【Qtソケット】qint64 QAbstractSocket::writeData()の内部とwrite()活用術
役割と目的
QAbstractSocket
は、TCPやUDPなどの具体的なソケット通信の実装の基底クラスです。writeData()
はその基底クラスで提供される、抽象的なデータ書き込みインターフェースです。
通常、QAbstractSocket
の派生クラス(例: QTcpSocket
)を使用する場合、アプリケーション開発者は直接writeData()
を呼び出すことはあまりありません。代わりに、より高レベルな公開関数であるwrite()
を呼び出します。
write()
関数が呼び出されると、内部的にwriteData()
が呼び出され、実際にネットワーク経由でデータが送信されます。
シグネチャの解説
qint64 maxSize
: 書き込むデータの最大バイト数を指定します。data
が指すメモリ領域のサイズをこの値で指定することで、バッファオーバーフローなどを防ぎます。const char *data
: 書き込むデータの先頭へのポインタです。これは生バイトデータ(raw bytes)として扱われます。QAbstractSocket::writeData
: 関数名です。QAbstractSocket
クラスのメンバー関数であることを示します。qint64
: 戻り値の型です。これは、ソケットに実際に書き込まれたバイト数を表します。負の値が返される場合、エラーが発生したことを示します。
writeData()
がprotected
になっているのは、この関数がQAbstractSocket
の派生クラス(例: QTcpSocket
やQUdpSocket
)がその実際のデータ送信ロジックを実装するために使用されることを意図しているためです。アプリケーション開発者が直接この関数を呼び出すと、ソケットの状態管理やエラー処理が適切に行われない可能性があります。
ここでは、QAbstractSocket::writeData()
(またはそれによって引き起こされるwrite()
の問題)に関連する一般的なエラーとトラブルシューティングについて説明します。
一般的なエラーと問題
-
- 説明:
writeData()
が呼び出された時点で、ソケットがまだリモートホストに接続されていない状態です。QAbstractSocket::write()
を呼び出す前に、QAbstractSocket::ConnectedState
であることを確認する必要があります。 - エラーの種類:
QAbstractSocket::UnconnectedState
での書き込み試行。 - 返り値:
write()
は通常、-1
を返し、エラーを設定します。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
:QAbstractSocket::UnconnectedStateError
(直接は発生しないが、関連するロジックエラー)
- 説明:
-
リモートホストが接続を閉じた (Remote Host Closed Connection)
- 説明: データが書き込まれる前に、リモートホストが接続を予期せず閉じた場合。ソケットの状態が突然
QAbstractSocket::ClosingState
またはQAbstractSocket::ClosedState
に変わる可能性があります。 - エラーの種類: ネットワーク切断による書き込み失敗。
- 返り値:
write()
は-1
を返すか、部分的に書き込まれたバイト数を返した後、次の書き込みで失敗します。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
:QAbstractSocket::RemoteHostClosedError
- 説明: データが書き込まれる前に、リモートホストが接続を予期せず閉じた場合。ソケットの状態が突然
-
部分的な書き込み (Partial Write)
- 説明:
writeData()
は、要求されたすべてのバイトを一度に書き込めない場合があります。これは、ネットワークの輻輳、オペレーティングシステムのリソース制限、または非ブロッキングソケットの性質によるものです。writeData()
は実際に書き込んだバイト数を返します。 - エラーの種類: アプリケーションがすべてのデータが一度に送信されると誤って仮定している場合。
- 返り値: 要求された
maxSize
よりも小さい正の値。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
: 通常、エラーは発生しません。これは正常な動作です。
- 説明:
-
ネットワークエラー (Network Error)
- 説明: ネットワークケーブルの抜き差し、IPアドレスの競合、ファイアウォールのブロックなど、一般的なネットワークの問題が発生した場合。
- エラーの種類: 低レベルなネットワークインフラストラクチャの障害。
- 返り値:
write()
は-1
を返し、関連するエラーを設定します。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
:QAbstractSocket::NetworkError
,QAbstractSocket::SocketAccessError
,QAbstractSocket::SocketResourceError
など。
-
データグラムが大きすぎる (Datagram Too Large - UDPの場合)
- 説明: UDPソケット (
QUdpSocket
) の場合、送信しようとしているデータグラムがオペレーティングシステムまたはネットワークの最大許容データグラムサイズを超えている場合。 - エラーの種類: UDPプロトコルの制限。
- 返り値:
writeDatagram()
(UDPの場合の対応する関数) が-1
を返します。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
