Qt Graphics Viewで描画トラブル解決!QGraphicsView::scene()のエラーと対策
QGraphicsView と QGraphicsScene の関係
QtのGraphics View Frameworkは、2Dグラフィックスを表示するための強力なフレームワークです。このフレームワークは主に以下の2つのクラスで構成されています。
-
QGraphicsScene
:- これは、グラフィックアイテム(
QGraphicsItem
を継承したオブジェクト、例:QGraphicsRectItem
、QGraphicsEllipseItem
、QGraphicsTextItem
など)を管理するキャンバスのようなものです。 - シーンは、アイテムの配置、インタラクション(選択、移動、衝突検出など)、インデックス作成などを担当します。
- 基本的には、目に見えないデータ構造であり、グラフィックアイテムの論理的な配置を定義します。
- これは、グラフィックアイテム(
-
QGraphicsView
:- これは、
QGraphicsScene
の内容をユーザーに表示するためのウィジェット(QWidget
を継承)です。 - ビューは、シーンの一部または全体を表示できます。ズーム、パン、回転などの操作をサポートし、ユーザーがシーン内をナビゲートできるようにします。
- 複数の
QGraphicsView
が同じQGraphicsScene
を表示することも可能です。これにより、同じシーンを異なる視点や拡大率で同時に見ることができます。
- これは、
QGraphicsView::scene()
の役割
QGraphicsView::scene()
関数は、特定のQGraphicsView
インスタンスが現在どのQGraphicsScene
を表示しているかを知るために使用されます。この関数が返すQGraphicsScene
へのポインタを使って、そのシーンに対して以下のような操作を行うことができます。
- シーン内のアイテムへのアクセス: シーン内の特定のアイテムを検索したり、すべてのアイテムのリストを取得したりできます。
QGraphicsScene* currentScene = view->scene(); if (currentScene) { QList<QGraphicsItem*> items = currentScene->items(); // シーン内のすべてのアイテムを取得 // ... アイテムを処理 }
- シーン全体のプロパティ変更: シーンの背景ブラシ、シーンの境界(
sceneRect
)、またはシーンの選択モードなどを変更できます。QGraphicsScene* currentScene = view->scene(); if (currentScene) { currentScene->setBackgroundBrush(Qt::lightGray); // シーンの背景色を設定 }
- アイテムの追加・削除: シーンに新しいグラフィックアイテムを追加したり、既存のアイテムを削除したりできます。
QGraphicsScene* currentScene = view->scene(); if (currentScene) { currentScene->addRect(0, 0, 100, 100); // シーンに四角形を追加 }
使用例のシナリオ
例えば、ユーザーがビュー内でマウスをクリックしたときに、そのクリック位置に新しいアイテムを追加したい場合を考えます。QGraphicsView
のmousePressEvent
をオーバーライドし、その中でscene()
関数を使って現在表示されているシーンにアクセスし、アイテムを追加します。
// MyGraphicsView.h
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QMouseEvent>
class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
Q_OBJECT
public:
MyGraphicsView(QGraphicsScene* scene, QWidget* parent = nullptr) : QGraphicsView(scene, parent) {}
protected:
void mousePressEvent(QMouseEvent* event) override {
// ビュー座標をシーン座標に変換
QPointF scenePos = mapToScene(event->pos());
// シーンにアクセスしてアイテムを追加
if (scene()) {
scene()->addEllipse(scenePos.x() - 5, scenePos.y() - 5, 10, 10); // クリック位置に円を追加
}
QGraphicsView::mousePressEvent(event); // 元のイベントハンドラを呼び出す
}
};
// main.cpp
#include <QApplication>
#include <QGraphicsScene>
#include <MyGraphicsView.h>
int main(int argc, char* argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QGraphicsScene scene;
MyGraphicsView view(&scene); // シーンをビューに設定
view.setWindowTitle("QGraphicsView::scene() Example");
view.resize(800, 600);
view.show();
return a.exec();
}
この例では、MyGraphicsView::mousePressEvent
内でscene()
を呼び出すことで、現在MyGraphicsView
が表示しているQGraphicsScene
へのポインタを取得し、そのシーンに新しい円形のアイテムを追加しています。
QGraphicsView
とQGraphicsScene
は密接に連携するため、これらのクラスを扱う際にはいくつかの共通の問題が発生しやすいです。QGraphicsView::scene()
はそのシーンオブジェクトへのアクセス手段を提供するため、この関数自体が直接エラーを引き起こすことは稀ですが、取得したシーンオブジェクトを不適切に扱うことによって問題が生じることがほとんどです。
シーンが設定されていない (nullptr が返される)
エラーの状況
QGraphicsView::scene()
を呼び出した際に、期待されるQGraphicsScene
