Qt QGraphicsViewの初期化:showEvent()とresizeEvent()の使い分け
void QGraphicsView::showEvent(QShowEvent *event)
は、QtフレームワークにおけるQGraphicsView
クラスのプロテクトされた仮想関数です。
これは、QGraphicsView
ウィジェットが表示される時に、Qtシステムによって自動的に呼び出されるイベントハンドラです。
QGraphicsViewとは?
まず、QGraphicsView
について簡単に触れておきます。QGraphicsView
は、QGraphicsScene
(グラフィックアイテムを格納するキャンバスのようなもの)の内容をスクロール可能なビューポート(表示領域)に表示するためのウィジェットです。ズーム、パン、アイテムの選択など、グラフィックアイテムとのインタラクションを提供します。
showEvent()
は、そのQGraphicsView
インスタンスが初めて画面に表示されるとき、または隠れた状態から再び表示されるときにトリガーされます。
この関数をオーバーライド(再実装)することで、ビューが表示される直前または直後に特定の処理を実行できます。
具体的にどのような時に使われるか:
- ログの出力
デバッグ目的で、ビューが表示されたことをログに出力するなどに利用できます。 - アニメーションの開始
ビューが表示されたタイミングで、シーン内のアイテムのアニメーションを開始するなど、視覚的な効果をトリガーできます。 - リソースのロード/解放
ビューが表示されるときにのみ必要となるリソース(大きな画像やデータなど)をロードし、非表示になったときにhideEvent()
で解放する、といった最適化を行うことができます。 - 初期化処理
ビューが表示される際に一度だけ実行したい初期化処理(例:シーンの中心を特定の位置に設定する、特定のアイテムをフィットさせる、初期のズームレベルを設定するなど)を行うのに適しています。QGraphicsView
のコンストラクタでこれらの処理を行っても良いですが、ウィジェットが実際に表示されるまで、そのサイズやビューポートの準備が完了していない場合があります。showEvent()
はその準備ができた段階で呼ばれるため、より確実な処理が可能です。
使用例(C++)
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QShowEvent>
#include <QDebug> // for qDebug()
class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
public:
MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr)
: QGraphicsView(parent)
{
// コンストラクタでの初期化(通常ここで行う)
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(this);
setScene(scene);
scene->addRect(0, 0, 100, 100); // シーンに矩形を追加
}
protected:
// showEventをオーバーライド
void showEvent(QShowEvent *event) override
{
// 基底クラスのshowEventを必ず呼び出す
QGraphicsView::showEvent(event);
// ここにビューが表示される際に実行したい処理を記述
qDebug() << "MyGraphicsView が表示されました!";
// 例:シーン全体がビューに収まるように調整する
// fitInViewは、ビューが表示され、そのサイズが確定した後に行うと効果的です
fitInView(scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
}
};
// main関数などの使用例
/*
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyGraphicsView view;
view.setWindowTitle("My Graphics View Example");
view.show(); // ここでshowEventが呼び出される
return a.exec();
}
*/
QShowEvent *event
オブジェクトには、イベントに関する情報(例えば、それが真に表示されるイベントなのか、非表示から再表示されるイベントなのかなど)が含まれていますが、QGraphicsView::showEvent()
の一般的な使用では、このevent
オブジェクトを直接操作することはあまりありません。showEvent()
をオーバーライドする際は、必ず基底クラスのQGraphicsView::showEvent(event);
を呼び出すようにしてください。これを怠ると、Qtの内部的な表示処理が正しく行われない可能性があります。
showEvent()
は、QGraphicsView
が表示される際に非常に便利なイベントハンドラですが、誤った使い方をすると予期せぬ問題を引き起こすことがあります。
showEvent()が呼び出されない/期待通りに呼び出されない
原因とトラブルシューティング
- Python (PyQt/PySide) におけるインデントの問題
- Pythonでは、メソッドの定義におけるインデントが非常に重要です。
showEvent
メソッドのインデントが間違っていると、クラスのメソッドとして認識されず、単なるグローバル関数として扱われ、イベントがフックされません。 - トラブルシューティング
showEvent
メソッドが正しくクラス内にインデントされていることを確認してください。
- Pythonでは、メソッドの定義におけるインデントが非常に重要です。
- イベントフィルタリングによるブロック
- アプリケーションや親ウィジェットにインストールされたイベントフィルタが、
QShowEvent
を処理してしまい、QGraphicsView
に到達しない場合があります。 - トラブルシューティング
デバッグ出力やイベントフィルタの実装を確認し、QShowEvent
が意図せずブロックされていないかを確認してください。
- アプリケーションや親ウィジェットにインストールされたイベントフィルタが、