:QAbstractSocket::DatagramTooLargeError
- 説明: UDPソケット (
-
権限不足 (Insufficient Privileges)
- 説明: ソケット操作(例: 特定のポートへのバインドやネットワークインターフェースへのアクセス)に必要な権限がアプリケーションにない場合。
- エラーの種類: オペレーティングシステムレベルのセキュリティ制限。
- 返り値:
write()
は-1
を返し、エラーを設定します。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
:QAbstractSocket::SocketAccessError
-
ブロッキング操作の問題 (Blocking Operation Issues)
- 説明:
QAbstractSocket
はデフォルトで非同期(ノンブロッキング)モードで動作します。writeData()
(およびwrite()
)は、ソケットにデータをすぐに書き込めない場合でもすぐに戻ります。bytesWritten()
シグナルが、実際にデータが書き込まれたときに発せられます。もしブロッキング操作(waitForBytesWritten()
など)を不適切に使用すると、アプリケーションがフリーズしたり、タイムアウトしたりする可能性があります。 - エラーの種類: イベントループのブロック、UIのフリーズ。
- 返り値:
write()
自体は成功するが、データがすぐに送信されない。waitForBytesWritten()
がfalse
を返す。 - 関連する
QAbstractSocket::SocketError
:QAbstractSocket::SocketTimeoutError
(waitFor...系関数の場合)
- 説明:
-
エラーシグナルと状態の確認:
error(QAbstractSocket::SocketError socketError)
シグナルに接続する: ソケットでエラーが発生した場合、このシグナルがエラーの種類を示すQAbstractSocket::SocketError
を伴って発せられます。これは最も重要なデバッグツールです。stateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState)
シグナルに接続する: ソケットの状態変化を監視することで、いつ接続が確立されたか(ConnectedState
)、いつ切断されたか(ClosingState
,ClosedState
)、または接続試行が失敗したかを確認できます。QAbstractSocket::error()
とQAbstractSocket::state()
を呼び出す: 問題が発生したときに、これらの関数を呼び出して現在のエラーと状態を確認します。
-
write()
の戻り値の確認:qint64 bytesWritten = socket->write(data);
の後、bytesWritten
が-1
でないことを確認します。-1
はエラーを示します。bytesWritten
がdata.size()
よりも小さい場合、部分的な書き込みが発生しています。この場合、残りのデータを送信するために、bytesWritten()
シグナルを待って再度書き込みを試みる必要があります。
-
bytesWritten(qint64 bytes)
シグナルの使用:write()
がデータを内部バッファに入れた後、実際にネットワークにデータが書き込まれるとbytesWritten()
シグナルが発せられます。送信が完了したことを確認したり、部分的な書き込みに対処したりするためにこのシグナルを利用します。- 例:
connect(socket, &QAbstractSocket::bytesWritten, this, [this](qint64 bytes){ qDebug() << "Bytes written:" << bytes; // 未送信のデータが残っている場合、ここから送信を再開するロジックを実装 });
-
ソケットの状態確認ロジックの追加:
write()
を呼び出す前に、ソケットがQAbstractSocket::ConnectedState
であることを確認するロジックを追加します。- 例:
if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) { qint64 bytesWritten = socket->write(data); if (bytesWritten == -1) { qDebug() << "Write error:" << socket->errorString(); } else if (bytesWritten < data.size()) { qDebug() << "Partial write. Remaining:" << data.size() - bytesWritten; // 未送信データの処理ロジック } } else { qDebug() << "Socket not connected. Current state:" << socket->state(); }
-
flush()
の使用 (注意して):QAbstractSocket::flush()
は、内部バッファにあるデータを強制的にソケットに書き込もうとします。ただし、これはブロッキング操作になる可能性があり、特にGUIアプリケーションではUIをフリーズさせる可能性があるため、慎重に使用する必要があります。通常はイベントループに依存し、bytesWritten()
シグナルを待つ方が推奨されます。- デバッグ目的で一時的に使用することはありますが、本番コードでは避けられるべきです。
-
タイムアウトの考慮:
connectToHost()
やwaitForConnected()
,waitForBytesWritten()