オブジェクトへのポインタではなく、nullptr
が返されることがあります。これは、ビューにシーンが全く設定されていない場合に発生します。その後、返されたnullptr
に対してメンバー関数を呼び出そうとすると、アプリケーションがクラッシュします(セグメンテーション違反)。
原因
- シーンオブジェクトがスコープ外に出て破棄された。
QGraphicsView
のコンストラクタでシーンを渡していない。QGraphicsView::setScene()
を呼び出していない。
トラブルシューティング
- デバッガの使用
デバッガでQGraphicsView::scene()
が呼び出された直後の戻り値を確認し、nullptr
でないことを確かめてください。 - シーンのライフサイクル
QGraphicsScene
オブジェクトが、QGraphicsView
が表示されている間、有効な状態にあることを確認してください。例えば、ローカルスコープでQGraphicsScene
を作成し、すぐにスコープを抜けてしまうと、シーンは破棄され、ビューは無効なポインタを参照しようとします。通常、QGraphicsScene
は動的に確保(new QGraphicsScene()
)するか、親オブジェクトを持つクラスのメンバー変数として宣言し、適切なタイミングで破棄されるように管理します。// 悪い例:シーンがスコープ外で破棄される void MyWindow::setupView() { QGraphicsScene scene; // ローカル変数 ui->graphicsView->setScene(&scene); // ここを抜けると'scene'は破棄される } // 良い例:シーンをメンバー変数にするか、newで動的に確保して管理する class MyWindow : public QMainWindow { // ... QGraphicsScene* myScene; // メンバー変数としてポインタで管理 // または QGraphicsScene myScene; // メンバー変数としてオブジェクトで管理 }; MyWindow::MyWindow(...) { myScene = new QGraphicsScene(this); // 親をMainWindowに設定して自動破棄を期待 ui->graphicsView->setScene(myScene); }
- setScene() の呼び出しを確認
QGraphicsView
のインスタンスを作成した後、必ずview->setScene(&myScene);
のようにしてQGraphicsScene
オブジェクトをビューに設定していることを確認してください。
シーンが更新されない/変更が反映されない
エラーの状況
QGraphicsScene
にアイテムを追加したり、アイテムのプロパティを変更したりしても、QGraphicsView
に表示される内容が更新されないことがあります。
原因
- 間違ったオブジェクトへの操作
複数のシーンやビューが存在する場合、操作しているシーンが、実際にビューに表示されているシーンと異なる。 - 更新のトリガーがない
QGraphicsScene
やQGraphicsItem
に変更を加えた際に、ビューに再描画を促すメカニズムが不足している。
トラブルシューティング
- 正しいシーンへのアクセス
QGraphicsView::scene()
で取得したポインタが、実際にアイテムを追加したい、または更新したいシーンであるか再確認してください。特に、複数のビューやシーンを扱うアプリケーションでは混乱しやすいです。 - 明示的な更新
- QGraphicsView::update() / QGraphicsView::viewport()->update()
ビュー全体を再描画したい場合に呼び出します。 - QGraphicsScene::update() / QGraphicsScene::update(rect)
シーン全体または特定の領域を再描画したい場合に呼び出します。通常、アイテムの追加・削除やプロパティ変更は自動的にシーンを更新しますが、まれに手動での呼び出しが必要になることがあります。 - QGraphicsItem::update() / QGraphicsItem::update(rect)
個々のアイテムの変更は、通常そのアイテム自身がupdate()
を呼び出すことで自動的にビューに反映されますが、カスタムアイテムで描画ロジックを変更した場合など、明示的に呼び出す必要がある場合があります。
- QGraphicsView::update() / QGraphicsView::viewport()->update()
シーンの座標系とビューの座標系の混同
エラーの状況
マウスイベントの座標やアイテムの配置が、期待する位置とずれる、または正しく表示されない。これは、ビュー座標(ウィジェットのピクセル座標)とシーン座標(グラフィカルなアイテムが配置される抽象的な座標)の変換を誤っている場合に発生します。
原因
- アイテムをシーンに追加する際に、直接ビュー座標を指定してしまっている。
QGraphicsView::mapToScene()
やQGraphicsView::mapFromScene()
を適切に使用していない。
トラブルシューティング
- mapToScene() / mapFromScene() の使用
- マウスイベント(ビュー座標)をシーン座標に変換する場合:
QPointF scenePos = view->mapToScene(event->pos()); // その後、scenePos を使ってシーンにアイテムを追加したり、アイテムを操作したりする
- シーン座標をビュー座標に変換する場合:
QPoint viewPos = view->mapFromScene(myGraphicsItem->pos()); // その後、viewPos を使ってウィジェットの表示位置を調整する
- マウスイベント(ビュー座標)をシーン座標に変換する場合:
- 座標変換の理解
- ビュー座標 (View Coordinates)
QGraphicsView
ウィジェット内のピクセル座標。マウスイベントは通常この座標で提供されます。 - シーン座標 (Scene Coordinates)
QGraphicsScene
内の論理的な座標。すべてのQGraphicsItem
はこの座標系で配置されます。 - アイテム座標 (Item Coordinates)
各QGraphicsItem
自身の内部座標。
- ビュー座標 (View Coordinates)
シーンが大きすぎる/ズーム・パンのパフォーマンス問題
エラーの状況
非常に広い範囲を持つQGraphicsScene