- QGraphicsViewが実際に表示されていない
view->show()
が呼び出されていない、または親ウィジェットに追加されていない場合、showEvent()
は呼び出されません。- トラブルシューティング
QGraphicsView
のインスタンスが作成され、適切にレイアウトに配置されるか、または独立したウィンドウとしてshow()
が呼び出されているかを確認してください。
showEvent()内でビューのサイズが不正な値になる
原因とトラブルシューティング
- showEvent()が呼び出された時点では、ビューの最終的なサイズが確定していない場合がある
- 特にレイアウトを使用している場合、ウィジェットのサイズ計算は、
showEvent()
が呼び出された直後に完了するわけではありません。showEvent()
の時点では、ビューのwidth()
やheight()
が0や予期せぬ小さな値を示すことがあります。 - トラブルシューティング
- QTimer::singleShot()を使用する
showEvent()
内から短い遅延(例:0ms)でスロットを呼び出すことで、イベントループが処理され、ビューのサイズが確定した後にコードを実行できます。これは最も一般的な解決策の一つです。// MyGraphicsView.h class MyGraphicsView : public QGraphicsView { Q_OBJECT // ... protected: void showEvent(QShowEvent *event) override; private slots: void delayedInitialization(); }; // MyGraphicsView.cpp #include <QTimer> void MyGraphicsView::showEvent(QShowEvent *event) { QGraphicsView::showEvent(event); QTimer::singleShot(0, this, &MyGraphicsView::delayedInitialization); } void MyGraphicsView::delayedInitialization() { // ここでビューのサイズを使った処理を行う (例: fitInView, centerOn) qDebug() << "ビューの幅:" << width() << "高さ:" << height(); if (scene()) { fitInView(scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio); } }
- QResizeEventをオーバーライドする
ビューのサイズが変更されるたびに処理を実行したい場合は、resizeEvent()
をオーバーライドすることを検討してください。ただし、showEvent()
と組み合わせることで、初回表示時にも対応できます。
- QTimer::singleShot()を使用する
- 特にレイアウトを使用している場合、ウィジェットのサイズ計算は、
showEvent()内で重い処理を実行し、UIがフリーズする
原因とトラブルシューティング
- GUIスレッドで時間のかかる処理を実行している
showEvent()
はGUIスレッドで実行されるため、ファイルI/O、複雑な計算、ネットワークリクエストなど、時間のかかる処理を実行すると、UIがフリーズしたり、応答しなくなったりします。- トラブルシューティング
- 別スレッドに処理をオフロードする
QtConcurrent
やQThread
を使用して、時間のかかる処理をバックグラウンドスレッドで実行し、完了後にGUIスレッドにシグナルを送ってUIを更新します。 - プログレスバーやスピナーを表示する
処理中にユーザーにフィードバックを提供することで、アプリケーションがフリーズしていると誤解されるのを防ぎます。 - データを分割して処理する
大量のデータを一度にロードするのではなく、少しずつロードして表示を更新するなどの工夫をします。 - QCoreApplication::processEvents()の使用は避ける
showEvent()
内でQCoreApplication::processEvents()
を呼び出すと、無限ループや予期せぬ動作につながることがあります(特にQShowEvent
が再度処理される可能性があるため)。通常は推奨されません。
- 別スレッドに処理をオフロードする
QGraphicsView::showEvent(event);の呼び忘れ
原因とトラブルシューティング
- 基底クラスのイベントハンドラを呼び出していない
showEvent()
をオーバーライドする際に、QGraphicsView::showEvent(event);
を呼び出さないと、Qtの内部的な表示処理が正しく行われず、ビューの表示がおかしくなったり、他のイベントが適切に処理されなかったりする可能性があります。- トラブルシューティング
オーバーライドしたshowEvent()
の先頭で、必ずQGraphicsView::showEvent(event);
を呼び出すようにしてください。
シーンやアイテムが正しく表示されない
- シーンの座標系やアイテムの位置が適切でない
fitInView()
やcenterOn()
を呼び出す前に、シーンの範囲(sceneRect()
)やアイテムの位置が正しく設定されているか確認してください。- トラブルシューティング
QGraphicsScene::setSceneRect()
でシーンの論理的な範囲を設定し、アイテムをその範囲内に配置します。必要に応じてQGraphicsView::fitInView()
を呼び出して、シーン全体がビューに収まるように調整します。
- QGraphicsSceneが設定されていない、または寿命が短い
QGraphicsView::setScene()
を呼び出していない場合、何も表示されません。また、QGraphicsScene
やQGraphicsItem
がスタック変数として定義され、showEvent()
を抜けた後に破棄されてしまうと、ビューに表示されなくなります。- トラブルシューティング
QGraphicsView::setScene()
が呼び出されていることを確認してください。QGraphicsScene
とQGraphicsItem
は通常、ヒープに作成し、QGraphicsView