などのブロッキング関数を使用する場合は、適切なタイムアウトを設定し、タイムアウト時にエラー処理を行うようにします。
-
ネットワーク環境の確認:
- ファイアウォール、プロキシ、ルーターの設定を確認し、ポートがブロックされていないか、通信が許可されているかを確認します。
- サーバー側が正しく動作しているか、期待されるポートでリッスンしているかを確認します。
-
データ形式の確認:
- 送信するデータが、受信側が期待する形式(エンディアン、文字エンコーディングなど)と一致していることを確認します。特に
QDataStream
やQTextStream
を使用する場合は、そのバージョンと設定が送受信で一致していることが重要です。
- 送信するデータが、受信側が期待する形式(エンディアン、文字エンコーディングなど)と一致していることを確認します。特に
したがって、writeData()
の直接的な使用例は、QAbstractSocket
を継承して独自のカスタムソケットクラスを作成する場合に限られます。しかし、これは非常に稀なケースであり、通常はQtが提供する既存のソケットクラスで十分です。
ここでは、QAbstractSocket::writeData()
が内部的に呼び出される「公開APIであるQAbstractSocket::write()
」の使用例 を中心に解説します。これにより、開発者がどのようにソケットにデータを書き込むか、そしてその際に発生する可能性のある一般的な問題(部分書き込みなど)にどう対処するかを理解できます。
QAbstractSocket::write()
は、ソケットにデータを書き込むための最も一般的な方法です。この関数が呼び出されると、内部的にwriteData()
が呼び出され、データがOSのネットワークスタックに渡されます。
例1: 簡単なTCPクライアント(データ送信)
この例では、QTcpSocket
を使用してサーバーに接続し、簡単な文字列データを送信します。
// client.h
#ifndef CLIENT_H
#define CLIENT_H
#include <QObject>
#include <QTcpSocket>
#include <QHostAddress>
class Client : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
explicit Client(QObject *parent = nullptr);
void connectToServer(const QString &address, quint16 port);
void sendMessage(const QString &message);
private slots:
void onConnected();
void onDisconnected();
void onErrorOccurred(QAbstractSocket::SocketError socketError);
void onBytesWritten(qint64 bytes); // 送信済みバイト数を通知
private:
QTcpSocket *socket;
};
#endif // CLIENT_H
// client.cpp
#include "client.h"
#include <QDebug>
#include <QCoreApplication> // for QCoreApplication::exit()
Client::Client(QObject *parent) : QObject(parent)
{
socket = new QTcpSocket(this);
// シグナルとスロットの接続
connect(socket, &QTcpSocket::connected, this, &Client::onConnected);
connect(socket, &QTcpSocket::disconnected, this, &Client::onDisconnected);
connect(socket, QOverload<QAbstractSocket::SocketError>::of(&QTcpSocket::errorOccurred),
this, &Client::onErrorOccurred);
connect(socket, &QTcpSocket::bytesWritten, this, &Client::onBytesWritten);
}
void Client::connectToServer(const QString &address, quint16 port)
{
qDebug() << "Attempting to connect to" << address << ":" << port;
socket->connectToHost(address, port);
}
void Client::sendMessage(const QString &message)
{
if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) {
QByteArray data = message.toUtf8(); // UTF-8エンコーディングでバイト配列に変換
qDebug() << "Attempting to write" << data.size() << "bytes.";
// QAbstractSocket::write() を呼び出す。これが内部的に writeData() を使用する。
qint64 bytesWritten = socket->write(data);
if (bytesWritten == -1) {
qDebug() << "Error writing data:" << socket->errorString();
} else if (bytesWritten < data.size()) {
// 部分的な書き込みが発生した場合の処理(後述)