を使用している場合や、多くのアイテムがある場合に、スクロールバーが正しく機能しない、またはズームやパンの操作が非常に遅くなることがあります。
原因
- 不適切なキャッシュモード
QGraphicsView
のキャッシュモードがパフォーマンスに最適化されていない。 - 大量のアイテム
シーン内のアイテム数が多すぎると、描画や衝突検出のパフォーマンスが低下します。 - シーン範囲の広さ
QGraphicsScene
のsceneRect()
が非常に大きい(特に整数オーバーフローを招くようなサイズ)と、QGraphicsView
のスクロールバーの計算に問題が生じることがあります。
トラブルシューティング
- アイテム数の管理
- 必要に応じて、画面外のアイテムの描画をスキップするなどの最適化を検討します。
QGraphicsItem
のグループ化(QGraphicsItemGroup
)や、複雑な描画を単一のカスタムアイテムとして実装することで、アイテム数を論理的に削減できます。- LOD (Level of Detail) を実装し、ズームレベルに応じてアイテムの描画詳細度を変えることも有効です。
- キャッシュモードの利用
view->setCacheMode(QGraphicsView::CacheBackground);
view->setCacheMode(QGraphicsView::CacheNone);
(初期設定、描画が非常に動的な場合に有効)view->setCacheMode(QGraphicsView::CacheBackground | QGraphicsView::CacheItems);
適切にキャッシュを利用することで、再描画のコストを削減できます。
- スクロールバーの挙動調整
QGraphicsView
のsetRenderHints()
やsetViewportUpdateMode()
を調整することでパフォーマンスが改善することがあります。また、setOptimizationFlag()
を使用することも検討してください。 - シーン座標の正規化/スケールダウン
シーン内のアイテムの座標が非常に大きい場合、全体をスケールダウンして、より小さい範囲に収まるように検討してください。ビューでズーム係数を調整することで、視覚的なサイズは維持できます。
シーンやビューが全く表示されない
エラーの状況
アプリケーションを実行しても、QGraphicsView
ウィジェット自体が表示されない、または真っ白な画面が表示される。
原因
- グラフィックスレンダリングの問題 (OpenGLなど)。
- アイテムがシーンに追加されていない。
- シーンがビューに設定されていない。
- ウィジェットがレイアウトに追加されていない、または表示されていない (
show()
が呼び出されていない)。
- グラフィックスレンダリングバックエンドの変更
特定の環境でレンダリングの問題が発生する場合、QGraphicsView
のレンダリングバックエンドを変更してみることが有効な場合があります。view->setViewport(new QOpenGLWidget()); // OpenGLを使用 // または view->setViewport(new QWidget()); // デフォルトのQPainterレンダリングに戻す
- シーンとアイテムの確認
QGraphicsScene* scene = new QGraphicsScene();
view->setScene(scene);
scene->addRect(0, 0, 100, 100);
(テスト用のアイテムを追加して表示されるか確認)
- ウィジェットの表示確認
QGraphicsView
インスタンスがQWidget
の子として正しく追加され、show()
が呼び出されているか確認してください。
以下に、QGraphicsView::scene()
に関連する典型的なプログラミング例をいくつか示します。
例1: 基本的な設定とアイテムの追加
最も基本的な使用例で、QGraphicsView
にQGraphicsScene
を設定し、そのシーンにアイテムを追加する方法を示します。
// main.cpp
#include <QApplication>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QGraphicsTextItem>
#include <QVBoxLayout>
#include <QPushButton>
#include <QWidget>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
// 1. QGraphicsSceneを作成
// シーンはグラフィックアイテムを保持するキャンバスのようなもの
QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene();
// 2. QGraphicsViewを作成
// ビューはシーンの内容を表示するウィジェット
QGraphicsView *view = new QGraphicsView();
// 3. ビューにシーンを設定
// ここで QGraphicsView と QGraphicsScene が関連付けられる
view->setScene(scene);
// 4. シーンにアイテムを追加
// scene->addRect は QGraphicsRectItem を作成し、シーンに追加してそのポインタを返す
QGraphicsRectItem *rectItem = scene->addRect(0, 0, 100, 50, QPen(Qt::blue), QBrush(Qt::cyan));
rectItem->setPos(50, 50); // シーン座標で位置を設定
rectItem->setFlag(QGraphicsItem::ItemIsMovable); // アイテムをドラッグ可能にする
QGraphicsTextItem *textItem = scene->addText("Hello, Qt Graphics View!");
textItem->setPos(100, 10); // シーン座標で位置を設定
textItem->setFlag(QGraphicsItem::ItemIsSelectable); // アイテムを選択可能にする
// シーンの境界を自動調整する(アイテムに合わせて)
scene->setSceneRect(scene->itemsBoundingRect());
// UIのセットアップ
QWidget *window = new QWidget();
