【Qtプログラミング】QAbstractSocket::abort()の具体的な使い方とコード例

2025-05-27

QtプログラミングにおけるQAbstractSocket::abort()は、ソケット接続を即座に終了するための関数です。

もう少し詳しく説明すると、以下のようになります。

`abort()` の目的

abort() の主な目的は、接続をすぐに、強制的に切断することです。通常、ソケットを切断するには disconnectFromServer() や close() を使用しますが、これらの関数は、書き込みバッファに残っているデータを送信しようとするなど、ある程度の猶予を持って接続を閉じようとします。

それに対して abort() は、そのような猶予を一切与えず、残っているデータを破棄し、すぐにソケットをリセットします。これは、深刻なエラーが発生した場合や、すぐに接続を破棄する必要がある場合に非常に役立ちます。

`disconnectFromServer()` や `close()` との違い

abort()
- 書き込みバッファのデータをクリアし、即座に接続を終了します。
- ソケットの状態を UnconnectedState にリセットします。
- error() シグナル（通常は RemoteHostClosedError や SocketAccessError など、適切なエラータイプ）が発行される可能性があります。
close()
- QIODevice (QAbstractSocketの基底クラス) の close() メソッドです。
- 一般的には、デバイスを閉じるためのより一般的な方法ですが、ソケットの場合、disconnectFromServer() と同様に、書き込みバッファのデータを処理しようとします。
disconnectFromServer()
- 保留中の書き込みデータをすべて送信しようと試みます。
- データが完全に送信され、ソケットがクローズされるまで待機する場合があります（ブロッキングモードの場合）。
- 最終的に UnconnectedState に移行し、disconnected() シグナルを発行します。

どのような時に `abort()` を使うか？

デバッグやテスト
強制的な接続切断のシナリオをテストする場合。
リソースの即時解放
何らかの理由でソケットのリソースをすぐに解放する必要がある場合。
タイムアウトや応答なし
相手からの応答が長時間ないなど、接続が正常に機能していないと判断した場合。
重大なエラーの発生時
データの破損やプロトコル違反など、これ以上通信を継続できないような深刻なエラーが発生した場合。