のメンバー変数として保持するか、QGraphicsScene
の親としてQGraphicsView
を設定するなどして、適切な寿命を確保してください。
基本的な showEvent() のオーバーライド (C++)
この例では、QGraphicsView
が表示された際に、シーンのすべてのアイテムがビューに収まるように自動的にズーム/パンします。
// main.cpp
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QShowEvent> // QShowEventを使うために必要
#include <QDebug> // デバッグ出力用
#include <QTimer> // 遅延実行のために使用
// カスタムQGraphicsViewクラス
class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
Q_OBJECT // シグナルとスロットを使用する場合に必要
public:
MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr)
: QGraphicsView(parent)
{
// シーンを作成し、ビューに設定
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(this);
setScene(scene);
// シーンにいくつかアイテムを追加
// シーンの原点(0,0)から右下にアイテムを配置
scene->addRect(0, 0, 100, 100, QPen(Qt::blue), QBrush(Qt::cyan));
scene->addEllipse(150, 50, 80, 80, QPen(Qt::red), QBrush(Qt::magenta));
scene->addLine(-50, -50, 200, 200, QPen(Qt::green, 5)); // シーンの負の座標にもアイテム
scene->addText("Hello, GraphicsView!");
// シーンの論理的な範囲を設定(アイテムのバウンディングボックスに基づいて自動設定されることも多いが、明示的に設定することも可能)
scene->setSceneRect(-100, -100, 400, 300); // 例として手動で設定
}
protected:
// showEvent()をオーバーライド
void showEvent(QShowEvent *event) override
{
// **重要:** 基底クラスのshowEventを必ず呼び出す
QGraphicsView::showEvent(event);
qDebug() << "MyGraphicsView::showEvent() が呼び出されました。";
qDebug() << "ビューの現在のサイズ:" << size();
// ここで fitInView() などの処理を行うと、
// showEventが呼び出された時点ではビューのサイズがまだ確定していない場合があるため、
// 期待通りに動作しないことがあります。
// **解決策:** QTimer::singleShot() を使って少し遅延させて実行する
// 0msの遅延は、現在のイベントループの処理が完了した直後にスロットを実行することを意味します。
QTimer::singleShot(0, this, &MyGraphicsView::performDelayedSetup);
}
private slots:
// 遅延実行されるスロット
void performDelayedSetup()
{
qDebug() << "遅延初期化を実行中 (ビューのサイズ: " << width() << "x" << height() << ")";
// シーン全体がビューに収まるように調整
if (scene()) {
fitInView(scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
qDebug() << "fitInView() が呼び出されました。";
}
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
QMainWindow mainWindow;
MyGraphicsView *graphicsView = new MyGraphicsView(&mainWindow);
mainWindow.setCentralWidget(graphicsView);
mainWindow.setWindowTitle("QGraphicsView showEvent Example (C++)");
mainWindow.resize(600, 400); // メインウィンドウの初期サイズ
mainWindow.show(); // ここで MyGraphicsView::showEvent() がトリガーされる
return app.exec();
}
#include "main.moc" // MOCファイルを含めるのを忘れずに
解説 (C++)
- MyGraphicsViewクラスの定義
QGraphicsView
を継承し、showEvent
メソッドをオーバーライドしています。 - コンストラクタ
QGraphicsScene
を作成し、いくつかのQGraphicsItem
(矩形、楕円、線、テキスト)を追加しています。setSceneRect()
でシーンの論理的な範囲も設定しています。 - showEvent(QShowEvent *event) override
QGraphicsView::showEvent(event);
を必ず呼び出します。これにより、Qtの内部的な表示処理が正しく行われます。qDebug()
で、showEvent
が呼び出されたことと、その時点でのビューのサイズを出力しています。fitInView()
などのビューのサイズに依存する処理は、showEvent
が呼び出された直後だとビューの実際のサイズが確定していない場合があるため、QTimer::singleShot(0, this, &MyGraphicsView::performDelayedSetup);
を使用して遅延実行させています。
- performDelayedSetup()スロット
QTimer::singleShot(0, ...)