qDebug() << "Partial write. Sent" << bytesWritten << "bytes out of" << data.size();
// 未送信のデータは、bytesWritten() シグナルで再度送信を試みる必要がある
} else {
qDebug() << "Successfully wrote" << bytesWritten << "bytes.";
}
} else {
qDebug() << "Cannot send message: Socket not connected.";
}
}
void Client::onConnected()
{
qDebug() << "Connected to server!";
// 接続後、メッセージを送信
sendMessage("Hello from Qt Client!");
}
void Client::onDisconnected()
{
qDebug() << "Disconnected from server.";
QCoreApplication::exit(0); // アプリケーションを終了
}
void Client::onErrorOccurred(QAbstractSocket::SocketError socketError)
{
qDebug() << "Socket Error:" << socketError << "-" << socket->errorString();
QCoreApplication::exit(1); // エラーで終了
}
void Client::onBytesWritten(qint64 bytes)
{
// このシグナルは、実際にデータがネットワークに書き込まれたときに発せられます。
qDebug() << "Bytes written to network by onBytesWritten signal:" << bytes;
// 部分書き込みに対処する場合、ここで未送信のデータが残っているかチェックし、再送信するロジックを実装します。
// 例: 残りのデータをキューに入れ、bytesWritten シグナルを受け取るたびにキューから送信する。
}
// main.cpp
#include <QCoreApplication>
#include "client.h"
int main(int argc, char *argv[])
{
QCoreApplication a(argc, argv);
Client client;
client.connectToServer("127.0.0.1", 12345); // ローカルホストのポート12345に接続
return a.exec();
}
解説
onBytesWritten(qint64 bytes)
スロットは、実際にデータがネットワークスタックに書き込まれたときに通知を受け取ります。これは、データの送信が進行中であることを示す重要なシグナルです。write()
の戻り値bytesWritten
をチェックすることで、書き込みが成功したか(-1
でないか)、または部分的にしか書き込まれなかったかを確認できます。sendMessage()
関数内でsocket->write(data)
を呼び出しています。これがソケットへのデータ書き込みの実際のトリガーです。
例2: 部分的な書き込みへの対処(高度な例)
QAbstractSocket::write()
はノンブロッキング関数であり、指定されたすべてのデータを一度に書き込めない場合があります。これは「部分書き込み」と呼ばれ、write()
の戻り値が送信しようとしたバイト数よりも小さい場合に発生します。
この場合、未送信のデータはソケットの内部バッファに残るか、まだOSに渡されていない状態です。残りのデータを送信するには、QAbstractSocket::bytesWritten()
シグナルを受け取ったときに、再度 write()
を呼び出す必要があります。
// client_reliable.h (一部抜粋 - sendMessage とプライベート変数/スロットの追加)
#ifndef CLIENT_RELIABLE_H
#define CLIENT_RELIABLE_H
#include <QObject>
#include <QTcpSocket>
#include <QHostAddress>
#include <QQueue> // 未送信データを保持するためのキュー
class ClientReliable : public QObject
{
Q_OBJECT
public:
explicit ClientReliable(QObject *parent = nullptr);
void connectToServer(const QString &address, quint16 port);
void sendReliableMessage(const QString &message); // 確実にデータを送信する関数
private slots:
void onConnected();
void onDisconnected();
void onErrorOccurred(QAbstractSocket::SocketError socketError);
void onBytesWritten(qint64 bytes); // データが書き込まれた時に呼ばれる
private:
QTcpSocket *socket;
QByteArray currentMessageBuffer; // 現在送信中のメッセージの残り
QQueue<QByteArray> messageQueue; // 送信待ちのメッセージキュー
void trySendNextMessage(); // キューから次のメッセージを送信しようとするヘルパー関数
};
#endif // CLIENT_RELIABLE_H
// client_reliable.cpp (一部抜粋 - 変更箇所のみ)
