Qt QGraphicsView::ensureVisible()徹底解説:アイテムを確実に画面表示するテクニック

2025-05-27

ensureVisible()の役割

QGraphicsViewQGraphicsSceneの内容を表示するウィジェットです。シーンがビューポートよりも広い場合、スクロールバーが表示され、ユーザーはスクロールしてシーンの他の部分を見ることができます。

ensureVisible()メソッドは、プログラム的に特定の領域やアイテムをユーザーに見せたい場合に非常に役立ちます。例えば、次のような状況で使われます。

  • 特定の矩形領域を表示する
    シーン内の特定の領域(例えば、ユーザーが選択した領域や、特定の処理の結果表示される領域)がビューポート内に収まるようにしたいとき。
  • 特定のアイテムを表示する
    多数のアイテムがあるシーンで、特定のアイテムが現在ビューポートの外にある場合、そのアイテムをビューの中心、または少なくとも可視領域内に表示したいとき。

オーバーロードされたメソッド

ensureVisible()には、主に以下のオーバーロードがあります。

    • 指定されたrect(シーン座標系)がQGraphicsViewの可視領域内に収まるようにスクロールします。
    • xmarginymarginは、指定された矩形の周囲に確保するマージン(ピクセル単位)です。これにより、矩形がビューポートの端にぴったりとくっつくのを防ぎ、少しゆとりを持たせることができます。
  1. ensureVisible(qreal x, qreal y, qreal w, qreal h, int xmargin = 50, int ymargin = 50)

    • 上記と同様ですが、矩形をx, y, w, hで直接指定します。
  2. ensureVisible(const QGraphicsItem *item, int xmargin = 50, int ymargin = 50)

    • 指定されたQGraphicsItem(アイテムのローカル座標系)の境界矩形がビューポート内に収まるようにスクロールします。
    • この場合も、xmarginymarginでマージンを指定できます。

動作のメカニズム

ensureVisible()が呼び出されると、QGraphicsViewは以下の処理を行います。

  1. 指定されたアイテムまたは矩形が現在のビューポート内に完全に収まっているかどうかをチェックします。
  2. 収まっていない場合、ビューポートのスクロール位置を調整し、指定された領域がマージンを含めて可視領域内に収まるようにします。
  3. もし、ビューポートのサイズが指定された領域(マージンを含む)よりも小さい場合、その領域はビューポートの中央に配置されます。

特定のQGraphicsItemをビューの中心に表示したい場合:

#include <QApplication>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsRectItem>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication a(argc, argv);

    QGraphicsScene scene;
    scene.setSceneRect(0, 0, 800, 600); // シーンのサイズを設定

    // シーンの左上に四角形を追加
    QGraphicsRectItem *rect1 = new QGraphicsRectItem(0, 0, 100, 100);
    rect1->setBrush(Qt::blue);
    scene.addItem(rect1);

    // シーンの右下に赤い四角形を追加(最初は見えない位置)
    QGraphicsRectItem *rect2 = new QGraphicsRectItem(700, 500, 100, 100);
    rect2->setBrush(Qt::red);
    scene.addItem(rect2);

    QGraphicsView view(&scene);
    view.setWindowTitle("QGraphicsView::ensureVisible() Example");
    view.resize(400, 300); // ビューのサイズを設定

    // 最初はビューをシーンの左上に合わせる
    view.centerOn(0, 0);
    view.show();

    // 2秒後に赤い四角形が可視領域に収まるようにスクロール
    QTimer::singleShot(2000, [&]() {
        view.ensureVisible(rect2, 50, 50); // rect2がマージン50pxを含めて見えるようにする
    });

    return a.exec();
}

この例では、最初にビューがシーンの左上に設定されているため、赤い四角形は表示されません。しかし、2秒後にview.ensureVisible(rect2, 50, 50);が呼び出されることで、ビューがスクロールし、赤い四角形がビューポート内に表示されるようになります。