によって、イベントループが一度処理された後に呼び出されます。この時点では、ビューのサイズが確定している可能性が高いため、fitInView(scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
を安全に呼び出すことができます。これは「アスペクト比を維持してシーン全体をビューに収める」という意味です。
- main関数
QApplication
、QMainWindow
、MyGraphicsView
のインスタンスを作成します。mainWindow.setCentralWidget(graphicsView);
でMyGraphicsView
をメインウィンドウの中央ウィジェットとして設定します。mainWindow.show();
を呼び出すと、graphicsView
も表示され、その結果MyGraphicsView::showEvent()
がトリガーされます。#include "main.moc"
は、QtのMOC (Meta-Object Compiler) が生成するファイルをインクルードするためのもので、シグナルとスロットを使用するカスタムクラスには必須です。
PyQtやPySideでも同様の概念でshowEvent()
をオーバーライドできます。
# main.py
import sys
from PyQt6.QtWidgets import (
QApplication, QMainWindow, QGraphicsView, QGraphicsScene,
QGraphicsRectItem, QGraphicsEllipseItem, QGraphicsLineItem, QGraphicsTextItem
)
from PyQt6.QtGui import QPen, QBrush, QShowEvent
from PyQt6.QtCore import Qt, QTimer, pyqtSlot
# カスタムQGraphicsViewクラス
class MyGraphicsView(QGraphicsView):
def __init__(self, parent=None):
super().__init__(parent)
# シーンを作成し、ビューに設定
self.scene = QGraphicsScene(self)
self.setScene(self.scene)
# シーンにいくつかアイテムを追加
self.scene.addRect(0, 0, 100, 100, QPen(Qt.GlobalColor.blue), QBrush(Qt.GlobalColor.cyan))
self.scene.addEllipse(150, 50, 80, 80, QPen(Qt.GlobalColor.red), QBrush(Qt.GlobalColor.magenta))
self.scene.addLine(-50, -50, 200, 200, QPen(Qt.GlobalColor.green, 5))
self.scene.addText("Hello, GraphicsView!")
# シーンの論理的な範囲を設定
self.scene.setSceneRect(-100, -100, 400, 300)
# showEvent()をオーバーライド
def showEvent(self, event: QShowEvent):
# **重要:** 基底クラスのshowEventを必ず呼び出す
super().showEvent(event)
print("MyGraphicsView.showEvent() が呼び出されました。")
print(f"ビューの現在のサイズ: {self.size()}")
# **解決策:** QTimer.singleShot() を使って少し遅延させて実行する
QTimer.singleShot(0, self.perform_delayed_setup)
@pyqtSlot() # スロットであることを明示 (必須ではないが推奨)
def perform_delayed_setup(self):
print(f"遅延初期化を実行中 (ビューのサイズ: {self.width()}x{self.height()})")
# シーン全体がビューに収まるように調整
if self.scene:
self.fitInView(self.scene.sceneRect(), Qt.AspectRatioMode.KeepAspectRatio)
print("fitInView() が呼び出されました。")
if __name__ == "__main__":
app = QApplication(sys.argv)
main_window = QMainWindow()
graphics_view = MyGraphicsView(main_window)
main_window.setCentralWidget(graphics_view)
main_window.setWindowTitle("QGraphicsView showEvent Example (Python)")
main_window.resize(600, 400)
main_window.show() # ここで MyGraphicsView.showEvent() がトリガーされる
sys.exit(app.exec())
- インポート
必要なQtモジュールをインポートします。 - MyGraphicsViewクラスの定義
QGraphicsView
を継承し、showEvent
メソッドをオーバーライドしています。 - コンストラクタ (
__init__
): C++版と同様に、シーンとアイテムを設定します。Pythonではsuper().__init__(parent)
で基底クラスのコンストラクタを呼び出します。 - showEvent(self, event: QShowEvent)
super().showEvent(event)
を呼び出して基底クラスの処理を実行します。QTimer.singleShot(0, self.perform_delayed_setup)
を使用して、perform_delayed_setup
メソッドを遅延実行させます。
- perform_delayed_setup()メソッド
@pyqtSlot()
デコレータは、このメソッドがQtのスロットであることを示しますが、PyQt/PySideでは必須ではありません(ただし、可読性と互換性のために推奨されます)。- ここで
fitInView()
を呼び出し、シーン全体をビューに収めます。
- メインの実行ブロック (