#include "client_reliable.h"
#include <QDebug>
#include <QCoreApplication>
// ... (コンストラクタ、onConnected, onDisconnected, onErrorOccurred は Client と同様)
ClientReliable::ClientReliable(QObject *parent) : QObject(parent)
{
socket = new QTcpSocket(this);
connect(socket, &QTcpSocket::connected, this, &ClientReliable::onConnected);
connect(socket, &QTcpSocket::disconnected, this, &ClientReliable::onDisconnected);
connect(socket, QOverload<QAbstractSocket::SocketError>::of(&QTcpSocket::errorOccurred),
this, &ClientReliable::onErrorOccurred);
connect(socket, &QTcpSocket::bytesWritten, this, &ClientReliable::onBytesWritten);
}
void ClientReliable::connectToServer(const QString &address, quint16 port)
{
qDebug() << "Attempting to connect to" << address << ":" << port;
socket->connectToHost(address, port);
}
void ClientReliable::sendReliableMessage(const QString &message)
{
QByteArray data = message.toUtf8();
messageQueue.enqueue(data); // 新しいメッセージをキューに追加
trySendNextMessage(); // 送信を試みる
}
void ClientReliable::trySendNextMessage()
{
if (socket->state() != QAbstractSocket::ConnectedState) {
qDebug() << "Socket not connected, cannot send.";
return;
}
if (currentMessageBuffer.isEmpty() && !messageQueue.isEmpty()) {
// 現在送信中のデータがない場合、キューから次のデータを取得
currentMessageBuffer = messageQueue.dequeue();
qDebug() << "Dequeued new message. Size:" << currentMessageBuffer.size();
}
if (!currentMessageBuffer.isEmpty()) {
qDebug() << "Attempting to write" << currentMessageBuffer.size() << "remaining bytes.";
qint64 bytesWritten = socket->write(currentMessageBuffer); // 残りのデータを送信
if (bytesWritten == -1) {
qDebug() << "Error writing data:" << socket->errorString();
// エラー処理(例: キューに残ったデータをクリアするか、再接続を試みる)
currentMessageBuffer.clear(); // エラー時は現在のバッファをクリアして、次のメッセージに進む
} else {
// 実際に書き込まれたバイト数をバッファから削除
currentMessageBuffer = currentMessageBuffer.mid(bytesWritten);
qDebug() << "Wrote" << bytesWritten << "bytes. Remaining in buffer:" << currentMessageBuffer.size();
if (currentMessageBuffer.isEmpty()) {
qDebug() << "Current message fully sent.";
// 現在のメッセージがすべて送信されたので、次のメッセージを試みる
trySendNextMessage();
}
// else: 部分書き込みの場合、残りは bytesWritten() シグナルで再度処理される
}
} else if (messageQueue.isEmpty()) {
qDebug() << "All messages sent.";
}
}
void ClientReliable::onBytesWritten(qint64 bytes)
{
Q_UNUSED(bytes); // この例では 'bytes' 自体は直接使わないが、シグナル発生が重要
// データがソケットに書き込まれたら、次の送信を試みる
// これは、以前の部分書き込みの続きを送信するために重要
trySendNextMessage();
}
void ClientReliable::onConnected()
{
qDebug() << "Connected to server!";
sendReliableMessage("First message.");
sendReliableMessage("Second message, which might be longer.");
sendReliableMessage("Third and final message.");