アイテムが見えない、または正しく表示されない

よくある原因

  • シーンの sceneRect の設定
    QGraphicsScene::sceneRect() を明示的に設定している場合、スクロールバーの範囲はその範囲に限定されます。ensureVisible() で指定した領域が sceneRect の外にある場合、その外側にはスクロールできません。
  • 変換 (Transformations) の影響
    ビューやアイテムにスケール、回転、移動などの変換が適用されている場合、boundingRect() が正しく計算されていても、視覚的な位置と実際のシーン座標がずれることがあります。特に、QGraphicsItem::ItemIgnoresTransformations フラグを設定しているアイテムの場合、そのバウンディングボックスの計算に注意が必要です。
  • ビューのサイズが小さすぎる
    ensureVisible() はあくまで「可視領域に収まるようにスクロールする」ものであり、ビューのサイズを自動的に変更するわけではありません。ビューのサイズがターゲットとなる矩形やアイテムよりも大幅に小さい場合、全体を一度に見せることはできません。この場合、部分的にしか表示されません。
  • アイテムが非表示になっている (setVisible(false))
    アイテムが setVisible(false) で非表示に設定されている場合、ensureVisible() はそのアイテムを可視化しようとしません。
  • アイテムがシーンに追加されていない、または削除された
    ensureVisible(const QGraphicsItem *item) を呼び出す際に、指定したアイテムがまだシーンに追加されていない、またはすでにシーンから削除されている場合、何も起こらないか、クラッシュする可能性があります。
  • シーン座標とビュー座標の混同
    ensureVisible(const QRectF &rect)rectシーン座標系で指定する必要があります。誤ってビュー座標やウィジェットのローカル座標で指定してしまうと、意図しないスクロールが発生します。
  • boundingRect() の不正確さ
    QGraphicsItemboundingRect() メソッドは、アイテムの描画領域を正確に返す必要があります。ensureVisible() はこの boundingRect() を参照してスクロール位置を決定するため、これが不正確だと、アイテムの一部しか見えなかったり、全く見えなかったりすることがあります。特に、カスタムアイテムを作成している場合に発生しやすいです。

トラブルシューティング

  • QGraphicsScene::itemsBoundingRect() の活用
    シーン内の全アイテムの境界矩形を取得したい場合、scene->itemsBoundingRect() を利用できます。この矩形を ensureVisible() に渡すことで、シーン全体を可視領域に収めることができます。
  • 遅延実行
    ウィジェットのコンストラクタ内など、まだビューが完全に表示されていない段階で ensureVisible() を呼び出すと、正しく機能しないことがあります。QTimer::singleShot(0, this, SLOT(mySlotThatCallsEnsureVisible())); のように、イベントループがアイドル状態になってから実行するように遅延させることで解決することがあります。
  • fitInView() の検討
    もしアイテム全体をビューに収めたいのであれば、ensureVisible() よりも QGraphicsView::fitInView() の方が適している場合があります。fitInView() は必要に応じてズームレベルも調整してくれます。
  • ビューポートのサイズとの比較
    view->viewport()->size()rect.size()item->sceneBoundingRect().size() を比較し、ビューポートがターゲットを収容できるだけの十分な大きさがあるか確認します。
  • アイテムの存在確認
    ensureVisible() を呼び出す前に、指定するアイテムが有効なポインタであり、かつシーンに属していることを確認します。
  • 座標系の確認
    ensureVisible() に渡す矩形やアイテムの座標が、意図した座標系(シーン座標系)であることを再確認します。mapToScene()mapFromScene() を適切に利用します。
  • boundingRect() のデバッグ
    • カスタムアイテムの paint() メソッド内で boundingRect() の結果を描画(例:赤色の線で枠を描く)して、実際に描画される領域と boundingRect() が一致しているか確認します。
    • qDebug() << item->boundingRect();qDebug() << item->sceneBoundingRect(); を使って、アイテムのバウンディングボックスが正しい座標とサイズを持っているか確認します。

無限ループやクラッシュ

よくある原因

  • 並行処理の問題
    複数のスレッドから同時に ensureVisible() を呼び出したり、グラフィックスビューの状態を変更する処理と同時に実行したりすると、競合状態が発生し、不安定になることがあります。
  • QGraphicsItem::itemChange() との競合
    QGraphicsItemitemChange() メソッド内でアイテムの位置や形状を変更する処理を行い、その中でさらに ensureVisible() を呼び出すと、無限ループやスタックオーバーフローによるクラッシュを引き起こす可能性があります。ensureVisible() はビューポートをスクロールするためにアイテムの位置を間接的に変更する可能性があり、それが再び itemChange() をトリガーしてしまうためです。