if __name__ == "__main__":
)QApplication
、QMainWindow
、MyGraphicsView
のインスタンスを作成します。main_window.setCentralWidget(graphics_view)
でビューをメインウィンドウに設定します。main_window.show()
でウィンドウを表示すると、MyGraphicsView
のshowEvent()
が呼び出されます。app.exec()
でイベントループを開始します。
resizeEvent() のオーバーライド
showEvent()
がウィジェットの表示時に一度だけ呼び出されるのに対し、resizeEvent()
はウィジェットのサイズが変更されるたびに呼び出されます。
使いどころ
- ビューのサイズが初期表示時だけでなく、ユーザーがウィンドウのサイズを変更した際にも、シーンの表示を調整したい場合(例:
fitInView()
の呼び出し)。
利点
- ビューのサイズ変更に動的に対応できる。
- ビューの実際のサイズが確定しているため、
width()
やheight()
が常に正しい値を示す。
注意点
- 頻繁に呼び出されるため、重い処理を行うとパフォーマンスに影響が出る可能性があります。
showEvent()
よりも先にresizeEvent()
が呼び出される場合があるため、初回表示時の特定の初期化(例えば、まだ存在しないシーンにアクセスするなど)を行う場合は、フラグなどで初回実行を制御する必要があります。
コード例 (C++):
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QResizeEvent> // QResizeEventを使うために必要
#include <QDebug>
class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
Q_OBJECT
public:
MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr)
: QGraphicsView(parent)
{
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(this);
setScene(scene);
scene->addRect(0, 0, 100, 100);
scene->setSceneRect(-100, -100, 400, 300);
}
protected:
void resizeEvent(QResizeEvent *event) override
{
// **重要:** 基底クラスのresizeEventを必ず呼び出す
QGraphicsView::resizeEvent(event);
qDebug() << "MyGraphicsView::resizeEvent() が呼び出されました。";
qDebug() << "ビューの新しいサイズ:" << event->size();
// シーン全体がビューに収まるように調整
if (scene()) {
// ここではビューのサイズが確定している
fitInView(scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
qDebug() << "fitInView() が呼び出されました。";
}
}
};
// main関数は前回の例と同様
イベントフィルタ (eventFilter()) を使用する
eventFilter()
は、特定のオブジェクトに対して発生するイベントを、そのオブジェクト自身ではなく、別のオブジェクトで処理するための強力なメカニズムです。これにより、QGraphicsView
をサブクラス化せずにshowEvent
やresizeEvent
を処理できます。
使いどころ
- 複数のビューに対して共通のイベント処理ロジックを適用したい場合。
- 既存の
QGraphicsView
クラスを変更したくないが、その表示やサイズ変更のイベントを捕捉して処理したい場合。
利点
- 柔軟性が高い。
- クラスの継承ツリーを変更する必要がない。
注意点
eventFilter
をインストールし、不要になったらアンインストールする責任がある。- イベント処理のロジックが分散する可能性がある。
コード例 (C++):
#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QEvent> // イベントタイプのために必要
#include <QShowEvent>
#include <QResizeEvent>
#include <QDebug>
#include <QTimer>
class ViewEventHandler : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
ViewEventHandler(QGraphicsView *view, QObject *parent = nullptr)
: QObject(parent), m_view(view)
{
// イベントフィルタをビューにインストール
m_view->installEventFilter(this);
}
protected:
bool eventFilter(QObject *obj, QEvent *event) override
{
if (obj == m_view) {
if (event->type() == QEvent::Show) {
QShowEvent *showEvent = static_cast<QShowEvent*>(event);
qDebug() << "イベントフィルタ: QGraphicsView::showEvent() が呼び出されました。";
// showEvent()と同様に遅延実行を推奨
QTimer::singleShot(0, this, &ViewEventHandler::performDelayedSetup);
// イベントを処理し続行させる
return false;
} else if (event->type() == QEvent::Resize) {
QResizeEvent *resizeEvent = static_cast<QResizeEvent*>(event);
qDebug() << "イベントフィルタ: QGraphicsView::resizeEvent() が呼び出されました。";
// リサイズイベントが発生するたびに実行したい処理
if (m_view->scene()) {
