QGraphicsView::wheelEvent() の具体的な実装例
QGraphicsView::wheelEvent() の解説
QGraphicsView::wheelEvent() は、Qt フレームワークにおける QGraphicsView クラスの仮想関数です。この関数は、マウスホイールがスクロールされたときに呼び出され、ビューのズームやパンなどの操作を実現するために使用されます。
基本的な使い方
- 継承
QGraphicsView クラスを継承したカスタムクラスを作成します。 - オーバーライド
wheelEvent() 関数をオーバーライドします。 - イベント処理
イベントハンドラ内で、QWheelEvent オブジェクトから必要な情報を取得します。
QWheelEvent オブジェクト
QWheelEvent オブジェクトには、以下の情報を取得できます:
- 位置
マウスポインタの現在の位置。 - ピクセルデルタ
マウスホイールがスクロールしたピクセル数。 - 角度デルタ
マウスホイールが回転した角度の差分。
一般的な使い方の例
#include <QGraphicsView>
#include <QWheelEvent>
class MyGraphicsView : public QGraphicsView {
public:
MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr ) : QGraphicsView(parent) {}
protected:
vo id wheelEvent(QWheelEvent *event) override {
// マウスホイールの回転方向を取得
int delta = event->angleDelta().y();
// ズームイン/アウトの処理
if (delta > 0) {
scale(1.2, 1.2); // 20% ズームイン
} else {
scale(0.8, 0.8); // 20% ズームアウト
}
// 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
QGraphicsView::wheelEvent(event);
}
};
- QWheelEvent オブジェクトの情報を適切に利用して、ビューの操作をカスタマイズすることができます。
- カスタムのイベント処理を実装する場合は、親クラスの wheelEvent() 関数を呼び出すことを忘れないでください。
- QGraphicsView のデフォルトの動作では、マウスホイールによるスクロールが有効になっています。
QGraphicsView::wheelEvent() の一般的なエラーとトラブルシューティング
QGraphicsView::wheelEvent() の実装でよく発生するエラーと、それらの解決方法について説明します。
誤ったスケーリング
- 解決方法
- 角度デルタやピクセルデルタの符号を確認し、正しくスケーリングの増減を制御します。
- スケーリングファクターを適切に計算します。例えば、20% ズームインの場合は 1.2、20% ズームアウトの場合は 0.8 といった具合です。
- ビューの現在のスケールファクターを考慮して、スケーリングの量を調整します。
- 原因
角度デルタやピクセルデルタの誤った解釈、スケーリングファクターの計算ミスなど。 - 問題
ビューのスケーリングが意図しない方向や量になる。
ビューの境界外へのスクロール
- 解決方法
- ビューの現在の視覚範囲を取得し、スクロール後の範囲がコンテンツの境界内に収まるように制限します。
- QGraphicsView の viewport() メソッドを使用して、ビューポートのサイズと位置を制御します。
- 原因
ビューの境界チェックやスクロール範囲の制限が適切に実装されていない。 - 問題
マウスホイールをスクロールすると、ビューがコンテンツの境界外に移動してしまう。
パフォーマンスの問題
- 解決方法
- QGraphicsView の最適化機能を利用します。例えば、シーンの更新を遅延させたり、最適化された描画アルゴリズムを使用したりします。
- 高負荷な処理を別スレッドに移して、メインスレッドの負荷を軽減します。
- ビューのキャッシュ機能を活用して、再描画を減らします。
- 原因
頻繁な再描画や複雑な計算による負荷。 - 問題
マウスホイールスクロール時に、ビューの更新が遅くなったり、カクついたりする。
イベントの競合
- 解決方法
- イベントキューの処理順序を考慮し、必要なイベントを適切に処理します。
- イベントの重複を防止するために、イベントフィルタリングやフラグの利用を検討します。
- QApplication の event フィルタを使用して、特定のイベントを事前に処理します。
- 原因
イベントキューの処理順序や、イベントの重複処理など。 - 問題
他のイベントハンドラと競合して、予期しない動作が発生する。
- Qt のデバッグツールを使用して、メモリリークやパフォーマンスボトルネックを特定します。
- コンソール出力やログファイルを使用して、エラーメッセージや警告を確認します。
- デバッガーを使用して、イベントハンドラの呼び出し順序や変数の値を確認します。
QGraphicsView::wheelEvent() の例題解説
例題 1: 基本的なズームイン/ズームアウト
#include <QGraphicsView>
#include <QWheelEvent>
class MyGraphicsView : public QGraphicsView {
public:
MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr ) : QGraphicsView(parent) {}
protected:
vo id wheelEvent(QWheelEvent *event) override {
// マウスホイールの回転方向を取得
int delta = event->angleDelta().y();
// ズームイン/アウトの処理
if (delta > 0) {
scale(1.2, 1.2); // 20% ズームイン
} else {
scale(0.8, 0.8); // 20% ズームアウト
}
// 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
QGraphicsView::wheelEvent(event);
}
};
解説
- マウスホイール回転方向の取得
event->angleDelta().y()
でマウスホイールの回転方向と量を取得します。正の値は上方向の回転、負の値は下方向の回転を表します。 - ズームイン/ズームアウト
scale(factor, factor)
メソッドを使用してビューをスケーリングします。factor