トラブルシューティング

  • デバッガの使用
    クラッシュが発生した場合、デバッガを使ってコールスタックを確認し、どの関数呼び出しが問題を引き起こしているかを特定します。
  • イベントフィルターの検討
    アイテムの移動などのイベントに反応して ensureVisible() を呼び出したい場合、ビューにイベントフィルターをインストールし、そこで処理を行う方が安全な場合があります。
  • itemChange() 内での ensureVisible() の回避
    itemChange() の中では、アイテムの状態を直接変更するような重い処理や、ensureVisible() のようなビューの状態を変更する処理は避けるべきです。必要な場合は、シグナルを発行して、itemChange() のコンテキスト外で処理を実行するように設計します。

よくある原因

  • 大量のアイテム
    シーンに非常に多くのアイテムがあり、それらの boundingRect() の計算や再描画に時間がかかる場合、スクロールが遅くなることがあります。
  • 高頻度な呼び出し
    MouseMoveEvent などの頻繁に発生するイベントハンドラ内で毎フレーム ensureVisible() を呼び出すと、パフォーマンスの問題が発生し、スクロールがぎこちなく見えることがあります。
  • ViewportUpdateMode の調整
    QGraphicsView::setViewportUpdateMode() を調整することで、ビューポートの更新頻度と方法を制御できます。デフォルトの MinimalViewportUpdate は通常最適ですが、シーンの特性によっては他のモードを試す価値があるかもしれません。
  • レンダリングヒントとキャッシュモード
    • QGraphicsView::setRenderHints() を使用して、アンチエイリアシングやスムージングを有効にする(ただしパフォーマンスコストも考慮)。
    • QGraphicsView::setCacheMode(QGraphicsView::CacheBackground); などで背景のキャッシュを有効にし、描画負荷を軽減します。
  • 呼び出し頻度の最適化
    • イベントハンドラ内で呼び出す場合、例えば一定時間ごとのタイマーや、スクロールが必要な場合にのみフラグを設定して一回だけ呼び出すなどの工夫をします。
    • ユーザーがドラッグしている間はensureVisible()を呼び出さず、ドラッグ終了時(MouseReleaseEventなど)にのみ呼び出すといった戦略も有効です。


例1:特定のアイテムを可視化する

最も基本的な使用例です。シーン内の特定のアイテムがビューポートの外にある場合に、そのアイテムがビューポート内に収まるようにスクロールします。

目標
シーンの右端にある赤い四角形を、ボタンをクリックするとビューの中央付近に表示させる。

#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

class MyGraphicsView : public QGraphicsView
{
public:
    MyGraphicsView(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent = nullptr)
        : QGraphicsView(scene, parent)
    {
        setRenderHint(QPainter::Antialiasing); // アンチエイリアシング有効化
        setDragMode(QGraphicsView::ScrollHandDrag); // ドラッグでスクロール可能に
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QMainWindow window;
    window.setWindowTitle("ensureVisible() Example 1: Item");
    window.resize(800, 600);

    QGraphicsScene scene;
    // シーンの広さを十分に確保
    scene.setSceneRect(-1000, -1000, 2000, 2000);

    // シーンの中心に青い四角形を配置
    QGraphicsRectItem *blueRect = new QGraphicsRectItem(-50, -50, 100, 100);
    blueRect->setBrush(Qt::blue);
    scene.addItem(blueRect);

    // シーンの右遠くに赤い四角形を配置(初期状態では見えない)
    QGraphicsRectItem *redRect = new QGraphicsRectItem(800, 100, 150, 150);
    redRect->setBrush(Qt::red);
    scene.addItem(redRect);

    MyGraphicsView *view = new MyGraphicsView(&scene);
    // 初期表示はシーンの中心
    view->centerOn(0, 0);

    QPushButton *button = new QPushButton("赤い四角形を表示");

    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout();
    layout->addWidget(view);
    layout->addWidget(button);

    QWidget *centralWidget = new QWidget();
    centralWidget->setLayout(layout);
    window.setCentralWidget(centralWidget);

    QObject::connect(button, &QPushButton::clicked, [&]() {
        qDebug() << "ボタンがクリックされました。赤い四角形を表示します。";
        // 赤い四角形をビューポート内に表示。マージンを50pxずつ確保。
        view->ensureVisible(redRect, 50, 50);
    });

    window.show();

    return a.exec();
}

解説

  1. QGraphicsScene を広めに作成し、中心に青い四角形、遠く(ビューポートの外)に赤い四角形を配置します。
  2. MyGraphicsView を継承して、ドラッグでスクロールできるように設定しています。
  3. QPushButton を配置し、クリックイベントにview->ensureVisible(redRect, 50, 50); を接続します。
  4. このコードを実行し、ボタンをクリックすると、ビューが自動的にスクロールし、赤い四角形がマージン(余白)50ピクセルを確保して表示されます。