m_view->fitInView(m_view->scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
qDebug() << "イベントフィルタ: fitInView() が呼び出されました。";
}
// イベントを処理し続行させる
return false;
}
}
// その他のイベントは通常通り処理
return QObject::eventFilter(obj, event);
}
private slots:
void performDelayedSetup()
{
qDebug() << "イベントフィルタ: 遅延初期化を実行中 (ビューのサイズ: "
<< m_view->width() << "x" << m_view->height() << ")";
if (m_view->scene()) {
m_view->fitInView(m_view->scene()->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
qDebug() << "イベントフィルタ: fitInView() が呼び出されました。";
}
}
private:
QGraphicsView *m_view;
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication app(argc, argv);
QMainWindow mainWindow;
QGraphicsView *graphicsView = new QGraphicsView(&mainWindow);
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(graphicsView);
graphicsView->setScene(scene);
scene->addRect(0, 0, 100, 100, QPen(Qt::blue), QBrush(Qt::cyan));
scene->addEllipse(150, 50, 80, 80, QPen(Qt::red), QBrush(Qt::magenta));
scene->setSceneRect(-100, -100, 400, 300);
// イベントハンドラをビューにアタッチ
ViewEventHandler *eventHandler = new ViewEventHandler(graphicsView, &mainWindow); // 親を設定してメモリ管理を委譲
mainWindow.setCentralWidget(graphicsView);
mainWindow.setWindowTitle("QGraphicsView Event Filter Example (C++)");
mainWindow.resize(600, 400);
mainWindow.show();
return app.exec();
}
#include "main.moc"
QEvent::DeferredResize を監視する (非推奨/注意が必要)
Qtの内部イベントの中にはQEvent::DeferredResize
というものがありますが、これは通常、アプリケーション開発者が直接扱うべきイベントではありません。ウィジェットの最終的なサイズが確定した後に発行されることを意図していますが、その挙動は複雑で、QTimer::singleShot(0, ...)
の方がより安全で予測可能です。
注意点
showEvent()
やresizeEvent()
、またはQTimer::singleShot(0, ...)
で十分な場合は、この方法を避けるべきです。- 公式ドキュメントで推奨されている方法ではない。
- Qtのプライベートな実装に依存する可能性がある。
QGraphicsViewのコンストラクタで初期化ロジックの一部を実行する
シンプルなケースでは、QGraphicsView
のコンストラクタでシーンの設定や初期アイテムの追加などを行うことは可能です。ただし、ビューの実際のサイズが確定していないため、fitInView()
のようなサイズに依存する操作は、正確には行えません。
使いどころ
- ビューのサイズに依存しない、基本的なシーンのセットアップ。
注意点
width()
やheight()
はコンストラクタの段階では通常0。
コード例 (C++):
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QDebug>
class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
public:
MyGraphicsView(QWidget *parent = nullptr)
: QGraphicsView(parent)
{
qDebug() << "MyGraphicsViewコンストラクタ: ビューのサイズ:" << size(); // 0x0である可能性が高い
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene(this);
setScene(scene);
scene->addRect(0, 0, 100, 100);
scene->setSceneRect(-100, -100, 400, 300);
// ここでfitInView()を呼び出しても、ビューのサイズがまだ確定していないため、期待通りの結果にならないことが多い
// fitInView(scene->sceneRect(), Qt::KeepAspectRatio);
}
// ... (他のメソッドは省略)
};
- 既存クラスのコードを変更できない場合や、イベント処理を分離したい場合
イベントフィルタ(eventFilter()
)が強力な選択肢となります。 - 動的なサイズ変更にも対応したい場合
resizeEvent()
をオーバーライドし、その中でfitInView()
などの処理を実行します。初回表示時のサイズ確定を確実にしたい場合は、showEvent()
とresizeEvent()
を組み合わせるか、resizeEvent()
内で初回フラグを設けるなどの工夫をします。 - 最も一般的で推奨される方法
showEvent()
をオーバーライドし、その内部でQTimer::singleShot(0, this, &MyGraphicsView::delayedSetup)
を使ってビューのサイズに依存する処理を遅延実行する。これにより、初回表示時の適切な初期化とサイズ調整が可能です。