`QAbstractSocket::abort()` に関連する一般的なエラーとトラブルシューティング

- 問題
  abort() を呼び出すと、通常はソケットがエラー状態になり、error(QAbstractSocket::SocketError socketError) シグナルが発行されます。しかし、socketError の種類が予想と異なる場合があります。
- 一般的なエラータイプ
  - QAbstractSocket::RemoteHostClosedError: 最も一般的です。リモートホストが接続を閉じたことを示唆しますが、実際には abort() によってローカルで強制的に切断された結果として発生します。
  - QAbstractSocket::SocketAccessError: ソケット操作に必要な権限がない場合など。
  - QAbstractSocket::NetworkError: ネットワーク関連の一般的なエラー。
  - QAbstractSocket::UnknownSocketError: 識別できないエラー。
- トラブルシューティング
  - error() シグナルに接続し、socketError の値をログに出力して、どのエラーが発生しているかを確認します。
  - abort() は強制切断であるため、特定のエラータイプを期待しすぎない方が良いです。重要なのは、接続が切断されたこと自体です。
  - abort() の呼び出し後にソケットの状態が QAbstractSocket::UnconnectedState になっているかを確認します。
abort() 後の再接続の問題
- 問題
  abort() を呼び出した後、すぐに同じソケットオブジェクトで再接続しようとすると、問題が発生する場合があります。ソケットが完全にリセットされていない、またはオペレーティングシステムのソケットリソースが解放されるまでに時間がかかることがあります。
- トラブルシューティング
  - abort() を呼び出した後、少し間を置いてから再接続を試みることを検討します。特に、非常に短い間隔で繰り返し切断・再接続を行うシナリオでは、この問題が発生しやすいです。
  - 可能であれば、abort() ではなく、deleteLater() などで古いソケットオブジェクトを破棄し、新しい QAbstractSocket (または QTcpSocket など) のインスタンスを作成して接続し直す方が安全な場合があります。これにより、古いソケットのリソースが完全に解放され、クリーンな状態で新しい接続を開始できます。
  - stateChanged() シグナルを監視し、ソケットが完全に UnconnectedState になってから再接続ロジックをトリガーするようにします。
マルチスレッド環境での競合状態 (Segmentation Fault など)
- 問題
  複数のスレッドから同じ QAbstractSocket オブジェクトにアクセスしようとすると、競合状態が発生し、クラッシュ（セグメンテーション違反など）につながる可能性があります。特に、あるスレッドが abort() を呼び出している間に、別のスレッドがソケットにアクセスしようとする場合に発生しやすいです。
- トラブルシューティング
  - QtのGUIスレッド以外でネットワーク操作を行う場合は、QObject::moveToThread() を使用して、QAbstractSocket オブジェクトを専用のワーカースレッドに移動させ、そのスレッド内でソケット操作を完結させます。
  - シグナルとスロットのメカニズムを適切に利用し、スレッド間の安全なコミュニケーションを確保します。例えば、GUIスレッドからソケットを abort() したい場合は、abort() を呼び出すためのスロットをソケットオブジェクトのスレッドに作成し、GUIスレッドからそのスロットにシグナルを送るようにします。
abort() が期待通りに機能しない (切断されない)
- 問題
  まれに、abort() を呼び出してもソケットが切断されない、または状態が UnconnectedState にならないことがあります。これは、基盤となるオペレーティングシステムやネットワークスタックの問題、あるいは非常に特殊な状況下で発生する可能性があります。
- トラブルシューティング
  - Qtのバージョンが最新であるか確認します。古いバージョンでは既知のバグが存在する可能性があります。
  - ネットワーク環境（ファイアウォール、プロキシなど）に問題がないか確認します。
  - abort() の呼び出し前にソケットの状態が何であったかを確認します。例えば、既に UnconnectedState であるソケットに対して abort() を呼び出しても、特に変化はありません。
  - error() シグナルが発行されるか、そしてそのエラータイプを確認します。
データ損失に関する誤解
- 問題
  abort() は保留中のデータを破棄して強制切断するため、この動作を理解していないとデータ損失が発生した際に混乱を招く可能性があります。
- トラブルシューティング
  - abort() は「即座の切断」と「データの破棄」を意味することを常に念頭に置きます。
  - 重要なデータを送信する場合は、abort() ではなく disconnectFromServer() を使用し、送信バッファが空になるまで待機するロジックを実装することを検討します。
  - アプリケーションの設計において、abort() が呼び出される可能性がある状況では、データ損失を許容するか、あるいはデータ損失を回避するための別の手段（例：アプリケーションレベルでの再送メカニズム）を用意する必要があります。

シンプルなテストケース
問題が複雑な場合は、最小限のコードで問題が再現できるシンプルなテストケースを作成し、問題の切り分けを行います。
Qtのデバッグ出力
Qtのネットワークモジュールは、デバッグ環境で追加の診断メッセージを出力するように設定できます。QT_LOGGING_RULES 環境変数を設定することで、詳細なログ情報を取得できる場合があります。
stateChanged() シグナル
ソケットの状態遷移を追跡するために、stateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState) シグナルに接続し、状態の変化をログに出力します。これにより、ソケットがどのような状態にあるかを正確に把握できます。
error() シグナルと errorString()
ソケットエラーが発生した際に発行される error(QAbstractSocket::SocketError socketError) シグナルに接続し、errorString() で詳細なエラーメッセージを取得することは、デバッグにおいて非常に有効です。

接続タイムアウト時の強制切断

ある操作がタイムアウトした場合に、既存のソケット接続を強制的に閉じたい場合によく使われます。

// MyClient.h
#ifndef MYCLIENT_H
#define MYCLIENT_H

#include <QObject>
#include <QTcpSocket>
#include <QTimer>
#include <QDebug>

class MyClient : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyClient(QObject *parent = nullptr);
    void connectToServer(const QString &host, quint16 port);

signals:
    void connectionAborted();

private slots:
    void onConnected();
    void onDisconnected();
    void onError(QAbstractSocket::SocketError socketError);
    void onStateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState);
    void onTimeout(); // タイムアウト処理

private:
    QTcpSocket *tcpSocket;
    QTimer *connectionTimer; // 接続タイムアウト用タイマー
};