例2:特定の矩形領域を可視化する

アイテムではなく、特定のシーン座標系での矩形領域を可視化したい場合に使用します。

目標
シーン内の特定の仮想的な領域(例えば、ユーザーが選択した範囲)を、ボタンをクリックするとビューに収まるように表示させる。

#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsEllipseItem>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QDebug>

class MyGraphicsView2 : public QGraphicsView
{
public:
    MyGraphicsView2(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent = nullptr)
        : QGraphicsView(scene, parent)
    {
        setRenderHint(QPainter::Antialiasing);
        setDragMode(QGraphicsView::ScrollHandDrag);
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QMainWindow window;
    window.setWindowTitle("ensureVisible() Example 2: Rect");
    window.resize(800, 600);

    QGraphicsScene scene;
    scene.setSceneRect(-1000, -1000, 2000, 2000);

    // シーンの様々な場所に円を配置
    scene.addItem(new QGraphicsEllipseItem(-100, -100, 50, 50, nullptr, &scene))->setBrush(Qt::green);
    scene.addItem(new QGraphicsEllipseItem(200, 300, 80, 80, nullptr, &scene))->setBrush(Qt::yellow);
    scene.addItem(new QGraphicsEllipseItem(700, -500, 60, 60, nullptr, &scene))->setBrush(Qt::magenta);
    scene.addItem(new QGraphicsEllipseItem(-800, 700, 70, 70, nullptr, &scene))->setBrush(Qt::cyan);

    MyGraphicsView2 *view = new MyGraphicsView2(&scene);
    view->centerOn(0, 0);

    QPushButton *button = new QPushButton("特定領域 (-500, 400, 400, 300) を表示");

    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout();
    layout->addWidget(view);
    layout->addWidget(button);

    QWidget *centralWidget = new QWidget();
    centralWidget->setLayout(layout);
    window.setCentralWidget(centralWidget);

    // 可視化したいシーン座標系の矩形
    const QRectF targetRect(-500, 400, 400, 300); // x, y, width, height

    QObject::connect(button, &QPushButton::clicked, [&]() {
        qDebug() << "特定領域を表示します: " << targetRect;
        // 指定した矩形をビューポート内に表示。マージンを20pxずつ確保。
        view->ensureVisible(targetRect, 20, 20);
    });

    window.show();

    return a.exec();
}

解説

  1. 複数の円がシーンにランダムに配置されています。
  2. targetRect という QRectF オブジェクトで、可視化したいシーン座標系の領域を定義します。
  3. ボタンクリックで view->ensureVisible(targetRect, 20, 20); を呼び出し、この矩形がマージン20ピクセルを含めてビューポート内に収まるようにスクロールします。

シーン内のすべてのアイテムを含む領域をビューポート内に表示したい場合に使用します。これは、シーンが動的に変化する場合(アイテムが追加・削除されるなど)に便利です。

目標
シーンのアイテムを追加・削除した後に、全てのアイテムが見えるようにビューを調整する。

#include <QApplication>
#include <QMainWindow>
#include <QGraphicsScene>
#include <QGraphicsView>
#include <QGraphicsRectItem>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include <QWidget>
#include <QRandomGenerator> // ランダム値生成用
#include <QTimer> // タイマー用
#include <QDebug>

class MyGraphicsView3 : public QGraphicsView
{
public:
    MyGraphicsView3(QGraphicsScene *scene, QWidget *parent = nullptr)
        : QGraphicsView(scene, parent)
    {
        setRenderHint(QPainter::Antialiasing);
        setDragMode(QGraphicsView::ScrollHandDrag);
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QMainWindow window;
    window.setWindowTitle("ensureVisible() Example 3: Scene Items Bounding Rect");
    window.resize(800, 600);

    QGraphicsScene scene;
    scene.setSceneRect(-2000, -2000, 4000, 4000); // シーンを非常に広く設定

    MyGraphicsView3 *view = new MyGraphicsView3(&scene);
    view->centerOn(0, 0);