}
currentMessageBuffer
とmessageQueue
:currentMessageBuffer
は、現在送信中のメッセージのうち、まだ送信しきれていない部分を保持します。messageQueue
は、まだ送信を開始していないメッセージ全体をキューとして保持します。
sendReliableMessage()
: 新しいメッセージが送信されるたびに、キューに追加し、trySendNextMessage()
を呼び出して送信を開始または継続しようとします。trySendNextMessage()
:- ソケットが接続されているか確認します。
currentMessageBuffer
が空で、かつmessageQueue
にデータがある場合、キューから次のメッセージを取り出してcurrentMessageBuffer
にセットします。currentMessageBuffer
にデータがあれば、socket->write()
を呼び出します。write()
の戻り値を使って、実際に書き込まれたバイト数だけcurrentMessageBuffer
からデータを削除します(mid()
関数を使用)。currentMessageBuffer
が空になったら、そのメッセージの送信が完了したことを意味するので、再度trySendNextMessage()
を呼び出して、キューの次のメッセージを処理します。
onBytesWritten()
: ソケットにデータが書き込まれるたびに(たとえ部分書き込みでも)、このシグナルが発せられます。このシグナルを受け取ったら、trySendNextMessage()
を再度呼び出すことで、残りのデータを送信したり、キューの次のメッセージを処理したりする機会を得ます。これにより、ノンブロッキングなデータ送信が確実に行われます。
したがって、「writeData()
の代替方法」というよりは、「Qtでソケットにデータを書き込むための、開発者が利用する公開APIと一般的な手法」について説明することになります。
主な代替(というか標準的な)方法は以下の通りです。
QAbstractSocket::write(const QByteArray &data)
これが、Qtでソケットにデータを書き込むための最も一般的で推奨される方法です。QAbstractSocket
の公開メンバー関数であり、内部的にwriteData()
を呼び出して実際の書き込みを行います。
-
使用例:
QTcpSocket *socket = new QTcpSocket(this); // ... ソケットの接続が確立された後 ... void MyClass::sendData(const QByteArray &dataToSend) { if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) { qint64 bytesWritten = socket->write(dataToSend); if (bytesWritten == -1) { qDebug() << "Error writing data:" << socket->errorString(); } else if (bytesWritten < dataToSend.size()) { qDebug() << "Partial write. Remaining:" << dataToSend.size() - bytesWritten << "bytes."; // 残りのデータをキューに格納し、bytesWritten() シグナルで続きを送信するロジックを実装 } else { qDebug() << "All data written to socket buffer."; } } } // bytesWritten シグナルに接続して、実際にデータが送信されたことを追跡 // これが部分書き込みを処理する鍵となる connect(socket, &QAbstractSocket::bytesWritten, this, [](qint64 bytes){ qDebug() << "Actually wrote" << bytes << "bytes to network."; });
-
特徴:
- ノンブロッキング: 通常、ソケットはノンブロッキングモードで動作するため、
write()
はデータがOSのバッファにコピーされたらすぐに戻ります。実際にデータがネットワークに送信されるのを待ちません。 - 戻り値: 実際に書き込まれたバイト数を返します。エラーの場合は
-1
を返します。 - 部分書き込み: ネットワークの状況やOSのバッファ容量により、要求したすべてのデータを一度に書き込めない(部分書き込み)可能性があります。この場合、戻り値は
data.size()
よりも小さくなります。 bytesWritten()
シグナル: データが実際にネットワークに書き込まれる(またはOSのバッファから排出される)と、bytesWritten(qint64 bytes)
シグナルが発せられます。これにより、データの送信状況を追跡し、部分書き込みに対応できます。QByteArray
: データはQByteArray
として渡されるため、バイナリデータ、UTF-8文字列など、あらゆる種類のデータを扱うことができます。
- ノンブロッキング: 通常、ソケットはノンブロッキングモードで動作するため、
QAbstractSocket::write(const char *data, qint64 maxSize)
これは、QByteArray
の代わりに生のchar*
ポインタとサイズを受け取るオーバーロードです。機能的にはQByteArray
版と同じですが、既存のC++のchar*
バッファから直接データを書き込みたい場合に便利です。
- 使用例:
char myBuffer[] = "Hello Raw Data!"; qint64 bufferSize = sizeof(myBuffer) - 1; // ヌルターミネータを除く if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) { qint64 bytesWritten = socket->write(myBuffer, bufferSize); // ... エラーおよび部分書き込みの処理は上記と同様 ... }
- 特徴:
QByteArray
版と同様。
QAbstractSocket::flush()
flush()
は、ソケットの内部書き込みバッファにあるすべてのペンディングデータを、可能な限り速やかにネットワークに書き出すように強制します。
-
使用例(非推奨):
socket->write("Some data."); if (!socket->flush()) { // flush() は成功した場合 true を返す qDebug() << "Failed to flush socket."; }
注意: ほとんどの場合、
flush()
を明示的に呼び出す必要はありません。QtのイベントループとbytesWritten()
シグナルに依存するのが最善です。 -
特徴:
- 主にデバッグ目的や、ごくまれにリアルタイム性が非常に要求される場合に検討されます。
- ブロッキングの可能性:
flush()
は、オペレーティングシステムのバッファにデータが書き込まれるまで(またはタイムアウトするまで)ブロックする可能性があります。これはGUIアプリケーションでUIフリーズを引き起こす可能性があるため、通常は推奨されません。 write()
がデータを内部バッファに入れた後、OSがそれらをいつ実際に送信するかは保証されません。flush()
は、このプロセスを急がせようとします。
QAbstractSocket::waitForBytesWritten(int msecs)
これはブロッキング関数であり、指定されたミリ秒数だけ、ソケットにデータが書き込まれるのを待ちます。
-
使用例(非推奨、ただしスレッド内では検討可能):
// GUIメインスレッド以外(例: QThreadで実行されるカスタムワーカースレッド内) QByteArray dataToSend = "Blocking send example."; socket->write(dataToSend); if (socket->waitForBytesWritten(5000)) { // 5秒待機 qDebug() << "Data successfully written to network."; } else { qDebug() << "Failed to write data within timeout or error occurred."; }
-
特徴:
- ブロッキング: 呼び出し元のスレッドをブロックします。GUIアプリケーションのメインスレッドで使用すると、UIがフリーズします。
- 戻り値: 指定されたバイトが書き込まれた場合(またはタイムアウト前にすべての保留中のデータが書き込まれた場合)は
true
、タイムアウトした場合やエラーが発生した場合はfalse
を返します。 - 推奨されない: ノンブロッキングな設計がQtの哲学であり、イベントループとシグナル・スロットメカニズムを使用することが強く推奨されます。サーバーへのリクエスト・レスポンスのような同期処理が必要な場合でも、通常はスレッド内でこれを行うか、より複雑な状態管理を行います。
構造化されたデータをソケットに書き込む場合、QDataStream
を使用すると、Qtのタイプセーフなシリアライズ機能を利用できます。これはデータをバイナリ形式に変換し、それをソケットに書き込む際に役立ちます。
-
使用例:
QTcpSocket *socket = new QTcpSocket(this); // ... ソケットの接続が確立された後 ... void MyClass::sendStructuredData(int id, const QString &name) { if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) { QByteArray block; QDataStream out(&block, QIODevice::WriteOnly); out.setVersion(QDataStream::Qt_5_0); // 送受信でバージョンを合わせる // データの先頭にブロックのサイズを書き込むためのプレースホルダ out << (quint32)0; // データをストリームに書き込む out << id << name; // ブロックのサイズを計算し、先頭に書き込む out.device()->seek(0); // ストリームの先頭に戻る out << (quint32)(block.size() - sizeof(quint32)); // データ部分のサイズ // 最終的なバイト配列をソケットに書き込む qint64 bytesWritten = socket->write(block); if (bytesWritten == -1) { qDebug() << "Error writing structured data:" << socket->errorString(); } // ... 部分書き込みの処理も必要 ... } }
-
特徴:
- Qtのデータ型(
QString
,int
,QList
など)を簡単にバイナリに変換し、送受信できます。 - エンディアンネスやデータ形式の互換性を自動的に処理します。
QDataStream
はQIODevice
(QAbstractSocket
が継承)をラップして動作します。
- Qtのデータ型(
開発者がQtでソケットにデータを書き込む際の「代替方法」は、実質的にQAbstractSocket::write()
関数とその関連シグナル(bytesWritten()
)を利用する標準的な手法を指します。writeData()
は低レベルな実装の詳細であり、通常は直接触れるべきではありません。