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(window);
layout->addWidget(view);
QPushButton *addButton = new QPushButton("新しい円を追加");
layout->addWidget(addButton);
// ボタンがクリックされたら、シーンに新しい円を追加する
QObject::connect(addButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
// QGraphicsView::scene() を使用して、現在ビューに設定されているシーンを取得
QGraphicsScene *currentScene = view->scene();
if (currentScene) {
// シーンのランダムな位置に円を追加
qreal x = qrand() % (int)currentScene->width();
qreal y = qrand() % (int)currentScene->height();
QGraphicsEllipseItem *ellipseItem = currentScene->addEllipse(x, y, 30, 30, QPen(Qt::red), QBrush(Qt::magenta));
ellipseItem->setFlag(QGraphicsItem::ItemIsMovable);
currentScene->update(); // シーンの更新を促す
}
});
window->setWindowTitle("QGraphicsView::scene() 基本例");
window->resize(600, 400);
window->show();
return a.exec();
}
解説
- ボタンのクリックイベントでは、
view->scene()
を呼び出すことで、このビューが現在表示しているシーンへのポインタを取得し、そのシーンに対して新しいアイテムを追加しています。これは、複数のビューが同じシーンを表示している場合や、シーンが動的に切り替わる場合に特に役立ちます。 scene->addRect(...)
やscene->addText(...)
を使って、直接シーンにグラフィックアイテムを追加します。view->setScene(scene);
が最も重要な部分で、このビューがどのシーンを表示するかを設定します。QGraphicsView *view = new QGraphicsView();
でビューを作成します。これは、シーンの内容を表示するウィジェットです。QGraphicsScene *scene = new QGraphicsScene();
でシーンを作成します。これは、アイテムが存在する抽象的な空間です。
例2: マウスイベントでのアイテムの追加 (ビュー座標からシーン座標への変換)
ユーザーがQGraphicsView
をクリックした位置にアイテムを追加する際、マウスイベントの座標はビューのローカル座標(ピクセル)で提供されます。これをシーンの抽象的な座標に変換するためにQGraphicsView::mapToScene()
を使用し、その後QGraphicsView::scene()
でシーンにアクセスします。
// MyGraphicsView.h
#ifndef MYGRAPHICSVIEW_H
#define MYGRAPHICSVIEW_H
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QMouseEvent>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QDebug>
class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyGraphicsView(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent = nullptr);
protected:
// マウスプレスイベントをオーバーライド
void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override;
};
#endif // MYGRAPHICSVIEW_H
// MyGraphicsView.cpp
#include "MyGraphicsView.h"
MyGraphicsView::MyGraphicsView(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent)
: QGraphicsView(scene, parent)
{
// ドラッグモードを有効にして、マウスでシーンをパンできるようにする
setDragMode(QGraphicsView::ScrollHandDrag);
}
void MyGraphicsView::mousePressEvent(QMouseEvent *event)
{
// クリックされたビュー座標をシーン座標に変換
QPointF scenePoint = mapToScene(event->pos());
qDebug() << "View Point:" << event->pos() << "Scene Point:" << scenePoint;
// QGraphicsView::scene() を使用して、現在のシーンにアクセス
QGraphicsScene *currentScene = scene(); // this->scene() と同じ
if (currentScene) {
// シーン座標に小さな四角形アイテムを追加
QGraphicsRectItem *rect = currentScene->addRect(scenePoint.x() - 5, scenePoint.y() - 5, 10, 10,
QPen(Qt::green), QBrush(Qt::darkGreen));
rect->setFlag(QGraphicsItem::ItemIsMovable); // 追加したアイテムを移動可能にする
// シーンの変更をビューに反映させる
currentScene->update();
}
// 基底クラスのmousePressEventを呼び出す(パンなどのデフォルト動作を維持するため)
QGraphicsView::mousePressEvent(event);
}
// main.cpp (上記例1の main.cpp とは別に、この MyGraphicsView を使用する場合)
