEvent*>(event);
        //    ホイールイベントの処理
        return true; // イベントを消費したことを示す
    }
    return QGraphicsScene::eventFilter(object, event);
}

QShortcut

QShortcut を使用して、特定のキーコンビネーション(例えば、Ctrl+ホイールスクロール)にカスタムのイベント処理を割り当てることができます。これにより、キーボードショートカットによるズームやパンなどの操作が可能になります。

QShortcut *zoomInShortcut = new QShortcut(QKeySequence(Qt::CTRL + Qt::Key_Plus), this);
connect(zoomInShortcut, &QShortcut::activated, this, &MyGraphicsView::zoomIn);

QShortcut *zoomOutShortcut = new QShortcut(QKeySequence(Qt::CTRL + Qt::Key_Minus), this);
connect(zoomOutShortcut, &QShortcut::activated, this, &MyGraphicsView::zoomOut);

QRubberBand

QRubberBand を使用して、ドラッグによる矩形選択やズーム領域の指定などのインタラクティブな操作を実現できます。

void MyGraphicsView::mousePressEvent(QMouseEvent *event) {
    if (event->button() == Qt::LeftButton) {
        rubberBand = new QRubberBand(QRubberBand::Rectangle, this);
        rubberBand->setGeometry(QRect(event->pos(), QSize()));
        rubberBand->show();
    }
}

void MyGraphicsView::mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) {
    if (rubberBand) {
        rubberBand->setGeometry(QRect(origin, event->pos()).normalized());
    }
}

void MyGraphicsView::mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) {
    if (rubberBand) {
        QRect rect = rubberBand->geometry();
        // 選択領域やズーム領域として利用
        rubberBand->hide();
        delete rubberBand;
        rubberBand = nullptr;
    }
}