#endif // MYCLIENT_H

// MyClient.cpp
#include "MyClient.h"

MyClient::MyClient(QObject *parent) : QObject(parent)
{
    tcpSocket = new QTcpSocket(this);
    connectionTimer = new QTimer(this);
    connectionTimer->setInterval(5000); // 接続タイムアウトを5秒に設定

    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::connected, this, &MyClient::onConnected);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::disconnected, this, &MyClient::onDisconnected);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::errorOccurred, this, &MyClient::onError); // Qt 5.15以降はerrorOccurred
    // connect(tcpSocket, QOverload<QAbstractSocket::SocketError>::of(&QAbstractSocket::error), this, &MyClient::onError); // Qt 5.14以前
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::stateChanged, this, &MyClient::onStateChanged);
    connect(connectionTimer, &QTimer::timeout, this, &MyClient::onTimeout);
}

void MyClient::connectToServer(const QString &host, quint16 port)
{
    qDebug() << "Attempting to connect to" << host << ":" << port;
    tcpSocket->connectToHost(host, port);
    connectionTimer->start(); // 接続開始と同時にタイマーも開始
}

void MyClient::onConnected()
{
    qDebug() << "Connected to server!";
    connectionTimer->stop(); // 接続が確立したらタイマーを停止
    // ここでデータの送受信を開始
}

void MyClient::onDisconnected()
{
    qDebug() << "Disconnected from server.";
    connectionTimer->stop(); // 切断されたらタイマーを停止
}

void MyClient::onError(QAbstractSocket::SocketError socketError)
{
    qDebug() << "Socket Error:" << socketError << tcpSocket->errorString();
    connectionTimer->stop(); // エラーが発生したらタイマーを停止
}

void MyClient::onStateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState)
{
    qDebug() << "Socket State Changed:" << socketState;
}

void MyClient::onTimeout()
{
    qDebug() << "Connection timeout!";
    connectionTimer->stop();
    if (tcpSocket->state() == QAbstractSocket::ConnectingState) {
        qDebug() << "Aborting connection due to timeout...";
        tcpSocket->abort(); // ここで強制的に接続を切断
        emit connectionAborted(); // タイムアウトで切断されたことを通知
    }
}

// main.cpp
#include <QCoreApplication>
#include "MyClient.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    MyClient client;
    // 存在しないIPアドレスやポートを指定して、タイムアウトをテストする
    client.connectToServer("192.168.99.99", 12345); // 通常は到達できないアドレス

    QObject::connect(&client, &MyClient::connectionAborted, [&]() {
        qDebug() << "Client connection was aborted due to timeout.";
        QCoreApplication::quit();
    });

    QObject::connect(&client, &MyClient::disconnected, [&]() {
        qDebug() << "Client disconnected.";
        // 再接続を試みる場合はここにロジックを追加
    });

    return a.exec();
}

解説
この例では、connectToHost() を呼び出した後、QTimer を開始します。もし指定された時間内に connected() シグナルが発行されなかった場合（つまり接続が確立されなかった場合）、onTimeout() スロットが呼び出され、その中で tcpSocket->abort() を呼び出して接続試行を強制的に中断します。これにより、未完了の接続試行がクリーンアップされ、ソケットは UnconnectedState に戻ります。

複数の接続試行における既存接続の破棄

ユーザーが "再接続" ボタンなどを押した場合に、既存の接続試行や確立済みの接続を即座に破棄して新しい接続を開始したい場合に abort() を使用できます。

// ClientWidget.h (Qt Widgetsアプリケーションの例)
#ifndef CLIENTWIDGET_H
#define CLIENTWIDGET_H

#include <QWidget>
#include <QTcpSocket>
#include <QPushButton>
#include <QLineEdit>
#include <QTextEdit>
#include <QVBoxLayout>
#include <QHBoxLayout>
#include <QDebug>

class ClientWidget : public QWidget
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit ClientWidget(QWidget *parent = nullptr);

private slots:
    void onConnectButtonClicked();
    void onAbortButtonClicked();
    void onConnected();
    void onDisconnected();
    void onError(QAbstractSocket::SocketError socketError);
    void onStateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState);
    void onReadyRead();

private:
    QTcpSocket *tcpSocket;
    QLineEdit *hostLineEdit;
    QLineEdit *portLineEdit;
    QPushButton *connectButton;
    QPushButton *abortButton;
    QTextEdit *logTextEdit;
};