#include <QApplication>
#include <QGraphicsScene>
#include "MyGraphicsView.h" // MyGraphicsView をインクルード
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QGraphicsScene scene;
MyGraphicsView view(&scene); // シーンをビューに設定
// シーンの初期サイズを設定(任意)
scene.setSceneRect(-200, -200, 400, 400);
view.setWindowTitle("QGraphicsView::scene() マウスイベント例");
view.resize(600, 400);
view.show();
return a.exec();
}
解説
setDragMode(QGraphicsView::ScrollHandDrag)
を設定することで、マウスのドラッグ操作でシーンをパン(移動)できるようになります。これにより、シーンの広さを実感しやすくなります。- 取得した
currentScene
ポインタを使って、currentScene->addRect()
で変換されたシーン座標に新しい四角形を追加しています。 scene()
を呼び出すことで、このビューが現在表示しているQGraphicsScene
へのポインタを取得します。mapToScene(event->pos())
を使って、マウスイベントのビュー座標 (event->pos()
) をシーン座標 (scenePoint
) に変換しています。これは、グラフィックアイテムが配置されるシーン空間での正確な位置を得るために不可欠です。MyGraphicsView
クラスをQGraphicsView
から継承し、mousePressEvent
をオーバーライドしています。
QGraphicsScene
はデータモデルであり、QGraphicsView
はそれを表示するビューであるため、同じQGraphicsScene
を複数のQGraphicsView
で表示することができます。QGraphicsView::scene()
は、各ビューがどの共通シーンにアクセスしているかを確認するために使用されます。
// main.cpp
#include <QApplication>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsEllipseItem>
#include <QGridLayout>
#include <QWidget>
#include <QPushButton>
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc /Users/hiroaki/repos/personal/gemini-pro-1.5-flash-experiments/main.cpp, argv);
// 1. 共通の QGraphicsScene を作成
QGraphicsScene *sharedScene = new QGraphicsScene();
sharedScene->setSceneRect(-150, -150, 300, 300); // シーンの境界を設定
// シーンにいくつかのアイテムを追加
sharedScene->addEllipse(-100, -100, 50, 50, QPen(Qt::black), QBrush(Qt::yellow))->setFlag(QGraphicsItem::ItemIsMovable);
sharedScene->addRect(50, 50, 70, 70, QPen(Qt::black), QBrush(Qt::green))->setFlag(QGraphicsItem::ItemIsMovable);
// 2. 最初の QGraphicsView を作成し、共有シーンを設定
QGraphicsView *view1 = new QGraphicsView();
view1->setScene(sharedScene);
view1->setWindowTitle("ビュー1 (拡大)");
view1->setRenderHint(QPainter::Antialiasing); // アンチエイリアスを有効にする
view1->scale(1.5, 1.5); // 拡大表示
// 3. 2番目の QGraphicsView を作成し、同じ共有シーンを設定
QGraphicsView *view2 = new QGraphicsView();
view2->setScene(sharedScene); // 同じシーンを共有
view2->setWindowTitle("ビュー2 (全体)");
view2->setRenderHint(QPainter::Antialiasing);
view2->setDragMode(QGraphicsView::ScrollHandDrag); // パンを可能にする
// UIのレイアウト
QWidget *window = new QWidget();
QGridLayout *layout = new QGridLayout(window);
layout->addWidget(view1, 0, 0);
layout->addWidget(view2, 0, 1);
QPushButton *resetButton = new QPushButton("ビューをリセット");
layout->addWidget(resetButton, 1, 0, 1, 2); // 2列にまたがる
// ボタンクリックでビューをリセット(元のスケールと位置に戻す)
QObject::connect(resetButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
view1->resetTransform(); // 変換をリセット
view1->scale(1.5, 1.5); // 元の拡大率に戻す
view2->resetTransform(); // 変換をリセット
});
window->setWindowTitle("QGraphicsView::scene() 複数ビュー例");
window->resize(1000, 600);
window->show();
return a.exec();
}
QGraphicsView::scene()
は、例えばボタンがクリックされたときに、どのビューのシーンを操作したいかを特定する際に役立ちます。この例では、resetTransform()