    QPushButton *addItemButton = new QPushButton("ランダムなアイテムを追加");
    QPushButton *showAllButton = new QPushButton("全てのアイテムを表示");

    QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout();
    layout->addWidget(view);
    layout->addWidget(addItemButton);
    layout->addWidget(showAllButton);

    QWidget *centralWidget = new QWidget();
    centralWidget->setLayout(layout);
    window.setCentralWidget(centralWidget);

    QObject::connect(addItemButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
        // ランダムな位置とサイズの四角形を追加
        qreal x = QRandomGenerator::global()->bounded(-1500, 1500);
        qreal y = QRandomGenerator::global()->bounded(-1500, 1500);
        qreal width = QRandomGenerator::global()->bounded(50, 200);
        qreal height = QRandomGenerator::global()->bounded(50, 200);
        QGraphicsRectItem *newItem = new QGraphicsRectItem(x, y, width, height);
        newItem->setBrush(QColor(QRandomGenerator::global()->bounded(256),
                                 QRandomGenerator::global()->bounded(256),
                                 QRandomGenerator::global()->bounded(256)));
        scene.addItem(newItem);
        qDebug() << "アイテムが追加されました: (" << x << "," << y << "," << width << "," << height << ")";
    });

    QObject::connect(showAllButton, &QPushButton::clicked, [&]() {
        qDebug() << "全てのアイテムの境界矩形を表示します。";
        // シーン内の全アイテムの境界矩形を取得
        // QGraphicsScene::itemsBoundingRect() は、シーン内のすべてのアイテムの結合されたバウンディングボックスを返します。
        QRectF allItemsRect = scene.itemsBoundingRect();
        qDebug() << "全アイテムの境界矩形: " << allItemsRect;
        // その矩形をビューポート内に表示
        view->ensureVisible(allItemsRect, 50, 50); // マージン50px
    });

    window.show();

    return a.exec();
}

解説

  1. addItemButton をクリックすると、ランダムな位置とサイズの四角形がシーンに追加されます。これらのアイテムはビューポートの外に追加されることもあります。
  2. showAllButton をクリックすると、scene.itemsBoundingRect() を呼び出して、現在シーンにある全てのアイテムを囲む最小の矩形を取得します。
  3. その取得した矩形を view->ensureVisible() に渡すことで、全てのアイテムがビューポート内に収まるようにスクロールが実行されます。

これらの例は、QGraphicsView::ensureVisible() の基本的な使い方と、それがどのように異なるシナリオで役立つかを示しています。

  • ensureVisible(const QRectF &rect, int xmargin = 50, int ymargin = 50): 特定のシーン座標系の領域を見せたい場合。これは、scene->itemsBoundingRect() の結果を表示するのにも使えます。
  • ensureVisible(const QGraphicsItem *item, int xmargin = 50, int ymargin = 50): 特定のQGraphicsItemを見せたい場合。


QGraphicsView::centerOn()

目的
特定のポイントまたはアイテムをビューポートの中心に配置する。

説明
ensureVisible() は「可視領域に収める」ことを保証しますが、centerOn() はより積極的に「中心に持ってくる」ことを目的とします。アイテム全体を必ずしも表示するわけではなく、中心座標がビューの中心に来るようにスクロールします。

使い分け

  • centerOn()
    アイテムの中心や特定の座標をビューの中心に配置したい場合に適しています。例えば、マップアプリケーションで特定の地点にズームせずに移動したい場合など。
  • ensureVisible()
    アイテム全体(または指定した矩形全体)を「見える範囲に収めたい」場合に適しています。部分的に見えていれば十分、またはビューポートがターゲットより小さい場合でも、可能な限り収めようとします。


// 特定のアイテムの中心をビューの中心に
view->centerOn(myItem);

// 特定のシーン座標をビューの中心に
view->centerOn(QPointF(100, 200));
view->centerOn(100, 200);

QGraphicsView::fitInView()

目的
特定のアイテムまたは矩形がビューポートに完全に収まるように、ビューのズームレベルとスクロール位置を調整する。

説明
ensureVisible() と異なり、fitInView() はビューのズームレベル(変換)も調整します。これにより、指定した領域がビューポート内に完全に収まるように拡大・縮小されます。アスペクト比を維持するかどうかや、マージンを設定することも可能です。