#endif // CLIENTWIDGET_H

// ClientWidget.cpp
#include "ClientWidget.h"

ClientWidget::ClientWidget(QWidget *parent) : QWidget(parent)
{
    tcpSocket = new QTcpSocket(this);

    hostLineEdit = new QLineEdit("localhost");
    portLineEdit = new QLineEdit("12345");
    connectButton = new QPushButton("Connect");
    abortButton = new QPushButton("Abort Connection");
    logTextEdit = new QTextEdit();
    logTextEdit->setReadOnly(true);

    QHBoxLayout *topLayout = new QHBoxLayout();
    topLayout->addWidget(new QLabel("Host:"));
    topLayout->addWidget(hostLineEdit);
    topLayout->addWidget(new QLabel("Port:"));
    topLayout->addWidget(portLineEdit);
    topLayout->addWidget(connectButton);
    topLayout->addWidget(abortButton);

    QVBoxLayout *mainLayout = new QVBoxLayout(this);
    mainLayout->addLayout(topLayout);
    mainLayout->addWidget(logTextEdit);

    connect(connectButton, &QPushButton::clicked, this, &ClientWidget::onConnectButtonClicked);
    connect(abortButton, &QPushButton::clicked, this, &ClientWidget::onAbortButtonClicked);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::connected, this, &ClientWidget::onConnected);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::disconnected, this, &ClientWidget::onDisconnected);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::errorOccurred, this, &ClientWidget::onError);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::stateChanged, this, &ClientWidget::onStateChanged);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::readyRead, this, &ClientWidget::onReadyRead);

    abortButton->setEnabled(false); // 最初はAbortボタンを無効化
}

void ClientWidget::onConnectButtonClicked()
{
    logTextEdit->append("Attempting to connect...");
    abortButton->setEnabled(true);

    // 接続試行前に既存の接続を強制的に破棄
    if (tcpSocket->state() != QAbstractSocket::UnconnectedState) {
        logTextEdit->append("Existing connection/attempt detected. Aborting first.");
        tcpSocket->abort(); // ここで強制切断
    }

    tcpSocket->connectToHost(hostLineEdit->text(), portLineEdit->text().toUInt());
}

void ClientWidget::onAbortButtonClicked()
{
    logTextEdit->append("Abort button clicked. Aborting connection.");
    tcpSocket->abort(); // ユーザーの操作で強制切断
    abortButton->setEnabled(false);
}

void ClientWidget::onConnected()
{
    logTextEdit->append("Connected to server!");
    connectButton->setEnabled(false);
}

void ClientWidget::onDisconnected()
{
    logTextEdit->append("Disconnected from server.");
    connectButton->setEnabled(true);
    abortButton->setEnabled(false);
}

void ClientWidget::onError(QAbstractSocket::SocketError socketError)
{
    logTextEdit->append(QString("Socket Error: %1 (%2)").arg(socketError).arg(tcpSocket->errorString()));
    connectButton->setEnabled(true);
    abortButton->setEnabled(false);
}

void ClientWidget::onStateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState)
{
    logTextEdit->append(QString("Socket State Changed: %1").arg(socketState));
}

void ClientWidget::onReadyRead()
{
    QByteArray data = tcpSocket->readAll();
    logTextEdit->append("Received: " + data);
}

// main.cpp
#include <QApplication>
#include "ClientWidget.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    ClientWidget clientWidget;
    clientWidget.show();

    return a.exec();
}

解説
この例では、Connect ボタンが押された際に、まず現在のソケットの状態を確認し、もし接続中（または接続試行中）であれば abort() を呼び出して既存の接続を強制的に終了させます。これにより、ユーザーが何度も接続を試みても、前の接続が残って問題を引き起こすことを防ぎます。また、Abort Connection ボタンを設けて、ユーザーが明示的に接続を強制切断できるようにしています。