を呼び出すことで、各ビューの表示状態をリセットしています。- これにより、一方のビューでアイテムを移動すると、もう一方のビューでもリアルタイムにその変更が反映されます。
view1->setScene(sharedScene);
とview2->setScene(sharedScene);
のように、両方のビューに同じsharedScene
を設定しています。QGraphicsScene *sharedScene = new QGraphicsScene();
で一つのシーンを作成します。
ここでは、QGraphicsView::scene()
の直接使用以外のプログラミング方法や、関連する設計パターンについて説明します。
シーンへの直接ポインタ参照の保持
最も一般的な代替方法は、QGraphicsView
のコンストラクタに渡したQGraphicsScene
へのポインタを、他の関連するオブジェクト(例えば、QMainWindow
やメインウィンドウのコントローラークラスなど)のメンバー変数として保持することです。
Pros
QGraphicsView
インスタンスがまだ作成されていない、または一時的に利用できない状況でも、シーンへのアクセスが可能です。- 複数のビューが同じシーンを参照している場合でも、単一の場所からシーンを管理できます。
- シーンオブジェクトを常に直接参照できるため、
QGraphicsView
インスタンスがなくてもシーンを操作できます。
Cons
- シーンが動的に切り替わるような複雑なアプリケーションでは、ポインタの管理が煩雑になる可能性があります。
- コードの結合度が高くなる可能性があります。シーンへの参照を保持するオブジェクトとビューが密接に連携する必要があります。
コード例
// MyWindow.h
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsView>
#include <QPushButton>
class MyWindow : public QMainWindow
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyWindow(QWidget *parent = nullptr);
~MyWindow();
private slots:
void addRectToScene(); // シーンにアイテムを追加するスロット
private:
QGraphicsScene *m_scene; // シーンへのポインタをメンバー変数として保持
QGraphicsView *m_view;
QPushButton *m_addButton;
};
// MyWindow.cpp
#include "MyWindow.h"
#include <QVBoxLayout>
#include <QGraphicsRectItem>
MyWindow::MyWindow(QWidget *parent)
: QMainWindow(parent)
{
// シーンを初期化し、メンバー変数に保持
m_scene = new QGraphicsScene(this); // this を親に設定してメモリ管理をQtに任せる
m_scene->setSceneRect(0, 0, 400, 300);
// ビューを作成し、シーンを設定
m_view = new QGraphicsView(m_scene, this);
// ボタンを作成
m_addButton = new QPushButton("四角形を追加", this);
connect(m_addButton, &QPushButton::clicked, this, &MyWindow::addRectToScene);
// レイアウト設定
QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
layout->addWidget(m_view);
layout->addWidget(m_addButton);
setCentralWidget(centralWidget);
setWindowTitle("シーン直接参照の例");
resize(500, 400);
}
MyWindow::~MyWindow()
{
// QObject::deleteLater() や親オブジェクトによる自動削除に任せるため、明示的なdeleteは不要な場合が多い
}
void MyWindow::addRectToScene()
{
// m_scene ポインタを直接使用してシーンを操作
m_scene->addRect(qrand() % 300, qrand() % 200, 50, 50, QPen(Qt::black), QBrush(Qt::red));
m_scene->update(); // シーンを更新
}
// main.cpp
#include <QApplication>
#include "MyWindow.h"
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyWindow w;
w.show();
return a.exec();
}
この例では、MyWindow
クラスがm_scene
というメンバー変数でQGraphicsScene
へのポインタを保持しています。addRectToScene()
スロットでは、m_view->scene()
を呼び出す代わりに、直接m_scene
ポインタを使ってシーンにアクセスしています。
シグナルとスロットによる間接的な操作
シーンとビューが緊密に連携する必要がある場合でも、直接ポインタを渡す代わりにシグナルとスロットのメカニズムを使用することで、結合度を下げることができます。
Pros
- 異なるスレッド間で操作を行う場合に、Qtのキュー接続が役立ちます。
- コードの可読性が向上し、イベント駆動型プログラミングの原則に沿います。
- オブジェクト間の結合度が低減されます(直接的なポインタ参照が不要)。
Cons
- 非常に頻繁な操作には不向きな場合があります。
- 間接的な呼び出しのため、直接アクセスよりもわずかにオーバーヘッドがあります。
コード例
これはQGraphicsView::scene()
を完全に避けるわけではありませんが、ビューからシーンへのアクセスをイベントベースにすることができます。
// CustomView.h
#include <QGraphicsView>
#include <QMouseEvent>
class CustomView : public QGraphicsView
{
Q_OBJECT
public:
explicit CustomView(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent = nullptr) : QGraphicsView(scene, parent) {}
signals:
// ビューがクリックされたシーン座標を送信するシグナル
void viewClickedAtScenePos(const QPointF &scenePos);
protected:
void mousePressEvent(QMouseEvent *event) override {
emit viewClickedAtScenePos(mapToScene(event->pos()));
QGraphicsView::mousePressEvent(event);
}
};
// MyWindow.h (上記例1のMyWindowとは別)
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsScene>
#include "CustomView.h" // 新しいCustomViewをインクルード
#include <QPushButton>
class MyWindowAlt : public QMainWindow
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyWindowAlt(QWidget *parent = nullptr);
private slots:
// シーンにアイテムを追加するスロット。CustomViewからシグナルで呼ばれる
void onViewClicked(const QPointF &scenePos);
private:
QGraphicsScene *m_scene;
CustomView *m_view;
};
// MyWindowAlt.cpp
#include "MyWindowAlt.h"
#include <QVBoxLayout>
#include <QGraphicsEllipseItem>
MyWindowAlt::MyWindowAlt(QWidget *parent)
: QMainWindow(parent)
{
m_scene = new QGraphicsScene(this);
m_scene->setSceneRect(0, 0, 400, 300);
m_view = new CustomView(m_scene, this); // CustomViewを使用
// CustomViewのシグナルをMyWindowAltのスロットに接続
connect(m_view, &CustomView::viewClickedAtScenePos, this, &MyWindowAlt::onViewClicked);
// レイアウト設定
QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
layout->addWidget(m_view);
setCentralWidget(centralWidget);
setWindowTitle("シグナル/スロット例");
resize(500, 400);
}
void MyWindowAlt::onViewClicked(const QPointF &scenePos)
{
// ここでは m_scene を直接参照してシーンを操作
m_scene->addEllipse(scenePos.x() - 10, scenePos.y() - 10, 20, 20,
QPen(Qt::blue), QBrush(Qt::cyan));
m_scene->update();
}
// main.cpp (MyWindowAlt 用)
#include <QApplication>
#include "MyWindowAlt.h"
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyWindowAlt w;
w.show();
return a.exec();
}
この例では、CustomView
がmousePressEvent
でシーン座標を計算し、viewClickedAtScenePos
シグナルを発行します。MyWindowAlt
はそのシグナルを受け取ることで、ビューを介さずに(つまり、ビューに対してscene()
を呼び出すことなく)直接m_scene
を操作します。
シングルトンパターンやアプリケーショングローバルなアクセス
非常に大規模なアプリケーションで、単一のグローバルなシーンオブジェクトが複数の場所から頻繁にアクセスされる場合、シングルトンパターンやアプリケーションのグローバルなプロパティとしてシーンを管理することが考えられます。
Pros
- シーンのインスタンスが一つしか存在しないことを保証できます。
- どの場所からでも簡単にシーンにアクセスできます。
Cons
- 一般的に、推奨される設計パターンではありません(特にGUIアプリケーションで)。
- シーンのライフサイクル管理が複雑になることがあります。
- グローバルな状態は、コードの結合度を高め、テストを困難にする可能性があります。
コード例 (概念のみ - 推奨されません)
// BadDesignSceneManager.h
#include <QGraphicsScene>
class BadDesignSceneManager // Singleton風のクラス
{
public:
static BadDesignSceneManager& instance() {
static BadDesignSceneManager s_instance;
return s_instance;
}
QGraphicsScene* getScene() { return m_scene; }
private:
BadDesignSceneManager() { m_scene = new QGraphicsScene(); }
~BadDesignSceneManager() { delete m_scene; }
QGraphicsScene* m_scene;
// コピーコンストラクタと代入演算子の削除
BadDesignSceneManager(const BadDesignSceneManager&) = delete;
BadDesignSceneManager& operator=(const BadDesignSceneManager&) = delete;
};
// どこかのコードで
// BadDesignSceneManager::instance().getScene()->addRect(...);
注意