使い分け

  • fitInView()
    アイテム全体を「ビューポートにぴったりと収めたい」場合。これにより、ビューのズームレベルが動的に変わることを許容する場合に最適です。例えば、画像編集ソフトで選択範囲を画面いっぱいに表示したい場合や、グラフ全体をビューに収めたい場合など。
  • ensureVisible()
    ズームレベルを変更せずに、スクロールのみでアイテムを可視化したい場合。


// 特定のアイテムがビューに完全に収まるようにズームとスクロール
// Qt::KeepAspectRatio: アスペクト比を維持
// Qt::KeepAspectRatioByExpanding: アスペクト比を維持しつつ、アイテムがビューポートの短い辺に沿って完全に表示されるように拡大
view->fitInView(myItem, Qt::KeepAspectRatio);

// 特定の矩形がビューに完全に収まるようにズームとスクロール
view->fitInView(QRectF(0, 0, 1000, 800), Qt::KeepAspectRatioByExpanding);

QGraphicsView::scrollContentsBy() (非推奨)

目的
ビューポートの内容を直接スクロールする。

説明
これは、QGraphicsView の保護された仮想関数であり、通常は直接呼び出すことを意図していません。内部的にビューポートのスクロールを処理するために使用されます。ユーザーコードでスクロールを制御したい場合は、通常、より高レベルな関数(ensureVisible(), centerOn(), setHorizontalScrollBar()->setValue() など)を使用します。

使い分け
ほとんどの場合、直接使用するべきではありません。カスタムのスクロールロジックを非常に低レベルで実装する必要がある場合にのみ、QGraphicsView を継承してオーバーライドすることを検討しますが、これは稀なケースです。

スクロールバーを直接操作する

目的
QGraphicsView のスクロールバー(QScrollBar)を直接操作してスクロール位置を設定する。

説明
QGraphicsView は内部的に QScrollBar を使用してスクロール機能を提供しています。これらのスクロールバーの値を直接設定することで、ビューポートのスクロール位置を明示的に制御できます。

使い分け

  • スクロールバーの直接操作
    スクロール位置を正確なピクセル値や範囲で設定したい場合。例えば、特定のパーセンテージだけスクロールしたい場合や、保存されたスクロール位置を復元したい場合など。
  • ensureVisible()
    特定のアイテムや領域を自動的に可視化したい場合。計算をQtに任せたい場合。


// 水平スクロールバーを取得し、値を設定
view->horizontalScrollBar()->setValue(100); // 100ピクセル右にスクロール

// 垂直スクロールバーを取得し、最大値に設定(下端にスクロール)
view->verticalScrollBar()->setValue(view->verticalScrollBar()->maximum());

目的
QGraphicsItem 自体の位置を変更することで、ビューポート内の表示位置を間接的に調整する。

説明
これは「スクロール」とは異なりますが、アイテムをビューポートの特定の場所に「移動」させることで、結果的にユーザーがそのアイテムを可視化できるようにするアプローチです。例えば、アイテムをビューポートの中心に直接移動させたり、特定のビュー座標にマッピングして移動させたりします。

使い分け

  • アイテムの位置変更
    アイテムのシーン座標自体を変更して、ビューの特定の位置に固定したい場合や、一時的に移動させたい場合。
  • ensureVisible()
    アイテムを「見える範囲に保ちたい」が、そのアイテムのシーン座標は変えたくない場合。
// アイテムをビューの中心に移動させる
// 注意: これはアイテムのシーン座標を変更します
QPointF centerOfViewInScene = view->mapToScene(view->viewport()->rect().center());
myItem->setPos(centerOfViewInScene - myItem->boundingRect().center());
メソッド目的ズーム変更ターゲットの範囲表示主なユースケース
ensureVisible()アイテム/矩形を可視領域にスクロールなしはい特定のアイテムが見えるようにしたい、ズームは固定
centerOn()アイテム/座標をビューの中心に配置なしいいえ特定のポイントに注目したい、ズームは固定
fitInView()アイテム/矩形をビューポートに完全に収めるはいはい全体像を見せたい、ズームを自動調整したい
スクロールバー直接操作明示的なスクロール位置を設定なしいいえ細かいスクロール制御、位置の保存・復元
QGraphicsItem の位置変更アイテムのシーン座標を変更して表示位置を調整なしいいえアイテムを特定のビュー位置に固定したい(スクロールではない)