スレッドセーフティ
QAbstractSocket は通常、イベントループを持つスレッド（GUIスレッドなど）から操作されるべきです。別スレッドから abort() を呼び出す必要がある場合は、シグナル/スロット機構を使って安全に操作をデリゲートすることが重要です。
再接続のタイミング
abort() 後にすぐに再接続を試みる場合、OSがソケットリソースを完全に解放するまでわずかな遅延がある場合があります。問題が発生する場合は、少し待機してから再接続を試みるか、新しい QTcpSocket オブジェクトを生成して接続し直すことを検討してください。
エラーシグナル
abort() を呼び出すと、通常は errorOccurred() シグナルが発行され、エラータイプは RemoteHostClosedError などになることがあります。これは、abort() がローカルでソケットをリセットした結果として発生します。
データ損失
abort() は書き込みバッファ内の未送信データを破棄します。重要なデータが送信途中の場合は、データ損失に注意が必要です。

disconnectFromHost() (推奨される正常終了方法)

disconnectFromHost() は、Qt でソケット接続を正常に（gracefully）終了させるための推奨される方法です。

動作

最終的に disconnected() シグナルが発行されます。
ソケットの状態は ClosingState に移行し、すべてのデータが送信され、相手側が接続をクローズすると UnconnectedState になります。
データが完全に送信されるか、ソケットが閉じられるまで待機する場合があります（特にブロッキングモードの場合）。
ソケットの書き込みバッファに残っているデータをすべて送信しようと試みます。

abort() との違い

disconnectFromHost() は、両端が協力して接続を終了する「正常なシャットダウン（graceful shutdown）」プロセスを開始します。
abort() は即座に切断しデータを破棄するのに対し、disconnectFromHost() はデータを送信しようとします。

使用例
アプリケーションが正常に終了する場合、ユーザーが明示的に切断ボタンを押した場合、またはプロトコル上の理由で接続を終了する場合など、データ損失を避けたい状況で使います。

// クライアント側
QTcpSocket *socket = new QTcpSocket(this);
// ... 接続確立とデータ送受信 ...

// 接続を正常に終了する
socket->disconnectFromHost();

// disconnectFromHost() が完了するのを待つことも可能ですが、非同期処理が推奨されます。
// if (!socket->waitForDisconnected(3000)) { // 最大3秒待機
//     qDebug() << "Failed to gracefully disconnect within timeout. Aborting...";
//     socket->abort();
// }

close()

close() は QIODevice の基底クラスから継承されたメソッドで、ソケットを閉じます。QAbstractSocket の文脈では、disconnectFromHost() と非常に似た動作をします。

動作

disconnected() シグナルが発行されます。
ソケットの状態を ClosingState に移行させ、最終的に UnconnectedState にします。
disconnectFromHost() と同様に、書き込みバッファに残っているデータを送信しようと試みます。

disconnectFromHost() との違い

ほとんどの場合、QTcpSocket の文脈では disconnectFromHost() と close() の動作に大きな違いはありません。Qt のドキュメントでは、ソケットの切断には disconnectFromHost() を明示的に使用することが推奨される傾向があります。close() はより一般的な QIODevice の操作であり、ネットワーク接続の終了に特化した意図を伝えるのは disconnectFromHost() の方が明確です。

使用例
特定の理由で QIODevice のインターフェースとしてソケットを扱いたい場合や、単純にデバイスを閉じたい場合。

QTcpSocket *socket = new QTcpSocket(this);
// ...

socket->close(); // disconnectFromHost() と同様の動作を期待できる

Qt のオブジェクトは、親オブジェクトが削除される際に自動的に子オブジェクトも削除されます。また、deleteLater() を呼び出すことで、現在のイベントループの後にオブジェクトを安全に削除することができます。ソケットオブジェクトが削除されると、そのソケットによって確立された接続も自動的に閉じられます。