このようなグローバルなシングルトンは、小規模なプロジェクトや特定のケースを除いて、通常は避けるべきです。よりクリーンな設計には、依存性注入(Dependency Injection)や、適切な親子の関係性を持つオブジェクトツリーを使うべきです。
ビューの継承とカスタムメソッドの追加
QGraphicsView
を継承したカスタムビュークラス内で、シーンへの操作をカプセル化するメソッドを定義することもできます。これにより、外部からはビューのカスタムメソッドを呼び出すだけでシーンの操作が行え、ビュー内でscene()
を呼び出すロジックを隠蔽できます。
Pros
- ビューに特化した操作とシーンの操作を組み合わせることができます。
- ビューの内部でシーンへのアクセスを管理し、外部へのインターフェースをシンプルにできます。
Cons
- シーンの操作がビューのロジックに深く埋め込まれることになります。
- ビュークラスが大きくなりすぎると、責任が肥大化する可能性があります。
コード例
// MyCustomView.h
#ifndef MYCUSTOMVIEW_H
#define MYCUSTOMVIEW_H
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsRectItem>
class MyCustomView : public QGraphicsView
{
Q_OBJECT
public:
explicit MyCustomView(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent = nullptr);
// シーンに矩形を追加するカスタムメソッド
void addRandomRect();
// シーン内のすべてのアイテムをクリアするカスタムメソッド
void clearAllItems();
};
#endif // MYCUSTOMVIEW_H
// MyCustomView.cpp
#include "MyCustomView.h"
#include <QGraphicsScene>
#include <QTime>
#include <QCoreApplication>
MyCustomView::MyCustomView(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent)
: QGraphicsView(scene, parent)
{
// ランダムな位置生成のためにQTimeを初期化 (またはQRandomGeneratorを使用)
qsrand(QTime::currentTime().msec());
}
void MyCustomView::addRandomRect()
{
// ここで QGraphicsView::scene() を使用してシーンにアクセスし、矩形を追加
if (scene()) {
int x = qrand() % (int)scene()->width();
int y = qrand() % (int)scene()->height();
scene()->addRect(x, y, 50, 50, QPen(Qt::black), QBrush(Qt::darkCyan));
scene()->update();
}
}
void MyCustomView::clearAllItems()
{
// ここで QGraphicsView::scene() を使用してシーンにアクセスし、アイテムをクリア
if (scene()) {
scene()->clear();
scene()->update();
}
}
// main.cpp (MyCustomView 用)
#include <QApplication>
#include <QVBoxLayout>
#include <QPushButton>
#include "MyCustomView.h"
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
QGraphicsScene scene;
MyCustomView view(&scene);
scene.setSceneRect(0, 0, 400, 300);
QWidget *window = new QWidget();
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(window);
layout->addWidget(&view);
QPushButton *addBtn = new QPushButton("ランダム矩形を追加");
QPushButton *clearBtn = new QPushButton("全てクリア");
layout->addWidget(addBtn);
layout->addWidget(clearBtn);
QObject::connect(addBtn, &QPushButton::clicked, &view, &MyCustomView::addRandomRect);
QObject::connect(clearBtn, &QPushButton::clicked, &view, &MyCustomView::clearAllItems);
window->setWindowTitle("カスタムビューの例");
window->resize(500, 450);
window->show();
return a.exec();
}
この例では、MyCustomView
クラスにaddRandomRect()
とclearAllItems()
というメソッドを追加しました。これらのメソッドはビュー内でscene()
を呼び出して操作を実行するため、main.cpp
からは直接ビューのカスタムメソッドを呼び出すだけで済みます。
QGraphicsView::scene()
は、QGraphicsView
が表示しているQGraphicsScene
へのポインタを取得するための標準的で非常に便利な方法です。多くの場合、これを使用するのが最も適切です。
代替方法は、特定の設計目標(例:結合度の低減、グローバルな状態の管理、責務の分離)を達成するために検討されます。
-
ビューの機能を拡張しつつシーン操作を隠蔽したい場合
カスタムビュークラスにメソッドを追加する。 -
結合度を低減したい場合
シグナルとスロットを活用する。 -
- メインウィンドウやコントローラークラスでシーンへのポインタを保持し、それを関連するビューやアイテムに渡す(例1の「直接ポインタ参照の保持」)。
QGraphicsView::scene()
を適切な場所(ビューの内部メソッド、またはビューのロジックを直接扱う場所)で呼び出す。