の値が 1 より大きいとズームイン、1 より小さいとズームアウトになります。 - 親クラスのイベントハンドラ呼び出し
QGraphicsView::wheelEvent(event)
を呼び出すことで、デフォルトのホイールイベント処理も行われます。
例題 2: 中心点を固定したズーム
void MyGraphicsView::wheelEvent(QWheelEvent *event) {
// マウスポインタの位置を取得
QPointF point = mapToScene(event->pos());
// ズームイン/アウト
if (event->angleDelta().y() > 0) {
scale(1.2, 1.2);
} else {
scale(0.8, 0.8);
}
// ズームの中心をマウスポインタの位置に設定
centerOn(point);
// 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
QGraphicsView::wheelEvent(event);
}
解説
- マウスポインタの位置取得
mapToScene(event->pos())
でマウスポインタのシーン座標を取得します。 - ズームイン/ズームアウト
これは例題 1 と同じです。 - ズームの中心設定
centerOn(point)
メソッドを使用して、ズームの中心を指定したポイントに設定します。これにより、マウスポインタの位置を中心としてズームが行われます。
例題 3: パン機能の実装
void MyGraphicsView::wheelEvent(QWheelEvent *event) {
if (event->modifiers() == Qt::ControlModifier) {
// Ctrl キーを押しながらホイールをスクロールした場合、パン操作
setTransformationAnchor(QGraphicsView::AnchorUnderMouse);
horizontalScrollBar()->setValue(horizontalScrollBar()->value() - event->angleDelta().x());
verticalScrollBar()->setValue(verticalScrollBar()->value() - event->angleDelta().y());
} else {
// 通常のズーム操作
// ... (例題 1 または 2 のズーム処理)
}
// 親クラスのイベントハンドラを呼び出す
QGraphicsView::wheelEvent(event);
}
- Ctrl キーのチェック
event->modifiers() == Qt::ControlModifier
で Ctrl キーが押されているかどうかをチェックします。 - パン操作
Ctrl キーが押されている場合、setTransformationAnchor(QGraphicsView::AnchorUnderMouse)
でアンカーポイントをマウスポインタの位置に設定し、スクロールバーの値を調整することでパン操作を行います。
QGraphicsView::wheelEvent() の代替手法
QGraphicsView::wheelEvent() は、マウスホイールのイベントを処理する一般的な手法ですが、他にもいくつかの代替方法があります。
QGraphicsScene のイベントフィルタ
QGraphicsScene クラスの eventFilter() メソッドを使用して、シーンレベルでマウスホイールイベントをフィルタリングすることができます。これにより、複数の QGraphicsView が同じシーンを共有している場合でも、統一的なホイールイベント処理が可能になります。
bool MyScene::eventFilter(QObject *object, QEvent *event) {
if (event->type() == QEvent::Wheel) {
QWheelEvent *wheelEvent = static_cast<QWheelEvent*>(event);
// ホイールイベントの処理
return true; // イベントを消費したことを示す
}
return QGraphicsScene::eventFilter(object, event);
}
QShortcut
QShortcut を使用して、特定のキーコンビネーション(例えば、Ctrl+ホイールスクロール)にカスタムのイベント処理を割り当てることができます。これにより、キーボードショートカットによるズームやパンなどの操作が可能になります。
QShortcut *zoomInShortcut = new QShortcut(QKeySequence(Qt::CTRL + Qt::Key_Plus), this);
connect(zoomInShortcut, &QShortcut::activated, this, &MyGraphicsView::zoomIn);
QShortcut *zoomOutShortcut = new QShortcut(QKeySequence(Qt::CTRL + Qt::Key_Minus), this);
connect(zoomOutShortcut, &QShortcut::activated, this, &MyGraphicsView::zoomOut);
QRubberBand
QRubberBand を使用して、ドラッグによる矩形選択やズーム領域の指定などのインタラクティブな操作を実現できます。
void MyGraphicsView::mousePressEvent(QMouseEvent *event) {
if (event->button() == Qt::LeftButton) {
rubberBand = new QRubberBand(QRubberBand::Rectangle, this);
rubberBand->setGeometry(QRect(event->pos(), QSize()));
rubberBand->show();
}
}
void MyGraphicsView::mouseMoveEvent(QMouseEvent *event) {
if (rubberBand) {
rubberBand->setGeometry(QRect(origin, event->pos()).normalized());
}
}
void MyGraphicsView::mouseReleaseEvent(QMouseEvent *event) {
if (rubberBand) {
QRect rect = rubberBand->geometry();
// 選択領域やズーム領域として利用
rubberBand->hide();
delete rubberBand;
rubberBand = nullptr;
}
}