動作

この終了は、disconnectFromHost() と同様に、可能な限り正常なシャットダウンを試みますが、オブジェクトが完全に削除されるため、その後のソケット操作はできません。
ソケットオブジェクトが破棄される際に、その接続も終了されます。

abort() との違い

abort() は即座の切断（データ破棄）を意図しているのに対し、オブジェクトの削除は可能な限りクリーンなシャットダウンを試みます。
abort() がソケットの状態をリセットして再利用を可能にするのに対し、deleteLater() や直接の delete はオブジェクト自体を破棄するため、同じオブジェクトを再利用することはできません（新しいインスタンスを作成する必要があります）。

使用例
ソケットオブジェクトの役割が終わり、もう必要ない場合。例えば、クライアントがサーバーから切断され、それ以上接続する必要がない場合など。

// MyClient.h
class MyClient : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyClient(QObject *parent = nullptr);
    void startConnection(const QString &host, quint16 port);

private slots:
    void onConnected();
    void onDisconnected(); // 切断時にオブジェクトを削除
    void onError(QAbstractSocket::SocketError socketError);
    // ...
private:
    QTcpSocket *tcpSocket;
};

// MyClient.cpp
MyClient::MyClient(QObject *parent) : QObject(parent)
{
    tcpSocket = new QTcpSocket(this);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::connected, this, &MyClient::onConnected);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::disconnected, this, &MyClient::onDisconnected);
    connect(tcpSocket, &QTcpSocket::errorOccurred, this, &MyClient::onError);
}

void MyClient::startConnection(const QString &host, quint16 port)
{
    tcpSocket->connectToHost(host, port);
}

void MyClient::onConnected()
{
    qDebug() << "Connected!";
}

void MyClient::onDisconnected()
{
    qDebug() << "Disconnected. Deleting socket object.";
    // ソケットオブジェクトを安全に削除
    tcpSocket->deleteLater();
    tcpSocket = nullptr; // nullptr に設定して、 dangling pointer を避ける
}

void MyClient::onError(QAbstractSocket::SocketError socketError)
{
    qDebug() << "Error:" << tcpSocket->errorString();
    // エラーが発生した場合も、クリーンアップのために削除を検討
    if (tcpSocket->state() != QAbstractSocket::UnconnectedState) {
        tcpSocket->abort(); // エラー時は強制切断も選択肢
    }
    tcpSocket->deleteLater();
    tcpSocket = nullptr;
}

メソッド	動作	用途	`abort()` との比較
`abort()`	即座に強制切断、データ破棄、ソケットリセット	深刻なエラー、タイムアウト、応答なし、リソースの即時解放など、データ損失を許容してでもすぐに接続を破棄したい緊急時。未完了の接続試行を中断する場合。	強制切断: データを送ろうとせず、すぐにソケットをリセット。ソケットオブジェクトは再利用可能。<br>主な違い: データ保証がない。
`disconnectFromHost()`	正常終了（graceful shutdown）、データ送信試行	アプリケーションが正常に終了する場合、ユーザーの明示的な操作、プロトコルによる接続終了など、データ損失を避けたい一般的な状況。	正常終了: 残存データを可能な限り送信しようと試みる。ソケットの状態が `ClosingState` を経て `UnconnectedState` になる。<br>主な違い: データ保証がある。
`close()`	`disconnectFromHost()` とほぼ同じ。`QIODevice`のインターフェースとしての閉じ方。	`disconnectFromHost()` と同様。	`disconnectFromHost()` とほぼ同じ。意図の明確さから `disconnectFromHost()` が好まれる。
`deleteLater()` / `delete`	ソケットオブジェクトの破棄に伴う接続終了	ソケットオブジェクトの役割が終わり、再利用する必要がない場合。メモリリークを防ぎ、リソースを解放したい場合。	オブジェクトのライフサイクル管理: `abort()` はソケットの状態をリセットするだけでオブジェクトは残るが、`delete` はオブジェクト自体をメモリから解放する。`delete` されると、そのオブジェクトは再利用できない。<br>主な違い: `abort()` はオブジェクトを再利用可能にするが、`delete` はオブジェクトを破棄する。

【Qtプログラミング】QAbstractSocket::abort()の具体的な使い方とコード例

abort() の目的

disconnectFromServer() や close() との違い

どのような時に abort() を使うか？

QAbstractSocket::abort() に関連する一般的なエラーとトラブルシューティング